2ntブログ

霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.85 【 南の島 】



雲一つない青い空。
ウミネコが元気に飛び回り、
ニャーニャーと独特な鳴き声を上げている。

断続的に聞こえる漣(さざなみ)の音が、
穏やかな気候に相まって、
心に平穏を送り届けてくれるようだった。

しかしながら今は十二月である。
師走(しわす)という冷たいイメージとは大きく異なるこの環境は、そこが普段の生活から遠く離れた場所にあることを示していた。


「うわー綺麗な海ーー!
透き通っていて、お魚も見えそうですね!」

「さすが世界遺産に登録されているだけあって、自然豊かなところだね」


エメラルドグリーンの海を見つめる真里と誠。
数週間前、近所の福引抽選会に参加していた二人は、そこで『南の島リゾートホテル9泊10日の旅』を引き当てていた。

その旅券はホテルの宿泊費から飛行機代まで全てが無料。
さっそく冬休みを利用して、旅行にやって来たというわけだ。

パラソルを広げ、海辺で肩を寄せ合い座る二人。
暖かくも心地よい風が、身体を包み込んでくれていた。

誠は長い髪をシュシュで結び、白のレーストップスにフリルの付いた花柄の水着を着ていた。
股間に盛り上がりはなく、小さな性器をパットで隠している状態だ。

小ぶりなおっぱいがある誠は、トップレスの女性と間違われないよう、女性用の水着をしていたのだ。

もちろんその格好は真里も同意の上である。
むしろ可愛い誠と一緒に居られて大満足の様子だ。


「ところでお土産どうします?
K都だったら八ツ橋、T北だったら牛タンとかありますけど、ここは何が有名なんでしょう?」

「うーん、初日だし、まだそこまで焦る必要ないと思うけど、一応ウミネコ饅頭っていうのが有名らしいよ?」

「ウミネコって、あのニャーって鳴いている鳥ですか?」

「そうそう、食べるとニャーって音がするみたい」

「えぇー!? どういう仕組みなんですかそれ?」

「たぶん饅頭の中に何か入れてるんじゃないかな?
ゼラチンを固めたもので音が出るようにしているとか?
そのうち買って食べてみよっか?」

「そうですね! 試食して一番美味しいのを買っていきましょう!」



そうして平和に過ごす二人の姿を、
遠くから双眼鏡で見つめる者がいた。

この島全体の支配人であり、彼らに抽選会で当選したと思い込ませて招待した人物、小早川である。

彼は、この島でもっとも大きなリゾートホテル『センチュリーハイアット小早川』にいた。


「あら……あの女、誠ちゃんかしら?
あんな格好して……まぁおっぱいがあるから仕方ないんでしょうけど。真里もよく許したわネェ……。
もしかしてこの前の催眠術の影響かしら?
だとしたら、全部が全部、無駄って訳じゃなかったのネ」


自らの掛けた催眠術で、
真里がレズ寄りになっていたことを知らなかった小早川は、結果として、彼女が誠の女装を許す流れになっていたことを喜んでいた。

誠がニューハーフに成長する物語を作るのに、
真里はもっとも重要なキャストである。

そんな彼女が女装を促せば、
誠がニューハーフになるきっかけとしては、
これ以上ない説得力のある材料となるのだ。


ニャーニャー

「うめーなこれ、おい、お茶くれ」

「ははっ!」


南の島名物ウミネコ饅頭を口に頬張り、
黒服の注いだお茶を呑気に飲み干す鮫島。

彼が咀嚼する度に、
ニャーニャーと耳障りな音が鳴っていた。


「ちょっとうるさいわネ。食べるのは良いけど、そのニャーニャーって音どうにかならないの?」

「おめぇも食ってみろヨ。結構いけるぞ」


鮫島がおみやげの箱からウミネコ饅頭を取り出し小早川に渡す。


ニャーニャー


「ふむ……たしかになかなか美味(びみ)ネ。お茶ちょうだい」

「ははっ!」


黒服がお茶を注ぎ、小早川に差し出す。


「しかし、おめーから二度も逃げ切れるとは、あの女もなかなかやるなー」

ニャーニャー

「ふんっ! あの子は頭がおかしいのヨ。それか相当頭が悪いかのどっちかネ。たぶんアタシの言葉を別の解釈で捉えてるんだと思うワ」

「なるほどな、んで、その言葉の通じねぇ女をどうやってしつけるつもりだ?」

「今まではアタシ一人で対応して来たからダメだったのヨ。あの子と同レベルの調教師が必要ってワケ。これまでの失敗を踏まえて、新たなキャストを用意したワ」


ニャーニャー


「キャスト……そんな都合の良い奴いたか……?」

「えぇ、今日中に到着するはずよ」


コンコンッ
入り口のドアがノックされる。


「入りなさい」


ドアが開き、黒服が入室した。


「失礼します。忍と女が空港に到着しました」

「アラそう、噂をすればなんとやらネ」

「んっ? キャストっていうのは忍のことか?
アイツに女を調教させるつもりか?」

「違うワ。あのクソ女のことヨ。これまで散々暴言吐いてきたけど、ようやくアタシの役に立つ日が来たってワケ」

「アイツか。あんなのが役に立つのか?」

「役に立つワ……特にあの真里って女にはネ」


不敵な笑みを浮かべる小早川。
彼の目にはこれまでにないほど、確固とした自信が満ち溢れていた……。



※※※



その頃、遊び疲れた誠と真里は海の家で昼食を取っていた。

二人が注文したのは、
この店の人気メニュー『南の島カレー』
それはチキンとパッションフルーツを使った珍しいカレーであった。


「真里さん、私、ちょっとお手洗い行ってくるね」

「はーい、あっ、ちゃんと女性用を使ってくださいね」

「うーん……気が進まないけど、この姿じゃ仕方ないよね」

「マコちゃんが男子トイレ使ったら大騒ぎですよ。
十日もこの島にいる訳ですから、変な目で見られないようにお願いします」

「うん、わかったよ」


誠がトイレに行っている間、真里は一人でカレーを食べていた。セットで付いてきたチキンスープが濃厚で美味しく、既に二杯目を飲み干そうというところであった。

カレーを口に含み、
スープの残量を見つめていた真里の視界が急に暗くなる。

次の瞬間、彼女の耳元で囁き声がした。


「だーれだっ!?」


明るく楽しげな女性の声。
真里はその声に聞き覚えがなかった。


「ひぃえ!? だ……だれですか……? モグモグ……」


ビビる真里。
口内に残っていたカレーを慌てて飲み込む。


「だれだと思う?」


再び問いかけられる。
少なくとも誠の声でないことは確かだ。


「すみません……全然わかりません……人違いじゃないですか……?」


真里は目を抑えられながらも恐る恐る言った。


「いいや、貴女は私を知っている……」


声の主は、悪戯じみた怪しい声で言ってきた。

おかしな人に遭遇してしまった……。
そう思った真里は、それ以上どうしたら良いのか分からなくなり、硬直してしまった。


「あれ? 真里さん、その人だれ?」


そこで誠の声がした。
真里はパッと立ち上がると、急いで誠の方へと逃げ込んだ。


「ううん……全然知らない人です!」

「えっ……でもこの人、すごいニコニコしてるよ、本当に知らない人なの?」


真里は誠の背中からひょっこり顔を出すと、怯えながらも叫んだ。


「貴女、一体なんなんですか!」

「ハッハッハ! ごめんごめん、まさかこんなところで会うとは思わなくてさ、つい悪戯しちゃった!」


そのマイペースな物言いに心当たりがあった真里は、冷静に女性のことを見た。


「も、もももも………萌!!」


そこには高校時代の漫画研究部のメンバーで、親友でもある萌の姿があった。



※※※



「ホント、大うけだったわ」

「なんで萌、ここにいるの?」

「なんでって、近所の商店街でやってた抽選会でこの島の9泊10日の旅が当たったからだよ」

「えっ!? 萌のところでもやってたんだ!」


萌の住んでいる□□市は、
〇✖大学から200km離れた場所にあった。

高校を卒業してからというもの、連絡するのは年に数回程度になっており、今回の旅行についても特に伝えてはいなかった。


「すごい偶然だよねーやっぱり私と真里は波長が合うんだねぇ~」

「だね、でもすごいラッキー! 最初の一日目で萌に出会えるなんて、帰るまで一緒に遊ぼうよ!」

「もちろんですぜ、真里くん。ところで旅行券は2名1組だったはずだけど、もしかしてその人と来たの? その人誰?」

「あぁ、この人は私の彼で……」

「カレぇ!?」


萌が驚き叫ぶ。それもそのはず、真里の隣にいる誠は、誰がどう見ても女性にしか見えない姿をしていたからだ。

それに気が付き、慌てて真里は言い直す。


「あ~~違う違う! 間違えたっ!
そうじゃなくて、この人は私の彼女……」

「カノジョォ!!?」


さらに信じられないと言った様子で萌が絶叫を上げる。
久しぶりに会った親友がレズビアンになっていて、彼女と南の島でバカンスしてたら誰だって驚く。


「まちがえたーーーーーーーーーー!!!
ちがーーーう!!! この子は、友達―――!! ただのーーー友達なのーーー!!」


余りの失言の連続に、萌と同じ口調で言い返す真里。
しかし、二度も素で間違えた親友の態度を萌は見逃さない。

彼女と真里は中学からの付き合いだ。
その頃から同じ漫画研究部で、既に6年以上の付き合いがある。

それだけ長いこと一緒にいた親友の態度を萌が見逃すはずもない。彼女のとった決断とは?


「は……ははは……。うん分かったよ……。友達だよね。ただの友達。うん、十分わかったよ、真里」

「いや……ちょっと待って、萌。なんかおかしいよ? そんな喋り方してなかったよね? え? ちょっと……?」

「うん? そんなことないよー?
私、そういうのに偏見ないからさ、全然OK!」


萌は態度を改め、ウインクを作り、
利き手でグーを作り、親指を上げてGood♪と表現した。


「全然OKじゃないよ……。偏見ってなに……?」

「真里、百合物も好きだったしね……。私は応援するよ。
大丈夫。そんなことで私達の絆は切れないよ。親友じゃない!」


自らの胸をポンと叩き、任せろといった風に萌は言う。


「うん……親友だよ……。ふぇ……そんなぁ……こんなぁ……ふえぇぇぇ……」


そんなことを強く言われても全く嬉しくない。
真里は悲観に暮れた。


結局この後、誠と真里は、
誠を女性として話を進めていくことにした。

誠の女装を打ち明けるかどうか迷ったが、
女性で女装男子と付き合うなど、
世間から見ればレズに片足を突っ込んでいるようなものだ。

ここで誠の女装を打ち明けなければ、
地元に帰った後、誠を彼氏として紹介することもできる。
そうなれば、真里のレズ疑惑は完全に晴れるというものだ。

しかしこれにより、誠は残りの9日間をずっと女性として過ごさなければならなくなってしまった。



「ところで、そういう萌は誰と来たの?」

「うーんとね。私は彼氏と来たんだー」

「あー前に言ってた人か。紹介してよー」

「もちろん紹介しますよ! 私も真里の『彼女』紹介してもらったしね☆」


萌の中で真里はすっかりレズビアンとして定着してしまったようだ。

時の流れは人を変えてしまうもの。
元々百合同人に少しだけ興味があった真里は、本格的にそっちの道に行ってしまったのだなぁと、萌はしみじみと感じていたのであった。


「あ、いたいた。ほら、向こうでソフトクリーム持ってこっちに来るのが私の彼氏だよ」


萌はそう言い、フードコートを指さす。
そこには身長もそこそこ高い、綺麗系のイケメン男性がいた。


「おまたせ―萌。あれ? その子達は?」

「ありがと、忍。うんとね、こっちは私の高校時代の親友で真里っていうの。すごい偶然なんだけど、真里も抽選会で当たって来たんだって!」

「えぇっ!? そうなんだ、真里ちゃん、よろしく」

「よろしくです!」

「で、こちらが真里の……ええっと……彼女? 友達?の……」

「ともだちですぅー!」


真里がこれ以上誤解されないよう牽制する。


「ホントにただのともだちぃー?」

「ホントにホントなのぉー!」

「ふーん、そっか。その方が良いなら、それで良いよ。
私は真里のカミングアウト、いつでも待ってるからね☆彡」

「ふえーん……その言い方やめてぇー……」


真里には真里の事情があるというもの。
本人が隠しておきたいのなら無理に詮索するのは良くないと、萌は思ったのであった。


「真里さんの友達のマコトと言います。よろしくお願いします」

「マコトちゃんもよろしくね。えと……彼女というのは……?」

「忍、ダメだよ。人には心の準備というものがあるの。
気になるのは分かるけど、今は静かに見守っててあげよ?」


先ほどまでの自分の態度を忘れ、忍を注意する萌。
ずいぶんと勝手なものである。


「あ、そうだね。ごめん、真里ちゃんとマコトちゃん。
なかなかそういう人に出会ったことがないから、つい驚いちゃってさ」

「ハ……ハハハ……イイデスヨー、キニシテマセンヨー」


これ以上否定しても、余計な誤解を招くだけ。

真里は棒読みで忍を許した。
親友にレズだと誤解され、さらにその彼氏にも同じように扱われるようになるとは……。

真里は口から魂が抜け出てしまいそうな気持ちになった。


「それでなんだけど、忍は私と同じ専門学校に通ってて、去年の夏くらいから付き合い始めたんだー」

「うろ剣や幕末志士伝説などのコスプレをやってます!
萌とはよくペアを組んでコミケ参加してます!」


世間的にはなかなか濃い趣味を、さっぱり爽やかに言う。
さすが萌の彼氏だと真里は思った。


「えぇ! コスプレしてるんだー!
いいなー私もマコトく……マコトちゃんに……」

「もぉー真里もそんだけ素材良いんだから、マコトちゃんに~じゃなくて、自分もコスプレやっちゃいなよ~。
マコトちゃんとだったら、まどマジなんか良いんじゃない?
あれも百合物だしね。
どっちかというと真里が”ほめら”で、マコトちゃんが”まじか”かなぁ~」


まどマジとは、ダークファンタジー系の魔法少女アニメのことだ。そこに登場する“ほめら”と“まじか”は百合同人でもよく題材とされるカップリングである。


(うーん……誠くんには“まじか”じゃなくて、テトのコスプレして欲しいんだよな~。でもそうすると私がカールの役しなきゃダメかな? カールと私では微妙にキャラが合ってないな……)


そう考えていると、ふと忍の顔が目に入った。
爽やかイケメンタイプで、身長もそれなりにある。
この人がカール役をして、誠がテト役をしたならば……。


「フ………フヒ………」

「むむっ? 久しぶりに聞きましたね。その独特な笑い方。
やっぱ真里、マコトちゃんとまどマジコスプレ興味あるんだね。もう素直になって、二人で百合コスプレやりなよー」

「あっ………今のはちがっ………」


真里は、ちょうど萌がまどマジの話をした際に、カルテトの妄想をしてしまい、さらに誤解されることになってしまった。勘違いをしている萌の目はとても優しかった。


その後、4人は一緒に行動するようになる。
久しぶりに会った親友同士は、まるで仲の良い姉妹のようであった。

その様子を穏やかに見守る誠と忍。
そんな二人の身体に、ある変化が起きようとしていた。


(ん………なんだろな? このマコトって子の傍にいると、身体が熱くなるような……。いやいや、萌がいるのに、俺は何を考えているんだ)

(なんでこんなに身体がジンジンしちゃうんだろ? この男の人がいるからかな? 他の人だと何も感じないのに、どうしてこの人だけ……)


これまで二人は幾度となく身体を重ねあってきた。
その反応が、お互いを求め合っている反応だと彼らが気づくことはなかった。



Part.86 【 三木谷 萌◇ 】

その日の夜、忍と萌は高級リゾートホテル
『センチュリーハイアット小早川』の23階に泊まっていた。

寝室の広縁のテーブル席に座り、窓から外を眺める二人。

海岸沿いの照明によってライトアップされた海は、
七色の光を放ち、実に幻想的な雰囲気を保っていた。


「ねぇ……忍……」


忍に身体を擦り寄せ、萌が言う。
彼女は彼の太ももに指先を這わし、唇を耳元に寄せ誘惑している。

しかし忍は微動だにしない。
萌の誘いに応えるつもりはないようだ。


「今日もしないつもりなの……?」

「…………ごめん、少し疲れてて」


忍の一物は、萎(しぼ)んだまま何も反応を見せなかった。
やる気のない彼の態度に、萌は悲しげな表情を浮かべる。


「せっかく旅行に来たのに……それでもしないの?」

「ごめん、今日はできない……」

「もう、私の身体に飽きちゃったってこと……?」

「違う、そういうんじゃないよ……」

「うそ……もう忍は私のことなんか……」


彼女は感情を抑えきれず泣き出してしまった。
慌てた忍は、彼女の肩を強く抱くと、目を合わせて言った。


「違う、俺は萌のことを愛してる。
本当に調子が悪くて、思うようにできないんだよ」


芯の通った声、萌は忍の言葉に嘘偽りがないと感じ、その場は一旦引くことにした。

付き合い始めの頃は、毎晩のようにセックスを楽しんでいた二人であったが、最近は何もしない日が続いていた。

初めは大目に見ていた萌も、
今では自分に何か原因があるのではと悩み始めていた。

忍自身も自分がなぜ急にできなくなったのか、全く理解できないでいた。
病院で診断を受け、ED治療薬を試してみたこともあったが、ただ股関節が張り、痛くなるばかりで効果はなかった。

真里、誠と同じように、
二人も勃起不全に悩まされていたのだ。



※※※



今から20ヶ月前、
イラストの専門学校で忍と萌は出会った。

当時は席が隣同士で、軽い世間話をする程度の仲だったが、
たまたま好きな漫画が同じで、自然と意気投合するようになる。

その後、二人は一緒にコミケに参加するようになり、付き合うようになった。

しかしそれから半年後、
二人は小早川に拉致されてしまう。


「見なさい忍ちゃん、アナタが犯されてるのを見て、あの女オナニーなんかしてるわヨ。アナタがひどい目に遭わされてるというのに、ずいぶんと軽薄な女ネ」


当時も小早川は、
催眠術を使ってカップルの分断に励んでいた。

しかしすでに忍は萌が腐女子であることを知っており、
なおかつ暗示に掛かりにくい性格であったこともあり、
催眠を掛けられても、さほど大きな衝撃は受けることはなかった。

萌がオナニーをしていても、
元からそういうことしそうな女、という印象が忍の中にあったのだ。


「この汚カマ野郎! はぁはぁ♡
そのうちアンタの腐れちんぽを、火炙りにして肥溜めに棄ててやるんだから! 覚悟しておきなさいよ! んっふぅ♡」

「口の悪い女ネー……でもオナニーしながら言っても迫力ないわヨ? ねぇ、忍ちゃん、アナタもそう思うでしょ?」


真里と違い、萌は忍のホモ行為を見て、すぐに自慰を始めてしまっていた。
我慢するというより、さっさとイッて冷静になろうというものであった。

しかし暗示の影響で、
イケばイクほど萌の興奮は高まっていくばかり……。
既に自分でも止められない状態となってしまっていた。

そんな彼女を忍は軽蔑することもなく、
(アイツ、絶対喜んでるよ……)と、呆れた気持ちで眺めていた。


萌は欲情まみれの表情で、
忍に挿入された男根を見つめている。

彼女のこの反応は、催眠に掛かっているからではなく、
自ら進んで行っていることだった。

萌は素のままでも、忍のBLを喜ぶ女だったのだ。

真里と萌の違う点は、
真里がBL・GL・NLとオールマイティーに楽しむのに対し、
萌はBL一辺倒だった。

萌は付き合った当初から、忍のお尻をサワサワと触っては、
「ねぇ忍……お尻におちんぽ入れてみたくない? 一度で良いから経験してみるのはどうかな?」と提案していたのだ。

変態度合いとしては、
真里より突き抜けていると言っても良い。

萌は男と付き合った経験は多かったが、
この癖が元でフラれてしまうことも多かった。

それでも彼女は気にせず、
我が道を突き進んできたわけだが……。


「あっ♡……忍……私また、イクぅぅ!♡」


萌が5回目の絶頂に到達する。
彼女は荒い息を吐きながらも、引き続き自慰に没頭していた。


「忍ちゃん……あんな最低な女とは別れましょう?
アレはただの色情魔ヨ。アナタが付き合うような相手じゃないワ」


小早川の意見はごもっともだ。
恋人が犯される姿を見て色欲に耽る。
観賞されてる側からすれば最低の行為である。

だが忍は萌を軽蔑する気にはなれなかった。
なぜならそれは…………『お互い様』だったからだ。



※※※



忍には、萌のBL好きに匹敵するほど、
変態チックな性癖があった。

それはGL好き。

彼は女同士の性行為に興奮してしまう、
いわゆる〖姫男子〗と呼ばれる人種であった。

先に断っておきたいのだが、
忍のGL好きは、百合好きとは明確に違う。

百合には相思相愛の甘々なシチュエーションが多いのだが、
忍はそういったものではなく、レズっ気のないキャラがレズプレイを強制させられる鬼畜なシチュエーションが好きだった。

一般的なレズ物と違い、ノンケ女性が無理やりレズらされるといったものは、極めて供給が少なく、ほとんどないと言ってもよかった。

大抵はすぐに堕とされ、レズに積極的になったり、
初めから相思相愛の百合物がほとんどで、忍の欲求を満たすものは、あまりなかったのだ。

そして萌と同じように、
忍もその趣味がバレて女性にフラれるパターンが多かった。

彼の容姿の良さから、初めは女性側も我慢するのだが、
そのうち耐えられなくなり、別れを告げてしまうのだ。

だが萌だけは、忍の良き理解者であった。

ノンケの男性がホモに無理やり組伏せられ、
快楽に溺れさせられてしまう。

それは、萌にとっても興奮できるネタであったのだ。



※※※



忍の誕生日のことである。


「忍、もうすぐ誕生日だけど、プレゼント何が良いかな?」

「プレゼント? そうだなー萌が女の人とエッチしてる姿、見せて欲しいかな~?」

「!!」


萌が誕生日プレゼントは何が良いかとたずねた際、
忍は、なんと萌がレズする姿を見たいと言い出したのだ。

もちろんこれは冗談のつもりで、
萌であれば、笑って返してくれるだろうと忍は思っていた。

だが意外なことに、
萌はこれをただの冗談としては扱わなかった。

忍の表情や言いぐさから、それを冗談として捉えてはいたのだが、本当に忍の欲しいものを考えた場合、
冗談で伝えたこの内容が、実にしっくり来るように感じられたのだ。

萌はしばらく真剣な表情で考え込んだ後、
「わかった……忍が望むならしてもいいよ」と答えた。

この答えに忍は絶句する。
まさかまさかの展開に、返事を考えていなかった彼は、
力なく「お、おぅ……ありがとう」と答えるだけであった。

もちろん萌は女性にされて喜ぶ質(たち)ではない。
むしろ一般的な女性と比べても、嫌悪感を抱く方だ。

百合物も好んで読む真里と違って、萌はBL一辺倒。

女性同士の性行為など、
当人にとっては鳥肌ものであった。

それでも萌はOKした。

忍は性別は違うものの、
同じ趣味や趣向を共有する仲間である。

逆の立場で忍のBLを見たいかと問われれば、
「見たい」とハッキリ答える自信があった。

どんなプレゼントよりも忍のBL。

腐女子界の女王は、
忍の生GLが見たいと言う欲求が痛いほど分かったのだ。

そして何よりも、彼女は忍のことを愛していた。

萌は普段の性生活において、
忍が満足していないのを知っていた。

忍は自慰のし過ぎで感度が鈍っており、
なおかつセックスへのこだわりが強すぎて、
なかなかドンピシャとなるシチュエーションに巡り会わなかったのだ。

だからこそ、忍が満足できる状況でセックスをさせてあげたかった。

そしていずれは、自分の誕生日に、
忍に生BLを要求することも視野に入れていた……。



※※※



彼の誕生日の夜。
萌は初めてレズセックスを体験することになる。

相手はレズ風俗嬢。

レズ風俗サイトから、相手を選んだのだが、
最初に忍が数名選び、
その中から萌が一人を選ぶという形をとった。

選ばれた女性はすぐに来た。
見本の写真と少し違う容姿であったが、それでも平均よりは上といった感じであった。

部屋に入ると、風俗嬢は萌を見て微笑んだ。

萌は妹顔のどこか守ってあげたくなるような雰囲気で、
あっさりとした快活美人であったからだ。

風俗嬢は忍からすぐに説明を受けた。

萌は女性とするのは今回が初めてで、
彼女のことを持ち前のテクニックで魅了し、虜にして欲しいという内容であった。

もちろん女性は喜んで了承した。
ノンケで、このような美人を好き放題できる機会など滅多にない。仕事ではあったが、彼女はやる気満々であった。

ただ一つ、萌からキスだけはNGと要望があった。

どこを触れられても、唇だけは許したくない。
それが萌のギリギリ許せるラインであった。


こうして二人のレズ行為が始まった。

萌は風俗嬢の愛撫を受けるだけ。

女慣れしているレズキャストの攻めに、
萌は喘ぎ声を出し、舐められる度に身悶えしていた。
その反応に気を良くしたのか、レズ愛撫はさらに激しさを増し、ついには萌を絶頂させるに至った。


行為後、忍は荒い息を吐いて横たわる萌に感想を求めた。

彼女はシーツにくるまり、
息を深く吐き、震えながらも答えた。


「想像していたより気持ちよくて感じちゃった……♡」


妖艶な表情で怪しく囁く萌に、
居ても立ってもいられなくなった忍は、
キャストを帰らせると、そのまま続きを再開してしまった。

その日のセックスは、
これまでとは比べ物にならないほど激しいものとなった。

こうして二人の絆は、より一層固くなったのである。


だがその時、萌は忍に隠していることがあった。

実は彼女は女性の愛撫に感じておらず、絶頂もしていなかった。行為後の仕草や台詞は全て演技である。

萌は忍を興奮させるため、感じているふりをしていたのだ。

彼女は逆の立場になった際に、
自分が興奮するかどうか考えながら立ち回っていた。

その証拠に、女性とした後の彼女の身体は鳥肌だらけ。
萌はそれがバレないようシーツを被り、敢えて大袈裟に身体を震わせ、早くそれが収まるようにしていたのだ。



※※※



そういう過去もあり、
忍は『お互い様』と思ったのだ。

萌が自慰していても、軽蔑のしようがない。
そして萌もそれが分かっているため、この行為を好きなだけ愉しむことができていた。

いわば今回のことは、前回のレズプレイのお返しなのだ。
その日は別に萌の誕生日ではなかったが……。


結局その後、小早川は二人の分断に失敗する。

忍と萌にとって、それが問題行動とならないのだから当然と言える。だがそれにより、二人は長い調教生活を強いられることとなった。

忍は女性に徐々に勃たなくなってしまい、
二人は今では倦怠期のカップルのように、行為に至ることはなくなっていた。

萌はそんな状況を打破しようと、この島に来ていたのだ。

Part.87 【 姫男子◇ 】

バッッシャン!!


「うひゃーー!!」


水しぶきが掛かり、真里が悲鳴を上げる。
空中に跳んだイルカが水面に落ち、
その衝撃で水しぶきが観客席に飛び散ったのだ。

真里は頭から思い切り水を被り、ビショビショの状態だ。


その日、真里、萌、誠、忍の四人は、
島の外れにある『南の島水族館』に来ていた。

ここは世界の珍しい海洋類を1000種類以上も飼育しており、
全長300m以上もある巨大水族館であった。
定番のイルカショーやアシカショー、白熱のペンギンバトルまで観光客を楽しませる催し物が目白押しだ。


「ひぃえー……ひどい目に遭った……」

「真里は反応遅すぎだよ。イルカが跳んだらすぐにシートでガードしなきゃ。ま、ウケたから良いけど☆彡」

「もうお昼だし、そろそろメシ行こうか。真里ちゃんもお店の人に服、乾かしてもらうと良いよ。マコトちゃんもそれでいいかな?」

「はい、私はそれで良いです。真里さん、上着預けてる間、私のカーディガン羽織りなよ。風邪引いちゃったら困るし」


午前のイルカーショーを終えた四人は、
館内のレストランでランチを取ることにした。

名物の海鮮丼は定価1,000円とは思えないほど、ボリュームと彩りに富んだ、なんとも贅沢な海鮮丼であった。


「えーー!? これで1,000円ってすごくなーい?」

「ねー! すごいよねー雲丹、いくら、海老、ホタテ、光り物から干瓢までなんでも乗ってるよ!」


女性二人が歓声を上げる。
お値段以上の海鮮丼に大満足な御様子だ。


「やっぱり海の近くだから、ここまで出せるのかな?
地元で頼んだら2,000円以上はしそうだね」

「そんぐらいするだろうね。俺、寿司屋のバイトしてたことあるんだけど、賄いで古くなった材料を処理した時くらいかな。こんな海鮮丼見たの」


誠の言葉に忍が相槌を打つ。
専門学校に通う忍は、様々なバイトを経験しており、
その容姿の良さから、モデルのバイトをしたこともあるらしい。


「あっ、マコちゃん見てください。醤油も色んなのがありますよー」

「わーホントだー。雲丹醤油、甘海老醤油、牡蠣醤油……すごいこだわってるお店だね」


受け口が4つある受け皿を手に持ち、感心する誠。


「ちょっと生牡蠣もあるよ! 忍ーー私、生牡蠣食べたーい。真里とマコトちゃんもどお?」

「うお、生牡蠣一つ400円? やっすいな……真里ちゃんとマコトちゃんも遠慮しないで頼みなよ。ここは俺の奢りでいいからさ」


美人三人に囲まれ気を大きくした忍が言う。


「えー!? いいんですかー?
私、生牡蠣すごい好きなんですよ!」

「遠慮しなくて良いの。
マコトちゃんもじゃんじゃん頼んで良いからね♪」

「あ、すいません……じゃあお言葉に甘えて……」


萌からメニュー表を受け取り誠は恐縮する。

彼は複雑な心境だった。
真里はともかく、女性の振りをした自分が本当に忍に奢ってもらって良いのだろうかと少し戸惑っていた。

誠と真里は、普段こういう食事をする際は、
何を注文しても半々で会計をすることにしていた。

真里はこういったお金の支払いにキッチリしており、女性だから男に奢ってもらうのは当然という考えに反対の人物であった。

誠が支払うと伝えても、「私は養ってもらいたくて誠くんと一緒にいる訳ではありません」と言って断ってしまうのだ。

男として、真里の分も払ってあげたいという気持ちはあったのだが、真里の意向で半々で払うことになっていたのだ。


「じゃあ、忍さん。夕食は私とマコちゃんに支払わせくださいね。ここはお願いしまーす!」

「えっ? 夕食も俺が払うから良いよー
こんな美女三人に囲まれて、それだけで俺、役得だからさ」

「それだと私達の肩身が狭くなってしまいます……」

「ダメだよ、忍。真里は昔からこういう事は細かいの。
あんまりしつこく奢ろとすると嫌われちゃうよ?」


結局、夕食は真里と誠が支払うこととなった。

これは真里が誠の気持ちを汲んで、そうしたと言っても良い。誠ならきっと騙しているという気持ちが強くなるだろうと思ってのことだった。


食事を終えた四人は再び水族館巡りを再開した。
萌と真里を先頭に、後から忍と誠が付いて来ているといった感じである。


「ねぇ真里、ちょっとお願いがあるだけど良いかな?」

「んーなになに?」

「ここじゃ話しにくいから、トイレに行かない?」

「うん、良いよー」


二人は誠と忍に一言断ると、お手洗いに向かった。


「はい、では何でしょうか?」


改まって萌に尋ねる真里。


「うん、実は結構深刻な悩みなんだけどさ……」

「えっ? 萌が深刻な悩みだなんて珍しいね」

「忍のことなんだけど……」


先程までの快活な雰囲気から一転、萌は深刻な表情を見せていた。


「え……どうしたの? もしかして浮気とか……?」

「ううん、そういうんじゃない。
忍はあんな感じだけど、割りと一途な方だよ」

「それなら良かった……じゃあどういった悩み?」

「言いにくいんだけどさ……」


萌はそこで忍との性生活について真里に打ち明けた。

最近誘ってもなかなか受け入れてもらえなくなり、どうにかして関係を戻したいというものだった。


「そうなんだ……大変だね……」


真里も誠とのエッチでずいぶん悩まされた方だったので、他人事とは思えなかった。ましてや親友の頼み。
自分ができることなら、なんでもしてあげたいと思った。


「うん、それで真里に協力して欲しいってわけ」

「もちろん良いけど、何をすればいいの?」

「忍の前で私のことを誘惑してくんない?」

「はぁ?」


真里は、首を傾(かし)げた。
なぜそこで萌を誘惑する流れになるのか? 意味不明であった。


「実はね、忍って姫男子なの」

「姫男子?」

「ウチラ、腐女子と双璧を成す存在のことよ。
忍は女同士がエロいことしてるのに興奮する質(たち)なの」

「へぇーーそうなんだ」

「だから、真里にエロいことして欲しいってわけ」

「はぁ?」

「要するに、忍が興奮して私とエッチしたくなるようにして欲しいの。もちろんお礼は弾むよ?
テトの声優さんのサイン入り色紙なんかどうかな?」

「マジ!? 持ってるのーー!!?」

「もっちろん。真里を餌付けするのに、こういったグッズは結構取り揃えていますぜ?」

「餌付けって……ほ、欲しいですぅ……」

「じゃあ、なるべくさりげなくお願いね。お尻触るとか、胸揉むとか、それくらいのことはしてしまって構わないから」

「ふぇっ!? そこまでするのー!?」

「あったり前じゃーん! 声優の○○さんのサイン入り色紙で、オリジナルのテトイラストも描いてあるんだよ?
ま、いらないならいいけどー?」

「します。させてください」

「ありがと、さすが私の親友。
でもマコトちゃんに悪いから、先に断っておいてね」

「う……うん。相談してみるけど、もしダメだったらごめんね……」

「それは仕方ないよ。真里の彼女だもんね?
その場合でも色紙はあげるから安心して」

「は……はは……」


そういえば萌に誤解されているんだったと、今さらながら思い出す。腑に落ちない気持ちではあったが、とりあえず誠に相談することにした。


「ただいまーマコちゃん。ちょっといい?」


真里は手洗いから戻ると、さっそく誠に相談を始めた。
萌も忍が二人に近づかないよう、なるべく遠くの水棲生物を指差し一緒に観賞するようにした。


「という訳で、萌にエロしないといけないんですけど、どう思いますか?」

「私は別に構わないよ。本当にエッチするわけじゃないしね。それに私も萌さんの気持ち、よく分かるし……」


誠は勃起不全で真里に苦労させてしまったことを思い出していた。愛してるのにエッチできないのは、とても辛いこと。

もしかすると忍も自分と同じように、できない事情があるのではと心配をしていた。


「ありがとうございます。結構過激なこともしなくちゃいけないんですけど、私が愛してるのは誠くんだけですので、それだけは忘れないでください!」

「もちろん分かってるよ。
萌さんと忍くん、上手くいくようになると良いね」


そうして真里と萌の『忍をその気にさせてエッチしよう作戦』は開始されたのであった。



※※※



「ねーえ、忍」

「ん?」

「真里のことなんだけどさーちょっと私を見る目が怪しいんだよね」

「怪しいってどういう風に?」

「なんかー誘惑するような感じっていうかー。
エロいって言うかー。私に興味持ってる感じ」

「えぇっ!? まさか……だってマコトちゃんがいるじゃん」

「ウチラが勘違いしていただけで、本当はただの友達みたいだよ? マコトちゃん、普通に男の人が好きなんだってさ」

「へーそうなんだー」

「ねぇ……もし私が真里にエロいことされちゃったらどう思う?」

「それは……」

「嫉妬しちゃう? それとも……」


萌は他の観光客にバレないよう、
忍の股間に手を添えサワサワと触った。


「嬉しかったりする……?」

「んふ……そ、そんなことあるわけ……ないだろ」

「へーそうかなー? 私に女の人とエッチさせた忍なら、興奮すると思ったんだけど?」

「それとこれとは別」

「ふーん? 股間は正直みたいだけどぉ?」


忍の股間は通常よりも少し盛り上がりを見せ始めていた。


「これはお前が触るからだろ……」

「そぉ。なら良いけど」


そう言いつつも萌の表情は少し明るい。
忍が興奮してくれて、内心は嬉しいようだ。

それから彼らは水族館の水中シアターへと移動した。

ここは四人部屋となっており、
中のシートに座り、前後上下左右のスクリーンの映像を眺めながら、深海の旅を体験できるスペースとなっていた。

前の二席に真里と萌が座り、後ろの二席に忍と誠が座る。
機械はすぐに動き始め、六面に海の映像が映し出された。


「おーすごーい。大きなイルカー」

「真里、あそこ見てみなよ。タコもいるよ」

「ホントだ。珊瑚礁も綺麗だね」


身体を密着させる二人。
忍にバレないよう、こそこそと話をする。


(真里、もう少し近づいて、大胆にお願いね)

(うん、わかった)


映像が進み、前方にサメが現れる。
それは彼らを睨み付けると、口を大きく開けて襲いかかってきた。


「ひゃあ!!」


真里が叫び、萌に抱きつく。
オーバーな演技ではあるが、怖かったのは本当だ。

萌は座席の間から、自分達の姿が、忍から見えるかどうか確認した。忍はこちらをチラ見する程度で、まだそこまで関心はないようだ。


(…………萌に抱きついたのはいいけど、ここからどうしよう?)

(ほら真里、ここからどうすんの?)


大胆にと言われたものの、どうすれば良いのか分からない。真里はとりあえず間が空いては良くないと思い、一言添えることにした。


「も、萌……私、こわい」

「大丈夫だよ……真里、ただの映像だからさ」


映像は深海へと進んでいく。
真里はその映像を楽しみながらも、とりあえず次の手を打つことにした。


「暗くなってきちゃった……萌、怖いから抱き締めて」

「真里は怖がりだなーヨシヨシ」


どうも勝手が分からない。
果たして本当にこのシチュエーションが姫男子にとって、
エロく感じるものなのか? 二人には疑問であった。

誠が横目で忍の様子を観察する。
二人が気になってはいるようであるが、
そこまで興奮するほどのものではないようだ。

忍はレズ好きなので、
もっと生々しいものでなければならないのだろう。

映像は進み、深海の提灯(ちょうちん)アンコウが現れたり、
海底から発生した上昇水流に乗ったりもしたが、
そこから二人は抱き合うばかりで進展はなかった。


(むむむ……このままじゃまずいな……
これじゃあ何もできないまま終わっちゃうぞ)


萌は焦り、真里に目で合図を送った。
もっと大胆にヤレという合図だ。

真里をそれを受けて意を決すると、萌のお尻を撫で始めた。


「ふぁっ!♡ ちょ……真里……」


真里のしなやかな指がお尻に触れ、萌は声をあげる。
さらに真里はお尻の谷間に手を差し込み、アナルを擦った。

これにはさすがの萌も驚く。
まさかそんなところを攻めてくるとは、思ってもいなかったのだろう。

真里は誠とのセックスでアナルを責めることに慣れていた。
なおかつ同人誌でもアナルを責める描写が多かったため、それが彼女のスタンダードとなっていたのだ。

しかし萌は違う。
たしかにBL本でアナルセックスは見慣れていたが、忍とのセックスはヴァギナやバストを使うものがほとんどで、
自らのアナルに与えられる刺激に慣れていなかった。


「あっ……ふぅん♡ ちょ……真里……それはダメ…………」


萌は控えめに抗議の声を上げる。
しかし真里は、それが忍を興奮させるために言っているのだと思い気にも止めなかった。

映像の舞台は海上へと移る。
上昇水流に乗って海上に出た萌達は海賊船の上に降り立った。

海賊はちょうど海賊同士の争いを繰り広げており、四人の周りは戦う海賊だらけであった。

真里のアナル責めはなおも続く。
誠相手に鍛えたアナル責めの技術は彼女に通用したらしく、
次第に余裕の色がなくなり始めていた。


「ま……まり……それ、ホントだめぇ……♡
なんでそんなに……ふぁっ!♡」


先程までと違い、忍は二人の様子をガン見していた。
ちょうど海賊船の上だったこともあり、まるで女海賊真里に萌がレイプされているように映ったのだ。

忍の巨根は大きく膨れ上がり、その存在を誇示していた。

誠はそれを見て、思わず目を背けてしまう。
ズボン越しではあったが、あまりにも立派な一物で、
誠の女としての心を刺激してしまったのだ。

誠の小さなペニスもそれにより反応してしまい。
ショーツの中で、ピクピクと勃起してしまっていた。


(なんで私、忍くんのおちんちんを見て興奮してるのっ……!
これじゃあ変態じゃない)


これまで幾度となく、忍の巨根で愛されてきた誠の身体にとって、それは仕方がないこと。
催眠の記憶のない誠は、忍に釣られて勃起してしまった自分のペニスを情けなく思った。


「……周りに海賊がいっぱいいるよ! 助けて、萌!」


なおも下手な演技を続ける真里であったが、助けて欲しいのはむしろ萌の方であった。

真里からアナル責めを受け続けるうちに、
徐々にだが、未知の快感に気付き始めてしまったのだ。

自身のアナルを愛撫する親友の指先。
忍に凝視されているという倒錯的な快感も合わさり、萌の身体は興奮で震え始めてしまっていた。

しかし、そうするよう真里に指示をしたのは自分である。
今さら真里を強く押し退けることなどできなかった。

だがそのおかげで、忍は大いに興奮することになる。
誠が隣にいる手前、大胆なことはできなかったが、
もしいなければ、こっそりとオナニーをしていたかもしれないほどだ。

この水中シアターが終わるまでの間、
真里以外のメンバーは、全員悶々とした時間を過ごしたのであった。



※※※



シアターも終わり水族館の廊下にてーー


「……真里、あんな技一体どこで覚えたの? 絶対初めてじゃないでしょ?」

「あれは……そのぉ……誠くんに……」

「誠くん!? 真里、告白成功してたの……?」

「うん……今回はたまたま来れなかったけど……
今年の夏くらいから付き合い始めたの……」

「へぇーそうだったんだー! オメデト☆
じゃあ、マコトちゃんが彼女っていうのは?」

「だから友達ー言い間違えただけなの」

「そっか、真里がレズになったんだと本気にしちゃったよ。どっちも同じ名前なんて、すごい偶然だね」

「うーん、うん、よく言われるかもー」


騙すのは気が引けたが、余計な誤解をさせないためにも、ここで誠の女装は明かさないことにした。


「しかしあんなテク、誠くんに使ったら性格曲がっちゃうよ? あんなのにハマったら女の子になっちゃうかもしれないから止めた方良いって。前立腺への刺激でメス化しちゃう男子、多いんだって」

(既にメス化してます……)

「まぁでもあれだけイケメンなら、女装したらすごい美人になりそうだね。だからって試したらダメだよ?
でないと、そのうち男に取られちゃうかもよ?」

(もう女装してます……)

「でも桐越先輩を好きだった真里なら、それでも良いって言い出しそうだけどね。女装してても、男に掘られてても、それでも彼女でいたいって言い出しそう。腐ってるしね」

(それでも付き合ってます……)


とても理解ある親友の言葉に、黙って相槌を打つ真里。
今の誠を見られたら、またレズだと誤解を受けるかもしれない。なるべく大きな反応をしないよう気を付けていた。


「真里さーん、ディッピン・トッツ買ってきたよー」


そこでちょうど珍しいデザートを買った誠と忍が戻ってきた。ディッピン・トッツと言って、紙の器の中にサラサラで粒々のアイスが入ったデザートであった。


「話が脱線しちゃったけど、協力してくれてありがとね!
忍、結構興奮してたし、今夜これをネタにエッチ誘ってみる!」

「それなら良かった。頑張ってね、萌」


そうして真里は親友の健闘を祈った。

その後、ディッピン・トッツの不思議な食感に満足した四人は、誠と真里の奢りで南の島チーズフォンデュを食べに行くのであった。



※※※



夜になり部屋に戻った忍と萌は、仲良く入浴し、
ナイトウェアに着替えて窓辺の椅子に座っていた。


「ねぇねぇ忍、今日さ。
水中シアターで真里に抱きつかれたんだけど気づいてた?」

「んっ? あ、ああ……あれね……」

「あの時、真里にいろんなところ触られたんだけど、どう思う?」

「どおって……友達だったら言えば良いんじゃないかな?」

「ふーん、それだけ?」

「そ、それだけだよ……」


萌は立ち上がり、忍の膝の上に軽く腰かけると、誘惑するような目付きで話を続けた。


「忍、興奮してたでしょ?」

「…………」

「私が真里に迫られてるの見て、大きくしちゃってたんじゃない?」


忍の股間をナイトウェア越しに触る。
巨大な一物の硬さが増し、少しずつ起立し始める。


「ねーえ、私が真里に触られて感じちゃったって言ったらどう思う? 我慢できなくなって、真里にもっとして♡ってお願いするようになったら、どうする? その時、忍は私の浮気、許してくれるかなぁ?♡」

「はぁはぁ……何言ってんだよ……お前」


萌は忍のナイトウェアの隙間に手を差し込み、そのまま彼の下着に突っ込むと、完全に勃起してしまった剛直を握りしめた。


「忍ぅ……最近、相手してくれないから……私、真里に触られて感じちゃった……このままじゃ、本当に真里の誘いに乗っちゃうかも……? それでもいいのぉ?♡」

「んんっ……」


彼女は忍の下着をおろし、自らもショーツを脱ぎ捨てると、びしょびしょになった股で、起立した一物を擦った。
萌の女の液が忍の逞しい男性器に付着している。


「ほらぁ、忍がずっと放っておくから、私のここ、真里の愛撫でこんなになっちゃった……早く入れてくれないと、私、本当にレズになっちゃうかも? 忍のおちんちんで私のことをノーマルに戻して?♡」

「はぁはぁ……萌!」


忍は我慢できなくなり、そのまま萌を抱き上げると、ベッドに優しく下ろした。萌のナイトウェアをはだけさせ、彼女の女の園に向けて、淫棒の照準を定める。


「来て、忍。私のこと、思いっきり愛して!♡」

「愛してるよ、萌。今日は思いっきり……」


トゥルルルル…………トゥルルルル…………


部屋の電話が鳴る。おそらくフロントからだ。
なんとも間の悪いタイミングである。

萌は溜め息を吐き、少し不機嫌そうな顔をしている。

雰囲気をぶち壊されたといった感じだ。

忍は立ち上がり、電話を取りに向かった。


「はい、もしもし」


通話先の声を聞き、忍の目から生気が消える。
忍は受話器をそのまま萌に向けると言った。


「…………萌…………電話」

「えぇ、私? なんだろ、取り次ぎの電話かな?」


受話器を耳に当てる。


「はい、代わりました」

「闇夜に囚われし女」


声を聞き、床に倒れ込む萌。
次の瞬間、部屋のドアが開かれ大勢の黒服達と小早川が入室した。


「この段階でも忍ちゃんのおちんちんを勃起させるだなんて、この女、なかなかやるわネ……
まーた、女に欲情しないよう調教し直さないといけなくなったワ……でもまぁ、根本であるこの女を何とかするんだから、それも必要ないかしら? とりあえずアナタ達、二人を部屋に運びなさい」

「ははっ!」


小早川は、調教部屋に二人を運ぶよう黒服達に伝えると、
悠々と部屋を後にした。

Part.88 【 この汚いオカマの腐れ外道がっ!◇ 】

「……うん……ここは……」


見知らぬ場所で眠っていることに気づき、真里は目を覚ます。

天井に埋め込まれた無機質な照明。

四方の壁は頑丈なコンクリートで出来ており、
中央に巨大なモニターが備え付けられている。

ドアは二つ。モニターの横に一つと、反対側の壁にもう一つ。

寝心地の良いクイーンサイズのスプリングマットの上には、
薄いシルクのシーツが敷いてあり、真里はその上に寝かされていた。

いつもなら辺りを見回し、
冷静に事態を把握しようとする彼女であるが、この時は違った。


(早く……早くここから逃げなきゃ……!)


何もかも分かっているような反応。

真里は慌てて起き上がると、
モニター横のドアではなく、対面のドアへ走り、ドアノブを回した。


ガチャガチ……ガチャガチガチ……

(うぅ……やっぱり閉まってる……)


真里は後ろを振り返り、もう1つのドアを見た。
そちらには近寄らないようだ。


「いるんでしょう!? 早く出てきたらどうなの!?」


真里はモニターに向かって叫んだ。
まるで誰がそこにいるか、分かっているかのように。

モニターの電源がつき、この事件の首謀者が顔を見せる。


「ごきげんよう、真里ちゃん。御気分いかがかしら?」

「最悪の気分よ……またこんなところに閉じ込められて……
どうして私たちのこと、そんなに付け狙うの!」


真里は怒気を強めて叫んだが、
目には涙を溜め、身体はガタガタと震えていた。


「ふふふ……その様子だと、しっかりと記憶を取り戻しているようネ。貴女には、きちんと落とし前を付けて貰わないといけないの。
アタシの顔に泥を塗った落とし前をネ」


ギロリと真里を睨みつける。
どうやらこのモニターは、
カメラ内蔵で向こうからも真里の正確な位置が分かるようだ。


「さて、そろそろあの娘を中に入れなさい」


モニターの横のドアが開き、
黒服と全身を縄で拘束された萌が姿を現した。


「萌!」

「真里! 気をつけて! こいつら催眠術を使ってくる!
霧吹きのようなもので、変な液体を吹きかけて来るから、絶対に吸わないでっ!」

「しゃべってないで進め」


黒服が強引に萌を部屋の中へ入れる。
そして彼女のことをベッドの上に乱雑に投げ捨てると、そのまま元の部屋へと戻っていった。

大きな音を立ててドアが締まり、鍵が閉められる。
真里はすぐに萌の元へ歩み寄った。


「萌……大丈夫?」

「うん、なんとか……まさか真里まであいつらに捕まっちゃうなんて……あいつら、人拐いよ。
しかも組織的な連中……いろんな人たちがあいつらに捕まって、ひどいことされてる……」

「うん、知ってる……誠くんも、捕まっちゃったんだ……」

「桐越先輩も?……マコトちゃんは大丈夫なの?」

「ううん……実はマコトちゃんが誠くんなの……。
きっとあいつらに変なことされて、ああなっちゃったんだよ……」


一時は男に戻りかけていた誠の心が女になった理由。
今の真里には、その理由がハッキリと分かった。


「え、あの子が……そうだったんだ……
ということは……真里も結構前から?」


萌の問いかけに、真里は深刻な表情で頷いた。


「5ヶ月くらい前からね……
怖いのは普段はこういうことを忘れて、普通に生活してるってこと。

私は誠くんが変わってきてるのに、全然気にならなかった。
たまに電話がかかってきて、それに出ると催眠状態になってしまって、誠くんを連れ去られてしまうの。誠くんが女の子になってしまったのも、そのせいだよ」

「そういうことか……
抜け出そう……何としてもここから抜け出さなきゃ」

「うん……」


そう言ったものの、
それはかなり難しいことだと、二人は理解していた。

おそらくここはホテルの中。

『センチュリーハイアット小早川』
というホテル名からも分かる通り、ここは奴らのアジトだろう。

エレベーターはもちろん使えないだろうし、
非常階段だって封鎖されていることだろう。

窓は見当たらず、ここが何階かも分からない。
ホテルの中ということだって、もしかしたら違うかもしれない。

特別な脱出スキルもない二人がここから逃げ出すことは、
ほぼ不可能に近い状態であった。


「お話は終わったかしら? ところで真里ちゃん、
お友達、ずっと縄に縛られていて可哀想じゃない?
背中の紐を引っ張れば、簡単にほどけるようにしてあるから、
ひとまず彼女を楽にしてあげたらどうかしら?」

小早川の言葉を聞き、
真里はベッドに寝転ぶ萌の身体を反転させた。

そして背中の結び目になっているところに紐が一本分かりやすく出ているのを見つけ、すぐさまそれを引っ張った。

この時、真里は気づかなかった。
なぜ小早川が親切に拘束を解けるようにしていたかを。

スルスルスル……

紐は小早川の言う通り簡単にほどくことができた。
萌を縛っている紐を全て取り除き、ベッドの下へと捨てる。


「萌……大丈夫?」

「うん……ありがとね」


そうして二人は目を合わせた。

すると……


ドキッ!♡


二人の心を……身体を……何かが突き抜けた。


(え、なに……? 私……萌のことを見て、なんだか……)


真里の心は、これまでにない感情と感覚に包まれようとしていた。

その感情は誠へ向けるものと同じ、恋愛という感情。
その感覚はBLへ向けるものと同じ、性欲という感覚。

真里は親友に対し、
決して持ちようのないはずの感情と感覚を抱かされようとしていた。

そしてそれは萌も同じこと。
自身の変化に気が付き、すぐに真里から顔を背けた。


(うぅ……はぁはぁはぁ……♡ な、なんで……まさか……?)


自身の急激な変化に何かを察した萌は、
モニターの小早川を睨み付けた。


「アンタ……何をしたの?」

「何って、貴女たち、大の仲良しみたいだから、
もっと仲良くなれるようにサポートしてあげたのヨ。
しかし、すごい偶然ネー。
まさか貴女たちが顔見知りだとは知らなかったワ」

「はぁ……はぁ……」

「ふふふ、すごい苦しそうネー。
お友達の真里ちゃんに介抱してもらったら?
すっごく気持ちよくしてもらえるわヨー」

「くっ……この変態……」


二人はこれまでの経緯から、
小早川が何をさせようとしているかすぐに察知した。

彼は誠と忍を男同士で交わらせたように、
真里と萌にレズ行為をさせようとしていた。

真里は誠と擬似的なレズ関係を結んだことはあったが、
基本的に真里も萌も、本物の女同士の恋愛や行為に興味はない。

二人はじゃれ合うことはあれども、
そういった対象として互いを見たことは一度もなかった。

もしここで小早川の思惑通り、行為に至ってしまえば、
大事な関係にヒビが入ってしまうと、どちらも感じていた。


「また我慢するつもり? たしか貴女たち、我慢するの得意だったわよネ。そんな貴女たちが素直になれるよう、こっちも取って置きを用意させてもらったワ」


小早川は、マイクに指を近づけると音を鳴らした。


パチン!


「ん?……あ、あれ?」「えっ……?」


真里と萌の身体の動きが止まる。


「ふふふ、安心して、声だけは自由に出せるわヨ。
身体の動きだけ、こちらの自由にさせてもらったワ。
じゃあひとまず向かい合って、お互いを見つめ合いなさい」


小早川が指示を出すと、二人の身体は本人の意思を無視して動き始め、見つめ合う形となった。


(ど、どうしよう……だんだん萌のこと、
可愛く思えてきちゃった…………あぁ……可愛い……萌…………)

(真里…………キレイ…………ハッ!ダメダメっ!
これはあいつの掛けた催眠術のせい……ヤツの術中にハマったらダメ!)


だんだんと息を荒くさせる二人。
暗示がしっかりと効いてきていることに上機嫌な小早川は、
次なる暗示をかけた。


「ほら、お互いの唇を見なさい……とっても柔らかそうネ。
遠慮しないで、いっぱいキスし合いなさい」

(くっ……こいつ、なんてことを考えるの……。
女同士なんて気持ち悪い……! 鳥肌立つくらい嫌っ!!
くっそーー!! この汚カマぁぁあああ!)


真里に対する気持ちを怒りで誤魔化そうとする萌。


(たしかに柔らかそうだけど……私には誠くんがいるし……
誠くん以外の人とキスだなんて……
でも、萌とだったら少しは…………あぁ……やっぱりダメ…………)


萌と比べると、真里の抵抗は少なかった。

誠がほとんど女性化しており、彼との性交に置いても、
ちんちんの生えた女の子を犯しているという感覚が強く、
レズ行為への耐性が、そこそこあったのだ。

それと、萌は童顔でアニメのコスプレが似合いそうなカワイイ顔をしている。

親友とキスするのに抵抗はあったものの、
全然知らない赤の他人とするのに比べたらマシという感覚もあった。

そんな真里と違って、萌はBL一辺倒。

NLも少しはかじっていたが、
それでも九割五分以上はBLで染まっている女性と言える。

ただそれだけGLへの耐性はないということ。

コミケに行った際もGL物は避けていたし、
真里がマコトと女同士で付き合っていると知った時だって、
内心は「げぇ!」と思っていたくらいである。

忍にレズ鑑賞をさせた時だって、本当は嫌で嫌で堪らなかった。
それを忍への愛とBLへの欲求でなんとか耐えきっていたのだ。

しかし今回、忍はいない。
そうであれば、レズ行為など吐き気を催すもの以外の何者でもなかった。

これから親友である真里とレズ行為に至る。
そう想像しただけで、萌の身体には鳥肌が立ち始めてしまっていた。



※※※



「うーー! うーー! くぅーー!」

「ううう……やめ……やめて……」


親友とのキスを回避しようと、
必死に身体を抑えようとする二人。

だが催眠の力は強く、二人の距離は徐々に近づいてしまう。

二人は両手で指同士を絡み合わせ、
身体を密着させ、唇と唇の距離を縮めていった。


(ふー! ふー! やめ……やめて……嫌……嫌!)

(あ……あああ……ダメ! くっついちゃう……くっついちゃう!)


どちらの目も、拒絶の意思を語っている。

お互いの唇がぶつかりそうになり、二人は同時に目を瞑った。

次の瞬間……。

二人の唇は接触した。


「んんんんんっ!!」

「ふぅうううんっ!!」


唇の間から悲鳴にも似た声が漏れ出る。

お互いに彼氏がいるノンケ同士。

普通に生活していれば、一生経験することのなかった感触だ。

真里は気まずい表情を浮かべ、
萌は落胆した表情を浮かべている。

真里に比べて、
明らかに萌の方がこのキスにショックを受けているようだ。

忍のレズ鑑賞の時でさえ、キスだけは拒否していた萌である。
彼女のショックは計り知れない。


(うそ……私、真里とキスしちゃった……
女同士で……忍に見せる訳でもないのに……こんな……こんな…………)

(私も嫌だけど、萌はもっと嫌だろうな……いつもGL物、嫌がっていたし…………私は誠くんで慣れてるけど、萌は…………)


萌の目から涙が零れる。あまりのショックで、つい我慢していた気持ちが溢れ出てしまったようだ。

そんな萌を見て小早川は気分を良くする。

自分に泥を塗った人間の一人が、
苦悩に顔を歪める様を見て大層ご満悦の様子だ。


「はーい、唇を離して良いわよ♡」


二人はすぐに唇を離す。
どちらもショックで頭を下げたまま固まっている。


「親友同士のキスはどうだったかしら?
気持ちよかったわよネ?
貴女達そんなに仲良いんだったら、もう付き合っちゃえばぁー?
男同士に興奮する変態同士、お似合いだと思うわヨー。
ぷーくすくすくす!!」


その言葉に、ついに萌がキレた。

忍を犯され、自慰をさせられ、大切な親友と無理矢理キスをさせられてきた彼女は、もはや我慢の限界であった。


「いい気にならないで!
この醜いオカマの腐れ外道がっ!

アンタはただの可哀想な醜いオカマ!
催眠術を使わなきゃ、アンタの元には誰も寄って来ないし、誰もアンタのことを愛してくれない。
だから見苦しくも嫉妬して、仲良く愛し合っているカップルの仲を引き裂こうとしている。

ひたすら惨めね……。

アンタの楽しみはそれだけ?
そうやって一人、暗く虚しい遊びを繰り返すことしか楽しみがないの?

アンタは壊すだけ……
誰かと愛し合う関係を築くことは決してできない!
誰よりも不幸で惨めな腐った汚カマよ!!」

「………………」


一瞬にして場の空気が凍りつく。
小早川は、不機嫌な表情を維持したまま何も話さなかった。

真里はその表情に身の毛もよだつ思いを感じた。

今、この場を支配しているのは小早川だ。
彼の気分次第でいくらでも自分達をどうにかすることができる。

もちろん命を奪うことだって……。

真里は、小早川に啖呵(たんか)を切ってしまった萌のことを本気で心配していた。


「おやおや……どうやらアナタ、ワタシの琴線に触れてしまったようネ……。もう少しじっくりいたぶってやるつもりだったけど、こうなったら時間をかけてやる必要もないワ」

「まだやるつもり?
いい加減虚しいだけだって気づいたら?

忍と私のことを別れさせたいみたいだけど、
こんなに時間をかけても別れさせることができないってことは、忍のことも堕とすことができてないんでしょ?

私たちの絆は、アンタなんかに引き裂くことができるようなものじゃないんだから!!」

「口だけは達者ネ。ならば、試させてもらおうじゃない?
貴女たち二人を同時に堕とすつもりだったけど、気が変わったワ。
まずはオマエのことを先に堕としてやる」


最後の方だけ、男言葉に戻る。
この変化が、彼が本気で怒っていることを物語っていた。

萌は、真里の方を振り向くとニッコリと笑って語りかけた。


「真里、私あなたのこと大好きだよ。
ずっと昔から一緒に同人活動してきて、本当に楽しかった。
中学、高校であなたや弥生と友達になれたことが私にとって一番の宝物だった。
だから忘れないで……これから私がどう変わってしまったとしても、
私があなたのこと一番の親友だと思っていたことを…………」

「萌…………そんなこと言わないで…………。
まるでそれって別れの言葉みたいじゃん!
大丈夫だよ。きっと助けが来てくれるから……助かるから……だから、諦めないで…………」


萌はそれ以上何も言わなかった。
ただ涙を流し、ニッコリと笑ってくれた。


「ふんっ! 友情ごっこは終わりヨ。眠りなさい!」


パチン パチン!


二人の意識はそこで途絶えた。

Part.89 【 優しい拷問◇ 】

「むむむ!? その本は、もしやモンモン坂高校のBL本では!?」

「ふぁ!? こここ、これはその……道端で拾って……
って、あなた誰ですか!?」

「私は漫研の萌。芳ばしい匂いをかぎ分ける嗅覚と、
鋭敏なる直感を持つ漫研の期待の星だ。
その同人誌、道端で拾ったにしては、泥一つ付いてないではないか。
さては……君……腐ってるな……?」

「ななな、なにを根拠にー!」


※※※


「萌ー! このカルテトの絡み、最高だから見てみなよ!!」

「ウホッ! やべぇ、勃起しそう」

「ちょっと、その顔で勃起とか言わないの」

「真里だって、うは濡れるわ~とか腐りきったこと言ってるじゃん」

「んーや、私より萌の方が腐ってるもんねー」

「んんー? まぁ……言われてみれば、そうかもね……。
でも腐り方は、真里の方がカラフルだよ」

「腐り方がカラフルって……」


※※※


「まさに奇跡……まさか真里が◯✕大学を受かるなんて……」

「全ての煩悩を捨て……私は学問の道を貫いたのです……
もはや私が目指すのは、桐越先輩ただ一人……」

「じゃあ、合格したことだしカルテト本解禁だね!
ほら、真里のために一年分のカルテト本買い集めといたよ!」

「わーーい! 萌、最高ー♪ 愛してるぅー♡ ちゅっ♡」


※※※


「んっ…………」


萌は静かに意識を取り戻す。
まだ目は開けていないが、先ほどのベッドで眠ってることは分かった。


(こんな時に昔の夢を見るだなんて…………
それにしても、真里とキスしたのさっきのが初めてじゃなかったんだな……。
ふざけてしたことだからノーカンだと思うけど、
あれが私のファーストキス……まぁ、真里は知らないことだけどね……)


萌は目を閉じながら辺りの様子を伺っていた。
目を開ければ、小早川が何か仕掛けてくるかもしれない。
とりあえず萌は、寝た振りを続けることにした。


「はぁ……♡ はぁ♡ あはぁ……ぅんっ♡」


なぜか真里の喘ぎ声が聞こえてる。
くちゅくちゅと水が弾ける音も鳴っており、彼女が何か如何わしい行為をしていることは明らかだった。


「なかなか起きないわネ。アナタの彼女。もう起きてるはずなんだけど……。もしかして、寝たふりでもしてるのかしら?」


モニターから小早川の声がする。
まだ状況が掴めないこともあり、萌はもう少し様子を見ることにした。


「真里ちゃん、あなたの方から起こしてあげたら? ずっと一人でしてたら寂しいでしょ? まずはお目覚めのキスをしてあげなさい」

「はぁい♡」


とろけた声で真里が答える。
その声に、小早川に反抗する意思は全く感じられなかった。


(どうして……? 真里も記憶を取り戻しているはずなのに……)


ちゅ……♡


そうこう考えていると、唇に何かが押し当てられる。
真里の唇が触れているのだ。

甘く柔らかい感覚。
強制されたキスと違い、温かく愛情が感じられるキスだった。


(んんっ!? な……なんか変!)


萌は堪らず起き上がり、真里を押し退けた。
これ以上キスをされては、
どうにかなってしまいそうな気がしたからだ。


「やめて、真里!」


ハッキリとした声で訴え、真里の方を見る。

そこには生まれたままの姿で、こちらを熱く見つめる真里がいた。

彼女は右手で股間を慰め、左手で胸を撫でていた。
色欲に染まった目は今にも襲いかかってきそうな雰囲気であった。


「あぁ……おはよー萌♡ 急にどうしたの?」


萌は、その反応を見て、
真里が新たな暗示を掛けられていることに気が付いた。

すぐにモニターの方を向き、声を荒げる。


「アンタ! 真里に何したの!?」

「んーんー? 別に~? 真里ちゃんに聞いてみればぁ?」


小早川は、いかにもわざとらしく、何も知らないという体を装った。


「ねぇー萌、早くえっちしよぉーよ?♡」


小早川と話している間にも真里が迫ってくる。
彼女は萌の身体に抱きつくと再びキスをした。


ちゅう♡


「んっ!!」


本日三度目の真里とのキス。
キスの回数が増える度に、萌のドキドキの鼓動が高まってくる。


「ちょっ! ちょっと、たんま!!」


再びキスを迫る真里の身体を必死に押さえる。


「真里、あなたには誠くんって彼氏がいるでしょ!?
それなのに私とキスなんかしたらダメでしょ!!」

「んー? 誠……くん? 誰だっけ……?」

「えっ⁉」


真里は本当に誰だか分からないような顔をしている。


「そんな…………」

「私が彼氏なんか作るわけないじゃん。
こんなに可愛い彼女がいるのに」


萌が茫然としている隙に、
押さえる手を退け、再び真里は抱きついた。


ちゅううう♡


「んっ! んーーんーーんっ!!」


ちゅぱっ


「はぁはぁ、それ以上はダメ!」


四度目のキス。
不意打ちのキスのためか、萌の心臓は大きく跳ね上がる。
ほんの少しだが、身体が熱くなり始めていた。


「あーん……なんで今日はすぐに止めちゃうの?」

「ちがう……あなたの彼氏は桐越誠……。
あなたはアイツに暗示をかけられているだけなの!」


そう言い、萌はモニターの方を指差す。
真里は指差す方向をじっと見つめた。


「…………? 何もないけど? 今日はどうしたの? 桐越誠って誰?」


真里には小早川の映るモニターが認識できていない様子であった。


「無駄ヨ。今の真里はあなたと夜のお楽しみをしているところなの♡ このモニターは見えていないし、もちろん誠ちゃんのことは全然覚えていないワ。今の彼女にとって、この世で一番愛しているのは貴女♡ ほら、早く彼女の想いを受け止めてあげて♡」

「くっ……そんなことできるわけないでしょ!
早く真里を元に戻して!!」

「もう、いけずなんだから……
貴女も素直になれるよう、もう少しだけサポートしてあげる♡」


パチン!


小早川の指が鳴らされる。


「…………?」


萌は身構えたものの、
とくに何も起きた様子はなかった。


(コイツ……今度は何をしたの……?)


「いい加減、私、欲求不満ー。
萌がその気がないなら、調子が出るまで責めるからねー」


再び抱きつこうとする真里を、萌は両腕を前に出し防ごうとした。


ギュ…………

「えっ!?」


しかし萌のガードは、いとも簡単に弾かれてしまう。
真里の身体が自身の身体を包み込み、
優しく甘い彼女の香りが鼻腔をくすぐった。


「ああ、そっか! ようやく萌が何をしたいのかわかったよ。
ようするに無理やり犯されるシチュでやりたいってわけね♡
相変わらず変態だなー」

「えっ⁉ ちがっんんんっ!!」


言い終える前に、真里の唇が萌のそれを塞(ふさ)ぐ。


「んんっ♡」


五度目のキスにして、ついに萌は甘い声をあげてしまった。
キスを受ける度に、より深い快感が身体に溶け込むようだった。


「じゃあ、私だけ裸じゃなんだから、萌の服も脱がせちゃうねー」

「やっ……やめてっ!」

「おーー! すごい迫真の演技、さすが名役者!
じゃあ脱ぎ脱ぎするよー♡」


真里は萌のパジャマに手をかけボタンを外そうとした。
萌は真里の手首を掴み、抵抗しようとするのだが、なぜか力が入らなかった。


(さっき掛けられた暗示って、まさかこれ……?)


そう……萌が考えた通り、
小早川は、萌の身体に力が入らなくなるよう暗示をかけていた。

だがそれはあくまで抵抗する力が入らなくなるというもの。
先のことを考えて、萌が真里を求める場合は、きちんと力が入るようにしてあった。

真里は萌のパジャマのボタンを全て外すと、小ぶりな彼女の胸をブラの上から軽く愛撫した。


「ふぅんっ!♡ んんっん!!♡」


萌は、そんな小さな刺激にも声をあげてしまう。
あらかじめ暗示で、身体が感じやすくなるようにされていたのだろう。萌の反応に気分を良くした真里は、愛撫を続けた。


「萌、可愛い♡ こうしたら、どうかな?」


萌のブラをずらし、乳房の中心をペロペロと舐める。


「ふぁぁあっ♡ ぁんっ」

(はぁはぁ、なんで! なんで、こんな感じちゃうの!?
てか、真里、なんであなたそんなに上手いのよ!?)


萌は暗示を掛けられていたものの、
実際に感じる理由の大部分は真里自身の技術力にあった。

誠の勃起不全を治すために、真里はインターネットで異性や同性の感じさせ方を学んでいた。

異性だけでなく同性の感じさせ方についても学んでいたのは、
誠の女性化が進行し、その方法が有効だったからだ。

特に乳首や胸の攻め方については、同じ身体を持つものとして理解も早く、今回萌を感じさせるのに役立ってしまったというわけだ。


ペロペロペロペロペロペロ


「ぁっ……くぅ……んんんっ♡」


萌の身体に鳥肌が鮮明に浮き立つ。
中途半端なノンケの真里と違って、萌は完全なノンケ。

いくら暗示をかけられているとは言え、
同性から受ける刺激に強い嫌悪感を抱くのは変わらなかった。


(相手が真里だから幾分かマシだけど……やっぱきつい……)


小早川は、悲痛な表情を浮かべる萌の姿を眺めながら、ワインを味わっていた。


(良い気味ネ……あなたには敢えて嫌悪感を取り除いてあげないことにしたワ。無理やり同性愛者に変えられていく感覚に悶え苦しみなさい)


クスクスと笑いながら、目線を下に向ける。
彼の座っている椅子の下には、一物に舌を這わせる誠の姿があった。


「ちょっと舌が止まってるわヨ。おちんぽを握る指をもっと控えめにしなさい。意識しなくても出来るように何度でもやらせるわヨ」


ちゅぱ……ちゅぱ……ちゅぱ……ちゅぱ……

誠のお尻には長さ20cmの忍の巨根が差し込まれている。
仰向けになった忍の身体に跨がり、腰を上下させている状態だ。

お尻で忍のペニスを飲み込み、
口で小早川のペニスを含み、自らのペニスを勃起させる。

真里と萌同様、誠と忍も小早川の調教に従事させられていた。


(この10日間のうちに、必ず四人を堕としきってみせるワ。
将を射るにはまず馬から射よ。
誠ちゃんと忍ちゃんを堕とすのが難しいなら、
先に女二人を堕とせば良いのヨ。
男と違って女の心変わりは早いもの。
女の方から別れ話を切り出させれば、
男は拠り所を失い、すぐに崩れ落ちるはず……
そのためにも女二人には徹底的に愛し合ってもらわなくちゃネ……)

Part.90 【 Nightmare kiss◇ 】

ちゅう♡

六度目のキス。
真里は唇から舌を伸ばし、萌の口に差し入れた。


「んん!? んんんっ!!」


真里の突然の行動に驚く萌。
間一髪のところで歯を閉じる。
そして可能な限り力を込めて、それ以上の侵入を防いだ。


レロレロレロレロ


舌を絡み合わせようとしていた真里であったが、
予定を変更し歯茎の外側を舐めることに専念した。


「ふうぅん♡ ううんっ!♡  んんん……」


歯茎に触れる真里の舌が気持ちよくて思わず声を上げてしまう。

その間も胸への愛撫は続いており、
萌は喘ぎ声を出しながらも、鼻で呼吸をするしかなかった。

ノンケでありながら、
同性の真里に無理やり登らされてしまう感覚。

嫌悪感は膨らんできていたが、それ以上に身体に与えられる快感は大きく、萌は顔を歪めながらも、真里の成すがままになるしかなかった。


ちゅぽんっ♡


真里はキスを終えると、萌の口に溜まった唾液を吸い取り、唇を離した。


「ペロ……もぉーレイプっぽくするのは良いんだけど、
キスくらいは普通にさせてよ」

「はぁはぁはぁ♡ だめ……真里……ホントだめ……♡
これ以上触らないで……お願いだから……♡」


本気の思いで訴える。

真里にキスをされる度に抵抗する気持ちがどんどん小さくなっていく。このまま何度も許してしまえば、いずれは受け入れてしまいそうな気がした。

だが真里は親友であって恋人ではない。

今ならまだ間に合う。
真里を説得して、親友という立場を守り抜くのだ。

しかし萌の訴えは甘い息が混じり、誘っているようにしか見えていなかった。


「ふーむ……萌は本気でレイプして欲しいみたいだね……
わかった、やってあげる……エロ同人誌みたいにねっ♪」

「ひっ!」


真里の言葉に、萌は本気で恐怖する。

しかしその表情も、真里には迫真の演技にしか見えていない。
真里は乱暴そうに萌の寝間着の下を脱がそうとした。


「やだっ! やめてっ!」


萌は両手で寝間着の下を掴み抵抗する。
だが力が入らず、いとも簡単に脱がされてしまう。

言葉では嫌と伝えていても、行動の伴わない拒絶。

そのようなことを繰り返しているため、
よけい真里は萌が演技をしていると思い込んでしまうのだ。


「うわーエッチ♡ 萌、もうすっかり濡れ濡れじゃん!
私にレイプされて、こんなに感じちゃったの?♡」


萌のショーツは、大きなシミが出来てしまっていた。

真里はそれを見て興奮すると、
ショーツに手を差し込み、萌の女の園を掻き回した。


「あぁっ⁉ はぁっん!♡」


突然の性器への刺激で、萌は大きく仰け反る。
真里はショーツから指を引き抜くと、それを萌に見せつけた。


「あぁ……そんな…………」


粘性の高い透明な液体が真里の指に絡み付いている。

人差し指と中指、並んだ二本の指を開くと、
トロリとした粘液がしっかりとした糸を引いた。

この液体は明らかに萌の愛液。

同性の真里にキスをされ、
胸を愛撫されて分泌したエッチなレズ汁に他ならなかった。

ノンケの萌は同性によって、ここまで感じさせられてしまったという事実にショックを受けていた。

嫌悪の対象である女同士の性行為に、
全身が染められていく……

今の自分でなくなっていく感覚。
新しい自分に目覚めていく感覚。

萌は恐怖で身体が震え始めてしまった。


「ふふ……もーえー、興奮してるの?
かーわいいー♡ もっとしてあげるね♡ てか、私が我慢できない」


真里はそう言うと、
すぐさま萌のショーツを脱がしにかかった。


「だ、だめぇ!」


萌の抵抗など、もはや何の意味も成さない。
真里はショーツの紐に指をかけると、
そのままスルスルと脱がせてしまった。

萌の濡れ濡れになった女性器が外気に触れる。
そこには細くて柔らかい陰毛が控えめに生い茂っていた。

真里は萌のショーツをベッドの下に投げると、
興奮した様子で彼女の両足を広げ、間に身体を入れた。

そうして萌の腰を掴み、股間に顔を近づけた。


「いやあああああああああああ!! やだああああああああああああ!! 絶対、嫌あああああああああああ!!」


ここに来て絶叫する萌。
言葉でしか抵抗することができないと察した萌は、真里が引くくらい大きな声を上げて止めさせようとした。


だが、真里は…………。


(す……すごい…………。何この、臨場感…………。
本当に萌を犯しているみたい……。
すごいよ、萌……。
なんだか背中がゾクゾクする……♡
エッチな液が止まらない……はぁはぁ♡♡)


萌の全力の演技に感動すら覚えていた。
今の真里にとって、萌は唯一無二の恋人。
本気で拒否される言われなどないのだ。


すぅーーと息を吸う。
萌の女の匂いが真里の鼻孔を刺激する。


(あぁ……良い匂い…………♡
萌…………♡ 好き……好き……愛してる♡♡)


うっとりとした表情で舌を出すと、
萌の割れ目に添って大きく舐め上げた。


「ああああああああああああ!!♡♡」


萌は、先ほどの絶叫と同じくらいの音量で声を上げた。
今回のは明らかに快感に喘いでいる声だ。

その声に気分を良くした真里は、
割れ目に唇をつけ、中にある快楽の泉を吸い上げた。


ぢゅうううううう♡


「ひゃう♡ ああああああんっ!♡」


萌は腰を曲げてクンニから逃れようとした。

しかし真里に掴まれていて、ぴくりともしない。


「はぁはぁ!♡ 萌、ヤバイ……
このシチュエーション、すごい興奮する……はぁはぁはぁ♡」


引き続き抵抗を見せる萌に、
真里の官能はさらに高まっていく。

高揚した真里は、次に萌のクリトリスに狙いを定めた。
蜜壺の上部分の皮を捲り、最も敏感な突起を口に含む。


ちゅぱ……………………ちゅぱ……………………


すぐに舐め上げるような無粋なことはしない。
この部分は女性にとって最も敏感な部分。
刺激が強すぎても、逆に快感が離れてしまうものなのだ。

同じ女性として、そのことを分かっている真里は、
軽く唇の部分で優しく包み込む程度の刺激を与えていった。


ちゅぱ…………ちゅぱ……………………ちゅうう♡


「ひゃあっ!♡」


時には変化を……
包み込む動きに、吸い込む動作を加えていく……。


(うっ……く……真里のクンニ、すごく気持ちいい…………
どうしよう…………忍にされるより気持ちいいかも…………)


それもそのはず、忍は女性器の本当の快感を知らない。
自身の身体で体感できないので、
萌の反応で気持ちいいか予測するしかないのだ。

それに比べ真里は、自身の身体を弄りまくって、
どこをどう弄れば気持ち良いか、全て分かっていた。


「あっあっあ♡ 真里、もういぃっ!♡ はぁっ!♡
満足したからっ!♡ もうやめっ♡ あぁんっ♡」


自身の性器がレズの味を覚えてしまう前に、
真里を止めなければならない。

一度でもそれを覚えてしまったら、
今後、忍とする時も、身体が思い出してしまうかもしれない。

萌は真っ向から拒否するのではなく、もう十分満足したから終わりといった趣旨で真里を止めることにした。


「ちゅぱ……そんなこと言って、まだ一度もイッてないじゃん。
あっ、もう満足させてって意味かな?♡
それなら…………一度イカせてあげるね!♡」


全くの逆効果だった。

真里は再び萌のクリトリスにしゃぶりつくと、
洪水状態の割れ目に指を添えて、ゆっくりと挿入した。


「やだぁっ! やだぁっ!」


涙目で真里の頭を両手で引き離そうとする。
しかしそれはただ手を添えているだけにしかならない。


ちゅうう……ペロペロ……ペロペロ


吸い付き、刺激が強すぎないよう控えめに舐める真里。


くちゅ……ちゅ……くちゅ……くちゅう♡


絶妙なスピードで、女の感じる部分を的確に刺激する。


「あ…………あ…………かは…………♡」


声を出す余裕すらなくなり、
萌はただ快感に耐えるしかなくなってしまっていた。


(やばい……この感覚は……このままいったら……)


身体が天にも登っていくような浮遊感。

腰が軽くなり、真里に刺激されている部分が温かくなってくる。
だが本当に体温が上がってきているわけではない。
精神的な温かさで、身体が満たされてきているのだ。


(これで、イッちゃったら……わたし……わたし……)


困惑と、ほんの少しの期待が入り交じる。

萌は直感的に分かり始めていた。

もしこのままイカされてしまったなら……
こんなにも愛情溢れるセックスで、心が満たされてしまったなら…………別の意味で、真里を好きになってしまう。


お互いにノンケ同士であったが、
もし女同士で愛し合う関係であったなら、
真里はここまで自分を満たしてくれる。

真里の笑顔、優しい声、一緒にいて落ち着ける雰囲気。

その全てがこれまでと違った印象を持つようになるだろう。

萌は、そういった真里との新しい関係に、
自身が期待し始めているのに、困惑と恐怖を感じていた。


ちゅっ♡ ちゅっ♡
ペロペロ……ペロペロ……

クチュクチュ……クチュクチュクチュ……


「あっ……あっ……ああっ…………はぁ♡ あ……はぁ……♡」


あまりの快感で頭がぼーっとしてくる。
視界が霞始めて、まるで天国にでも向かっているかのようだ。
真里のクンニは激しいものではなかったが、
確実に蓄積されていくタイプのものだった。


(あ……だめ…………真里の愛が…………私の心を満たしちゃう…………ダメっ……ダメっ……)


「ああっ!♡ ああっ!♡ あああっ!!♡」


萌はここで真里の頭に両手を添え、太股で彼女の顔を挟むと、
自ら進んで、彼女の唇に股間を押し付けた。

そして真里から与えられた快感と愛情を、
全身でしっかりと受け止め…………


「ああああああああああああああ!!♡♡♡」


大きく身体を跳ねてイッてしまった…………


「あっ…………はっ…………はぁ…………はぁ…………」


顔を両手で覆い、大きく息を吐く。
深い余韻……ここまで深くイッたのは初めてだった。
忍の巨根で身体を貫かれる感覚とは違い、
今でも優しく包まれるような感覚が残っている。


(あ……あ……わたし……真里にイカされちゃった……)


途端に恥ずかしさが芽生えくる。

大切な親友と恋人以上の関係を持ってしまい、
とても真里の顔を直視できる気がしなかった。

同性にされるという嫌悪感も、初めに比べて大きく減っており、
萌は今回のことで自身が大きく変わってしまったことを実感した。

そんな萌に追い討ちをかけるように真里が接触してくる。

顔を覆っている両手をずらすと、そのまま唇にキスをした。


ちゅっ♡


本日七度目のキス。

目を見開き真里を見つめる。


ドキドキドキドキ……♡


見慣れた親友の笑顔も、今では違った感じに見える。

彼女はこんなにも美しかっただろうか?

心臓の鼓動が、再び高鳴り始める。

この心の揺れは本来であれば、異性に向けるべきもの。
それが同性の真里に対して疑いようもなく揺れているのだ。


「萌……気持ちよかった?」

「うん……とっても……♡」


その瞬間、萌は静止した。


(えっ……? 私、今なんて言ったの……? 声が勝手に…………)


「んふっ♡ こんなに臨場感のあるエッチしたの初めてじゃない?
私もすっごく良かった……大好き……萌……愛してるよ♡」

「うん……私も真里のこと、愛してるよ♡」


ちゅう♡♡♡


八度目のキス。
お互いに愛していると言い合った直後であったこともあり、
萌の心はさらに激しく揺れた。


ドキドキドキドキドキドキ♡


(違う……私……こんなこと言ってない……なのになんで⁉)



※※※



(ぷーーーくっくっくっくく…………。
効いたようね。一度絶頂を迎えた後に発動する暗示。

今の貴女は真里の言うことなら、
なんでも肯定するようになっているのヨ。
そうやって愛を確かめ合って、
心の底から彼女を愛するようになりなさい)


萌に掛けられた新たな暗示。

自分の意思と異なる言葉を発してしまうこの暗示は、
自己催眠の効果も備えていた。

愛しているという言葉には、愛していると返し、
気持ちいいという言葉には、気持ちいいと返す。

それを何度も繰り返すうちに、
自らの心を同性愛に染めてしまうのだ。

また同時に真里の言うことは、
なんでも聞いてしまうように暗示をかけられていた。

真里が立てと言えば立ち、座れと言えば座る。

小早川は自分が暗示を掛けるよりも、
親友である真里に操られた方が効果があると判断したのだ。


「ねーえ、萌。
私、まだまだ足りないんだけど、もっとしない?」

「うん……私も、真里ともっと抱き合いたい♡」

「うひっ♡ さっきとのギャップがすごい。
もーう、そんなに素直になったら今夜は寝かせないぜ?」

「いっぱいして!♡ 一晩中、私のことを愛して、真里!♡」


(何言ってるの! もうこれ以上、真里にされたら耐えきれない!
真里のこと、本気で好きになっちゃう……ダメええええ!!)


萌の心の声は、真里には届かない。
真里はやる気を出すと、再び萌を押し倒した。


「萌……。私、萌と付き合えて幸せ……。
大好きだよ! これからも一緒に幸せになろうね♡」

(うっ……そんな言葉……かけないで…………
そんなこと、あなたに言われたら……私……私…………)


ちゅう♡


九度目のキスをする真里。

全くの濁りのない純粋な愛。

それがあまりにも優しく綺麗なものだったため、
萌は完全に拒否することは出来なかった。

小早川の暗示と真里の純な性格により、
ノンケたる萌の心は崩れ落ちようとしていた……。

Part.91 【 知ってはならないもの◇ 】

裸の女性が二人、
ベッドの上で抱き合いキスをしている。

可愛い妹顔が特徴の女性は、
一糸纏わぬ姿で、もう一方の和風美女の愛撫を受けている。

顔を紅潮とさせ、身体を預ける様は、
まるで二人が昔からのパートナーであったかのようだ。

しかし実際は違う。

受け身の女性は今、攻めの女性からレイプされてるのだ。

彼女は眠っていた官能を呼び覚まされ、ノンケの身体に同性愛の快楽を無理やり覚え込まれされようとしていた。



※※※



「ねぇ、萌~♡ そろそろ私も萌にしてもらいたいな~?」

「や……いいよー♡」


(あぁ、違うっ! 勝手にOK出さないで!!)


心ではそう思っているが、身体は思い通りに動いてくれない。
言葉を発する瞬間、脳が賛同の意を示してしまうのだ。

そして動き出す自身の身体。


(えっ!? 今度は何……? 身体が勝手に……)


萌は真里の乳房にそっと手を触れた。


(ま……まさか……これも……)


そしてそれを軽く揉みながら、
真里の勃起するピンクの突起を口に入れる……


(ダメ……ダメぇぇぇ………)


ちゅうちゅう……
もみもみもみもみ……


「はぁ……萌、上手……♡ どう? 私のおっぱい美味しい?♡」

「ちゅう、ちゅぷ………美味しい♡ 真里のおっぱい大好き♡」


初めて口にする同性の乳首。

真里の胸は形が良く、
白くて染み一つない清潔な色をしていた。
それに嫌悪感など一切感じない。
ほどよい温かさと柔らかさが萌の心を癒していた。


(うぅ………柔らかい………ずっと触っていたい……
でもダメぇ……そんなことしたら変になっちゃう……
真里のこと、親友として見れなくなっちゃうぅ……)


真里の胸をしゃぶる萌の頭に、手のひらが当てられる。


「ふふふ……♡ そんなに一生懸命舐めちゃって……
萌、まるで赤ちゃんみたい♡ ほーら、なーでなーで♡」


優しく頭を撫でられる。
昔から心を許せる相手にこうして頭を撫でられることが、
こんなに心地よいものだったとは……。

萌の心はさらに大きく揺らされていた。


(やだ、撫でないで、真里……これ以上、私の心を満たさないで……
好きにさせないで……あぁ……あぁ……真里…………♡)


萌のクリトリスがピクりと反応する。

女同士への嫌悪感から逆立っていた鳥肌も、
いつの間にか穏やかな湖面のように静まり返っていた。

萌の身体が同性の真里を、
性的対象として認知し始めたのだ。

萌は一旦乳首を舐めるのを止めると、
もう片方の胸を責め始めた。


ちゅぷ……レロレロ………レロレロ……


「ぁん……萌………いぃ……♡ あぁ、私、なんだか、幸せ……♡」


萌の愛撫に、真里は本当に気持ち良さそうにしている。

そんな彼女を見ると、
愛おしさが込み上げてくるような気がした。


(あぁ……真里……)


真里が誠の記憶を消されているのはよく分かっている。

だが、もし真里が誠を好きにならなければ……
もし自分を好きになっていたら……

真里とこういう関係になっていた世界線もあったかもしれない。

普段の萌なら絶対に考えないことが、
頭の中に浮かんでは消えていった。


「あはぁ♡ 萌、そろそろ……あそこも触って欲しいかも♡」

「あそこ? あそこってどこかな~?」

「うーんと、やおい穴の辺りかな?」

「はっ、ここでそういうワードを使うか」

「うっそー おまんこに決まってるじゃん~♡
萌の舌や手で……私の大事な部分を愛して♡」


話し方は普段の真里そのまま。
だからこそ現実の真里を意識してしまう。

これが、さも催眠に掛けられている感じであったなら、
萌がここまで心を揺さぶられることはなかったであろう。

それもこれも小早川がリアルを追求した結果である。
なるべく現実に則した真里を使って、素のままの萌を落とす。

初めから全てを催眠で支配してしまうのに比べたら、だいぶ遠回りな方法のようであるが、実はこれが一番効率的であったりする。

現実に則さない催眠術は切れるのが早く、
また切れた時のリスクも高いのだ。

素の状態を変えるのであれば、
それがその人にとって現実になる。

小早川は長期的な運用や管理のしやすさも考えて、
催眠を施していたのである。



※※※



真里は、萌が舐めやすいように大股開きになった。

真里の濡れぼそった女陰が目に入る。
先ほど襲われていた時はあまり気にしなかったが、
彼女の割れ目には、あるべき毛が生えていなかった。


「あれ? 真里なんで毛が生えていないの?」


萌の質問に真里は首を傾げる。


「なんで生えていないんだろう? 剃った覚えないんだけどな?」


剃ったにしてはあまりにも綺麗に剃られ過ぎている。
生えかけの毛すらないのだから。

真里は誠の記憶を消されているため、
自分になぜ陰毛が生えていないのか理解できなかった。

真里は誠と合わせるために自らの毛を剃っていたのだ。

剃ったといってもカミソリを使ったのではなく、
除毛クリームを使っての処理だ。

そして誠の持つ家庭用脱毛器カノンを借りて、
新しい毛が生えてこないようにしていたのだ。

萌は引き続き、真里の女の園を見つめる。

綺麗に処理されている色白の割れ目。
縦割れの穴の周辺は、
彼女の出した透明な分泌液で濡れていた。

同性の性器をこんなに近くでマジマジと見たのは初めてだったが、
それに嫌悪感を感じることはなかった。

単純に真里の女性器が綺麗だったのと、
親友であり優しい真里に対して嫌悪を抱けなかったのもある。

萌はゆっくりと唇を降ろすと、真里の女性器へと近づいていった。


(あぁ……真里のあそこに触れちゃう……本当はもっと嫌がらなければいけないことなのに……今は全然嫌な気がしない……)


それは相手が真里だから。

真里以外の女性であったなら、
萌のレズ化はここまで進行しなかったであろう。

萌にとって真里はこの世で一番心を許せる親友だった。

だからこそ許してしまった。
身体の関係を……これまで以上の心の接近を……

真里に抱かれる喜び、気持ち良さ、安らぎ……
一度でも知ってしまったからには、もう忘れることはできない。

ここで嫌がって見せたとしても、それは演技になってしまうだろう。


ちゅ…………ペロ……ペロ……ペロ……

真里の女陰にキスをして、控えめに舐め始める。


「んっ……萌、気持ちいい……。
萌に舐められているだけで、私すごい幸せ……」

(真里が喜んでくれている……)


萌はそんな真里の反応を嬉しいと感じてしまった。

しかしそれはとても危険なこと。
萌のレズ化は着実に進行していた。


10分後…………。


「あっ♡ あっ♡ あっ♡
萌、いっちゃう!♡  私いっちゃう!!♡
はぁっ! イク……イク……イクぅ! イッちゃう!!
イッ………………クううううぅぅっっ!!」


身体を大きく反らせて絶頂を迎える真里。

白い肌をほんのりと紅くさせ、
潤んだ瞳で見つめてくる彼女から萌は目を離すことはできなかった。

ちゅ…………♡

誰かに言われるまでもなく、真里の唇に自分のを重ねる。
そして抱き合ったまま……舌同士を絡み合わせディープキスをした。

ちゅう、あむぅ……うんっ……ちゅ……はぁ……レロ……はむぅ……


一分ほどして唇を離す二人。
二人は見つめ合い、会話する。


「萌、気持ちよかったよ……♡」

「うん…………私も…………」


真里は恋人を見つめる目で萌のことを見つめている。
そこで萌は気づいてしまった。自分の心に新たに芽生えた想いに……。


(私、真里のことが好きになっちゃった…………
あんなに我慢してたのに…………今は貴女のことが愛おしい…………
私には忍がいるのに、どうして…………)


本来であれば、真里の恋人としての優しさ、美しさ、安らぎに触れることなどなかったであろう。

しかし萌は知ってしまった。
彼女とそういう関係で得られる幸せを……。

萌には、そうして手に入れた幸せを手放すのがとても辛く感じられた。


(でも…………これは忘れなければいけない幸せ……
私と真里は結ばれてはいけない関係なの。
解放された後に、このことを覚えているか微妙だけど、
二人が本当に幸せになるためには、私は忘れなければいけない……)


萌は新たに決意すると、真里に向き合った。

その様子を小早川は観察する。


(ふーむ……三木谷 萌、これでもまだ堕ちていないようね……
まぁでも、今までも耐えてきたんだから当然といったところかしら?
だけど、効いてることは効いてるようだし……
この調子なら三日もあれば、堕とすことは可能ネ。
とりあえず欲望と感度を上げて、あとは放置することにしましょ)


パチン パチン


小早川はマイクに向かって二回指を鳴らした。
その瞬間、真里と萌は意識を失いその場に倒れ込んでしまう。


「はぁーい、よーく聞いてーー!
仲の良い女同士、エッチしてとっても気持ちよかったわネー
貴女達は目が覚めると、
今以上にエッチなことがしたくなるの♡
夜はまだまだ長いし、もっと愛を深め合いましょうね!♡」


小早川は、そう暗示をかけると再び指を鳴らした。


パチン


目を覚まし、起き上がる二人。


「ふぅーーじゃあ、アタシはそろそろ飽きたから寝るワ。
あなた達は監視を続けて、
深夜三時くらいになったら、四人を部屋に戻してあげなさい」

「ははっ! 本日もお疲れ様でした」


黒服達が畏まって御辞儀をする。
そんな彼らに見送られながら、小早川はモニター室を後にした。

再びモニターに目を向ける黒服達。
そこでは、先程よりも淫らに発情した二人の雌が抱き合っていた。


「ああー萌、はぁはぁ♡ もっと! もっと、エッチしよ♡
なんだか……萌のことが欲しくてたまらないの!!」

「真里……私も……私も真里のことが欲しいっ♡
もっと抱き締めて、いっぱいキスしたい♡」


(あぁ……真里……好きぃ……どんどん気持ちが大きくなってくる…………
忘れなきゃいけない気持ちなのに…………)



一時間後…………。


ちゅ……ちゅぱ……あむぅ……ちぅぅううう……!

身体の向きを上下逆さまにして69の姿勢で、
お互いの秘所を舐め合う二人。


「レロレロ……あ♡ 萌ーエッチな液止まらないよ?
こんなに勃起させちゃってーもお♡」

「あむぅ……真里だって、クリこんなにピンピンさせて、
誘ってるみたいだよ? あぁ……おいしい…………ちゅぷ♡」


(真里……真里……好き……真里の声、真里の肌、匂い……
全部好き…………でも……ダメ…………)


二時間後…………。


クチュクチュ……クチュクチュ……
パンパンパンパン!

二人は松葉崩しの姿勢で、
秘貝同士を重ね、擦り付け合っていた。

萌はベッドに背をつけ、片足を真里の肩に乗せ、
真里はその足を支えながら腰をグラインドさせていた。


「ねぇ、萌? 萌もおまんこの毛、脱毛してみたら?♡
お互いツルツルして気持ちいいかもよ?♡」

「あっ……はぁっ♡ うん……いいかも……♡
真里が望むなら、私もそうする……♡」

(あぁっ! 真里……気持ちいいよ……好き……真里、大好き……♡)


三時間後…………。

二人はベッドに横たわり、ひたすらキスを続けている。

足を交差させ、濡れ濡れになった女性器を相手の太ももに擦り付け、胸同士も密着し、胸で相手の胸の柔らかさを感じていた。

相手の背に手を回し、
もう片方の手は頭の後ろに添えている。

時には舌を絡み合わせ、
唇の柔らかさを確認し合い、愛を囁き合っていた。


ちゅ……レロレロ……ちゅう♡


「真里……大好き♡ 愛してる…………。
私、知らなかった……こんなに身近に……
こんなに優しくて魅力的で、愛し合える人がいたなんて…………♡」

「ふふ……ちゅ……♡ 何言ってるの、萌。
私たちは前から付き合ってるでしょ♡
これからもずっと一緒だよ♡ 愛してるよ♡」

「うん…………私も愛してる…………
なんだか、あなたと離れたくなくなっちゃった…………
こんなこと思ったらいけないことなのに……うぅ……うぅ……」

「んー? なんで泣いてるの?
離れる必要ないじゃん♡ 変な萌ー」

「ふふ…………そうだね…………変だよね…………
せめて今だけは……変でいさせて…………ちゅ♡」


もう萌の口からは、
勝手に言葉が発せられるようなことはなくなっていた。

強制的に萌を好きにさせられた真里と違って、
萌は身体の自由を奪われ、レズの感覚を植え付けられただけだ。

しかし、それによって芽生えてしまった真里への想い。

真里との恋人関係によって得られる幸せは、
すでに彼女の心に深く根付いてしまっていた。

この後、再び記憶を消された二人は、
身体や衣服を元に戻され、部屋に返されたのだった。

Part.92 【 遊園地◆ 】

「おはよー萌」

「おはよー真里」


ここはホテルの朝食会場。

何十種類もの料理が並べられており、
自由に食べたいものを選べるバイキング方式だ。

真里と萌は、プレート皿を手に持ち、
時折あくびをしつつも、思い思いにおかずを取っていた。

昨夜の疲れが取れていないのか、どちらもまだ眠そうにしている。


(昨日は和食中心だったから、今日はパンにしようかな)


真里は一品一品を多く取り、
なるべく種類を少なくなるようにしていた。


「あれ? 真里はずいぶん豪快な取り方するんだね?」


そんな真里のプレートを見て萌が言う。


「だってここって毎日同じメニューじゃん。これから一週間以上も泊まることになるんだし、いつも違うものが食べれるようにしてるの」

「なるほどね。
でもそれなら外に食べに行ったら良いじゃん♪
せっかくの旅行なんだし、色々食べないと損だよ?」


真里は萌の意見を聞き、妙に納得した。

ホテルの食事がタダとは言え、この機会に美味しいものを食べに行かなければ、それはそれで損と言うもの。

真里は考え方を改めると、
萌と同じように色んな料理を取ることにした。

そうして一通りおかずを取り終えた二人は、
同じテーブルに座り、食べ始めたのであった。


「ところで忍くんはどうしたの?」

「まだ寝てるーなんか眠いんだって、何度起こしても寝ちゃうから、一人で来ちゃった。マコトちゃんは?」

「マコちゃんも同じ、なんだかすごく疲れてるみたい。
昨日そこまで激しく遊んだかな?」

「マコトちゃんもかー
私も疲れが取れてない感じがするかなー
全身ダルくって、特に舌が筋肉痛かも?」

「えっー!? 萌も? 私も痛いかもー?
使い慣れてない筋肉使ったみたいな感じがする。
口内炎みたいになってないかな? ちょっと見てみて」


そう言い真里は舌を出して、萌に見せた。

真里の唇から出た舌は、
健康的な淡紅色をしており、特別異常があるようには見えなかった。

だが、萌はそれを見て、
自らの心臓が高鳴り始めていることに気が付いた。


(……なんで私、ドキドキしてるの?)


真里の舌は、彼女には実に厭らしく映った。
なんだか舌を絡め合わせたくなるような淫靡な印象。

それを真里の仕草が原因と感じた萌は、注意することにした。


「真里、食事中にそんなことしないの。朝からエロいよ君は」

「えぇっ!? エロいかな?」

「エロいよー。真里はそんな容姿してるんだからさ。
桐越先輩以外の人に、そういうことしちゃダメだよ」

「そ、そう……? うーん……注意する」


そこまで気にすることだろうかと疑問に思う真里であったが、とりあえず納得することにした。


「エロいと言えば、忍くんとはどうだったの?」

「どうだったって?」

「昨日、忍くんとエッチするって言ってたじゃん」

「…………あっ!」


真里の話を聞き、ハッとする萌。

昨日、忍を興奮させたものの、エッチに誘うのを忘れていたのだ。

萌は愕然とした表情になり、真里と目を合わせた。
非常に申し訳なさそうな、何とも言えない目。

固まってしまっている萌に釣られて、
真里も固まってしまった。


「…………」

「…………」

「…………萌」

「……………………はい」

「…………もしかして忘れてた?」

「…………ごめんなさい」


真里は実に信じられないといった表情をする。
これでは昨日のレズのふり作戦が全て水の泡ではないか。


「真里……ホント、ごめん」

「うへぇ……もう過ぎたことだから仕方ないけど、どうして忘れちゃったの?」

「全然わからない……」


分かるはずもない。
萌は昨夜の記憶を消されているのだから。

じっさい彼女は忍を勃起させ、挿入の一歩手前まで誘うことができていた。しかしそこで催眠を掛けられ、行為を阻止されていたのだ。


「しょーがないな……もう一度するしかないね……」

「えっ……? いいの?」

「腐っても私は萌の親友だよ。
こうなれば、エッチできるまでレズのふりしてあげますよ」

「うぅ……ありがとう真里。私達、腐っても親友だよね。
むしろ腐ってるからこそ、親友かもしれないけど」


萌はこの腐った親友に感謝した。
この間抜けな失敗を責めることもなく、協力すると彼女は言ってくれた。真里のその優しさに、萌の心はキュンと高鳴るのであった。



※※※


10時になり、ホテルのシャトルバスに乗り込む四人。

その日は『南の島遊園地』に行く予定になっていた。

バスの中では真里と萌が隣同士に座り、
通路を挟んですぐ横に忍と誠が座っている。

さっそく真里と萌は、それぞれの手を重ね合わせた。
肘掛けの上で、萌の手の甲に真里の手が乗っている状態だ。

忍を興奮させるため始めたことだったが、
萌はここで昨日までとは違う感覚を真里の手に感じていた。


(なんで私……こんなに真里の手を意識してるの?)


忍のことよりも、真里の方が気になってしまう。
彼女のサラサラでしなやかな手の感触に、なぜか心地よさを感じてしまうのだ。


ドキドキ……ドキドキ……


萌の胸がときめき出す。
この感覚は、忍とのデートで初めて手を繋いだ時の感覚と一緒だった。

それを親友である真里に感じてしまっている。
萌はその事実に困惑していた。


(もしかして、レズのふりをしているから?)


俳優や女優が役を演じる時、本当にその役になりきると言うが、それに似たような感覚になっているのかもしれない。

そうであれば、逆に好都合。
演技がリアルであるほど、忍が興奮してくれる可能性は高くなる。

複雑な気持ちではあったが、
萌はひとまずその流れに身を任せることにした。

それから30分ほどして、バスは遊園地へと到着する。

忍は移動中ずっと眠ったままで、
二人の行為に気づくことはなかった。

徒労に終わってしまったが、
忍がいつこちらに注目するか分からない。

二人は演技を続けることにした。



※※※



遊園地のチケット売場にてーー


「じゃあとりあえずチケット買おうか。一日券で良いよね?」


自販機に万札を投入し、忍が言う。


「うん、そうだね。結構広い遊園地みたいだし、
そこまで混んでないみたいだから、一日券で良いと思うよ」


隣にいた誠が返事をする。

年末年始の繁忙期シーズンではあったが、
有名なネズミの国ランドと違い、ここは本州から遠く離れた南の島。

利用者は島にいる者に限られ、
アトラクションも気軽に乗れる環境にあった。

その気軽さから、ネズミの国ランドよりも、
南の島遊園地の方が良いと言う人もいるほどである。

4人はチケットを購入すると、
アトラクションに乗るため、その辺を散策し始めた。


「ねぇー萌、何乗るー?」


そう言い、真里は萌に手を差し出した。
萌はすぐに手を繋ぎ、演技を再開する。

ギュ…………

手のひらを通じて真里のひんやりとした体温を感じる。
萌はこうして真里と手を繋げることに、幸せを感じていた。

その感覚にノンケたる萌の心が警鐘を告げる。

『このまま続けると本当にこっちの道に足を踏み入れてしまうかもしれない』

そんな不安が頭を過(よ)ぎった。

一瞬、顔面蒼白となり困惑する萌。

思わず繋いだ手を離しそうになったが、
とりあえずこの姿を忍に見てもらわなければならない。

全面的に協力してくれている真里のためにも、
彼には興奮してもらわなくてはならないのだ。


「萌……なんで真里ちゃんと手を繋いでるんだ?」

「私達、親友だからこれくらい普通だよ? ねー真里?♡」

「う、うん……これくらい、普通です。親友ですから」


真里の演技は、あいかわらずぎこちない。
しかし構わず萌は言った。


「忍ーもしかして真里に嫉妬しちゃった?」

「……する訳ないだろ」

「じゃーあ、ずっと手を繋いでても良いのぉ?」

「好きにすれば良いだろ……」

「ホントは嬉しいんでしょ?」

「な、なんでだよ」

「ふっふっふっ……知らないよー?
私、真里に取られちゃったりして?♡」

「ば……バカ、からかうなよ」

「ふふふ……慌てちゃって♡
フゥーーー忍、カ・ワ・イ・イ♡」

「こら、息、吹き掛けるな。真里ちゃんが見てるだろ」


萌から首筋に息を吹きかけられ、忍は動揺している。

そんな様子の彼に、萌は気を良くすると、
そのまま真里とコーヒーカップに乗りに行ってしまった。

和気藹々と戯れる二人の姿を見て、
忍は僅かであるが一物を硬くしていた。


5分後、真里と萌はコーヒーカップに乗りハンドルを握っていた。

勢いよく回せば、高速で回るコーヒーカップ。
忍と誠は、乗り物酔いするという理由でパスしていた。


「アイツ、真里とマコトちゃんにレズ趣味バラされるの心配してるんだよ。もうバレてるのにね」

「そういうことか、萌ってああやって男心くすぐるの上手いよね」

「そお? 真里の心もくすぐってやろうか? フゥーーー」

「ちょっ、やめて、プッ、ホントにくすぐったいっ。
もぉーーお返しだよ。フウーーーー」

「ひゃあ!♡ フゥーフゥーーー」


息を吹きかけあって遊ぶ二人。
そんなこんなでコーヒーカップは回り始めた。

萌から見て、真里以外は常にクルクル回っている。

忍の様子を確認したかったが、
酔ってしまいそうだったので止めることにした。

自然と世界は真里と自分だけとなる。
こうしていると、本当の恋人同士になったような気持ちだった。

女性に対してこんな気持ちになるのはおかしい。
本当に演技をしているから、そう思えているのだろうか?

萌は自分の心の変化に疑問を持ち始めていた。


「ねぇ、真里」

「んー?」

「真里って、こうして恋人っぽくしてて、
本当にそんな気分になることってない?」

「へ? なんで?」

「んーなんとなくー」

「私には誠くんがいるから、それはないかな?」

「まぁ、そうだよね」


真里の返事に冷静になる。
やはり同性にこんな気持ちを抱くのはおかしい。

原因はおそらく欲求不満。

こうなってしまったのも、
ずっと御無沙汰な状態が続いているからだろう。

このままいくと、この状態が悪化してしまうかもしれない。
萌は、何としてでも今夜中に忍と行為にいたらなくてはと考えた。



※※※



その頃、忍と誠は静かにベンチに座り、
コーヒーカップで楽しそうに回る二人を見つめていた。


「マコトちゃんは一緒に乗らなくて良かったの?」

「私はこういう乗り物、酔ってしまってダメなんです」

「そっかぁ、それだと観覧車とかメリーゴーランドとかの方が良いかもしれないね」

「はい、そういう静かな乗り物だと平気です」


にっこりと微笑み答える誠。

白いワンピースにベージュのビーチサンダルを履いた誠は、
とてもお淑やかな女性に映っていた。

彼女のそんな姿に、忍はゴクリと生唾を飲み込む。

彼はかつて萌に向けていた性的な欲求が、
誠に対して徐々に芽生え始めていることに気づいていた。


(ダメだ……どうしても意識してしまう……
こんな不純なことを考えて、萌にもマコトちゃんにも失礼だ)


裸の誠を四つん這いにして、一物を差し込む光景が頭に浮かぶ。

彼女の身体を好き放題に犯したい。

一物が彼女の膣壁に包まれたら、どんなに気持ちが良いだろうか?

そういった妄想が頭の中に浮かんでは消えていった。

その後、四人は様々なアトラクションに乗り、遊園地を満喫した。
その間も忍を興奮させようと、
女性二人は奮闘を重ねたのだが、満足な結果は得られずにいた。


「うーん……最初は良い感じだったんだけど、なかなか上手くいかないね」

「やっぱり密室じゃないとダメなのかな?」


忍が興奮しない理由を議論する真里と萌。

二人はその原因が誠にあるとは考えなかった。

真里と萌が一緒に行動する分だけ、
忍と誠が一緒にいる時間が多くなる。

二人の行動は、忍と誠の仲を進展させるだけで、
すでに逆効果になりつつあった。

時刻は既に正午を過ぎようとしていた。


「ねぇ、萌。忍くんを勃起させるのも大事だけど、
せっかくのデートなんだし、そろそろ一緒にいたらどう?」

「うーん、たしかに。マコトちゃんも知らない男の人とずっと一緒だと緊張しちゃうだろうしね……いったん戻って純粋に楽しもっか」


それからランチを終えた彼らは、お化け屋敷に挑戦することにした。

先に真里・誠ペアが入り、少ししてから萌・忍ペアが入る。

おばけ屋敷のような不安や恐怖を煽る場所では、
吊り橋効果といって、通常よりも恋愛感情を抱きやすくなるという。

萌が忍に抱きつくことにより、気分が高まりエッチに持って行けるのではと、女性二人は期待していた。


「ううう……怖い怖い怖いです……」

「大丈夫だよ。真里さん、ほら私の手を握って」


真里は幽霊が怖くて、誠の腕にしがみついていた。

霊障を引き起こす霊がいる部屋に住んでて、
何を言っているのかといった感じであるが、
本人は至って真面目である。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! なんか光ってるぅぅ!!」

「あれは非常灯の光だよ……真里さん……」

「ああああ!! 赤いぃぃ!! おばけがこっち見てるぅぅ!」

「あれは消火灯のランプの光だよ……」


驚くポイントが少しずれてる真里であったが、二人はいよいよこのアトラクションの最大の目玉【巨大な墓】に差し掛かろうとしていた。

霧の深い西洋風のお墓を練り歩くのだが、
一ヶ所だけゾンビキャストが埋まっている箇所がある。

地面から飛び出たゾンビに囲まれ、
大抵の人はそこで絶叫を挙げるそうだ。

真里と誠は、ひときわ大きな墓石の前で止まった。

ここが終点となっており、出口へ続く道は見えない。

これはゾンビが飛び出た後に、
次の道へと案内されるという仕組みになっているからであった。


「あれ……? ここで行き止まりだ……道を間違えたのかな?」


冷静に来た道を確認する誠。

薄暗く視界が悪いこともあり、
パッと見ただけでは他の道は確認できなかった。

真里はガタガタ震えながら、ひたすら誠にしがみついていた。
先に進めないと聞き、彼女も仕方なく辺りを見回すことにした。

だが真里が誠から少し離れた瞬間ーー

急に周りの地面が沈み込み、
複数体のゾンビが一斉に飛び出した!


「ヴエァァァ!!」

「アバババババ! アヴャアアア!!」

「のぉ~うみそぉ~を、お~くれぇ~!!」


誠は咄嗟に真里の前に出て、彼女を守ろうとした。
しかし真里はあまりの恐怖に絶叫してしまう。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


冷静さを失った真里は、来た道を泣きながら走っていってしまった。

誠は慌てて追いかけようとしたのだが、
視界が悪く、お化け屋敷のセットにぶつかり転んでしまう。


「いったぁー……」

「あっ、大丈夫ですか?」


ゾンビ達が心配して誠に寄り添う。


「……大丈夫です。そこまで大きな怪我では……」

「あっ血が出てるじゃないですか……すぐに治療しますので、
ひとまずあちらの非常口の方へ来ていただけますか?」

「大した怪我ではないので大丈夫です。
彼女が心配なので、とりあえず追いかけることにします」

「かしこまりした……では外でスタッフが待機しておりますので、
後からでも、そちらで治療を受けてください」

「はい、ありがとうございます」


誠はそうゾンビに言うと、
足を庇いながら真里を追うことにした。



※※※



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」

「ひぃえええええええええええ!?
な、なに……? あれ、真里じゃない?」


ものすごい勢いで走って行く真里に、萌と忍が驚く。
ちなみに二人にとって、この瞬間が一番怖かったそうだ。


「ちょっと真里を追いかけるね。忍はマコトちゃんの方をお願い。
こんなお化け屋敷で一人にさせたら可哀想だからね」

「よし、わかった。こっちは任せろ」


二人は分担して真里と誠を探すことにした。

数分後、忍は足を引き摺って歩く誠を発見する。


「マコトちゃん、大丈夫?」

「あ、忍くん……私は大丈夫だけど、真里さんが……」

「あっちは萌が行ったから大丈夫だよ。ところで足、どうしたの?」

「うん、大したことないんだけど、ちょっとぶつけちゃって……」

「そんな足で歩いちゃダメだよ。真里ちゃんのことは大丈夫だから、とりあえず外に出よ? ほら、俺の背中に乗って」

「そんな……そこまでしてもらって悪いです」

「気にしないで、むしろ俺はマコトちゃんがその足で歩く方が心配だよ。出口までだから乗って」

「すみません……ありがとうございます」


誠は言われた通り、忍の背中にしがみつくことにした。
忍は誠をおんぶすると、出口に向かって歩き始めた。


ドクンドクン……ドクンドクン……


忍の背中におぶさり、誠の胸がときめき出す。
誠はこうして男性に看護されるのは、初めての経験であった。
忍の胸に腕を回しギュっと抱き締める。
すぐ横に忍の顔があり、恥ずかしさから赤面してしまいそうだった。

そしてそれは忍も同じこと。
背中に伝わる柔らかな胸の感触と、仄かに香る香水の匂いによって、否応(いやおう)がにも誠を意識してしまっていた。

誠の身体に触れているという事実が、忍の一物を勃起させる。

誠を背負っているため、どうすることもできなかったが、幸いお化け屋敷の中だったため、誰にも気付かれることはなかった。

同時に誠のペニスにも変化が起き始める。

動く度に忍の背中にそれが擦れ、
快感により硬くなってしまったのだ。

小さかったため気づかれることはなかったが、
誠は徐々に息が荒くなり始めていた。


「マコトちゃん、大丈夫? どこか辛いの?」

「んっ……♡ はぁ……だ、大丈夫です」


忍が心配して声を掛けるが、
誠は正直に伝えることができなかった。

おちんちんがあなたの背中に擦れて気持ちが良いです♪
など、言えるはずがない。

誠は抱き締める腕の力を強くして、腰がなるべく揺れないようにした。


(マコトちゃんが強く抱き締めてくる……)


興奮して忍の一物が硬さを増す。

完全体の一歩手前といったところであろうか?
それほどまでに、忍の一物は勃起してしまっていた。


(はぁ……はぁ……ダメ……♡
忍くんの背中におちんちん当たっちゃって……)


誠のペニクリがピクピクと震え、射精寸前の反応を見せる。

どうにかして、この摩擦を止めたい。
しかし背負われている身では、どうすることもできなかった。

ペニクリに意識が集中し、しがみつく腕の力が疎かになる。
スルッと腕が離れ、ほんの少しだけ身体が浮いてしまった。


「あっ、マコトちゃん、あぶないよ」


誠の腕が外れたことに気づき、忍は腰の角度を深めた。
誠の身体をしっかりと背中で持ち、軽く跳ねて腰を元の位置に戻す。

何気ない動作であったが、
これにより誠の淫核が、より強く忍の背中に擦れることになる。

身体が浮き上がり、腕を組み直す誠であったが、
淫核に与えられる摩擦についに耐えきれなくなり……。


(あっ……! ダ……ダメぇぇ!!)

ピクピクピクピク!!
ピュッ♡ ピュッピュッ♡


軽く痙攣を起こし射精してしまった。

幸い誠はパットを付けていたのと、元々少ししか出ない体質だったため、目立ったシミになることはなかった。


「んっ……♡ くっ……ふぅ……ん♡」


なるべく声を出さないようにしたが、
どうしても小さな声が出てしまう。それに気付き忍が声を掛けた。


「ごめん、今の痛かった?」

「う、ううん……なんでも……なんでもないの……はぁはぁ♡
気にしないで忍くん♡」


色っぽい誠の声に、忍の官能が刺激される。
完全に起立した彼の剛直の先からは我慢汁が出るようになっていた。



※※※



「ちょっと! そんなに走って危ないよ!」


萌はようやく真里に追い付き、彼女を制止する。
聞き慣れた声に冷静になった真里は、思わず萌に抱きついた。


「もーえー! こわかったよぉ~……だって、ゾゾゾゾ……ゾンビがたくさんっ! 地面からブワーッて!! ……もうダメ……怖くて、もう無理……」

「そんなに怖いんだったら、最初から入らなければ良かったのに……」


萌はどうするか迷ったが、
これ以上先に進むのは無理と判断し、入口に戻ることにした。

その間、真里は萌に抱きついたまま離れようとはしなかった。


「萌ー怖かったよぉー……」

「ヨーシヨシヨシ、私が付いてるから大丈夫だよ」


真里が子供のように抱き付いてくる。
萌は冷静を装っていたが、この状況に少し興奮していた。


(今日は朝から変……真里に頼られて、どうしてこんなに嬉しいんだろう? それにこんなに身体を小さくして抱きついてくる真里のことがなんだか……)


愛おしい。

萌はハッとし、すぐに思考を停止させた。


(マジでやばいかも……このままいったら本気になりそう……
もうこの演技は止めた方が良いな……)


忍を興奮させたいのは山々だったが、これ以上レズのふりを続けたら、自分がどうにかなってしまいそうだった。

萌はおばけ屋敷を出たら、
真里に演技の中止を申し出ることを決めた。



「ほら、もう大丈夫だよ。真里」

「あー外だぁー! よかったぁーありがとう萌♡」

「どういたしまして、少しそこに座って休んでて、
忍とマコトちゃん探してくるから」


萌は真里を近くのベンチに座らせると、
お化け屋敷の出口に向かって歩き始めた。

忍はもう外に出ているはず、そう考え歩く萌の視界に、
ちょうどおばけ屋敷から出てくる忍の姿が入った。


「あっ、いた! しの……ぶ……」


萌は声を失った。

忍が誠のことを背負っている。

それは別にいい。
何らかのアクシデントがあり、怪我をしてしまったのだろう。

問題は忍の股間だ。

彼のボトムは大きく盛り上がり、
中にある大事な物が完全に起立していたのだ。

それは昨日とは比べ物にならないほど大きかった。

そうなった原因として考えられるのが誠だ。
おそらく彼女の胸が背中に当たり興奮してしまったのだろう。

今までどんなに誘惑しても、勃たせることができなかった忍を、
あのマコトという女は、いとも簡単に勃起させてしまった。

萌は誠に対する嫉妬心と、
真里との努力が無駄だったという気持ちでいっぱいになった。

萌の目に涙が溜まる、くやしくて身体が震え出した。

カタカタカタと歯と歯がぶつかる音が鳴り、
堪らず、彼女はその場を離れた。

そして忍からも真里からも離れた場所へと走った。
この泣いている姿をどちらにも見せたくなかった。

やがて遊園地内のファーストフード店に辿り着くと、
テーブルに顔を伏し、静かにすすり泣くのであった。



※※※



「ただいまー」

「どこ行ってたんだよ、萌。みんな心配してたんだぞ」


夜になり、寝室に戻ってきた萌に忍は言った。

あれから萌は、真里に体調が悪いから休憩するとだけ、
スマホで伝え、姿を消していた。


「ごめんね。どうしても気分が悪くて長引きそうだったから、近くのレストランで休んでいたの」

「じゃあ、なんでどこにいるか言わなかったんだよ」

「さぁ……なんでだろうね?」


萌は荷物を椅子の上に置き、忍にキスをする。
忍の目を見つめ、なにかを確認しているかのようなキスだった。

そこで忍は彼女の様子がおかしなことに気が付く。


「萌…………本当にどうしたんだ? なんか変だぞ?」

「ねぇ、忍。私のこと、愛してる?」


ニヒルな顔を保ったまま萌が返す。
忍は彼女が何か大事な話をするように思えて、真面目に答えた。


「もちろん愛してる。何かあったのか……?」


萌は軽く笑い、忍をベッドの上に押し倒すと、彼のお腹の上に乗った。


「忍……エッチしよ?
私、最近、欲求不満が溜まってて抱いて欲しいの」


萌はカーディガンを脱ぎ、シャツとブラを外して胸を晒す。
忍の腰のベルトを外し、トラウザを脱がせると、彼の履いているトランクスに手を掛けた。

忍はそんな彼女の様子を黙ってみていた。

普段の萌であれば、こんなことはしない。
彼は彼女を下手に刺激しないよう、したいようにさせていた。

萌はトランクスを脱がせると、男性器を掴んだ。


「あいかわらず忍の大きいね……」

「…………まぁな」


萌はしばらくそれを扱(しご)いていたが、
何も反応しないためフェラチオを始めた。

ちゅう……ちゅぷ……ちゅぷ……

忍の一物は、一向に勃つ気配を見せない。
見かねた忍は言った。


「萌……抱いて欲しいなら、俺が攻めに回るよ」

「…………いいの。しばらくこのままさせて」


だがいくらやっても勃起はしない。
萌は寂しそうな表情で口を離すと、小さくため息を吐いた。


「ごめん……最近調子悪くて勃たないんだ。
お前としなかったのも、勃たなかったからなんだよ」


萌がこうなった理由を、性交渉の不足にあると感じた忍は、
正直に伝えることにした。

しかし、それはあまりにも遅い対応であった。

もし彼が南の島に来る前に、この事を相談していたなら、
萌がここまで思い悩むことはなかったであろう。

萌が忍の一物の秘密を知った今となっては、全くの逆効果であった。


「そっか……そうだよね。私じゃダメなんだもんね」

「いや、そういう訳じゃなくて……」

「マコトちゃんが相手だったら、できるんでしょ?」

「っ!?」


急に誠の名前が出てきて驚く忍。
間髪いれず、萌は続ける。


「私、見てたよ。
マコトちゃんを背負ってお化け屋敷から出てくるところを…………
忍、勃起してたでしょ?
ちんちんデカいからすぐ分かるよ。
あんなに大きくして…………
私じゃ勃たないのに、彼女だと簡単に勃つんだね」

「ち、違うそれは……」


そう言いつつも忍の声は弱い。


「辛いよ……忍……。
どうして私たちこうなっちゃったんだろうね……?
南の島に来れば、元に戻れるかと思ってたけど、
結局何も変わらなかった……」

「違う、俺が愛しているのは萌だけだ」

「じゃあ抱いて……証明してみせて…………」


そう言われ、忍は萌を抱き締めた。
彼女の身体を優しく愛撫して、一通りの前戯を行う。

しかし肝心の挿入ができない。

いくら勃たせようと思っても勃たないのだ。
そしてそれと同じように萌の身体も乾いてしまっていた。


(私の身体、忍のことを全然求めていない……
やっぱり変わっちゃったんだ、私自身も……)

「忍、もう大丈夫。ありがとう」

「萌、勘違いしないで欲しい……」

「大丈夫。忍がそういうことしない人だって、よく分かってるから心配しないで、でも今日だけは別の部屋で寝かせて」

「萌……」

「だって辛いから……もう少し気持ちを落ち着かせたいの。
忍のことは今でも愛してる。だからお願い……」

「……わかった。別の部屋って、どこで寝るんだ?」

「真里の部屋に行く。マコトちゃんもいるけど、彼女に何かするなんてことはないから安心して」


そう言い残し、萌は部屋から出ていった。
忍はベッドに腰掛け、しばらく無言のまま項垂れていた。



※※※



コンコンッ


「はーい」

「ういっすー」

「あ、萌! 今日はどうしたの? 急にいなくなったりして」

「んーちょっとね……実は忍と喧嘩しちゃったんだ」

「ありゃりゃ……そういうことかー」

「だから今日こっちに泊めてくんない?」

「私は別にいいよー。ねぇ、マコちゃんー萌が今日こっちに泊まりたいって言ってるんですけど良いですよねー?」


真里の問いかけに、部屋の奥から返事がする。


「いいよー」


返事を聞き、真里が振り返る。


「良いって」

「うん、ありがと」


部屋に入ると、
ちょうどお風呂から上がったばかりの誠と遭遇した。

彼女は水色の生地に青の水玉模様のパジャマを着ており、
タオルでその艶のある髪を拭いているところだった。

足にはギプスを嵌めており、
想像していたより大きな怪我だったことが分かった。

萌は伏し目がちに彼女を見ると「お邪魔します」と、軽く挨拶をした。


「マコちゃんなんだけど、あの後、結構 大事(おおごと)になっちゃってさ。お医者さんが何人も来て診てもらうことになったんだよ」

「えーそんなに?」


真里が心配そうに誠を見つめている。
しかし当の本人にそこまで痛がっている様子はない。

彼女はベッドに座りドライヤーで髪を乾かし始めた。


「とりあえず明日一日は静かにしているようにって話だったから、
私も出掛けないでマコちゃんと一緒にいることにするね」

「そっかー仕方ないよね」


それからしばらく二人は雑談を続けていた。

髪を乾かし終えた誠がドライヤーのスイッチを切って会話に参加する。


「真里さん。そこまで大した傷じゃないから、
明日は萌さんや忍くんと遊んできなよ」

「えぇー……でも、私のせいでこうなっちゃったのに……」

「真里さんのせいじゃないよ。これは単なる私の不注意。
それに何か美味しいもの買ってきてくれた方が私は嬉しいかなー」

「なるほど、それでしたら出掛けてきます!
美味しいもの、いっぱい買ってきますね!」


真里はさっそく島の観光マップを広げる。

そうして萌と相談しながら、
なるべく美味しいものが買えるよう計画を立てるのであった。


それから少しして、萌と真里は同じベッドで眠っていた。
こうして二人で寝るのは、修学旅行の時以来であった。

薄暗い部屋の中、真里の寝顔を見つめる。
久しぶりに見る親友の寝顔は、昔と違って美しかった。


ドクンドクン……ドクンドクン……

(真里…………)


忍との諍(いさか)いの反動であろうか?
乾いていた萌の身体は、
真里に対してはしっかりと反応してしまっていた。


(はぁ……真里……)


萌は我慢できず、右手を女陰へと伸ばした。
指先が触れる箇所から、たしかな快感を感じる。

一時的にとはいえ、忍を他の女に奪われた寂しさから、
彼女は迷うことなく自慰を始めてしまっていた。

この苦しみを忘れたい。
それを忘れるためなら、相手が真里でも良い。
半ば自暴自棄にも似た感覚で手淫に耽った。


(気持ちいい……はぁはぁ……真里……気持ちいいよ……)


不思議な気持ちだった。

あれほどレズに嫌悪感を持っていた自分が、
真里が相手なら、ここまで淫乱になれる。

これほど感じるのは、それだけ心が弱っているということなのだろう。長いこと忍に相手にされず、欲求不満なのもあった。

愛する彼を差し置き、
他の人で欲求不満を解消させるのには抵抗があったが、
真里が相手であれば、
じゃれ合う延長ということで罪悪感も和らいだ。


(イキそう…………ぁ…………ぃく…………いく…………あぁ…………)


全身に棒を差し込まれたような快感が突き抜ける。
萌は生まれて初めて同性との痴態を想像して絶頂を迎えた。

胃の底から息を吐く。
外気を吸い、それが喉を通る感覚が心地よかった。

ほんの少し間であったが、
彼女は嫌なことを忘れることができた。


(真里……ありがと……あなたはいつだって私に安らぎをくれる)


萌は真里に寄り添うと、そのまま眠りについた。

Part.93 【 あるカップルの結末◆ 】

「この鮭、おいしーい♪」


次の日の朝、
萌と外に出掛けた真里は、
近くの和食レストランでブレックファスト定食を食べていた。

ここは焼き立ての鮭と作りたてのお味噌汁を出してくれるお店で、客の注文を受けてから、調理を開始するお店であった。


「はぁ~やっぱり焼き立ては美味しいね~」

「味噌汁も大豆が残ったままのを使ってるね。これ絶対高いやつだよ。出汁も本だしじゃなくて、ちゃんと鰹節と昆布を使ってる感じがする」

「そうだね。あーマコちゃんにも食べさせたかったなぁー」

「明日連れてくれば良いじゃん。別にお店は逃げないよ」


前日の怪我で、誠は部屋で休んでいた。

彼は大した怪我ではないと言ったが、
ホテル側が手配した医者が来て、
朝から再診を行ってくれていた。

素人では分からない問題があるのだろう。

誠の具合が気掛かりであったが、
二人は彼に美味しいものを買ってあげるため、
あちこちのお土産屋を見て回る予定であった。


「ところで思ったんだけどさ。
なんで真里って、マコトちゃんに敬語で話してるの?」

「うーん……それはだね……」


相手が桐越先輩だからとは言えない。
そもそも真里は、萌と弥生以外の人にはほとんど敬語だ。

真里が砕けた話し方をする相手は、
気の許し合った同年代の相手か、家族くらいである。

別に壁を作っているつもりはないのだが、
年上となると、どうしても畏まってしまうのだ。

割り勘のこともそうであるが、
真里は何かと堅苦しいところがある女性であった。


「というわけで、敬語なんですよ」

「ほほー、かなりセリフを省いたね」


そんなこんなで朝食を終えた二人は、
さっそくお土産を買いに出掛けるのであった。


ピンポーン♪


一方その頃、誠の部屋ではインターホンが鳴っていた。


(なんだろう? 真里さんかな?
部屋の鍵、持って行ってるはずなんだけど……)


誠はベッドから起き上がると、
インターホンのモニターを確認した。

そこには朝来たばかりの医者が映っていた。
誠はすぐにモニター越しに声を掛けた。


「はい、なんでしょうか?」

「お休みのところすみません。朝の検診の際に忘れ物をしてしまいまして、それを取りに来たのですが、中に入れていただいてもよろしいでしょうか?」

「わかりました。すぐに開けますのでお待ち下さい」


相手が医者ということで誠は警戒しなかった。
すぐにチェーンロックを外しドアを開ける。

ガチャ…………

そこには医者ともう一人、見知らぬ女性がいた。


「……? あなたは?」

「純白の姫君」


その言葉を聞き、誠はすぐに意識を失ってしまう。
医者は誠を抱えると、ベッドに運んだ。


「マコトちゃん、本当に大丈夫なんでしょうネ?」

「今、ギプスを外しますのでお待ち下さい」


手慣れた様子でギプスと包帯を外す医者。

露(あらわ)になった誠の足には、
ほんの少しの切り傷があるだけであった。


「ふーむ……これ跡が残ったりしないの?」

「ですから大丈夫ですって。
そもそもこの程度の傷でギプスはやり過ぎです。
こういうのは薬を塗って外気に晒した方が早く治るんですよ。こんな包帯ぐるぐる巻きにしてギプスなんか嵌めたら、傷口が籠って返って治りが遅くなりますよ」

「この程度って……アザがあるじゃないの!」

「単なる内出血です。これも余計な手を加えず安静にしておけば、自然に治るものです。ギプスを外し包帯も止めて、バンソウコウでも貼っておけば良いんですよ」

「アンタそんなこと言って、マコトちゃんの身に何かあったら責任取れるんでしょうネ? この子はアタシの店の大事な看板娘になる子なのヨ! 今から傷物になったらどうすんのヨ!」

「何も起こりませんよー……」


凄まじい剣幕で怒鳴り散らす小早川。
医者もこれまで何度も同じことを言われてきたのか、うんざりした様子である。

小早川は誠が怪我をしたと聞いて、居ても立ってもいられなくなり、医療チームを編成していたのだ。

しかしあまりにも誠の怪我が軽症で、すぐに治療を終えてしまったことから、真面目に治療していないと思い込み、頭にきていたというわけだ。


「うーす、なんだ、怪我したって聞いたぞ」


そこに鮫島が現れる。小早川の不安がなかなか収まらないため、黒服達がヘルプを送っていたのだ。


「サメちゃん、大変なの! マコトちゃんが怪我して……」

「んんー? ただの切り傷だな。問題ない」

「でも……跡が残ったら大変ヨ!?」

「こういうのは、旨いもん食わせて、運動させておけば良いんだ。それに休ませると言っても、そんな時間ねーだろ? こいつらがこの島にいる間に決着つけるんじゃなかったのか?」

「そ、それもそうだけど……」


誠の怪我は心配ではあったが、たしかに鮫島の言うとおり、この島にいる間に決着をつけたい。

小早川は思い悩んでいた。


「そんな心配だったら激しい運動させなければ良いだろ。
マグロ状態で寝たまま調教したらどうだ?」

「うーん……それだと効果が薄いのよね……
でも調教を目的としなければなんとか……あっ! そうだワ!」


何か悪巧みを思い付いた時の顔をする。
小早川は再び誠に向き合うと、暗示を掛け始めた。



※※※



自室で一人考え事をする忍。

主に考えることは、
どうやって萌との関係を元に戻すかということだ。

一番良いのは、萌ともう一度交わり、
性行為を成功させることだ。

だがそれは勃起しないことには始まらない。
忍は自身の股間をじっと見つめ考える。

どうして誠には勃つのに、萌には勃たないのだろうか?

萌は女性の中でもかなり可愛い方だ。
容姿には全く問題がないと言っても良い。

そして男を魅了する小悪魔的なエロさや、
抜群のスタイルを持っている。

対する誠も、たしかに可愛い。
可愛さだけで言えば、萌に勝っていると言っても良い。

だがハッキリ言って、萌の方が好みである。
誠は忍からすると清純過ぎるのだ。

忍は萌のようなエロくて悪戯好きな女性が好きだった。
誠は彼の好みの範疇から外れてると言える。

両者を比べてみても、
興奮する要素は萌の方が圧倒的に勝っているはず。

なのになぜ誠の方にだけ、身体が反応してしまうのだろう? いくら考えてもその謎は解けなかった。


ピンポーン♪


部屋の呼び出し音が鳴る。

モニターを確認すると、
そこには怪我をしたはずの誠の姿が映っていた。


(なんでマコトちゃんが一人でこの部屋に?)


何か用事があるとは考えにくい。

不審に思ったが、怪我人を外で待たせておくわけにはいかない。とりあえずドアを開けることにした。


「マコトちゃん、どうしたの? こんなところに来て怪我は大丈夫なの?」

「はい、大丈夫です。少しお話があるのですが、中に入れてもらっても良いですか?」

「あぁ……良いよ。中に入って」


忍は誠を中へ招き入れると椅子に座らせた。

昨日、医者に付けてもらったギプスは外されており、
怪我をした部分には大きめの絆創膏が貼られていた。


「ギプス外したんだ。付けてなくて良いの?」

「はい、お医者さんが必要ないからって外してくれたんです」

「そうなんだ……それなら初めから付けなくても良かったのに、変わったお医者さんだね」


誠は椅子から立ち上がると言った。


「はい、本当に大したことなくて、痛みもあまりないんです。こうして普通に歩けますし、心配して貰わなくても大丈夫です」

「それなら良かった。ところで話って何かな?」

「それなんですが……」


トゥルルルル…………トゥルルルル…………

そこで部屋のコール音が鳴る。


「あっ、ちょっと待ってね」

「はい」


おそらくフロントからだろう。
忍は今の状況になんとなく既視感を覚えると、電話を取りに立ち上がった。


「はい、もしもし」


受話器の先から聞き慣れた声がする。
忍は例のごとく催眠状態に入ってしまった。

電話の主は、そのまま暗示を掛け続けていった。



※※※



「真里ーまだ食べてるの?
そんなに食べたら、お腹壊しちゃうよ?」

「だってマコちゃんに美味しいもの買って行かなくちゃいけないじゃん。ちゃんと試食しなきゃ分かんないでしょ?」

「だからって食べ過ぎだよ。お土産も買いすぎー」


真里はその日、土産物屋の試食コーナーで試食を繰り返し、誠へ買っていくお土産を選定していた。

美味しいものが食べたいという誠の要望を受けて、
真里はそのことだけにひたすら全力を尽くしていたのだ。


「あのねー真里。マコトちゃんは美味しいものが食べたいって言ってたけど、たぶん真里に気を使って言ってくれてたんだと思うよ?」

「モグモグ……どうゆうこと?」

「マコトちゃんは、真里が外に遊びに行けるように、敢えてそう言ってくれてたの。本当は美味しいものが食べたいんじゃなくて、真里に旅行を楽しんできて欲しかったんだよ」

「えぇっ!? そうなの! マコちゃん……優しい……
なら尚更、美味しいもの買ってかなきゃ……モグモグ」

「だからそれが違うんだってば……
真里は変なところ義理硬いんだから」


萌は試食品を貪(むさぼ)り喰う真里を止めると、
一旦近くの喫茶店に連れて行った。


「だからもう止めなね。
真里がお腹壊しちゃったら、マコトちゃんが悲しむよ?
自分のせいで真里が酷い目に遭ったって考えちゃうかも?」

「わかった……今日はもう止めとくね」

「でも真里ってマコトちゃんにすごい優しいよね。
桐越先輩のことがなければ、本当にレズカップルって感じだよ?」

「ええー? そお?」

「うんうん、お似合いのカップルだと思う」

「もぉ、そういうことでからかうの止めてよーマコちゃんとはそういう関係じゃないの」


否定するも真里の顔は明るい。

事実、誠とお似合いのカップルと言われているのと同義なのだ。真里は内心、喜んでいた。


(真里、あんまり嫌がってる様子ないな……
この子、本当にレズっ気があるのかもしれない)


からかってはいるが、真里にレズっ気があることを、
萌は心のどこかで期待していた。

昨夜、真里をオカズに自慰をしてからというもの、
彼女の中で真里を想う気持ちが、余計強くなってしまっていたのだ。

しかし自分達は女同士。
しかもお互いに彼氏がいる者同士。

こんなことを考えてはいけないと自分を諌めていた。



「ところでさ、忍くんと喧嘩した理由って、もしかしてエッチのこと?」

「う、うん、まぁね……」


真里の質問に、萌は元気なく頷く。


「忍、最近なんだか勃ちにくいみたいで、それで出来ないって打ち明けてくれたんだ」


忍が誠に勃起したことは黙っておくことにした。

それを真里に話したところで何の解決にもならないし、
余計なことを考えさせてしまうだけだ。


「えー忍くん、そうだったんだ……
でも萌、そういう時は焦っちゃダメだよ。
実は誠くんも勃ちにくかったんだけど、
最近ようやく普通に出来るようになってきたんだ」

「桐越先輩もそうなんだ」


意外といった反応で真里の話に聞き入る萌。


「治すのにすごく苦労したけどね。
でもそういう男の人、最近増えてるらしいよ?
萌が良かったら、私がどうやって誠くんのちんちんを復活させたか、教えようか?」

「良いの? そんなプライベートなこと……」

「萌がそのことで苦労してるんだったら良いよ。
私の経験が役に立つか分からないけど、選択肢を増やす意味では良いかもね」

「ありがとう、真里……」


萌は真里に心からお礼を言った。

それからしばらく、
真里は過去の誠との体験を赤裸々に語っていった。

マコトが誠だとバレないよう女装のことは伏せていたが、
前立腺を責めることを中心に話を展開していった。


「そっかぁ、アナルを責めるのがそんなに効果があるとは思わなかったよ……最初は断られるかもしれないけど、少しずつ勧めてみることにするね」

「誠くんもまだ完璧って訳じゃないけどね。
お互いに気長に治していこうよ。
ちなみに焦らせるのは一番良くないらしいから、そこだけは気を付けてね」

「うん、わかった。ありがとね、真里」


そうして二人はホテルへと戻ることにした。

空も少し紅くなり始める時刻であった。

真里の話を聞き、少し気が晴れた萌は、
忍と仲直りしようと自分の部屋に向かっていた。


(昨日は結構キツイこと言っちゃったから、まずは謝らないとな……。忍にお尻責めたいって言ったらどんな反応するかな)


忍のびっくりした顔が頭に浮かび、萌は含み笑いをした。

さっそくドアを開けようとドアノブに手を掛けたのだが、
そこで部屋の奥から奇妙な声がすることに気づく。


「………………ぁん………………………………ぁっ………………ぁっ♡」


女性の喘ぎ声だ。
萌は部屋番号を確認し、鍵の番号をチェックした。

どちらも同じ番号だ。この部屋で間違いない。


(まさかアイツ……AVでも見てるのかな……)


どういう意図でAVを見ているのか、
本人に聞いてみれば分かることだ。

もしかしたら、勃起の練習をしている可能性もある。

ならばいくらでも練習させてあげよう。

エロさで言えば、自分はAVに負けないはずだ。
もちろん、あのマコトと言う女にだって負けない。

自分の魅力で、忍の気持ちを取り戻すのだ。
萌は鍵を外すとドアを開けて中に入った。

入室は敢えて静かに行った。
AVを観賞している忍を驚かせるためだ。

それに彼がどんなものに興味があるのが知りたい気持ちもあった。ドアを静かに閉め、そろりと奥へと進む。
手前の小さな廊下を進み、ゆっくりと忍のいる場所を覗き込んだ。

するとそこには…………。


「ぁんっ!♡ 忍くん、気持ちいいよっ!♡
もっと、もっとしてぇ!♡ 大きいの入れて♡」

「ハァハァハァハァ!!
マコトちゃんの中、すごく気持ち良いよ!」

「あっ! すごいっ……力強くって……全身トロけちゃう……ぁんっ! 好きぃ♡ 忍くん、大好きっ!♡」

「俺も、マコトちゃんのこと大好きだよ」


正常位で愛し合う二人の姿。

萌は口を半開きにしたまま動けないでいた。

一体自分は何を見ているのか?

理解するのに時間が掛かった。

やがて脳裏に浮気という言葉が思い浮かぶと、
無意識に足が出口へと向かった。

そして来た時と同じように、
静かに退室し、廊下の床に両手を付き、静かに泣き始めた。


「う…………うぅ…………ううう…………ぁ……あぁぁぁ…………」


半開きになった彼女の目からは、止めどなく涙が溢れ出していた。過呼吸にも似た息遣い。震える全身でこの現実を受け止める。

あまりにも辛い光景を目の当たりにして、フラフラの状態になりながらも、彼女はこの場所から早く離れようと立ち上がった。

壁に手を付きエレベーターのある方へと進み歩く。

エレベーターに乗り込んで一階に到着すると、
萌はそのまま暗い外の世界へと消えていった。



※※※



一方その頃、真里の部屋では。


「あれーマコちゃんいないな? どこ出掛けたんだろう?
せっかくお土産物見てもらおうと思ったのに……
まぁ、いっか。夕食会場でご飯食べているかもしれないし、ちょっと行ってみようかな」


誠を探すため一階へと向かう真里。
何度かLINEを送っていたが、彼から返事はなかった。


チーン♪

一階に到着し、夕食会場を確認する。
しかし誠の姿は見当たらない。


(うーん、ここにもいないか……夜だし近くの銭湯にでも出掛けているのかな? 仕方ない……とりあえずその辺ブラブラしてみよう、美味しいものあるかもしれないし)


その時、真里の視界に海の夜景が映った。

ホテルのガラス壁から、
ライトアップされた海が広がっている。


(すごい綺麗……そういえば夜の海、あんまり見ていなかったな……。時間もあるし、少し出てみようかな……)


そう考えながら、外を眺めていると、
ヤシの木の下に座り、海を眺める萌の姿を見つけた。


(あっ、萌がいる。
でも忍くんがいないな……仲直りできなかったのかな?)


萌のことが心配になったのと、ちょうど外に出ようとしていたこともあり、真里は萌の元に向かうことにした。


「………………」


夜の海を無言で見つめる萌。
泣き疲れたのか、彼女の瞼は腫れており、やつれた顔をしていた。


「もーえ、こんなところで一人でどうしたの?」


真里の声を聞き、萌は振り返る。
その表情から、忍と上手くいかなかったことを察知した真里は、労るような顔をして萌の隣に座った。


「真里……よくここが分かったね……」

「うん、マコちゃん探してたんだけど、
たまたま外に萌がいるのを見つけてね」

「マコトちゃんならさっき見掛けたよ……そのうち部屋に戻ると思うから、心配しなくても大丈夫だよ……」

「そっか、それなら良かった。夜の海も綺麗だねー」

「うん……」


それから萌は何も話さなかった。

先程の忍と誠の行為をどう受け止めたら良いのか、
まだ心の整理が付いていない様子だ。

そんな深刻な問題を抱えているとも知らず、
真里は心配して尋ねた。


「ねぇ……忍くんと何かあったの?」

「ううん……ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れたから、
部屋に戻る前に休んでいただけ……」


萌はそう答えるが、
彼女の様子を見れば、誤魔化していることは明らかだった。

しかし真里はそれ以上聞くのを止めておいた。
萌のその答えだけで話したくない気持ちを察したのだ。

そして萌も、その気持ちを真里が汲んでくれたことを察していた。

今、自分がどんな顔をしているかよく分かっている。

萌は真里の放っておいてくれる優しさに感謝した。


「ねぇ、真里……寄り掛かってもいい?」

「えっ……? うん、良いよ」


返事を貰い、真里に身体を寄せる萌。
熱帯の暖かな夜風が、優しく二人を包み込んでくれていた。



※※※



「ただいま」


時刻は夜10時、部屋に戻った萌は荷物をまとめていた。
既に誠の姿はなく、ベッドが乱れた様子もなかった。


「おかえり、萌」


ようやく萌が戻ってきて安心した様子の忍。
彼は萌とこれからのことについて話し合うつもりだった。


「マコトちゃんはもう帰ったの?」


萌が忍にそう尋ねる。忍は首を傾げた。

なぜ彼女がそんなことを言うのか?
意図が掴めず素直に答える。


「マコトちゃんはここには来てないよ」


実際に誠の姿は見ていない。

案の定、記憶を消されていた忍は、誠が来たことも、
セックスをしていたこともすっかり忘れてしまっていた。

それに対して、萌は残念そうな顔で言う。


「わかった……じゃあもう別れようか、忍……」

「えっ……?」


忍は訳が分からないといった反応を見せる。

昨日まで愛してると言ってくれていた萌が、
どうして別れると言い出すのか? 忍には分からなかった。


「あなたのこと信じていたのに……どうして隠すの?」

「何を言ってるか分からないよ……萌」

「さよなら、忍。マコトちゃんと幸せになってね…………」


出ていこうとする萌を引き止める。


「待ってくれ、なんでそんなことを言うんだ?
俺は嘘なんかついていない。本当だ」


真剣な眼差しで萌を見つめる。

彼の態度には、これまでにない気迫が感じられた。
萌は猜疑心を持ちながらも、もう一度答えることにした。


「実は2時間くらい前に、一度この部屋に戻ってきていたの。そこであなたとマコトちゃんが抱き合っているのを見てしまったのよ!」


泣くのを堪えて、忍に伝える。

これまでずっと一途な男性と信じてきた。
それがこうまで誤魔化すだなんて……。

萌は一刻も早くここから出ていきたいと思っていた。


「何かの間違いだ……俺はそんなことしていない。
マコトちゃんにも会っていない。本当だ」


信じてあげたい気持ちはある。

しかし萌はハッキリと見てしまったのだ。
二人が繋がっているところを……彼女は納得しなかった。


「まだしらを切るつもり? そんな人だと思わなかった!」


萌は涙を流し部屋を出ていってしまった。


「なんでこんなことに…………」


大切な人を失い、忍はその場に崩れ落ちた。



※※※



「やった……ついにやったワ!!」


その様子を隠しカメラで見ていた小早川は大いに喜んだ。

ほぼ一年掛けてきていた忍と萌の離間工作は、
ついに成功を迎えたのだ。

フリーになった忍と萌は、
これまで以上に催眠にかかりやすくなるだろう。


あとは一ノ瀬真里を潰すだけだ。

萌と付き合わせ日常に返す。

そうなれば真里は、
誠への想いを完全に忘れ、気にも止めなくなるだろう。

小早川は今回成功した方法を、
真里にも適用させるべく、準備に取り掛かろうとしていた。


Part.94 【 手強い女◇◆ 】

ニャーニャー ニャーニャー


早朝、海猫の鳴く声で萌は目を覚ます。

カーテンを開くと、ちょうど朝日が海辺から顔を出すところであった。ソファーに座り、じっと朝日を見つめる。

萌は忍とは別の部屋に泊まっていた。

昨夜、フロントに部屋の変更を申し出たところ、
他の部屋を用意してくれたのだ。

なんとも気前の良いホテルである。

本当は真里の部屋に泊まりたかったのだが、
誠がいるためできなかった。

もう忍にもあの女にも会いたくない。

あの二人の顔を思い出すだけでも、
昨日の出来事が目に浮かぶようだった。

自分には真里だけで良い。
萌は本気でそう感じ始めていた。


(はぁ……寂しい……真里に会いたい……)


まだ朝の6時だ。
連絡するには少し早い気がした。
それでもLINEであれば、あとから読んでくれるだろう。

そう思い、萌はチャットを打つことにした。


MOE:ちょっと早いけどオハヨー!
MOE:昨日、話さなかったけど、実はまた忍と喧嘩しちゃってさ……
MOE:それで○○○号室に移ったから、用があればこっちに来てね♪


チャットを打ち、少し気が楽になった。

真里と何らかの形で繋がっている。

精神的に弱っている今の萌にとって、
真里の存在は、一種の安定剤となっていた。

それから5分ほどして……


ピンポーン♪


部屋の呼び出し音が鳴る。

萌は忍が尋ねて来たのかと思い、
少し警戒したが、モニターで真里の姿を確認すると、
思わず笑みを浮かべて彼女を迎え入れた。


「おはよー萌。チャット貰ったから、すぐに飛んできちゃった」

「おはよーそれは良いんだけど、なんでこんな早くに来たの?」

「だって萌、昨日辛そうにしてたじゃん。
だから連絡来たら、すぐに行こうって決めてたんだ」

「えっ……?」


真里の優しさに、我慢していた気持ちが一気に溢れ出す。
萌は真里に抱きつくと思いっきり泣き始めた。


「まりぃぃーありがとう……うぅぅぅ……ひっぐ……
私……今、すごく嬉しいぃぃぃ…………」

「萌だって私が辛い時、一緒にいてくれたじゃん。
誠くんが恭子さんと付き合ってると勘違いして、
落ち込んでた私を支えてくれたのは、今でも覚えてるよ。
辛い時はお互い様、私で役に立つなら、いつでも傍にいるからね」

「うんっ……ありがとう……
一緒にいて欲しかった……一人は寂しかったぁ……」


そうして真里は、
萌が泣き止むまで暖かく抱き締めてあげていた。

それから5分ほどして、
ようやく萌は落ち着きをを取り戻した。


「ごめん真里、取り乱しちゃったけど、
まだ何があったか話せない。
落ち着いたら話すから、それまで待って」


忍はともかく、原因が誠にあるとは言えなかった。

誠を恨む気持ちはあったが、
それで真里の休暇を台無しにはしたくない。

せめて帰るまでは、この事は黙っておこうと思った。


「そっか、萌の話したいタイミングで良いよ。
何か協力して欲しいことがあったら、なんでも言ってね」


親友がこれまでになく落ち込んでいる。
真里は萌を全力でサポートするつもりでいた。

それから少しして、萌は朝風呂を浴びに行った。
前日に泣き疲れて、お風呂にも入っていなかったため、
どうしても身体の汚れを洗い落としたかったのだ。

萌がお風呂に入っている間、
真里は誠に電話を掛けることにした。

話すのは、もちろん萌のことだ。


「そんなことがあったんだ……
それなら忍くんとの間で何かあったのかもしれないね」

「そうなんですよ。萌があんなに泣くの初めて見ました……
何があったか分かりませんが、
誠くんも萌が立ち直れるように協力してくれませんか?」

「もちろん協力するよ。とりあえず真里さんは萌さんと一緒にいてあげて。気分転換にどこか遊びに行くのも良いかもね」

「わかりました。じゃあ今日は南の島サファリパークに行くことにします。アニマルセラピーとも言いますし、萌も少しは気が晴れるかもしれません」

「うん、それで良いと思う。
私も忍くんに何があったか聞いてみることにするね」

「お願いします。あっ……でも忍くん、すごいイケメンですから、誘われてもお尻掘られないでくださいよっ!」

「だ……大丈夫だよ……」

「あーでも、誠くんと忍くんのBL良いですね~
やっぱり掘られて来て下さい。ハァハァ♡ ハァハァ♡」

「う……うん……」


真里がいつもの妄想状態に突入したようなので、
とりあえず生返事をする。


「そろそろ萌がお風呂から出てきそうなので切りますね。
何か分かったら連絡ください」

「うん、真里さんも何かあったら連絡してね」


こうして二人は、
忍と萌の仲を取り持つため、動き始めたのであった。



※※※



パオーーン!!


「うわぁ、ゾウでかいー」

「動物園で見るのとは、全然迫力が違うね」


数時間後、真里と萌は南の島サファリパークのバスに乗っていた。ここは人懐こい野生動物と触れ合えることで有名なサファリパークであった。


「えーこちらのサファリパークですが、産まれた時から人間と触れ合い、共に遊び、育ってきた子達が生息しております。なのでサービス精神が旺盛な子達ばかりなんですよ」

「ヘェー」


ガイドの説明に感心する乗客達。


「見て、萌。あそこヘラジカがいるよ!」

「うわっ! リアルもにょにょけだ」

「そうそう、もにょにょけのモデルになった動物だよね」


もにょにょけとは、もにょにょけ姫の略称で、
古代を舞台とした、人間と動物達のスペクタクル映画のタイトルのことである。

その動物達のボスのシシカミのモデルとなったのが、ここにいるヘラジカである。


「お嬢さん達、よくご存じですね。あのヘラジカ、名前をキノウカと言いまして、ちょっとした芸が出来るんですよ」

「ええー!」


ガイドの言葉に乗客達は一斉に驚く。
気分を良くしたガイドは、さっそくキノウカに芸をさせることにした。


「キノウカくーーん!! あれやってー!」


するとキノウカは急に動かなくなり、顔のみを突然こちらに向け、首を伸ばして目をパチクリとさせた。


「おおーー!!」


バスの中から歓声が上がる。
それこそが、まさに、もにょにょけのシシカミの動きであった。


「すごーい、首だけで動きおったー!」

「首だけで動きおったー!」


もにょにょけの名台詞を一斉に口ずさむ。

バスに乗っていた子供達は、
興奮して、しつこいほど、その台詞を連呼していた。


そうして楽しいサファリパークの旅は終わり、真里と萌はサファリパーク内のフードコートでシシカバブを食べていた。


「うーん、野菜がシャキシャキー、
この名物のシシカミシシカバブ美味しいね」


満面の笑顔で真里が言う。


「うん、名前がややこしいけどね。ほら、このグリズビーソースをかけてみなよ。もっと美味しいよ」

「うわ、ワイルドな味だね。野生の熊って感じ」

「サファリパークだからねー」


ここでしか食べられない料理の数々に二人とも大満足なのであった。


「ふぅーでも毎日こんな贅沢してたら太っちゃうね。
萌はダイエットとかしたことある?」

「んー? 特に体重を気にしたことはないかなー?
ダイエットってさ、一日に思いっきりやっても効果がないものだよね? でも逆に、一日にどれだけ食べてもそんなに太らないものなんだよ。
ここ数日食べたところで、
そんなに急激に太るものじゃないから心配しなくていいよ。
あくまで太るのは、継続的にたくさん食べてる人だけ」

「なるほどーそういう考え方もあるのかー。
さすが萌、スタイル良いだけあるね」

「真里だって魅惑的な身体してるよ?」

「そうかなー?」

「真里は昔から自分の魅力に無頓着なところあるよね。
あなたはもっと自信を持って大丈夫」

「そっか、ありがとう、萌」


にっこり微笑む真里を見て、萌はある質問をすることにした。


「ところで真里って、昔から百合もの好きだけど、
リアルの女の子同士ってどう思う?」

「リアルの? 三次元?」

「そそ、三次元」


真里は目を少し上向きにして考えた。
思い出すのは、旅行で見た恭子と直美のレズプレイだ。

初めて生で見た女同士の性行為が、見知った美女二人だったこともあり、そこまで嫌悪感は感じなかった。

むしろそれでオナニーをしていたくらいである。

さらに女装した誠とレズプレイっぽいことをしていたこともあり、真里は一般的な女性と比べ、はるかに良い印象を三次元のレズに持ってしまっていた。


「気持ち悪いってイメージはないな。
むしろ綺麗ってイメージの方が強いかも?」

「そっかー真里って本当にレズっ気があったりして?♡」

「むむむ、私は誠くん一筋だよ」

「じゃあ、誠くんが女の子だったら?」

「うーん、良いかもー♡」

「やっぱレズじゃん」

「あぁぁぁぁぁ!! 今のは違うぅぅぅぅぅ!!」


真里の反応に大笑いの萌。

しかし彼女はその裏で、
真里がリアルの女同士に抵抗がないことを喜んでいた。



※※※



それから数時間後、ホテルの誠と真里の部屋では、小早川達によるセッティングが行われていた。

ベッドの上では、誠と忍が催眠状態で寝かされており、
いつでもホモプレイが出来る状態にされている。


「長かった調教も、ついに今日で終わりネー」


感慨深く小早川が言う。

思い返すと一ノ瀬真里には、何度も苦汁を飲まされてきた。

催眠に掛かりにくい忍と萌と比べると、真里は催眠には掛かりやすかったが、未知の障害を抱える厄介な人物でもあった。

今でも彼女が完全に暗示に掛からない理由は分からなかったが、リアルで浮気の現場を見せつければ、萌のようにイチコロだろう。


「小早川様、真里と萌が戻って来ました」

「クックックッ……ついに来たわネ。じゃあ暗示を掛けるわヨ」


誠と忍に暗示を掛け、昨夜と同じように交わらせた。
あとは真里にこの光景を見せて、絶望させれば終わりである。

小早川は二人が性行為を始めたのを確認すると、足早に控え室へと戻っていった。


「ふんふふんふーん♪ 誠くんに、シシカミシシカバブ買ってきたけど、気に入ってもらえるかな?」


ニコニコ顔で部屋に到着する真里。

今日のサファリパークがよほど面白かったのか、高いテンションのままだ。

そのまま鍵を開けて入室すると、
奥から男女の喘ぎ声が聞こえてくることに気が付いた。


(えっ!? 部屋、間違えたかな?)


驚き外に出て部屋番号を確認する。
間違っていないようだ……。

恐る恐る足を進めると、
そこには裸で抱き合う誠と忍の姿があった。


(えぇぇっ!!)


二人は正常位で交わり、誠のアナルには忍の立派な男根が挿入されていた。昨日と同じように愛を囁き合い、接吻を交わしている。

真里はその光景を見て、
持っているシシカミシシカバブの袋を落としてしまった。
茫然とした表情で二人の性行為を見ている。


「ぁ……あぁ……誠くん…………な、ななな、何してるの?」


声を掛けたが、二人とも真里の方を見ようともしない。

驚き戸惑う真里であったが、
その時、彼女の脳裏に誠との今朝の会話が甦った。


《誠くんと忍くんのBL良いですね~やっぱり掘られて来て下さい》《う……うん……》


真里は目を大きく開き、半開きになった口に両手を添えた。


(本当にしちゃったんですねえええええええぇぇぇ!!)


冗談で言ったことなのに、まさか本当に忍に掘られてしまうとは……真里は誠がそこまで自分の要望を聞き入れてくれるとは思ってもいなかった。


(た、たしかに、誠くんと忍くんのBL見たかったけど……
まさか本当に美男子同士でこんな…………こんな…………)


なおも男同士で愛し合う二人の姿を見て、
真里の目は潤み始めてしまった。


(うひ……うひひひ……うひひひひひひ……♡♡)


夢にまで見た誠のBLが目の前に転がっている。

真里は二人の元に駆け寄ると、
しっかりとお尻に一物が挿入されているのを確認した。


「はわわ……はわ、はわ、はわわわわ♡
ホントに! ホントに入ってる!!♡ はわわわわ♡♡
忍くんも、そっちの人だったの!?
ちょっと、これヤバイ! ヤバイって! うはーーー眼福♡
はぁはぁ♡ だだだ、だめ男同士で、そんなこと…………
誠くん……気持ちいい……?」

「ぁんっ♡ 気持ちいぃ…………♡」

「やぁーーーーーーーーん♡♡♡♡♡♡♡」

(あっ! そうだ!
忍くんが勃起したこと萌に伝えなきゃ!
でも、これって浮気だよね……?
んーー大丈夫。萌なら喜ぶ……ぜっっっったいに喜ぶ!!
よし、電話しよ♪)


トゥルルルル……電話をかける。
1コールもしないうちに萌は電話を取った。


「もしもし萌! すぐ私の部屋に来て!
なんか、すごいことになってるの!!」

「えっ? わかった。すぐ行く」


真里にためらいはなかった。
最近、萌は忍とのことで揉めていたが、
原因はおそらく忍の勃起不全にあるはずだ。

今、誠と性行為に及んでいる忍は、その一物をギンギンにさせている。忍に男色の気があるのは驚きであったが、これなら萌とのセックスも問題なくできるはずだ。

なんなら二人のために、
誠のお尻を貸し出してあげても良いと真里は考えていた。

もちろん誠の女装を明かさなくてはいけなくなるが、
萌が元の明るい状態に戻れるのなら、
少しくらいレズと思われても構わない。

それに自分以上に腐っている萌なら、二人のホモプレイをきっと喜んでくれるはず。

同じ腐女子ならではの確信が真里にはあった。


そうして5分後、萌が到着する。


「えっ…………なにこれ…………」


彼女は忍と誠の痴態を思いっきり目の当たりにしてしまっていた。それは彼女にとってトラウマとも言えるシーン。

なぜ真里は自分を呼んだのか?
まさかこれを見せるために呼んだというのか?

突然の出来事に理解が追い付かなかった。


「はぁぁぁ!? どういうことぉぉぉぉぉ!?」


怒りが込み上げてきて、振り向いて真里に説明を求めた。

なぜこんな酷いことをするのか?
まさか自分は親友にも裏切られてしまったというのか。
萌の心は怒りと悲しみに包まれようとしていた。

しかしそこで真里の様子がおかしいことに気付く。

なんと真里は椅子に座り、
パンツとショーツを脱いでオナニーをしているのだ。
なんとも色っぽい表情で秘部に手を添えている。

レズっ気が出てきていた萌とって、
その光景はあまりに刺激的なものであった。

子宮がキュン♡となり、
萌の怒りのゲージが大幅にダウンする。


「はぁ……? へ……? 真里……なにしてるの?」

「ハァハァ♡ 萌ぇぇぇ、誠くんと忍くんがすごいのぉ♡」

「誠くん……?」


真里の目線の先には、忍と憎きマコトがいる。

意味は分からなかったが、
とりあえずマコトに抗議することにした。


「この……ドロボウ猫! よくも忍を……」

「違うの、萌! とりあえずマコちゃんの股間を見て!」


怒りの台詞を言っている最中に真里が割って入る。


「はぁ!? 股間んん!???」


感情の制御が難しい。
怒ったり悲しんだり興奮したり驚いたり戸惑ったり、
こんなに短い間に、気持ちがコロコロ変わるのは初めての経験であった。

萌は股間と言われて、マコトの股間に注目した。


「えっ!? ウソっ……!?」


そこには、小さな小さな男性器が生えていた。

毛が一本も生えていない赤ちゃんのようなピンク色のおちんちん。白粉(おしろい)をつけたようなサラサラでプニプニの未熟なペニスがそこにはあった。


「萌、今まで黙っててごめん。
実はマコちゃんって、女装した誠くんなの!」

「えええええええええええええええええええ!!?」


驚きの連続で、訳が分からなくなりそうだった。


(これがあの桐越先輩? そういえば面影あるかも…………
ってことは、これは浮気じゃなくて…………BL!?)


BLであっても浮気は浮気である。
しかしここで萌の腐女子の心に火がついた。


「それならそうと早く言ってよーー真里!!♡」


誠が男であれば何も問題はない。
美男子同士、好きなだけ愛し合ってくださいといった感じだ。

忍が誠との関係を黙っていたことには腹が立ったが、
もしかしたら自分の誕生日の下準備をしてくれていたのかもしれない。

以前、忍の誕生日にレズセックスをしたが、その後、萌はお返しにホモセックスを見せて欲しいと要求していた。

忍は難色を示していたが、自分だけ良いものを見て、
自分は見せないなど通るはずもない。

そしてその期限である萌の誕生日は来月にまで迫っていた。

おそらく忍は誠が男であることに気付き、
その気がないか確認していたのだろう。

中性的な誠であれば嫌悪感も少ない。
なかなか考えたものだ。

そして説得するうちに成り行きでエッチをしてしまった。
自分にそのことを隠していたのは、誕生日にサプライズをするため。

途端に萌は明るい表情へと変わり、スマホを取りだし写真を撮り始めた。

ついでに真里のオナニー写真も撮影する。


「ちょっと! 何、私の写真も撮ってるの? すぐ消してよー」

「めんごめんご、手が滑っちゃった。すぐ消すね」


テヘペロと舌を出し、謝る萌。

(どっちもヤバイ……シークレットフォルダに入れて後で使おっと……)


萌の前には、ホモセックスに没頭する彼氏の姿と、
それを見てオナニーに耽る親友の姿があった。

どっちで気持ちよくなるか迷ったが、
忍のホモプレイは、どっちみち来月見ることができるので、
親友のオナニー姿で抜くことを決めた。

萌は椅子をもう1つ持ってきて真里の隣に座ると、
同じように下半身の衣類を全て脱ぎオナニーを始めた。


「ハァハァ♡ 真里……生BLやばいね……」

「でしょー♡ 誠くん、私が言ったこと、
本気にしちゃって、こうなっちゃったのぉ♡」

「あんっ♡ なにそれー意味わかんないよぉ♡♡」


意味は分からなかったが、真里のしなやかな指が、
彼女の大事な部分を弄っている姿は実に官能的であった。

萌は忍と誠のBLを見るふりをして、
真里のオナニー姿を見てオナニーを始めた。


(あぁっ♡ 真里……そんなに厭らしくおまんこ弄ったりして♡ あ、すごい……エッチな液でヌメヌメじゃん♡
ハァハァ♡ 真里のそこ……さわりたい……♡)

「ねぇ、萌。誠くんと忍くんってカルテトの関係に似てると思わない? 忍くんがカールで、誠くんがテトなのぉ♡」

「ハァハァ♡ そうだね……カルテトだね……♡
ゴクリ……真里ぃ……もっと気持ちよくなりたいでしょ……?♡
私が……ハァハァ……オナニー手伝ってあげるね♡」


萌はそう言うと、真里の座る椅子にひざまつき、
彼女のヴァギナに顔を寄せた。


「えっ!? なに、なに? どうしたの、萌?」

「これは……真里が私のこと慰めてくれたお礼だよ♡
真里は二人のBLを見てて♡
私が……あなたのここ……気持ちよくしてあげるから……♡」


そう言うと、萌は手淫に耽る真里の手を押し退け、彼女の女の園に唇を付けた。


「ええええ!? 萌、そんなとこ……あひぃぃぃぃ♡♡」


ちゅぷちゅぷ、レロレロレロレロ、あむぅ、ちゅううぅぅ♡


(はぁ……真里のおまんこ美味しい♡)


萌は真里にクンニを続けながらも、
自らのクリトリスに刺激を与え始めた。


(あはぁぁぁ♡ すっごい気持ちいい……♡)


これまで溜まっていた真里への欲情を一気に発散させる。
かつて持っていた女同士への嫌悪感も忘れ、ひたすら真里へのレズ責めに没頭する。

そこにノンケだった頃の萌の面影はなかった。

代わりに彼女特有の小悪魔的な表情は、女を性的に嬲(なぶ)るレズサキュバスの様相を見せ始めようとしていた。


「萌……それダメぇ!♡ あうぅんっ!♡」

「ほら、真里は二人の行為に集中して、私がここまでしてあげてるんだから、素直に受け取りなさい」

「は……はいぃぃぃぃ♡♡」


真里は言われた通りに誠と忍のBLを見ることにした。

官能的なカルテトの交わり。
それに加え、同性から大事な部分を舐められているという事実が、真里の背徳感を刺激していた。


(あっ! あっ! こんな……こんなっ!
いけないことなのにぃぃぃぃ♡♡
私、萌にあそこ舐められて、気持ちよくなっちゃってる!♡)

「もぉダメぇ!♡ イッちゃう!! イッちゃうの!!♡」

「イッて……私の口で絶頂して、真里♡」


かつては忍に掛けていた猫なで声を、今は親友の真里に使っている。初めて聞いた親友のそんな声色に、真里の背筋はゾクゾクと震えてしまっていた。


「はぁん!♡ 気持ちいいっ! あっ!♡ あぁっ!!♡
イッ…………グぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!♡♡」

ぷしゅ……プシュウゥゥゥゥ!!


あまりの気持ちよさに、真里は潮を噴き絶頂する。
萌は真里のおまんこに唇をぴったり付けると、それを吸い込んだ。


(ゴクゴク……あはぁ♡ 真里の愛液……おいし……♡ あぁ……真里……すきぃ……私もイクっ……♡)

「んんんっっ!!♡♡ んっ♡ んんっ!♡♡」


ビクビク、ビクッ!!

大好きな女性の愛液でお腹を満たされた萌は、
あまりの幸福感と女淫への刺激で絶頂した。

長い間、ご無沙汰だった萌の身体は、忍ではなく、女性である真里とのレズセックスで満たされてしまったのだ。


「あ……あひぃ♡ あ……ぁ……ぁ……♡」

「はぁはぁ♡ 真里……生BL最高だったね……♡」

「う…………うん…………♡ さいこ…………んんっ!?」


真里の惚けた表情に我慢できなくなった萌はキスをした。
彼女を思いっきり抱き締め、恋人同士がするようにキスをする。


「んちゅ……♡ あはぁ……♡
真里、これは誠くんのキスの代わりだよ♡
二人とも男同士でエッチしてて忙しいでしょ?♡
二人がしてる間は、私が代わりにしてあ・げ・る♡」

「ふうぅぅぅぅん!♡♡♡♡♡」


そのあと真里は萌のレズキスの嵐に見舞われた。



※※※



「…………」


その様子を小早川は無言で見つめていた。

真里は誠に幻滅するどころか、
二人の行為を見て喜んでしまっていた。

おそらく催眠が効き過ぎて、
それが彼女の中で当たり前となってしまったのだろう。

元々は誠と別れさせた後、金蔓とするため掛けた暗示であったが、それにより、萌のように別れさせることができなくなってしまったというわけだ。


「ちっ……あいかわらず運の良い女ネ……」


BL物を好む暗示を解くこともできるが、もう一度掛け直すのも面倒だった。それより気になったのが萌の挙動だ。

彼女は忍には目もくれず、
ひたすら真里へのレズ行為に没頭していた。

忍と別れさせたのが良かったのか、
凄まじい変貌ぶりである。

真里を攻めるのなら、
やはり彼女を活用するのが一番だ。


「BL好きにさせ過ぎて、この方法じゃいくら攻めても無駄みたいネ。やっぱり真里をレズにして、誠ちゃんと別れさせることにするワ。萌がさっき写真撮ってたみたいだから、それはキチンと削除しておきなさい」

「かしこまりました!」


小早川は黒服達にそう指示を出すと、
真里達の記憶を消すため彼らの部屋に向かうのであった。

しかしこの時、小早川は気付いていなかった。

すでに萌が写真をシークレットフォルダに移し終えていたことを…………。

Part.95 【 親友◇ 】

次の日の朝。

ホテルで簡単な食事を終えた真里と萌は、
部屋に戻り、一枚のチラシを見ていた。

カラー印刷された薄い光沢紙には、
水着を着た女性が日焼けを楽しむ姿が写っている。


「萌、プール付きサンルームだって!」

「ほほー宿泊チケット利用者無料か。
ウチラのことじゃん。ちょっと行ってみよっか?」

「もちろん、行く行く!!」


チラシには、このホテルの30階にある屋内プール付きサンルームを無料開放するといった内容が書かれてあった。
宿泊費、飛行機代に続いて、こんなサービスまで無料で付いてくるとは……正直、驚きである。

それからホテルにサンルームの利用を申し出た二人は、
女性スタッフに案内され、サンルームへと移動する。


「こちらのお部屋です。ここは完全個室制で他のお客様の目を気にせず、ゆったりと過ごせるスペースとなっております。
中にある飲み物と果物の盛り合わせは、すべてサービスですので、ご自由にお召し上がりください」


スタッフから鍵を受け取った二人はさっそく中へと入った。


「うわ……想像してたよりずっと広いね……」

「めちゃくちゃ豪華じゃん……
てか、完全個室制だったんだ……凄すぎ……」


大理石と金で装飾された立派なフローリング、中には長さ5mほどのプールがあり、高さ4mほどのガラス壁が続いていた。

備え付けのテーブルの上には、フルーツジュースと新鮮な果物の盛り合せが置いてあり、ビーチベッドの脇の棚には、特製サンオイルが置かれてあった。


「萌、100%マンゴージュースだって、なんか高級そうなパッケージだね」

「これ知ってる! ミチェランで☆5を取った店のジュースだよ。たしか一本1万円くらいしたはず」

「いちまんえんっ!?」

「ちょっとやり過ぎだよね……
商店街の抽選会で、こんなすごいの当たるかな普通……」

「ホントそうだよね……」


商店街の景品など、良くてもせいぜい5万円程度である。

こんな高級ホテルに9日間も泊まり、全て無料であることを考えると、その価値は100万円以上はするように感じられた。



ポンっ!

椅子に座り、フルーツジュースの栓を抜く。

グラスに注ぎ、口に含むと、
濃厚なマンゴーの香りが全体に広がった。


「「おーいしーー♪」」


あまりの美味しさに真里は足をバタつかせている。


(これ誠くんにも飲ませてあげたいな。
後で二人でもう一度来てみよっと♪)


誠は朝から忍の部屋に行っているため、一緒には来れなかった。萌との間で何があったか忍に教えてもらうため、出向いてもらっていたのだ。


(でもなんか昨日も同じことを頼んだような気がする……)


なぜか昨日の記憶が混濁している。

思い出そうとしても、断続的なものになってしまい、
ハッキリとは思い出せなかった。

だが真里がその事に執着することはない。
気にしないように暗示を掛けられているのだ。


それから二人はプールで軽く遊ぶと、
さっそくサンオイルを使って身体を焼くことにした。


「あまりスーパーとかで見かけないサンオイルだね。
小早川製薬って書いてあるよ」


サンオイルの瓶をマジマジと見つめ真里が言う。


「そういえばこの島って小早川って付いてる会社多いよね。
このホテルも小早川だし、小早川製薬、フルーツパーラー小早川、ボクシングジム『KOBAYAKAWA』、小早川電機、
みんな小早川が付いてるね」


萌の話を聞き、真里はふと思い出す。
そう言えば、最近恭子と取引のある相手も小早川だったと。

もしかしたらその系列の会社なのかもしれないと、彼女は考えた。


「じゃあ、そろそろオイル塗ろっか?
ほら、真里。塗ってあげるから横になって」


萌はビーチベッドを指差し、うつ伏せで寝るように言った。


「ありがとう、塗り終わったら、次私が塗ってあげるね」


瓶の蓋を開け、サンオイルを真里の背中に垂らす。
萌は両手を使って、それを背中全体に伸ばしていった。

なんの変哲のないサンオイル。

実はこれは、小早川製薬が開発した強力な媚薬入りのサンオイルであった。

塗れば、どんな相手にも欲情させてしまう催淫効果を持つ媚薬で、これまで数々のノンケを同性愛者へと変えていった悪魔の薬であった。


(はぁ……真里の肌、すごいスベスベしてる。触れてるだけで気持ちいい……)


前日の夜、萌は美男子同士の性行為には見向きもせず、
ひたすら真里への愛撫に専念していた。

真里が自慰をしていたので、やりやすかったのもあるが、
彼女は素の状態で、そういう行為に及んでしまっていた。

今はそれに加え、媚薬の効果もある。
萌がハメを外すのは時間の問題であった。


(あれ、だんだん身体が熱くなってきた……なんでだろう?)


真里の頭に廻る素朴な疑問。

媚薬の効果が表れ、
徐々に彼女の身体を蝕(むしば)み始めているのだ。


「んっ……♡…………ぁっ…………♡」


たまらず声を漏らす。


「真里、何か言った?」

「んっ? な、なんでもないよ……気にしないで」

「そか、わかった」


萌の問いに、慌てて取り繕う。
まさか感じているなどと、親友に思われたくない。

こんなので感じてしまったら、
またレズだと疑われてしまうでないか。


(そういえば最近、誠くんとエッチしてなかったな……
だから感じやすくなってるのかな?)


頻繁にしていた誠との性行為も、
この島に来てからは一度もしていなかった。

本来であれば疑問に思わなければならないことだが、
それすらも催眠によって気にならないようにされていた。

そもそも二人の行為は、
真里がペニバンを使って誠を犯すことが多く、
誠の方から真里を責めることはなかった。

それにより、責められ慣れていない真里の身体は、
萌の愛撫を、より敏感に受け入れるようになっていたのだ。


「ねぇ、真里。思ったんだけどさ」

「な、なに……?」

「ここウチラしかいないし、水着脱いでも良くない?」

「えっ……?」

「正直、塗りにくいんだよね。
このまま焼いても水着の跡が残っちゃうしさ。
お風呂入る感覚で脱いでみたらどう?」

「うーん……どうしよ?」

「とりあえず、私は脱ぐね。水着にオイル付くの嫌だし、
どうせここには真里しかいないしね」

「わかった。じゃあ私も脱ぐよ」


真里は立ち上がると、水着の上下を脱ぎ始めた。

そこで気が付く。


(あっ……やば…………)


パンツの内側に糸が引いてしまっている。
オイルを塗られる気持ちよさで、濡れてしまっていたのだ。


(ウソ…………私、ここまで感じてたの……?)


同性にオイルを塗られただけで、
ここまで濡らしてしまったら、レズそのものではないか。

さすがに言い訳できないと思い、
慌ててパンツを畳んでポーチにしまった。

そんな真里を見て、萌がニヤリと笑っていることに、
その時、彼女が気が付くことはなかった。



※※※



「じゃあ続きいくよ?」

「うん……お願い……」


正直、もうオイルは塗られたくなかった。

自分が性的に感じてることに気づいた真里は、
萌にそれがバレてしまうのではないかと心配していた。

萌の手が背中に触れる。

心なしか、先ほどよりも触り方が厭らしくなっているような気がした。意識するから、そう感じてしまうのだろうか?

肩、腰、オイルを塗る範囲は徐々に広がっていく。


「はぁ………………♡ はぁ………………♡」


呼吸をゆっくりと行い、快感をまぎらわす。

だが萌の手がお尻に触れた瞬間。
真里はふたたび声を上げてしまった。


「んんっ……!♡」

「どうしたの、真里? 変な声出しちゃって……?」

「ん、ご、ごめん、なんでもないよ」

「まさか、感じたりしてないよね?」

「ま、ままま、まさか。そんなわけないじゃん!」

「そうだよねー真里、ノーマルだもんねー」


これ以上、変な声を出してはいけない。
真里はぐっと口を閉じて、声を出さないように我慢した。

しかし萌は、
そんな真里をからかうように厭らしい愛撫を続けていく。

お互い全裸のまま。片方は火照った身体を小刻みに震わせている。まるでレズAVのような光景だ。

萌の両手が真里の白く形の良いお尻を愛撫する。

たっぷりの媚薬がその豊満な谷間から流れ落ち、すでに濡れぼそった真里の秘部に付着する。

真里のピクピクとうねる下の唇は、その悪魔の薬を口に含み、愛液と混ぜ合わせていく。

くちゅくちゅと交ざり合い、逆流した薬の効果は、真里の体内へと侵入し、さらに彼女を狂おしいほどの快感の波へとさらってしまうのだ。

そうして足のつま先までオイルを塗り終えたところで、
萌は言った。


「はい、後ろ完了だよ。仰向けになって」

「えっ……前もするの?」

「当たり前じゃん。
後ろだけして、前、塗らない人なんていないでしょ……
もしかしてレズビアンの真里ちゃんは、
私にオイル塗られて感じちゃうから、
これ以上塗られたくないとか?
それなら無理にとは言わないけど?♡」


ニヤニヤと笑って、からかう萌。
真里の反応から感じていることは丸分かりだった。


「ち……ちがーう、私、レズじゃないし……
ただ裸だから、どうなんだろうなって思っただけだよ」

「別にノーマルだったら良いんじゃない?
私達、女同士だし、真里もオイル塗られて変な気分になんてならないだろしね」

「だ、大丈夫……」

「じゃあ、仰向けになって」

「わかった……」


渋々仰向けになる。
親友に裸体を晒していることを、なぜか恥ずかしく感じた。


(うぅ~~すごい恥ずかしい…………
誠くんに見せるよりも恥ずかしいんだけど…………)


温泉で直美に見せた時は、ここまで意識しなかったはずだ。
催眠によって刺激された真里のレズっ気は、着実に彼女の嗜好を変化させていた。


「じゃあ塗るよ。変な声出さないでね」

「出ないから大丈夫……」


サンオイルが胸に垂らされる。
萌の手のひらが乳房に触れ、ゆっくりとそれを広げた。


「はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」

(あぁーだめぇぇぇ……萌の手、すっごい気持ちいぃ……
なんで、こんなに気持ちいいのぉ……)


これは明らかにセックスの時の快感。

その気持ち良さは、誠の愛撫に比べて、はるかに上だった。
実の彼氏よりも感じることに真里は困惑していた。

そこで萌の指が乳首に引っ掛かる。


「んんっ!♡」

ビクビクっ!

「…………まーり?」

「あっ! 違う……今のは……」

「へぇー乳首こんなにしててもそう言う?」

「えっ?」


萌に言われ確認する。


(ひゃーー!!○%×$☆♭#▲!※)


ぷっくらと膨らんだ真里の乳首。
胸の先端でそれはハッキリ分かるように勃起していた。

あまりの恥ずかしさに赤面してしまう。


「あ……こ、これは……その……」

「もう気にしなくて良いよ。声も出したければ、出して良いから。我慢してるの丸分かりだよ?」


萌は、しょうがないなーと言った感じ真里を見ている。

その目はすでにノンケの女性に向ける目ではなかった。
明らかに真里をレズビアンとして見なしている。

そんな目だった。


「大丈夫、真里がこういうのが好きでも、気持ち悪いなんて思わないから安心して。
真里にレズっ気があって、女の子の手に発情しちゃう女の子でも、私は真里のこと好きだよ」

「ち、ちっがーう……」

「はぁ……強情だね。これでもそう言える?」


萌はそう言うと、
真里の勃起した乳首を口に含み、舐め始めた。


「あぅぅんっ!!♡ んんんっ!!♡」


同性の萌に乳首を舐められ、真里は可愛らしい悲鳴をあげる。
誠にも聞かせたことのない卑猥な喘ぎ声だ。

舐められた突起は、これ以上ないほどピンと張ってしまっていた。


「ほら、そんなに可愛い声出して、これでも感じてないって言えるの?」

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ♡」


荒い息を吐いて快感に震える。心臓が激しく鼓動する。
真里の陰部からは、愛液がトクトクと溢れ始めていた。


「萌……なんでそんなとこ……舐めるの……?」


まるでいじめられたと言わんばかりの顔をして真里が尋ねる。
仔犬のようなシュンとした表情。
そんな彼女の表情に、萌の加虐欲が刺激される。


「んー? 真里があんまり否定するもんだから、ちょっとからかってみたの。
すごいレズっぽかったでしょ?
でも真里さーやっぱりレズっ気あるんだよ。
気持ちよかったんでしょ? もうバレてるんだから正直に認めなよ」


呆れたように萌は言う。
そんな彼女の態度に、これ以上否定しても、よけい呆れさせるだけだと判断した真里は、正直に答えることにした。


「うぅ……気持ち良かった……」


誠にはこんなに厭らしい触り方はできない。
性格的に言って、萌はこういった女体の触り方に向いていたのだ。


「そっか♡ じゃあ続きしてあげるね♡」


萌はにっこりと微笑むと、オイルをたっぷりと手のひらに乗せ、真里の股間を愛撫し始めた。


「えっ? ……萌!? ああぁんっ!!♡」

「こんなに反応しちゃって……んっ♡
もぅ……ほんと、真里は女好きなんだから……いけない子……♡」

「……ダメぇ…ぇ…♡」


真里からは見えないが、
萌の女性器もすっかり潤ってしまっていた。

真里の反応ひとつひとつに、萌のクリトリスがピクピク震える。すっかり同性に興奮するようになってしまった萌の心と身体は、真里をより淫らな姿に変えようと動き出してしまった。


「だいぶ溜まってるみたいだし一度イっちゃったら?」

「イク……なんて……そんなこ……と……ふあぁぁんっ!♡」

「私としては一度イってもらった方が良いなー。
真里が喘ぎすぎて、このままじゃオイル塗れないしね♡」


なおも執拗に真里の女性器を撫で回す。

真里は足を閉じて抵抗するが、オイルが潤滑剤となり、
股間への侵入を容易に許してしまう。

腰をくねらせ、快感に身悶えする真里を見て、
萌は我慢ができなくなり、彼女にキスをした。


「あむんっ……んんっ…………♡」

ちゅ…………ちゅぷ…………ちゅぷ…………


真里の柔らかい唇の感触をしっかりと感じとる。
抵抗は少なく、真里がこのキスを受け入れていることが分かった。


「ふふふっ……♡ 抵抗しないんだね、真里♡」


真里は抵抗できなかった。
媚薬の効果もたしかにあったが、
受け手としての性行為を身体が求めてしまっていたのだ。

普段、誠とのエッチで真里は攻めに回っていたが、
それは誠がドMだったからそうなったのであって、
真里は本来、受け手であったのだ。


(あぁん♡ 萌とのキス気持ちいぃぃぃぃぃ♡
なんでぇ? なんでこんな気持ちいぃの……?
誠くんとのキスより良いなんて……
そんな……こと……んっ♡ ありえないぃぃぃ♡)


すっかり翻弄される真里の心。
調子が上がってきた萌は、秘貝への愛撫に集中した。

同じ性別同士、
どこをどう触ると気持ちがいいか分かっている。

萌の愛撫は、そうした感じる部分を的確に刺激していった。


「あんっ♡ あんっ♡ あんっ♡
それ……ダメぇっ……♡ イキそうだからっ、もうやめっ……」


再び真里の唇をキスで塞ぐ。

緩く、優しく、滑らかに、
真里の性感はどんどん高まっていく。

親友との禁じられた行為に、真里の背徳感はどんどん高まっていく。

そしてついに真里は限界を迎え……


「んんんっ!♡ んーー!♡ んんーー!♡
んんんん!♡♡ んふーーーーっ!♡♡♡♡♡」

ビクビクビクビクッ!♡ ビクビクビクビクッ!♡


絶頂に達してしまった。

真里はあまりにも深くイッてしまったためか、
断続的に込み上げる快感に、軽い痙攣を起こしてしまっていた。

萌はそんな真里を優しく抱き締める。

もはや女同士だからという感覚は彼女にはなかった。
むしろ女同士だからこそ、ここまで一体になれる。
彼女の性への価値観はすでに逆転してしまっていた。


(真里が欲しい……もっと貴女と愛し合いたい……)


半開きになった真里の口に舌を差し込む。
舌と舌を絡め合わせた甘いディープキスだ。


(あぁ……萌……すごぃ……♡
こんなに積極的に……あぁん……気持ちいぃ……♡)


こういったディープキスにおいて、完全に受け手に回るのは、真里にとって初めての経験。
真里の意識は女同士の快楽の世界に溶け込んでいった。


「ちゅう……真里……私とのキス、どうだった……? 」

「はぁはぁ……すごい……良かったぁ……♡」


萌の責めにすっかり翻弄されてしまっていた真里は、
その問いに、つい本音で答えてしまった。

真里の返事に萌は改まった顔をすると、すがるような想いで尋ねた。


「真里、大好きだよ。こうなったら一緒になろう……?
私、真里とだったらレズになっても良い。
もう男はこりごり…………二人で付き合おうよ。ね?」


最愛の人の裏切り。
そのぽっかりと空いた穴を埋めてくれたのが真里だった。

真里の優しさにいつも包まれていたいと思った。
彼女といつまでもこうして心を通い合わせたいと思った。

萌にとって真里は、既に親友以上の存在となっていたのだ。


「それは……ダメ……私には……誠くんが…………」


だが真里は断った。いくら身体が萌を受け入れようとも、彼女の心には常に誠がいた。
分かりきっていた答えに、萌は目を伏せて寂しそうな顔をする。


「そっか…………そうだよね…………」


真里がどれほど誠を愛しているか分かっている。
その恋路を応援する立場にいたのだから。

だがそれでも萌は、真里を手にいれたいと思った。

真里の反応を見る限り、彼女が自分との性行為に大きな快感を得ていることは分かった。
もっと大きな快感を与えて、彼女が自分から求めるようになれば、もしかしたら……
萌は心に蓋をして、真里を女同士の快楽の虜にすることを決めた。


「ごめん、真里……私にはあなたを諦めることができない……私にはあなたが必要なの……」

「えっ……萌……?」


見たことのないような萌の表情。
悲哀を纏ってはいるが、彼女の顔には決意がみなぎっていた。

まさか親友が、そうまでして自分を欲しているだなんて……

だが逃げようにも、力が抜けて身体が動かない。
萌が徐々に迫ってくる。


「萌……ダメ……そんなことしちゃ……やめて……」

「真里が誠くんを愛しているのは分かってる……
でも、お願い……私のことも受け入れて……お願い……」


萌が目に涙を浮かべている。

忍との間に何があったかは分からなかったが、
彼女がこんな凶行に及ぶなんてよっぽどのことだ。

萌の手が再び自身の身体に触れる。

彼女の手は小刻みに震えていた。
親友との関係を壊してしまうかもしれないこの行為。
萌にとっては決死の覚悟なのだろう。

真里は親友が選んでしまったこの方法に、ひどく悲しみを覚えた。そしてそれ以上、彼女に抵抗の意思を伝えるのを止めることにした。



※※※



それから萌は真里を犯し続けた。

媚薬をお互いの身体に塗り、柔らかい胸同士を密着させ、貝合わせを行い、唇を重ね合わせた。

真里は萌との行為によって何度も絶頂に達し、
それにより得た快感は、誠との行為によって得た快感を、はるか超えるものだった。

真里は萌との身体の相性が凄まじく高かったのだ。

特に催眠の影響があったからというわけではない。
それは元々の相性によるもの。

本来一緒になるべき存在。

そう運命を感じさせてしまうほど、
二人の凹凸はぴったりと当てはまっていたのだ。

しかし、それでも真里の心は落ちなかった。

彼女の心に根付いている誠への気持ちは磐石なもの。
どんなに強い快感を与えても、それが変わることはなかった。

いつしか萌の心は諦めの気持ちに包まれようとしていた。
元々は不純な動機。根が善人である萌が、そのモチベーションを長く保てるわけがなかったのだ。
そしてその反動で、萌は後悔の念に包まれることとなる。


「ごめん、真里……私のこと、嫌いになったよね……
こんな……レイプなんかして……ぁ……ぁぁ…………」


天を仰ぎ、涙を浮かべる。

なんて自分勝手なのだろうか。
本当に泣きたいのは真里の方なのに……。

初めから誠に勝てないのは分かっていた。
真里は身体の快楽程度のことで心が揺れるような人物ではない。かつて親友だった自分にはよく分かっていた。

それでも試したかった。
真里に一番近い場所で、幸せな日々を過ごしたかったから。

真里は既に自分のことを軽蔑していることだろう。
まさか自分がこんなにも最低な人間だとは思わなかった。

真里の心を傾かせられなかった以上、あとは警察に自首するだけ……。

命が潰(つい)えるその日まで、彼女には償い続けていくことにしよう。萌はそう考えた。


「真里……今までありがとう……
最後、こんな感じになっちゃってごめんね……」


萌は真里から顔を背け、その場を立ち去ろうとした。
そんな彼女の手を、真里が掴む。


「待って」


怒気を強めた真里の声。
呼び止められて萌は思った。

最後に殴らせて欲しいと言うのかもしれない。
それで彼女の気が晴れるなら……

萌は真里の方を振り向いた。

ギュッ……

途端に萌の身体を真里の両腕が優しく包む。
考えてもいなかった展開に、萌は驚き真里を見た。


「バカ萌、勝手に行かないで……」

「だって……」

「こんなことくらいで、そこまで深刻に考えないでよ!
萌が何考えているか分かるよ! くだらないことしようとしないでっ!」


真里が怒っている。
レイプされたことに怒るなら分かるのだが、
彼女は萌が罪を償おうとしていることに怒っていた。


「付き合うから」

「えっ?」

「萌がそんなに私と付き合いたいなら付き合うから、変なことはやめてっ!」

「でも真里には誠くんがいるじゃん……」

「誠くんのことは考える……だから一旦保留」


そう言い真里は萌にキスをした。


「そんなことより、もう一度エッチしよ? ね、萌?」

「真里……どうして……」


それまでずっと別れを否定してきた真里が、今は考えると言ってくれている。萌には、彼女のその心の変化が分からなかった。

真里は萌を押し倒すと彼女の乳首を口に含んだ。
精一杯、愛情を込めて舐める。

同時にクリトリスへの愛撫も始めた。
真里の性格が現れたような、実に優しい愛撫であった。

数分もしないうちに萌は絶頂に達する。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「萌、気持ちよかった?」

「うん……すごく良かった……」

「そっか。初めて女の人としたから、勝手が分からなかったけど、気持ち良くできて良かった♡」

「でも、本当に良いの?」

「もう付き合うって決めたんだから良いの。
でも自分を見失うのだけは、もう止めなよ?」

「う、うん……ありがとう……真里……」


真里は、顔を真っ赤にして泣き始める萌を抱き締めると再びキスをした。それから二人は萌の部屋に移動し、夜まで交わり続けたのであった。



※※※



真里にとって、萌は大事な親友であった。

萌が自分のことを恋人として好きだと分かっても、
自分をレイプする凶行に及んだとしても、
その意識を変えることはなかった。

萌がそのような行動に出たのは単に『追い詰められていた』からだ。

忍との間で何が起きたかは分からなかったが、
彼女を変貌させるだけの何かがあるのは確かだと思った。

冷静さを失ってしまった彼女を救う方法は、
拒否することではなく、受け入れることだ。

萌の性格を考えると、自分をレイプしたことにより、
良心の呵責(かしゃく)に苛(さいな)まれるのは分かっていた。

そのため彼女が自分の元を立ち去ろうとした際に、
真里は怒ったのだ。

要するに勝手に罪の意識を感じて、
勝手に罪滅ぼしするなということだ。

真里は、萌がそんな状態になるくらいなら、
女同士で付き合うのも、エッチするのも構わないと思った。

自分の貞操と萌を天秤に掛けたら、圧倒的に萌の方に重心が傾く。それくらい萌は、真里にとって大事な人だったのである。

誠に断りも入れず、付き合うのは気が引けたが、
萌がおかしくなるかもしれない緊急事態である。

事情を話せば、必ず誠は分かってくれると思った。

もちろん誠と別れるつもりはない。

一旦保留としたのは、
後程、萌の様子を見ながら妥協点を見出(みい)だすためだ。

本当で自分と付き合いたいのか?
単に一時の気の迷いなのか?

それも確かめたかったし、誠にも相談したかった。
それによって対応を考えようと思った。

真里は誠と同じくらい、萌を失いたくはなかったのだ。



※※※



真里と萌が愛し合っているその頃。

萌と別れ、楔(くさび)を失ってしまった忍は、誠を犯していた。

以前のような催眠への抵抗力はなくなり、
小早川の人形として、好きなように操られていた。


「ほら、マコトちゃんも早く忍ちゃんのように素直になりなさい」


いつものように真里と別れるように促される。
だがどんな方法を使っても、誠は決して首を縦に振らなかった。


「忍ちゃんと恋人だった時のことを思い出して?
忍ちゃんに愛されて幸せだったでしょ?
認めれば、その幸せがずっと続くのヨ? 何を迷うことがあるの?」

「そんな……まがいものの幸せ……要りません……
私にとって……一番大切な人は真里さんです」


そんな誠の態度に小早川は呆れた顔を見せると、調教を終えることにした。


「この方法じゃ、いくらやっても無駄ネ……。
あんな女のどこがそんなに良いって言うのヨ……」


これほどやってもダメなら仕方がない。
小早川は誠に心変わりさせることをついに諦めた。

彼の頭には、
ようやく萌との交際を認めた真里のことが浮かんでいた。

彼女を真性のレズビアンに変えて、誠と別れさせる。

誠を手中に納めるには、
もはやその方法しかないと彼は思った。

Part.96 【 秘密の写真◇ 】

南の島に来て一週間が過ぎた。

萌は忍と別れ、代わりに真里と付き合うようになっていた。

真里の誠への想いは変わらないものの、
萌と新しい関係を築いたことによって、一点の迷いが生じることとなる。

小早川はその迷いに付け入ろうとしていた。

真里にとって萌は、誠よりも長い交友関係にあった。
それに加え、お互いに心が通じ合う仲でもある。

もしも真里が再び催眠を受け、
その迷いを増幅されることにでもなれば……

すでに誠と真里の関係は余談を許さない状態となりつつあった。



※※※



その日、真里と萌は、南の島遊園地に来ていた。

あれから真里は自分の部屋に戻れず、誠と連絡が取れないでいた。理由は萌が常に密着していて、スマホをいじれなかったからだ。

誠からも連絡が来ておらず、
忍との間で何があったか気になるところであったが、
今の状態の萌を放っておくわけにもいかなかった。

真里は誠のことを気に掛けながらも、萌の行動に付き合うことにしていたのである。


「まーり♡ 次は観覧車乗ろーよ!♡」


真里という心の支えを得て、だいぶ気持ちが落ち着いたのか、萌は昨日とは打って変わって明るい表情をしていた。

忍と別れ、男への興味を失ってしまった彼女は、
初めて経験する女同士のデートにうきうきしていた。

二人は身体を寄せ合い腕を組み歩いている。

親友から恋人に関係が変わったことにより、
真里へ対する萌の態度も大きく変わった。

彼女は艶かしい表情で真里を見つめ、
事あるごとに誘惑するようになっていた。


「ねぇー真里。観覧車に乗ったらなにしよっか?」

「何って……景色見るだけじゃないの?」

「えーそれだけ? せっかく付き合うようになったのに?」

「……なんだろ? 何かあったっけ?」

「ふふふ……じゃーあ、乗ったら教えてあげるね?♥️」


萌はそう言い、さりげなく真里の胸に触れた。

「ふぁっ!♡」

ちょっと触れられただけで、ビクッと身体を硬直させてしまう。


「真里ってば、反応良すぎ♡
そんな大袈裟に反応してたらみんなに見られちゃうよ?」


真里は気になり辺りを見回した。
遊園地ということもあり、大勢の人の姿がある。

しかし予想と違って、この様子を気に掛ける人はいなかった。

真里は少し安心すると「分かってるんだったらやめてよー」と萌に抗議するのであった。



そうしてしばらくして、二人は観覧車乗り場へと到着する。


「真里、足元気をつけて乗りなよ」

「大丈夫、ちゃんと見て乗るから」


二人は観覧車に乗り込むと、さっそく街の景色を眺め始めた。本州から遠く離れたこの島には、センチュリーハイアット小早川をはじめとした高いビルが並んでいる。

豪華なショッピングモールや、活気溢れる繁華街もあり、
お金持ちが好んで過ごす桃源郷といったところだ。


「こうして見ると、そこそこ発展してる街だよね」

「そうだねアヘリカ街とかもあるみたいだし、
外資系企業とかも来てるのかもね。
私、この島来て本当に良かったー♡
真里ともこうして付き合えるようになったしね♡」


景色を眺める真里のお尻を撫で回す。


「えっ、ちょっと、萌!?」

「真里のお尻、柔らかーい。
いつまでも触っていたいくらい。すりすり♡」

「ちょっと、萌……そんなところさわんないで、ぁんっ♡ ぁ……ダメぇ♡」


ダメと言いながらも、真里は抵抗しない。
萌の手の動きに合わせて、腰を動かすだけだ。

一夜を共にしたこともあり、彼女の身体はすっかり萌から与えられる快感を、素直に受け入れるようになってしまっていた。


「そんなこと言って、真里のここ、濡れてるよ?♡
えっろーい♡ ふふふふ♡」


そう言って、少し染みの出来ているショーツの割れ目部分をツンツンと突く。


「ふぁんっ♡ だって萌が触るからーぁんっ♡」

「うーん…………もっと触りたいけど、ちょっとこのままじゃビショビショになっちゃうな…………一旦脱がすよー」

「えっ!? ちょっとちょっと!」


萌は真里のロングスカートをめくると、ショーツを脱がせ始めた。生地と性器の間に糸状のものが伸びる。


「こんなところで、恥ずかしいよ……」

「大丈夫、どうせ外からじゃ見えないから。
それより拭いてあげるから、スカート抑えといて」

「あぁ、こんな……丸見えじゃん……」

「真里は私の彼女なんでしょ?
付き合っているなら見られても平気じゃない?」

「わかった……」


真里は顔を紅くしながらもスカートの裾をめくった。
腰を屈めた姿勢で萌が秘所を拭いてくれるのを待っている。


(あぁ……恥ずかしい……でも付き合うって言っちゃったし……
今だけでも萌の彼女としてがんばらなきゃ……)


もともとそれは我を忘れてしまった萌を正気にさせるための言葉だった。

しかし真里は、演技が下手くそな女である。
彼女のふりをしようにも、言葉が棒読みになり、
上手くいかなくなるのは分かっていた。

だからこそ真里は、萌の彼女でいる間は、本当の彼女であろうとした。要するに思い込みというものだ。

だがそれによって、女同士の快楽に目覚めたばかりの真里は、
最高の相性を持つ萌の卑猥な要求に逆らえなくなってしまっていた。

萌に見られる羞恥心から、
彼女の秘部は、さらに潤いピクピクと反応する。


「はぁはぁ♡ 真里……エロいよ……♡」

「もー早く拭いて……」

「分かった分かった、もうちょっと待っててね」


萌はガサゴソと動いているようだったが、
なかなか拭きに来なかった。

そうしてしばらくすると……


パシャパシャ!パシャパシャ!

「ふぇっ!?」


なんと萌はスマホで真里の性器を撮り始めてしまった。
これには真里もびっくり仰天、すぐにスカートを離し抗議する。


「ちょっと撮らないでーー!」

「はぁはぁ♡ ごめんエロ過ぎて、つい……」

「もうヤダー萌嫌い」

「ホントごめん、ちょっとやり過ぎだったね……」


さすがに悪いと思ったのか少し真面目に謝る萌。
しかし彼女はそうしたのも束の間、真里のスカートをめくり、続けて言った。


「でもさー真里、濡れすぎてて、これじゃあ拭いてもすぐに濡れちゃうよ? 一回イッちゃった方が良いかもね」

「……っ!」

「ふふ……期待したでしょ?♡」

「はぁはぁ……♡」


昨夜、萌から受けた快感を思い出す。
真里は目立った拒否をすることもなく、身体を任せてしまっていた。


「真里ったら……ここ……こんなに悦ばせちゃって……♡」


蜜の溢れる女性器に、萌の指先が触れる。


「ぁ……はぁ……♡」


真里は、狂おしいほど淫欲に染まった顔を見せる。

どちらかというとエロスに忠実なタイプの真里にとって、
覚えたばかりのレズの快感は、ある種の麻薬のようなものであった。


「ほら、真里。もっと腰を上げてごらん?♡」

「うん……♡」


真里は自身の恥部を気持ち良くしてもらうために、
腰を上げて両足を広げる。

萌は熱を持つそこに顔を近づけると、息を吹き掛けた。


「フゥー」

「ひゃんっ!?♡」

「ふふふっ♡ レズビアンの真里ちゃんは、ここをどうして欲しいのかなぁ?」


萌がニコニコと質問を投げ掛ける。
真里は、萌が望んでいることを理解すると、羞恥に顔を歪めて返事をした。


「ハァハァ♡ おまんこ……気持ちよくして……んっ♡ 萌の口でイカせてぇ♡」

「よくできました♡」


萌は割れ目に口を付けると、上唇と下唇を使って愛撫を開始した。

ちゅ……あむ……ちゅぷ…………♡

(あぁ……萌の唇……ヌメヌメして……ぁっ♡
すごい……気持ち……いぃ……♡)


同性にクンニされる。
好きな人に、こうして大事な部分を愛してもらえることに、
真里は大きな喜びを感じてしまっていた。


「んっ!♡ んっ!♡ んふーー♡ んふーーー!♡」


漏れ出る真里の声が、萌の欲情を掻き立てる。


(あぁ……真里、エロいよ……エロ過ぎるよ……そんな声聞いちゃったら、私、もう我慢できない)


萌も自らのショーツを脱ぎ、自慰を始めてしまう。

完全にスイッチが入った二匹のメスは、
そのまま腰を振り、めくるめく官能の海に飛び出していった。

真里も萌のクンニに合わせ、気持ちの良いところを探っていく。
萌の舌に、硬く凝り固まった敏感な突起を乗せて擦り付ける。

真里のそんな痴態に、萌の興奮はさらに高まる。
自身のクリトリスへの刺激を強め、来る恋人の絶頂にタイミングを合わせた。

そうして数十秒後。


「あぁっ萌っ!♡ 私、イクッ! イクッ! イッちゃうぅ!!♡」

「いいよ♡ イッて、真里♡ はぁんっ♡ 私も……私も! あぁぁっ!!♡」


二人の頭を真っ白な快感が貫いた。
ゆっくりと力が抜けていき、体勢を崩す真里を萌が支える。


「はぁはぁ……萌ぇ……♡」

「はぁはぁはぁはぁ……真里……気持ち良かったね……♡」

「うん…………♡ ちゅ…………♡」


柔らかい女同士の唇が重なる。
同性同士というのに、それはあまりにも自然な感覚だった。


「愛してるよ……真里」

「私も……愛してるぅ……」


真里のその気持ちに嘘偽りはなかった。
たしかに拒否すれば萌がおかしくなってしまうから、という気持ちもあったのだが、
こうして身体を交わらせて感じる想いは、本物だと真里は感じていた。


(誠くん……ごめん……萌に対してこんな気持ちになっちゃって……)


真里は心の中で誠に謝罪した。
元から大好きな親友。

そんな彼女が堕ちる姿を見たくなかったし、
彼女の愛を受け入れたふりをするのも嫌だった。

我慢はしていたが、催眠の効果もあり、
真里は本当に萌を愛するようになっていた。

これも全て彼女の真面目な性格が招いた結果である。


ガチャ……

急にドアが開く音がして、二人は振り向く。


「あっ……すみません……もう一周どうぞ……」


係員の男性は顔を硬直させたまま後退(あとずさ)ると、
他の客に見えないように、そのままドアを閉めてしまった。


「…………」

「…………」

「ちょっと、萌! 一周終わっちゃったじゃん!
ちゃんと見ててよっ!!」

「めんごぉ…………」


二人はエッチに夢中になり過ぎて、
観覧車が降りてきていることに気づいていなかった。

係員がドアを開けた時には、ショーツを脱ぎ捨てた女性二人が接吻を交わしているところであった。

あまりに衝撃的な光景に、上手く言葉を出せなかった係員は、咄嗟(とっさ)にもう一周させることを決めたのだった。



※※※



ふぅーとため息をつく二人。

萌は真里の股間をティッシュで拭くと、
真里にショーツを履かせ、ゴミをビニール袋へと入れた。


「ところでその写真どうするの?」

「んー? もちろんオカズにするに決まってるじゃん。
真里のこんなあられのない姿、いつだって……はぁ♡」

「そうじゃなくて、誰にでも見れるようにしないでよ?
スマホなくして誰かに拾われるかもしれないしさ」

「あーーそうだね。大丈夫、シークレットフォルダに入れとくからさ。これ特殊な操作をしないと開けない仕組みになってるんだ。アプリにも表示されないしさ」

「へぇーそんなのあるんだー」

「ちょっと見てみる?」

「うんうん!」


真里と萌は隣同士に座り、スマホの画面を見つめた。
萌のシークレットフォルダには、BL同人の過激なエロ画像が大量に入っているらしく、真里はそっち方面でも期待していた。


「はい、じゃあ移動完了っと。これで誰にも見られないよ」

「ありがとう、じゃあさっそくカルテトを……」

「はいはい、スライドするね」


萌が画像をスライドさせると、思いがけないものが映し出された。


「えっ!?」


二人は絶句する。

そこには先ほど撮影したものとは違う、
真里がオナニーをしている画像が映っていたのだ。


「えっ何この写真……これ私だよね……いつ撮ったの?」

「し、知らない……この写真なに……?」


真里は一瞬、萌が隠し撮りしたものと思ったのだが、
彼女の引きつった顔を見て、それはないと判断した。


「あっここ私の部屋だ……シーツの模様が一緒だ」


部屋といっても、○✕市にある真里の部屋のことではない。
現在泊まっている部屋のことだ。

しかし全く身に覚えがなかった。

そもそもこの島に来てからというもの、
萌とするまでオナニーすらしていなかったのだから。


「こんなのおかしいよ……私、あの部屋でこんなことしてない……」


真里は怖くて震え始めていた。

萌も同じく恐ろしさを感じていたが、
勇気を出してフォルダ内を調べることにした。

写真をスライドして次の画像を出す。


「えっ!?」


そこには、誠と忍が性行に耽っている画像が写し出されていた。

萌はそれを見て、不快そうに顔を歪める。
もちろん萌が入れた覚えのない画像であったが、今回は恐怖よりも不快さがまさったようだ。

だが真里の方はというと……


「なにこれぇぇぇぇぇぇ!?」


絶叫を上げている。かなり動揺している様子だ。


萌は苦い顔をしつつも真里の顔を見た。

真里にはまだ、忍の浮気相手がマコトだとは伝えていない。しかしこの決定的な写真を見られては、もう話さなくてはならないだろう。


「真里……黙っててごめん……
実は忍と喧嘩した理由って、忍の浮気が原因だったんだ……
浮気の相手はマコトちゃん。
真里が気にすると思って、今まで黙ってたの……」

「誠くんが忍くんと浮気!?」

「へ……マコト……くん?」


お互いに顔を見合わせる。
真里がよく分からない反応をするので、
萌もよく分からない顔をしていた。


(そっか、萌が元気がなくなった原因ってそのことだったんだ!!)


真里は、まぶたを片手で覆い、軽く溜め息を吐いた。


「萌……ごめん。私も黙ってたんだけど、
実はマコトちゃんって……女装した誠くんなの……
ほらここ見て、小さいけどおちんちん付いてるでしょ?」

「えっ……ウソ!?」


真里の指さす部分を拡大して見てみる。
そこにはたしかに男性器と見られる異物がくっついていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?
じゃあ……忍は桐越先輩とホモしてたってことになるの?」

「そういうことになるね…………」


何重にも驚きが重なり、逆に静かになる萌。

忍と誠のホモはたしかに興奮するものであったが、
写真の存在があまりに不気味で、
素直に興奮する気にならなかった。



「でもなんでこんな写真あるの? これ撮ったの萌だよね?」

「私は撮ってないよ……あ、そうだ。
プロパティを見てみよう。いつ撮られたものか分かるはず」


萌は設定を開き、
プロパティを選択すると、画像の詳細情報を開いた。


《 日付:○○○○年12月2○日 20:15 》


「サファリパークに行った日だ。
たしか、そこでご飯食べて、部屋に戻って、
そのあとは…………そのあとは…………何したんだっけ……?」

「私も思い出せない…………。
よく見たら、誠くんと忍くんがいる部屋も同じみたい……。
この写真があるってことは、この時間に四人とも同じ部屋にいたってことだよね?」

「ありえない…………真里がオナニーしてて、同じ部屋で忍と誠くんがエッチしてるだなんて……しかもどっちもその事を覚えていないだなんてあり得る?」


真里は無言で首を横に振った。
萌は忍と誠がセックスしている写真をじっくりと見つめた。


「この写真、なんか変……」

「何が……?」

「普通さ、いきなり写真撮られたら慌てるよね?」

「うん」

「真里はビックリしてこっちを見てるんだけど、
忍と誠くんはこっちを見てもいないんだよね……」


そう言い、二枚目、三枚目の写真を真里に見せる。

どの写真も二人は明後日の方を向き、スマホを向けられていることなど気付いてもいない様子だった。


「二人とも変な目をしてるし……
まるで催眠術にでも掛かっているみたい……」


ふと口ずさんだ萌の言葉に真里はハッとする。


「萌……それだよ……!」

「えっ……?」

催眠術……それしか考えられない」

「まさかそんな……魔法みたいなこと……」

「だってここまで記憶が飛ぶなんてあり得ないじゃん。
忍くんと誠くんがエッチしてるのも変だし、こんな写真が残ってること自体おかし過ぎるよ」


萌はそれ以上、反論しなかった。
考えてもみれば、今回の旅行はおかしなことだらけである。

9泊10日という日数設定もそうであるが、
運賃や食事代まで全てが無料で、なおかつプール付きサンルームの利用や、高級フルーツジュースとフルーツの盛り合わせのサービスまであるのだ。

しかも宿泊先はこの島一番の高級ホテル。

商店街の抽選会程度の景品で、ここまで豪華な景品を用意するなどあり得ないことだ。

萌はそこまで考えると、ハッとして真里に質問した。


「真里、ここのチケットが当たった時のこと覚えてる?」

「当たった時……?」

「真里はどこの商店街で、どうやってチケットを手に入れたの?」

「わからない……はぁ、はぁ……」


あまりの恐ろしさに、真里の呼吸は荒くなり始めていた。
それまでその事に疑問すら持たなかったのだ。


「……とりあえず今持ってるもの見てくれる?
何か手掛かりがあるかもしれない」


二人は自分のポーチの中を確認した。
記憶は断片的であったが、今ならこれまで気付かなかったことにも気づくかもしれない。

萌のポーチには昨日使ったサンオイルが入っていた。
この液体に媚薬効果があることに気づいた萌は、真里に使おうと持ち歩いていたのだ。

ごくりと唾を飲み込み、サンオイルの製品表示を見る。
媚薬に関する文字はどこにも書かれていない。
どこにでもある普通のサンオイルだ。

だからこそ萌は怪しいと睨んだ。


「小早川製薬って書いてある……昨日も話したけど、この島って小早川って名の付く会社多いよね。真里、何か思い当たることない?」

「小早川で……?」


質問されて真里は、
すぐに系列会社の社長である小早川のことを思い出した。

恭子の作った服をアピールするため、誠と共に彼女の事務所に出向いたあの日。

商品説明を終えた後も、
だいぶ長いこと話していたはずだが、
具体的に何を話したか、全然覚えていなかった。


(小早川……小早川……小早川……小早川……)


小早川の顔をじっくりと思い浮かべる。

始めは自分達の商品説明を聞き入れる顔であったが、
次第にそれは歪んだ形相へと変化していった。

その時、真里の心に小早川への恐怖が甦る。


「ああああああああああっ!!」

「どうしたの? 真里」

「思い出した……全部……全部……」


真里はガタガタ震えながらも、
小早川にどういう仕打ちを受けたかを語った。

それを聞き、萌も小早川に関する記憶を取り戻す。


「あんのっ! クソ汚カマ野郎!!!」


憤慨する萌。
だがすぐに冷静になり、真里とキスをした。


「ぶふっ!? ふぇっ??」


あまりに突然で、思わず咳き込む。

なんでこのタイミングでキスをするのか?
真里は意味が分からず萌を見つめた。


「真里、このままレズのふりをして。
奴らどこから監視してるか分からない。
催眠が解けたのを絶対に悟られないようにして」


これまで拉致された経験から、萌は用心深くなっていた。

相手はいくつもの会社を保有する大企業の社長だ。
どんなハイテクな手段を使って、こちらを見ているか分からない。


「電話が掛かってきても取らないでね。
取った瞬間、暗示を掛けられて眠らされてしまうから」

「…………うん、わかった」

「スマホも早く手放した方が良いかも……
たぶんもうGPSか何かを埋め込まれているよ」

「そんな……」

「あと盗聴されてるかもしれないから、こういう話は小さな声でして。これから忍と誠くんと合流するよ。この島から逃げ出さなきゃ」


二人は観覧車を降りると手を繋いで、ホテルへ戻ることにした。その間も仲の良いレズカップルを演じ、時折人前でキスをした。



※※※



「小早川様、真里と萌が戻ってきました」

「あら? 意外と早かったわネ。
もっと遊んでくるかと思ったけど……二人の様子はどう?」

「はい、順調です。二人は観覧車の中でセックスを行い、帰りは手を繋ぎ、キスをしておりました。すっかりレズカップルとして成立したようです」

「あらそう、ホホホホホ。仲が良くて何よりだワ。
まだ時間はあるし、しばらくその関係を続けさせてやりましょ」

「二人は忍と誠を探しているようですが、いかがしましょうか? 現在、鮫島様が調教中です」

「何の用かしら? 萌はまだ二人を恨んでいるはずだし……。
ふーむ………………あ、もしかすると、
二人に交際宣言するのかもしれないわネ!」

「おおーー!」


黒服達が歓声をあげる。
真里と萌が付き合うことになれば、真里と誠の関係は消滅する。それは小早川陣営の勝利を意味していた。


「小早川様、観覧車での出来事なのですが、
萌は何かに対して怒っていたようです。もしかしたら、忍と誠の関係について、真里に話していたのかもしれません」

「そうネ。ただその場合、誠ちゃんを男だと、真里がバラす可能性があるワ。萌が男同士だと認識すれば、また一昨日のように、忍ちゃんを許す流れになるかもしれないし難しいところネ。
……でも、二人は帰りにキスしてたのよネ?」

「はい、何度もディープキスを交わしていました」

「ならもう彼氏のことは忘れて、女同士で愛し合う道を選んだのかもしれないワ。ま、ものは試しヨ。ダメならまた記憶を消せば良いんだし、二人を泳がせてやりましょ」

「かしこまりました!」



※※※



ホテルの一階フロント。
真里と萌は辺りを警戒しながら忍と誠を探していた。


「やっぱり部屋にはいなかったね……LINEにも返事はないし……」

「二人ともどこ行ったんだろ……」


いくら合流したくても、拉致されたままでは会うことはできない。二人の間には諦めムードが漂い始めていた。


「でもこうして見るとホント多いね……」

「うん……」


ホテルの中には黒服の姿がチラホラ見られた。
1人や2人ではない。何十名という黒服達が自分達を監視していた。

催眠中は気付かなかったことだが、ホテルだけでなく街中の至るところに彼らは待機していた。

また同性同士で歩いている人の姿も多く見られた。
ほとんどは男性同士のカップル、稀に女性同士のカップルもおり、どちらも男女のカップルよりはるかに多かった。
その誰もがディープなスキンシップを取っている。これでは真里と萌が注目されないのも当り前だ。


「やっぱりこの島は奴らのアジトだったんだ……」

「みんな私達みたいに捕らわれて、変えられちゃったのかもしれないね……」

「そうだね……怪しまれないようにもう一度キスしよ。真里」

「うん……」


ちゅ……♥️

演技とはいえ、やはり気持ちが良い。
それこそ何度でも交わしたくなるような口付けであった。

真里も萌もそれを自覚していたが何も言わなかった。

これはあくまで催眠の後遺症。
しかしどちらも、この気持ち良さを失ってしまうのは、なんだか寂しい気がしていた。


「真里さーん、萌さーん!」

「あっ! マコちゃんっ!」


ホテルの入口。ちょうど外から戻ってきた誠が、真里と萌に声を掛ける。
忍も一緒にいるようだ。


「こんにちは、誠ちゃん、忍」


冷たい目付きで萌が言う。


「こんにちは、萌さん」

「…………」


誠は気兼ねなく挨拶をしたが、
忍は気まずそうにするだけで返事はなかった。

誠と一緒にいるところを見られ、どう答えるか迷っているのだろう。

実際は別のホテルで鮫島に調教されていたのだが、二人はレストランで忍と萌の関係について話し合ってきたと思い込んでいる。



「ねぇ、忍。ちょっと良い?」

「…………萌、俺がマコトちゃんと一緒にいたのは……」

「そんな話、聞きたくない。今日は二人に報告があって来たの。ちょっと時間取ってもらって良いかな?」

「…………萌」

「こんな人がごちゃごちゃしたところで話す内容じゃないから、どこか別の場所で話しよ?」

「話を聞いてくれ」

「話を聞いて欲しいんだったら、こっちの要求を飲んで!
そうだ……ここから少し離れた所に、御飯が美味しいって評判の旅館があってさ。
そこに泊まりたいんだけど、忍、お金出してもらえる?
さすがに一週間も同じホテルで飽きちゃったんだよね」

「…………分かった。出すよ」

「そこ景色が良いんだけど、山奥にあるんだ。
忍、車の免許持ってたよね? すぐにレンタカー借りてきて」

「……わかった」


そう言うと忍はレンタカーを借りるため、出掛けてしまった。真里は二人の様子を不安そうに見つめていた。


(萌、なんで忍くんにそんな冷たい態度とるの?
もう誤解は解けてるはずなのに…………)


そんな真里の表情に気がついたのか、萌は顔を近づけると小声で言った。


「大丈夫、忍にはあとから謝るから。それより私が良いって言うまで、催眠のことは誠くんに話さないでね。忍が車借りてきたら、一気に遠くへ逃げるから荷物をまとめといて」

「なるほど、そういうことか」


萌は忍が戻る前に、南の島温泉の旅館を予約した。
部屋を空けることをフロントに伝え、自分の荷物を持ってくる。

そうして一時間が経ち、4人乗りのワンボックスカーを借りた忍がホテルの入り口に到着した。

萌は助手席に座り、真里と誠は後部座席に座る。

4人乗せた車は、南の島温泉に向けて出発した。

Part.97 【 逃走 】


エステルームでくつろぐ小早川の元に、
黒服が一人やって来る。


「小早川様、ご報告がございます。
萌達が南の島温泉に向けて出発したそうです」


小早川は背中にアロマオイルを塗られている。
彼は寝たまま返事をした。


「あらそう、なんのために?」

「はい、ホテルにいた者の話によりますと、
萌が話があると言い、
話し合いの場として温泉宿を指定したそうです。
すでに予約はしているようでして、
今夜はそちらに泊まるものと思われます」

「そこまで改まって話をするなら、もう内容は決まったようなもんじゃない」

「はい、真里との交際を伝える可能性は非常に高いと思います」

「泊まる先は把握してるんでしょうネ?」

「小早川旅館です」

「あら、うちの系列じゃない。それなら問題ないわネ」

「ただ、予約が2名分しか入っていないようでして……」


それを聞き小早川は、しばし考える。

これまでの経験から、
萌がどういう意図を持っているか予想しているようだ。


「あー、そういうこと……
萌は宿に送らせるだけ送らせて、
忍ちゃんと誠ちゃんは帰らせるつもりなんだワ。
性悪な女ネ。ま、そうしてくれるとこっちも助かるワ。
忍ちゃんもあの女に嫌気が差すでしょうしネ」

「はい、仰る通りです。
萌は不機嫌な態度で、命令するように忍にレンタカーを借りに行かせたそうです」

「ほほほ、そうなの。
真里は誠ちゃんが男だってこと言わなかったのかしら?
言ってて、その態度なのは気になるところだけど……
ま、細かいことはいいワ。先回りして監視員を配置しときなさい」

「ははっ!」


わずかに浮かんだ疑問。
小早川が、それを気にする様子はなかった。
彼は萌を堕としたことで、若干気が緩んでしまっていた。

《失敗しても、また掛け直せばいい》

その甘えが、のちの失敗につながることを、
彼は知らなかった。



※※※



それから一時間後、
真里達を乗せた車は、温泉街に続く市道を走行していた。

四方を山に囲まれた田舎町。

萌は窓の外を眺め、何かを探している様子であった。


「ふむふむ……結構いい感じだね。
忍、ちょっとここ入ってもらえるかな?」


萌が指差す先は、古ぼけて閉鎖された工場跡。
忍は意味が分からず首を傾げる。


「こんなところに入ってどうするんだよ……」

「いいからいいから」


忍は萌の我が儘さに若干呆れていたものの、
しぶしぶ要求に従った。

割れた地面のアスファルトの隙間からは雑草が生い茂り、
古タイヤや、錆びた鉄材などが捨てられている。

経年劣化して割れた侵入防止用のチェーンを踏み、
車は敷地内へと入った。


「なるべく外から見えない場所に停めてね。あの建物の裏が良いな」


こんなところで何をするというのか?
疑問ではあったが、萌に言われるがまま車を停めた。


「ありがとう、じゃあスマホの電源切ってもらえる?
真里も誠ちゃんもお願い。切ったらそのままスマホを置いて外に出て。荷物はちゃんと持っていってね」

「おい、萌、本当に何をしようとしてるんだ?」

「大事なことなの、とにかく言うことを聞いて」


真剣な眼差しを向ける。
彼女のその態度に、忍は萌に何か考えがあるのだろうと思った。


「真里さん、どういうことなの?」

「まだ話せません……でもみんなのためなんです」


萌の意味不明な行動に、誠も心配ぎみだ。
しかし真里が事情を知っているようだったので、とりあえず従うことにした。


「じゃあ少し歩くから付いてきて、急いでるから早めに歩いてね」


萌の先導に従い一向は動き出す。
彼女はなるべく車の往来のない細道を使って、
隠れるように市街地を進んだ。

そうして連れて来られた場所はカーレンタルショップ。

既に一台借りているのに、なぜこんなところに?
忍はそんな顔をしていた。


「忍は黙ってて。今度は私の免許で借りるから」


萌は店に入ると、すぐに契約を交わした。
萌が借りた車は、忍が借りたものよりも一回り小さな軽自動車であった。くすんだ色をした古くて地味な車である。

彼女は車に全員乗せると、これまで来た道を戻り始めた。
しかし国道は使わずに一般道を使った移動である。

萌は上着を一枚脱ぎ、サングラスを掛けた。
見た目は普通だが、まるで警察から逃亡する犯人といった雰囲気だ。

車は南の島温泉街を離れ、
元いた中心街を迂回するように反対側の町へと進んでいた。


「忍、色々とごめん……そろそろ話しても大丈夫だよ」

「何があったんだ? まるで誰かから逃げてるみたいだけど」

「全部分かったの。忍が浮気していないことも、勃たなくなった理由も……」

「……?」


萌はこれまで自分達に起きた出来事を話し始めた。

拉致されたこと、催眠を掛けられたこと、同性同士でセックスをさせられたことなど、一つ一つ丁寧に。

初めは半信半疑だった忍と誠も、
思い当たるふしがいくつもあり、
最終的には、食い入るように彼女の話を聞くようになっていた。

急に女性に興味を失い、
男性に性衝動を持つようになってしまったこと、
初対面にも関わらずお互いが気になっていたことなど、
萌の話が本当なら、実に辻褄の合う内容だった。

そういった一連の話を聞き、脳を刺激された忍と誠は、
ついに記憶を取り戻すに至ったのである。


「萌、すまない……俺がいながら、あいつらの好きにさせてしまって」


忍は暗い顔をして謝罪する。

萌に手出しさせないよう、これまで小早川に従ってきたが、いとも簡単に約束を破られてしまっていた。

心の底から怒りが込み上げてくる。
最愛の人の前で、誠とセックスをさせられたこと。
萌がどんなに傷ついたか、今なら十分理解できた。


「ううん、そんなことないよ……
忍が頑張ってくれなきゃ、私達、とっくに別れてたよ。
それより……私の方こそ、忍のこと信じてあげられなくてごめんね……あんな奴に騙されて、ひどいこと言って……本当にごめんなさい……」


涙で視界が歪む。萌は車の速度を少し落とすと、
腕で目を拭(ぬぐ)った。


「萌が悪い訳じゃない。悪いのは全部あいつらだ。
萌、愛してるよ……あいつらを出し抜いて、
なんとしてでもこの島から逃げ出そうな」

「うん、そうだね。私も愛してるよ、忍……」


ようやく誤解を解くことが出来た二人。

運転中のため、抱き合うことはできなかったが、
こうして無事、忍と萌は元の鞘に収まることができたのである。


「誠くん、大丈夫?」


鼻をすすり、悲しい顔を浮かべる誠を、
真里は心配していた。

誠も忍同様、それまでの記憶を思い出していた。

忍と違い、誠が思い出すのは、犯されたことばかり。
誠は、数々の男性に犯された記憶で悲しみに暮れていた。


「誠くん、辛い思いさせてごめんなさい……
私のためにあんな奴らにやられて……」

「大丈夫……たしかに苦しかったけど、僕は真里さんを守ることができたんだから……後悔なんか全然してないよ」

「誠くん……ありがとう……」


そう言い真里は、震える誠を抱きしめた。

真里、萌、忍の三人と違って、誠は性に真面目な人だ。

本来であれば、好きな人としか身体を合わせたくない彼が、思い出すには実に辛い内容であった。

だが誠は自分の行動を誇らしく思った。

結果として、真里は萌と性交に至ってしまったが、
男性に襲われる事態にはならなかったのだ。


「それより、真里さんは平気なの?
その……萌さんと、そういうことになってしまって……」

「私はぜんぜん平気です。
知らない人とするのに比べたら、萌が相手で良かったです」


真里の表情を見る限り、
萌と行為に至ったことを気にしている様子はまったくない。

誠は彼女が肉体的にも精神的にも無事だったことを安堵した。



車は寂れた商店街へと差し掛かる。
萌は個人経営と見られる小さな古着屋を見つけると、車を停めた。


「よーし、じゃあここで服買うよー。
なるべく地味で目立たないものを選んでね」



※※※



「遅いわネ……。アイツら、まだ着かないの?」

「申し訳ございません、温泉街に入るところまでは把握していたのですが、急に足取りが掴めなくなりまして……」

「まさか事故にでも遭ったんじゃないでしょうネ……」


イラつき同じ場所を旋回する。

そこに一本の電話が入る。


プルルルル……プルルルル……


「あら、サメちゃんじゃない。
アナタから掛けてくるなんて珍しいわネ。何かあったの?」

「やられたぜ……あいつら催眠が解けてたみてーだな」

「なんですって!!?」


鮫島の電話に顔面蒼白になる小早川。

彼は震える手で携帯を机に置くと、スピーカーモードにして、傍にいる黒服達に通話を聞かせることにした。


「サメちゃん、アナタ今どこにいるの?」

「南の島温泉の廃墟になった工場跡だ。
奴らの携帯に仕掛けておいた発信機を追ってここまで来たんだが、これにも気付かれていたみてーだな。
忍が借りたレンタカーに、きっちり4人分置いてあったぜ」

「な、なんてことなの……」


小早川はショックを隠しきれない様子だ。


「今から街の防犯カメラの映像を調べる。
オメーの方でも近隣の街の映像を調べてみてくれ。
変装もしているかもしれねーから、その辺も黒服達に言っておけよ。あとは警察やマスコミに一通り連絡するんだ。
つーか、この島で催眠掛けてるやつ全員に指示を出せ」

「わかったわ……サメちゃんもよろしく頼んだわヨ」


電話を切り、一呼吸する。

普段は酒ばかりを飲み、男を掘ることしか考えていない鮫島であったが、こういう時はいつも人一倍、働いてくれていた。

彼の迅速な行動に活を入れられた小早川は、
気持ちを引き締めて、この難題に立ち向かうことにした。


「一同、各部署に緊急事態宣言を送りなさい。
警察、消防、病院、海上保安隊、マスコミ、交通機関に至るまで、全てを総動員してヤツラを捕まえるのヨ!」

「かしこまりました!」


黒服達が一斉に動き出す。
真里達を捕まえるための一斉捜査の始まりだ。


(すでにこの島は全てアタシの支配下にあるワ。
絶対に逃がしはしない…………
次に会った時が、アナタ達の最後ヨ!!)



※※※



「萌ーこれ似合うかなー?」

「似合うとかじゃなくて、目立たない格好にしないとダメだよ。むしろダサいくらいが良いかもね」


萌達は、それぞれ古着を選び変装に勤しんでいた。

真里、萌、誠はチェックのシャツを着て、定番のジーンズを履いている。まさにオタクの服装といったところだ。


「みんな同じ服にしたら逆に目立つよ!
てか誠さん……その服装でも可愛いですね……」

「うーん……可愛くするつもりはなかったんだけどな……」


萌が苦笑いしながら誠を見つめる。
ほぼ同じ格好なのに、女子力で負けた気がして妙な気分だった。


(なんで女の私より誠さんの方が、可愛くなるの……)


そんな萌の気持ちを見抜いたのか、真里が言う。


「萌ー私の気持ち分かってくれたかな?
彼氏に女として負ける気持ちがどんなものか……」

「真里さん、ごめん……僕、そんな気は……」

「あ、誠くん冗談ですって!」

「ふーむ……こりゃ忍が惚れる(掘れる)のも無理ないわ……」


萌は誠の潜在的な女子力に脅威を抱いた。


「萌、こんな服で良いか?」


忍が変なキャラクターがプリントされたシャツを着て登場する。ボトムには本当にボロボロなダメージジーンズを履いていた。


「たしかにダサいけど、違う意味で目立つから却下」

「そうか、じゃあこれに上着を重ねて、
キャラクターを目立たなくさせるのはどうだ?」


そう言って持ってきた控えめなジャケットを羽織る。


「うーん……さっきよりは良いんだけど……」

萌は顎に指を添えて迷っている。

「忍くん、イケメンだから、
何着てもオシャレ上級者って感じに見えてしまいますね」


真里が横から口を出す。
萌は感じたことを先に言われてしまった。


「忍の場合は服じゃなくて顔が問題だね」

「顔は変えられないだろ?」

「こうすればいけるんじゃん?」


萌は、棚にあったジョークグッズを手に取ると、
忍に張り付けた。付け髭だ。


「ぷっ……忍、似合うよ」

「なんか急にダンディーになりましたね」

「むーそうかな?」


結局、忍は付け髭に合うように黒のトレンチコートを着ることになった。ダンディーである。


「真里と私の服もこれで良さそう。
THEオタクって感じでダサくて良いね」

「あとはオタクっぽい話し方すれば良いかな?」

「そうでござるね」

「あい、わかった。これにて一件落着」

「時代劇かな?」


そうして残すところは誠の服だけとなった。


「うーん……誠くんは何着ても可愛くなってしまいますね」

「忍と違って、付け髭は合わないか」

「困ったな……」


そんな時、忍が奥の方から服を持ってきた。


「誠くん、これ着てみるのはどうかな? 誠くんの場合、逆に地味な女の子の服を着た方が目立たないんじゃないかな?」

「えっ……忍くんが選んでくれたんですか?」

「あぁ、昔付き合ってた子で地味な子がいてさ、
その子を思い出しながら選んだんだ」

「嬉しいです……ありがとうございます!」

「あ……う、うん……どういたしまして」


誠の喜ぶ顔を見て、忍は目を反らした。
催眠が解けたとはいえ、誠の笑顔は、植え付けられた恋心を思い出させるものであったからだ。

それは誠が男と分かった今でも変わるものではなかった。

そんな彼らを見て、目を輝かせる二人がいた。
生粋の腐女子、真里と萌である。


「やっばぁぁぁぁい!!♡
ちょっと生BLこんなところで見せないでよぉぉ!!♡」

「はぁはぁ♡ 忍……誠さんに手を出したいなら出しても良いんだよぉぉぉぉぉ!!♡ あぁ……尊い……♡」

「ば……ばか、そういうんじゃないよ……
誠くんは男だし、手を出すわけないだろ……」

「そんなこと言っちゃって、
誠さんのキラキラの笑顔を見て照れちゃったんでしょ?♡
イインダヨー勃起して、誠さんのお尻おまんこにズボスボ入れちゃっても、浮気にはカウントしないからぁ♡」


以前は忍の浮気にショックを受けていた萌であったが、誠が男と分かった今では、すっかり二人の関係を受け入れていた。


「ところで萌、ここ出たら次はどうするの?
だんだん暗くなってきたし、
どこか旅館かホテルにでも泊まらないといけないよね?」

「んーや、それは危険かな。
この島にいる以上、あいつらどこにいても飛んでくるよ。
泊まるなら、なるべく人と関わらないところにしないとね」

「そんなところ、都合良くあるかな……」

「大丈夫、私に任せて。変装も終えたことだし出発するよ」


会計を終えた4人は車に乗り込んだ。
萌の運転で、さらに寂れた田舎町へと移動する。

車は山道を突き進み、
次の町が見えてきたところで、横の細道に入る。
その先にあったトンネルを抜け、
少し登った所に彼女が目的とする宿があった。

ガレージ付きの客室が一軒一軒離れている、
少し変わった宿である。


「えっ? ここに泊まるの?
さっき人に関わらないところって言ってたじゃん。
どこか空き家でも見つけて泊まるのかと思った」

「いいから見てて」


萌は車をガレージへと停めると、
車から降りて壁にあったボタンを押した。

音が鳴りガレージのシャッターが降ろされる。


「ちょっと! 勝手に降ろして良いの!?」

「ここはそういうシステムなの。さぁ荷物を持って入るよ」

「えっ? チェックインはー?」

「不要ー」


萌はガレージのすぐ脇にあった客室のドアを開けて中に入ると、荷物を置きベッドで背伸びをした。


「ハァーー! せいせいしたーー!」

「ちょっと、もーえー!
こんな無断で客室に入ったら、宿の人に怒られるよー!」


逃亡中の身でこんな面倒なことをしてしまったら、
すぐに見つかってしまう。慌てた真里は萌に言った。

そんな真里に、忍が説明する。


「真里ちゃん大丈夫。ラブホテルは客のプライバシーを守るために、顔を合わせずに泊まれるようになってるんだよ」

「えっ!? ここラブホテルなんですか?」

「そうだよ。こんな山の外れにあるのも、人目を避けるためなんだ。気軽に利用できるようにするための配慮だね」

「なるほどー!」


萌と忍は、これまで幾度となくラブホテルを利用してきた。

□□市には、うろ剣や○○教室など、アニメやマンガの世界をテーマとしたラブホテルがあり、二人はよくそこでコスプレエッチをして楽しんでいたのだ。

そのためラブホテルのシステムをよく理解していたという訳だ。

ちなみに料金の支払いは、入り口にある自動精算機で行えるようになっており、チェックインなどの手続きは不要であった。


「とりあえずご飯食べよう。何時間も運転して疲れたー」

「お疲れ、萌」


4人は途中の惣菜屋で購入した弁当を食べ始めた。
部屋にあったコーヒーセットと紅茶セットにお湯を入れて飲む。

そうしてご飯を食べていると、
おもむろに真里がテレビを付けた。

ちょうど○○教室の再放送が流れる時間だったので、
気になって付けたのだ。


《本日午後○時○分ごろ、
南の島温泉街に旅行に来ていた○✕市の男女2名と、
□□市の男女2名が行方不明となりました。

4人はカーレンタルショップ南の島中央店でワンボックスカーを借り、南の島温泉街の宿に向かう途中で消息を断ったそうです。

警察は事件とみて周辺の捜索を行い、
4人の情報提供を求めています》


「これって……ウチラじゃん……」


青ざめた顔をして萌が言う。

続いて映像は4人の顔写真の公開へと移った。
催眠中に撮影されたものだろうか?
身に覚えのない写真だった。


「真里ちゃんどこにいるのー? いたら電話してー!」

「誰この人?」


知らないおばさんが映り、真里の名前を連呼する。
真里は呆気に取られてあんぐりと口を開けていた。

ニュースキャスターの映像に切り替わり、原稿が読み上げられる。


《今回の事件で、御家族の方から謝礼金が出ています。
情報提供者の方には100万円。連れてきてくれた方には1000万円が進呈されます。お電話はこちら○○○ー○○○○ー○○○○にお掛けください》


「本気で探しているみたいだね……」

「誠くん、怖い……」


真里が誠にしがみつく。
彼女はあまりの恐ろしさにガタガタと震えていた。


「萌、どうする?」

神妙な顔で忍が聞く。

「んーちょっと考え中……
まさかあのオカマがここまでするとは思わなかった」


萌も忍も冷や汗をかいている。
小早川の行動にすっかり度肝を抜かれてしまったようだ。

番組は近所の変わったワンちゃん特集へと切り替わる。

萌はリモコンのスイッチを押してテレビを消すと、
静かに話し始めた。


「ふぅ…………とりあえず落ち着こう。
ちょっと今のまま外に出るのは危険だね……。
ここでほとぼりが冷めるまで待って、
みんなが忘れてから出た方が良さそう」

「でも、萌。ここも危ないんじゃないの?
いつアイツらが入ってくるか分かんないよっ……」

「それは大丈夫。少なくとも今日明日くらいまでは、ここは安全だよ」

「そんなの分かんないじゃん」


泣きそうな顔で真里が言う。


「よく聞いて、真里。
アイツら、派手に宣伝してるけど、逆に言えば、私達のことを見失ってるってことなの。
どこにいるか目処が立ってるんだったら、ここまでして探さないよ」

「だけど、ご飯とかどうするの?
もう顔出されちゃったから、コンビニにも行けないよ……」

「それは忍が行くから大丈夫。付け髭もするし、ダンディーなトレンチコートも買ったから、むしろ公開してくれて良かったかもね。それにいざとなったら、この部屋から注文も出来るから大丈夫だよ」


そう言って萌はラミネートされたメニュー表を真里にペラペラと見せた。そこにはラーメンやカレーライスなどの定番のメニューが書かれてあった。


「注文する時に部屋の中、見られない?」

「玄関に料理を出し入れする小さな排出口があるから平気。
客からも宿の人からも、手しか見えないよ」

「なんかすごい便利だね……ここ」


真里はあまりに都合の良すぎるラブホのシステムに驚いていた。まさに逃亡者にとって鉄壁の要塞といったところだ。


「しかし逃走ルートをもっとよく考えなきゃね……
顔バレしてるから、海港も空港も使えないだろうし……
警察にも洗脳されてる人いそうだな……」


小早川は催眠を使える。警察が向こうの味方となっている可能性は高いと萌は感じていた。


「この島から逃れられたとしても、そこから先どうする? 警察が向こうの味方なら、どっちみち捕まるぞ」


険しい表情で忍が言う。
小早川がすべての権力を掌握していたら勝ち目はない。


「それは大丈夫だと思うよ」

冷静な誠の声。彼は続けて言う。

「さっきの放送、たぶんこの島でのみ放送されてるローカル番組だと思う。あんなの全国で流せないよ」


ホテルを出てから、まだ10時間も経過していない。
こんなデタラメな内容、流せるわけがないのだ。

もちろん小早川が全国放送のテレビ局を掌握している可能性はあり得る。しかしさすがにあの内容を全国放送で流すには、無理があると思った。


「小早川の影響力は、まだこの島に限定されている。
地元に帰って助けを求めれば、まだなんとかなると思うよ」


誠の話に納得する一同。


「だけど、帰る手段がないのが問題だな……」


忍はテーブルを見つめ苦渋の表情を浮かべている。


「ネットで呼び掛けるのはどうですか?」


真里が提案する。


「ほらSNSとか掲示板とかで、匿名でいくらでも投稿できるじゃないですか。それで警察に知らせるのはどうですか?」

「逆の立場で考えてみて、真里。
催眠術で犯されて、同性愛者に変えられました。
犯人は小早川グループの社長です。こんなこと匿名で言って信じてくれる人いると思う?」

「ううぅぅぅ……絶対信じない……」


萌の指摘が入り、真里はガックリと項垂れる。
誠が困ったような顔で続ける。


「でもネットを使うのは良いと思うよ。
掲示板を使わなくてもメールで誰かに伝えることもできるしね。なんとかキヨちゃんと連絡が取れれば良いんだけど……」


恭子はこういう時、誰よりも的確なアドバイスをくれる。
たとえ島から脱出できなくても、恭子に助けを求め、どこか見つからない場所で籠る方法もある。

もし政財界に強力な繋がりのある恭子の父親の力を借りられたら、小早川一味を一網打尽にすることもできるかもしれない。

しかし4人はスマホを持っていなかった。

持っていれば、恭子に連絡もできたであろうが、今さら無理な話である。
電話を使おうにも、恭子の番号など覚えていなかった。

そうであれば、やはりどこか通信手段のある場所まで行き、メールを使うしかない。
YahuuメールやHatmailなら通信履歴もあるし、IDとパスワードさえ覚えていれば、どのパソコンからでも連絡可能だ。


「すみません、誠さん。アイツらから逃げるには、どうしてもスマホを持っていけなかったんです……盗聴されてる可能性もありましたし、車を変えるまで説明できませんでした」

「それは仕方ないよ。こんなに早く放置した車を見つけられたってことは、萌さんの勘が当たっていたってことだよ。萌さんは最善の方法を取ったと僕は思うよ」

「ありがとうございます。でも顔写真が公開されたってことは、今使ってるレンタカーの車両番号も相手にバレてますね……車での移動はもう無理かも……」


車を借りる際に、萌は運転免許書を提示している。
番組を見て、レンタルショップの関係者が小早川に連絡している可能性は高かった。


「あ、そういえば、車に付いているGPSは大丈夫なの?
そこから場所が特定されてしまう可能性もあるよ?」

「それは大丈夫です。だから敢えて田舎町の古いお店を選んだんです。車だってなるべく古くてボロいのを選びましたから、GPSは付いていません」

「そっか、それなら安心だね」


4人は通信手段の確保を最初の目標とすると、
身体を洗い、疲れを癒すため眠りにつくのであった。




Part.98 【 後遺症◇ 】

ラブホテルを囲む黒い車の数々。
下車した黒服達が、入り口を塞ぐように立っていた。

「目標はこの部屋だ。ただちに突入を開始する!」

ドアロックを破壊し、突入する。

彼らはドタドタドタと、騒がしい音を立てながら、階上を目指していく。突き当たりのドアを破壊して、一斉に部屋の中へと侵入した。


「いたぞ! 全員捕まえろ!」


ここまで10秒も経っていない。

ベッドから起き上がる暇すらなく、真里達は囲まれてしまった。すでに身体を抑えられ、誰も身動きが取れない状態である。
こうなってしまっては、なす術がない。

階下から一足遅く上がって来た小早川が、
真里達を見つけて言う。


「おーほっほっほっほっほ!!
バカな奴らネー! アタシから逃げられると思ったら大間違いヨ!! ありとあらゆる方法で、拷問にかけてやるから覚悟しなさい!!」

「や、やめてぇぇぇぇぇぇ!!!」


バタバタと両手を〖天井〗に向けて真里は叫ぶ。
そう……〖天井〗に向かって。


「ハッ!?」


目を開けると、そこには静かな天井が広がっていた。


(…………夢?)


真里は起き上がって辺りを見回した。

小早川達の姿は見当たらなかった。
……どうやら悪い夢を見ていたようだ。

不安と恐怖が見せた夢だろうか。
今でも震えが止まらなかった。

横に目を向けると、誠が安らかな寝顔を浮かべていた。起こすことにならなくて良かったと思う。

真里は気を静めるために、一旦起きることにした。
ベッドから降りて立ち上がる。

部屋は、脱衣場から漏れる照明の光によって、
薄く照らされていた。わざわざ電気を付けなくとも、
大抵のものが見えるくらいである。

真里は、隣のベッドで眠る萌と忍を起こさぬよう、
なるべく音を立てずに、ソファーへ移動すると、
温かい紅茶を飲むことにした。

コップにティーバッグを入れお湯を注ぐ。

液体の落ちる柔らかい音と、ふんわりとした湯気が漂い、紅茶の爽やかな香りが鼻を通って、少し渋めの湯がお腹の中に落ちてゆく感覚が心地よかった。

そこでフゥーと息を吐く。

不安は少し吐き出せた気がしたが、
それでも恐怖による震えは止まらなかった。。

カタカタカタカタ……。

コップをテーブルに置く際に、
けたたましく音が鳴る。

真里はコップから手を離し、ソファーに深く腰を据えると、腕を組んでもう一度ため息を吐いた。


(怖い夢だったな……もし本当に捕まったら、どんな目に遭わされるんだろう……)


これまでのことを考えると、
おそらく萌と付き合う流れとなってしまうだろう。

誠を催眠の術中に嵌(は)めるため、
真里をレズに変え、別れを言い出させる。

それが小早川の狙いだ。

実現すれば、誠は希望を失い、
催眠に抗うことはできなくなってしまう。

そして人格や記憶を改変させられ、
好きなように操られてしまうだろう。
そんなことは絶対にさせない。
誠の人生は誠のものだ。
真里は何か対応策がないか考えるため、それまで掛けられた暗示を、思い返してみることにした。

暗示の多くは、元の真里の精神構造とあまり変わらなかったため、そこまで影響はなかった。
一つ影響があるとすれば、
それは萌を恋人として見るようにさせられたこと。

真里は、女性と裸で触れ合う気持ち良さと、
女性を愛する気持ちを学んでしまった。

初めは凶行に及んでしまった萌を救うためだったが、いつの間にか本気で愛するようになってしまっていたのだ。


(次、捕まったら、今度こそ萌の彼女にさせられちゃうんだろうな……)
萌のことは好きだが、
それはあくまでも友人としての好きだ。
これからもそういう関係でありたい。
しかし、心のどこかで新しい関係を望む気持ちにも、
なんとなく気づいてしまっていた。
(本当はこんな気持ち、持ってはいけないんだろうけど……)

真里の夢は、誠と結婚して幸せな家庭を築くことだ。
結婚するのに、他の人に目を向けていてはいけない。

それは分かっているが、真里にはどうしてもその気持ちを強く退ける気にはなれなかった。
(なんでだろう……催眠の影響だってのはわかっているのに……)

一杯目の紅茶を飲み終え、二杯目を淹れ始める。

砂糖をカップにひとさじ入れて、かき混ぜようとしたところ、内側にスプーンがぶつかり、うるさく音がなってしまった。

なるべく音を出したくなかったのだが、
どうしても手が震えてダメだった。

バサッ……

後ろからシーツが捲(めく)られる音がする。

真里が振り向くと、寝ぼけ眼(まなこ)で起き上がり、頬を搔く萌の姿があった。


「ごめん、起こしちゃった……?」


小さな声で謝る真里。

萌はもう一度目を閉じると、
すぅーっと息を吸い、立ち上がった。


「う~ん別に……私も何か飲みたいなぁって思って」

「そっか、じゃあ萌の分も淹れるね。
緑茶、コーヒー、紅茶どれにする?」

「ンーー、真里と同じのでいいよ」


そう言い、真里の隣に腰かける。
まだ気だるそうにしており、半分夢心地のようだ。


「はい、どうぞ」

「ありがと。ズズズ……アツッ!」

「まだ沸かしたばかりだから熱いよ……」


萌は改めて息を吹きかけながら紅茶を飲んだ。
ちょっと火傷したようである。


「真里、眠れないの……?」

「う、うん……」

「まー、しょーがないよね。状況が状況だしね」

「萌は怖くないの……?」

「もちろん怖いよ。
あのオカマに一番恨まれているのは私だろうしね」


そう言いつつも、
萌は気丈(きじょう)な態度を崩さない。

「萌は強いね……最初に捕まった時だって、アイツに言い返していたし、私なんて良いようにされてばかりで全然……」


本当は一番抵抗できてるのは真里なのだが、
本人はそのことに気付いていない。

ただただ己の無力さに打ち拉(ひし)がれ、
目にはうっすらと涙を浮かべていた。


「ううん、そんなことないよ。
真里は昔に比べたら、すっごく強くなったよ。

その証拠に今でも真里は、誠くんと付き合ってる。

他の人は、みんな同性愛者に変えられているのに、
真里は今でも自分を見失ってないじゃん☆ミ」

「でも……」

「私は真里と違って、忍と別れちゃったし……。
レズに変えられて、真里のことを堕とそうとしちゃった。それに比べたら、真里の方がずっと強いよ」

「それは、萌がアイツの催眠を一手に引き受けてくれたから……」

「ん~~引き受けたというより、単にムカついただけなんだけどね。思いっきり罵れてすっきりしたわ」

「それに私は、これからだって、ヘマしてみんなの足引っ張るかもしれないし……萌や誠くんみたいに、いろいろ考えて動けないし……」

「ハァ~~、そんなにウジウジ考えないの」


萌はそう言うと、紅茶を置き、真里を軽く抱擁した。


「ちょ、ちょっと萌?」

「ふふふ……ドキドキする?♡」


真里は紅茶を片手に、少し顔を赤くしていた。


「……紅茶こぼしちゃうよ」

「置けばいいじゃん」

「そうだけど……」

「置いて」

「はい」


言われた通り紅茶を置く。

萌はそれを確認すると、
真里の身体をしっかりと抱き寄せた。

真里は心臓をドキドキさせながら、
緊張した面持ちで、萌を見つめている。


「萌……催眠解けているよね?」

「もちろん解けてるよ。でも、今の真里には口で色々言うより、こうするのが一番かと思ってさ」


萌の匂い、温かさ。
触れあうことで強く感じられる。
性的なものも、もちろん混ざっていたが、
それよりも安心感の方がまさった。


「落ち着くでしょ?
私も真里とこうしてると落ち着く……。
本当は誠くんとするのが一番なんだろうけど、起こすのも可哀想だしね。だから今は私で我慢して」


萌が未だに催眠の支配下に置かれているのではと疑った真里であったが、萌の意図を理解すると、身体の力を抜き身を任せた。


「……ありがと、萌。我慢だなんて思わないよ。
いつも助けてもらってばかりでゴメンね。
弱気になってたけど、少し落ち着いてきた」

「そっか、じゃあもう少しこうしてよっか?」

「うん」


萌は真里の承諾を得ると、より密接に身体を触れ合わせた。震えていた真里の身体も萌と抱き合うことにより、落ち着きを取り戻そうとしていた。


「ねー真里」

「ん?」

「ほんの少しの間だったけど、私と付き合ってみてどうだった?」

「どうって……」


萌と付き合ったのは、サンルームでの出来事から観覧車を降りるまでの間だ。

昨夜は身体を重ね合い、驚くほど精神的にも肉体的にも満たされたものだった。

観覧車の中では、萌のエッチな要求にどぎまぎしたが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

正直、誠という存在がなければ、萌の彼女として、ずっと一緒にいたいと思えるくらいである。

だが、それを正直に伝えるのは、あまりに恥ずかしすぎた。真里は答えに躊躇(ちゅうちょ)した。


「も、萌はどうなの……?」


ひとまず萌に回答を求める。
少々ズルい方法だが、
萌の返事を聞いて回答を決めることができる。

催眠が解けた今、GLが苦手な萌であれば、
否定的な返事が来ると思ったのだが……。


「今思うと、嫌かなー?」

「そ……そうだよねっ!」


予想通りの答えだ。真里は、なぜか少し残念な気持ちになりつつも相槌(あいずち)を打った。


「誰かを好きになる気持ちを、あんな奴に決められたくない」


そう言い、萌はじっと真里を見つめた。
瞳の奥を覗き込むような真剣な表情に、真里は心臓をドキドキさせる。


「なっ……なに?」


慌てる真里を見て萌は笑う。


「次は真里が答える番だよ。どうだった?」

「私も……嫌……だったかな」

「ぷっ」

「なんで笑うのっ?」


萌は右手を伸ばし、真里の頬に優しく添えると、
からかうようにもう一度尋ねた。


「ほんとうにぃ?」

「ホントだよ」

「ウソ。目が泳いでいるよ。
相変わらず、真里は嘘をつくのが下手だなぁ」

「そんなことない、だって……」

「私は真里とそういう関係になるの、全然イヤじゃなかったよ」

「へ? さっき嫌だって……」

「オカマにそれを決められるのが嫌だって答えたの。
真里と付き合うこと自体は全然イヤじゃない」


それを聞き、真里の身体が熱くなる。

彼氏がいる身でありながら、
萌の気持ちを聞いて、嬉しくなってしまうだなんて……。
真里はそんな気持ちを誤魔化すように言葉を連ねた。


「な、なに言って……萌には忍くんがいるじゃん。
そそそ、それに私には誠くんがいるし……」

「ははは、落ち着いて、私は嫌じゃないって答えただけだよ? 別に付き合ってだなんて言ってないし」

「なっ……」


早とちりを指摘され赤面する真里。
萌は右手を下ろし、穏やかな笑顔を浮かべた。


「ふふふ……じゃあもう一度聞くよ?
真里は私とエッチしたりデートしたりしてどうだった?」


再び真里の身体を引き寄せる。
萌の乳房が、真里のそれに当たる。

ただの親友とは違った距離感。

真里は催眠下で感じていた女同士の背徳的な快感を思い出してしまった。

乳首が膨れ、ピンと反応する。
萌の乳房に触れ、勃起してしまったようだ。

それと同時に、彼女の下の泉も甘い官能を示すようになってしまった。


「はぁはぁ……♡ はぁ……」


身体が萌を求めている。
息も荒くなってしまう。

なんとか回答を誤魔化したいところであったが、
萌が正直に答えているのに対し、何度もはぐらかす程、真里は利己的ではなかった。


「私も……イヤ…………じゃなかった。
ってそんなこと言わせないでよっ……」


恥ずかしくて下を向く。
まるで告白シーンのような反応である。

それを見て、萌はしばし無言になる。
目を閉じて、じっと何かを考え始めたようだ。

その様子を真里は不安そうに見つめている。


「真里、正直に答えてもらえる?」

「うん」

「もしかして、今も私とエッチしたい?」

「えぇっ!?」


萌がさらに突っ込んだ質問をしてきたため、
真里は驚き、少し大きな声をあげてしまう。

すぐさま口を塞ぎ、眠っている二人を見る。
どうやら起こす結果とはならなかったようだ。

真里はいい加減エロい質問ばかりする萌に抗議した。


「萌ーそういう質問ばかりやめてよ……。
まだ催眠が解けたばかりで私……」


そこまで言い、真里は口を接ぐんだ。
そこから先は、言いにくいことだったからだ。

だが萌は出し掛けた言葉を見逃さなかった。
引き続き真里を誘惑するように言う。


「催眠が解けたばかりで何?」


真里の背中に手を回し、優しく愛撫する。
指先でなぞるようなフェザータッチだ。

萌が触れた箇所にツーンと甘く刺すような快感が走り、真里は全身を身震いさせた。


「それは……はぁはぁ♡」

「本当は私とエッチしたいんでしょ? キスしたり、抱きあったり、おまんこを擦りあったり、舐め合ったりしたいんでしょ?」

「はぁはぁはぁはぁ!♡
萌……それ以上……言わないで……♡」


真里の下着は、萌のエロい質問責めによって、
ぐっしょりと濡れてしまっていた。

昨夜の性交を思い出し、
レズの快感液を分泌してしまったのだ。

物欲しそうな顔で萌を見つめる真里。

嫌々な態度を取ってはいるが、
その実は萌のことを求めていた。

催眠によって知ってしまった女同士の禁忌の愛は、
真里の心の底にしっかりと根付いてしまっていたのである。


「わかった。もう言うのやめる。
真里の状態、大体把握したし、私もそろそろ限界だしね……ほら、これ見てよ」


すると萌は、寝間着の下をずらしてショーツを見せた。


「えっ……なんで?」


萌も真里同様、グショグショに濡れていた。


「真里もこうなってるでしょ?
私も同じ……真里とエッチしたくて仕方がないの」


残念そうな顔を浮かべ、萌は背中をソファーに預けた。


「催眠は解けたけど、実際のところ何も変わっていない。記憶が戻っただけで、私はまだ真里を恋人として見ているところがあるの……」


萌が急に神妙な態度を取り始めたので、
真里はどう返したら良いか困ってしまった。

加えて未だに発情モードが抜け切れず、萌の濡れたショーツを見て、生唾を飲み込んでしまっていた。


「真里、我慢するんだよ? 今、エッチしちゃったら、私たち本当にレズビアンになっちゃうよ。 真里には誠くんがいるんでしょ?」

「う、うん……わかってるって」


萌はショーツと寝間着を戻すと、
何事も無かったように会話を続けた。


「次、捕まったら、おそらく抵抗できないと思う。
今は忍がいるから我慢できるけど、催眠でその記憶を抜かれてしまったら、私はもう自分を止められない……」

「そんな……」

「でも真里は別。真里はまだ別れていないから。
別れていなければ、催眠に対抗できる。
だから絶対に別れないで。
二人の絆だけが、私達の最後の希望なの」

「でもどんな催眠を掛けられるかわからないのに……そんなの無理だよ……」


真里は自信がなさそうだ。催眠で操られた萌に迫られたら、真里は断れる気がしなかった。


「大丈夫。真里ならきっと出来る!
私は真里を信じてるから。
だから真里も最後まで自分を信じて。
そうすれば、きっと突破口が見えるはずだよ」


穏やかな表情で、しっかりと萌は伝える。
その言葉に真里は活を入れられた気持ちになった。

親友がここまで自分を信じると言ってくれるのなら、
できる自信がなくても、とりあえず頑張ってみよう。

そう思い、真里は萌の言葉に頷いた。

そうして話を終えた二人は、
それぞれのベッドに戻り、眠りについたのだった。


※※※


忍が眠るベッドに戻り、
萌は一人、物思いに耽る。
あぁは言ったものの、萌も真里と築き始めた新しい関係に未練を残していた。
小早川に捕まって、
真里とレズ関係に戻されるのも嫌じゃなかった。
本当はまたあの安らぎと気持ち良さを味わいたかった。
しかしそれでは、誠と忍はどうなる?
自分と真里は良くても、
彼らは確実に不幸な道へと進んでしまうだろう。
自分の願望のために、
二人を犠牲にすることはできない。
萌は、そうしたジレンマに思い悩むのであった。

Part.99 【 脱出計画◆ 】


夜が明け、目を覚ました一行は、

ラブホでラーメンを注文していた。


従業員が玄関先の受取口で、ラーメンを手渡す。

受け取り役は忍が行っていた。



「お待ちどうさまです。

ラーメンと取り皿二つをお持ちいたしました」


「ありがとうございます」


「食べ終わった容器は、外に出して置いてください。

後で取りに参ります」



トレーには、醤油ラーメンの大盛と、

味噌ラーメンの大盛が1つずつ乗せられていた。


ラーメンの個数が合わないようだが、これは宿側に実際の人数を知られないようにするためであった。


彼らは注文する際に、醤油と味噌どちらも食べたいという理由で、取り皿2つを頼み、4人で食べるつもりだったのだ。



「うわーおいしそー!」


「ふーむ、大盛りでもこれくらいか、

4人で食べるには少し足りないかもね」



素直に喜ぶ真里に対し、

萌は量が少ないことを少し残念に思った。



「足りない分は後から俺が買ってくるよ。

とりあえず食べよう」



忍が箸を割り、取り皿にラーメンを取り分けていく。



「これくらいで良いかな?」


「ありがとうございます。忍さん」



取り分けた醤油らーめんを誠に手渡す。


前日に、誠が男であることを思い出した忍であったが、一夜明けた今でも、

その容姿と性別のギャップに慣れることはなかった。


おまけに今の誠は、女物のパジャマを着ている。


真里が用意したものだが、それもあって、誠から男の面影を感じ取ることはできなかった。



(これで男だなんて、信じられないよ……)



真里の取り皿に味噌ラーメンを取り分けながら、

調教時の誠を思い出す。


丸みを帯びた狭い肩幅。

男性にはないはずの小さく盛り上がった乳房。

すらっとしたクビレ。

白くてプリプリっとしたお尻。

そして成人男性にしては、小さすぎるペニス……。


誠の温かくもまろやかなアナルの感触を思い出し、

忍の巨根は、つい勃起を始めてしまった。



(あっ……ま、まずいっ!)



前屈みになり、太ももで一物を挟み込む。

忍は、周りに一物の状態がバレないようにした。



「どうかしましたか?」



不自然な動きに、真里はキョトンとする。



「ごめん、なんでもないよ。

ちょっとお腹が痛くなっただけ」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫、気にしないで……」



忍は真里に味噌ラーメンを手渡すと、

ソファーに座り、自分のラーメンを股間の上に置いた。



「忍、お腹痛いの? フロントに薬頼もうか?」


「あー座ったら収まったよ。大丈夫」


「ふーん」



萌は麺を口に含みながら、懐疑的な目で見ている。

忍の態度が何やらよそよそしいことに気が付いたようだ。



「ねぇ、なんでそんな食べ方してるの?

そんなとこに置いたら不安定でしょ。テーブルに置いたら?」



忍は股間にラーメンを置いたまま、

前屈みになって食べている。あまりに不自然な姿勢だ。


もちろん忍以外は、全員テーブルで食べている。


忍も同じくテーブルで食べたかったのだが、

不幸なことに、このテーブルは透明なガラスでできていた。


テーブルにラーメンを置いてしまっては、

このギンギンに勃起したペニスを見られてしまう。


そのため、忍は股間に置いて食べるしかなかったのだ。



「ちょっと、忍……真里と誠さんが見ているのに

恥ずかしい食べ方しないでよ」


「あぁ……」



返事はしているものの、

忍はなかなか姿勢を直そうとしない。



「もーいい加減にしな!」



忍の奇行に耐え兼ねた萌が、器を取り上げる。


そこで彼女は気が付いた。

忍の息子が元気になっていることに。



「へっ……ちょっとっ! えっ⁉ なんでっ⁉」


「「えっ⁉」」



萌の声が引き金となって、

みんなの視線が忍の股間に集まる。


忍の股間部分の布は、

巨根に突き上げられ、見事に隆起していた。



「ちょっと、バカっ! なに興奮してんの⁉」


「はわわ……はわわわわわ……♡」



怒る萌。平手で忍の頭をぶっ叩く。


真里は誠のお尻を犯していた忍の剛直を見て

顔を赤らめていた。



「違うんだ、これは考え事をしてたらつい……」


「なに考えてたのー! 真里にラーメン渡して、

変なこと考えてたんじゃないでしょうね⁉」



忍の様子がおかしくなったのは、

真里にラーメンを手渡してからだ。


萌は忍が真里にいかがわしい妄想をしたと思い込み、

腹を立てた。


ポコポコと叩かれ、慌てた忍が弁明する。



「ち、ちがうっ!  真里ちゃんにじゃないよっ!」


「じゃあ、誰なのよっ!

あとはタイミング的に誠さんしかいないじゃないっ!

 ……あっ!!!!」



言って自分で気が付く。

まさか誠に興奮してしまったのでは?

冷静になり確認する。



「まさか誠さんに勃起しちゃったの?」


「そ、それは違う……」



肯定しにくい質問に、ついウソを言ってしまう。


誠に勃起するということは、

男色の気があると認めるということだ。



「じゃあやっぱり真里に勃起したんだね」



改めて萌は、キっと忍を睨みつけた。



「それも……ちがう」


「じゃあ、なんなのさ?」



萌が顔を近づけて言う。

鼻と鼻がくっ付くほどの距離だ。

萌は真里に勃起したのか、誠に勃起したのか、

白黒つけるつもりだった。



「決まってるだろ? 萌にだよ」


「ウソつけ」



今まで勃起できなかった奴が何を言うのか。

萌は誤魔化す忍を軽蔑した。



「いい加減答えなさい。真里に勃起したの?

 誠さんに勃起したの? どっち?」



このまま誤魔化しても、萌との関係を悪化させるだけだ。忍は正直に答えることにした。



「誠くん……です」



それを聞き、萌は気を静めた。



「ふぅ……それならしょうがないか。

忍も催眠を受けてるし、男の誠さん相手におちんちんおっきくさせてもしょうがないよね」


「うぅ……」



真里に勃起したのでないなら問題はない。

食事中だったので、からかうのは止めることにした。



(うひひひひ……誠くんに勃起しちゃったんだ~♡

はぁはぁ♡ なんというホモ勃起♡

ああやって恥ずかしがってるのも、ポイント高いな~)



腐女子の真里は、忍の反応に喜んだ。

ふと誠の様子が気になり、彼の方を向いた。


誠は顔を赤らめ、チビチビとラーメンを口にしていた。忍に性の対象とされ、恥ずかしいようだ。


そんな彼を見て、真里はさらに興奮する。



(いやぁあああああああん!!!♡♡

かわいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!♡♡

なんでそんな赤くなってるのぉぉおおお!!!♡♡

はぁはぁ♡♡ ちょっとこのBLやばいって!!!♡♡)



そこで真里はハッとした。



(す、すごいことに気が付いちゃった……

もしかして……今なら私の願いを叶えることが

できるかもしれない!)



未だに恥ずかしそうに麺を啜(すす)る誠を見て、真里は思った。


もしかしたら誠も勃起しているかもしれない……と。


彼女はこれからのことに期待を寄せていた。




※※※




「ただいま」



午後になり、忍がコンビニから帰ってくる。



「ひととおり買ってきたよ。

やっぱりコンビニ以外は何もないね。

どの店も閉まっていて、ゴーストタウンって感じだったよ」


「へ~中心地はあんなに栄えてるのにね」



ここからコンビニまで3kmはある。


忍は徒歩で街へ繰り出していたのだが、

この付近にはまだ黒服達の手は回っていないようだった。


忍は買い物袋から購入したものを取り出し、

テーブルに並べていく。


食料品、地図、懐中電灯など、脱出に必要なものばかりだ。



「外に出る時に良いと思ってマスクも買ってきたよ。

これを付ければ、顔の六割は隠せるからね」


「良いアイデアですね! マスクしてたらきっとバレません!」


「みんなでマスクしてたら逆に目立つから、

私と忍はサングラスするよ」



そうして4人は、テーブルに地図を広げ、

今後の展開について話し始めた。



「僕としては、まずネカフェでキヨちゃんに連絡したいな。

キヨちゃんだったら、おそらくこの事を信じてくれると思う。


それで場所だけど、このマンガ道場だったら、

ホテルからも近いし、比較的安全に行けると思うんだけど、

どうかな?」


「連絡を取るのは良いのですが、

そのキヨちゃんって方は大丈夫なんですか?

これだけの事件……それなりに対応できる人じゃないと、

危険な目に遭わせるだけだと思うのですが……」



萌が誠の提案に意見する。

ここで人選を間違えば、犠牲者を増やすだけだ。


自分達が捕まらないためにも、

助っ人は慎重に選ぶ必要があった。


そんな萌に真里から一言。



「キヨちゃんっていうのは、高校時代の甘髪先輩のことだよ。ほら、私が勘違いして、誠くんと付き合ってるって思ってた人」


「甘髪ってたしか……えぇっ⁉ 甘髪恭子?」


「そそ、恭子先輩。

今、同じサークルに所属してるんだ」


「ほほ~すごい味方がいるもんだね。

あの人だったら大丈夫かな」



高校では誠に次ぐ学力を誇り、

大物政治家の父と世界的な服飾デザイナーの母を持つ、

まさにサラブレッドのような女性。


それが萌の甘髪恭子への評価であった。


萌が知っている人の中では、まさにトップレベルの人物。

今回、連携を取るには申し分ない相手だった。



「でもマンガ道場のカード持ってるの?

会員手続きすると、小早川に連絡されるかもしれないよ」


「それは大丈夫。私も誠くんも持ってるよ」


「じゃあ決まりだね。

たぶん会員データから足取り掴まれるだろうから、

ここにはもう戻ってこれないかもしれないけど……」



少し残念そうにつぶやく。

そんな萌に忍は言った。



「それは仕方ないよ。

どちらにしても、何泊もしたら怪しまれるし、

ここには泊まれても今日が最後と思う。

それで移動だけど、レンタカーの番号も控えられてるだろうから、次からはタクシーを使うのはどうかな?」


「タクシーに賛成です! ネカフェに行くのは良いんですが、その後どうするんですか?」


「ふふ~ん♪ よくぞ聞いてくれました。

実はね、忍はこういう時にすっごく役立つ資格を持ってるんだよ♪」


「おおん?」



自信あり気に彼氏自慢を始める萌に、

なんだなんだと真里は聞き入った。



「なんと、忍は!

小型船舶操縦士の資格を持ってるの!」


「えぇっ⁉ なにそれ、すごそう!」


「小型船舶、すなわちモーターボートやフェリーを運転しても良い資格のこと」


「ということは?」


「旅客機や旅船を使わなくても、

私たちだけでこの島を脱出することが可能ってことなんだよ!!」


「すごーい!!」



なんともハイテンションな真里と萌の掛け合い。

誠も、あまりにご都合主義な資格を、忍が持っていたことを喜んでいた。


そうして囃(はや)し立てる三人に対し、

忍は照れくさそうに言う。



「俺、マリンリゾートで働いていたことがあってさ、

その時バイトの先輩に誘われて取ったんだ」


「それってすごく大変だったんじゃないですか?」


「学科講習を24時間と実技教習を4時間受ければ、

取れる資格だったよ。

難しいこともあったけど、先輩が全部教えてくれて、

船の操縦とかも、バイト期間中にこっそり教えてもらってたんだ」



続いて萌が言う。



「元々、忍が運転するフェリーに乗って、

南の島を遊び回ろうって話だったんだけど、

あのオカマが余計なことしてくれたせいで、

結局行けずじまいだったんだ。

でもまさかこんな形で乗ることになるとはね~」


「うんうん♪」


「なんだか希望が見えてきた感じだね」



真里も誠も実に嬉しそうだ。



「だから早ければ、明日にはこの島を出れるかもしれないよ?

何かあった時のために、甘髪先輩には連絡をとっておいて、その後タクシーでボート乗り場まで行こう。

あとはそのまま本島に逃げればウチラの勝ちだね」


「でも海を闇雲に走ったら危なくない? 大丈夫なの?」



忍が資格を持っているといっても、

島と島を越えるには、やはりプロの協力が必要なのでは?


ふと浮かんだ真里の疑問に、萌は地図を指差して答えた。



「ここが本島に一番近いところにあるボート乗り場なんだけど、ここからなら2時間半もあれば行けるはず。

船にはコンパスも付いてるし、迷うことはないんじゃないかな?」


「なるほど~コンパスがあるなら大丈夫かもね」


「とりあえず今日はゆっくり休んで、明日から動くことにしよ?」


「うん、そうだね♪」



昨夜の不安はどこへやら。

真里と誠は、この脱出計画に大きな期待を寄せるようになっていた。




※※※




それから一時間後……


追加の食料を口にし、リラックスムードの中。

真里は萌と忍の前で土下座していた。


二人はポテトチップをかじりながら、

表情を変えずにいる。


この人、何してんだ?と、

二人で目を合わせて首を傾げた。



「パリポリパリポリ、

なにしてんの……真里? パリポリパリポリ」



グビグビっとコーラを口にする萌。

何かやらかしたのか?

といった感じで真里を見ている。



「あのですね。

実は御二方に協力していただきたいことがあります」


「ふむ……なんだい、それは?」



真里が畏まって話を始めたため、萌も畏まる。

忍は、とりあえず萌に任せることにした。



「率直に言います。

忍くんのちんちんを貸してはいただけないでしょうか?」



バタンッ!と忍がズッこける。

いきなりチンチンを貸せと言われたら、

ズッこけても仕方がないだろう。


一方の萌は眉間にシワを寄せて真里を見ていた。



「ちょっと真里……意味わかんないよ。

もっときちんと説明して。

忍が私の彼氏なの知ってるでしょ?

いくら真里の頼みでも、忍のチンチンは貸せないよ」


「はい知っています……。

だからこうしてお願いしてるのです……。

萌様、お願いします……忍くんのチンチンを誠くんのお尻に入れさせてはくれないでしょうか……お願いします……」



涙目になってお願いしている。

真里は本気だ……。


誠も忍も、一体どうして彼女がこんなことになってしまったのか分からないでいる。


まさか小早川の後催眠が発動してしまったのではないだろうか? みんなが真里を心配し始めていた。


とりあえず萌は冷静に対応することにした。


彼女は椅子から下りて、真里と視線の高さを同じにすると、ポンポンと肩を叩いて諭すことにした。



「真里、わかるよ。その気持ち、すっごくわかる。

私も二人のBL、生で見たいもん。


でもね。私たちがそうであるように、

誠さんと忍だって、催眠の後遺症と戦っていかなきゃいけないの。


計画を立てたからといって、

この島から出れると決まったわけじゃないんだよ?


もしシラフの状態でエッチしちゃったら、

次催眠掛けられた時、真里と別れて忍と付き合いますって、

誠さん言い出しちゃうかもしれないよ?


真里はそれでもいいの?」


「だって……今しかないんだもん……。

捕まる可能性があるならなおさら……。

実はね……私と誠くんって、まだ一度も挿れたことないの……」


「えっ⁉ そうなの⁉」


「誠くんは童貞で、私は処女のまま……。

私は誠くんに処女を捧げたいんだけど、

誠くん、勃起できなくて……。


それで、さっきラーメン食べてる時に思ったの。


忍くんが誠くんにチンチンを挿れたら、

誠くんもフル勃起できるんじゃないかって。


その状態だったら、誠くんと繋がることができるかもしれない。


だからお願い、萌。

忍くんのチンチンを貸して……」


「そういうことだったんだね……」



真里の沈痛な思いに、萌は涙を浮かべている。

彼女は床に座り泣いている真里に寄り添うと、

しっかりと抱きしめた。



「辛かったね……苦しかったね……。

わかった……忍のチンチン貸してあげる


私も挿れてもらえなかったから、

真里の気持ちよくわかるよ。


それに一度も経験がないだなんて悲しすぎるよ。


今作った計画だって、100%成功するわけじゃないんだし。

後悔しないように、今のうちにやっちゃお?」


「ありがとう、萌……私、萌が親友で良かった……」



どんどん話が進んでいき、唖然とする忍と誠。


あっけに取られる誠を尻目に忍が言う。



「えっと……俺と誠くんの気持ちはどうなるの?」

Part.100 【 大義名分◆ 】

忍のぺニスを使って、

誠のペニクリを勃起させ、真里に挿入する。


そんな真里発案の【初体験を済ませよう作戦】によって、場は異様な雰囲気に包まれていた。


寝室と脱衣場に別れて、それぞれ話し合う四人。


女子二人の間では成立した話だったが、

男子二人は納得していなかった。


当然、真里はそのことについて誠に謝罪した。



「勝手に話を進めてしまってごめんなさい。

相談してからだと、断られた時に誠くんまで悪くなってしまうので、できませんでした。

萌には許可貰えましたが、誠くんが嫌なら今からでもキャンセルします……」



本来であれば、先に断っておくべき話である。

しかし真里も言った通り、

賛同すれば、誠もお願いする立場となってしまう。


断られる可能性もあったため、

真里は誠が顰蹙(ひんしゅく)を買わないよう、独断で実行していたというわけだ。


真里の話を聞き、誠は悩んでいた。



(どうしよう……真里さんの案に乗るべきなのかな……)



忍とするのは嫌ではなかったが、

基本的に真里以外の人とエッチしたくなかった。


しかし自分が真里に挿れられないのも事実だ。


オモチャを使えば勃起できるかもしれないが、

実際、挿れるとなると、それでも萎えてしまう気がした。


真里に挿入するためには、

膣に挿れても萎えないだけの勃起力が必要だ。


そうなると、やはり忍に頼るのがベストだろう。


それにこれまでの経緯を考えると、

真里の気持ちは十分理解できた。


今しかチャンスがないと言われれば、その通りだった。


誠は単独で挿入できない自分を情けないと思いつつも、真里の提案に乗ることにした。




「良いよ……真里さんの気持ちはわかったし、たしかに僕だけの力じゃ、挿れるのは無理だしね……」


「ホントですか……!」



真里は希望が叶い、涙ぐんでいる。


これでやっと誠と繋がれる。

そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。


誠はそんな彼女を見て、

自分がいかに愛されているかを実感した。



「でも僕が良くても、忍くんが嫌そうにしてたよ?」


「たしかに……でもそこは萌に任せます。朗報を待ちましょう」



真里と誠が初体験を済ませられるかどうかは、

忍にかかっている。


二人は萌の報告を待つことにした。




※※※




一方、萌と忍は脱衣場で話をしていた。

忍は、萌が真里の要請を勝手に受けたことに不満な様子だ。



「だから俺はホモじゃないから無理だって」


「ホモじゃないのに、誠さんに勃起するの?

女で勃たないくせに何言ってるの?」


「それは催眠の後遺症であって俺はホモじゃない」


「ふ~ん、あっそ。じゃあ百歩譲って君がホモじゃないとしよう」


「うむ」


「ノンケの私に女とセックスさせたのは、どこのどなたでしょう?」


「うっ……」


「嫌がる私を無理やり女にレイプさせて、猿みたいにセンズリかましてたのは、どこのどなたでしょうか?」


「それは違うだろ? 萌が良いって言うから……それにセンズリなんてしてない」


「しっかり覚えているみたいで良かった。

で? 私にさせて、あなたがしない道理なんてあるの?」


「くっ……ない」


「じゃあ、いいよね?」


「あぁ……わかった」



話がまとまり、二人の元へ向かおうとする忍を、

萌は一旦引き止める。



「待って、一つだけ約束して」


「んっ?」


「誠さんに対して、今みたいに嫌がるそぶりを見せないで。

誠さんはたしかに男の人かもしれないけど、

女の子の心を持ってるの。

それを嫌々したら、彼女傷ついちゃう。

忍は催眠で誠さんのことを彼女だと思っていたことがあるんだよね? 今だけ、その時の気持ちを思い出してあげて」


「……もちろん、分かってるよ。

俺が嫌がって見せたのは、お前に操を立てているつもりだったんだよ」


「ふっ……そういうことか。

操を立ててるつもりとは知らなかったよ」


「俺が愛しているのは萌だけだ。

たとえどんなに変わってしまっても、それだけは変わらない。いつだってお前の元に戻ってみせるさ」


「うん私も……愛してるよ。忍」



そうして誠の元へ向かう忍の背中を、萌は見つめていた。彼女の心に、モヤモヤとした罪悪感が芽生える。



(忍……ごめんね)



ふと心の中で呟いた言葉。

それが何に対する謝罪なのか、萌は十分理解していた。



※※※



10分後、ベッドの上には、

全裸で向かい合わせになる忍と誠の姿があった。


忍は股間の一物を存分に反りたたせている。


真里は、そんな忍の巨根をドキドキしながら見つめていた。



「萌……忍くんって改めて見るとすごいデカいよね……」


「うん、前測ったことあるけど、

根元から先端までで大体20cmくらいあるかなー?」


「えぇっ!? そんなに!?」



成人男性のペニスの平均サイズは勃起時で14cmほどと言われている。あの鮫島でさえ、その長さは19cmほどである。

忍のペニスはそれよりさらに1cm長い。


あまりに凶悪なサイズに、真里は今さら不安になった。



「あんな大きいの本当に入るの? 痛くなかった?」


「うーん、そうだね。初めの頃は痛かったよ。

でも慣れてしまえば問題ないよ。膣の形も変わるしさ」



世の中には手を丸ごと入れても平気な女性もいるという。

いわゆるフィストファックと呼ばれるものだ。

萌がそれらを例に出したところ、真里も納得したようだった。



(しかし忍くんと比べると……

本当に誠くんのおちんちん、クリトリスみたい……)



彼氏のペニスを見つめる。

心なしか、最後に見た時より、

さらに小さくなっているように感じられた。


誠のペニスの長さはおおよそ2cmほど。

忍のと比べると10分の1ほどしかない。


太さも尿管が本当に通っているのかと、

疑問に思えるようなサイズである。


さらに透き通るような薄ピンク色をしており、

見るからに柔らかそうな形と、

自信なさげなオドオドとした雰囲気は、

男失格の烙印を押されたペニクリそのものであった。



そんなペニクリを、萌は不安そうに見つめていた。



(あんなんで本当に入るのかな……)



いくら真里が挿れたいと言っても、

摘まめば簡単に折れてしまいそうなペニクリでは、

突っ込むことなどできないのではないだろうか?


そう思い萌は、一言添えることにした。



「真里、ちょっといい……?」


「んっ?」


「真里には悪いんだけどさ……

あの大きさじゃ……難しいんじゃない?

挿れたことないって話だったけど、今までどうしてたの?」


「私が誠くんのお尻にペニバン入れてた」


「真里はどういう風にしてもらってた?」


「私はしてもらってない……」


「はぁ?」



基本的に二人のセックスは真里が攻めるのみ。

誠も攻めたかったのだが、真里が拒否をしてできなかったのだ。


理由は小早川の催眠にある。


真里は、誠とHするよりも、

誠が男とする姿を見ていたいと暗示を受けていた。

そのため自分が竿役として、

誠を犯すことにしか興味を持てなかったのだ。



「そういう理由か……」



真里の説明に、萌は同情する。

忍と萌はある程度関係が進展してから拉致されたから良かったものの、誠と真里は付き合った直後に拉致されている。


本来であれば、膣内射精すら経験しているはずの二人であったが、小早川によって阻止されていたのだ。



(そうなると余計厳しいな……)



萌の気にしているのは、誠の経験不足である。

話を聞く限り、誠は女性の触り方を知らない。


たとえ挿入できたとしても、

真里をイカせることはできないだろう。


それどころか気持ち良くさせることすら、できないかもしれない。


せっかくの初体験が、無味乾燥なものでは真里が可愛そうだ。萌はどうするか考えることにした。



(誠さんでは真里を気持ち良くできない……

忍に挿入されてたら、なおさら無理かも……)



今回、誠には高度なセックススキルが要求される。


誠はペニスの快感に耐えながら、

真里を気持ち良くさせなければならないのだ。


しかしこれまでずっと、受け身のセックスばかりしてきた彼のことを考えると、それは不可能なように思えた。



(誠さんが無理なら、私がするしかないんだけど……)



昨夜、真里にレズ行為を控えるよう言ったばかりで、言い出しにくかった。


それに誠だって、目の前で彼女が他の女に気持ち良くさせられていたら気分が悪いはずだ。



(でも他に方法はないし……)



正直、一度だけだったらという気持ちはあった。


大変不誠実なものの考え方ではあるが、今回は真里が気持ちよく初体験を済ませられるようにするという大義名分も持ち合わせている。


試しに提案して、ダメだったら諦めることにしよう。


真里と誠が望まないのに、無理強いすることはできない。どのような初体験を迎えたいかは、二人が決めることだ。


そう考え、萌はさっそく話すことにした。



「ちょっと真里いい?」


「んっ?」


「これからすることなんだけどさ」


「うん」


「誠さん、忍のちんちん挿れられたら、うまく動けなくなっちゃうんじゃない?」


「むふふ♡そうかもぉ♡

誠くんと忍くんのホモ見ながら、初体験迎えられるなんて最高♡ぐふふ……ぐひょひょひょひょ……♡」



こちらが真面目に考えてあげてるというのに、なんとも能天気なものだ。萌はBL妄想に浸る真里にため息をついた。



「真里、わかってる?

誠さんが動けなくなるってことは、真里は誰にも身体を触って貰えないってことなんだよ?」


「あ……そっか……。

たしかに誠くんじゃ、その余裕はないかもね……。

でも私は誠くんを、いつもペニバンで突いてたし、

そのくらいなんとも……」


「真里は気持ちよくならなくて良いの?」


「っ?」


「真里……セックスってお互いが気持ち良くなるものなんだよ……ペニバンで突いて真里は気持ち良かったの?」


「うーん……気分的には……」


「肉体的にはないんだね……。

誠さんとセックスしてイッたことはあるの?」


「…………ない」



誠がホモセックスをしてるのを見て、イッたことはあった。しかし本人と身体を合わせてイッたことはない。


改めてそのことを思い出し、真里は残念そうな顔をした。



「初めて挿入するんだったらさ……真里も気持ち良くなろうよ……?私、真里にも気持ち良くなってもらいたい」


「でも、誠くんじゃできないだろうし……」


「だから私がサポートしてあげる」


「ふぇっ……? どゆこと?」


「誠さんの技量じゃ、真里のことを気持ち良くできない。真里も私とセックスして分かってるでしょ?」


「それは……」



萌とのエッチを思い出す。


誠とは違う底無しの気持ち良さ。

正直言って、誠にあそこまでの技量があるとは考えにくかった。



「ででで、でも昨日、エッチしたらレズになるから、そういうこと止めとこうって……」


「今回で最後だから大丈夫。それに誠さんだって挿入のためにホモするんだから同じことでしょ?」


「たしかにそうだけど……」


「誠さんには私から聞いとくね」


「えっ!? ちょ、ちょっと!」


「誠さん、ちょっとよろしいですか?」



神妙な面持ちで声をかける。

誠は、忍が自分との行為に嫌悪感があるのではと、

不安そうな顔をしていた。



「どうしたの? 萌さん」


「率直なお願いです。セックス中、真里を気持ち良くさせるため、真里に愛撫しても良いですか?」


「えっ……? 萌さんが真里さんを……?」


「真里から聞きました。

誠さんは真里を攻めたことが一度もないって。


経験もなしに、しかも忍のちんちんをお尻に挿れた状態で、真里を気持ち良くさせるなんて無理です。


誠さんが認めてくだされば、私が代わりにします。

お願いです。私は親友として真里にも気持ち良くなってもらいたいんです」



誠は返答に迷い、真里に尋ねた。



「真里さんはどうなの?

その……女の人同士でしても良いの?」


「私は……大丈夫です。

でも誠くんが少しでも嫌なら断るつもりです」



正直、萌としたい気持ちはあった。


彼女に触られることを考えると、

今からでもドキドキしてしまうほどだ。


しかし誠が望まなければ、するつもりはない。


今回は、あくまでも挿入がメイン。

たとえ気持ち良くなくても、精神的には満たされるはずだ。


自分が女として気持ち良さを得られるのは、

誠がきちんと勃起できるようになってからでも良い。


真里は、そのように考えていた。



(嫌は嫌だけど……)



一方、誠の本音はノーだった。

他の三人と違って、誠に寝取られ願望などない。


真里が萌に気持ち良くさせられている姿など、

あまり見たくはなかった。


しかし断りにくい状況でもあった。


今回の件は真里から言い出したこと。

萌と忍は自分達に協力してくれている立場だ。


さらに萌の目的は、この初体験で、

真里にも気持ち良くなってもらいたいというもの。


萌の言うとおり、

経験のない自分では、真里を満足させられない。


おそらく忍の一物に気を取られ、

真里には気が回らなくなってしまうだろう。


真里にも気持ち良くなってもらいたい。

できることなら自分の力で……。


だが土台無理な話だった。


誠は己の無力さを感じつつも、

その気持ちを悟られないよう返事をした。



「お願いします……私の代わりに真里さんを気持ち良くさせてください……」


「わかりました。真里が誠さんのおちんちんでイケるよう頑張りますね」



誠は、本来自分が果たすべき役割を、

女性である萌に委ねた。


彼の男としてのアイデンティティが、

また少し崩れようとしていた。



※※※



萌が服を脱ぎ、全員が全裸となった。


二つあるベッドに、

それぞれ忍と誠、萌と真里に分かれて座っている。


まず初めは、誠のチンチンを最高の状態にすべく、

忍と誠がセックスをすることとなった。



「じゃあ、初めに誠くん……いや……マコト……ちゃんでいいかな?」


「はい……忍くんの呼びやすいように呼んでください。

男同士だと思うとやりにくいでしょうから、

私のこと……女として扱ってくれて構いません」


「そっか……じゃ、じゃあマコトちゃんって呼ばせてもらうね」



これまで何度も身体を合わせてきた二人であったが、

記憶を取り戻していることもあり、たどたどしい雰囲気であった。



「それじゃあ、えっと……舐めてもらっても……いいかな?」



恥ずかしそうにお願いする。


見た目は女であるが、

実際は男にフェラチオをお願いしているのだ。


忍はこうして同性にフェラチオさせることに、

一種の背徳感を覚えていた。



「はい、それでは失礼します……」



顔を赤らめ、忍の一物に両手で触れる。

控えめに舌を出し、忍の様子を伺いながら熱い塊に這わせていく。


これまで小早川に調教されてきただけあって、

その慎ましやかな姿は、高級シーメール嬢と見紛うばかりであった。


誠の脳裏に、忍と恋人として過ごした記憶が甦る。

愛しい人……この熱い肉の塊も愛おしかった。

味も、匂いも、温かさも、全てが愛おしさの対象だった。


誠のペニクリは、

大好きなオスの性器を舐める悦びにピクピクと震えていた。



(はぁはぁ……♡ 忍くんのおちんちん、大きくてカッコいぃ……♡ 舐めてるだけなのに……なんだか……お尻もおちんちんもキュンキュンしてきちゃう……♡)



すっかり発情したメスの顔。


誠はトロンとした目付きで、

目の前にある巨根にしゃぶりついた。



ジュポジュポ……ジュルジュル……

ジュルルルルルルルルル……


「うぅっ……はぁはぁはぁ……あぁ……」



徐々に忍の顔に余裕がなくなってくる。

かつてフェラチオの仕方を教えたのは忍であったが、

今の誠はあの頃の忍の技量をとうに超えていた。


誠は小早川の一番のお気に入りニューハーフだ。


かなり念入りにしつけられたのだろう。

あのオカマがマンツーマンで、性技を教えるのは誠くらいである。


もし誠が堕とされ、ニューハーフ嬢として開花したならば、一体どれだけのノンケが犠牲になるだろうか?


その被害たるや想像だにできない。


それほどまで、

誠のフェラチオは、並みのニューハーフの技量を、

はるかに超える代物だったのである。



「も、もういいよ、マコトちゃん……。

これ以上されたら出ちゃうから、ここで終わりにしよ?」


「ちゅぱちゅぱ……はい……♡」



にっこりと笑って受け答えする。


誠特有の優しさの混じった笑顔は、

男から見ると、まさに天使そのもの。


そこに風俗嬢特有の演技や、

それに伴い発生する猜疑心(さいぎしん)など一切なかった。


一般男性が客として誠を相手したならば、確実に心を奪われ、何百、何千万と消費しても惜しくないと感じてしまうだろう。


しかしそこはさすが忍である。

これまで数々のニューハーフ嬢を生産してきただけあって、彼の自制心は強かった。


彼は誠の頭を撫でると、次なる指示を出した。



「それじゃあマコトちゃん、

こっちにお尻を向けてくれるかな?」


「はぁはぁ……♡ はい……♡」



誠はすっかり出来上がってしまっていた。

頭を撫でられメススイッチが入ってしまったのだろうか?


態度も仕草も調教時の誠に戻ってしまっていた。


誠は四つん這いになると、

そのすべすべで綺麗な色白のお尻を突き出した。


忍は萌が持ってきた小早川製薬のサンオイル(媚薬)を指に付け、誠の後ろの蕾に練り込んでいった。



「あぁっ!♡ ふぅぅぅんっっ!♡♡

はぁはぁはぁはぁ!♡ あうぅっ♡♡ あうぅぅんっ♡♡」



菊門に触れるたび、誠ははしたない声をあげる。

いたいけな穴もパクパクしていた。


本当は声など出したくないのだが、

忍に性器を弄られ、我慢できなかった。


まだ挿入の前段階にも関わらず、ペニクリの先からは透明な愛液が滴り、ベッドの間に細い線を作ってしまっていた。


忍はペニクリから愛液を搾ると、倒錯交尾の穴に塗り込んだ。それにより誠の興奮が一層高まる。



「んんんっ♡ はぁはぁはぁはぁ♡♡ あぁんっ!♡♡」



誠の愛液とサンオイルが混ざり合い、新たな媚薬を作り出す。忍の手のひらで出来上がった新薬は、誠のお尻おまんこに塗られ、一部は中に押し込まれた。


元々は女を孕ますはずであった誠の精液。


これまでの催眠によって、男としての自覚を失い、数々のホモ経験を積んで、精子を有しないオカマちゃん汁と化したそれは、皮肉にも、初めての侵入先として自らのお尻おまんこを選ぶこととなってしまった。



「じゃあ入れるよ? マコトちゃん」


「……うん♡ 来て、忍くん♡」



自然と笑顔になる。

ないはずの子宮がウズいてしまうようだった。


忍の先端が触れた時、誠のアナルは大きく開かれ、包み込むようにそれを招き入れた。


肉棒が中を進む度に、肛門管がキスをする。


すっかり男性器を受け入れることに慣れてしまった肛門は、もはや淫乱な娼婦顔負けのオカマっぷりを発揮していた。



(うぅっ……やっぱりマコトちゃんのおまんこは全然違う……)



直腸、精嚢、前立腺……。

まるでそれらは別々の意志を持っているかのように、

男性への性接待を開始する。


まだ初期の頃でも、鮫島の理性を狂わせ、忍の催眠耐性を崩したほどの名器。


それが小早川の調教により、

男を喜ばせる術を学んでしまった……。


すでに誠が意識せずとも、鍛えられたホモ倒錯器官は、男を籠絡するための術を、男性器に行使するようになっていた。



「はぁ……はぁ……はぁ……奥まで入ったよ」


「はぁはぁ……♡ うん……忍くんの……すごく気持ちいいよ……」



なおもキュウキュウ♡と巧みな締め付けをしてくる。


萌が隣にいなければ、

すぐに腰を振っていたかもしれない。


肉竿に与えられる心地好すぎる快感に耐えながら、

忍は本来の役目を果たすため、誠の股間に手を添えた。



(……大丈夫だ。ちゃんと勃ってる)



まるで赤ん坊のような手触りだが、

たしかにそれは勃起していた。


女性に性感を与えるには、

未熟なポークピッツだったが、

この大きさと硬さであれば、

ギリギリ入れることができるかもしれない。


忍は時おり誠の胸を愛撫して、

その勃起力を維持させつつも、

女性二人の準備が完了するのを待った。

Part.101 【 優しい嘘◇◆ 】


時は少し遡(さかのぼ)り、

忍と誠が交わり始めた直後の様子。


真里と萌は、すぐには事を始めず、

男子二人の行為を見つめていた。



ゴク……


「ふー……いいね……」


「うん……いい……」



生唾を飲み込む腐女子二人。

彼女達は恥ずかしそうにする忍と誠を見て、

カルテトのワンシーンを思い出していた。



「はぁ……尊い……」



胸の前で祈るように手を組み真里が言う。

彼女はある種の信仰心を伴った目で、二人を見ていた。


そんな真里の隣で萌も言った。



「私、あの二人が付き合うんだったら許せるな……」



できることなら、この様子をずっと見守っていたい。

誠にだったら忍をあげても良い。萌はそんな気分だった。


しかしのんびりと鑑賞している場合でもなかった。

萌はこれから真里を誠の元へと導かなければならないのだ。


真里の太ももに手を添え、振り向かせる。

そして、じっと真里の目を見つめた。



「じゃあ……こっちも始めるよ?」


「うん、恥ずかしいけど……お願いね」


「任せて、真里が一番いい状態で誠さんのところに送ってあげるから♡」



これは真里と誠の初挿入を、

気持ち良く迎えるための儀式だ。


本来であれば、邪(よこしま)な心など、

持ち合わせてはいけないのだろう。


心を無にして、真里の身体を愛撫する。


本来であれば、そのように接する必要があるのだが、

萌にそのつもりは全くなかった。


これは彼女にとって真里とできる最後のセックスである。


終わってしまえば、

二度と触れあうことはできなくなってしまう。


そうであれば、これを最後の思い出としよう。


これを機に彼女への想いを捨てて、

忍の元へともどるのだ。


そうして萌は、たしかな欲を抱いて、

想いの人の胸元へと手を伸ばした。



「んっ……♡」



指先が胸に触れ、真里は軽く声を上げた。


萌は手のひらで優しく乳房を包み込み、

そのすべすべの肌を滑らすように愛撫を始めた。


身体の構造上、男より女の方が筋肉量が少なく、

それに伴い、生み出される熱量も少ない。


ひんやりとした女性の手の感触により、

真里は、同性同士でしているという感覚を強く抱いた。



(はぁはぁ……♡ 誠くんが横にいるのに、

萌としちゃってる……何この感覚……♡)



いけない事をしているという思いが、

真里の興奮を高める。


寝取られる誠に興奮したこともあったが、自分が同性に寝取られるというシチュエーションも興奮するものだなぁと、この時の真里は感じていた。



「ふぅううん…………!♡」



萌の舌先が、白い球体のピンクの頂(いただき)に触れる。


ちゅ……れろぉ……れろぉ……ちゅっちゅっ……♡


真里は背中を弓なりにしならせ、

萌の乳輪舐めに耐えている。


萌は緩急をつけ舌を動かし、

時には唇をすぼめ、軽く吸引した。


同時に空いている手を真里の太ももに這わせ、

指先でフェザータッチを加えていく。


別々の箇所を同時に攻めることによって、

集中力を分散させ、快感をより深く浸透させるつもりだ。


乳輪を攻めていた舌が真里の首筋に移動し、

太ももを撫でていた手が、もう一方の乳房を包み込み愛撫する。


そのようにして萌は、

丁寧に丁寧に真里の身体を愛撫していった。


こうした一連の動きは、

まさに萌の真里への想いを象徴するものであった。


小早川に捕まれば、

この先ずっと真里と一緒にいられるかもしれない。


しかしそれでは、忍と誠が性奴隷として扱われ、

自身も一生支配される結果となってしまう。


船で本島に逃げられれば、

小早川に打ち勝てるかもしれない。


しかしそれは、

真里との関係の完全なる終わりを意味していた。


そうしたジレンマはあった。


忍や誠には大変失礼だが、

このまま捕まってしまっても良いとも思えた。


だがはたして、それで真里は幸せだろうか?


真里が本当に愛しているのは誠だ。

自分では、その役目は果たせない。


真里に幸せになって欲しい。

たとえ彼女と一生交われなくなってしまっても。


だからせめて最後に、

思う存分彼女を愛させて欲しい。


そんな萌の想いが、

この一連の動きに含まれていたのである。



「あぁ……萌……気持ちいぃよ……♡♡」


「ふふふ……まだまだだよ? もっと気持ち良くしてあげるからね♡」



あまりの気持ち良さに真里の顔が弛緩している。


トロンとした目をして、

まるで天国にいるかのような表情だ。


萌はそんな彼女に気を良くすると愛撫を続けた。


首筋を舐めるのを止め、

うなじ、耳元の部分に舌を這わせ、

真里の身体を抱きしめ、両手で背中にフェザータッチを加えていく。



「んんっ!♡♡ だめぇ!♡」



背中に与えられるあまりに柔らかすぎる愛撫に、

真里はつい声をあげてしまう。


萌は耳元に添えた唇で熱い息を込めながら誘惑した。



「ダメじゃないでしょ……?♡

こういう時はイイって言うの♡ ふぅー♡」



耳元で怪しく囁かれる声色に、

真里は心までも愛撫されている気持ちになった。


ゾクゾクとした快感が背中を走る。



「あぁぁ……いぃの……♡ 萌……すごくいぃの……♡」



じゅわ……♡


すっかり潤った真里の蜜壺からは、女同士の性愛によって生み出された愛液が零れ、シーツを濡らし始めていた。



「あっ、ダメだよ~真里? こんなに濡らしちゃって♡ これ以上汚さないように綺麗にしてあげる♡」



萌はニッコリと微笑み姿勢を崩すと、

真里の毛の生えていないツルツルのおまんこに顔を埋めた。



(はぁはぁ……真里のここ……ピチピチしてて厭らしい……)



催眠が解けている萌が、

初めて目にする真里の花弁。


今から萌は自らの意志でここに口づけするのだ。


女性の肉襞(にくひだ)にキスするなど、

ノンケの萌にとって、考えるも悍(おぞ)ましい行為であった。かつては全身に鳥肌が立ち、心の底から拒否反応を示していた行為――――今はそうした嫌悪感は一切感じられなかった。


萌は変わってしまった自身の心を認識しつつ、

真里の割れ目に口付けをする。



ヂュルルルルルル……チュッチュッ……ゴクンッ……

レロレロレロレロレロ……チュウウウウウウウウ


「あっ! あっ!  萌っ!♡

気持ちいぃぃぃぃぃっ!!♡ おかしくなっちゃう!♡♡」



萌のクンニに翻弄される真里。


シーツをぎゅっと握りしめ、

大事な部分を嘗め回される快感に耐えている。


萌は唇でビラビラを挟み滑らせたり、

陰核を舌先でくすぐった。


そうしてまた一歩、真里は絶頂へと導かれていく。


長く同性愛者として過ごしてきていた恭子、直美と比べて、萌の同性への性技は拙いものであった。


だが真里との身体の相性だけで言えば、

この世の誰よりも秀でていると言えた。


真里をどうすれば気持ち良くさせられるのか?


そのようなことをいちいち考えるのは無粋である。


彼女は本能の赴くままに動くだけで、

真里を気持ちよくさせることができるのだ。


萌は、身体を起こすと真里の足と自らの足を交差させ、腰を降ろしていった。


彼女が最後に望むのは、女性器同士のキスだ。

柔らかい萌の陰毛が、真里のビラビラのヒダに触れる。



「「んんっ!♡♡」」



二人同時に声を上げる。


触れ合った箇所から感じられる悦楽の神秘。


萌はこの瞬間、この感覚を、

しっかりと記憶に思い留めようとしていた。



(真里……あなたと触れ合えて、すごく幸せだったよ。

これが最後になるけど、私、この事を一生忘れないからね……)



腰を振り、摩擦を強めていく。

真里も萌に合わせ、腰を振っている。


お互いに気持ちいいところをピンポイントで。


愛液が混ざり合い、敏感なそこに、

より相手の存在を深く知らしめていく。



「あぁっ!! 気持ちいぃっ! 気持ちいいよっ! 萌!」



真里の頭が萌で満たされていく。


すでに真里は、誠のペニクリのことなど忘れ、

この行為に没頭していた。


だが萌は……。



「はい、ここで終わり~」


「ふぇっ!?  あっ♡  ふぅんっ!♡

な、なんでっ! 今……んんん……♡

もう少しでイケそうだったのに……」



絶頂寸前で止められて、真里は不満そうだ。

そんな真里の頭を優しく撫でて萌は言う。



「真里、あなたは誠さんとエッチするんでしょ?

私なんかでイッたらダメじゃない。

もう十分おちんちんを受け入れる準備はできたんだから、誠さんのベッドに移動するよ」



儀式は終わった。あとは誠に真里を託すだけだ。


挿入が成功すれば、真里は心置きなく逃亡に専念できるようになるだろう。



「あっ……そっか。そうだった……」



真里は、思い出したように言うと、

未だに快感に震える身で、重そうに起き上がった。


すでに誠と忍は挿入を終え、二人が来るのを待っていた。小さいながらもしっかりと勃ち上がる誠のペニクリ。


萌はそんな誠を羨ましいと思いながら、真里を彼の前に座らせるのであった。



※※※



(はぁはぁ……♡ 誠くん、こんなに大きくして……)



小さな誠のペニクリと対面して、真里は感動していた。


先ほどまで2cmほどだった誠のペニクリは、

忍の剛直に貫かれて、3cmくらいの大きさに成長していた。


その成長具合は約1.5倍。

20cmの肉竿が30cmまで伸びたら、凄まじい成長だろう。誠のペニクリの進化は、それほどすごいものだった。


さらに真里は、誠が忍に貫かれているという状況にも興奮していた。



「誠くん♡ 忍くんのおちんちんどうです?

気持ちいいですか?♡」


「ぁ…………はぁ…………♡

うん……気持ち…………いいよ……♡」


(うひひひひ!!♡♡ 最っ高……はぁ……♡♡)



誠の前立腺は、忍の亀頭とキスしている状態だ。

誠は熱い吐息を漏らしながらも、艶かしい表情で答えていた。その表情が真里の腐女子としての心をくすぐる。



「ねぇ真里、この大きさだと根元までいれないと実感ないだろうから、寝てる誠さんに乗っかってするのはどうかな?」



萌は誠の粗チンを考慮して、騎乗位を提案した。


たしかに根元まで突っ込むにはその方法しかない。


さらに加えて言うなら、正常位でするには、誠を支えて真里に挿入しなければならず、忍への負担が大きかった。

なおかつ、誠がどれくらいで射精できるかわからなかっため、長期戦に備える意味でも有効だと考えられた。


それを聞き、真里は同意する。



「うん、その方が誠くんも楽だろうし、そうしよっか。忍くん、そのまま寝てもらって良いですか?」


「あぁ、俺は問題ないよ」


「忍、これ使いなよ」



萌が元のベッドに置いてあった枕を手渡す。

忍は枕と掛け布団で山を作ると、背中を預けた。


誠は寝ている忍の身体の上で、仰向けになっている。



「さぁ真里、お待ちかねの時間だよ?」



真里は誠の上に跨がると、ゆっくりと腰を降ろしていった。


徐々に距離を縮める真里と誠の性器。


アナルに差し込まれた忍の巨根のおかげで、

誠のペニクリはピクピクと上を向いていた。


真里の割れ目も萌から受けたレズ愛撫によって、

これまでにないほど潤っている。


まさにどちらもベストコンディションと言える状態だった。


萌の誘導で、正確に位置を合わせ

――――ついに、二人は結合する。



「…………」


「…………」



しばし静寂の時が流れた。


萌と忍は、真里と誠の歴史的瞬間を邪魔しないよう静かにしていた。


真里と誠が何も言わないのは、

きっとこの初めての瞬間をじっくりと噛み締めているからだろう……二人はそう考えていた。


そうして少し経ち、真里が沈黙を破る。



「萌……ちゃんと入ってる?

もしかしたらズレているかもしれないから、ちょっと見て」


「えっ⁉ そ、そう……? わかった」



萌は真里の横に移動して、

二人の結合部を確認しようとした。

密着していて、よく見えない。



「ごめん、真里、ちょっと腰を浮かしてもらっていいかな?」



真里は両手を誠の胸に置くと、軽く腰を浮かした。

真里の膣付近から、誠のペニクリが姿を現す。



「うーむ……」



ペニクリはちゃんと勃起していたが、

膣には入っていないように見えた。


ズレてしまったのかもしれない。



「微妙に入ってないかな」


「萌、ちょっと見ててもらっていい? もう一度入れるから」


「……わかった」



横からだと少し見えにくいので、萌は真里の背後に戻って、彼女のお尻の下から結合部を覗くことにした。



「じゃあゆっくり腰を下ろしてーそのままー」



萌の掛け声で、真里は腰を下ろす。


密着する真里と誠の性器。


だが誠のペニクリは、真里の膣に触れると、

溝に沿って倒れてしまった。



(はぁっ!?)



結合が失敗して、困惑する萌。


誠のペニクリはちゃんと勃起している。

位置も問題なかった。


なぜ入らなかったのだろう?


萌は真相を究明するため、誠の性器を調べてみることにした。



「ごめん、真里。ちょっと誠さんのおちんちん触らせてもらうね」


「え……う、うん」



真里に許可を貰い、誠のペニスに触れてみる。


見た目こそ勃起していたが、

実際のそれはとても柔らかかった。


だがこれでもまだギリギリどうにかなるのでは?


そう思った萌は、次に真里の割れ目に触ってみることにした。レズ行為とホモ鑑賞の重ね掛けによるものか。そこはパンパンに腫れて硬くなっていた。


これでは入るわけがない……。


真里の膣が硬すぎて、

誠のよわよわチンポでは突破できないのだ。


もう少し硬くなってくれれば良いのだが、

おそらくこれが限界である。今以上に彼の勃起力を高める方法は、考え付かなかった。



(どうしよう……? このままじゃ挿れられない……)



萌は迷った。

この事実を打ち明けるべきかどうか?


指で真里の膣を無理やり開かせれば、

ペニスを挿れることはできるかもしれない。

だがそれでは真里の初めてを、自分が奪ってしまうことになる。


たとえその方法が取れたとしても、

誠の陰茎では膣圧に負けて、追い出されてしまうだろう。


現状、萌が手伝って出し入れすることは不可能だった。


しかしそれを二人に言ったところで、

がっかりさせてしまうだけだ。


そこで萌は考えた。



〖入ったことにすれば良い〗のではないかと……。



幸いなことに、忍の位置からでは、誠の身体が邪魔をして、入っているかどうかを確認できない。


真里と誠も挿入の経験がなく、

入ったと言えば、入っていると思い込むだろう。


あまりよろしくないことだが、

今日中に結果を出すなら、そうするしかない。


現状もっとも大事なのは、二人が達成感を得ることだ。


今、嘘を付いても、いずれ日常に戻れば、

その時、事実を伝えれば良いのだ。


そう考え、萌は嘘を付くことにした。



「ちょ、ちょっと位置調整するね。

一度、腰あげてーーはい、下ろして良いよ。

ゆっくりね……そそ……そそそ、

はい、入ったー。入ったよー真里」


「……ホント?」


「ホント、ホント」



パッと真里の顔を見る。

彼女は目を閉じて難しい顔をしていた。


おそらく全神経を集中し、

誠のペニクリの感触を探しているのだろう。


しかし真里は、どうしてもそれが分からない様子であった。入っていないのだから当然である。


慌てた萌は、誠に話を振ることにした。



「ほ、ほら誠さん……どうですか?

真里の中に入ってるの分かりますよね?」


「う、うん……はっきりとは分からないけど……

言われてみれば、温かくて、入ってる感じはするかな」



自信なさ気に、誠は答える。


それまで外気に触れていた誠のペニクリは、

真里の膣に圧し潰されていた。


それで入っていると勘違いしたのだろう。


誠がそう答えたため、真里も納得することにした。



「入ってるんですね。そうなんだ……」



想像していたのとだいぶ違う。


口には出さなかったが、

真里の顔は、そう言っているように見えた。


萌は誤魔化すために、忍に指示を出した。



「忍。腰を動かして!

誠さんのちんちんが動けば、真里も分かるかも!」



忍がグラインドを開始する。

彼は誠が落ちてしまわぬよう、

両腕でしっかりと抱きしめながら腰を振った。



「んんっ! あっ、あっ、ん、んんー♡」



身体が振動することにより、

ペニクリが真里の大陰唇に何度もぶつかる。



(もしかして、このちょっと当たっている出っ張りがそうなのかな……)



そこで真里は、ようやく誠のペニクリが触れてることに気付く。肉棒を入れた経験がないため、勝手はわからなかったが、その僅かな突起を意識して自らも腰を動かすことにした。



「どう……真里? おちんちん分かった?」


「うん。誠くんのおちんちん、きもちいいよーー」



口ではそう言いつつも、あまり感じていないようだ。

そこで誠が感慨深く言う。



「真里さん……私たちやっと繋がることができたんだね……」



これまでの苦労が報われたと思っているのか、

彼は真里と繋がれた喜びで、涙を浮かべていた。


そんな誠の反応を見て、真里は慌てて答える。



「そ……そうですねっ! 

私も誠くんのおちんちん入れられて嬉しいですっ!」


(あぁぁぁ……わからない……わからないよぉー。

本当に入ってるの? 小さすぎて、全然わからないぃぃぃっ……)



せっかくの貴重な体験を共有することができず、

真里は泣きそうになっていた。



(あっ……このままいくとまずい……)



そんな真里の危機にいち早く気付いたのが萌であった。

彼女は真里の背中に張り付くと、耳元で小さく声をかけた。



「落ち着いて真里。もともと小さいんだから、わからなくてもしょうがないよ。入ってるのは事実だから、安心して、ね?」


「うぅっ……ひっぐ……で、でも……」


「うん……うんっ、わかった。わかったから……。

私がなんとかするからっ……! だから泣かないでっ……」



真里の言いたいこと。

それはあまり気持ちが良くないというものであった。


もう少し誠のちんちんが大きければ、

接触部から〖精神的な快感〗を得ることができたのだろうが、今回はあまりにもその接触面積が少なすぎた。


真里のその類い稀なき想像力を持ってしても、

知覚できないものから物語を広げることはできない。


とはいえ、誠は先に盛り上がってしまっている。

真里はこの大事な局面で、なんだか置いてけぼりくらったような気持ちになってしまっていた。


そこで萌は考えた。


この状況を挽回するためには、

真里と誠を同時に絶頂させるしかない。


萌は真里の背中から手を伸ばすと、

左手を真里の突起に、右手を真里の胸に添えた。



「ぁ……♡」



まだ触れられてもいないのに、

真里は期待から声を出してしまう。


萌は当初の予定どおり、

最後までサポートを続けることにした。



「忍、誠さんのおっぱいを揉んであげて、

せっかくだから二人一緒にイカせてあげようよ?♡」



萌に命じられ、忍は誠のおっぱいを揉み始める。


胸への愛撫が加わり、

誠の興奮状態はさらに激しさを増していく。



「忍くん……はぁはぁはぁ♡ あうぅん……♡」


「んんっ!♡  萌、ぁっ♡ んんっ…!♡♡」



真里の官能も高まっていく。

萌は、真ん中の三本の指を使い、

琴を弾くように真里のクリトリスに触れていた。


同時に胸への愛撫も忘れない。

右手で真里の乳房を包み込み、中指と薬指で乳首を挟む。

それ以外の部分でリズミカルに揉みながらも、

真里の乳首を中指と薬指の間で扱(しご)き上げた。



「ふっふーん!♡  はぁはぁ♡  はぁはぁ!♡」



萌は真里が十分出来上がったのを確認すると、

再び耳元で囁いた。



「必ず一緒にイカせてあげるから、何も気にせず気持ちよくなってね」



そうして首筋にキスをする。



(萌……ここまで気を遣ってくれて……

ありがとう……大好きだよ……)



真里は親友の気遣いに感謝し、

言われるまま愛撫に身を任せた。


すっかり勃起した真里の乳首。


揉んでいない方の乳房もパンパンに張り、

その真ん中の突起も同様に隆起していた。


真里のクリトリスは包皮の外に飛び出し、

萌の指に挟まれ、実に嬉しそうにしている。


外陰部は充血し、徐々に赤みを帯び始め、

真里の子宮はキュンキュン♡と鳴り続けていた。


忍の腰の振動が、より効果的に二人の性器に快感を与える。



「あっはぁんっ! 誠くん、お願いっ!

私たちの赤ちゃんの素を……私の中に入れてっ!!」


「うんっ!……うんっ! 私も……入れたいっ……!」



いつもは男を喜ばせるために存在するオカマじゃくし達が、ペニクリの先にある女性器を目指して泳いでいく。


それにより誠のペニクリが射精寸前の動きを見せ始めた。もう一段階、膨張するペニクリ。


誠のペニクリが膨張したことにより、

真里との接触面積が増加する。



(あぁっ! 伝わってくる……誠くんのおちんちんの鼓動が……!聞こえてくる……私たちの赤ちゃんの息吹きが……!)



「真里さん、いくよっ! イクよっ!!」


「うんっ!  いっしょにっ……いっしょにイコ……!

誠くんっ!♡ 誠くんっ!♡

大好きぃぃぃぃぃっ!!!!♡♡」



「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」



ピュッ……♡



大きな叫びの後に、少量の射精液が真里の〖膣外〗に発射された。

Part.102 【 言葉責め 】



シャワーヘッドから出たお湯が、

浴室に立ち込め湯気が舞っている。


その濃淡な湯煙の先には、

仲睦まじい夫婦のごとく、肉竿を入念に洗う忍と、

そんな彼の背中を洗ってあげる萌の姿があった。


友人の破瓜の儀を終えた二人は、

今度は自分たちの肉体的な契りを結ぶための準備をしていた。


これまでは萌との性的繋がりに消極的だった忍だが、

今は明確に、なぜ自分達が性交に至れなかったのかを理解している。


無理やり身体を同性愛者向けに改造され、

恋人への性的欲求を極端に減らされてしまった彼は、

その暗示を解くべく、使命感にも似た強い意志を持って、萌との性交に臨もうとしていた。



「さっきは手伝ってくれてありがとうね、忍」


「あぁ、うまくいって良かったよ。

これで二人とも、逃げるのに専念できそうだ」


「……そうだね。四人でしてみてどうだった?」


「珍しい経験ができて良かったってところかな?」


「ふーん、もしかしてハマっちゃったとか?

忍からすれば、女3人相手できるもんね。

一種のハーレム状態って感じ?」



背中を洗いながら、からかい気味に顔を覗かせる萌。

たしかに忍からすれば、どこを見ても花といった状態であったが、なんだか好きこのんでしたみたいで、微妙な言い方であった。



「ばか、二人に失礼だろ……それに誠くんは男だよ」


「うーん、どちらかというと、

おちんちん付いた女の子って感じだけどね。

忍には誠さんが男に見えるの?」


「……見えない」


「だよねー。誠さん、すごい美人だし、

万が一捕まっても、あの人が彼女なら忍も幸せじゃない? いしししし! あっ、流すよ?」



にんまりと笑って、シャワーのノズルを忍の背中に向ける。


誠が女であれば、嫉妬の対象であるが、

男であれば、このように余裕である。



「何言ってるんだよ。

捕まってしまえば、誠くんは性奴隷にされてしまうんだぞ? 幸せだなんて、とても言えないよ」



萌が冗談を言っているのは分かっていたが、

それでも忍は真面目に答えた。


たとえ冗談であっても、

その後の誠を思うと、やるせない気持ちになったからだ。


しかし萌がそんな彼の態度に悪びれる様子はない。

むしろ哀愁を漂わせるような表情をしていた。



「だろうね……でもそうなったら忍が守ってあげなきゃ♪

その時は、本当に誠さんと結ばれても私は構わないからね。BLを抜きにしても」



明るく振る舞っているが

彼女も最悪の事態を考えて言っていた。


次に捕まれば、一度別れている忍と萌は、

簡単に関係を解消させられてしまう。


萌の冗談は、万が一敗れて、そのような事態に陥っても、決して忍を恨まないという意思表示であった。


忍は首を横に振る。

自分の彼女は萌しかありえない。


そんな気遣いしなくても良いように、

なんとしてでもこの島から脱出しなければ。


忍は気持ちを新たにすると、萌を抱きしめた。



「これからどうなるかはわからない。

でも俺の女は萌だけだ。

例えどんな結果になっても、

萌のことを愛し続けてみせるさ」


「うん……♡」



久しぶりの恋人からの抱擁。

萌は身体の力を抜くと、忍に全身を預けた。


洗いたての良い匂いがする。

懐かしくも温かい、大好きな匂いだった。


そしてこれが最後かもしれないという思いが、

なおも一層、彼への気持ちを掻き立てた。


一時は、催眠によって引き裂かれた二人だったが、

こうして精神的にも肉体的にも結ばれようとしていた。


萌は愛しき人の男の象徴に触れる。


太くて逞しい……


しょんぼりとしたペニスであった。



「勃ってないじゃん」


「うっ……」



自分から誘っておいて、なんだこれは。

せっかくの雰囲気が台無しである。


忍も気まずそうにしている。


とりあえず、

忍のふにゃちんをシコシコしながら叱咤した。



「忍くん、そーいうセリフはね。

きちんと勃たせてから言いなさい」


「ごめん……気持ちの方が先走っちゃって……」



悪気はないのだろう。

萌はその気持ちを聞けただけで嬉しかった。


でも許してあげない。徹底的に虐めてあげよう。

なんとなくそんな気持ちだった。



シュコシュコシュコシュコ……



本当にまったく大きくならない。


理由は分かっているので、

残念な気持ちは沸いてこなかった。



「あれぇー? おっきくならないね?」


「今に大きくなるさ……」



一生懸命勃たせようと頑張る姿が今では微笑ましい。


萌は以前ほど、忍のちんちんに執着していなかったので、心に余裕を持って見ていることができた。


勃たなきゃ勃たなくても構わない。


そのような気持ちの変化は、

お分かりの通り……

萌のレズっ気が増してしまったことにあった。


萌は忍のちんちんよりも、

真里のおまんこの方が好きになっていたのだ。


さらに先ほどの性交で、それを存分に堪能していたこともあり、すでに性的に満たされた状態にあった。



「ふふふ……がんばってね、忍♡

焦らなくて良いからねー。

ほーら、女の子のお手てだよー?

忍のおちんちんを女の子の手がシコシコしてるよ♡

気持ちよくなれるかなぁ?♡」



小さな子供に語り掛けるように、

なぜかしきりに女の子の手を強調してくる。


その後も萌は、舐めたり、しゃぶったり、

そう大きくもない胸で挟んだりもしてみたが、

最後まで、忍の一物が勃起することはなかった。



「あらあら、重症だねぇ。忍くん♡」


「なんで嬉しそうなんだよ……」


「なんでだろうね?♡

はぁー彼女にこんなにシコシコされても勃起できないだなんて……すっかりホモちんぽになっちゃったんだねぇ♡♡」


「!!」



そこで忍は気が付いた。

このドすけべぇ変態女は、忍のペニスが勃起しないことに興奮していたのだ。


よく見れば、手を股間に差し込んでクリトリスを弄っているではないか。


この小悪魔のように乱れた表情、これは彼氏のちんぽが男でしか勃起しないことを喜ぶ、腐れ女王の表情だったのだ。



「ふぅー♡ 今まで何人の男の娘のお尻に突っ込んできたんだろうねぇ?

もしかして、女の子に挿れるより、男の娘に挿れた回数の方が多いんじゃない?」


「……」



忍は答えることができない。無論、図星だった。

それがわかっているのか、萌は調子に乗っている。



「イインダヨー。忍のおちんちんが女の子のおまんこより、男の娘のケツおまんこに発射した回数の方が多くても、私の忍への愛は変わらないからぁー♡♡

ぐひひ!♡ ぐひひひひひひひひ!!!♡♡」



顔を歪めて嗤っている。

久々に聞いた腐女子ヴォイスだ。


忍は苦々しい顔をしつつも、

彼女の意識を定位置に戻すことにした。



「萌、分かってるのか?

真里ちゃんと誠くんが、初体験を迎えられるのが今日しかなかったように、俺たちだって、今しかする時間がないかもしれないんだぞ?」



小早川に捕まってしまえば、離ればなれとなってしまう。忍はなんとしてでも、萌と結ばれたいと思っていた。


しかしこの真剣な忍の態度に、萌はまだまだ余裕そうだ。



「ちょっとここで待っててね。すぐ戻るから」



そう言い、脱衣場へと出てしまう。

身体を拭き、タオルを巻いたままリビングへと出る萌であったが、すぐに戻ってきた。


彼女の手には、小早川製薬のローションが握られていた。サンオイルと称した媚薬だ。



「これ使えばだいじょぶっしょ?」


「あぁ……それを使えばいけるかもな……」


「それじゃあ忍くん……♡

こっちにお尻を向けてくれるかなぁ?♡」


「なっ!?」



思わず驚きの声が出る。

萌はあいかわらずエロティックな表情を浮かべている。が、彼女が狙うのは忍の肉棒ではなく、お尻の穴だ。


忍は身構えた。



「何してるの? エッチするんでしょ?♡」


「いや……そうだけど、それは……」


「女で勃たなきゃ、後ろで勃たせないとダメでしょ? 忍もお尻おまんこ敏感になってるよね?」



たしかにその通りだが、お尻には抵抗があった。鮫島に掘られたことはあっても、基本、忍は突く側だったのだ。


忍があまり気が乗らない態度を取るため、

萌は少し機嫌を損ねたように頬を膨らませている。



「もお、ここまでシコシコしても勃たないなら仕方ないでしょ? それとも止める? 他に方法もないでしょ?」


「うん……ないけど……」


「じゃあ私に任せて、絶対射精させてみせるから!」



なんなんだろう、この自信は?

まるで突破口は、すでに見つけているといった感じだ。



「忍が勃ちにくいのは分かってるから、無理しなくて良いよ。私はそれを踏まえて、イカせてあげるって言ってるの。だから言うこと聞きなさい。あなたは受けるだけで良いから」


「わかった……」



よく分からないが、何か考えがあるらしい。

気は乗らなかったが、任せてみることにした。



萌は忍の巨根にローションを塗り込んでいく。

非常に官能を刺激する液体であったが、

それでも一物は勃ち上がろうとはしなかった。


次にお尻の穴にもローションを塗っていく。

ピチャピチャと厭らしい音が鳴った。


忍の羞恥心を煽るために、敢えて出しているのだろうか?


不本意ではあったが、

ペニスに変化が出始めてしまった。


むく……むく……



「くっ……」



ゆっくりと血が集まってくるのが分かる。萌のアナル愛撫で感じてきているのだ。


萌の前でお尻で感じてしまうなんて……。

忍は恥ずかしくて仕方がなかった。


そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、

萌は嬉しそうに、一物が大きくなっていく様子を見つめている。



「あらん……忍♡ お尻触られて感じちゃったの?♡ うふふふ♡ なんかこうして少しずつ大きくなっていくのも良いよね♡

女の子にシコシコされても勃たなかったのに、

アナル撫でられて大きくしちゃうなんて……♡」


「後遺症だよ……」


「後遺症でも、忍のそういうとこ好きだよ♡

じゃあ、ズブズブしてみよっか?」



ズブッ!



「ふぅんぁっ!!」



萌の人差し指が忍のアナルに突き刺さる。


鮫島に開発されていたため、

忍のお尻は萌の指をなんなく飲み込んだ。



ズブッ!ズブッ!ズブズブッ!



「んあっ! あっ!」



萌が出し入れする度、忍のペニスの角度が上がっていく。萌はうっとりとしてその様子を眺めていた。


そうして完全に勃起したところで、

彼女は挿入を止めた。



「あぁ……すっかりホモ勃起しちゃったね、忍くん♡」


「うぅ……」



忍のペニスがホモになったことに萌は喜んでいる。


忍はアナルを萌に犯されたことで、

大切な何かを失ってしまったような気がした。


萌はそこで一旦手を洗うと、忍を床に寝かせた。

天井に向けて起立する巨根。


忍はそこで萌が騎乗位するものと思っていたが、

彼女の行動は意外なものだった。


萌は指先でペニスをゆっくり擦ると言った。



「ねぇ、忍。もし私が忍とするより真里とエッチする方が気持ちよかったって言ったらどう思う?」


ビクンッ!


勢いよく跳ねる忍の一物。



「あっ、やっぱり反応した♡

こんな状況だもんね……リアリティあるよね?♡」


「はぁはぁはぁはぁ……♡」



突然の萌のレズ発言に、忍の心臓が激しく高鳴る。

忍の巨根も一段と硬さを増していた。


この忍の急な反応は、

彼本来が持つ姫男子の性質に依るものだった。


萌は、己の腐女子の性を満足させた後、

忍の姫男子の性質を使ってエッチするつもりだったのだ。


忍のホモ因子と姫男子因子が結び付けば、

二重のフル勃起を迎えられると彼女は踏んでいた。



「さっきは誠さんに気が向いてたから、あんまりこっち見れなかったよね? 忍がこっち見た時、私と真里はどこまで進んでた?」


「はぁはぁ……お互いの……んっ♡

あそこを……はぁはぁ……(ピクンピクン)

くっつけてた……」


「ふふふ……じゃあ一番最後だね。

話しながらピクピクさせるなんて、ホントマゾだね」



すっかり硬くなったペニスを擦りながら萌は言う。

続いて、前屈みになり忍に顔を寄せた。



「ねぇ、忍……私ね……

この島に来てから真里といっぱいエッチしたんだよ♡ 

何時間も何時間も彼女と抱き合って、

愛し合って、いっぱいアクメ迎えちゃった♡

車の中で説明したから知ってるよね?」


「あぁ……」



忍の心臓に手を当てる。

ドクンドクンと大きく動いている。

その鼓動を感じているだけで、

彼女も自らの心臓が高鳴るようだった。



「はぁはぁ……忍……興奮してるね♡

私が真里とエッチして嬉しいんでしょ……♡」


「ごく……あぁ……聞いてるだけで身体が震えてしょうがないよ……はぁはぁ♡」



次に萌は忍の肩に触れてみた。

すごい勢いで震えている……。

まさに武者震いと言えよう。



「キスしていい?」


「あぁ……」



萌は、ちゅっ♡…と軽く口付けするとすぐに離れ、

宙を見つめて何かを考えるような仕草をした。



「ンーー、やっぱり真里とした方が気持ちいいな」


「ふぅ……ふぅ……」



忍の目が据わってきている。

決して怒っているのではない。


彼女が女に寝取られたように感じて、

発情しているのだ。


その証拠に忍の一物はよりいっそう激しく跳ねていた。



「なんでだろうね? 忍の唇より真里の柔らかい唇の方が良くなっちゃった♡ やっぱり……レズになっちゃったのかな?♡」



言いながら忍の乳首を撫で回す。


「あーー!♡ あーーーー!!♡」


彼女の甘い触り方によって、強い官能を感じる。

忍は声を我慢しきれなかった。


「あとね、こうやって、舌を出して、真里の乳首をペロペロ舐めてあげたんだよ♡」



ペロペロペロペロ♡

忍の乳首をペロペロする。



「ふぅぅ、うぅぅぅんんっ!♡♡」


「真里、可愛かったな……♡

高い声で喘いじゃって、もっともっと♡っておねだりしてくるの♡ それに真里も私のおっぱいに赤ちゃんみたいにしゃぶり付いちゃって……はぁ♡ すっごい可愛くて……ほんとたまんなかったなぁ……♡♡」



そう言い、萌は股間をすりすり擦って、ウットリとした目つきで彼方を見つめていた。

まるで真里の痴態を思い浮かべながら、オナニーをしているみたいだ。


そんな萌の姿を見て、

忍はより一層おおきな声をあげた。



「んあぁーーーーーーーーーー!!!」



ビューー!! ビューーー!!!


噴水のような射精。


なんと忍は、肉竿に触れられてもいないのに……

萌に乳首を舐められだけで、

いや……言葉責めされただけでイッてしまったのだ。



「あらら……嬉ションしちゃった♡

忍のおちんちん、可愛いね♡

お姉さん達がエッチした話聞いて、気持ちよくなっちゃったんだぁ♡

シコシコされるより、私と真里がエッチした話を聞く方が気持ちいいのかな?♡」


「あ……あ……あ……」



忍は口を開けて放心状態だ。

よほど姫男子の心を上手く、くすぐられたのだろう。


萌は忍の上に互い違いに被さると、続けて言った。



「ほら見て、忍」


「はぁ……はぁ……」



忍の顔の前には、萌の女性器が見える。

言葉責めによって、彼女自身も興奮していたのか、

そこはしっとりとしていた。



「私のおまんこ、催眠で操られた真里に舐められて、感じちゃったんだよ……。

最初はすっごく嫌だったんだけど、真里に舐められると……はぁ♡ すっごく気持ちよくって……♡

女の子で感じるおまんこにされちゃったの♡」


「はぁはぁ♡ 萌……」



出したばかりだというのに、

忍の一物の硬さは弱まるところを知らない。

しかしそれを挿入する先はなかった。


なおも萌は誘惑する。



「言っとくけど、私のおまんこに触るの禁止だよ。

私のおまんこは、もう真里のものだから♡


見るだけなら良いけど……。

あ、匂いを嗅ぐのもいいかなぁ~?


ほら、真里と貝合わせしたばかりのアソコの匂い、嗅いでご覧?♡」


「くんくんくん……」(ビンビンビン!!)



蕩けた顔で萌の女性器の匂いを嗅ぐ。


女同士で愛を交わし合ったそこは、

なんとも淫乱な香りがした。


忍の巨砲は再び、発射の準備に取りかかる。


萌は立ち上がり忍の股間に移動すると、

今度は忍の上半身の方を向き腰を下ろした。


彼女の股間の前には、

起立した忍の巨砲がそびえ立っていた。



「忍……私のおまんこに入れたい?」



コクンコクン!


もう限界だと言わんばかりの赤べこ忍。

この状態で萌の膣内に突っ込めば、射精するのは確実だった。


しかし萌は……



「だーめ。挿れさせてあげない♡」


「な……なんで?」


「さっき言ったでしょ?

私のおまんこは真里のものだって……♡

だから一生、挿れちゃ、ダ・メ♡♡♡」


「はぁーー♡ あぁぁぁあ!!♡ あぁぁぁぁ!!!♡♡」



忍は腰を動かし、首を左右に振っている。

発散場所を失い、興奮でどうにかなってしまいそうな状態だ。


そんな忍を見て、萌は薄ら笑いをしている。



「うふふふふふふ♡

可哀そうだから、せめてものお情けで、

真里とキスした下の唇でおちんちん擦ってあげよっか?♡


でもこれで最後だからね♡

忍はこの一回で、私のおまんことお別れするんだよ♡」



萌は忍のペニスを股間で挟み込むと、そこにローションを流し込み、おまんこでペニスを擦り始めた。



ピチャピチャ シュッシュ!


ピチャピチャ シュッシュ!



「うあぁぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁ!!

んんんああああぁぁぁぁぁ!!!」



忍の喘ぎ声が浴室内に木霊する。

萌も上気した表情で、自らの胸を揉みしだいでいた。



「んっ♡♡ んっんっんっ♡♡

あぁ、ごめんね、真里……はぁ…はぁ。

こんなレズで興奮する変態彼氏のちんぽを慰めたりなんかして……コイツのちんぽとはこれでお別れするから許してぇ♡


ほら、早くイキなよっ!♡♡

女に寝取られてレズになったおまんこに擦られて、

無様にオナニー汁、吐き散らしなっ!♡♡

ンンンッ♡♡ ううううぅんっ!!!!」



淫欲にまみれた目で忍を見下し、

寝取られレズ発言を繰り返す萌。


寝取られマゾ姫男子である忍にとって、

萌のこうしたレズサド行為は、まさに最上級の興奮材料であった。

催眠によって本気で女と愛し合った萌の秘部は、忍のペニスに極楽浄土の快感を与えていた。



「もえぇっ!! もえぇぇぇっ!!!

んがぁぁぁぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」



ひときわ大きな嬌声を上げ、忍は最後の階段を上り終える。

萌と真里がレズ行為をしたことを祝うかのように、

その巨大な祝砲から幸せの射精弾が放たれた!!



びゅゅるるるるるるるるるるるるっっ!!♡♡♡

じゅるるるるるるるるるるるるるっっ!!♡♡♡

びゅんっ!♡ びゅんっびゅんっ!!♡♡

びゅんっびゅんっびゅんっ!!!♡♡♡

どきゅん!!♡ どきゅんどきゅーーーーん!!!♡♡♡



凄まじい射精力!

忍の発射した精液は、打ち上げ花火のように飛び立ち、浴室の天井に激突した!!



(うあぁっ! マジすごっ!!)



萌は忍の強烈な射精力にマジでビビっている。

その脈打つ肉竿の鼓動が彼女の女性器に伝わり、

萌も興奮も限界に達した。



「んひぃぃぃぃっ!!!♡♡

しのぶぅぅぅぅぅううううううううう!!!♡♡♡」


ビクビクビクビクビクビクビクッ!!!


歯を食い縛り、天を仰ぎ、目をぎゅっと瞑って、

忍が与えてくれた絶頂の余韻に浸る。


ハァハァ……ハァハァ………

あ……あ……あ……うぅ……ぐ……


萌は息絶え絶えになりながらも、

すっかり蕩けてしまった顔で、忍の身体に覆いかぶさった。



「し……の……ぶぅ……はぁはぁ……♡♡」


「萌……フー……フー……」



もう演技は終わりだ。

萌はにっこり笑うと、忍に本音を伝えることにした。



「あいしてるよ……忍♡」


「おれも…………」



忍は覆い被る萌を抱き締めるとキスをした。

こんなにも自分の欲望を満たしてくれる女性は他にはいない。

忍の萌への気持ちが、いっそう深まった瞬間であった。


Part.103 【 追跡 】


次の日の朝。

タクシーに乗った四人はネカフェを目指していた。


運転手の脇に、付け髭をつけた忍が座り、

後部座席には、真里、誠、萌の三人が座っている。


四人はみな無言で窓の外を眺めていた。


外には、のどかな田園風景が広がっている。

麦わら帽を被り耕作に励む人や藁葺き屋根の納屋が多く、

タイムスリップしたような感覚にとらわれる景色である。


若者は少なく、老人の姿が目立った。

若くても50代くらいであろうか?

地方の過疎が深刻化しているこの国では、

珍しくない光景なのかもしれない。



「お客さん、こんなところに来るなんて珍しいですね。

もしかして芸能関係の方ですか?」



タクシー運転手が何の気なしに口を開く。


どうやらその身なりから、忍をプロデューサー、

見た目から女性三人をアイドルか何かと見ているようだ。

忍は落ち着いた口調で、芸能関係者っぽく振るまう。



「芸能関係? どうしてそう思います?」


「この島は土地開発が進んでいまして、よくテレビ関係の方がいらっしゃるんですよ。てっきり何かの企画かと思いまして」


「あーそうですね。まぁ内部の事情もありますので、

詳しいことは言えないですが……」


「そうですよね……」



運転手は残念そうに肩を下ろした。

芸能人の誰が乗ってるか気になるのか、

時おり、バックミラーから女性陣をチラチラ見ている様子であった。


あまり印象の良くない運転手を軽くあしらい、

ぼんやりと過ごしていると、

無線にオペレーターから連絡が入った。



「引き続き行方不明者の情報提供を呼び掛けております。

男性身長172cm……」


「!!」



一行に緊張が走る。

タクシー会社のオペレーターが、

四人の身体的な特徴を述べ始めたのだ。


おそらくは小早川の指示によるもの。

誠が中性的な顔立ちをしており、

女装しているかもしれないとの情報も告げられていた。



「了解しました。見かけ次第報告します」



運転手は、それが今乗せてる客だとは、まだ気付いていない様子だ。



「お客さん、知ってますか? なんでもすごいお金持ちのご子息がこの島で行方不明になったそうなんですよ。ご家族の方が懸賞金を出されたそうで、発見者にはなんと十億円が支払われるそうなんですよ」


「よくニュースで見ますね……」


「日に日に金額が上がるので、血眼(ちまなこ)になって探す人もいるみたいです。私は仕事でいけませんがね」



張り詰めた空気とはまさにこのことだ。


真里は緊張からか、小刻みに身体を揺らし始めていた。

運転手がいつ気付いてしまうか、まさに冷や汗ものである。

そんな中、ようやく車は目的地へと到着した。



「ありがとうございましたー!」



運転手は長距離の運賃を貰い、

ホクホク顔で走り去っていった。


緊張の糸がほどけて、真里はその場に座り込んだ。

人より感情が表に出やすい分、余計ストレスを感じていたようだ。



「ふぅ~疲れた~……」


「疲れたのはこっちだよ……真里、あなた緊張しすぎ!

あんなにガタガタ震えていたらバレちゃうよ」



ぐったりとした表情で萌が言う。



「でも忍くんが常に話題を振ってくれていたおかげで助かりました。真里さんのことも気付かれなかったしね」


「話好きな運転手だったから良かったよ。

寡黙な人だったら、ヤバかったかもね」


「えぇぇっ!? 私、そんなに危ない状態でした……?」



みんなの意見を聞き、真里は事の重大さに気が付く。

自分ではそこまで意識していなかったようだ。



「あんな情報が入ったら緊張しても仕方ないよ。

真里さんは頑張ったと僕は思うよ」


「うぅぅぅ……でも次も顔に出さない自信ありません……」


「うーん、こりゃ考えものだね……」



ネカフェに着いたとはいえ、

まだこれからボート乗り場に向かう予定がある。


もし勘の鋭いタクシー運転手に当たれば、

すぐに報告されてしまうだろう。


ひとまず四人は人目を避けるためネカフェに入ることにした。外でたむろしていたら危険だ。



「いらっしゃいませーご利用何名様ですか?」


「4人です」


「会員カードをお願いします」



それぞれがカードを出す。忍はVIPワイドルームを予約すると、伝票と全員分のカードを受け取った。



「64番だって、一番奥の部屋だね」



部屋に入ると誠はさっそくパソコンの操作を始めた。

普段使っているHatmailでIDとパスワードを入力し、メール画面を呼び出す。どうやら無事アクセスできたらしい。



「じゃあさっそくメール送るね」



誠がメールを打っている間、

真里と萌は飲み物を取りにドリンクバーへと向かっていた。



「んーなに飲もうかなぁ~」



ドリンクバーを前にして、真里はしばし長考する。

メロンソーダにアイスクリームを乗せても良いかもしれない。そんなことを考えていた。



「あっ! ◯◯教室の最新刊出てるよっ!

そういえば発売日12月下旬だったっけな」


「ホントだ。ついでに読んでいっちゃおうか?」



ドリンクバーの反対側には、各出版社の最新刊が並べられているコーナーがあり、萌は目ざとく◯◯教室の最新刊を発見していた。


しかし、一度読み始めると、他にも読みたくなってしまうものである。二人はあとちょっとと思いつつ、読みたい本を読み耽るようになっていた。


ちょうどその頃、忍は用を足すためトイレに来ていた。

個室に入り便座に座っていると、ちょうどスタッフが入ってきた。洗面台周りの掃除をしに来たらしい。


少しして入り口のドアがもう一度ひらく音がした。



「すみません、店長。警察の方が見えているのですが」


「警察? なんで?」


「はい、なんでも店を訪れた顧客のデータを見せて欲しいという話でして」


「また急な話だね」


「行方不明の男女を探しているそうです」


「わかった。じゃあ、ここ片付けたらすぐ行くから少し待ってもらって」


「了解です」



突然の事態に忍は焦りだす。

タクシーの件といい、この店といい、本当に小早川は徹底的に自分達を追い詰めるつもりなのだ。


彼はなるべく音を出さぬようトイレットペーパーを巻き取ると、大きな塊を作り便座に押し込んだ。


そのまま水を流し、詰まらせる。


ガチャ、ザザザーーー。ゴポッ……ゴポッ……。



「すみません、便器の調子がおかしいのですが……」


「はい? すみません、少し見せてくださいね。

あっ……これは詰まってしまってますね……」



便器は水が溜まり、今にも溢れだしそうになっていた。

店長は頭を掻いて、その様子を見つめている。



「ごめんなさい、どうすれば良いですか?」


「大丈夫です。こちらで対応しますから、

お客様はお部屋にお戻りください」


「分かりました。すみません、お願いします」



忍がトイレから出ると、

店長は掃除中の看板を入り口の前に置いて戻っていった。



(よし、これで少しは時間を稼げるぞ)



忍は足早に部屋に戻ると、すぐさま誠に声をかけた。



「誠くん、メールは終わった?

ちょっとまずい状況になって、

ここからすぐに出ないといけなくなったんだ」


「えっ? こっちは終わりましたけど……何かあったんですか?」


「説明はあと、みんなの荷物を持ってすぐに出よう」


「はいっ!」



真里と萌の荷物を抱え、二人は外へと向かう。

途中のドリンクバー付近には、呑気に漫画を読む真里と萌の姿があった。



「萌、はいこれ、荷物持って。早く出るぞ」


「えーもう? まだ入ったばっかじゃん」


「事情が変わったんだ」


「う、うん。なんかヤバそうだね」



忍の真剣な表情に、萌は事態の重さに感付くと、

荷物を受け取り入り口へと向かった。


真里も◯◯教室の最新刊を読んでいて、

非常に不服ではあったが、みんなと出ることにした。



「うわっ……パトカーが止まってる……」


「もしかしてウチらが来たのバレたのかな?」



会計を済ませ、店から出た四人の視界に一台のパトカーが入る。焦る萌。真里もオドオドし始めた。



「大丈夫。僕たちがいると確信してるなら、もっとたくさん来てるはずだよ。おそらく手当たり次第、聞き込みしてるだけだと思う」



冷静に誠が分析する。



「でも会員情報読まれてるからな……早くここを離れた方が良さそうだ」



そう言う忍の表情は曇っていた。


顧客情報を調べられ、四人の存在を知られてしまったら、

大勢の黒服達がこの街に押し寄せてくる。


一刻も早く移動しなければならない状況だが、

もう一度タクシーを使う気にはなれなかった。

前回はたまたま鈍い運転手に当たっただけで、次はないかもしれない。



(う~ん、どうするか……? ここからボート乗り場まで、まだ遠いし、タクシーもバスも使えないしな……)



忍は考えながら道行く車を見つめていた。


すでに逃亡から2日経っている。

もう一度レンタカーを借りに行くのも危険な感じがした。

おそらく小早川は、全てのレンタカーショップに連絡をしているだろう。



(少し危険だけど……この方法を使ってみるか……)




※※※



十五分後……。



「いやーまさか四人もいるとは思わんかったな。

ヒッチハイクとは、このご時世、ずいぶんと粋なことをするもんだ」



太く豪快な声。逞しい腕。鍛えられた肉体。

整った口髭と顎髭を貯えたおっちゃんの車に乗せられ、

四人は順調に港へと向かっていた。


あれから忍は、ヒッチハイクを提案した。


賞金狙いの民間人が多い中で、

ヒッチハイクという手段はたいそう危険に思えるが、

常にオペレーターから最新情報が届くタクシーと比べたら、

幾分かマシに思えた。


なおかつ報道によると、

自分たちは逃亡犯としては扱われていない。

行方不明者であれば、わざわざ変装をしてヒッチハイクを行う理由もないため、気付かれることはないだろう。


しかしこの状況下である。

四人で歩道に立てば目立ってしまう。


忍は誰を国道に立たせるか迷ったが、

おっとりとした誠であれば、

すぐに乗せてくれる人が現れるだろうと考えた。


そして彼の予想どおり、誠がヒッチハイクを始めたところ、

すぐに数台の車が停車してくれた。


誠のような美女がヒッチハイクをしていたら、

乗せたくなるのが男の性(さが)というものだ。


停車した車は、2台がベーシックなセダン車、一台がワゴン車だったため、四人は広々としたワゴン車に乗ることにした。


ヒッチハイクをした誠が助手席に座り、

他の三人は後部座席に座る。


誠は女装しているため、

あくまで女性として振る舞うことにした。



「乗せていただきありがとうございます。私たち、ボート乗り場に向かっているのですが、どこまで行けますか?」


「どこの乗り場かによるな。でもお嬢ちゃん達、別嬪(べっぴん)さん揃いだからなぁ~。時間もあるし、そこまで運んであげても良いぞ」



おっちゃんは鼻の下を伸ばしている。

この島で誠のような美人は珍しいようで、実に嬉しそうだ。



「本当ですか!? そうしていただけると助かります。

このボート乗り場なのですが、よろしいですか?」



誠は地図を広げて場所を指し示す。



「おお、奇遇だな。ちょうど俺の地元の先にある漁港じゃねぇか。

俺の家を通り過ぎることになるが、少しの距離だし運んでやるよ。任せときな」



パァーっと誠の顔が明るくなる。

ヒッチハイクを何度も重ねて目的地に向かうつもりであったが、まさかこんなにも簡単に行けるようになるとは……。

人生がかかっていたこともあり、他の三人も大喜びであった。



「しかし、こんな美女三人を連れて旅行とはモテる男は違うね~」



バックミラー越しに、オッチャンは忍をからかった。

本音を言えば、忍なしで美女に囲まれたかったが、居るなら居るで仕方がない。



「いえ、そんな……」


「ハッハッハッハ!! 憎いねー色男。

俺もあんたみたいなイケメンに産まれたかったぜ」



だいぶ騒がしいおっちゃんではあるが、人は良さそうだ。

そうして会話も弾み、道を進んでいくと街宣車が反対車線を通りかかった。



「行方不明者の捜索にご協力ください。年齢は20代……」



タクシー、ネカフェに続いて、

ここにも小早川の捜査網は続いていた。

オッチャンは不快な表情で、街宣車を見つめている。



「昨日、一昨日からずっとこのニュースばかりだ。

一体どんな奴がいなくなったんだろうな?

朝から晩まで同じニュースばかりで頭が痛くなるぜ」


「さぁ……詳しいことはわからないです……」


「しかし、おかしなもんだよなー。行方不明者四人探すだけでこんなに騒ぐか普通?

俺には何か裏事情があるように思えるんだよなぁ」


「そうなんですかね……」



鋭い考察であるが、触れることはできなかった。

四人は懸賞金を掛けられている。

このオッチャンと言えど、金に目が眩み、

自分達を差し出すかもしれないのだ。


誠は話題を変えるため、別の話を振ることにした。




※※※




一方その頃、小早川のいる司令室では、

真里達の居場所を特定するための作戦会議が開かれていた。



「はい、この通りメールはこちらで留めております」


「そう、念には念をして、アイツらのメルアドを監視しておいて良かったワ~」



壁に映し出されたプロジェクターの映像を見て小早川が言う。

そこには誠が恭子に送ったはずのメールが映し出されていた。


小早川は、四人のスマホの履歴からメルアドを特定し、

送信機能をロックしていた。

もちろん誠のhatmailやyahuumailも把握済みだ。



「バッカねー、スマホがこっちにあるんだから、アナタ達がどんなツールを使ってるかなんて丸分かりヨ」



すでに真里達がマンガ道場を利用していたことも知られていた。


小早川は報告を受け、

すぐさま黒服を集結させ、周囲を探し回らせていたのだが、

あまりにも早く、誠がヒッチハイクを成功させてしまったため間に合わなかったようだ。



「しかし、このメールだと、

アイツらが何を狙っているかわからねーな」



鮫島は苦々しい顔をして画面を見ている。


誠はメールが見つかった場合に備えて、

今後の動きについては一切記載していなかった。


恭子に伝えようとしていた内容は、小早川が催眠術を使って自分達を操ろうとしているという内容だけであった。


もちろん信じがたい内容であるため、

信じられるようフォローは入れていたが、

誠のこうした配慮によって、

小早川は真里達の居場所を特定できずにいた。



「おい、この甘髪って女にも暗示を掛けておいた方が良くないか? 誠が初めに連絡しようとした女だ。こいつを塞げば、あとはどうしようもなくなるだろう」 


「う~~ん……難しいところネェ……」


「なにか問題でもあるのか?」


「実はアタシね。この甘髪さんと取引してるのヨ。

ほら今度新しいダンスホールを開くじゃない?

そこの踊り子の服をデザインしてもらっているから、

正直、掛けたくないのよネ……」


「催眠にかかっていようが、

仕事できなくなるわけではないから問題ないだろ?」


「アタシはネ。〖本物〗が欲しいの。

催眠にかかっている甘髪さんがデザインしても面白くないワ。素のままの彼女がデザインしてこそ、アタシの踊り子達も輝くと思わない?」


「わかんねーな」


「アナタには分からないでしょうネ。

アタシね。女はキライだけど、彼女のデザインは認めてるの。だから彼女に催眠を掛けるのはパスよ」


「ちっ……何かあってからじゃ知らねーぞ」



これまで小早川は、恭子と何度も打ち合わせを行ってきている。仕事人間である恭子との取引はスムーズに進み、小早川は仕事仲間として、恭子を認めるようになっていた。



「本題に戻るけど、アイツらがこの島を出るとしたら、やはり船くらいしか思いつかないワ。

あとは……籠城されても厄介ネ……空き家になってるところにも人を送るべきかしら?」


「いくらなんでも人を割き過ぎだ。

この島に空き家なんざいくらでもあるからな。

港もたしかに多いが、俺が人を派遣するならここだな」



鮫島は、画面をこの島の地図に切り替えると、

マウスカーソルで、ある港をドラッグした。



「この島から一番本島に近い港だ。ここなら時間をかけずに他の島に移れる。移動するとしたら客船しかないだろうが」


「まぁ、そうね。自分で運転できるならモーターボートくらい使いそうだけど、そう都合良く運転の仕方を知っているとは思えないし、とりあえずその辺の監視を増やすことにしましょ」


「追い詰められたやつは何するか分かんねーから、

念のためにボート乗り場にも数名送っとけよ。

一か八かで運転されて、死なれたら元も子もねーからよ」


「たしかにそうネ……泳ぎに自信のある構成員を送っておくワ……あぁ、大丈夫かしら、マコトちゃん、忍ちゃん……」



あまりにも心配になり、目眩を起こしそうになる。

小早川にとって、誠と忍はもはや我が子同然の存在だった。それだけ小早川は二人のことを気に入っていたのである。


小早川と真里達の最終決戦は、

刻一刻と始まろうとしていた……。

Part.104 【 島の住民 】


「サトウキビって生でも食べれるんですね!」


「あぁ、生でも食えるぜ。

俺の畑で取れたサトウキビは、この島じゃ結構有名なんだが、

もし時間があるなら、これから寄って行かないか?

サトウキビの生ジュースを御馳走するよ」


「えぇーー! 良いんですか?

あ……でも、すみません……ボートに乗る予定があるので……」


「それなら仕方ねぇな」


「はぁ……でも飲んでみたかったなぁ……」



生のサトウキビを食べれる経験なんて、そうそうないことだ。真里は残念そうに息をついた。


車に乗って一時間後。運転手の気の良さから、真里達は彼と親しげに話すようになっていた。


運転手は名を山村 漣治郎(れんじろう)といって、

この島でサトウキビ畑を営んでいる農夫であった。


今は誠に代わって、真里が山村と話をしており、

世間話に花を咲かせていた。


車はボード乗り場の手前にある山村の住む街まで来ていた。



「しかし、活気のない街で驚いただろう?」


「そう言われてみると、たしかにシャッターが閉まっているお店が多いですね……」


「ここも数年前まではもっと賑やかなところだったんだが、色々あってね……今ではこのざまだよ」


「何かあったんですか?」


「2年くらい前だったか、小早川観光開発という企業が進出してきて、

この島をリゾート地にすると言い出したんだ」


「小早川……!?」



小早川観光開発……聞いたことのない会社名だったが、

真里は、すぐにそれが小早川の関連会社だと気付いた。



「初めは長老も土地開発に反対していて、反対派が大勢を占めていたんだが、

いつの間にか賛成派が逆転するようになっちまってな……。

今では長老も賛成派のリーダーだ。買収されるような人じゃなかったんだがなぁ。

島を見限って離れる者、強引な手法で土地の権利を奪われる者、そういう人が続出してこうなっちまったんだよ……」



そう語る山村の顔は実に悲しそうだった。

しんみりとした空気が車内に流れる。


大体の事情は予想できた。

小早川は催眠術を使って、島の反対派を操り、土地開発を進めていたのだ。



「島の税収が増えるのは良いことだが、

元々住んでいた島の住民には全く還元されん状況だ。


それどころか開発が進んで、おかしな連中が増えるようになってしまった。

多くなってきたのは主に性犯罪だ。しかも同性間のな。


メディアもどういうわけか、何か事件があっても取り上げやしねぇ。

かと思えば、今話題の行方不明者については、しつこいくらい報道しやがる。

一体、どうなっちまったんだ。この島は……」


「そんなことがこの島で……」



小早川の催眠による魔の手は、真里達のみならず、

世の秩序を脅かすものになりつつあったのだ。


真相を知っている真里は、怒りに震えていた。



「許せない……そんな卑怯な手を使って、

みんなを苦しめるだなんて……」


「お嬢ちゃん、優しいねぇ……こんな見ず知らずのオッサンに、

ここまで同情してくれるだなんて。

その気持ちだけでオッちゃんは満足だよ」



山村は、バックミラー越しにニッコリと真里に微笑んだ。



「あんなオカマにこれ以上好き勝手させちゃダメですっ!

みんなで力を合わせれば、必ずアイツを倒せますっ! だから頑張りましょう!」


「ちょ、ちょっと……真里……」



真里がヒートアップしているため、萌が止めに入る。


いくら山村のオッチャンが良い人だといっても、

さすがに正体がバレるのはまずい。


そんな真里の態度に山村は少し驚いた顔を見せていた。



「ありがとよ。しかしお嬢ちゃんが小早川を知っていたとは驚いたぜ。

地元の人間でもないのに、どうして奴のことを知ってるんだ?」


「あ……えーと……」


「僕はテレビで見ました。小早川社長が南の島の土地開発を始めたって、ニュースになっていましたよ。でもこんな強引なやり方で開発を進めているとは思いませんでした」


「なるほどな。言われてみれば、たしかにニュースになっていたかもしれねぇな」



山村の問いに詰まってしまった真里であるが、誠のフォローでなんとか誤魔化すことができた。

実際、誠はそんなニュースなど見ていないのだが、放送されていると言われても違和感のない内容である。



「しかし、あんたらを見てると、息子を思い出すようだぜ……」


「山村さん、息子さんがいらっしゃるのですね」


「あぁ、もう20後半になるんだが、昔は結構やり手でね。

仕事に対して、嬢ちゃん達みたいに熱い情熱を持っていたもんだ」


「昔……?」


「……昔の話だ。ふぅ~なんだか辛気くさい空気になっちまったねぇ。

もうこの話は止めにしよう」



山村はそう言うと、話を切り上げてしまった。



それから30分後、

真里達を乗せた車は、ボート乗り場へと到着する。



「本当にありがとうございました。

なんのお礼もできなくてすみません」


「なーに、礼なんざ良いさ。

南の島の住民は、損得勘定で動いたりはしない。

もしお嬢ちゃん達が困っている人を見かけたら、

同じように助けてくれればいいさ」



本当に心から気の良い人に巡り合えた。


四人は山村に別れを告げると、ボート乗り場へと向かった。




※※※




「おぉーあったあった。

モーターボート。なかなかの大きさだねぇ」



萌は歩きながら水に浮かぶモーターボートを眺めていた。

先端が尖り、丸みを帯びた形状、実にカッコいい。


萌と忍はレンタル契約を済ませるため、受付へと向かっていた。


海沿いに掛けられた桟橋は広く、

パラソルが掛けられ、ビーチベッドでくつろぐ人の姿もある。



(あれ……? あの人どこかで見た覚えあるなぁ)



受付に一番近いビーチベッドで横たわるアロハシャツを着た男。一見すると、どこにでもいる中年男性であるが、萌はなぜかその男に見覚えがあった。


男は萌が見ていることに気が付くと、

隣にいる男性に声を掛け、ゆっくりと立ち上がった。


その動きに萌は無意識に後退(あとずさ)る。


ドンッ……。


背中に誰かの身体がぶつかった。


その衝撃で体勢を崩す萌であったが、

彼女の腕を背中側にいる人物が掴み、萌は咄嗟(とっさ)に振り返った。


そこには同じくアロハシャツを着た男がいた。

黄色いレンズのサングラス。レンズ越しに目が合う。

だが次第にそのレンズは黒く染まり出し、シャツもスーツを着用しているように見え出した。



(あっ!!)



反射的に持っていたバッグを振り回し男にぶつける。

しかし男は手を離さなかった。むしろより強い力で腕を掴む。

かなりの力だ。痛みで萌の顔が歪む。

その行動に確信を持った萌は、力の限り叫んだ。



「忍!! 真里と誠さんを連れてここから逃げてっ!!」



隣にいた忍は、萌の叫びに驚く。

彼からすると、単に通行人が萌にぶつかったようにしか見えていなかったからだ。


叫びを聞き、前方にいたアロハシャツの男二人が一気に駆け出した。


萌はバッグから飛び散り、地面に落ちた眉用のハサミを手にすると、迷わず男の頬に突き刺した。

だがそれでも男は手を離さない。それどころかハサミを持つ方の腕も掴んでしまった。


そこで忍は、ようやくこの男三人が、黒服の変装した姿であることに気が付いた。

萌を助けようと、男に掴みかかろうとしたのだが、ここで再び萌が叫ぶ。



「私のことは良いから、早く二人の元へ走って!!

このままじゃみんな捕まっちゃうっ! 急いでっ!!」



萌の気迫に圧倒され、忍は黒服から離れる。


前方の男二人が目前まで迫って来ていた。

忍は慌てて後方にダッシュした。


そこで萌は、揉み合う男の金的(きんてき)に膝蹴りを放つ。

男が少し顔を屈めたところで頭突きをいれる。

さらに前方の男二人が近寄って来たところで、

怯んだ黒服を巻き込んで床に転がり込んだ。


ちょうど萌を抑えようとしていた男二人は、

突然、姿勢を変えた萌と仲間に反応できず、二人の身体に足をぶつけて転倒してしまった。


忍は萌の意志を尊重して、来た道を走った。


真里と誠は、忍の後方20mほどのところにいた。

もちろんその距離であれば、この異常事態に気付かないはずがない。

二人も忍と同じく、萌を助けようと前進していたのだが、

それを忍に止められた。



「俺たちじゃ、あの男達とぶつかっても勝てない。

萌が時間を稼いでいるうちに、早く逃げるんだ!」



二人は迷っている。

前にも後ろにもいけない状態だ。


忍はそんな二人の腕を掴んで引っ張った。



「このままじゃ萌の行動が無駄になってしまう! 良いから逃げろっ!」



二人は悔しそうな表情を浮かべながらも逃げることを決めた。


ちょうどその光景を巡回していた鮫島が見つける。

周りには部下と思われる黒服が五人もいた。

幸運なことに、彼らはアロハシャツの男三人よりもさらに後方にいた。


状況を即座に飲み込み、鮫島が走り出す。

それに気付いて部下五人も一斉に走り出した。


強力な脚力。ぐんぐんぐんぐんスピードが増していく。

鮫島は他の黒服達を突き放していった。


それと同じく忍達との距離も縮まろうとしていた。




※※※




「ふぅ~ここの海はいつ来ても綺麗だなぁ~」



真里達を見送った後、山村はすぐには車に戻らず、海を眺めていた。


この港は山村にとって思い出の港。

彼はかつて嫁と二人でフェリーに乗って遊んだ時のことを思い出していた。



(かーちゃん見てるか、俺はまだ頑張ってるぞ。

必ずあいつらを追い出して、お前が愛したこの島を守りきってみせるからな)



首に掛けたロケットペンダントを開き、

奥さんの遺影を見つめる。


そうして感傷に耽る山村の耳に、

先程まで車に乗せていた真里の声が届いた。



「山村さーん!! お願いっ!! 助けてっ!!」



不穏な台詞に、山村は何事かと振り返る。

そこには誰かに追われ、逃げる真里達の姿があった。



「なっ……どうしたんだっ?」



車の後部座席のドアの前に真里と誠が張り付き、

忍が助手席へと回り込んだ。



「はぁはぁ……山村さん、悪いんですが、詳しい説明をしている時間はありません。今すぐ車を出してください」


「んな……出して欲しいと言われてもねぇ……」



親しげに過ごした仲ではあったが、面倒事には巻き込まれたくなかった。万が一真里達が犯罪を犯していたら、共犯者になってしまうからだ。

しかし山村のその考えは、追う男の姿を見て一蹴された。



(……あの男は!!!!)



山村が注目した男。それは鮫島であった。


意図せず身体が動く、

山村は車の鍵を開けると、運転席に乗り込んだ。

ほぼ同時に真里達も中に入る。



「飛ばすぜっ!! しっかり捕まってろよっ!!」



四人を乗せた車は急発進で飛び出す。

鮫島が手を伸ばし、触れるや否やといったところで、車体はすり抜けていってしまった。



「くそったれがっ!!  おいっ! すぐに車を呼べっ!!」



鮫島は、現場に到着する黒服達に、次の指示を出す。

そしてスマホを取ると、小早川へと連絡した。



「はぁ~い♡  憲子ヨ~♡」



小早川はなんとも上機嫌に電話を取った。

鮫島に連絡を貰って嬉しいようだ。



「ボート乗り場に奴らがいた。萌は捕まえたが、他の奴らには逃げられた。すぐに応援をよこせ。協力者がいるようだ。車で逃げてる。早く来い」


ピッ……


端的に言いたいことだけ言って切る。

なんとも鮫島らしい。


そんな鮫島の態度に、

小早川は怒るどころか……。



「ハァーーン♡♡ 

サメちゃんカッコいいー♡♡

痺れちゃうぅ~~♡♡♡♡」



逆に痺れていたのであった。


Part.105 【 因縁 】

鮫島の追跡をかわした山村の車は、

見晴らしの良い海岸沿いの道を避けて、山道(さんどう)に入ろうとしていた。


一度、追跡をかわしたとは言え、

ふたたび追手が現れないとも限らない。

山村は、近場で隠れる場所がないか探していた。


真里、誠、忍の三人は、

萌が捕縛されたことで意気消沈している。

全員捕まるのを避けるためとはいえ、萌を生贄としてしまったのだ。車内には暗く重い空気が流れていた。


しかし、助けてもらって、

いつまでも口を噤(つぐ)んでいる訳にもいかない。

真里はひとまず、お礼をすることにした。



「たびたび助けていただいてありがとうございます……」


「いいってことよ。しかしさっきの奴ら、小早川観光開発の連中だろ。あんたら、なんで追われているんだ?」


「それは……」



話そうにも、にわかには信じがたい話だ。

催眠術が解けて、逃げる途中だったなどと誰が信じるだろうか?


しかしそれ以外話せることもなかった。


即席で作り話をしようにも、

真里が話せば、簡単に見破られてしまう。

そうなれば、自分たちはこの島で唯一の味方を失ってしまうことになるのだ。


真里は一か八か真実を伝えることにした。



「信じられない話ですが……」



山村は初め真剣な表情で聞いていた。

だが話が進むにつれ、

時折、彼は呆気に取られた顔をして見せた。


奇異な内容を耳にしたといった感じだ。

あまり良い反応とは言えない。


三人は山村のその反応に強い不安を感じていた。


一通りの話を終えてもなお、山村は黙ったままだ。

しばらくして、彼は胸ポケットのタバコを取り出すと、助手席の忍に言った。



「にいちゃん、悪いけど火くれねぇか?」



山村は車内に取り付けてあるシガーライターをタバコで指差す。忍は言われたとおり火をつけた。


窓を開き、一服する山村。

彼はタバコを吸うと、窓の外に煙を吐き出した。

彼の態度は、半分呆れているような感じにも見て取れる。

正直に話したのは、やはり失敗だったか……。


忍がそのように感じていると、

山村は考えがまとまったのか、真里の話に答えることにした。



「わかったよ……すげぇ話だったな……。

この短時間に考えたにしては出来すぎた話だし、

あまりに信憑性がないというのも、逆に信用できるってもんだ」



その言葉に真里と誠はホッとする。

だがあまりに都合の良い山村の返事に、忍だけは警戒していた。



(本当にこの人、俺たちの話を信じたのだろうか?

俺が逆の立場なら、絶対信じない)



それが普通の反応だ。

一般の人からすれば、頭のおかしな人と思うはずである。


山村は遠くを見つめていた。

まだ何か考え事をしているようにも見える。

それが何なのか、忍には分からなかった。



「ところであのサングラスのねーちゃんはどうした?」



山村が萌の安否を尋ねる。



「萌は俺たちを逃がすためにアイツらに捕まりました……」


「そうか……」



山村は苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべた。

本当に彼の心中は測りしれない。

この表情だけ見れば、味方のように思えてくるが、

なぜ彼がここまで親身になってくれるのか、忍には分からなかった。


山村からすれば、萌はほんの数時間前に出会ったばかりの人物にすぎないからだ。



「山村さん……もし俺たちのことが疑わしいなら……」


「おっと、敵さんがお出ましのようだぜ?」



忍が山村の心の内を確認しようとしたところ、

後方から黒いワンボックスカーが二台追走してきた。



「ちっ、惜しいな……あとちょっとで家内の実家に逃げ込めたんだが……

一旦まくしかねーな。いいか、あぶねーからしっかり掴まってろよ!」



山村はスピードを上げて距離を離そうとした。


後ろからサイレンの音がなる。

誠が後続車を確認すると、先ほどまでなかったパトランプが、車の屋根に取り付けてあった。



「前の車、ただちに止まりなさい。警察です。

すぐに誘導に従いなさい」 


「ばーか、騙されるかよ」



山村が警告に耳を貸す様子はない。



「で、でも、もし本当に警察なら山村さんが……」



誠が心配そうに言う。

ここまでしてくれるのは嬉しかったが、

それで山村が前科者になってしまっては大変だ。



「あれは警察じゃない。なぜならあの男が乗ってるからだ」



誠は振り向き、追跡してくる車の中を注意深く見た。二台のうち前方の車の後部座席には、鋭くこちらを睨み付ける鮫島の姿があった。



「山村さん、あの人を知ってるんですか?」


「あぁ……よーく知ってるぜ。

それにしても交通量がすくねーな。

いつもはもっと車が通るはずなんだが……。

こりゃ、このさき封鎖されているかもしれねーな……」



山村はスピードを少し下げると、

後続車との距離を縮めることにした。



「山村さん、もっとスピードをあげてください!

このままじゃ追い付かれちゃいます!」



差し迫ってくる黒服達の車に真里は慌てている。



「いいんだよ。近づいてもらった方が好都合だ。

それよりも揺れるから、しっかり掴まってろよ!」



山村は急にハンドルを切ると、

舗装されていない左の砂利道に入った。


突然の方向転換に、慌てて後続の車もハンドルを切った。しかし曲がり切れず、境にあったガードレールにぶつかってしまった。


後方に控えていた二台目の車も、

一台目にぶつかり玉突き事故を起こしてしまった。



「おっしゃ! ざまーみろだぜ!」



山村は声高らかに叫んでいる。

前方にあった車は大破。

後方の車はすぐにバックし追いかけようとしていたが、

大破した車が邪魔をして通れなくなってしまっていた。


山村の機転が効き、

こうして真里達は追走を逃れることができたのだった。



※※※



「すごいことになっちゃいましたね……」



事故を目撃し、真里は若干怯えている。

犯罪者とはいえ、人が目の前で死んだかもしれないのだ。彼女は震えていた。



「山村さんすみません、こんなことに巻き込んでしまって……」



誠は山村に謝罪する。自分達と会わなければ、こんなことにならなかったのに……そうした後悔の念が誠の心を包んでいた。



「ハーハッハッハ!! 辛気臭い顔をするなよ。

俺は逆に良い気分なんだぜ?

たとえ警察の御用になったとしても、復讐を果たすことができたんだからな」


「復讐?」


「あぁ、話せば長くなるんだけどよ、あの鮫島ってやつは……」



その時であった。

開いていた窓の外から手が伸びてきて、山村の首を掴んだ。



「ぐふぉっ!?」



山村は、急な出来事にハンドル操作が疎かになる。

すぐにブレーキを踏んでスピードを落とすと、車外に目を向けた。



「おめぇは、鮫島っ!」


「車を止めろ。それともこのまま死ぬか?」



なんと鮫島は、先ほど距離が縮んだ際に、

すでに追走する車の屋根に乗っており、

ガードレールにぶつかるタイミングで、飛び移っていたのだ。


山村は砂利道に旋回することに気を取られ、

真里達は車の揺れに備えて目を瞑っていたため、鮫島の行動に気が付けなかった。


そのような離れ業を、なんなく成し遂げてしまう。

それが鮫島という男であった。


山村の首を締める手の握力が、さらに強まる。



「くっそ、この野郎!」



山村は首絞めに耐えながらも、窓を閉めようとスイッチを押した。窓の自動昇降機能が働き、鮫島の腕を挟もうとする。



「くっ!」



走る車に張り付きながら山村の首を締め、なおかつ窓の開閉に抗う。

鮫島はこれ以上行動が制限されることを嫌い、

一旦、手を引っ込めることにした。



「げっほげほ……なんつー馬鹿力だ……はぁはぁ…」


「大丈夫ですかっ!?」


「あぁ、すぐに決着を付けてやるから待ってなよ……げっほげほげほっ!!」



ガンッ!!


直後、大きな音が鳴り、ドアガラスに細かいヒビが入る。


山村は鮫島を振り下ろそうと、車体をくねらせるのだが、

鮫島はしっかりと屋根に張り付いて離れなかった。


拳を作り、再びドアガラスを殴打する。

先ほどよりも小さな力で、割れた窓ガラスをザクザクと削っていく。その度にガラスの破片が山村の身体に振りかかった。


ある程度削れたところで、鮫島が顔を覗かせる。

ほんの数秒にも満たない時間であるが、彼の動きが硬直した。


そこで忍は車内にあった傘を使って鮫島に応戦しようとする。だがその行動もすでに読まれており、

鮫島はなんなく突きを交わすと、傘の先を掴んで取り上げてしまった。



「ナイスだぜ! にいちゃんっ!」



鮫島が忍に気を取られたことにより、山村がほんの少しの時間の猶予を得る。

彼は狙っていたように車体を右に寄せると、迫り来る木の枝に鮫島をぶつけようとした。



「くっ……」



鮫島はすぐさま車体の上で身体を跳ね、枝を回避した。

あと少しのところであったが、彼が車体から転げ落ちることにはならなかった。


鮫島は山村が脅しに屈しないと判断し、

実力行使に出ることにした。


身体を屋根の中央に移動し、

前進してフロントガラスを殴打すると、サイドガラスを殴った時よりもはるかに大きな音が鳴った。


フロントガラス全体にヒビが入り、視界を失ってしまった山村は、身体を屈め、まだヒビを入っていない部分から視界を得ようとした。


ガンッ! ガンッ!


だがそこにも鮫島の追撃が入る。



(もはやこれまでか……)



完全に視界を失ってしまった山村は、

視界を失う直前の道の様子を思いだし、スピードを上げることにした。


坂道であったこともあり、一気にスピードを増す車。

強い風が車内に入り、山村の髭を激しく揺らす。

山村はその道のカーブギリギリを予想して急ブレーキをかけた。



「ぬぅぅっ!!」



鮫島は反動でついに車体から剥がされてしまう。

山村は窓から顔を出すと、前方に飛ばされた鮫島の位置を確認し、そのまま車を再発進させた。



「くたばれっ! 鮫島っっ!!」



立ち上がろうとする鮫島を車体が跳ねる。

衝撃で飛ばされた鮫島の身体は、向かいの山肌にぶつかって動かなくなってしまった。



「あわわわわ……あわわわわわ……」



真里はその光景を見て青ざめていた。

殺人現場を生で見てしまったのだ。無理もない。



「山村さん、どうしてそんなに……」



忍は山村の行動に驚いている。

山村は復讐と言っていたが、殺したいほど強い恨みがあったということだろうか?



「あいつはよ……俺の一人息子を殺しやがったんだ。

だから私刑にしてやったのさ……」


「そんな……」



山村は真里の話を信じていたわけではなく、

どちらにしても強い殺意を秘めていたのだ。


だから自分達に協力してくれていたのだと、

この時、忍は悟った。



「あんたら、早くここを離れるんだ。

何をして追いかけられていたのか知らないが、俺と一緒にいたら殺人犯になっちまう。そうなる前に逃げるんだ」



山村は、ギロリと真里達を睨み付けた。

いかにも早く行けといった態度だ。



「でも私達と会わなければ、こんなことには……」


「ハッハッハ、逆だよ。俺はあんたらに感謝してる。

鮫島は法と権力に守られていた。あいつを殺すことなんざ、奇跡でも起きない限り無理な話だったんだ。

それをあんたらが可能にしてくれた。

きっと家内も分かってくれるよ。

なんてったって息子の敵討ちができたんだからな」



そうこう話していると、

坂の上の方から車の音が聞こえてきた。黒服達の車だ。



「もう時間がない。行くんだっ!」



山村が奥の草むらを指差し、逃げるよう促す。

真里、誠、忍は仕方なく、山を降りようとした。


その時であった。

黒服達の車の音を確認した鮫島が立ち上がり、駆け寄ってきたのだ。


足音を聞き、振り向く一行であったが、

あまりの速さに誠が捕まってしまう。



「鮫島っ!?」


「よぉー誠、ようやく捕まえたぜー?

ずいぶんと手こずらせてくれたな……帰ったらたっぷりお仕置きしてやるから覚悟しろよ」



鮫島はニヤニヤと嗤(わら)っている。

続いて彼は、忍に声をかけた。



「おい、忍。彼女見捨てて逃げるとは、ずいぶんと冷めてー奴だな。ま、もう別れた関係だからどうでもいいか。くくく……こっちの彼女は見捨てられるか?」


「こいつ……」



誠は必死になって鮫島の拘束から逃れようとしている。

しかしまるで歯が立たない。

まるで子供が大人に抑えられているようなものである。

絶体絶命のピンチだ。


黒服達の車も続々と駆けつけてくる。

4台……5台……この狭い道路には多すぎる数だ。



ヒュンッ!!


風を切る音がした次の瞬間、

鮫島は誠を抱えたまま、その場を飛び退いた。


直後、ガキッとした金属音が鳴る。

山村が車内にあったスコップを鮫島に振り下ろそうとしていたのだ。



「そろそろ来る頃だと思ってたぜ」


「この化け物め……早くその薄汚い手を女から離せ」



鮫島も山村の存在を忘れていたわけではない。

忍達を逃がさないことを優先しただけで、山村の動きは常に警戒していた。



「誰だか知らねーが、余計なことに手を出しちまったな、じいさん」


「誰だか知らないだと? あれだけのことをしておいて、忘れたとは言わせねぞ!」



鮫島は山村の顔を見て、思い出そうとした。

だがすぐに面倒くさくなって止めてしまった。



「忘れた。そんなことより、そんな物騒なものを振り回してあぶねーぞ、こいつに当たっちまうかもしれねぇな?」



鮫島が誠を盾にしているため、山村は手を出せない。

だがこのまま膠着状態が続いてしまったら、

黒服達が駆けつけてきて、確実に負けてしまう。


忍は山村を支援する方法を必死で考えた。



(くっ……どうしたらいいんだ……誠くんが捕まって、黒服達もすぐに来てしまう……一体どうしたら……)



その時、先ほどのカーチェイスの光景が頭に浮かんだ。


鮫島は、車のサイドガラスを割る際に、数回に分けて割っていた。

奴の握力であれば、一撃で割れるはず……

なぜ鮫島は〖手加減した〗のだろうか?


サイドガラスはフロントガラスと違って割れやすく出来ている。理由は車が水没した際に車内から逃げやすくするためだ。


鮫島はガラスの破片が飛び散らないよう殴ったのではないだろうか?


なぜ? 

山村が運転を誤り事故を起こす可能性があったから?

それは違う、どちらにせよ運転に支障が出るのは同じだ。


本当の理由は、ガラスの破片が飛び散って〖忍と誠に怪我をさせたくなかったから〗だ。


だから鮫島はガラスを割った後、車内を見た。

忍と誠が怪我してないか、確認していたのだ。



「山村さん、大丈夫です。

思いっきりアイツをぶん殴ってください!」


「なに……そんなことしたら嬢ちゃんにぶつかっちまうぞ!」


「アイツはあの人を傷付けることは絶対にしません。

大丈夫です。それに今はそれしか方法がありません。やってください!」



忍の言葉に、鮫島から物言いが飛ぶ。



「おい、何言ってんだ、忍。マコトちゃんが可哀想だろ? 傷物になっちまうぞ?」


「それで一番損するのはオマエだろ」


「……」



山村が持っているスコップに力を込める。



「一か八かだ。もう時間がない。俺が殴り付けたら、すぐに嬢ちゃんを助け出してくれよ」



山村がスコップを振り上げ、

誠と鮫島の頭上目掛けて一気に振り下ろした。


鮫島は拘束している誠を離すと、

すぐさまスコップを防いだ。


しかし大の男が思い切り振り下ろしたスコップである。

さすがの鮫島にもダメージが入る。



「ちっ……いってぇな……」


「やったっ! 誠くん、早くこっちへ」


「うんっ!」


「忍くんも早く!」



真里は忍にも避難を訴えた。

しかし忍はそれを拒否する。



「二人は先に逃げて、必ず後から追い付くから。

俺は山村さんとこいつらを抑えておくから早く!」


「えっ!?」


「大丈夫。俺には策があるんだ。必ず合流する」


「わっわかりました」



自信ありげに話す忍に、

真里は一言返すと、誠を抱えて山の中へと消えていった。



「あんたも行っていいんだぜ?」



スコップで鮫島を威嚇しながら、山村が言う。



「山村さんも一緒に逃げないとダメです。俺がいればあなたも逃げられる」


「はぁ? 何を言ってるんだ?」



根拠のない自信を持つ忍に、山村は呆れていた。

今、行けばまだ逃げれるというのに……。


そんな山村を尻目に、

忍は車の周りで何かを拾い始めた。


その間も山村と鮫島の鍔迫(つばぜ)り合いは続く。


山村の動きにはキレがあった。

一方の鮫島は、車に轢かれていたこともあり、

いつもよりも動きが鈍いようだ。


そうこうしているうちに、

二人は車を降りた黒服達によって囲まれてしまった。



「ジ・エンドだな、忍。この状態なら逃げられねーだろ」


「あぁ、こうして全員車から降りるのを待ってたよ」


「…………何を言っている?」



鮫島が聞き返すと、忍はポケットから先ほど拾った〖サイドガラスの破片〗を取り出した。それを自らの顔に突き立てる。



「!!」


「察しがいいな。俺は今から〖俺を人質にする〗

黒服は全員、背を向けて俺たちの前に並んで座れ。

鮫島はそのままそこに座るんだ」


「くっ……てめぇ……」



鮫島は言われたとおり座ると、忍を睨み付けた。


黒服達はそんな鮫島を見て動揺していた。


そんな彼らを見て、忍は言う。



「早く命令するんだ。

あんたの言うことなら、みんな聞くだろう」



鮫島は静かな声で黒服に命じた。



「おい……こいつの言ったとおりにしろ……」


「えっ……」


「いいから聞けっ!」


「はっ! かしこまりました!!」



忍の命令通り、黒服達は全員背を向けて一列に並んだ。山村はわけがわからず忍に尋ねた。



「おいっ……一体どういうことだ?

なぜこいつらはアンタの言うことを聞いている?」


「奴らは俺の身体に傷を付けたくないんです。

傷つけば、こいつらのボスが怒り狂いますからね」


「な……どういうこっちゃ?」


「詳しい説明はあとでします。

山村さん、何か奴らを縛るものを持っていませんか?」


「そんなもの都合良く持っているわけないだろ」


「じゃあ、奴らの車の中を見てください。

おそらく身柄を拘束するものが入っているはずです。

それと無線機があったら全部壊してきてください。

連絡が取れなければ増援も来れないはずです」


「わかった。見てこよう」



鮫島達のことだから、必ず何か用意してるはずだ。

忍は、山村に車内の捜索をお願いした。


鮫島が忍に言う。



「おい、分かってるのか? 

萌は、俺たちが捕えている。お前が逆らうなら、あの女の身の保障はできねーぞ?」


「危害を加えないと言っておきながら、

萌を同性愛者にしようとしたのは、どこのどいつだ? 約束を守れない癖にいい加減なことを言うな」


「ハッハ、お前は誤解してる。

萌をレズにしたのは、お前がホモになった後、

寂しくないようにするための俺たちの気遣いだ。


いずれこの世界は、ホモだらけになる。

それが小早川の夢だからな。

そうなった時のために、今からレズにして傷つけないようにしてやったんだ」


「何がホモだらけの世界だ。

自分たちの価値観を押し付けてるだけじゃないか。

それにお前らがホモを増やすのは、単に性の捌け口を増やしたいだけだろうが」


「そこはマジで違うぞ。

俺はノンケを犯すのが好きなんだ。

完全にホモになっちまった奴なんて、オナホの役割しか果たさねーからな」


「お前の趣味の話なんて聞いてない」


「それにオメーだって喜んでいたじゃねーか。

誠のケツ穴に突っ込んで、愛してるって叫んでいたのはどこのどいつだ。

笑わせるぜ、ハーーハッハッハッハ!!!!」



鮫島の笑いに釣られて、黒服達も笑っている。


今は背を向けて座っている彼らだが、

少しでも気を抜けば襲ってくるかもしれない危険な存在だ。


そこで忍は、あることに気が付いた。



(そういえば、この人たちは……)



「黒服の皆さん、聞いて欲しい。そして考えて欲しい。あなた方は、本当に初めから同性愛者だったのか?


小早川に捕まって、洗脳されて良いように使われているだけじゃないのか?


もし疑わしいのなら、今すぐ立ち上がって欲しい。

元々、大切だった人のためにも、一緒に小早川を打ち倒そう」



ここで説得することにより、

何人かの催眠が解けて、自分達の味方をしてくれるかもしれない。


黒服が仲間に加われば、これほど心強いことはない。

そんな淡い期待を込めて、忍は伝えた。


笑っていた黒服達が神妙な面持ちへと変わる。

この会社に就職する前の自分はどうだったのか、思い出そうとしているようだ。


そんな状況にも関わらず、鮫島は余裕の表情だ。

むしろ真面目に考えている黒服達が面白くて仕方ないようだ。



「おい、オメーら、俺をこれ以上笑わせるのはやめろ。

笑い死んじまうぜ。お前ら元からゲイだろ。


好きなだけ考えて良いから、思い出してみろよ。


忍、俺の部下は元々ゲイのやつらばかりだぞ。

小早川の所にいる奴らは、全員元ノンケだがな。


俺は中途半端な奴は好かねーから、

そういう奴は、傍におかねーことにしてるんだ。


どうだ、お前ら、思い出したか? 全員ゲイだろ?」


「はいっ! ゲイであります!」


「俺も元から男好きです!」


「女興味ありません!」


「ほらな」



懐柔作戦は失敗か。

忍はがっかりした表情を見せた。


そこに縄をたんまりと持った山村が帰ってくる。



「こんなにあったぞ? もっとたくさんあったが、さすがに持ちきれんかった」


「ありがとうございます。十分です」



そうして忍は、鮫島達を山村に拘束させた。



「車内の無線機も全て壊しておいた。よくそんなのがあるのがわかったな……」


「いえ、こいつらなら用意していそうなものです。それじゃあ行きましょうか」


「よく分からんが上手くいって良かった」


「山村さんのおかげです。車は……あとで弁償します」


「そんなこと気にせんでエエ。これで……チャラにするけんな」



山村はそう言うと、胡坐(あぐら)をかいでいる鮫島の前に腰を下ろした。



「お前は忘れているかもしれんが、

俺は山村製糖株式会社の元社長、山村漣治郎だ。お前に息子を殺されたな」


「山村ぁ?……あーそういえばいたかもな。

うぜぇ土地開発反対派の糞の一部だろ?」


「糞はオマエだ。この美しい南の島を欲の詰まったリゾート地になんかしおって、自然の有り難みの分からぬ糞どもが」


「クックック、思い出してきたぜ。

山村、山村 翼(つばさ)の親父か。ブーーハッハッハ!!

翼が死んだって? 今もウチのゲイバーで働いてるってんの!

紹介してやろうか? アイツのケツの穴もなかなかのもんだったぜ!」


ガツンッ!! 「ぐっ……」


山村は、大笑いしている鮫島を殴り付けた。



「息子は死んだ。ようやく一人前になり、社長の椅子と株式を譲ってやったというのに、

こんなゴミ共に全てをくれてやるとはな。おまけに理由が好きになった人がいるからだとは……」


「あーそれ俺のことな。何度もケツハメしてやったら、

一物をプルプル振り回して、好き好き言ってきやがって、まったく笑える奴だったぜ」


バスッ! ボスンッ! 「ぶはぁ……」


思いっきり二、三発殴り付ける。

豪腕な山村から繰り出された拳は重く、鮫島の顔には大きな痣ができていた。



「山村さん、それは違います。息子さんは、奴らに催眠を掛けられているんです。催眠を解けば、元の性格に戻りますよ」


「お気遣いありがとよ。だが催眠術なんてオカルトじみたもんは、鼻から信用しておらんのだ。そんな根本から性格を変えてしまうようなもの、あるはずがない」



山村は催眠術をまったく信じていない。

この状況で、それを信じさせるなど至難の技だ。

忍は、切り口を変えて話すことにした。



「……わかりました。山村翼ですね。

生きてるんだったら良かった。約束します。

そのうちあなたに元の姿に戻った息子さんを会わせてみせます。それが俺たちからの恩返しです」



山村は、スコップの柄を持ち、もう片方の手でぽんぽんと足かけ部分を叩いている。

じっーと鮫島を見つめ、何やら考えているようだ。



「……ふっ。今からコイツを殺してやろうかと思っていたが、あんたのその言葉を聞いて、やる気が失せてしまったよ。会いたくもない息子だが……人殺しになってしまったら、こっちが会わせる顔がないもんな……」



山村には、忍が昔の息子の姿に重なって見えていた。

死んだことにしたい恥ずべき息子であるが、かつては自慢の息子であった。

山村は、それを思い出し、鮫島の殺害を思いとどまることにした。


二人は、拘束した鮫島達をそのままにして、

真里と誠を追うことにした。

時刻はすでに夕刻に差し掛かろうとしていた。

Part.106 【 鮫島 剛毅 】


忍と山村が消えて、ほんの数分後。


残された黒服達の前には、

すでに拘束を解き、背伸びをする鮫島の姿があった。



「ふぅーやれやれだぜ」


「鮫島さん、縄は……?」


「こんな縄、簡単に切れるぞ」



そう言い、黒服を縛り付ける縄を力ずくで引きちぎってしまった。



「すごい、カーボンファイバー製の縄をいとも簡単に……」



カーボンファイバーとは、

鉄よりも硬く、アルミよりも軽いとされる素材で、

主に人工衛星や車などに使われる繊維である。


そんな縄を手で切断するなど、人間技ではない。

黒服達は規格外な鮫島の力に改めて驚かされていた。


そうして全員の拘束を解いたところで、

鮫島は次なる指示を出した。



「お前達は、ひとまず忍を追いかけろ。

見つけたら即、無線で連絡だ。

そして一定の距離を保ちつつ、位置を報告し続けろ」


「ははっ! かしこまりました!」



黒服の一人が隠し持っていた小型無線機を取り出し、本部に連絡する。


五分もしないうちにヘリが到着し、

鮫島を乗せて飛び去っていった。



※※※



「暗くなってきましたね……」


「この辺は民家もないからな……

早く二人を見つけてやりたいところだが……」



山村を助けたことにより、

忍は誠と真里を見失ってしまっていた。


南の島とはいえ、今は冬。


午後四時にでもなれば、

山中は薄暗く、二人を視認するのは困難であった。



(無事でいてくれれば良いけど……)



誠が男であれば、忍の不安はそこまでではなかったといえる。だが実際、ほぼ女の子と言える存在である。


この山を女性二人で抜けるのは、難しいように感じられた。



(人質作戦が、ここまで上手くいくと思わなかったから、先に行かせたけど、失敗だったかもしれないな……)



時が経つにつれ、不安が増していく。


鮫島達はたしかに危険な存在だったが、

夜の山は同じくらい危険である。


今はまだ光があり、ギリギリ地形が分かるが、

あと一時間もすれば、真っ暗になってしまうだろう。


足を踏み外し、転落する危険すらあった。

一刻も早く合流しなければならない状況である。



「いたぞ、あそこだ!」



山村が指差す方向に、人影が二つ見えた。


輪郭が微かに見える程度であったが、こんな山中で彷徨う者など、真里と誠以外に考えられない。


忍と山村は、影のある方へ急いで駆け寄り、声をかけた。



「真里ちゃん、誠くん!」


「嬢ちゃん達、こっちだ!」



これでようやく合流できる。

そう二人が息をついたところ、人影の一つが腕を上げて、空に向かって何かを打ち上げた。


ヒューーーーン。


鋭く高い音と共に閃光が放たれる。

一瞬の光に照らされ、映し出された人影は、黒服の二人であった。



「しまった。こいつらは違うぞ!」



山村は黒服から距離を取る。

いくらなんでも追ってくるのが早すぎる。

あれほど硬い縄で縛り、無線機も破壊したのになぜ?


予想外の展開に狼狽(うろた)える山村と忍であったが、黒服達の包囲は瞬く間に進んでいった。


閃光弾の光を目印にヘリが近づいてくる。

梯子が降ろされ、姿を現したのは、もちろん鮫島であった。



「よぉ、また会ったな」



冷たく見下ろす鮫島に、忍はガラスの破片を用意した。

ここで囲まれてしまっても、脅せばまた切り抜けられる。この時まで忍はそう思っていた。



「なんだ、またそれか」


「そうだ。ヘリまで用意してくれてありがとう。運転手以外は降ろして、俺たちを乗せてもらえるか?」


「ハーハッハ、それは、できねー願いだな」


「だったら、傷を付けるまでだ」



忍は頬にガラスの先端を突きつけた。

鮫島を睨み付け、要求を呑むよう再度脅す。



「俺は本気だ。傷が付いたら小早川が怒り狂うぞ?

なんてったって、俺はあの人のお気に入りだからな」


「まぁ、そう吠えるな。おめぇに見せてぇもんがあってよ。わざわざ取ってきてやったんだ」



ヘリから厳重に紐で縛られた箱が降ろされていく。

棺桶のように人が入れるくらいの大きさだ。


地面に降ろされた箱を周辺の黒服達が、

手早く開封してゆく。


そうして中から取り出されたのは、

アイマスクをされ、粘着テープで口を塞がれ、

肢体(したい)を縄でグルグル巻きにされた萌であった。



「……!!」



忍の血の気が引く。


鮫島は手にアーミーナイフを持ち、萌の頬の、忍がガラスを突き立てた場所と同じ所に突き立てた。



「傷を付けると言ったな。良いぜ、やってみろよ。

オマエが傷つけた何倍も深く、この女の同じ箇所を抉ってやる。口裂け女になっちまうかもしれねーな?

ハーハッハッハ!!」


「くっ……」



絶望的な表情を浮かべる忍に、鮫島が追い打ちをかける。



「見た目が変わるだけじゃねぇぞ?

おめぇがこれ以上俺たちに逆らうなら、

こいつを催眠で化け物に変えて、街に離してやっても良いんだぜ?


〖街で暴れる口裂け女を逮捕〗


楽しみだな、世紀の大ニュースになるだろうな?」



その鮫島の言葉に山村が反応する。



「何を言っているキサマ……催眠だと!?」



催眠の存在を知られぬため、

一般には決して口外しなかった鮫島であったが、

忍を脅すため、つい口に出てしまったようだ。


しかし、どちらにしても山村を無事に帰すつもりはない。先ほど殴られた恨みもあり、鮫島は山村を挑発することにした。



「あぁ、そうだよ。おめぇの息子は、催眠で男のチンポのことしか頭にない変態になっちまったんだよ。

オメーも同じようにしてやろうか?

じじいだから、よけい汚物になりそうだな」



忍の言ってたことは本当だった。


山村の息子は自らの意思で親を裏切ったのではなく、

催眠で操られていただけだったのだ。


山村の鮫島への憎しみが甦る。


これまでは、半分息子にも非があると思い込んでいた山村であったが、

その全ての非が鮫島をはじめとする小早川グループにあると分かったのだ。


山村の怒りは測り知れない。



「キサマだけは許さん……」


「ほう、向かってくるか。

いいぜ、来いよ。さっき殴られた借りを返してやるぜ」



鮫島は萌を隣の黒服に渡すと、山村に言った。



「この女を使うまでもねぇ。もしオマエが俺をノックアウトできれば、ここにいる全員を解放してやるよ」



鮫島の言葉に、忍がハッとする。

もしここで山村が勝てば、萌を助けることができる。


忍は力の限り叫んだ。



「山村さん、絶対にそいつを倒してくださいっ!

そいつさえ倒せば、みんな助かります!」


「任せておけ、俺がこんな腐った野郎に負けるわけがない」



体格や風貌だけでいえば、

山村の方が強靭な体つきをしている。


それに加え、山村にはここにいる若者達を救い、

催眠によって囚われた息子を解放するという使命がある。


長年、小早川グループに苦しめられたフラストレーションを解放する良い機会であったこともあり、

山村は心身ともに最高のコンディションであると言えた。


そんな山村を前にしても、鮫島は余裕の表情を崩さない。まるで100%自分が勝つと確信しているようだ。



※※※



鮫島(さめじま) 剛毅(ごうき) 35歳


元○○国軍人。

彼はその軍の中でも精鋭と呼ばれる特殊部隊に所属していた。


国を代表する部隊に所属することは、軍人にとって最高の名誉であり、

その待遇は他の部隊と比較にならないほど良いものであった。


しかしそこには厳しい軍律があり、

脱退は死を意味すると言われるほど過酷な部隊でもあった。


毎日のように課せられる任務を、彼はいくつも成功に導いてきた。

その報酬として、多くの金と栄誉を手にした彼であったが、

徐々に己の中に轟(うご)めく欲望を抑えきれないようになっていた。


ある紛争地域において、

彼の部隊が制圧を成功させた時の話である。



「お願い……子供だけは……子供だけは助けて……」



瓦礫が散乱する住宅の一室で、

足を怪我した母親と、その母に寄り添う小さな少年がいた。


鮫島は銃を片手に、その二人を苦々しく見つめていた。



「38番、何をしている? 敵に情けは無用だ。

女子供であろうと構わず撃て」



あとから部屋に入ってきた同僚が、鮫島に発砲を促す。


それでも鮫島が動かずにいると……。


ボスッ……ボスッ……。


その同僚が、サイレンサー付きのピストルで、

あっさりと二人の命を奪ってしまった。



「この事は上へ報告しておく。我々の部隊に情緒など不要だ。

機械のように精密に動けるよう心を改めるのだな」


そう言い同僚は立ち去っていった。


鮫島は頭を撃ち抜かれ、

絶命している少年をなおも見つめていた。



(俺がこの部隊にいなければ、

こいつを好き放題に犯せたものを……)



子の命を懇願する母親。

そんな女の前で、大切な息子を犯してやったら、どれほど気持ちが良いだろうか?


それはどんなに金を持っていても、どんなに階級が高くとも、今の環境では叶えられない望みであった。



彼は自由を欲した。



何ものにも縛られず、

自分の好きなように、したいことをできる自由を。


金や権力などいらない。


いくら金があろうとも、

使う時間がなければ意味がない。


いくら権力があろうと、

より大きな権力に縛られるのであれば意味がない。


しかしそうは思っていても部隊を抜けることはできなかった。

除隊は許されず、脱走しても、組織のメンバーが死ぬまで追って来る仕組みになっていたからだ。



そこで鮫島は、ある大規模な紛争において、

自らが所属する部隊メンバーを一人残らず殺害し、

敵の攻撃に見せかけて、付近一帯を強力な爆弾を用いて爆破した。


そして生きていることを組織に悟られぬよう、

メンバーの死体を薬品を使って溶かし、排水溝へと棄てた。


その後、鮫島は名を変え、

形を変え、全ての過去を捨て去った。


それから国をいくつも渡り歩き、平和なこの国へと辿り着き、そこで小早川に出会ったのであった。



「あーらん♡ あなたカッコいいわネェ~♡

アタシの好みだワ♡」


「……」



静かに酒を嗜(たしな)む鮫島に、当時の小早川はぞっこんであった。

転々と住む家を変えていた鮫島を言葉巧みに丸め込み、自宅へと招き入れる。



「鮫島さん、どう、この子達は? あなたの好みに合うかしら?」


「十分だ」


「ふふふ、それは良かったワ♡ それじゃあみんなでゲームをしましょう♡ 楽しい催眠ゲームの始まりヨ♡」



この頃、催眠術を会得していた小早川は、彼を専属のボディーガード兼ボーイフレンドにしようと企んでいた。


しかし……。



「ん? なんのマネだ……?

俺がオマエにキス? するわけねぇだろ」


「そ、そうよネ……変なこと言ってごめんなさいネ」



いくら暗示をかけようと、

鮫島を操ることはできなかった。



(なんでヨ……どうしてコイツは暗示にかからないの!?)



そうして日を改め、また暗示を掛ける。

しかし思うようにいかない。また日を改める……。


そうこうしているうちに、鮫島に怪しまれ、

ついに催眠の存在がバレてしまった。



「くっそーー!! なんでアンタ、暗示にかからないのヨ!!」


「知らねーよ。掛けてるオマエが分からないのに、俺が知るわけねーだろ」



鮫島は催眠にかからない非常に危険な存在だ。

小早川は、一度は彼を亡きものにしようと考えた。


もちろんそれだけの戦力は備えており、

事故に見せかけて彼を殺すことは十分可能であった。


だが小早川にはそれはできなかった。


催眠を使えると言っても、

元はどこにでもいるニューハーフバーのママなのだ。


人を殺すという一線を超えることは、

彼にはどうしてもできなかった。


そして何より……。



(殺せない……アタシにはこの人を殺せないワ……)



鮫島は口は荒かったが、

本音を出し合える唯一の人物だった。


小早川は多くの部下を持つ立場となっていたが、内心は孤独であった。

催眠によって仲間を増やしていったのだから当然である。


今回も催眠を掛けるため、何度も接待を繰り返したのだが、

それにより自然と打ち解け合うようになってしまい、殺すことができなくなってしまったのである。



「アナタの勝ちヨ。アナタの言うとおり、アタシは催眠で人を操り、会社を大きくした。

惚れたものの弱みネ……。あとは煮るなり焼くなり好きにして頂戴。アナタに裁かれるのなら本望だワ」


「裁く? 何を言っている?」



それから鮫島は、小早川を脅すようなことは一切しなかった。

今まで通り、彼の店でタダ飯を喰らい、店のニューハーフ嬢を好きに犯すだけだった。



「アナタ……一体どういうつもり?

なんで何もしてこないの……?」



小早川は不思議だった。


警察に届けもせず、

かといって自分を脅して財産を奪おうともしない。


時々食いたいものを要求する程度で、

鮫島は全くの無害だったのである。



「オマエはオマエの好きなようにしたらいい。

俺も好きなように過ごさせてもらうぜ」


「……それだけ?」


「あぁ……それだけだ」



鮫島はこの時、彼の望むものを全て手に入れていた。


それは何にも縛られない自由。


好きな時に好きなものを食べ、寝たい時に寝る。

誰かに何かを課せられることもなく、

犯したい時に犯したいやつを犯せる。


会社の面倒な経営は、全て小早川がやってくれる。

自分は時折、依頼された相手を犯せば良いだけだ。


鮫島にとって、ここでの環境は、

何事にも変えがたき理想郷であったのだ。


初めは鮫島の行動を不審に思っていた小早川であったが、

彼が単なるグータラだと分かってからは、当時の恋心も冷めてしまったとかなんとか……。



※※※



ポキポキ ポキポキ



「さーて、やるか。ひさびさの喧嘩だな」



山村との一戦を控え、鮫島は身体を鳴らしていた。


彼にとって小早川の会社は、彼が望むこの世の理想郷。


それを壊そうとする者は、誰であろうと許せない。

それが今回、鮫島が迅速に行動した理由であった。


彼は真面目に働けば、

誰よりも優秀な人物だったのである。



「この島の怒りを知れっ! 鮫島よ!」



山村は肩を怒らせ前進した。

力強い足取りで距離を詰め、殴りかかる。

とても初老とは思えない身体の動きだ。


しかし、その拳は空を切る。


二発、三発と連撃を繰り出すのだが、

いずれも鮫島に届くことはなかった。


だが攻撃の隙を狙って鮫島がカウンターを決めようとする気配はない。


いや、反撃の素振りを見せないどころか、

構えすらしないのだ。


両腕をぶらりと垂らし、かわすのみだった。



「……なんのつもりだ? なぜ打ってこない?」


「すぐにぶっ潰しちまったら面白くねーからな。

ハンデをくれてやってるんだよ」


「舐めおって……余裕ぶって足元を取られんように気を付けることだな」



視界は暗く、わずかに差し込む月の光と、

黒服達が持つスマホの光で相手の位置を把握しているだけだ。


なおかつ、ここは山の斜面。

折れた木の枝や、植物、ゴロゴロとした岩があり、

非常に安定しない場所でもある。


鮫島が拳をいくら避けようと、

それらに足を取られ、被弾する可能性は十分あり得た。


なおも、山村の攻撃は続く。

鮫島が急な反撃に出ても大丈夫なように、警戒しながらの殴打であるが、徐々に切れ味が増してきているように見える。


鮫島と拳との距離は、回を重ねるごとに縮まり、かするまでになってきていた。



「おぅ、じいさん。あと少しだぜ?

辛そうだな? 当たる前に寿命を迎えちまうんじゃないか?」


「はぁ……はぁ……ぬかせ、ちょこまかと動きやがって……」



押しているはずの山村が、息切れを起こし始めている。それに対し、鮫島は今も余裕の表情だ。



「もう終わりか? もっと打ってこいよ。

俺だけは許せないんじゃなかったのか?」 



なんとか構えを見せる山村であったが、その足はおぼつかない様子であった。

両者の間には、明らかな優劣の差が見えようとしていた。



「もう限界のようだな。

じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ」



鮫島がここでようやく構えを取ろうとする。

が、その構えを完成させる間もなく、彼の拳は山村の顎を打ち抜いてしまっていた。



(速い……!!)



忍を初め、場にいる全員が同じ感想を抱いた。


視界が暗いこともあったが、

それを考慮しても、鮫島の動きは見えないのだ。


構えを取った瞬間から、拳が山村に当たるまでのフレームが抜けている。

コマ送りの編集が失敗したかのような動きを鮫島は見せていた。


すでに大勢は決した。


顎を打ち抜かれた山村は、

地面に倒れ、息が切れそうになっている。


あまりにも圧倒的な力の差が両者には存在していた。


鮫島の強いところは、

単に身体的な優位性があることに留まらない。


鮫島が受けに徹していたのは、

この不安定な土壌で、無駄な体力を消耗しないようにするためだった。


なおかつ、彼は山村の攻撃を

〖敢えてギリギリで避けていた〗のだ。


両者の身体の動きを分析すれば分かることだが、

基本的に体力の消耗は、受ける側より攻める側の方が大きい。


本来発散されるべきエネルギーが空を切り、

より大きな揺れを伴い、山村の体力を奪う。


それに対し、鮫島は最低限の動きで山村の攻撃を避け続けているだけだった。


格闘技において、最低限の動きで、相手の体力を消耗させることは非常に重要なことである。

いくら攻めを継続していても、それに伴うスタミナの消費量が、受ける側の消費を上回っていては意味がないのだ。


そして鮫島は、そういった戦略においてはプロ中のプロであった。

万が一の失敗の可能性を最低限に抑える。


それまでの人生において、幾度となく身を死地においてきた鮫島にとって、

山村を下すことなど、朝飯前だったのである。



「よし、じゃあこれまでの清算をしてもらおうか?

山村さんよぉー。まずはうちの車を大破させた分だ」



鮫島は仰向けになる山村のお腹に、強烈なボディーブローを放った。



「ぐはぁっ!!」



あまりの痛みに山村は、のたうち回っている。

しばらく息が止まり、嘔吐(おうと)するような動作を繰り返した。



「まだ失神するなよ? まだまだ清算は残ってるからな。

次は俺を車で轢いた分だ」



鮫島は山村の身体を軽々と持ち上げると、

2m先の木に放り投げた。


ボキッ!!


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


鈍い音がする。木に叩きつけられ、地面に落ちた山村は左手で右腕を抑えていた。

どうやら今の衝撃で折れてしまったようだ。


それでも鮫島は、追撃の手を休めるつもりはない。

彼は苦しむ山村の髪を掴んだ。



「やめろっ!!」



そこで忍が叫ぶ。

鮫島は山村の髪を掴んだまま、忍の方を向いて言った。



「安心しな、半殺しにはするが、命を断つまでのことはしねーからよ」



そして萌を抱える黒服に一言添える。



「おい、忍がコイツを庇おうとしたら、その女にナイフを突き刺せ。遠慮なくな」


「承知しました」



鮫島ほどではないが、筋肉質で冷酷な顔をした黒服が、鋭く光るアーミーナイフを萌の頬に突き立てている。


これでは山村を助けに行くことなどできない。


忍は山村が蹂躙される様子をただ見ているしかなかった。



「さてと、お次は俺を縄で縛り、何度も殴りつけた分だ。

俺は優しいからよ。今、ごめんなさいすれば、その分はチャラにしてやってもいいぞ?」


プッ!


直後、山村が口内に溜まった血まみれの唾を、鮫島に吹き飛ばす。

ボロボロになりながらも、彼はなお鮫島を睨み付けていた。



「それがオマエの返事か。なら……遠慮はいらねーな!!」



山村の態度に鮫島の目が据わる。

彼は倒れる山村にマウンティングすると、顔面を殴り始めた。


鮫島の拳が当たる度に、山村の顔が変形していく。

山村も最後の力を振り絞り反撃を試みるのだが、不利な姿勢に容易く防がれてしまった。


そうこうしているうちに、

山村の身体は動かなくなってしまった。


山村が気を失ったことを確認し、鮫島が立ち上がる。



「俺が雇われの身だったことに感謝するんだな。

おい、こいつを運び出せ」


「ははっ!」



黒服が数名、山村を取り囲むと、

手際よく縄で縛り、そのままヘリへと運んでしまった。


鮫島が忍に近づき、持っているガラス片を掴む。


忍は抵抗することもなく、それを離してしまった。



「逃げようだなんて二度と考えないことだな。

もっとも、お前がそう考えることは、もうないだろうが」


「……萌はどうなる?」



自らの処遇は決まってしまったようなものだ。

これからは小早川の都合の良いデク人形として利用されてしまうだろう。


自分はもうどうなっても構わない。

忍はただ萌のことが心配だった。


小早川が萌を嫌っていることは明らかだ。

その気になれば、いくらでも彼女を地獄に突き落とすことができるだろう。



「…………さぁな。それを決めるのは俺じゃない。

これは俺の予想だが、あの女は日常に返される。

用がなくなった女をいつまでも飼っておくようなことをアイツはしないからな」


「本当にそれだけか……?」


「たぶんな。まぁ、お前からの最後の願いということで、小早川にはあの女の減刑を伝えておいてやる。だから大人しく誘導に従え」



鮫島はそう言うと、ヘリへと戻っていった。

彼にしては、ずいぶんと優しい対応である。


もちろん彼なりに狙いがあってのことだ。


ここで忍の心情を荒立てても、

暴れる可能性を高めてしまうだけだ。


そうであれば、催眠を受けるまで大人しくしてもらっていた方が良い。

最後の最後まで、鮫島は萌を人質にすることとしたのだ。



こうして萌に続いて忍までもが、

捕らえられることとなってしまったのであった。

Part.107 【 追い詰められた二人 】

小雨が降り始めた。
それは緑したたる山々に降り立ち、パラパラとした音を鳴らしている。冬でも10度を下回ることのない南の島であるが、傘も差さず、雨に濡れてしまえば、寒さもひとしお身に沁みるものである。

誠と真里はそうした寒さに耐えながら、
山村達との合流を目指していた。


「あっ!あれ忍くんと山村さんじゃないですか?」


完全に日が沈むところで、真里が二人を見つけ出す。
嬉々として駆け寄ろうとする真里であったが、そんな彼女の腕を誠が掴んだ。


「待って真里さん。こっちに隠れて」


真里を引っ張り、草むらに隠れる。
見ると、山村と忍以外にも、いくつかの人影が見えた。
彼らは山村達を囲うようにして、距離を縮めているところであった。


「助けにいかなくちゃっ!」

「ダメだ。僕たちがいたら逆に足手まといになってしまうよ」


先ほどと同じように人質にされてしまわないとも限らない。
誠は自分達が傍にいるよりも、二人だけの方がまだ安全だと判断した。


そうしてしばらくすると、閃光弾が空に向けて放たれた。
山村と忍はあっという間に囲まれてしまい、
激しい戦闘の末、捕らえられてしまった。

二人がヘリで連れ去られ、
現場に残された黒服達も去っていく。

静まり返った森の中で、
誠と真里は山を降りることを決めた。


「こうなったら仕方ない……二人だけで山を降りよう……」

「うっ……うぅ……」


暗い山道を下っていく。
途中、真里が足を踏み外し体勢を崩すことも多々あったが、
その度に誠が支えてくれた

催眠時には、あまり感じなかった彼氏としての誠の存在。
それは、かつて雪山で共に過ごした時の頼もしさを思い出させてくれた。

危機的状況に陥った時、人は本性が現れるという。

まっすぐ前を見据え、決意に満ちた眼差し。
常に真里を気遣える優しさ。迷いのない足取り。

普段、女々しかった誠であるが、
彼の本質的な部分は、何も変わってはいなかったのだ。

そして、それは現況のサバイバルにおいても、
目に見える形で現れることとなった。

真里もそうであるが、
誠は遭難するのが、これで二回目である。

前回、雪山で遭難したことで、彼は下山するのに必要なサバイバル術を、ネットや本などで学び、頭に叩きこんでいた。もちろん、そうした勉強において、彼の右に出るものはいない。

命に関わる知識として、
誠はどんなに細かい事でも、完全に記憶していたのである。

だが現況は、通常のサバイバルと大きく異なる。

誠と真里は、ただ遭難しているのではなく、
危険な犯罪者集団に追われている身でもあるのだ。

本来なら、こんな夜中に下山するのは避けるべきことである。救助されやすいよう、見つかりやすい場所で待機したり、体力の損耗を避けるためビバークすべきところだ。

しかし朝になれば、黒服達が一斉に押し寄せてきてしまう。

誠と真里は夜が明ける前に、
山を降りねばならなかったのだ。

それから何時間も二人は山を彷徨(さまよ)った。

無理な道は進まず、おかしいと感じたら、すぐに来た道を戻るようにした。大丈夫と思い込む正常化バイアスこそが、下山のもっとも恐ろしいところである。

それを知っていた誠は多少遠回りしてでも、安全な道を選んだ。そうした彼の迷いのない行動は、真里の心を強く励ましていた。

この人に付いていけば上手くいく。
そう自然と思わせるほど、誠は心強い存在であった。

そうして徐々に日が上り、遠くの景色が見えるようになってきた頃、彼らは山肌から立ち上る煙を発見する。

初めは罠と思い、身構えた誠であったが、
こっそり覗き込んだところ、
キャンプ場で暖を取る人達の集まりであることが分かった。

ホッとした二人は、何事もなかったようにキャンプ場を横切り、近くにあった山小屋に身を潜めるのであった。


※※※



深夜、誠と真里は山小屋を出ると、
再び港を目指して歩き始めた。

忍が捕まり、ボートは使えなくなってしまったが、
やはりこの島を出るには船しかない。
誠は貨物船に乗り込み、脱出する方法を考えていた。


「フゥゥ……なんだか冷えますね。
あの小屋でジャンバーを借りてきて良かったです」

「そうだね。一応、書き置きは残しておいたけど、
あの小屋の持ち主には、いつか謝りに行かなくちゃね」


小屋を出る際、二人は借りたものを全て紙にしたため、それらを揃えるのに十分なほどの金銭を置いていった。

しかし今夜の天気も荒れている。
海から吹き付ける風は強く、ポリエステル製のジャンパーがバサバサと大きく音を立てていた。
雨が降っていたら、もっと酷いことになっていただろう。

木々は風にあおられ大きく揺れている。
道端に落ちているゴミも、飛ばされて転がっている状況である。

それにしても、車道を走る車の数が少ない。
小早川のことだから、この街に黒服を集めていそうなものだが、一時間歩いても、通る車は五台程度であった。

まさか港を封鎖しているのでは?
そんな考えが頭をよぎったが、
それは港に到着しても同じことであった。

荷物を運ぶ作業員くらいしか見当たらない。

黒服達はどこに消えたのだろう?

理由はわからなかったが、有利な状況には変わりがない。
誠は貨物船に乗りこむ方法を考えることにした。


※※※


「まだ見つからないの!? もっと人を増やしなさいっ!! 一日中探しても見つからないなんて何してるのヨ!!」


その頃、誠たちが遭難した山では、
小早川の怒号が鳴り響いていた。


「落ち着け、怒鳴ってすぐに見つかるもんじゃねーだろ」

「アンタのせいでしょ! 忍ちゃんを捕まえたのは良いけど、どうして戻ってくるのヨ!
マコトちゃんが近くにいたかもしれないでしょっ!?」

「いくらなんでも装備がなくては見つけられないだろう」

「アンタ、目が良いんだから見つけられるでしょ!
あぁ……マコトちゃん、きっと今ごろ怖くて泣いているワ……」


鮫島は、小早川の意見に一理あると思いつつ、
「忍が暴れぬよう同乗していた」と苦々しく答えた。

「言い訳は良いワ……とにかく黒服を全員、この山に呼びなさい。港にいるメンバーも全員ヨ!」

「港が手薄になっちまうが……
この山を降りられるわけねぇからいいか……」


鮫島も誠をバカにしていた。
山を自力で下りれる胆力も知識もないと見ていた。

だがそのおかげで、
誠と真里は容易に港に辿り着けたというわけだ。



※※※



港に到着して数十分後、
誠と真里は、奇妙なトラックを発見していた。


「誠くん……あれって……」

「うん……」


視線の先、エンジンを吹かすトラックの荷台の前には、
ぼんやりと立ち尽くす〖人の群れ〗がいた。

数にして十名ほど、男女混合、子供からお年寄りまで様々だ。
おそらくは催眠で操られた現地の住民達。なぜ彼らがいるのか、理由は分からなかった。

だが、ここで誠は、ある奇策を思い付くこととなる。


「あの人達のところに混ざって、船に乗せてもらうことにしよう」

「えっ!?」

「彼らに混ざって、催眠に掛かっているふりをすれば、運んでもらえるかも?」

「た、たしかに……でも怖いですね……」


気付かれれば、そこでゲームオーバーだ。

だがコンテナに隠れようにも、積載量ギリギリまで積み込まれるため、
人間二人が入り込める隙間はなかった。

であれば、初めから積み荷が人間のスペースに入れてもらった方が良い。

真里は意を決すると誠の意見に同意した。


※※※


「ふぅーい、これで最後の積み荷だな」

「いつ見ても、この積み荷はスゴイっすね。まさか人間の運び出しまでやってるとは、信じられないっすよ」

「これがこの会社の闇の部分だ。表では慈善事業やら社会貢献やらを謳っているが、裏ではこういった人身売買もやってるんだからな」


上司が、葉巻を吹かし、人間に取り付けられたラベルを確認し始める。
すると若い方の作業員が誠に注目した。


「この子可愛いっすね。このまま持ち帰りたいくらいっすよ」

「止めとけ、変なマネすると、売られる側にまわっちまうぞ?」

「ハハハ、冗談っすよー。あ、でもこの人、ラベルが付いてないっすね。その隣の女も付いてないっす」


途端に訪れたピンチに二人の鼓動が跳ね上がる。


「たしかにないな。今調べるから、ちょっと待て」


上司はバインダーを広げ、納品書を確認する。


「これ間違ってるな。10体じゃなくて12体だ」

「どうしますか?」

「送り返すにも人間だからなー。
仕方ない。書類を書き直す方向で行こう。
どうせ送り先は一緒だし大丈夫だろう」

「了解っす」


どうやら上司は、書類の方が間違っていると判断したようだ。
まさか生身の人間が混ざるなどとは、考えもしないだろう。

それからすぐに誠と真里はコンテナに運ばれた。
中は空調設備がしっかりしており、人数分のベッドが置いてあった。
しかしラベルのない真里と誠は、段ボールを重ねて作った簡易的な寝床に寝かされた。


「……」

「……」

「……行ったかな?」

「……ですね」


起き上がり周りを見る。
催眠で逃げ出す心配がないためか、縛られたりはしていなかった。


「うまくいきましたね」


真里が小声で嬉しそうに呟く。
先ほどの作業員の会話から、この船が本島に向かうことも分かった。
このまま何事もなければ、恭子と会うことができる。

それから一時間後……。


「なかなか動き出しませんね」

「客船とは違うからね。他にも乗せる荷物があるんだと思うよ。しばらく休もう」


しかし休むと言っても、なかなか落ち着かない環境である。
まるで死体安置所で眠るような気分だ。真里はひとまず目を瞑ることにした。


ザザーーガタンゴトン……
ザザーーガタンゴトン……


「んん……?」


漣の音と船の揺れる音で真里は目を覚ます。
コンテナ隙間から、微かに光が差し込んできていた。


(私、寝ちゃってたんだ……)


よほど疲れていたのだろう。眠りこけても仕方ないと思えた。

真里は一息つくと、周りを確認することにした。
隣では、誠が静かに寝息を立てている。

萌の話では、ボートで二時間半だそうだが、貨物船ならどれくらいかかるのだろうか?

なんにせよ、すでに船は出ているのだから、一、二時間程度であろう。
真里は本島への到着を今か今かと待ち続けた。

それから一時間後、船は本島へと到着する。


「誠くん……船が止まりました。到着したみたいですよ」


耳元で小声で囁く。
誠は目を開けると、少し嬉しそうに起き上がった。


「ついに脱出できたね。あとは催眠に掛かっているふりして、ここから出してもらおう」

「そうですね」


ホテルを出て五日目にして、
ようやく誠と真里は本島に辿り着くことができた。

あとは一刻も早く、恭子と連絡を取り、催眠の犠牲者達を助け出さなければ。

誠と真里が決意を新たにしていると、作業員の足音が聞こえて来た。


「真里さん、あと少しだよ。がんばって」

「はい!」


コンテナの裏から作業員の声が聞こえてくる。


「デクが十二体だなんて聞いてないぞ。なぜ二体多い?」

「そちらの記載ミスじゃないんですか?
物が物だけに、そのまま運ぶしかないでしょう」

「今、逃亡者が二人いることは知ってるだろう。
もしかしたら、その2体というのは、そいつらかもしれないんだぞ」

「なんですって……」


誠と真里が顔を見合わせる。

完全にバレてしまった。
あの扉が開かれれば、確実に捕まってしまうだろう。


「しまった……無理だったか……」


誠は悔しそうに頭を下げる。
コンテナの中に応戦できるような武器は何もなかった。
誠の力では外にいる作業員を振り切って脱出することは不可能だ。


(もし捕まったら、もっとひどい催眠を掛けられちゃう……そしたらもう誠くんとは……)


ここから抜け出せる方法は何かないか?

真里は必死に頭を回転させた。
こんなに一生懸命頭を回すのは、初めて誠を自宅に招き入れた時以来だ。


「すみません、別の鍵を持ってきておりました。すぐに戻りますのでお待ち下さい」

「すぐにな」


作業員の駆け足が遠退いていく。ほんの少しだけ時間が延びた。
それにより、真里は少し冷静さを取り戻す。


(考えなきゃ……本当に全てが終わっちゃう……)


真里は、ここで考え方を根本的に切り替えることにした。
現状、すでにここからの脱出は不可能だ。

本島に着いたとはいえ、ここはまだ海上。
陸への梯子が降ろされているかどうかも分からない状態だ。

こんな明るい時間に作業員を掻い潜って、外に脱出するなど無理に決まっている。

確実に捕まるのであれば、脱出の方法を探るのは無意味である。
そうであれば、捕まった後のことを考えねばならない。

自分はこれから小早川と対面し、可能な限り抵抗しなければならない。

小早川の狙いは自分と誠の離縁。

これまでと違って生半可な抵抗では、
意味を成さないであろう。

小早川の催眠下においても確実に抵抗できる方法。

誠と自分がどれほど心を変えられてしまっても、
また元の関係に戻れる方法を探さなくてはならない。


(…………!!)


その時、真里の脳裏に一筋の光明が射し込んだ。


(ひとつだけ……ひとつだけ方法があったっ!!)


真里は慌てて誠に声をかける。


「誠くん、よく聞いてくださいっ!」


数分後、二人を保護するコンテナの扉は開かれたのであった。

Part.108 【 ヒアリング 】

センチュリーハイアット小早川。

このホテルの一室で、小早川は腕を組みながら、
机の周りをグルグルと回っていた。

時折ため息を漏らしては、憔悴(しょうすい)した顔を見せている。誠の捜索が難航しているため、イライラを積もらせているようだ。

同じ部屋の少し離れた場所では、
捜査員達が、各連携部署と連絡を取り合っている。

誰も睡眠を取っていないのか、
やつれた顔をしており、表情も険しい。

そんな張り詰めた空気の中、朗報が届けられる。


「小早川様、昨夜出港した貨物船の中に、誠と真里とおぼしき人物を発見しました!」


小早川は大きく目を見開き、
溜まったストレスを発散させるように声をあげた。


「でかしたワ!」


ようやく望んでいた報を受け、彼はどっぷりと椅子に腰を下ろした。
事件前と比べ、痩(や)せこけた頬は、その心労の深さを物語っていた。


「本人かどうか、確認できる?」

「少々お待ち下さい」


黒服が無線機で現場に連絡を入れる。
五分後、司令室のモニターに現地の映像が映し出された。

コンテナから連れ出され、両腕を縄で縛られた真里と誠が、大勢の黒服達に囲まれて、船を降りようとしている。

二人は沈痛な面持ちで、本島へと足を踏み入れていた。


「間違いないワ……
それで、マコトちゃんにケガはなかったの?」

「大丈夫です。傷ひとつないようです」

「念のために検査しなさい。
どんな異常があるか分からないワ」

「女の方はいかがしましょうか?」

「すぐに収容ヨ……なぜ催眠が解けたか調べないと」

「かしこまりました!」


指示を受けた黒服が退室しようとすると、
同じタイミングで扉が開き、鮫島が現れた。


「これは鮫島様、先にお入りください」


黒服は一歩後ろに下がり、深く頭を下げると、入室を促した。
鮫島は軽く礼を言うと、そのまま進み歩いて、小早川のデスクの前で止まった。


「聞いたぞ、見つかったってな」

「えぇ……これで一安心ってところヨ」


座り心地の良い椅子に背中を預け、
気だるそうに小早川は言う。


「いや、安心するのはまだ早い。
もう予定の日数は過ぎてる。
早く洗脳して、家に帰らせるんだ」

「それは分かってるワ。とりあえず事故に遭ったってことにして、入院させれば少しは時間を稼げるでしょ。
学校が始まる前には帰らせるつもりヨ」


小早川が完全に権力を掌握しているのは、この島のみだ。

万が一、本島の捜査一課に事件の匂いを嗅ぎ付けられれば、沈静に苦慮することになる。

小早川達に国家権力を相手取って戦う力はまだなかった。


「ひとまず萌を連れてきて頂戴。
事件前後について調べさせてもらうワ」

「わかった。すぐに手配しよう」



※※※



それから真里と萌は、以前監禁された部屋に収容された。
椅子にくくりつけられ、目隠しされている状態だ。

小早川はさっそく萌に催眠を施し、
覚醒の原因を突き止めた。


「小早川様、こちらです」


黒服から手渡された萌のスマホには、
覚醒の原因となったシークレットフォルダの写真が映っている。


「まさかこんな機能があったなんて……すぐに消しなさい」

「ははっ!」


萌は写真の存在を自白させられていた。

そしてこれにより真里達は、
覚醒の手段を失ってしまうこととなる。

そうして調査を続けていくうちに、
小早川は、萌の口から意外な話を知ることができた。


「それで私は真里と付き合うことになりました」


サンルームで真里と萌は、交際を開始していた。

当時、小早川は誠の調教を行っており、
二人が付き合い始めたことに気付いていなかった。

二人が朝までベッドで過ごしたのも、遊園地で遊んだことも、まだ交際前の段階であると考えていたのだ。


「まさかそこまで関係が進んでいたとは思わなかったワ。
なぜ真里は、萌の告白を受け入れたのかしら?
あんなにマコトちゃんと別れるのを拒んでいたのに……」


答えはすぐに本人の口から明かされた。

真里が萌の告白を受け入れたのは、
自暴自棄に陥った萌を救うためであった。

彼女は萌が警察に出頭して、レイプ犯として、その後の人生を無駄にしてしまうのが許せなかったのだ。


「だから私は、萌の告白を受け入れました」

「じゃあ別に萌のことを好きになったわけじゃないのネ?」

「はい……でも」

「でも?」

「初めはたしかにそうでした。だけど恋人としての萌を知ってしまって……気付いたら、本当に彼女のことを好きになっていたんです」


真里の証言に小早川は目を丸くさせる。
その言葉こそが彼が望んでいたものだったからだ。


「もう少し、その話を詳しく聞きたいワ。
あなたの気持ちが変わるきっかけってなんだったの?」

「部屋に戻った後も、私は萌とエッチしました。
萌を恋人と認めてからのエッチは全然違って……
なんていうか……一人の女性として愛されている感じがして、すごく新鮮でした……」

「マコトちゃんと違ったわけネ」

「はい、誠くんも愛してくれていましたが、
一人の人間として愛してくれている感じだったんです。
だから女性として愛されることが、どういうことか知らなくて……」

「それで好きになってしまったのネ」

「はい……」


(良いことを聞いたワ……。
真里にその気があるなら、こっちのもんネ……)


「真里ちゃん……あなたのその気持ちは当たり前のものヨ。
女として生まれたら、女として愛してもらいたいわよネ。
でもマコトちゃんじゃ、あなたを女として愛することはできない。この際だから、鞍替えしちゃったらどうかしら?」


真里は首を横に振って拒否をする。


「それはできません。誠くんが女の子に興味がなくても、
私のことを愛してくれているのは事実です。
萌のことは好きですが、だからといって別れることはできません」

(ま、付き合い始めたばかりなら当然よネ。とりあえず、こっちはこのままで良いワ)


小早川は、強制的に真里の意思を変えようは思わなかった。

誠と真里はまだ別れてはいない。
暗示を掛けたところで、意味がないのは分かっていた。

だが、この証言から真里を堕とす算段を立てることはできた。

小早川は真里への暗示を止めて、
萌への催眠を再開することにした。

忍を好きなままだと都合が悪いので、
記憶を逃亡する前の状態に戻してからのスタートだ。


「萌ちゃん、あなたが一番好きな人は誰かしら?」

「……真里です」

「忍ちゃんよりも?」

「はい……忍なんか比べものになりません。
むしろ忍は嫌いです」

「ぷっ……」


聞いてもいないのに、忍を嫌いと答える萌に、
小早川は軽く笑い声をあげる。

あれだけ別れを頑なに拒んでいた女が、今ではこの有り様だ。

小早川は、この憎たらしい女が、自分の思い通りになっていることに、大きな優越感を感じていた。


(ふーなんだか楽しいわネ。真里攻略の糸口も掴めそうだし、少し遊んでやろうかしら?)


そう思い、ニヤリと嗤(わら)う。
小早川にとって、仲睦まじいカップルが憎しみ合う様は、最高のエンターテイメントである。

彼は萌の心が忍からもっと離れるよう暗示を始めた。


「あなたにとって、忍ちゃんはどんな男の子かしら?」

「浮気性の嘘つき男です」

「そうよネ。あなたと泊まっている部屋に他の女を連れ込んでセックスするだなんて考えられないワ」

「はい、考えられません」

「あなたに追及された時だって、誤魔化せば騙し通せると思っていたのヨ。そんな男どう思う?」

「最低です」


萌は、その時のことを思い出し、悔しくて拳を握りしめていた。小早川は、それを確認すると嬉しそうに続けた。


「ま、男なんてみんなそんなものヨ。あなたにとって、忍ちゃんは一番信頼できる男性だったのよネ?」

「はい、信頼していました。」

「一番信頼していた男性でさえ、その程度だったんだから、男なんてみんな信用できないんじゃない?
この先、別の男性が現れても、忍ちゃんほど、深く接してみたいだなんて思えなさそうだけど?」

「……はい。たしかに信用できないと思います。
忍でダメなら、男はみんなダメですね」

「そうヨ……男は信用できないし、信用しちゃダメ。
あなたはこの先の人生、一切男を信用できなくなるの。それが一番安全ヨ。そうよネ?」

「はい……男は一切信用しません」


小早川は、声を出さずに笑っている。
萌の人生が狂っていくのが、楽しくてしょうがないようだ。


(あーそういえばコイツ、
前にBLで忍ちゃんの浮気を許す流れになってたわネ。
念のために、その芽も摘んでおきましょう。
ま、ここまで来たら、自然と興味を失ってしまうんでしょうけど)


「もしもの話だけど、もし忍ちゃんの浮気相手のマコトが男だったら、どう思う?」

「それは……」


それまでテキパキ答えていた萌であったが、
話がBLに変わった途端、悩み始めた。

男は嫌いだけど、BLは好きという矛盾に、混乱しているのだろう。萌は何も話さなくなってしまった。


(ふーむ、こうなるのネ。聞いといて良かったワ。真里との会話で、こういう話題になったら、おかしなことになっていたかもしれないわネ)


小早川は少し考えて、暗示をかけることにした。


「あなたは忍ちゃんが原因で、男嫌いになっちゃったの。
男なんて信用できない生き物、全部嫌いよネ?

そしてそれはBLにおいても同じこと。

貴女は男同士の恋愛物が好きだったかもしれないけど、今は違うワ。嫌いな男が二人愛し合っていたとしても、好きにはならないわよネ?

しかもマコトが男だったら、あなたは男に男を寝取られたことになるの。あなたにそんな辛い思いをさせる男同士の恋愛物なんて好きになっちゃダメ!

同性であろうとも、浮気は浮気はヨ。
絶対に許してはいけないワ!」

「はい……」

「では改めて聞くワ。
もし忍ちゃんの浮気相手のマコトが男だったら、どう思う?」

「もっと最低。男同士で浮気して気持ち悪いです」


最低の言い方に怒気が籠っている。事前に男嫌いにされていたこともあり、萌はこの暗示をすんなりと受け入れたようだ。


(上手くいったワ。これでこの女にうちの商品を売ることはできなくなったけど……ま、他の方法で稼がせてもらうから良いワ)

「さて……それじゃあ、そろそろ本題にいこうかしら?」


小早川の目的は、真里と誠の仲を裂くこと。
その最も強力な武器となり得るのが萌だ。

真里の心には、萌を愛する気持ちが眠っている。
その気持ちを増幅させて、誠を愛する気持ちより高めてやれば、必ず真里は誠との別れを決意する。

そのためにも、
この萌という刃を研いでおかねばならなかった。


「たしかあなたは真里と付き合ってるのよネ?」

「……付き合っています」

「少し反応が遅かったみたいだけど、何か気になることでも?」

「はい」

「話してみて」

「真里は私と付き合ってくれましたが、本当は私が自首するのを止めるため、そうしてくれていたんです」


(あら、わかってたのネ)


小早川は、萌が真里の心情を理解していたことに少し驚いた。


「本人がそう言ってたのかしら?」

「いえ、真里は何も……でも長年親友として過ごしてきた私には分かります。あの子、すごく優しいから……」

「そう……あなたは真里との関係をどうしたいと思ってるの?」

「本当の恋人になりたいです。でも……」

「でも?」

「真里には誠くんがいます……この島には来なかったようですが、女の私が敵うはずがありません。
本当は分かっているんです。
真里との関係も一時的なものだって……」


(あーそうだった。この女、この時はまだマコトちゃんが誠くんだと知らないんだったワ。どうしましょ……?)


萌が知らない情報を与えてはならない。
今後、真里を攻略する上で矛盾が生じる恐れがあるからだ。


(萌がマコトちゃんを女だと思ってるなら、
男嫌いの線で責めることもできないし……。
仕方ないワ、少し強引だけど、正面突破を試みてみましょ)


「萌ちゃん……想いが強ければ、
敵わないなんてことはないのヨ?

真里ちゃんが好きなら、
あなたは最大限、彼女を得るために努力すべきだと思うワ。

幸い、この島に誠くんはいないし、
真里ちゃんはあなたのことを彼女だと認めてくれている。

最初は同情だったかもしれないけど、そこから生まれる愛もあると思うワ」


その小早川の言葉に萌は首を横に振った。


「真里は、忍と違って浮気するタイプではありません。
いくら私が迫ったところで、真里は本気でうんとは言ってはくれないでしょう……」

「エッチしたんでしょ?  浮気してるワ」

「しましたが、真里は仕方なくしただけで、浮気とは言いません」

「それでも浮気は浮気ヨ。
真里はエッチしている時、どんな反応してた?
気持ち悪そうにしてたのかしら?」

「いいえ……すごく気持ち良さそうでした」

「それは演技なのかしら?」

「……真里は演技が下手くそなので、演技してればすぐに分かります」

「じゃあやっぱり仕方なくじゃないわネ。
彼女も好きであなたとエッチしてたの。浮気ヨ」

「浮気……」

「本当に嫌なら感じるはずがないワ。
貴女はこのチャンスを逃す気?
真里が帰ったら、それこそチャンスがなくなるわヨ?
せめてこの島にいる間は、全力を尽くしなさい。
諦めるのは、それからでも良いはずだワ」

「でも……」

「想像してみなさい。真里の恋人として過ごせる日々を。
今はそれが手に入れられる最後のチャンスなの!
この先、真里ちゃん以上に愛せる人が現れると思う?」

「いません……
真里以上に愛せる人なんて、絶対現れない……」

「だったらすべきことは……分かるわネ?」

「真里を得るために全力を尽くす……」

「そうよ! この島を出るまで絶対に諦めてはダメ!
きっと勝利の女神は貴女に微笑んでくれるはずだワ!」



小早川は真里と萌への催眠を終えると、
黒服に命じて、観覧車へと送らせるのだった。

二人の催眠が解けるきっかけとなった場所。
そこでデートの続きをさせるために……。

Part.109 【 やり直し◇◆ 】

「んっ……」

「…………あ、あれ?」


観覧車の席に着き、真里と萌は目を覚ました。

以前と同じゴンドラの中。時間帯も同じである。
窓の外には、リゾートの街並みが広がっていた。
しばし呆然とした後、口を開く。


「あっ……そうだ。写真見るんだったね」

「ん……? あ、そうそう、これシークレットフォルダと言って、特殊な操作しないと開けない仕組みになってるんだ」

「へーそんなのがあるんだ」


会話をしつつ、二人は違和感を感じていた。
着てる服、外の景色、ゴンドラ内の空気に至るまで、
微妙に何か違う気がするのだ。

しかしそれが何かはわからない。

頭の中で首を傾げながらも、シークレットフォルダ内の画像を見始める二人。もちろん以前、催眠が解けるきっかけとなった写真は、全て削除済みだ。


(うわ……やばい……激エロな画像しかないじゃん。
まさしくBLの宝庫って感じ♪)


真里は画面に映る萌のコレクションの数々に、興奮して鼻息を荒くしていた。しかし対照的に萌は、どこか冷めた目で見ている。


(私……なんでこんなの集めてたんだろう?
全然良さが分からなくなっている……)


以前であれば、隣にいる真里同様、
嬉々(きき)として見つめていたはずだ。

しかし今の萌にとって、BLは何の価値もないもの。
むしろ嫌悪感を感じさせるものへと変わっていた。


「このままスマホ貸すから、好きなの見て良いよ」

「えー萌も一緒に見ようよー。
このメスイキしてるテトなんか最高♪」

「私は見慣れてるからいい。今は景色見たいから後でね」

「むーわかった。
じゃあ好きなだけ見せてもらうね!」


真里は画像をスクロールしながら、
「ウヒヒヒヒヒ……」と気味の悪い笑い声をあげている。
すっかりカルテトワールドにのめり込んでいる様子だ。

萌はそんな真里を横目に見ると、
軽いため息を吐き、外の景色を眺め始めた。


※※※


二人は観覧車を降りた後、
無重力空間を体験できるというグラビティタワーへと来ていた。

ここは遊園地の人気スポットで、世界でも3箇所しか存在しないと言われているほど、珍しいアトラクションであった。


「やっと入れたー。
ずっと立ちっぱなしで足が痛くなっちゃった」


そう言い、真里は足のふくらはぎを揉む。
それまでの待ち時間を表すように、彼女の後ろには、隣のアトラクションまで続く行列が並んでいた。


「ご招待チケットがあったから、この程度で済んだけど、
普通に並んだら、数時間は待たされるらしいよ?」

「えーそんなにー?」

「真里だったら、途中リタイヤしちゃってたかもね?」

「並ぶ前からギブアップしそう……」


二人は入り口で荷物を預けると、
係員に案内され、その先にある個室へと入った。

3メートル四方の部屋。
中には何もなく、換気口があるだけだった。
無重力空間になると、物が浮かんで危ないので何も置いていないのだろう。


「ここも個室なんだ。
まさか萌と二人きりで入れるとは思わなかったな」

「他のお客さんとトラブルになるからじゃない?」

「なるほど、たしかに浮いてたら危ないもんね」


ピーピーピー♪ ガチャン……


「それでは間もなくスタートいたします。
不思議な無重力空間をお楽しみください♪」


係員のアナウンスが流れ、ゆっくりと身体が浮き始める。


「わぁーすごい!」

「おぉー!」


これまでに体験したことのない感覚。

真里は宙を泳ぐような動作をし、
萌は天井と地面を行ったり来たりして楽しんだ。

そうして慣れてきた頃、
おもむろに萌が真里の背中に回り込んだ。
真里の身体を抱きしめて、耳元で囁く。


「ねぇ、真里……こんな無重力空間でエッチしたら、どうなるんだろうね……?♡」

「ちょっ……なにをいきなり……」


誘われ顔を赤らめる。
萌は右手で真里の胸を、左手で股間を触り始めた。


「んっ……♡ ちょっと萌、こんなところでやめて……」

「そう……? やめてって割には嬉そうな顔してるね♡」


言葉とは裏腹に、真里は期待に満ちた顔をしていた。
身体が萌から受ける刺激を思い出し、自然とそうなってしまったのだ。


「誰かが見てるかもしれないよ?」


真里は部屋の隅にある小型カメラを気にしていた。
万が一のトラブルのため、設置されているカメラだ。


「別にいいじゃん、真里のエッチな姿、見てもらおうよ?」

「はぁっ!? ちょっと、なに言って……あぅん♡」


言い終わらぬうちに、
萌は真里の下着に手を突っ込んでしまった。
小悪魔的な笑みを浮かべ、
真里のクリトリスに刺激を与え始める。


「ふぅんっ!♡  やめ……こんな♡ とこで……♡
はぁはぁ……だめぇ♡♡」

「だめって言いながら、しっかり勃起してるじゃん♡
もしかして真里は見られて感じるタイプだったのかな?♡」


萌の指先で硬く凝り固まってしまったクリトリス。

真里の身体は、萌に触られて、
素直に悦びを示してしまっていた。


「このままじゃ濡れちゃうから、ほんとやめて……♡」

「もう十分濡れてるよ♡
ホント真里は可愛いなー♡ ちゅ♡」


首筋と耳元に、交互にキスをする。


「あぁっ!!♡ んんっ!♡♡」


何をされても感じてしまう。
真里はすっかり萌の愛撫に翻弄されてしまっていた。

萌は一旦、真里を離すと、彼女の身体を回転させた。
二人は向き合う形となる。


「真里、すっごいエロい顔してるよ?♡」

「はぁはぁ♡ 萌が変なことするからでしょ……」

「ふふふ、そうだね。キスしよっか♡」

「……うん」


ワンテンポ置いて頷く。

今は付き合っている身。誠への罪悪感はあるが、
ここであからさまに拒むわけにはいかなかった。

二人は口付けを交わし、ゆっくりと回転していった。

それから数分が経ち、再びアナウンスが鳴る。


「まもなく終了となります。
危険ですので、黄色い面の壁に足をつけてお待ち下さい」


二人はキスをやめ、指示通り行動した。


「終わっちゃったね。無重力空間どうだった?」

「うん……良かった……♡」


静かな声で、恥ずかしそうに答える真里。

消極的に始めたキスであったが、
萌とのキスはやっぱり良かったようだ。



※※※



その後も二人は様々なアトラクションで遊んだ。

奇想天外な立体迷路や、マルオワールドのブロック崩し、迫り来るゾンビを退治するリアルサバゲーなど、
気を許せる恋人と過ごす一日は、実に有意義なものであった。


「あーずいぶん遊んだね。じゃあそろそろ帰ろっか?」

「うん、そうだね」


赤みが差し始めた空の下、二人は並んでホテルへと向かう。
全身を使って遊ぶアトラクションが多かったせいか、
だいぶお疲れの様子である。


(そういえば、誠くんから返事来てないな。
トイレに行って、もう一回連絡してみようかな?)


昨日から何度も連絡していたが、誠からの返事はなかった。

すぐにでも連絡をくれていたら、
萌と一夜を過ごすことにもならなかったのに。

真里は誠の対応に少し不満を持った。


(とにかく今のままじゃ、誠くんに悪すぎる。
早く事情を説明できれば良いんだけど……)


真里はこれまでのことを話し、
萌との関係を一時的に認めてもらうつもりであった。

彼氏に浮気を認めてもらうという、
一般的には、到底許されないお願いをすることになるのだが、この時の真里は、事情を話せば、誠ならきっと理解を示してくれると思っていた。


「萌、ちょっとトイレ行ってくるね」

「…………」


声を掛けたが、萌は一切反応しなかった。


「どうしたの……?」


萌の視線を追い、遠くにあるベンチを見ると、
仲良く座る誠と忍がいた。


(あっ……誠くんと忍くん。二人も来てたんだ。
あの雰囲気だと、うまくいったのかな?)


誠には、萌と忍の喧嘩の原因を調査してもらっている。

彼の表情から察するに、
仲直りの材料を何か掴むことができたようだ。

そうであれば、すぐにでも二人の元へ行き、
問題を解決すべきである。

真里は萌を連れていこうと、声をかけようとしたが、
そこで彼女の様子がおかしいことに気が付いた。


(萌……どうして誠くんを睨み付けてるの?)


忍だけではない、萌は誠にも憎悪を向けていた。


(あっ! まさか!)


そこで真里は思い付く。萌は忍が誠と浮気していると、
勘違いしたのではないだろうか?

萌は誠を女だと思い込んでいる。

二人が仲良くしてるのを見て、
嫉妬していたとしてもおかしくはない。

確信はなかったが、それならそれで良い。
誠が男であることを明かせば済む問題だ。

真里は、ひとまず誤解を解こうとした。


「萌、誤解しないで、
マコトちゃんと忍くんは、そういう関係じゃないの」


萌は目を細めて二人を指差す。


「あれを見てもそう言える?」

「えっ?」


言われて二人の方を見ると、
そこには熱烈なキスを交わす誠と忍の姿があった。


(ウホッ♡ なんという美しいホモ♡
じゃなかったっ! 誠くん、なんてことをーーー!)


尊くはあるのだが、タイミングとしては最悪だ。

せっかく萌と忍の仲を修復できそうなのに、
なんてことをしてくれるのか。
これでは火に油を注ぐようなものではないか。


「行こう、真里。これ以上ここにいたくない」


萌はそう言い放つ。
彼女の瞼はうっすらと濡れており、泣いているのがわかった。それを見て、真里はここから離れることを決める。

今は萌のケアするのが先決だ。
誠については、彼女が冷静になってから話せば良い。

真里は立ち去る際に、改めて誠を見た。
彼は忍に対し、なぜか恋人のように接していた。


(誠くん……一体なにがあったの?)


真里は言いようも知れぬ不安を抱えたまま、その場を後にした。