「ん……っ、ぁ……は、っ」
肉と肉がぶつかる汗ばんだ音が一定のリズムで小刻みに響く。葵は対面座位の格好で、島田に抱き着くようにもたれ掛かりながら腰を動かしていた。
正しいセックスだ。生物的にも倫理的にも、男女の性交渉として暗黙の了解に何一つ掛け違っている部分すらない。
十分に濡れた膣に突き立てられた太くて黒々したペニスが打ち付けられてピンク色をした綺麗なひだを押し広げていく。
葵にとっては正常位よりもこの体位のほうが好みだった。
自分で動いたほうが気持ちいい部分を擦って苦手な部分を避けることが出来るし、セックスに耽って一心にがに股になりながら腰を振っている卑猥な自分の姿を想像するだけで濡れてくる。
普段の彼女はもっと冷静で人なつこい人物だった。ともすればかまととぶったり、清純さを印象付ける静かな笑い方は性的な興味の一切が欠けた清楚な人格を思わせながらその実はひと際性欲が強くてその点は島田との相性はよかった。
同じ大学生を相手にするとその本性が暴かれかねないが塾講師という堅い職場に勤める島田なら自らのこのセックスへの執着や淫乱の度合いを曝露されることもない。
そして彼自身もほぼ毎晩身体を求めるくらいに性欲が強かった。
互いにただオナニーして発散しようとは考えもせずどちらかが求めれば自然と身体を重ねて朝まで腰を打ち付け合って夜を明かすこともしばしばあった。
「あ、葵……もうそろそろ……」
「へ……ぁ、え? もうちょ、っと……ぁっ、我慢し、ッお願い……」
座位は葵にとっては一番膣にだけ集中できる姿勢だ。
騎乗位もそそるがだらしない顔やコンプレックスの胸を見られることを気にして好きなだけ腰を振ることを控えてしまう。
首に腕を回して身体を密着していると島田の体温が感じられてより濃厚なセックスが出来ている気分になった。
反り返ったペニスが膣を押し広げ子宮の入り口をノックするごとに脳天が揺すられて軽く絶頂してしまう。
この何とも言えない甘イキの状態で何度も突かれるのが彼女の好みだった。
オーガズムへの気持ちが高まって敏感になってくるとひだのひとつひとつが亀頭のカリで擦られる感触や息遣い、律動するペニスの感覚までがよくわかる。
島田がイキたがって亀頭を膨らませていることを察知しながらも葵は自分のためだけにあえてゆっくりとグラインドをして子宮口にペニスを擦りつけた。
まだだ、もうちょっとだけ我慢してもらわないと気持ちよくイけない。
出来るだけ静かに堪えて最後盛大に腰を振ってアクメしなければ葵は鎮まらなかった。
そのためには島田は少しだけ早漏気味でいつもどちらかが我慢を強いらなければならない。
それはそれで肉欲があって、いかにも若いリビドーだけのセックスで良かったのだけれど汗混じりの愛液の糸を引き打ち付ける腰の動きは悩ましく、普段の穏やかな彼女を知っているからこそ豹変してセックス狂いになっている葵を見て島田もそう長く堪えられない。
それは陰茎を介す狭くて熱くて湿った極上の肉感以上に精神的なギャップの問題だった。
無垢な顔の彼女が自らの意志で腰を振っているのを見るだけで島田は妙な背徳感を覚える。
初対面の頃はまさか彼女がこんな性癖を隠しているとは毛ほども思わなんだのにやはり人と人とは同じ極性で魅かれ合うのかもしれない。
「……女の子とシて葵はどうだった? 気持ちよかった?」
我慢を強いられ、ペースを同調させる島田は手持無沙汰のためにやや意地悪くぽつりと耳元でそう呟いた。セックスで動きながら上気している葵はそれを聞いてもっと顔を真っ赤にさせて歯切れ悪く息を吐く。
その間膣はぎゅうぎゅうと膣を締め上げて切ないほどにペニスを絞り上げていた。葵はあの時のことを思い出していたのだ。
「そ、な……気持ちよく、なんて……」
「でもめっちゃ締め付けてくるけど。もしかしてハマったとか?」
首に回された葵の腕も僅かにきつく締まる。それでも腰を動かすのはやめず、葵はかぶりを振って必死に言葉を打ち消す。
それは否定というよりも言葉を真に受けて聞いてしまわないように振り払おうとしているだけの随分子供っぽい所作だった。
いつもは見せないようなその仕草に島田は口角を上げながらあえて彼女の細いくびれをがっしり掴むと強引に叩きつけるようにしてその腰を打ち付けた。
「――っく、は……ッ、んぃ……」
小柄な彼女の身体は男性が扱うには軽かった。
そうやって性玩具のように手荒に扱うことは困難ではない。
そのために常に島田とのセックスはオーガズムのタイミングまでをほぼ征服されているも同然だった。
ペースを乱されながら強い衝撃が内蔵の底のほうから押し寄せて来て葵を襲う。
しばらく彼女は意識が飛んだように茫然としていた。
葵の膣には島田のモノは少し大きすぎたのだ。
勿論それは性交渉を困難にするほどの程度ではないが、こうやって奥にねじ込まれると自然と苦痛に混じった強い快楽が脳を支配する。痛い。
けれどそれは嫌になる痛みではなかった。
恍惚として頭をぼんやりとさせる葵に立て続けに島田はペニスを深々突き立ててゆっくりと、断続的に強く亀頭を押し付けて焦らすように腰を小さく動かしてピストンした。
「で、どうだったの? 女の子とするのは気持ちよかった?」
わざとだ。島田は随分優しい声色でそっと囁く。
意地の悪い質問の時に限って彼は反対に温和になる癖があった。
あえてその感想を自白させることで男だろうと女だろうと等しく敏感になってしまう淫らな身体のことを責めるつもりなのだろう。そうとわかっていながらも葵は膣が疼くのが止まなかった。
もう少しでイきそうだ。もどかしく自分で動こうにも押さえつけられている葵の口を割ろうと催促するように腰が打ち付けられる。
「ぅ、く……別に、よくなん……か、ッひ――っ、はぁ……待っ、それ、ぇッ」
「どうだったの? 正直に」
ばちんと音を立ててペニスが膣の奥を圧迫していた。
そのまま僅かに許するように亀頭を押し付けて子宮を潰すように擦りつけられる。
あと少しだけストロークしてくれれば簡単にアクメするのに寸止めの限界を知っている島田はなかなか動いてはくれなかった。あれだけ明白に目の前でよがってオーガズムしていたのだから葵が答えられる言葉など一つしかない。全部を白状するまで葵はイかせて貰えなかった。
「葵?」
「ぅ……ぁ、ああっ」
何度か僅かに腰を前後してひだを擦る。じっくりと嬲るように陰茎を動かすと葵の膣の形や熱さ、ひだの突起までもがよくわかる。興奮して粘度の高くなった愛液がペニスを絡め取るようにしてまとわりついていた。
「少しだけ……気持ちよかっ、ぁ……ッん、ぃぇ……」
「少しだけじゃないだろ。何回イったんだよ」
「ッ……だってぇ、晃……も限界、だから、ぁ……」
「ちゃんと言えたらイってもいいって。あのとき葵は何回イったの? どこをどうされるのがよかった?」
上に跨っている葵をペニスで押し上げるようにゆっくりとしたピストンが始まる。
徐々に葵の視線は据わらなくなって理性が溶けていっているようだった。
島田の肩に額を押し付けるようにしながら同調するように彼女も腰を打ち付けた。
「もうわかんない……ッ何回も、イって、ぇ、気持ちよく……ん、ン、っ、んぐ……」
そのとき島田はストロークのペースを早めて葵の堅い口を解かせようとする。
その思惑を知っていながらも葵は構わずに喘ぎ声を上げて、リコにされたときのことを思い出されながら片手で自らの乳首を弄り始める。
「あ、っぁ、それ、そこっ……ッ、浅いとこいっぱい、ぐりぐりって……っされ、てぇ、ッん、ぐ……乳首もいじわる、されて……ッ」
島田はそれを聞いて腰を抑えていた腕を解いた。
解放された途端に激しく腰をグラインドしながらピストンを開始する葵は飢えているように息をせき切らして膣の底を打ち付ける。
「またあの風俗嬢のこと、リコちゃんのこと呼んでもいいよな?」
「ぁひ、あ……ッん、く……いい、んぁ、言われた通りにする、かりゃ、ぁ……イかせて、ぇッ」
何度も頷きながら葵は段々と腰の動きが荒々しく奥を叩きつけるように激しくなっていく。
島田の耳に掛かる乱れた吐息は理性的ではない喘ぎ声が混じっていて盛った動物もののようだった。
既に限界だった島田は葵の動きに同調しながら自らのペニスを突き上げて激しくピストンをする。
「あっ、ッイク、ぁ気持ちい、ぅッ……奥、当たって、いいこれ、も、イ……ク、ぁっ、イクイク、ィぐ……」
「はっ……は、ほらイけよ。アクメ顔晒して腰振りながらちゃんとイけ」
首に回された葵の腕の力が強くなる。
言葉で責められると本当に彼女はアクメしてしまう。
肉棒を奥に突き立て、ひだで竿をめいめい擦り上げながらビリビリと脳を痺れさせるほどのオーガズムに愛液を滲ませて果てていた。
同時に絶頂した島田のゴム越しの射精の感覚で葵の身体もぴくぴくと動く。
これが生だったらどれほど気持ちよかっただろう、と考えながら葵はゆっくりと腰を弾いて膣からヌルりとしたペニスを引き抜いた。
栓が外れた膣からはトロりとした体液が零れて脚を伝う。ベッドの上に横たわると仰向けになって葵は額の汗を拭った。
足りない。確かに気持ちよかったのにどこか満たされていない感じがする。
オーガズムしたのだから気持ちよくないはずがない。
女としての悦びを存分に実感させる野心のあるセックスだったし、島田も最後までちゃんと持ってイクまで付き合ってくれた。
でもそれは所詮ただのセックスだ。
島田のペニスと同じ形のディルドがあれば一人でも同じことが出来てしまえる。
有機的に魅力的な部分を探しては他でいくらでも代替できてしまうことをより痛感する。
わかっている、これは惰性だった。
島田とのセックスは葵にとってただ肉棒を使ったオナニーのようなもので、根本的なセックスとしての感動を著しく欠いている。
島田との行為そのものが無二である感覚が葵はある日から完全になくなってしまっていた。別に下手だとか気障だとか、葵の気に障るいくつかの問題があるわけでもないのにリコとシた日以来身体の感じ方に変調を来していることは自覚せざるを得ないほど彼女を苛む。
二人はセックスのあとで風呂にも入らずにそのまま目を瞑って寝た。
不潔だけれどどうせ朝寝癖を直したりしなければならないのであれば寝てしまったほうが得だ。
毎日のように何度もセックスを繰り返すごとにそういった気遣いは薄れていくものだ。
既に寝息を立てながら寝入っている島田に身を寄せてくっつきながら目を瞑る。
葵は島田のことが好きだった。
無論愛だ、そこには異性はもちろん同性やリコだって入り込む余地はない。
「……っ、ぁ……ん……く」
それでも満たされない身体を持て余しつつ、いつしか彼女は寂しく手を秘所に這わせてオナニーを始めていた。
隣に彼氏が寝ているのに声を殺しながら自分で慰めているのは彼では足りないことを知っているからだ。
もっと責めてほしいところ、肉棒では当たらない場所、彼女であれば十二分に愛撫してくれた部分を思い出しながら葵は静かな声で自慰をして何度もイっていた。