南の島に来て一週間が過ぎた。
萌は忍と別れ、代わりに真里と付き合うようになっていた。
真里の誠への想いは変わらないものの、
萌と新しい関係を築いたことによって、一点の迷いが生じることとなる。
小早川はその迷いに付け入ろうとしていた。
真里にとって萌は、誠よりも長い交友関係にあった。
それに加え、お互いに心が通じ合う仲でもある。
もしも真里が再び
催眠を受け、
その迷いを増幅されることにでもなれば……
すでに誠と真里の関係は余談を許さない状態となりつつあった。
※※※
その日、真里と萌は、南の島遊園地に来ていた。
あれから真里は自分の部屋に戻れず、誠と連絡が取れないでいた。理由は萌が常に密着していて、スマホをいじれなかったからだ。
誠からも連絡が来ておらず、
忍との間で何があったか気になるところであったが、
今の状態の萌を放っておくわけにもいかなかった。
真里は誠のことを気に掛けながらも、萌の行動に付き合うことにしていたのである。
「まーり♡ 次は観覧車乗ろーよ!♡」
真里という心の支えを得て、だいぶ気持ちが落ち着いたのか、萌は昨日とは打って変わって明るい表情をしていた。
忍と別れ、男への興味を失ってしまった彼女は、
初めて経験する女同士のデートにうきうきしていた。
二人は身体を寄せ合い腕を組み歩いている。
親友から恋人に関係が変わったことにより、
真里へ対する萌の態度も大きく変わった。
彼女は艶かしい表情で真里を見つめ、
事あるごとに誘惑するようになっていた。
「ねぇー真里。観覧車に乗ったらなにしよっか?」
「何って……景色見るだけじゃないの?」
「えーそれだけ? せっかく付き合うようになったのに?」
「……なんだろ? 何かあったっけ?」
「ふふふ……じゃーあ、乗ったら教えてあげるね?♥️」
萌はそう言い、さりげなく真里の胸に触れた。
「ふぁっ!♡」
ちょっと触れられただけで、ビクッと身体を硬直させてしまう。
「真里ってば、反応良すぎ♡
そんな大袈裟に反応してたらみんなに見られちゃうよ?」
真里は気になり辺りを見回した。
遊園地ということもあり、大勢の人の姿がある。
しかし予想と違って、この様子を気に掛ける人はいなかった。
真里は少し安心すると「分かってるんだったらやめてよー」と萌に抗議するのであった。
そうしてしばらくして、二人は観覧車乗り場へと到着する。
「真里、足元気をつけて乗りなよ」
「大丈夫、ちゃんと見て乗るから」
二人は観覧車に乗り込むと、さっそく街の景色を眺め始めた。本州から遠く離れたこの島には、センチュリーハイアット小早川をはじめとした高いビルが並んでいる。
豪華なショッピングモールや、活気溢れる繁華街もあり、
お金持ちが好んで過ごす桃源郷といったところだ。
「こうして見ると、そこそこ発展してる街だよね」
「そうだねアヘリカ街とかもあるみたいだし、
外資系企業とかも来てるのかもね。
私、この島来て本当に良かったー♡
真里ともこうして付き合えるようになったしね♡」
景色を眺める真里のお尻を撫で回す。
「えっ、ちょっと、萌!?」
「真里のお尻、柔らかーい。
いつまでも触っていたいくらい。すりすり♡」
「ちょっと、萌……そんなところさわんないで、ぁんっ♡ ぁ……ダメぇ♡」
ダメと言いながらも、真里は抵抗しない。
萌の手の動きに合わせて、腰を動かすだけだ。
一夜を共にしたこともあり、彼女の身体はすっかり萌から与えられる快感を、素直に受け入れるようになってしまっていた。
「そんなこと言って、真里のここ、濡れてるよ?♡
えっろーい♡ ふふふふ♡」
そう言って、少し染みの出来ているショーツの割れ目部分をツンツンと突く。
「ふぁんっ♡ だって萌が触るからーぁんっ♡」
「うーん…………もっと触りたいけど、ちょっとこのままじゃビショビショになっちゃうな…………一旦脱がすよー」
「えっ!? ちょっとちょっと!」
萌は真里のロングスカートをめくると、ショーツを脱がせ始めた。生地と性器の間に糸状のものが伸びる。
「こんなところで、恥ずかしいよ……」
「大丈夫、どうせ外からじゃ見えないから。
それより拭いてあげるから、スカート抑えといて」
「あぁ、こんな……丸見えじゃん……」
「真里は私の彼女なんでしょ?
付き合っているなら見られても平気じゃない?」
「わかった……」
真里は顔を紅くしながらもスカートの裾をめくった。
腰を屈めた姿勢で萌が秘所を拭いてくれるのを待っている。
(あぁ……恥ずかしい……でも付き合うって言っちゃったし……
今だけでも萌の彼女としてがんばらなきゃ……)
もともとそれは我を忘れてしまった萌を正気にさせるための言葉だった。
しかし真里は、演技が下手くそな女である。
彼女のふりをしようにも、言葉が棒読みになり、
上手くいかなくなるのは分かっていた。
だからこそ真里は、萌の彼女でいる間は、本当の彼女であろうとした。要するに思い込みというものだ。
だがそれによって、女同士の快楽に目覚めたばかりの真里は、
最高の相性を持つ萌の卑猥な要求に逆らえなくなってしまっていた。
萌に見られる羞恥心から、
彼女の秘部は、さらに潤いピクピクと反応する。
「はぁはぁ♡ 真里……エロいよ……♡」
「もー早く拭いて……」
「分かった分かった、もうちょっと待っててね」
萌はガサゴソと動いているようだったが、
なかなか拭きに来なかった。
そうしてしばらくすると……
パシャパシャ!パシャパシャ!
「ふぇっ!?」
なんと萌はスマホで真里の性器を撮り始めてしまった。
これには真里もびっくり仰天、すぐにスカートを離し抗議する。
「ちょっと撮らないでーー!」
「はぁはぁ♡ ごめんエロ過ぎて、つい……」
「もうヤダー萌嫌い」
「ホントごめん、ちょっとやり過ぎだったね……」
さすがに悪いと思ったのか少し真面目に謝る萌。
しかし彼女はそうしたのも束の間、真里のスカートをめくり、続けて言った。
「でもさー真里、濡れすぎてて、これじゃあ拭いてもすぐに濡れちゃうよ? 一回イッちゃった方が良いかもね」
「……っ!」
「ふふ……期待したでしょ?♡」
「はぁはぁ……♡」
昨夜、萌から受けた快感を思い出す。
真里は目立った拒否をすることもなく、身体を任せてしまっていた。
「真里ったら……ここ……こんなに悦ばせちゃって……♡」
蜜の溢れる女性器に、萌の指先が触れる。
「ぁ……はぁ……♡」
真里は、狂おしいほど淫欲に染まった顔を見せる。
どちらかというとエロスに忠実なタイプの真里にとって、
覚えたばかりの
レズの快感は、ある種の麻薬のようなものであった。
「ほら、真里。もっと腰を上げてごらん?♡」
「うん……♡」
真里は自身の恥部を気持ち良くしてもらうために、
腰を上げて両足を広げる。
萌は熱を持つそこに顔を近づけると、息を吹き掛けた。
「フゥー」
「ひゃんっ!?♡」
「ふふふっ♡
レズビアンの真里ちゃんは、ここをどうして欲しいのかなぁ?」
萌がニコニコと質問を投げ掛ける。
真里は、萌が望んでいることを理解すると、羞恥に顔を歪めて返事をした。
「ハァハァ♡ おまんこ……気持ちよくして……んっ♡ 萌の口でイカせてぇ♡」
「よくできました♡」
萌は割れ目に口を付けると、上唇と下唇を使って愛撫を開始した。
ちゅ……あむ……ちゅぷ…………♡
(あぁ……萌の唇……ヌメヌメして……ぁっ♡
すごい……気持ち……いぃ……♡)
同性にクンニされる。
好きな人に、こうして大事な部分を愛してもらえることに、
真里は大きな喜びを感じてしまっていた。
「んっ!♡ んっ!♡ んふーー♡ んふーーー!♡」
漏れ出る真里の声が、萌の欲情を掻き立てる。
(あぁ……真里、エロいよ……エロ過ぎるよ……そんな声聞いちゃったら、私、もう我慢できない)
萌も自らのショーツを脱ぎ、自慰を始めてしまう。
完全にスイッチが入った二匹のメスは、
そのまま腰を振り、めくるめく官能の海に飛び出していった。
真里も萌のクンニに合わせ、気持ちの良いところを探っていく。
萌の舌に、硬く凝り固まった敏感な突起を乗せて擦り付ける。
真里のそんな痴態に、萌の興奮はさらに高まる。
自身のクリトリスへの刺激を強め、来る恋人の絶頂にタイミングを合わせた。
そうして数十秒後。
「あぁっ萌っ!♡ 私、イクッ! イクッ! イッちゃうぅ!!♡」
「いいよ♡ イッて、真里♡ はぁんっ♡ 私も……私も! あぁぁっ!!♡」
二人の頭を真っ白な快感が貫いた。
ゆっくりと力が抜けていき、体勢を崩す真里を萌が支える。
「はぁはぁ……萌ぇ……♡」
「はぁはぁはぁはぁ……真里……気持ち良かったね……♡」
「うん…………♡ ちゅ…………♡」
柔らかい女同士の唇が重なる。
同性同士というのに、それはあまりにも自然な感覚だった。
「愛してるよ……真里」
「私も……愛してるぅ……」
真里のその気持ちに嘘偽りはなかった。
たしかに拒否すれば萌がおかしくなってしまうから、という気持ちもあったのだが、
こうして身体を交わらせて感じる想いは、本物だと真里は感じていた。
(誠くん……ごめん……萌に対してこんな気持ちになっちゃって……)
真里は心の中で誠に謝罪した。
元から大好きな親友。
そんな彼女が堕ちる姿を見たくなかったし、
彼女の愛を受け入れたふりをするのも嫌だった。
我慢はしていたが、
催眠の効果もあり、
真里は本当に萌を愛するようになっていた。
これも全て彼女の真面目な性格が招いた結果である。
ガチャ……
急にドアが開く音がして、二人は振り向く。
「あっ……すみません……もう一周どうぞ……」
係員の男性は顔を硬直させたまま後退(あとずさ)ると、
他の客に見えないように、そのままドアを閉めてしまった。
「…………」
「…………」
「ちょっと、萌! 一周終わっちゃったじゃん!
ちゃんと見ててよっ!!」
「めんごぉ…………」
二人はエッチに夢中になり過ぎて、
観覧車が降りてきていることに気づいていなかった。
係員がドアを開けた時には、ショーツを脱ぎ捨てた女性二人が接吻を交わしているところであった。
あまりに衝撃的な光景に、上手く言葉を出せなかった係員は、咄嗟(とっさ)にもう一周させることを決めたのだった。
※※※
ふぅーとため息をつく二人。
萌は真里の股間をティッシュで拭くと、
真里にショーツを履かせ、ゴミをビニール袋へと入れた。
「ところでその写真どうするの?」
「んー? もちろんオカズにするに決まってるじゃん。
真里のこんなあられのない姿、いつだって……はぁ♡」
「そうじゃなくて、誰にでも見れるようにしないでよ?
スマホなくして誰かに拾われるかもしれないしさ」
「あーーそうだね。大丈夫、シークレットフォルダに入れとくからさ。これ特殊な操作をしないと開けない仕組みになってるんだ。アプリにも表示されないしさ」
「へぇーそんなのあるんだー」
「ちょっと見てみる?」
「うんうん!」
真里と萌は隣同士に座り、スマホの画面を見つめた。
萌のシークレットフォルダには、BL同人の過激なエロ画像が大量に入っているらしく、真里はそっち方面でも期待していた。
「はい、じゃあ移動完了っと。これで誰にも見られないよ」
「ありがとう、じゃあさっそくカルテトを……」
「はいはい、スライドするね」
萌が画像をスライドさせると、思いがけないものが映し出された。
「えっ!?」
二人は絶句する。
そこには先ほど撮影したものとは違う、
真里がオナニーをしている画像が映っていたのだ。
「えっ何この写真……これ私だよね……いつ撮ったの?」
「し、知らない……この写真なに……?」
真里は一瞬、萌が隠し撮りしたものと思ったのだが、
彼女の引きつった顔を見て、それはないと判断した。
「あっここ私の部屋だ……シーツの模様が一緒だ」
部屋といっても、○✕市にある真里の部屋のことではない。
現在泊まっている部屋のことだ。
しかし全く身に覚えがなかった。
そもそもこの島に来てからというもの、
萌とするまでオナニーすらしていなかったのだから。
「こんなのおかしいよ……私、あの部屋でこんなことしてない……」
真里は怖くて震え始めていた。
萌も同じく恐ろしさを感じていたが、
勇気を出してフォルダ内を調べることにした。
写真をスライドして次の画像を出す。
「えっ!?」
そこには、誠と忍が性行に耽っている画像が写し出されていた。
萌はそれを見て、不快そうに顔を歪める。
もちろん萌が入れた覚えのない画像であったが、今回は恐怖よりも不快さがまさったようだ。
だが真里の方はというと……
「なにこれぇぇぇぇぇぇ!?」
絶叫を上げている。かなり動揺している様子だ。
萌は苦い顔をしつつも真里の顔を見た。
真里にはまだ、忍の浮気相手がマコトだとは伝えていない。しかしこの決定的な写真を見られては、もう話さなくてはならないだろう。
「真里……黙っててごめん……
実は忍と喧嘩した理由って、忍の浮気が原因だったんだ……
浮気の相手はマコトちゃん。
真里が気にすると思って、今まで黙ってたの……」
「誠くんが忍くんと浮気!?」
「へ……マコト……くん?」
お互いに顔を見合わせる。
真里がよく分からない反応をするので、
萌もよく分からない顔をしていた。
(そっか、萌が元気がなくなった原因ってそのことだったんだ!!)
真里は、まぶたを片手で覆い、軽く溜め息を吐いた。
「萌……ごめん。私も黙ってたんだけど、
実はマコトちゃんって……女装した誠くんなの……
ほらここ見て、小さいけどおちんちん付いてるでしょ?」
「えっ……ウソ!?」
真里の指さす部分を拡大して見てみる。
そこにはたしかに男性器と見られる異物がくっついていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?
じゃあ……忍は桐越先輩とホモしてたってことになるの?」
「そういうことになるね…………」
何重にも驚きが重なり、逆に静かになる萌。
忍と誠のホモはたしかに興奮するものであったが、
写真の存在があまりに不気味で、
素直に興奮する気にならなかった。
「でもなんでこんな写真あるの? これ撮ったの萌だよね?」
「私は撮ってないよ……あ、そうだ。
プロパティを見てみよう。いつ撮られたものか分かるはず」
萌は設定を開き、
プロパティを選択すると、画像の詳細情報を開いた。
《 日付:○○○○年12月2○日 20:15 》
「サファリパークに行った日だ。
たしか、そこでご飯食べて、部屋に戻って、
そのあとは…………そのあとは…………何したんだっけ……?」
「私も思い出せない…………。
よく見たら、誠くんと忍くんがいる部屋も同じみたい……。
この写真があるってことは、この時間に四人とも同じ部屋にいたってことだよね?」
「ありえない…………真里がオナニーしてて、同じ部屋で忍と誠くんがエッチしてるだなんて……しかもどっちもその事を覚えていないだなんてあり得る?」
真里は無言で首を横に振った。
萌は忍と誠がセックスしている写真をじっくりと見つめた。
「この写真、なんか変……」
「何が……?」
「普通さ、いきなり写真撮られたら慌てるよね?」
「うん」
「真里はビックリしてこっちを見てるんだけど、
忍と誠くんはこっちを見てもいないんだよね……」
そう言い、二枚目、三枚目の写真を真里に見せる。
どの写真も二人は明後日の方を向き、スマホを向けられていることなど気付いてもいない様子だった。
「二人とも変な目をしてるし……
まるで
催眠術にでも掛かっているみたい……」
ふと口ずさんだ萌の言葉に真里はハッとする。
「萌……それだよ……!」
「えっ……?」
「
催眠術……それしか考えられない」
「まさかそんな……魔法みたいなこと……」
「だってここまで記憶が飛ぶなんてあり得ないじゃん。
忍くんと誠くんがエッチしてるのも変だし、こんな写真が残ってること自体おかし過ぎるよ」
萌はそれ以上、反論しなかった。
考えてもみれば、今回の旅行はおかしなことだらけである。
9泊10日という日数設定もそうであるが、
運賃や食事代まで全てが無料で、なおかつプール付きサンルームの利用や、高級フルーツジュースとフルーツの盛り合わせのサービスまであるのだ。
しかも宿泊先はこの島一番の高級ホテル。
商店街の抽選会程度の景品で、ここまで豪華な景品を用意するなどあり得ないことだ。
萌はそこまで考えると、ハッとして真里に質問した。
「真里、ここのチケットが当たった時のこと覚えてる?」
「当たった時……?」
「真里はどこの商店街で、どうやってチケットを手に入れたの?」
「わからない……はぁ、はぁ……」
あまりの恐ろしさに、真里の呼吸は荒くなり始めていた。
それまでその事に疑問すら持たなかったのだ。
「……とりあえず今持ってるもの見てくれる?
何か手掛かりがあるかもしれない」
二人は自分のポーチの中を確認した。
記憶は断片的であったが、今ならこれまで気付かなかったことにも気づくかもしれない。
萌のポーチには昨日使ったサンオイルが入っていた。
この液体に媚薬効果があることに気づいた萌は、真里に使おうと持ち歩いていたのだ。
ごくりと唾を飲み込み、サンオイルの製品表示を見る。
媚薬に関する文字はどこにも書かれていない。
どこにでもある普通のサンオイルだ。
だからこそ萌は怪しいと睨んだ。
「小早川製薬って書いてある……昨日も話したけど、この島って小早川って名の付く会社多いよね。真里、何か思い当たることない?」
「小早川で……?」
質問されて真里は、
すぐに系列会社の社長である小早川のことを思い出した。
恭子の作った服をアピールするため、誠と共に彼女の事務所に出向いたあの日。
商品説明を終えた後も、
だいぶ長いこと話していたはずだが、
具体的に何を話したか、全然覚えていなかった。
(小早川……小早川……小早川……小早川……)
小早川の顔をじっくりと思い浮かべる。
始めは自分達の商品説明を聞き入れる顔であったが、
次第にそれは歪んだ形相へと変化していった。
その時、真里の心に小早川への恐怖が甦る。
「ああああああああああっ!!」
「どうしたの? 真里」
「思い出した……全部……全部……」
真里はガタガタ震えながらも、
小早川にどういう仕打ちを受けたかを語った。
それを聞き、萌も小早川に関する記憶を取り戻す。
「あんのっ! クソ汚カマ野郎!!!」
憤慨する萌。
だがすぐに冷静になり、真里とキスをした。
「ぶふっ!? ふぇっ??」
あまりに突然で、思わず咳き込む。
なんでこのタイミングでキスをするのか?
真里は意味が分からず萌を見つめた。
「真里、このまま
レズのふりをして。
奴らどこから監視してるか分からない。
催眠が解けたのを絶対に悟られないようにして」
これまで拉致された経験から、萌は用心深くなっていた。
相手はいくつもの会社を保有する大企業の社長だ。
どんなハイテクな手段を使って、こちらを見ているか分からない。
「電話が掛かってきても取らないでね。
取った瞬間、暗示を掛けられて眠らされてしまうから」
「…………うん、わかった」
「スマホも早く手放した方が良いかも……
たぶんもうGPSか何かを埋め込まれているよ」
「そんな……」
「あと盗聴されてるかもしれないから、こういう話は小さな声でして。これから忍と誠くんと合流するよ。この島から逃げ出さなきゃ」
二人は観覧車を降りると手を繋いで、ホテルへ戻ることにした。その間も仲の良い
レズカップルを演じ、時折人前でキスをした。
※※※
「小早川様、真里と萌が戻ってきました」
「あら? 意外と早かったわネ。
もっと遊んでくるかと思ったけど……二人の様子はどう?」
「はい、順調です。二人は観覧車の中でセックスを行い、帰りは手を繋ぎ、キスをしておりました。すっかり
レズカップルとして成立したようです」
「あらそう、ホホホホホ。仲が良くて何よりだワ。
まだ時間はあるし、しばらくその関係を続けさせてやりましょ」
「二人は忍と誠を探しているようですが、いかがしましょうか? 現在、鮫島様が調教中です」
「何の用かしら? 萌はまだ二人を恨んでいるはずだし……。
ふーむ………………あ、もしかすると、
二人に交際宣言するのかもしれないわネ!」
「おおーー!」
黒服達が歓声をあげる。
真里と萌が付き合うことになれば、真里と誠の関係は消滅する。それは小早川陣営の勝利を意味していた。
「小早川様、観覧車での出来事なのですが、
萌は何かに対して怒っていたようです。もしかしたら、忍と誠の関係について、真里に話していたのかもしれません」
「そうネ。ただその場合、誠ちゃんを男だと、真里がバラす可能性があるワ。萌が男同士だと認識すれば、また一昨日のように、忍ちゃんを許す流れになるかもしれないし難しいところネ。
……でも、二人は帰りにキスしてたのよネ?」
「はい、何度もディープキスを交わしていました」
「ならもう彼氏のことは忘れて、女同士で愛し合う道を選んだのかもしれないワ。ま、ものは試しヨ。ダメならまた記憶を消せば良いんだし、二人を泳がせてやりましょ」
「かしこまりました!」
※※※
ホテルの一階フロント。
真里と萌は辺りを警戒しながら忍と誠を探していた。
「やっぱり部屋にはいなかったね……LINEにも返事はないし……」
「二人ともどこ行ったんだろ……」
いくら合流したくても、拉致されたままでは会うことはできない。二人の間には諦めムードが漂い始めていた。
「でもこうして見るとホント多いね……」
「うん……」
ホテルの中には黒服の姿がチラホラ見られた。
1人や2人ではない。何十名という黒服達が自分達を監視していた。
催眠中は気付かなかったことだが、ホテルだけでなく街中の至るところに彼らは待機していた。
また同性同士で歩いている人の姿も多く見られた。
ほとんどは男性同士のカップル、稀に女性同士のカップルもおり、どちらも男女のカップルよりはるかに多かった。
その誰もがディープなスキンシップを取っている。これでは真里と萌が注目されないのも当り前だ。
「やっぱりこの島は奴らのアジトだったんだ……」
「みんな私達みたいに捕らわれて、変えられちゃったのかもしれないね……」
「そうだね……怪しまれないようにもう一度キスしよ。真里」
「うん……」
ちゅ……♥️
演技とはいえ、やはり気持ちが良い。
それこそ何度でも交わしたくなるような口付けであった。
真里も萌もそれを自覚していたが何も言わなかった。
これはあくまで催眠の後遺症。
しかしどちらも、この気持ち良さを失ってしまうのは、なんだか寂しい気がしていた。
「真里さーん、萌さーん!」
「あっ! マコちゃんっ!」
ホテルの入口。ちょうど外から戻ってきた誠が、真里と萌に声を掛ける。
忍も一緒にいるようだ。
「こんにちは、誠ちゃん、忍」
冷たい目付きで萌が言う。
「こんにちは、萌さん」
「…………」
誠は気兼ねなく挨拶をしたが、
忍は気まずそうにするだけで返事はなかった。
誠と一緒にいるところを見られ、どう答えるか迷っているのだろう。
実際は別のホテルで鮫島に調教されていたのだが、二人はレストランで忍と萌の関係について話し合ってきたと思い込んでいる。
「ねぇ、忍。ちょっと良い?」
「…………萌、俺がマコトちゃんと一緒にいたのは……」
「そんな話、聞きたくない。今日は二人に報告があって来たの。ちょっと時間取ってもらって良いかな?」
「…………萌」
「こんな人がごちゃごちゃしたところで話す内容じゃないから、どこか別の場所で話しよ?」
「話を聞いてくれ」
「話を聞いて欲しいんだったら、こっちの要求を飲んで!
そうだ……ここから少し離れた所に、御飯が美味しいって評判の旅館があってさ。
そこに泊まりたいんだけど、忍、お金出してもらえる?
さすがに一週間も同じホテルで飽きちゃったんだよね」
「…………分かった。出すよ」
「そこ景色が良いんだけど、山奥にあるんだ。
忍、車の免許持ってたよね? すぐにレンタカー借りてきて」
「……わかった」
そう言うと忍はレンタカーを借りるため、出掛けてしまった。真里は二人の様子を不安そうに見つめていた。
(萌、なんで忍くんにそんな冷たい態度とるの?
もう誤解は解けてるはずなのに…………)
そんな真里の表情に気がついたのか、萌は顔を近づけると小声で言った。
「大丈夫、忍にはあとから謝るから。それより私が良いって言うまで、催眠のことは誠くんに話さないでね。忍が車借りてきたら、一気に遠くへ逃げるから荷物をまとめといて」
「なるほど、そういうことか」
萌は忍が戻る前に、南の島温泉の旅館を予約した。
部屋を空けることをフロントに伝え、自分の荷物を持ってくる。
そうして一時間が経ち、4人乗りのワンボックスカーを借りた忍がホテルの入り口に到着した。
萌は助手席に座り、真里と誠は後部座席に座る。
4人乗せた車は、南の島温泉に向けて出発した。