文章:白金犬
エルフィーナが聖十字騎士団に入団してから3ヶ月ほどが経過していた。
その日もエルフィーナとアルフレッドは、騎士団の業務を終えた夕刻の時間に、人目のつかない場所で、ささやかな恋人同士の逢瀬を楽しんでいた。
「本当に気に入ってるんだね、そのチョーカー。いつも付けてる」
ふと、アルフレッドに言われると、エルフィーナは虚を突かれたように目を見開きながら、首のチョーカーをなぞる。
「え、えと……ちゃんと毎日洗っているわよ」
「いや、そうじゃなくて……」
「ひょっとして似合わない? やっぱり私みたいな真面目な堅物には、お洒落しちゃダメかなぁ?
「いや、そんなことないよ。よく似合っていて、可愛いよ」
アルフレッドにそう言われると、エルフィーナは嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、アルフ。嬉しいな。アルフが褒めてくれるなんて」
「ちょっと意外だったけどね。エルは、てっきりこういう飾り物、あんまり好きじゃないと思っていたから。それ、どうしたの?」
「……ええと」
それは何気ないアルフレッドの問いかけだったのだろう。それを聞いて少しだけ気まずそうな顔をするエルフィーナは、すぐに笑顔を取り繕うと
「アルフが喜んでくれたらって思って、少しお洒落してみたの。だからアルフが気に入ってくれて、良かった」
そんなエルフィーナの言葉がアルフレッドも嬉しかったのか、微笑みながらうなずいてくる。
--そんな、恋人の純粋無垢な笑顔を見ていると、エルフィーナは泣きたくなるくらいに辛かった。
「今日はまだ時間あるんだろう? 実はさ、エルを連れていきたい場所があるんだけど」
「あ、ごめんアルフ。実は急用があって……」
と、エルフィーナは言いにくそうに切り出すと、アルフレッドはさすがに残念そうな顔をする。
「まあ、仕方ないよな。聖十字騎士団は忙しそうだし……俺の方は、大丈夫だよ。気にしないで行ってきて」
「う、うん。ごめんね、アルフ。近いうちに、必ずそこに連れて行ってね。楽しみにしてるから」
エルフィーナは時間を気にする素振りを見せながら、慌ててアルフの前から駆け去っていく。
「愛しているわ、アルフ」
それは、まるで自分に言い聞かせているようにも聞こえる言葉だったが、アルフレッドは何の疑いもなく愛する恋人を見送るのだった。
□■□■
「あっ……んんっ! んはぁぁっ……!」
聖十字騎士団女子寮のリリーナの部屋で、エルフィーナはその美しい金髪を振り乱しながら甘い嬌声を上げていた。
「んっ……ふっ……ちゅるるっ……」
ベッドの上、全裸のエルフィーナは、同じく全裸で仰向けに横たわったリリーナの顔を跨ぐようにして、秘部を押し付けていた。リリーナはエルフィーナの太ももを抱え込むようにして、濡れそぼっている秘肉を舌で舐め上げていた。
「っああ! だ、だめっ……私、また……!」
リリーナの甘く魅惑的な舌の感触に限界を感じるエルフィーナは、その時の癖になったのか、親指を口に咥えて全身をビクビクと痙攣させる。
「そういう時はなんて言うんだっけ? お姉様に教えて、エルフィーナ?」
秘肉を舌でなぞりながら、ぷっくりと肥大している肉芽を舌で押しつぶすようにして、エルフィーナを追い詰めていくリリーナ。
「っはぁぁ! い……いくっ! イクぅっ! エルフィーナ、イキますぅぅぅ! いっくううううう!」
エルフィーナは甘い声で叫びながら、唾液を唇の端からが垂らしながら、身体を弓なりに反らして絶頂に達する。
「はぁ……はぁ……も、もう許して……下さい……」
リリーナの上で意識を朦朧とさせながら、エルフィーナはか細い声で訴える。
あの日、リリーナと関係を持った日からずっと、エルフィーナは毎晩のように快楽調教を施されていた。
エルフィーナは、リリーナから強制的な服従を強いられるということは無かった。呆気ないとすら思うくらいに、この背徳的な行為の時以外は、エルフィーナはいつも通り自由に振舞えている。
それなのに、エルフィーナはリリーナとの関係を公に出来ていなかった。
その気になれば、最初にエルフィーナが自分で言ったように、査問委員会へリリーナのことをかけて懲罰を与えることなど、エルフィーナの立場からすれば容易い。
しかし、逆にエルフィーナ程の立場だからこそ、事を公にすることは憚られた。
そもそも自らの貞操が奪われたこと、しかも平民出の下級騎士の同性が相手だということは、エルフィーナにとってはこれ以上ない恥と言っても良い。それにそんなことを、愛するアルフレッドになど絶対に知られたくない。
――いや、そんな建前の理由などよりも
「まだまだよ。今日も貴女の心が折れるまで可愛がってあげるから、次は四つん這いになりなさい」
「はぁ、はぁ……はい……♡」
この甘くて蕩けるような感覚を手放すことを、エルフィーナの本能が拒絶していた。
四つん這いになったエルフィーナの下にリリーナが身を滑らせる。するとお互いの性器が目の前にある態勢となる。
「今度はエルフィーナも私を気持ちよくしなさい……ん……ちゅ……」
再びリリーナがエルフィーナの秘肉へ舌を這わせ始める。
「っんあ! はぁ、はぁ……こ、こんな格好……あぁんっ! へ、変態よ……っんあああ!」
再開された敏感な部分への愛撫に、エルフィーナも再び甘い声を漏らし始める。
「そうよ。やっと気づいたの? 貴女は変態なの。女同士でアソコを舐め合って、興奮して、気持ちよくなっちゃうレズビアンなのよ? ほら、よく見て……私のオマンコ」
リリーナはエルフィーナへの愛撫を続けながら、股を開いてエルフィーナを誘う様に腰をくねらせる。
「ち、ちが……私は変態なんかじゃ……レズビアンなどでは……」
首のチョーカーが明滅するにつれて、エルフィーナの声は弱弱しくなって力を失っていく。そしてフラフラと頭を下げて、リリーナへの秘部へと顔を近づけていく。
「ふふ、どうかしら?」
その大事な部分にエルフィーナに視線を感じるリリーナは、顔を赤くしながら、秘裂の奥から愛液を溢れさせていく。それを間近で見るエルフィーナは息を飲みながら
「っあ……すごく、綺麗です……こ、こんなに濡れてて……熱くて、匂いも……」
「エルフィーナのオマンコもすごく濡れてるわよ。ちゅ……れろ……ちゅば……ね、一緒に愛し合って気持ちよくなりましょう?」
「一緒に……愛し、合う……? で、でも私……女の人は……」
「一緒にオマンコを舐め合って気持ちよくなって、一緒にイキましょうよ。そしたら、きっとエルフィーナは私のことを、もっともっと好きになるわ。女同士、愛し合いましょう? ちゅうう……ちゅば……れろ」
「っあぁぁん! はぁ、はぁ……ひゃうっ……舌、すごい動いて……っんああ!」
リリーナの甘い言葉と舌の動きがエルフィーナの思考を曇らせていく。そして首のチョーカーから流れてくる魔力が、エルフィーナの身体を火照らせて、肉の快楽に溺れさせようとしてくる。
エルフィーナは焦点の合わない瞳でぼーっとした表情のまま、自らリリーナの秘裂へと舌を伸ばす。
「……ぺろ……ぺろ……」
「っんんんぅ! ふふ、そうよエルフィーナ。優しく、恋人にするように丁寧に舐めてみて。ちゅっ……ちゅばあっ! ちゅうううっ!」
わざと音を立てながら、激しくエルフィーナの秘裂を責め立てていくリリーナ。その音がエルフィーナの羞恥心を煽り、最初は控えめだったエルフィーナも、積極的にリリーナを責め始める。
「はむ……ちゅ……れろ……」
「ちゅば……ちゅっ……ちゅうう。そうよ、エルフィーナ。貴女が興奮して気持ち良くなればなるほど、私も気持ちいいの……れろれろ……んちゅうう」
「はぁっ、はぁっ……ん……む……リ、リリーナ先輩……ちゅうう……すごく、濡れて……ぢゅるるっ!」
いつの間にかお互いの秘裂を貪るのに夢中になっていく2人。しかし尚もリリーナはエルフィーナを追い詰めていく。
「お姉様よ、エル。先輩じゃなくて、お姉様と呼びなさい……あむ……れろれろれろ……」
「きゃうううんっ! んああっ!」
舌先でエルフィーナの肉芽を転がし、押しつぶし、吸い立てていくと、エルフィーナは一層高い声を上げながら。
「ぁんっ! り、リリーナ……お姉様ぁ! リリーナお姉様……ちゅっ……ちゅううっ……」
先輩ではあるものの、平民の下級騎士に過ぎないリリーナのことを姉と呼び、そして愛称で親し気に呼ばれるエルフィーナ。その首のチョーカーが激しく明滅すると。
「はぁぁぁっ……ど、どうして……お姉様って呼ぶと……エルって呼ばれると、すごく嬉しくなっちゃう。はむ……れろ……もっと、もっとお姉様に気持ちよくなって欲しくなっちゃう!」
「ちゅば……ちゅううっ! エル、エル……大好きよ。誰よりも愛してるわ。大好き。絶対に私のモノにしてあげる……ちゅばちゅば……ちゅううっ!」
「んはぁぁぁっ! だめ、止めてっ! それ以上エルって呼ばないで! そんなに言われたら、私も……私も……」
お互いに秘裂を貪り合い、愛液を啜る音を立てながら、お互いを昇りつめさせていく。
「言って……エルも私のこと好きって言いながら、イクのよ! 一緒にイキましょう、エルっ!」
「ちゅるる……ちゅっ……ちゅうう~! あ、ああ……だ、だめ……お姉様……そ、そんなこと言ったら……私、私……!」
リリーナの言うがままにすれば、もう後戻りが出来なくなる。しかしそれと引き換えに、想像すらできない圧倒的な興奮が待っていると分かると、エルフィーナは止まらなかった。
「お、お姉様ぁぁぁぁ! ちゅっ……ちゅううっ! い、一緒に……お願い、一緒にイッて下さい! 好きですっ……ちゅば……ちゅううっ……リリーナお姉様、好きっ!」
「あむ……ちゅばあ……れろれろ……わ、私もよエル! 好き、好き好き! エル愛してるわ! イク、イクイクっ! いくううううっ!」
「エルも、エルもイキますぅぅ! お姉様と一緒に……ちゅば……んちゅうっ……お姉様、愛してますうう! いくううううううう!」
2人の嬌声が重なり合い、2人は同時に身体をピンと伸ばして絶頂に達する。
「はぁ……はぁ、はぁ……」
リリーナの上で激しく肩と胸を上下させるエルフィーナは、そのまま脱力する。その首のチョーカーは、激しい明滅を繰り返しながらエルフィーナの体内へ魔力を注ぎ込み続けていくと、これまで以上の幸福感をエルフィーナに与える。
リリーナと肌を重ねている感触が、リリーナの体温が、リリーナとの快楽の貪り合いが、自身にとっての何よりの幸福だと、エルフィーナの脳に刷り込んでくるのだ。
「ふぅ……ふふ、可愛かったわよ、エル」
「んっ……ちゅ……」
エルフィーナの下から出てきたリリーナは、エルフィーナの身体を優しく抱きしめると、その唇を奪う。するとエルフィーナの方から舌を伸ばし、リリーナを求め始める。
(ダメ……このままじゃ、私……アルフ、助けて……)
リリーナとの舌の感触を心地よいと感じながら、エルフィーナは僅かに残った理性で危機感を抱いていた。
こうして日々精神的に追い詰められていく中、エルフィーナは決断したのだった。
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「い、いいのか……エル?」
「うん……アルフだったら、いいよ」
リリーナによって女同士の快楽を刻み込まれていき、その世界に堕ちていきそうになる日々の中、エルフィーナは一大決心をした。
エバグリーン家の権力とコネをあらゆる総動員して、夜にアルフレッドが聖十字騎士団の女子寮に入れるように取り計らったのだ。
そして問題のリリーナに対しては、無理やり遠征任務を押し付けて、女子寮から排除した。そう何度も使える手ではないが……
(大丈夫。アルフと結ばれてしまえば、あんな女のことなんてもう気にならなくなるわ)
リリーナとの関係が深みにはまればハマる程、つまらない意地を張っている場合ではなく、すぐにでも公にして問題にすべきだと危機感が増す。
しかし同時にリリーナとの関係を消したくないという本能が強くなっていき、結局今エルフィーナがリリーナのことを問題に出来ない理由は当初からは変わっていた。
つまり、自身の貞操が同性の下級騎士に奪われてしまったというプライドや、恋人に知られることへの羞恥心や罪悪感ではなくなっていたのだった。
リリーナから与えられる女同士の快感に酔っていたいから、今の状況を保持したいという本能の欲求へと変化していることを、誰よりもエルフィーナ自身が自覚してしまっている。
(それを断ち切るためには……)
本当の想い人、アルフレッドと身体を結ぶことだ。
今、エルフィーナがリリーナに抱かされている妙な感情は、あの変態的な行為とこの首のチョーカーによって生み出された偽りの感情だ。
リリーナとの行為に耽っている時は、とても愛おしい感情を彼女へ寄せてしまう。しかしこうして冷静な時、エルフィーナの想いは常にアルフレッドだけに向けられている。アルフレッドが好きで好きでたまらない。これは純然たる事実だ。
人が愛することが出来るのはただ一人だけなのだ。だから、エルフィーナが真に愛しているのはアルフレッドだけ。アルフレッド以外の、ましてや同性のリリーナを好きになるはずがない。
身も心もアルフレッドと結ばれてしまえば、それ以上の幸福はない。きっとリリーナの妙な魔術も打ち破れるはずだ。
「私、初めてだから……優しくしてね」
アルフレッドがごくりと生唾を飲むのを感じる。緊張しているのはエルフィーナも同じだ。
女神ファマロスは、婚姻前の姦淫を禁忌としている。特に敬虔な信徒とされている聖十字騎士、しかもその最たるエバグリーン家の人間がその禁忌を破ることは大罪に値する。これはエルフィーナにとっても、生半可な勇気で決断できるものではない。
事が露見すればエルフィーナ自身は勿論、エバグリーン家自体も危ぶまれることとなるのは間違いない。しかしエルフィーナ或いはアルフレッド自身が口外する以外に、このことが明るみ出ることなど有り得ない。
それ以上に、リリーナとの関係から抜け出せずに、このままアルフレッドとの愛が無くなってしまうことの方がエルフィーナにとっては怖かった。
「いや……でも……意外な格好だな」
「……え?」
アルフレッドを自らの部屋に招いたエルフィーナは、目的が目的なだけに、下着が透けて見えているネグリジェ姿だった。以前のエルフィーナであれば、異性の前でその格好を晒すだけでも相当の抵抗があっただろう。しかし、今は羞恥心を感じながらも、むしろアルフレッドを挑発しているようにふるまっている。
その上、更に彼女が身に付けている下着は、いつものような清廉潔白を思わせる純白の下着ではなく、赤くて派手なレースやガーターベルトがついているものであり、あからさまに雄を誘惑するものだった。
「に、似合わないかな……? 男の子はみんな、こういうのが好きだって教えてもらったんだけど」
「い、いや。そういうのも凄く良いと思うけど、エルが着るのは意外だって思っただけでさ……っていうか、教えてもらったって、誰に?」
「それは、騎士団の先輩に--」
と、そこまで言ってエルフィーナは慌てて口をつぐんだ。そんなエルフィーナの反応にアルフレッドは首を傾げる。
「どうした?」
「う、ううん! 何でもない!」
自然にリリーナのことを考えて胸が熱くなってしまっていたエルフィーナは取り繕う様にいう。
(もう! そんなことどうだっていいじゃない、アルフのバカ! そんなことより、早くセックスしたいのに! あの、気持ち良くて、幸せな気持ちになって、フワフワになる……セックス)
そうやって少しでも油断すると、エルフィーナの頭に浮かぶのは、リリーナとの甘美な行為のことだ。
そうしてすっかりリリーナのことを受け入れ始めている自分に気づき、エルフィーナは首をぶんぶんと振って、リリーナのことを頭の中から打ち払う。
「アルフ……キスして……」
「エル……」
エルフィーナが瞳を閉じて唇を差し出す。アルフレッドも緊張したような声を出しながら、そっと近づいてくる。
顔が近づいていき、2人の唇が重なろうとする。
緊張しているのは2人とも。お互いの心音が相手に届いてしまいそうなくらいに激しく鼓動している。
(あんな女とのキスでも、あんなに気持ち良かったんだもの。アルフとのキスだと、私どうなっちゃうんだろう……)
リリーナとのキスの感触を思い出しながら、エルフィーナはアルフレッドの唇の感触を待つ。
そして、遂に触れ合う唇。暖かくて、柔らかい恋人の唇が触れると--
そのまますぐに離れる。
「……え?」
ここから何度も何度も唇を吸い合って、そこから舌を伸ばして、お互いの舌を絡め合わせて、唾液を交換し合って、唾液が滴り落ちる程の貪り合いを--
そんな恋人同士のキスはこれからなのに、もう終わり?
思わず拍子抜けしたような声を出して、エルフィーナは瞳を開いてアルフレッドを見る。するとアルフレッドはエルフィーナの顔を伺うように、こちらを見ていた。
「エルの唇柔らかくて……キスって、すごいな」
照れたように視線をそらしながら、そんなことを言ってくるアルフレッド。
エルフィーナがまだキスの経験さえなければ、これだけでエルフィーナの胸はときめき、幸せな気持ちになって満足していただろう。
(ち、違う! こんなのキスじゃないわ。キスっていうのは、もっとこう……)
唾液の音が響くくらいに舌を擦リわせながら、愛をこめてお互いの舌をしゃぶり合うーーそれが恋人同士のキスのはずだ。お互いの瞳を見つめながら、夢中になって貪り合うような、あのリリーナのキスとは全く違う。
「……もっと、して」
エルフィーナは羞恥心に耐えながら、再びアルフレッドにキスを求める。
アルフレッドは、おそらくエルフィーナが期待したのとは違う緊張感でうなずきながら、再び唇を重ねてくる。
「ん……ちゅ……」
再び唇が一瞬触れ合うだけの、優しいキス。
(違う……違う、こんなの……!)
求めているものが得られないエルフィーナは、耐え切れなくなってアルフレッドの首に腕を回すと、今度は自分から唇を重ねる。
「ん、む……エ、エルフィーナ……」
エルフィーナから舌を伸ばし、アルフレッドの唇を舐り、彼の口内へ舌を伸ばして、舌を絡める。
「ん……ふ……」
エルフィーナの積極的なキスに、アルフレッドはくぐもった声を漏らす。
(どうして……どうして、アルフ?)
しかしアルフレッドの反応は極めて消極的だった。抵抗するようなところはないが、エルフィーナになされるがまま。アルフレッドからは全く反応を返してこない。いや、少しは反応しているのかもしれないが、リリーナと比べると全く足りない。
(足りない……足りないよ、アルフ)
リリーナはあんなにエルフィーナを求めてくれるのに。あんな貪るように愛を込めてくれるのに、アルフレッドにはそれが全くない。
「ん……ふぁ……すごいな、エル……」
ようやくエルフィーナから唇を解放されたアルフレッドが顔を赤らめながらそう言ってくる。その熱っぽい瞳で、真っすぐこちらを見つめてくる恋人の瞳を見ると--
エルフィーナの気持ちは、どんどん冷めていく。
「ベ、ベッドに行きましょう。続きはそこで、ね……?」
そのままアルフレッドへの想いが無くなっていってしまうのがとても怖くて、エルフィーナは事を速く済ませようと、アルフレッドをベッドに誘うのだった。
□■□■
(どうして……全然気持ちよくない……)
ベッドに横たわってアルフレッドの愛撫を受けるエルフィーナ。乳房を揉まれ、身体中に舌を這わせられて、優しく秘部を刺激される。その手つきは不器用でたどたどしいものだったが、優しさに満ち溢れており、深い愛を感じるものだった。
しかし、それでもエルフィーナの胸は全くときめかない。リリーナの時のような、騎士の威厳もエバグリーン家の誇りもどうでもよくなってしまう程の興奮が得られないのだ。
(どうして……どうして? アルフのこと、こんなに愛しているはずなのに……!)
アルフレッドは懸命に愛撫してくれているのは分かるが、一向に快感も多幸感も得られないことに、エルフィーナは泣きそうになってくる。そんな中、アルフレットの指が秘裂をなぞってくると
「……っつ!」
「あ、ごめん……!」
全く濡れないそこを強めに刺激されると、思わずに痛みに顔をしかめてしまう。
「む、難しいもんだな。なかなか濡れないんだね」
苦笑しながらアルフレッドは明らかに焦っていた。エルフィーナの反応も淡白なので、彼も不安なのだろう。
大好きな恋人を不安がらせて、エルフィーナもだんだんと焦ってくる。
「ね、ねえ。クンニして?」
「クンニ……?」
「そう。オマンコを舐めるの。私、指でされるよりも舐められる方が好き……って……あっ……」
アルフレッドのために思いがけず言った言葉だが、エルフィーナは発してから気づいてしまう。
何故エルフィーナがそんな言葉を知っているのか。どうして、そんなことが言えるのか。
案の定、アルフレッドが不思議そうにエルフィーナの顔を覗き込んでくる。
(うああ……ど、どうしようどうしようどうしよう……あ、でも……)
こんな時ですら、リリーナのあの舌の感触を思い出してしまう。あの柔らかい舌で、自分が気持ちいいところを的確に刺激してくる。あの舌で舐められながら、自分もリリーナを気持ち良くするあの行為は……
ーー最高だった。
「はぁ……あぁ……」
アルフレッドを前にしてリリーナとの行為を思い出すエルフィーナは、興奮する時の癖である、指を口で咥えるような仕草をしてしまう。
「分かった。やってみるよ」
そんなエルフィーナの反応をアルフレッドがどう受け取ったかは分からない。この場でエルフィーナを追求しなかったのは彼なりの優しさかもしれなかった。
アルフレッドはエルフィーナの足を押し広げて股を開かせると、その秘肉へ顔を近づけてくる。
(あぁぁ……アルフの舌が、私のオマンコにっ……き、きっとあの女よりも……早く、早くぅ)
女同士の行為でさえあんなに気持ち良かったのだ。愛する恋人からの愛撫であれば、どれだけ気持ち良くなれるのだろう。エルフィーナはその期待に胸を震わせて親指を咥えながら、それまで一向に濡れなかった秘部を想像だけで濡らしてしまう。
「ん……れろ……」
(……あれ?)
アルフレッドの舌が秘肉をなぞってくるのを感じる。とても優しい愛のこもった愛撫だ。
--でも、それだけ。
リリーナにされた時のような、目も眩むような快感など全くない。
(嘘、でしょ……? どうして?)
「ん……ちゅ……ちゅ……」
エルフィーナの胸の内など露知らず、アルフレッドは懸命に愛撫を続けてくれる。
しかし、その優しいだけの愛撫を受けていても、一向に快楽は得られない。エルフィーナが求めているのは、もっともっと、セックスのことしか考えられなくなるくらいの快感なのに。
期待が大きかった分、この現実に、エルフィーナの胸はアルフレッドの失望感で満たされていく。
「どう、エル? 気持ちいい?」
「う、うん……気持ちいいよ。あ~ん……」
恋人を気遣うための、あからさまな演技が、余計にエルフィーナの心を空虚にさせる。アルフレッドはそれに気づいているのかは分からないが、一層懸命に愛撫を続けてくれる。
「ね、ねえ……アルフ。そろそろ……」
「……ああ、分かった」
リリーナとの行為を回想して濡らしたのが、このままでは乾いてしまう。アルフレッドの唾液で多少は秘肉がほぐれたところで、エルフィーナは本番行為をアルフレッドへ促す。
(お願い……これ以上、私を失望させないで……)
「それじゃ、行くよ。エル」
股を割って腰を突き入れてくるアルフレッド。エルフィーナの秘裂の入り口を探るようにしてくる感触から、その肉棒は硬くそそりっているのが分かる。
(やっ、やだ……どうして……?)
その肉棒の感触が分かると、エルフィーナはぞっとする。
アルフからすると、エルフィーナは、未通の秘裂を貫かれるという処女が故の怖さに怯えているように見えたかもしれない。
しかし、決してそういうわけではない。
エルフィーナのこの身体の奥底から湧き上がるのは、そんな恐怖とは無関係な、ただただ純粋な嫌悪感だった。
(気持ち、悪い……!)
アルフレッドは、あんな愛撫で自分――エルフィーナが、興奮していたと思ったのだろうか。あんな白々しい演技で、本当にエルフィーナが快感を得ていたように見えたのだろうか。
エルフィーナは、自分とアルフレッドとのあまりの温度差に、心も身体もどんどん冷めていく。
(どうして……どうして? 相手はアルフなのに、あんなに好きだったのに……)
そんな自分の気持ちを自覚したところで、エルフィーナは認めざるを得なくなっていた。
もう、自分はアルフレッドのことを愛していいないのでは……と。
「う……く……エルっ……!」
「っああ……!」
そんなエルフィーナの胸の内は関係なしに、遂に秘裂の割れ目に辿り着いたアルフレッドはゆっくりと肉棒を挿入してくる。乾きかけていたエルフィーナの秘肉は、そもそも入り口も狭く、挿入されようとする異物に強く抵抗するようだった。
「く……き、キツ……」
アルフレッドは顔をしかめながら呻くようにそう言うが、エルフィーナはそれ以上に
「っいたあああああ! 痛い、痛い! 痛いよぅ、アルフぅ! すっごく痛いっ!」
まるで腹を裂かれるのではないかというくらいの強烈な痛み。アルフレッドの肉棒が奥へと沈みこめば込む程、ミチミチミチという音を感じくらいな苛烈な痛みを感じる。
「エ、エル……力を抜いて……っく……」
「いやあああああっ! 痛いよぅ! 痛い、いたぁ~い! やだぁぁぁぁっ!」
あまりの激痛に泣き叫ぶエルフィーナ。アルフレッドは何とかしようと、エルフィーナの頬を優しく撫でたり声を掛けたりするが、エルフィーナは髪を振り乱しながら少女のように苦痛を訴えるだけだった。
あくまでもエルフィーナのことを想い、ゆっくりと時間を掛けて挿入を続けるアルフレッド。それがかえってエルフィーナの苦痛を長引かせることとなっていくのだが、なんとか奥まで挿入すると、結合部からは純潔の証が流れ出てくる。
「ひんっ……ひんっ……! 痛いよぉぉ……アルフぅ……」
少しだけ慣れてきたのか、声のトーンは下がりつつあるエルフィーナ。
一方、流れ出るエルフィーナの血を見ながら、アルフレッドはようやくエルフィーナと繋がれたという実感を持つ。併せて、初めての女性器の暖かい感触にアルフレッドは、容易く限界を迎えそうになると、慌てて肉棒を引き抜く。
「っうあ! はぁ、はぁ……」
引き抜いたところで、アルフレッドは射精をする。白濁液がエルフィーナの腹へと吐き出される。
「う、ぐ……ごめん、エル。気持ち良すぎて……」
「うううっ……ぐすっ……ぐすっ……うわああああんっ……!」
しかしエルフィーナはそれどころではなかった。
期待とは全く違う恋人との行為。崇拝する神が定めた禁忌を犯すという覚悟まで持って臨んだというのに、それは想像すらしていない、壮絶な苦痛しかなかった。
痛みもそうだったが、それ以上に悲しかったのは、世界で一番愛していたアルフレッドへの想いが急激に冷めていくという自分の気持ちだった。
(も、もうやだ。アルフとはもうセックスしたくない……!)
エルフィーナにとっては、苦痛と嫌悪しかない最悪の初体験となってしまい、ただひたすらにエルフィーナは泣き続けた。
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遠征任務を終えて聖王国に戻ってきたリリーナは、報告等の事後処理や身支度などを整えた後に、聖十字騎士団女子寮の寮長室にいた。
「あぁ~ん、リリーナお姉様ぁ。久しぶりに、とっても燃えちゃいましたぁ」
寮長室のベッドの中で、一糸も纏わぬ姿で、同じく全裸のリリーナに抱き着いているのは、寮長だった。明らかにリリーナよりも年上の彼女は、甘えた声でリリーナの頬にキスをする。
「それで、間違いない? 私がいない間に、エルフィーナ様は男を連れ込んだのね?」
「はい~。エルフィーナ様も色々とバレないように頑張ってたみたいですけど、寮長の私の協力は必須ですからね。間違いありませんよ。鋼鉄騎士団の若いコを連れ込んでいました」
「……ふふ、そう。全部予定通りね」
その報告を聞いてリリーナは笑みを深める。
(あんな軟弱そうな男が、私以上にエルフィーナを悦ばせることなんて不可能だし……ふふふ、ここで徹底的に男への嫌悪感を強めてあげるわ)
自分との行為に溺れかけていたエルフィーナが、今更経験もない初心な男との行為で満足できるはずなどない。痛い思いをして終わりだろう。
エルフィーナが聖十字騎士の禁忌を犯すタイミングやその結果などは、全てリリーナの思惑通りになっていた。
「そういえば、貴女はウルシマス鋼鉄騎士団長や、エルフィーナ様の叔父上であるカイエン様とも面識があったわよね?」
エルフィーナとは何かしらの因縁がある2人の名を出すと、寮長は嬉々としてうなずく。
「私を紹介してくれないかしら?」
「別にいいですけどぉ……何を考えているんですかぁ? もう、悪い人」
リリーナは、公にしてはいないが、聖十字騎士団の中でも随一の精神操作魔術の使い手である。短時間であれば、他人を思い通りに操ることなど造作でもない。その術にかかり、今やリリーナのセックスフレンドとされてしまった寮長自身だったからこそ、リリーナが何かしらよからぬことを考えているのは容易に察せられた。
鋼鉄騎士団団長や、エバグリーン家に連なる聖十字騎士など、この国の重鎮である。リリーナの特殊な性的嗜好の犠牲にするなど、断じてあってはならないことだ。
が、既にリリーナにとって都合の良い女になっている寮長は、迷うことなく、そのリリーナの要望を受け入れる。
「お姉様のためなら、私なんでもしますからぁ。だから、これからは週に4日……ううん、せめて3日は可愛がってくださいよぅ」
そんな風に甘えてくる寮長を、リリーナは冷めた目で見る。
(この女も、そろそろ面倒臭くなってきたわね。色々便利だったから仕方なく付き合ってきたけど……そろそろ切り時を考えないとね)
リリーナにとって興味があるのは、まだ自分に興味が無い相手。男の恋人がいると、尚良い。
生物として当然である異性への欲求や愛。その当然を、快楽や欲望でもって、同性へのものへと歪めていく。その過程に至上の興奮を覚えるのだ。逆に言うと、この寮長のように、すっかりレズビアンとなってしまった相手には興味が無い。
(ふふふ……)
「っあ……お姉様、また濡れてきてる……」
エルフィーナがこの寮長のように、聖十字騎士として、エバグリーン家としての誇りなど捨てて自分に甘えてくる姿。それこそ今は恋人アルフレッドの前でしか見せない姿を自分の前で見せるようになった時のことを思い浮かべるだけで、リリーナの身体は熱く火照るのだった。