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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

part.26 【 染められて 】

【注意】今回 BL要素 があります。




気絶している間に受ける催眠は、通常の催眠よりも大きな効果がある。



今から半年ほど前、
恭子は直美と誠を家に呼び出し催眠術をかけていた。

当時、二人の仲を裂くことに奔走していた恭子であったが、
その日起こった不慮の事故により、事態は一変する。

催眠中の誠が勝手に動き出し、
男性に対して強い嫌悪感を持つ直美に向って射精し気絶させてしまったのだ。

その後、恭子は気絶した直美を介抱しつつ、追加の催眠術をかけたのだが、
その時かけた暗示は直美の心に深く浸透し、結果として二人の破局をもたらすことになった。


(もしあの出来事がなかったら、二人はまだ別れていなかったかもしれない……
通常の催眠は、効果が現れるまで長い時間を要するけど、気絶中にかけた催眠には即効性がある……

そして誠くんはあの時の直美と同じように気絶している……
今だったら、どんな暗示でも、すぐに効果が現れるはずだわ……)


すぐさま、誠に向けて暗示をかけようとする恭子であったが、
声を出す寸前のところで思い止まった。



(待って……あせらないで、恭子。
たしかに強い効果はあるけど、
急変した直美に周りがどんな反応を示したか思い出して。
極端に避けられるようになった誠君が、
直美のことを相談するようになったのはちょうどあの頃だったし、
クラスの男子と直美が急激に仲が悪くなったのも同じ時期だったわよね?

直美は元から気分屋で大雑把で個性的なところもあったから、
男子と喧嘩しても機嫌が悪かったことにして誤魔化すことができたけど、
誠くんは普段から真面目で誠実な男の子。

そんな誠くんが、明日から女の子になって、
可愛らしくみんなの前で振舞ったとしたら大騒ぎよ。

絶対何があったか聞かれるわ……

最近あった出来事を執拗に聞かれて、
もし誠くんが私のことを喋ったりしたら……)


せっかく手に入れた絶好のチャンスだったが、好きなように暗示をかけるわけにもいかなかった。
外も暗くなり始め、もうそれほど時間も残っていない。
恭子は決断を迫られていた。


(面倒だけど、表に現れないように催眠をかけるしかないわ…)



※※※



誠が気絶してから既に10分以上が経過していた。
恭子はすぐに誠に語りかけた。


「マコトちゃん……あなたは今、いつもよりもっと深い心の奥底にいます。
あなたはとっても可愛い女の子の服を着ているの。
マコトちゃんは男の子だけど、女の子の服を着るのが大好き。
女の子らしくして、女の子みたいに振舞いたいと心の中では思っています」


誠に瞼がぴくっと反応する。
直美の時と同じ反応に、恭子は安心する。


「そしてマコトちゃんは、女の子よりも男の子の方が好き♡
本当は女の子の格好をして、女の子のように振る舞ったり、
男子と仲良くしたいんだけど、恥ずかしいからできないの……

それにそんなことをしてオカマ扱いされるのがすごく怖い……
もしかしたら、からかわれるかもしれない……
もっとひどいと虐められちゃうかも…?

か弱いマコトちゃんはそんなことになってしまったら、とても耐えきれません。
本当に信用のできる人にだけ、本当の自分を見せましょうね」


恭子は、かけられた催眠の効果を、誠自らが隠すように暗示をかけた。

自分の内情をカミングアウトすることに恐怖心を与え、
恭子のようにごく限られた人にだけ、自分をさらけ出させることにしたのだ。


(あとは……)


恭子の目的は他にもあった。
それは誠に直美のことを諦めさせることだ。

二人が別れてだいぶ経ったが、こんな状態になっても、
まだ誠は直美のことを諦めていなかった。
恭子の家に来るのは、直美とよりを戻すため。

催眠を受けたり、恭子と雑談することが楽しくなってきてはいたが、
誠の第一の目的は、あくまで直美とよりを戻す方法を恭子に相談することだった。

例え催眠中であっても、
誠に直美のことを諦めるように暗示をかけるのは危険だった。
恭子にはそれが誠にとっての覚醒のキーワードのように思えたからだ。


(気絶中の今だったら、大丈夫かしら……? でも万が一覚醒したら……)


覚醒の前後の記憶は、頭に残る。

現在、誠は全裸の状態で自らのお尻に指を挿れたまま寝ている。
もし今、目を覚ましたら、誠は全てを把握してしまうだろう。

自分の最近の変化、直美が自分を避ける理由、
その両方が恭子の催眠によるものだったと理解する。
そうなったら、対立は避けられない。

誠は、あらゆる方法を使って、直美を元に戻そうとするだろう。
友達などと協力して直美を恭子に近づけなくされたら、もう直美と接することはできなくなるだろう。

気絶というチャンスの真っただ中にあっても、
恭子にはその暗示をかけるのが、確率の低いギャンブルのように思えた。


(……別に直美を諦めろと言わなくても、
本人が別れたままでも良いと自然に思えればいいのよ)


恭子は、誠の耳元に顔を近づけ、再度暗示をかけ始めた。



※※※



「ほーら、マコトちゃん。向こうにマコトちゃんの大好きな直美がいるよ?」


誠の身体がびくっと反応する。


「あなたは急いで直美の前に駆け寄ります。
でも直美の様子がおかしいわ、どうしてかしらね?

ふふふ……分かるでしょ?

自分の服装をよく見てみてよ。
今マコトちゃんは可愛い可愛い女の子の服を着ているのよ?」


誠の顔が一瞬で紅く染まる。
モジモジしていて、実に恥ずかしそうだ。


「あらあら、恥ずかしいわね♡
直美にそんな可愛い姿見せちゃって……ずっとその姿のままでいるつもり?
早く脱いで誤解を解かなきゃ、今の姿のままじゃ何を言っても説得力がないわよ?」


誠が慌てた顔をしている。
小刻みに身体が震え、事態の深刻さが伺える。


「あなたは、どんどん服を脱いでいって、全裸になりました。
あら? 直美が笑い始めたわよ? 何を見て笑っているのかしら?」


誠の動きが止まる。
真剣な表情で、恭子の言葉に耳を傾けているようだ。


「ふふふふ……、直美がマコトちゃんのおちんちんを見ているわ。
ちっちゃくてぷっくらとした可愛いおちんちんを見て笑ってる。

それもそうよね?
こんなにちっちゃくて男らしくないペニスを見て笑わない女の子はいないわ。

普通の女の子だったら、逞しくて立派な男性器を求めるものよ?
『誠、何それー? ちっちゃくてオモチャかと思っちゃった。』と言って、直美が笑ってるわ」


悲しそうな表情を浮かべる誠。

以前、恭子に性器が小さいことを気にしないように暗示をかけられてはいたが、
元カノに直接コンプレックスを刺激され、ショックを受けているようだ。


「直美が『それ本当におちんちんなの? 本物のおちんちんだったら勃たせられるよね? あたしのことを思って勃起させたら、また付き合ってあげる。』だって!

これは、チャンスよ! マコトちゃん。
男らしいところを見せて、直美とよりを戻しましょ」


よりを戻す条件にしては、なんともいい加減な内容であったが、
夢の中であることと、気絶で暗示が効きやすくなっていることもあり、
誠は特に気にしなかった。

恭子の暗示で、俄然やる気を取り戻した誠は、
右手を使って、自らの一物を扱き始めた。



※※※



それから5分間、誠は一生懸命、自分の性器を扱き続けていた。
しかしペニスは一向に硬くならず、ふにゃふにゃのまま微動だにしなかった。


「……なんでっ。……なんでっ」


小さな声だが、悲痛な叫びが聞こえる。


「まだ勃たせられないの?
マコトちゃんは直美のことを本当は好きじゃないのかしら?
直美が呆れた顔をしているわ……
『なんだかショック……誠にとってあたしは全然魅力的じゃなかったんだね……
さよなら誠、良い人見つけてね……』って言ってるようね……」


「……うぅ……ちがう……ちがう……」


誠は、今にも泣きそうな顔をしている。

最愛の人を思って、性器を勃たせられないことと、
直美に改めて『さよなら』と言われて、さらにショックを受けたようだ。


「マコトちゃん、泣かないで……
大丈夫よ、一人じゃおちんちんを勃たせることもできない、男失格の情けないマコトちゃんに救世主が現れたわ」


励ましつつも、誠の心に気になるようなセリフをグサグサと突き刺していく。


「ほーら、想像して……
逞しくて立派な男性器を、高く高く反り返らせている裸の男の人。
身体も鍛えてあって、思わず見惚れてしまいそうね?
その人が、マコトちゃんのことをサポートしてくれるって」


突然現れた登場人物に、誠は理解が追い付かないようだ。
この男性が果たしてどんなサポートをしてくれるのか、
誠が考えていると、恭子が再び口を開いた。


「マコトちゃんは、その男の人に軽々と身体を抱きかかえられると、
お尻の穴に男性器をあてがわれちゃうの」


「……ぇえ?」


急な展開に驚く誠。


「直美が見てるわよ……ゆっくりとオチンチンがマコトちゃんのお尻の中に入っていくわ……」


恭子は誠の左手首を掴むと、お尻に指をピストンするよう暗示をかけた。


「うっ……くっ……ぁっ……やめ…て……」

「どう? 気持ちいいわよね?
マコトちゃんの小さくて可愛い女の子おちんちんとはぜーんぜん違う、
大きくて逞しい本物のちんちんが、厭らしいお尻オマンコに出し入れされているわ」


指が肛門を出入りするたびに、
誠のふにゃふにゃだったペニスは徐々に硬さを取り戻していった。


「ぁぁ……大きくなっちゃ……ダメ………」

「あらあら? さっき直美のことを思っても全然反応しなかったおちんちんが、
男の人のちんちんを入れられただけで大きくなってきちゃった♡

ホント、マコトちゃんは女の子よりも、男の人が好きなのね。
直美も喜んでいるわ。

『ちんちん挿れられて、すごく気持ちよさそう。
そっか~! 誠ってそういう趣味だったんだ。
それじゃあ、あたしのこと思っても勃起できなくても仕方がないね。
良いお相手見つかって良かったね。マコトちゃん♪』って言って微笑んでるわ。
ふふふ……、ついに直美にもマコトちゃんって呼ばれるようになっちゃったわね」

「ぁっ……そんなぁ……直美……ちがぅ……」


恭子は誠の両乳首をいじり始めた。
直美に見られているという背徳感もあるためか、誠のペニスは硬く反り返ってしまった。


「あら~♪もう完全に勃起しちゃったわね。ごめんね、マコトちゃん。
さっきは直美のことを思って勃起してなんて言っちゃって……
マコトちゃんは女の子よりも男の子の方が好きなんだもんね。
ホモで女装が好きなオカマのマコトちゃんには、逞しい男の人に太くて硬いちんちんを突っ込まれて、オカマおちんちんをおっきさせちゃう方がずっと似合っているわ」

「ぁぁ……ちがぅ……ホモ……じゃ…ない……もん……」

「ホモじゃない男の子は、ちんちんお尻に突っ込まれて勃起したりなんか絶対しないわ。断言するけど、マコトちゃんは誰がどう見てもホモよ」

「……うぅ…」


恭子の言葉に反論することができない誠。
恭子はそんな誠の様子を見ながらさらに追撃を行う。


「さぁ~てと、直美に二人のお付き合いを認めてもらったところで、
マコトちゃんが完全に女の子になった姿を見せてあげましょうね。
ほ~ら、突き上げられるとすごく気持ちいい……
男の人とエッチしている姿を直美に見られて、すごく気持ち良いわよね……?」


恭子の繊細な指な動きに、誠の乳首も徐々に硬さを増していった。


「ふぁっ……き……気持ち……よく…なんか……」


アナルの奥から引きだされる快感と、
乳首から周りに広がっていく快感に必死に抵抗する誠。


「気持ち良くなればなるほど、マコトちゃんの心は女の子に近づいていくの……
女の子になると、また前みたいに直美と仲良くできるわよ……
『あたし、マコトちゃんとお友達になりたい』そう言ってるわ」



「んっ……ふぁっ。オトモ……だち……? ちがぅ……こいびと……」


途端に恭子の目付きが鋭くなる。恭子は冷たい声質で言い放った。


「お友達よ。

女装が大好きで、おちんちんも小さくて、弱弱しいあなたが、直美と付き合うの?

マコトちゃんは直美を相手にオナニーしても、
おちんちんを勃たせることもできないじゃない?

しかも『さよなら』って一言言われただけで泣いちゃって、
男の人に簡単に抱きかかえあげられて、ちんちん突っ込まれて、
ハァハァ興奮して勃起させちゃうマコトちゃんが、
男女の付き合いしたいなんて言い出したらダメじゃない」


きつい口調で恭子が誠を責め立てる。


「で……でも……」

「でもじゃない。
マコトちゃんは、直美と付き合ってどうするの?

そんなクリトリスみたいなチンチンで、男のマネごとも満足にできない分際で、直美のことを満足させられるわけないでしょ?

それを自分でもわかってるから、
何年も付き合ってきて、キス程度のことしかできなかったんでしょ?

マコトちゃんに勃起してもらえなかった直美がどんなに傷ついたか、
少しでも悪いと思うなら、きちんと直美に謝りなさいよ」


恭子の催眠によって、心を弱くさせられている誠は、
まるで先生や親に初めて叱られた子供のように、小さく縮こまり、
思わず謝罪の声を上げてしまった。


「うぅぅ……ごめん……なさい」

「ふふふ……、素直ね。大丈夫よ。
直美も『マコトちゃんが女の子としてお友達になってくれるんだったら許してあげる』って言ってくれてるわ。やっぱり直美は優しいわね。

こんな優しい直美には、マコトちゃんみたいに、か弱いなよなよしたオカマより、しっかりと守ってあげられるような強い人の方がずっとお似合いよね?」

「……ぅん。ぅぅっ……」


再び泣きそうになる誠。

普段、優しく相談に乗ってくれる恭子が、
今は全く反対の立場をとって自分を責めている。
心の弱っている誠にとって、今の恭子の言葉は何よりも辛かった。


「あら? また泣いちゃうの?
いいのよ? マコトちゃんは泣き虫でも……

男の人がこのくらいのことで泣いちゃったら、ちょっと引いちゃうけど……
マコトちゃんは女の子なんだもん。いくら泣いちゃっても、誰も何も言わないわ」

「ぐすっ……ぐすっ……うぅ…うぅ……」

「ほら、好きなように泣いちゃいなさい。女の子なんだもん」

「うっ……うっ……ううっ……うぇ~ん……うぇ~~ん……」


恭子の暗示により、自己評価がどんどん下がっていった誠は、
小さな女の子のように泣き始めてしまった。


「ふふふふ……泣いちゃったね……
マコトちゃんがあんまりにも聞き分けの悪い子だったから、
お姉さん、ついきつい言い方になっちゃったわ。ごめんね。
ほら、さっきの逞しい男の人が、チンチンで慰めてくれるって」


恭子は暗示によって、誠の鈍っていた指の動きを早めさせた。


「ぇぇんっ……ぁっ! うぅぅ……ううん! ぁっぁっあっ!」


誠の泣き声と嬌声が入り乱れる。



「気持ちいいでしょ?
マコトちゃんじゃ、こんな気持ち良さ、女の子に与えてあげられない……
マコトちゃんは常に受ける側なの。

女の子相手に勃起もできないのに、女の子と付き合おうなんてバカなことはもう考えないで、男の人に責めてもらうことばかり考えましょうね……

ほ~ら、逞しいちんちんがマコトちゃんのことズンズン責めてくれるわよ」

「ぁっ! ぁっ! ぁあっ! んんっ気持ちいぃ!」

「どこがどう気持ちいいの?」

「ぼ……僕……お……お尻……オマンコ……ちんちん……挿れられてぇ……きもち……イィっ!」

「僕? マコトちゃんは女の子なんだから、あたしって言わなきゃダメじゃない?」

「あ……あたし…」

「よくできました♪」


誠が女性化を受け入れられるようになったのを確認した恭子は、
最後の攻めとして、一気に暗示をかけることにした。


「ちゃんと女の子になれたかどうか、マコトちゃんに質問よ?
マコトちゃんは男の人のことが大好きな女の子よね?」

「ぁっ! ……はぁっ! ぅん……
あたしは……男の人が……好きな……女の子……」

「男の人のおちんちんが大好きなのよね?」

「うん……男の……人の……ちん…ちん……気持ちっ! ぁっ! 良くてぇ……
す…きぃ……♡」

「うふふ…素直になってくれて嬉しいわ♡
男の人とお楽しみのところ邪魔してごめんね。
それじゃあイキなさい。直美もマコトちゃんがイクのを待ち望んでいるわ…」

「ぁっ……、あっ……! 直美……イクっ……あ……あたし……、
おちん……ちんで……はぁっ! あぁぁっ! イっちゃうっっっっっっ!!!!」


誠は女のような声で叫ぶと、身体を弓なりに反り返らせペニスから白い液体を発射した。

高い声で激しく息をつく誠。
イッた直後にも関わらず、誠は指の動きを止めず、出し入れを繰り返していた。


「ぁんっ……おちんちん……いぃ……もっと……もっといれて……♡」


直美のことを気にもせず、ひたすら男の肉棒を求めているようだ。


(あらあら♡ 追加の暗示もかけてないのに自分から求めちゃって……
もうこれで大丈夫ね。リアルでも良いお相手見つかるといいわね。マコトちゃん)


その姿を見て、恭子は誠の心を染め上げたことに満足した。



※※※



「キョウちゃん、おはよ~!」


学校の通学路、いつものように直美が恭子に声をかける。


「おはよ、直美。昨日のテレビがどうしたの?」

「ねぇねぇ、昨日のテレビの話なんだけどさ! ……ってなんでわかるの!?」

「直美のことならなんでもわかるわよ♪」

「さすが、あたしのキョウちゃん、愛してる~♪」


キスのマネごとをする直美。

恭子は迷惑そうに腕で軽くガードしているものの、内心は少し嬉しかった。
しかし学校の通学路で見知った人達がいる前では、やはり迷惑だった……


「もぉーなんでガードするの~、ハニー?」

「みんなが見てるんだからやめてよね。朝からテンション高いわね~……」


『……おはよう、恭子さん、直美。』


背後から誠の声が聞こえた。

振り向くとそこには、以前とは少し雰囲気の違った誠の姿があった。


「おはよう、誠くん」


恭子は普段通り、誠に挨拶を返すが、直美は少しだけ身構えている様子だ。


「どうしたの? 直美」

「ううん、なんでもない。おはよう、誠……ん?」

(……あれ? 誠が目の前にいるのに、あんまり嫌な気分にならない……なんでだろう??)


直美は誠の様子がいつもと違うことに気付いた。

いつも直美を悩ませる嫌悪感が、今は不思議と感じない。
なんだか誠から直美を見る男性的な目付きが消えたような、漠然とした感覚があった。


「誠、今日なんだかいつもと違うね……」

「えっ? そ、そーかな? 僕…自分じゃちょっとわからないかも?」

「ふ~ん、何が違うんだろうね? ねぇ誠、今日は久しぶりに一緒に登校しよっか♪」

「……! でも、いいの? よくわからない嫌な感覚があるんじゃなかったの?」

「よくわかんないけど、なんかなくなっちゃった! それがなんだか探してみようよ♪」

「……うん! 探してみよっ!」


そこから二人は並んで、違和感の原因を模索し始めた。

にこやかな顔を浮かべて二人を見つめる恭子。


(直美と仲直りできて良かったわね、マコトちゃん。
ちょっとだけ話し方が女の子っぽくなったのが気になるけど……
まぁこの程度の変化だったら、十分許容の範囲内ね……)

「キョウちゃん! キョウちゃんも議論に参加してよ~! 
テーマは『直美を悩ます違和感の正体とは?』ね。さぁ、レッツ考察♪」

「考察って……、なんだか学問的ね……テーマの馬鹿っぽさも良い味出してるわ」

「こういうのは雰囲気があった方が楽しいんだよ! ねっ、誠?」

「うんっ! 恭子さんも一緒に考えよっ♪」


和気あいあいと学校へ向かう三人であった。



※※※



最近まで3人は、それぞれ違う悩みを抱えていた。

恭子は、直美を自分の物にするために2人を傷つけなければならない悩み。
直美は、理解できない嫌悪感により、誠を避け続けなければならない悩み。
誠は、直美と如何に元の関係に戻れるか考えなければならない悩み。

ここにきて、3人はそれらの悩みを解消し、
憑き物が取れたかのようにすっきりした表情をしていた。

これ以降、誠は恭子に、直美のことを相談しなくなった。

誠の男としての自信を失わせ、直美との男女としての付き合いを諦めさせる。
全ては恭子の思惑通り進んでいた。

あとは卒業まで今の状態を維持し、
卒業後、直美と恋人同士になれば良いだけだった。



しかし、恭子の計画は思わぬ形で躓くことになる。
恭子、直美、誠の波乱の関係はまだしばらく続くのであった……
[ 2017/10/26 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(-) | CM(0)

part.27 【 合格発表 】


冬も深まる二月、直美と恭子は、
試験の結果を知るために○×大学の校外掲示板前にいた。



二人以外にも大勢の受験者が、合格発表を今か今かと待ち望んでいた。

今の時代、わざわざ受験校まで来て合否の結果を見に行かなくても、
ネットを使えば、すぐに結果が分かるものなのだが、
直美が一人で見るのが怖いというのと、
テレビでよく見かける合格発表の雰囲気を直に味わってみたいという理由で、恭子を誘ってわざわざ電車で一時間もかかる○×大学へと来ていたのだ。

数名の学校関係者が、大きな紙を手に掲示板前にやってきた。
慣れた手つきで、その紙をボードに貼り付けていく。


「キョウちゃん……あたし、すごい緊張してる……あたしの番号あるかな?」


不安気な表情で、恭子に話しかける直美。


「大丈夫よ。見直ししてみたら、十分合格点いってたでしょ? 心配しすぎよ」

「だって~……もしもってことがあるじゃん。
答え書く欄を間違えてたってこともあるかもしれないし……」


恭子は、そんな馬鹿な間違いをする人がいるわけがないと思いつつも、
直美ならもしかしたら……という気持ちになった。


「……きっと大丈夫よ。過去問でも欄を間違えてたことなんてなかったでしょ?
あっ、もし合格したとしても、こんな大勢の人がいる前でキスしようとしないでよ?」

「え! ダメなの? わかった……、我慢する~」


直美を落ち付かせようと冗談を言ったつもりだったのだが、
するつもりだったと聞いて、冷や汗をかく恭子。



『それでは、みなさん。
大変混み合っており危険ですので、押さずに結果をご覧ください。』



発表用紙を貼り終わり、作業員が掲示板の前を離れる。

前から順番に合格結果を確認していく受験者達。


(もし、直美の番号がなかったら……
滑り止めの大学なら、直美も合格してるし、
いざとなったら、そっちに移るしかないかしら…)


恭子は当然自分は合格しているものと思っていたが、
先程の直美の言葉を聞き、直美が合格しているかどうか不安になっていた。

滑り止めの大学は、本命の○×大学よりも若干偏差値が下がる。
恭子の学力からすると、低すぎる大学ではあったが、直美と一緒に通うためなら仕方がないと思っていた。

恭子は直美よりも先に、自らの受験番号を見つける。

当然の結果に何も感じることはなかったのだが、
そこで直美の様子が少しおかしいことに気付いた。


「901…902…905…910……
あれ……? ないよ……? 909番がない……」


直美が青ざめた顔で掲示板を見ている。


(まさか、本当に……?)

「そんなわけないわ……もう一度、番号を確認して」

「何度確認しても無いみたい……
キョウちゃん、あたし落ちちゃった……
ごめんね…あんなに勉強手伝ってくれたのに……」


直美が泣きそうな顔で、恭子に番号用紙を渡してくる。
神妙な面持ちで、直美の受験番号を確認する。


「……直美……、これ番号逆さまよ……」

「えっ!?」

「直美の受験番号は、909番じゃなく606番よ。もう一度確認して」

「あっ!? ホントだぁ!」


恭子は、若干呆れ顔で番号用紙を返す。
慌てて、隣の掲示板に番号を確認しに行く直美。
受験時の番号と、合格発表時の番号は同じで、普通間違えるはずはないのだが、直美は別のものと思っていたらしい……


「598…601…603…605…606……606!!! 
キョウちゃん。番号あったよ! やったぁ~!!」


直美が満面の笑みで恭子に抱きつく。


「ありがとう、キョウちゃん!
これも全部キョウちゃんが手伝ってくれたおかげだよ!!」

「そんなことないわ。直美がやる気を出して勉強をした結果よ。
私が手伝っただけじゃ合格できなかったわ」


直美が自らの胸を、恭子のそれに押し付け、より深く密着する。


(ありがとう、キョウちゃん。本当に大好き。愛してる…)


去年の10月、催眠中に直美と恭子が初体験を済ませてからというもの、
直美は恭子の家に泊まりに行く週末以外は、
恭子のことを思って毎日オナニーをしていた。

直美は気づいていなかったが、恭子の家で催眠を受ける際は、
必ずお互いの身体を求め合い、幾度となく果ててしまっていた。

そのため、普段直美の方からキスのマネごとをしたり、
抱きついたりするのも、半分本気の思いがあった。

直美は既に恭子のことを親友としてではなく、愛する存在として見ていたのだ。


「直美……そろそろ良いでしょ? ちょっと長過ぎよ?」

「だめ! せっかく二人で合格した記念日なんだから、もっと抱き合うの!」

(まぁ、知ってる人があまりいないから別に良いんだけど、
だんだん好奇の目で見る人が増えてきて気になるわね……)


恭子も直美に抱きつかれたり、キスされそうになるのは嬉しかったのだが、
あんまり大っぴらに公共の場で好意を示されるのも考えものだった。

それも正式に直美と付き合うようになれば収まるものと思っていたので、あまり気にはしてはいなかったのだが……


「直美、ちょっと話があるの、大事な話だから喫茶店に行きましょ?」

「大事な話? なんだろう…?」


二人は離れるとそのまま大学を後にした。



※※※



「ここ前にテレビで出てたところだよね!
ここのパンケーキすごい美味しいって評判で、一度食べてみたかったんだ♪」

「事前にネットでリサーチしたのよ。
せっかく○×市に来たんだから、美味しいもの食べなくちゃね」

「さっすがキョウちゃん。準備良い~♪」


○×市の有名店で、ご当地名物を注文する二人。

店員が注文を取り終え、店の裏に消えて行ったのを確認し、恭子は口を開いた。


「それで話って言うのはね」

「うんうん」

「せっかく同じ大学に通うんだから、
どこかで同じ部屋を借りて一緒に住むことにしない?」

「えっ!?」


恭子の思わぬ提案に、驚きの声をあげる直美。


「ちょっと声が大きいわよ…」


声量を一段下げて、直美に注意を促す。


「ごめん……キョウちゃんとあたしが一緒に住むの?」

「そうよ、直美が良ければだけど……
一人で別々のところに住むより家賃も安く済むし、
直美と一緒に暮したら楽しく過ごせると思って……どうかしら?」

「もちろんいいよっ! てか、すごい嬉しい♪
キョウちゃんと一緒に住めるの? やったぁ~♪」


直美は、目を輝かせ大学に合格した時以上の喜びを見せた。


「そんなに喜んでもらえて、嬉しいわ」

「うん! なんか大学合格した時よりも嬉しいかも?
今日は大学合格するし、パンケーキ食べれるし、
キョウちゃんと一緒に住めることになるし、なんだか人生最良の日って感じ♪」

「そうね。じゃあ食事終わったら、一緒に住む場所探しにいきましょ♪」

「りょうかーい♪」


それから二人は、不動産に物件を探しに行き住む場所を決めるのであった。
直美が最良の日と言っていた通り、二人はこれまでにないほど幸せな気持ちで一日を過ごした。



※※※



それから2週間後……


「えっ……? まさかそんな……」


学校の廊下にて、恭子は誠から衝撃的な話を聞かされていた。


それは、『誠が○○大学を落ちてしまった』ということ。


恭子の催眠術によって、集中力と自分への自信を失っていた誠は、
絶不調のまま試験を受けることになり、善戦することもできず不合格になってしまった。


「残念だけど、仕方がないよ……
これも全部、僕自身が調子を取り戻せなかったのが悪いんだよ」


暗い顔を俯かせ、静かに恭子に伝えた。

実際、誠の学力は、十分○○大学の合格圏内に入るものだった。
それは恭子が○×大学を合格するくらいの高い確率で、誰が聞いても落ちたことが信じられなといった内容だった。


(あぁ……なんてこと……これは全部、私のせい……
誠君が悪いんじゃないわ……直美と誠君が友達同士に戻った時点で、
もっとサポートをしてあげれば良かったのよ……
3人仲良く過ごせていたことで油断していたわ……
まさか誠君が○○大学を落ちてしまうなんて、本当に最低ね…私は……)


取り返しのつかないことしてしまい、
恭子は誠に対する自責の念と、己への嫌悪感により苦悩の表情を浮かべた。


(僕なんかのために、こんなに真剣に悲しんでくれるなんて……恭子さんは本当に友達思いだな…)


そんな恭子の内心を知らない誠は、落第の報を聞き、
恭子がまるで自分のことのように悲しんでくれていると勘違いし、
恭子に対し強い信頼と感動を覚えた。


「ありがとう……恭子さん。僕……すごく嬉しいよ……
大学に落ちちゃったのは残念だったけど、
恭子さんみたいな優しくて他人を思い遣れる素晴らしい友人を持てて、僕は本当に幸せだよ……」


自分に向けられた言葉。
事実を知っている恭子にとって、それはとても辛い言葉だった。


「……そんなことないわ……私は……最低な人間よ……
誠君が勉強の調子が落ちていたのに、何もしてあげられなかった……
ごめんなさい……誠くん。本当に……ごめんなさい……」


恭子は心から謝罪した。
事実を伝えることはできなかったが、
それは直美と誠が別れた時から抱えていた罪悪感が吹き出した形であった。


「ううん……恭子さんは、全然悪くないよ……
ねぇ、恭子さん。直美と恭子さんは親友同士なんだよね?
僕も……恭子さんのこと、親友と思ってもいいかな……?」


誠は、恭子の今の反応と、失恋中に快く相談に乗ってくれたこと、
直美の受験に恭子が全面的に協力しているのを知っていたこともあり、恭子と親友として一生仲良くしていきたいと思った。

恭子は反応に困った。

自分は誠に親友と思われるような出来た人間ではない。
むしろ、自分の欲のために二人を破局にまで追いやった人間だ。

本当は引き受けられるような話ではなかったが、ここで断るのは不自然な流れだと思った。


「……えぇ…いいわ……私と誠くんも今日から親友同士よ。
……よろしくね。誠くん」

「うん、ありがとう、恭子さん!」


心から喜び、にっこりとほほ笑む誠。
その表情を見て、罪悪感をさらに刺激された恭子は、
誠の顔を見ていられなくなり思わず抱きついた。


「え……? 恭子……さん?」

「親友同士の抱擁よ……
志望校落ちてしまって辛いでしょ?
こうして抱きしめて、慰めてあげるわ……」

「……そっか……ありがとう、恭子さん……」


恭子は中学校の時にレイプされかけてからというもの、男性が好きではなかった。

表面上は普通に振る舞ってはいたが、
本来なら身体に触れるなど考えられないことで、
ましてや自分の意思で男性に抱きつくなどあり得ないことだった。

今回、恭子が誠に抱きついたのは、
誠が女の心を持つようになり、嫌悪感が減っていたというのもあるが、
恭子の中に起こった心の変化、湧き上がった思いが原因だった。


(ごめんね……誠くん……
こんな純粋な誠くんに嫌悪感を持つなんて許されることじゃないわ……
本当に嫌悪感を持たれなくてはいけないのは私の方……
親友同士……一生あなたに償い続けるわ……)


この2年半あまり、催眠により直美と誠の本質は大きく変わることになったが、
催眠をかけ続けた恭子自身の本質も大きく変化していた。

この抱擁は、誠のことを他の男性とは一線引いた存在として扱うという恭子の決意の表れでもあった。

そんな恭子の思いも知らず、
誠はまるで聖母にすがるかのような気持ちで、恭子の背中に手を回した。

しばらくの間、二人は恋人同士のように抱き合っていた。



※※※



「……」



そんな二人の様子を遠くから見つめる者がいた。



「誠とキョウちゃんが抱き合っている……一体……どういうこと?」
[ 2017/10/27 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(-) | CM(0)

part.28 【 悩みの種 】


卒業式が近付き、
残り僅かな高校生活も坦々と過ぎようとしていた。

深夜自分の部屋にて、直美は昔から使っている学習机に座りながら、
珍しく考え事をしていた。


「………はぁ…」


思い浮かべるのは、あの日の学校での出来事。
親友の恭子と、元彼の誠が仲睦まじく抱き合っていたことだ。

二人は、大学合格を喜び抱きしめ合っている様子ではなく、
いつになく真剣な表情で、何かを誓い合っているかのような様子だった。

そんな雰囲気ではとても近づけず、
直美はそっと様子を伺うことしかできなかった。


(キョウちゃんと誠、二人とも一体何を話していたんだろ……
大学のことだったら、あんな泣きそうな顔しないよね?
あんな風に抱きしめ合うなんて……あれじゃあ、まるで……)


不安な気持ちが直美を包み込み、頭から雲のような吹き出しが出始めた。

直美がお得意の妄想を始めたのだ。


「誠くん、私……あなたに伝えたくてずっと言えなかったことがあるの……」

「言えなかったこと……? 恭子さん、それは一体なんだい?」

「実はね。私……ずっと……ずっとあなたのことが好きだったの!!」

「えっ!!? まさかそんな……!?
学校一美人で頭が良くて優しく魅力的な恭子さんが、
まさか僕のことを好きだったなんてすごくびっくりだよっ!」

「今までは誠くんが、直美と付き合ってたから我慢してたの……
でもそれも今日で終わり。私の愛を受け止めてっ! 誠くん!!」

「もちろんだよっ! 恭子さん! 僕、嬉しくて泣いちゃう!」

「ほんとっ!? 私も嬉しくて泣いちゃう!」


まるでコメディドラマのような一幕であるが、
本人は至って真面目に妄想している。

あいかわらずの直美の頭の中である……


(どうしよう……キョウちゃんと誠が付き合うことになってたら……
本来なら親友として応援すべきなんだろうけど……
できない……そんなことできないよ……
キョウちゃんが、誠にとられちゃう。そんなのヤダよ!)


恭子の催眠によって、恋愛対象がすっかり女性へと変わってしまった直美は、
誠が恭子にとられるのではなく、恭子が誠にとられると自然に考えるようになっていた。


(待って待って。まだ決まったわけじゃないし……
キョウちゃん一度だって、誠のこと気になる素振りなんて見せたことなかったし、きっとあたしの勘違いだよ!)


浮かび上がる不安を慌てて打ち消し、電気を消しベッドに横になる直美。


(こんなこと考えるのやめて、
キョウちゃんのこと考えながらオナニーしよっと♪)


嫌なことを忘れるには気分転換をするのが一番。
そう思い、直美は習慣になっているオナニーを始めた。



※※※



目をつむり、恭子のことを思い浮かべる。

週末、恭子の家に行った際は、必ず一緒にお風呂に入っていたため、
恭子の裸をイメージするのは簡単だった。

直美は右手をクリトリスに、左手を乳首に添えて優しく撫で始めた。


(あぁ……今日もあたしのおまんこ触って……キョウちゃん♡)


そうして直美は意識を妄想の世界に溶け込ませていった……



※※※



「直美。今日はどこを洗って欲しいの?
可愛いおっぱいかしら? それとも濡れ濡れになってるオマンコが良い?」

「んっ……あっはぁ……どっちも~♡ どっちも洗ってぇキョウちゃん♡」

「へぇ~。どっちもして欲しいの……
直美ったらホント甘えん坊さんね♡ ほら、私のお股の間に座って。
じっくりキレイキレイしてあげるからね。ほーら……キレイキレイ♪」


泡でいっぱいになった恭子の指が直美の割れ目に触れ、慣れた手つきで愛撫していく。
それを受け、直美は犬が御主人様に甘えてお腹を差しだすような体勢で足をだらしなく開き、恭子の指先から生まれる快感に身を委ねた。


「ぁぁんっ! すっごい気持ちイィッ♪
ぁぁん♡ もっとぉ~もっとキレイキレイして♡」

「うふふ♡ 直美ったら綺麗好きなんだからぁ、
全身キレイキレイしてあげるわ♡」

「んんっ……あっはぁ……気持ち良い! キョウちゃん、だーいすき♡」

「私も直美のこと大好きよ♡ ちゅっ……」


自分の指を恭子のだと思いクリトリスを捏ね続ける。
そして唇をキスの形に変え、掛け布団を恭子の顔だと思い込みキスをする。

これが現在の直美のお気に入りの妄想だった。


「キョウちゃん、愛してる~♡ もっとチューしてぇ♡」
「ちゅっ♡ ちゅっ♡ 私も直美のこと愛しているわ♡」


(ガラガラガラガラ)


妄想にも関わらず、浴室の戸が開く音がする。


「ハッ!? 誰っ?」

「あっ、誠くん!」


なぜか浴室に乱入してくる誠。
顔以外の部分には、黒いモザイクが掛かっており見えなくなっている。


「直美、恭子さん。僕も一緒にお風呂入って良いかな?」

「だっ……ダメだよっ! 今はあたしがキョウちゃんと……」

「もちろんいいわよ!」

「えっ!?」


誠に抱きつく恭子。
誠はなぜか自信満々の顔をしている。


「ちょ……ちょっとキョウちゃん!?」

「ごめんね。直美。
私やっぱり男の人のことが好きなの。誠くん、一緒に愛し合いましょう」

「もちろんだよ。恭子さん、さあ愛し合おう!」

「あっ……ダメぇぇぇぇぇ!! キョウちゃんこと、とらないでぇ~~~!!」


辺りが急に真っ暗になり、
恭子と誠の二人と、直美を別々のスポットライトが照らす。

そのまま地面がスライドし、恭子と誠は遥か遠くの彼方に消えてしまった。

追うこともできず、両膝を地面につけ、両手を二人に向け叫ぶ直美。


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
キョウちゃーーん!! マコト~~!!」


二人の愛は永遠に……

あとには恋に破れた女の姿が残っていた。



※※※



(って! なんて妄想してるのっ!! )


自分の妄想に自分で突っ込みを入れる。
そのまま起き上がり、頭を抱えて項垂れる。


(もぉ~~! 変なこと考えちゃダメなの! 妄想するのは止めて寝よっと!)


直美は、そう思い再び枕に頭をつけ目を閉じた。



※※※



眠っている直美の隣に恭子が現れる。


「あっ! キョウちゃん!」

「うふふ、一人で寝るの寂しくて、つい来ちゃった♡」

「わーい♪ キョウちゃん、来てくれたんだ♪ 嬉しいっ! 一緒に寝よっ♪」

「あら? せっかく同じベットにいるのに寝るだけでいいの?
直美はもっと他のことをしたいんじゃないかしら?」

「……うん。寝るだけじゃなくて~おっぱい触り合ったり、
いっぱいキスしたり、いろ~んなことしたい♡」

「そうよね~。エッチなレズビアンの直美ちゃんは、女の子同士エッチしなきゃ眠れないのよね?」

「もぉー誰のせいでこうなったの?
キョウちゃんが魅力的過ぎるのがいけないんだよ?
あたしだって最初はこんなんじゃなかったのに、キョウちゃんのせいでレズビアンになっちゃったんだからね!」

「はいはい、責任取って直美をお嫁さんにしてあげるわ。ほら、誓いのキスよ。ちゅっ♡」


突然のキスと、お嫁さんにしてあげると言われ、赤面し大喜びの直美。


「やぁぁぁぁんっっ♡♡ もうだめぇぇぇ♡♡
キョウちゃんしか見えない~♡♡
もっとチューしてぇ♡ いっぱい誓いのキスしてお嫁さんにしてぇ♡♡♡」

「もちろんよ♪ 一緒に誠くんのお嫁さんになりましょうね♪」

「へっ!?マ……誠?」

「やぁ、恭子さん、直美」


スタイリッシュなタキシードを着た誠が突如現れる。


「なっ……なんでっ!?」

「待ってたわ、誠くん♡」


誠の姿に驚き、一瞬目を
離した隙にウェディングドレス姿に変る恭子。


「直美も誠くんのお嫁さんになるのよね?」

「えっ!? そ……そーじゃなくて、あたしはキョウちゃんの……」

「あら? そうなの? 普通、結婚って男女でするもんじゃない?」

「そ……そうなんだけど……」

「直美はお嫁さんになりたくないみたいね。もう行きましょ、誠くん♡」


そのまま二人は手をつなぎ、バージンロードを歩いてゆく。

舞台はいつの間にか教会へと変り、中央の祭壇の前で、
二人は誓いのキスを……


(あぁぁぁぁぁぁっっっ!!! キョウちゃ~~~~ん!!! )


先日の出来事は、直美が思っているよりもショックが大きかったようだ。
そのまま何時間も直美は悶え苦しみ、いつしか疲れ果て寝てしまった。



※※※



朝になり、目の下にクマを作りつつも登校する直美。

もう既に授業らしい授業もないため、週1登校となっている。
直美は今日、部室に置いてある荷物を取りにいこうかと考えていた。

ふと、後ろを歩く女子生徒達の会話が聞こえてくる。

別に聞き耳を立てていたわけではないのだが、
寝不足のため、耳が冴えてしまい、よく聞こえるようになっていた。


「ねぇねぇ、聞いた?
3年で有名な桐越先輩と甘髪恭子が付き合うことになったんだって!」

(えっ!?)


信じられない語り始めに驚く直美。


「聞いた聞いた! ずいぶん前に桐越先輩、彼女と別れたって聞いていたけど、まさか甘髪に寝取られていたとは……」

「なんか聞いた話によると、二人とも桐越先輩が前カノと付き合ってる時から頻繁に家を出入りしてたらしいよ。
始めは甘髪が教室に来てアプローチしたんだって! ほんと魔性の女よね」

(誠とキョウちゃんが前から頻繁に会っていた……? ウソっ……)


直美は思わず両手を口に添え、目を丸くさせる。


「え~、でもなんかショック。
桐越先輩って優しいし、そんな不純なことしないと思ったのにな…」

「きっと甘髪がえっろい誘惑して誑かしたんじゃない?
あれこれ理由つけて家に誘いだして、そのまま色仕掛けしたのよ。
あんな性格だけど、見た目だけは良いからね。
きっと桐越先輩もまんまと乗せられたんでしょうね」

「へぇ~、ずいぶん詳しいんだね……お姉さんにも聞かせてくれるかな?」


若干、こめかみをピクピクさせつつも、
無理やり笑顔を作り、後輩と思われる女子生徒に話しかける。


「……ちょっとアンタ誰? なに人の話に勝手に……」

「ひっ!? ふ……藤崎……先輩……」

「あたしの元彼と親友がなんだってぇ?」


誠と恭子とは別の意味で直美は有名だった。

類い稀なる身体能力、どんな相手にも怯まず、言いたいことをバンバンぶつける精神力、それに加え破天荒な性格で行動の予測が全くつかない。

そのため下級生の間では、怒らせると怖い先輩として恐れられていた。


「ご……ごめんなさ~い!!」


揃って謝罪する女子生徒達。

直美は本気で睨みつけると結構怖い、
そんな直美の威圧は、まともな女子が受けて耐えられるようなものではなかった。

寝不足と、親友と元彼を馬鹿にされた怒りで珍しくキレていた直美だったが、
ある程度怒りをぶつけたところで、恭子と誠が同じ通学路であることを思い出し冷静になった。

直美は落ち着くと、女子生徒達から噂話の詳細を聞きだした。



※※※



(まさかキョウちゃんと誠が、
あたしの知らないところで会っていただなんて……
でも……ただの噂話かもしれないし、決めつけたらあの子達と同じだよね)

「直美、おはよう」


背後から恭子の声が聞こえる。
その声を聞くだけで心が安らぐ気がした。


「おはよ~♪ キョウちゃん!」


たちまち笑顔に戻る直美。

不確かなことを、あれこれ考えるのが苦手だった直美は、
先程の噂話について直接本人に聞くことにした。


「あ、あのね、キョウちゃん」

「?」

(……でも、もし噂が本当で、
キョウちゃんに誠と付き合うことになったって言われたらどうしよう……)


そうだとしたら、
おそらくまともな顔で、恭子と向き合うことはできなくなるだろう。

思っていることが表情に出やすいのは自分でもよくわかっていた。

二人の新たな関係を応援するにしても、
表情から歓迎していないことが丸わかりになってしまう。


「やっぱりなんでもない」

「あら、そう」

(うぅ~……やっぱり聞けない……どうしたらいいんだろう……)


こんな時恭子だったら、
直美が思いつきもしなかったアドバイスをくれるものなのだが、
今回直美は自分で解決策を考えなければならなかった。


「おはよ~直美、恭子さん」

「おはよう、誠くん」


二人が歩いていると、誠が挨拶してきた。
心なしか、恭子の誠にかける言葉遣いは、いつもよりも優しく感じられた。


(あれ? キョウちゃん、なんか今日はいつもと違うような気がする……
なんでそんなに口調が穏やかなの…?)


これは直美の思い違いなどではなく、実際恭子は誠に優しかった。

関係が親友に格上げされたからというのもあったが、誠に負い目のある恭子は、
これからは誠をフォローしていこうと心を入れ替えていたのだ。


「あら……直美、どうしたの?
もしかしてまた訳のわからない違和感が現れたのかしら?」

「ん? あっ! 違うよっ!
ちょっと考え事してて……誠、ごめんね。おはよう~!」

「おはよう、直美。僕も返事ないから恭子さんと同じこと考えちゃったよ」


そう言いつつも笑っている誠と恭子。

直美には、それが昨日の妄想の中のイメージと重なって見えていた。



※※※



午後になり、帰り支度をする直美と恭子。


「そうだキョウちゃん、今日キョウちゃん家、行ってもいい?」

「週末以外にも直美がうちに来たいだなんて久しぶりね」

「うん、もうすぐキョウちゃんと一緒に住むことになるんだし、同棲の練習しとこうかと思って♪」

「何それ、いつも練習してるでしょ……
そのうち、引っ越しするまでの間うちに住みたいなんて言いだしそうね」

「えっ? いいの? 住む住む~♪」

「良いって言ってないわよ……
直美だって引っ越しするんだから、今から荷物まとめてなきゃダメよ」


笑いながらも、
直美が単純に自分と遊びたいだけなのだと思い、特に気にも留めない恭子。

そのまま二人は恭子の家に帰宅することにした。


(やった、できるかどうかわからないけど、
この方法ならキョウちゃんから誠とのことを聞けるかも……)


直美はある秘策を胸に、恭子の家に向かうのであった……
[ 2017/11/02 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(-) | CM(0)

part.29 【 選択 】


いつもの通り、恭子の部屋でくつろぐ二人。
以前は机を挟んで座っていたのだが、
今の二人は、ベッドを背にしながら隣り合わせに座っていた。


「はい、ハニー。あ~んして♪」

「あ~ん」


帰りにケーキ屋に寄り、ケーキを買った二人は、
お互いにケーキの食べさせ合いをしていた。

学校では直美の抱きつきや、いちゃつきように抵抗していた恭子だったが、
その分、自分の部屋では直美の好きなようにさせていた。


「おいしい? キョウちゃん♪」

「ええ、おいしいわよ。直美も食べてみたら? ほら、あ~ん」

「あ~ん。パクッ。お~~いし~~い♪
キョウちゃんに食べさせてもらうと美味しさ100倍って感じ♪」

「大げさね……」


直美はドキドキしていた。
こうして、ケーキを食べさせ合っているだけでも、
恭子を好きな気持ちがどんどん膨らんでいくのだ。


「はい、キョウちゃん。もう一度、口あけて、あ~ん」

「あ~ん」

「あ、ごめん。口に入れようと思ってほっぺたにくっつけちゃった♪」

「もぉ~わざとでしょ?」

「ごめんごめん、今綺麗にしてあげるからね~。チュっ♡ ぺろぺろ…」

「……それがしたかっただけじゃない?」

「え? バレた?
でもキョウちゃんのほっぺたについたケーキ、美味しさ1000倍だよ♪」

「どんどん桁が上がっていくわね……」


普通の友達だったら、
この時点で直美は同性愛者だと疑われても仕方がないのだが、
恭子はいつも通り、仲の良い女同士だったら当たり前という体を装った。

恭子が常にそのような態度をしているので、
直美の接し方も徐々に遠慮がなくなっていき、結果このような形になってしまったのだ。

特にお風呂場で洗い合いをしている際は、
お互いに下半身を洗い合うことすらも当たり前になってしまっていた。


「ねぇ、キョウちゃん…」

「なぁに? そろそろ催眠でもかけてもらいたくなっちゃったの?」

「あ、それなんだけどね。いつもキョウちゃんにかけてもらっているから、
今日はあたしがかけてみようと思って」

「え? 直美が私にかけるの?」


直美の提案に恭子は少し驚いた。
催眠術をかけ始めの頃は、難しそうだからあたしには無理~と言って、
かける側には全く興味を示さなかった直美だったのだが、今はなぜか乗り気でいるのだ。


(直美の方から、催眠をかけてみたいだなんて初めてね……
でも少し面白いかも? 直美がどんな催眠をかけるのか興味があるわ)

「ダメ? キョウちゃん」

「もちろんいいわよ。催眠のかけ方わかるかしら?」

「全然~触りだけでも良いから教えて~」



※※※



それからネットで検索しながら、催眠のかけ方を教えていく恭子。
1時間くらいで、基本的な部分を覚えた直美は、さっそく恭子をベッドに寝かせた。


「それじゃあキョウちゃん。いっくよ~?」

「ええ、お手柔らかにね」


恭子は催眠術にかからない自信があった。
元々催眠術というのは、かけられる側にも適性がいるのだ。
かけられやすいタイプというのは、直美や誠のように純粋に人を信じるタイプで、
恭子のように、常に人を疑ってかかるタイプには効かないものだった。

またかける側とかけられる側の信頼関係も必要だった。

誠も初めは直美に比べて催眠が効きにくかったが、
何度も催眠を重ねていくうちに、直美と同じくらいかけやすいタイプへと変わっていった。

それは恭子との信頼関係が深まったことを意味していた。


「キョウちゃんは、だんだん眠くなります」


恭子はリラックスして、眠くなったふりをした。


「キョウちゃんは、あたしの声しか聞こえな~い。それ以外何も考えられなくなります」

「……」

(……キョウちゃん、全然動かなくなっちゃった。催眠術効いたのかな?)


直美はさっそく恭子に暗示をかけることにした。

「キョウちゃんは両腕が徐々に上がっていきます」

恭子は直美に言われた通り、両腕を天井に向けて上げることにした。

「わぁっ! すごい、ホントに効いちゃったんだ!」

初めての催眠成功に大喜びの直美。

「キョウちゃんは手の力が抜けて、ベッドに落ちてしまいます」

恭子は言われた通り、腕をベッドにドスンッと落とした。

(さぁ、どんな催眠をかけるのかお手並み拝見ね)


恭子もこの状況を楽しんでいた。
直美が一体どんな催眠をかけるつもりなのか?

レズビアンだったら、
途中でキスくらいのことならしてくれるかもしれないと、淡い期待を寄せていた。

直美はしばらく何もせず、恭子を見つめている。
恭子には、何となくその間が、直美が悩んでいるように感じられた。


「よし、始めよ」


直美は自分を奮い立たせるように口ずさむと、暗示をかけ始めた。


「キョウちゃんの目の前には、大好きな親友の姿が浮かびます。それは誰?」

(ずいぶんと簡単な質問ね。そんなの言わなくても分かってるじゃない。
こんな質問をするってことは、何か疑っているってことかしら?
直美を不安にさせるようなことしたかしら私)


思い当たる節もなく、とりあえず直美の質問に答えることにする。


「……直美」

「えっへへ~♪ やっぱそうだよね」


恭子の答えに喜ぶ直美。


(単純にのろけたかっただけね。この調子で質問が続きそうな感じだわ)


特に深刻そうにも見えなかったので、ひとまず落ち着く恭子。


「じゃあ、次だけど……」


雰囲気が急に変わる。

直美には似合わない、どこか重々しく暗い空気だ。
恭子にはこれから直美が嫌な質問をしてくるかのように感じられた。


「キョウちゃんが、恋愛対象として気になってる人って誰かいる?」

(……!! 恋愛対象として?
なんて質問してくるのよ……どう答えようかしら……
少なくとも、直美って答えることはできないわね……)


恭子は答えに迷った。

今の段階で直美と答えることができないのは、
それを聞いて直美が告白してくる可能性があったからだ。

もしかしたら、今回の催眠は告白のための事前確認かもしれない。
と、恭子は考えた。

だが、誠が学校にいる以上、正式に付き合うことはまだできない。
大学入学後、誠と物理的に距離を置けるようになったら付き合おうと恭子は考えていた。


(そうだ、何も答えなければ誰もいないってことになるかしら? 
でもそれだと少し面白くないわね……)


恭子の心に悪戯心が芽生えた。

直美にとって、自分はまだ異性愛者で通っている。
もし他の男性が気になると言ったら、直美がどんな反応をするだろうか?

嫉妬して、これまでよりももっと自分のことを求めてくれるようになるかもしれない。

人前でイチャイチャされるのは迷惑だったが、直美に求められること自体は嬉しかった。

先程ケーキを二人で食べていた時のように、
二人でいる時に、より大胆に接してくれるようになったらどんなに良いだろうか。

そう思い、恭子は答えることにした。


「……誠くん」


男性としては一番身近にいて、納得のいく相手だった。
むしろ、誠以外の男性とはあまり接点がなかったので、こう答えるしかなかった。

恭子自身はもちろん誠に対して、そんな気は全然ない。

だが、直美の自分への執着心を高めるにはちょうど良いと思った。
恭子は直美の反応を待った。


「……やだ……うっうっうっ……」


直美が静かに泣き始める。
恭子にとっては予想外の反応だ。


(泣き始めるだなんて……
まさか、そこまで催眠の深化が進んでいるとは思わなかったわ……)


あまりの直美の反応に、起き上がってカミングアウトしようと思った。

『催眠にかかっているふりをしていた。本当に好きなのは直美』だと。

少々計画を変更することになるが、ここで直美と付き合い始め、
そのことは周囲には内緒だと口止めすることも可能だ。

ただ直美は考えていることが顔に出やすいタイプなので不安ではあった。
だが学校に行く日は、もう卒業式くらいしかない。
その一日だけを乗り切れば、あとはなんとかなるだろう。

恭子がそう考えていると、直美は涙声で言った。


「キョウちゃん……
あたしの知らないところで、誠と二人で会っていたのはなんでなの?」

(どうしてそのことを……!?)


それを聞いて、恭子は起き上がることができなくなった。

今起き上がれば、催眠にかかっているとウソをついた状態で直美と話を始めることになる。

質問している内容が内容なだけに、今、立ちあがって説明しても、
慌てて誤魔化しているように見えて、却って不信感が増してしまう。

しかし催眠状態であれば、
直美は自分の言っていることをそのまま信じるだろう。

あらぬ誤解を防ぐには催眠にかかっていると思わせておいた方が都合が良い。
恭子は眠ったまま答えることにした。


「直美の元気がないから、誠君とお互いに情報交換してたの…」

「えっ? それだけ…?」

「あと、誠くんの調子が良くなる様に催眠治療してあげた。
直美と別れてショックを受けているようだったから励ましてあげたりもした……」


誠に女装をさせたり、女性化催眠を行ったことについては伏せておいた。
誠も同じ質問されても、同じように答えるだろう。
誠が直美に催眠をかけられたらどうなるか不安ではあったが……


「そっか~。エッチなこととか全然してなかったんだね。良かった……」


深く安堵のため息を吐く直美。


(エッチなこと? 直美、一体どこからそんな情報仕入れたのかしら……
まさか誠くんに男の人とエッチする催眠をかけたことを言ってる?
声が近所に届くはずないし……届いても催眠の内容まではわからないはずだわ。
今度催眠で聞き出さないといけないようね…)

「じゃあ、この前、誠と抱き合ってたのはなんでなの?
……まるで恋人みたいに……もう誠と付き合ってるの…?
……うっ…うぅぅ……ひっく……」


そう言うと、直美はその時の光景を思い出したようで、また涙声になっていった。


(あの場面も見られていたのね……迂闊(うかつ)だったわ……
もっと周りを確認してからすれば良かった)

「誠くんが大学を落ちたと聞いて慰めてあげてたの……
すごく落ち込んでいて、つい可哀そうになっちゃって…」

「慰め合うだけで普通抱きしめ合ったりする?」

「私達、その時親友になったのよ。
親友同士の抱擁ってことで特別に抱きしめてあげたの」

「じゃあ、まだ付き合ってないの?」

「付き合ってないわ」

「付き合いたい?」

「……」


恭子は回答に苦慮した。

先の質問で、恋愛対象として誠を見ていると伝えたため、肯定せざる得なかった。
ここで、そうでもないと答えれば矛盾が生じてしまう。

恭子は軽はずみな気持ちで答えてしまったことを後悔した。


「……付き合いたいわ」

「そう……」


目を閉じているため、直美の様子はわからなかったが、声を切らして泣いているのだけはよくわかった。


(ごめんなさい……直美……私、馬鹿なことをしてしまったわ……
今から起き上がってあなたのことを抱きしめてあげたい。
愛しているのはあなただけだって伝えたい)


そうは思うものの、ここで起きたら疑われてしまう。

恭子にとって、
愛しているのは直美だけだと伝え、誠とのことを疑われるのと、
このまま黙って誠のことを愛してると思われるのと、
どちらが良いのか非常に難しい選択肢であった。

前者だと、おそらく直美に再び催眠をかけることはできなくなるだろう。
催眠術はかける側とかけられる側の信頼関係が大切だ。
愛していると伝えるにしても、今伝えるのはあまりにも最悪のタイミングだった。

実際、誠との関係は直美には秘密にしていたわけだし、
不純な関係はなかったと直美に信じてもらう以外、再度直美に催眠をかける方法はなかった。

催眠をかけることさえできれば、例え後者であったとしても挽回することは十分可能だ。



※※※



ちゅ…………

恭子があれこれ考えていると、唇に暖かい感触があった。
直美が自分にキスをしたのだ。

(……え? 直美、何を……?)


唇を離すと直美が話し始めた。


「キョウちゃん、よく聞いてね」


先程、泣いていた時とは全然違う直美の声。
まるで何かを決意したかのような強い意志を感じる……


「キョウちゃんは、今からあたしの言うことはなんでも聞くようになります…」


直美が恭子に新たな催眠をかけ始める。

この催眠が直美と恭子の新たな関係の始まりとなるとは、この時の恭子は気付いていなかった。
[ 2017/11/04 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(-) | CM(0)

part.30 【 正しい道 】


ここは恭子の部屋。



部屋は隅々まで片づけられ、
机の上も本棚なども綺麗に整理整頓されている。

床にはパステルピンクの絨毯が敷かれており、
その上にはオシャレな白いテーブルが置かれている。

一人で寝るには少し大きめなセミダブルベッド。
何年か前に恭子の親が、海外から取り寄せた高級品だ。

所々に自然な形で置かれている装飾品。
住む者の高いセンスを伺えるしっとりとした趣深い佇まいである。

大人の女性の雰囲気を醸し出す格式の高いこの空間では、
今まで幾度となく催眠術が繰り広げられていた。

今日もいつもと違わず催眠術が行われていたのだが、
普段と違うのは、かける側とかけられる側が逆ということ。

催眠のイロハも知らない直美が、
2年以上も催眠の研究をしてきた恭子に催眠術をかけているのだ。


「キョウちゃんはあたしが良いと言うまで催眠術から目を覚ましません」


自分のかける暗示が効いていると思い込んでいる直美は、
真剣な語り口で親友に告げる。

覚醒という言葉を知らない直美にとって、
催眠術はなんでもありの魔法のようなものに感じられていた。

催眠にかかっている振りをしている恭子は、
どんな暗示をかけられようと、その通りに実行しようと考えていた。
今、目を覚ますことは直美との関係を壊しかねないと感じたからだ。


直美が恭子に2度目のキスをする。


「ちゅ……ちゅ……ちゅぷっ……はぁ……」

(キョウちゃんとのキス、すごく気持ち良い……
キスだけでこんなに幸せな気持ちになれるなんて…)


直美は興奮していた。
普段なら恭子に拒否されるようなことでも、
催眠中の今だったらどんなことでもできてしまうのだ。

だが、直美の目的は決して己の肉欲を解消することではなかった。


「キョウちゃんは女の子同士のキスが好きになります。
男の人とキスするより、女の子とキスした方がずっとずっと良い~! って思ってしまいます」

(……この流れって…)


恭子は2年半前に催眠術をかけ始めたばかりの頃を思い出していた。

異性愛者の直美を、男性より女性が好きになるように変化させる。
絶対に手に入ることのない直美という存在、
それが催眠術を使えば手に入るかもしれないと考えていた。

初めは寂しさが元だったのだが、
直美に触れあううちに自分の本当の気持ちに気付き、それからは盲目的に突き進んでいった形だ。



今、直美は以前の恭子と同じように暗示をかけようとしている。

恭子を誠に取られてしまうのではないかという不安。
後輩の女子生徒から聞いた誠と恭子の関係。
そして催眠術によって知った恭子の気持ち……

初め直美は、恭子から誠との関係を聞くだけのつもりだった。
だが思っていた不安が的中してしまい冷静さを失ってしまった。

恭子が直美を愛しているのと同じくらい、
直美も恭子のことを既に愛してしまっていたのだ。


「キョウちゃんは女の子に触られるとすごく気持ち良くなっちゃうの。こんな風に…」


直美の手が恭子の胸に触れる。
優しく両手で撫でるように、直美は恭子の胸を揉み始めた。


「んっ……くぅ……ぁっ……」


直美の責めに、恭子は思わず声を上げてしまう。
元々好きな人に身体を愛撫されているのだ。恭子が感じないはずがない。


(催眠術ってすごい……こんなことも効いちゃうんだ……)


そうした恭子の気持ちを知らない直美は、
催眠術の効果で、恭子が感じているのだと素直に信じた。


「どう……? キョウちゃん……気持ち良い?」
「んっ……ふっ……気持ち…いい……」


催眠状態にない素の直美が、自分の意思で身体を愛撫してくれている。
直美のことを心から愛している恭子にとって、それは名状しがたい喜びだった。

直美が恭子のシャツのボタンを外す、
これからしようとしていることに、つい手が震えてしまう。

お風呂場で恭子の服を脱がす時とは違い、
直美はこれから恭子の身体に女同士の愛欲を刻み込もうとしているのだ。

シャツのボタンを全て外し脱がせると、直美はそのまま恭子の身体を起こし、
薄ピンク色の上品な形をしたブラを外した。

(ゴクン……)

恭子の白く形の整った膨らみが露わになり、直美は思わず生唾を飲み込んだ。


「キョウちゃんは、女の子に身体に触れられるとすごく嬉しくなっちゃうの。
舐められたりしたら思わず感じちゃうくらい好きになっちゃうの」


そう言うと、
直美は恭子の肩にそっと手を添えながら、恭子の桜色の頂きに舌を這わせた。
そして柔らかい白桃を味わうかのようにねっとりと舐め上げていった。


「あぁっ! ……ぁん……」

「キョウちゃん、舐められて気持ち良いよね?
キョウちゃんは男の人にこうされるよりも、女の人にされた方がずっと気持ち良くなっちゃうんだよ?」

「ぅ……うん……」

(女の人にされたからじゃないわ……
直美……私はあなたにされてるからここまで感じているのよ)


恭子の乳房を舐めながら、直美は自らのシャツのボタンを片手で外していく、
そして恭子と同じようにブラを外すと、そのまま乳房同士が重なり合うように抱きついた。


「んっ……はぁっ♡……気持ち……いいね?
キョウちゃんは、胸のない男の人と抱き合うよりも、
こうして女同士やわらかいおっぱいを感じながら抱き合った方が良いって思えちゃうの」

「うん……、直美のおっぱい柔らかくて、とても気持ちがいいわ……」


恭子の本音だった。

今まで何度も交わしてきた直美との性行為に比べると刺激は小さかったが、
催眠状態の直美と愛し合うのに比べて、正気の直美とこうして触れ合っていた方が、精神的な気持ち良さは遥かに大きかった。

そのまま直美は恭子の唇に自分の唇をくっつけると、
舌を絡め合わせるディープキスを始める。


「ちゅうちゅう……ちゅぷっちゅぷっ……はぁ……ん……んむ、んむ、んむ…」


直美の舌の動き一つ一つに深い愛情を感じる。


「ちゅぱっ……はぁ……はぁ……どうかな……?
キョウちゃん。女の子の方が好きになってきた?」


元々、催眠術は長い時間をかけなければ効果が現れないものなのだが、
恭子は直美の言うことをそのまま肯定することにした。


「えぇ……好きになってきたわ…」

「ホント! 男の人と女の人、どっちが好き……?」

「……女の人の方が好き……そして…直美のことが大好きよ…」

「やったぁ~!」


そう言い、直美は恭子の背に手を回しギュッと抱きしめた。
恭子が直美の元を離れるのではないかと不安だったのだろう……
直美の身体が小さく震えている。


(これで解決かしら……ごめんね、直美……
もう二度とあなたを不安にさせるようなことはしないわ……)


恭子はそう考えながら、震える直美を軽く抱きしめた。



※※※



そうしてしばらく二人は抱き合っていたのだが、直美が徐々に泣き始めた。


(ホントはこんなことしちゃいけないことなんだよね……
キョウちゃんが本当に好きなのは誠なのに……
それなのに、あたしは……あたしは……)


直美は目的を果たすと我に返った。
恭子と抱き合うことによって冷静さを徐々に取り戻していったようだ。

途端に深い罪悪感が直美を襲う。
権謀術数な恭子と違って、本来直美は純粋で曲がったことが嫌いなタイプだ。

催眠術を使って恭子の心を無理やり自分に向けさせるなど、
絶対にしてはならないことだと気がついたのだ。


「うっ…うっ……あぁ……ぁぁ……あたしは……あたしはなんてことを……
ごめん……キョウちゃん……やっぱ今のなしっ! 
キョウちゃんは誠のことが好きで、女の子より男の子の方が好きな普通の女の子なの!」


顔を真っ赤にして、涙を流し恭子に向って言い放つ直美。

恭子はそれを聞き、
信じられないことが起こったかのような絶望めいた顔をした。

直美は顔を俯かせ深呼吸をする。
心を落ち着かせ、呼吸を整えると、そのまま暗示を続けた。


「ふつうの……うぅぅっ…………
ふつうの……ぐすっ……おんなのこ……なの……
……だから………だからぁっ!」


ゆっくり顔を上げて恭子の目を見つめる。

溢れ出た涙で顔をくしゃくしゃにさせているが、
その目は慈愛に満ち、笑みを浮かべていた。



「……幸せに……なってね……キョウちゃん」



その言葉に恭子は深淵の底に突き落とされたかのような衝撃を受けた。

直美は催眠術で恭子の心を変えたことを深く反省し、方針を180度転換したのだ。

自分が恭子と一緒になることよりも、
恭子が本来好きな人と一緒になり、幸せになることを願った。

今まで湧き上がる罪悪感を抑えつつも、
直美を無理やり自分のものに変えようとしてきた恭子にとって、
直美の行動は耐えがたいものであった。

催眠時の表情を崩さないようにしていたが、
恭子は心の底から溢れ出る涙をどうしても抑えることができなかった。
恭子の目からも涙がこぼれ出る。


(うぅぅっ……こんなのって……こんなことって……
どう耐えろというの……こんなに苦しいことをどう耐えろというの……

直美は、私のために私のことを諦めようとしているのに、
私は直美と誠くんの幸せよりも、自分の幸せを優先してしまった……

今まで何度も二人を傷つけてしまった……
今だって直美のことを傷つけている……

でも後には引けない……誠くんをあんな風に変えてしまった今……

もう後戻りなんてできないのっ! 私はこのまま突き進むしかないのっ!
計画を中止だなんて絶対できないわ!)


恭子は必死に耐えた。
元から自分で選んだ道だ。
間違ったことをしているのは最初からわかっていた。

2年以上もかけてきた催眠術……二人とも気絶中の催眠も受けている。
これから元に戻すにしても同じくらいの年月を、
いや、もしかすると、もっと長い時間が必要になるかもしれない。

それに加え、二人を元に戻すということは、直美を諦めるということ。

恭子は直美のように、
愛する人を諦めて愛する人の幸せを願うほど心の強い人間ではなかった。

ここに来ても、恭子は直美を諦めきれなかった。
その気持ちがある限り、直美のことも、誠のことも元に戻すことはできないのだ。


「キョウちゃん……どうして……泣いているの……?
もう催眠は終わりにしよ? 目を覚まして、キョウちゃん」


直美にとってそれは、
単純に催眠術を終えて恭子の目を覚まさせるための言葉だった。

もちろん同じ意味で恭子も捉えていたが、
同時に恭子は『催眠術そのものを終わりにしよう。目を覚まして正しい道に進もう』と、直美に言われているような気持ちになってしまっていた。


(できない……できないの……
ごめんなさい……直美。……私は……それができるほど……強くない……)


直美を手に入れなければ、自分は絶望して死んでしまう。
他人にいくら自己中心的と思われようが、どんなに批判されようが、
このことだけはどうしても諦めることができない。

恭子は正しい道について考えることを一切やめることにした。


(とにかく直美が目を覚ますように言っている以上、
このまま催眠にかかっているわけにはいかないわ……目は覚ますのは良いとして……)


直美と恭子はスカートを履いてはいるものの、上半身は何も身につけていない。
直美は恭子に目を覚ますように言っているが、目を覚まさせた後のことは何も考えていなかった。


恭子はこの状態で目を覚ましたことにして、どう反応したら良いのかわからないでいた……

[ 2017/11/06 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(-) | CM(0)

Part.31 【 告白 】


「目を覚ましてキョウちゃん……」


再び目を覚ますように言う直美だったが、
恭子は素直に応じることはできなかった。

直美の突然の懺悔。
そして覚醒を促す行為。

あまりにも展開が急過ぎて、恭子は対応に苦慮していた。

この後、直美はどうするつもりなのだろうか?
目を覚まさせ、全てを話して謝罪するつもりなのか、
それともこのまま何事もなかったかのように終わらせるつもりなのか?

もう既に4年以上の付き合いになるが、
人の心の微妙な変化やニュアンスに敏感な恭子でさえ、
直美の次の行動を予測するのは難しかった。


ましてや、今はこんな状況だ。


(直美は単純だから、
どうにかこちらのペースに飲み込んで、
うやむやなうちに片づけられれば良いんだけど……)


そうは思うものの、できない理由があった。


なぜなら、今二人は上半身裸で、
胸をさらけ出している状態だったからだ。

例え女同士であっても、ベッドの上で裸で目覚めたなら、普通は驚くはずだ。

そのことに触れず、衣服を着て何事もなかったようにしたなら、
いくら単純な直美でもおかしいと思うはずだ。

最悪、恭子が催眠にかかっていなかったことがバレる可能性だってある。
そうなれば、直美との関係は破綻しかねない。

まずは、そのことについて話さなくてはならない。
それによって直美の次の行動がわかるはずだ。

恭子は、ありとあらゆる可能性を考慮して、
全力で直美に立ち向かうことにした。



※※※



「直美………どうして私たち……裸なの?
……説明してもらえるかしら?」


目が覚めてからの恭子の第一声だ。

直美がこの件を、どうするつもりなのか?
まずはそこを見極めなければならない。


「………………」


長い沈黙が続く。

直美はまるで電池の切れた人形のように、無表情だった。
何を言われているのか、わかっていないような、そんな表情にも見える……


(あれ……? あたし、今キョウちゃんに何を言われたんだろう……?
裸って言っていたような……?)


自らの姿と、恭子の姿を確認する。

裸だ……

そしてここはお風呂場ではなく、恭子の部屋の中。

直美は、そこでようやく恭子の言葉の意味を理解した。


(_________________アッ!)


その瞬間、直美は凍り付いてしまった。
パァーっと目を見開き、やってしまったという表情だ。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイ………
催眠解く前に服着せるの忘れてた!! どうしよう……どうしよう……)


直美は自分がかけた催眠術の方に意識が行き過ぎてしまい、
自分達が今どんな姿でいるのか、全く気付いていなかったのだ。


「え……えーっと……、こ、ここここれはねっ!
あの……その……えっと……」


急な展開に慌てはためく直美。

「あなたとエッチなことをするため、服を脱がせました」などとはとても言えない。


「キョウちゃんが裸なのは……その……、うんと……ええっとぉ……」


どうしたらよいのか分からず、
困り果てている直美を見て、恭子は少し安心していた。


(良かった……この件を話すわけでも、秘密にするわけでもなく……
本当に…………本当に何も考えてなかったのね……)


恭子にとって、人生最大のピンチであったが、
直美が全く何も考えていなかったおかげで、だいぶ救われる形となった。

直美に明確な意思がないのであれば、主導権を握れる可能性は大いにある。
望んだ方向に持っていくべく、恭子は誘導を始めた。


「はいはい、落ち着いて……
大丈夫、怒ってないから……まずは何があったのか、順番に説明して頂戴」

「う、うん……」


“順番に”と言ったのは、あくまでも何があったのかを“小出し”にさせるためだ。

今回の件はあまりに問題点が多すぎる。
その全てを一度に出されては、いくら恭子でも解決することはできない。

恭子のフォローに少しだけ冷静さを取り戻すことができた直美は、
子供のように首を縦に振ると、たどたどしく事の経緯を話し始めた。



※※※



恭子は直美の説明に軽く相槌を打つだけだったが、
話が誠のことになると口を開いた。


「そう……私は誠くんのことが好きで付き合いたいって答えたのね……」

「ごめん……こんなこと……催眠で聞くなんて間違ってるよね……」

「ううん、そんなことないわ。むしろ定番の質問ってところね」


なるべく直美が思い詰めないように、恭子は言葉を選んだ。

直美が自分でしたことを”大したことじゃない”と思ってくれたら良いのだが、
催眠をかけていた時の様子を思い出す限りでは、そう簡単にはいかないように感じられた。


「でも、どうしてそんな質問したのかしら?
今日は直美の方から催眠をかけたいって言い出したから、
珍しいなと思っていたのよ。
何か聞かなきゃいけない理由があったのよね?」

「キョウちゃんが、この前、誠と抱き合ってるのを見てつい……
それにあたしの知らないところで、二人が会ってるって聞いて、
本当のところはどうなんだろうって……」


(……)


こんな時、第三者だったら、どう思うだろうか?

別れた理由にもよるだろうが、
女は振った相手が誰と付き合おうとも、普通は気にならないものだ。
もし気になるのなら、
それは別れた彼にまだ未練が残っているということになる。

しかし、直美は”誠が恭子に取られてしまう”と思って、
催眠をかけたのではない。
“恭子が誠に取られてしまう”と思ったから、催眠をかけたのだ。

恭子はどうするか迷ったが、
とりあえず何も知らないふりをして会話を続けることにした。


「別れたとは言え、
つい先日まで誠君と付き合っていたんだから、気になるのは当然よね……
ごめんね、直美。ずっと黙ってたりなんかして……

誠くん、直美と別れてから、ずっと落ち込んでたのよ……
直美となんとか寄りを戻したいって……
直美に話したら、きっと気にするだろうと思って黙ってたの。

誠くんと会ってたのも、卒業式の日に抱き締めてたのも、
全て誠くんを励ますためだったの。
特別何かあったわけじゃないわ……」


催眠中に答えたことをもう一度繰り返した。
少々説明足らずなところもあるが、
既に答えを聞いている直美にはこれで十分なはずだ。


「うん……それはもうわかってる……それも催眠で聞いちゃったから……」


直美は、何か思い詰めたような顔をしている。
おそらく恭子に催眠をかけて、自分の好きなようにしようとしたことを、
気にしているのだろう……


「直美が元気がないのは、私が誠くんと付き合いたいって言ったから?
催眠中にどう答えたかわからないけど、きっと直美の勘違いがあると思うの。

ほら! 私ってあんまり男の人に興味なかったじゃない?
もし男の人だったら、誠くんが一番マシって、
そのくらいの軽い気持ちだったのよ。

直美が気にしているのに、誠くんと付き合ったりなんか絶対しないわ」


誠よりも直美の方が大事と、はっきり言ってしまいたいところだが、
一度、誠のことを好きと言ってしまったため、
何を言っても誤魔化しにしか聞こえないだろうと恭子は思った。


「キョウちゃんが誠のことを好きになるのは別に良いの……
あたしはもう誠と元に戻りたいとは思っていないし、
二人が付き合いたいなら、それで良いと思っている。
あたしが気にしているのはもっと別のこと……」


直美は棚のティッシュを取ると、軽く鼻をかんだ。
かんだティッシュをゴミ箱に捨て手で目を拭うと、改めて恭子に向き合った。


「ごめんね、キョウちゃん。
あたし……、催眠かけちゃったの。
キョウちゃんがあたしのことを好きになるようにって……」

「……何言ってるの?私は直美のこと大好きよ。
今さら好きになるように催眠をかける必要なんてないじゃない?」


言ってる意味は本当はわかっている。
直美は、親友ではなく恋人としての恭子を望んでいるのだ。
しかしそこに恭子は触れることはできない。


直美はもちろん首を横に振った。


「ちがう……そういう事じゃないの。
あたしはキョウちゃんのこと、“恋人”として好きなの……
友達としての好きじゃなくって……、愛してるの……」

「……直美」


恭子の心が揺れる。
こんな状況でもなければ、
すぐにでも直美のことを抱きしめて受け入れたであろう。

しかし、それではあまりにも矛盾が生じてしまう。
直美を納得させられるだけの言葉を、恭子はまだ出しきれてはいないのだ。

せっかくの愛の告白を素直に受けとれず、悔しくて思わず唇が震えた。

直美には、恭子のその表情が何を意味するのかわからなった。

親友だと思っていた友人から愛していると言われ、
ショックを受けているのかもしれない。
恭子を異性愛者だと思っている直美には、自然とそう思えた。


「それで……あたしは……
キョウちゃんがあたしのことを愛せるように催眠をかけようとしたの……
キョウちゃんが誠のことが好きなのを知ってて……
それでも諦めきれなくって……」


そこで言葉を詰まらせる。
直美は両手を握りしめ、自身への怒りで身体を震わせている。


「でも途中で気が付いたの……
キョウちゃんの幸せのことを考えていない自分に……
自分のことしか考えられない最低の自分に……!」


自身を責める心が、激しく心臓を動悸させる。
瞳からは、涙が滴り頬を悲しく濡らしていた。
声も絶えだえになりながらも直美は続ける。


「だから……だから……
あたしには、キョウちゃんに好きになってもらう資格なんてないの……
今まで……ううぅぅっ……
キョウちゃんに色んなことで助けてもらって……
いつも一緒にいてもらって……励ましてもらって……
それなのに……それなのに……ごめんね……ごめんね……」


恭子は言葉が出なかった。

直美が言っていることは、
ぴったりそのまま自分に当てはまることだったからだ。


“自分のことしか考えられない最低の自分。”

“好きになってもらう資格なんてない。”


普段から、目を背けている現実に、
無理やり向き合わされた恭子は、身体を動かすことができなかった。


そんな恭子の姿を見て、直美は心を決めた。


「もう二度とキョウちゃんに会わないことにするね……
大学も合格したけど入るの辞める。
せっかくあんなに勉強手伝ってくれたのにごめんね……
さよなら、キョウちゃん……今まで本当にありがとう……」


直美はそう言い、着替えを手に取ると、
ドアを開け一目散に部屋から飛び出した。


(……待って!)


まさに一瞬。
恭子の心の切り替えの早さが功を奏した。

廊下に出て駆け足で階段をかけ降りる直美を、
怪我をすることも厭わず追いかけた。


(ここで追いつかなければ、永遠に直美に会えなくなる気がする)


恭子が階段を降りた時には、
既に直美は靴を履こうとしているところだった。

直美が玄関のドアノブに手をかけたところで、
恭子はなりふり構わず、直美の背中に飛びついた。


「待って!! いかないで!! 直美!!!!」

「離して!! 行かせて!! キョウちゃん!」

「絶対に離さない!! 絶対に行かせないから!!」


追いかけた際にどこかに引っ掛けたのだろうか?
恭子の足からは血が流れ始めていた。

必死に叫ぶ直美の目に、その足が映り込んだ。


「キョウちゃん、怪我してるよ……
早く消毒して包帯巻いた方が良いよ……」

「はぁ……はぁ……
あなたが出ていかないって決めたらそうするわ。
あなたがケガさせたんだから、あなたが治療するのよ。
悪いと思っているんだったら……それくらいのことしてくれても良いでしょ……?」


ともかく今は直美と一言でも多く話をしなくては……
きっかけはなんだっていい、
この怪我が直美を引き留めるものになれば好都合だ。


「うぅ……痛い……
ここまでのことをして……
まさかケガをして苦しんでいる私を放って出て行ったりしないわよね?
直美……うっうっう……
そんな……ひどいこと……ひっぐ……しない……わよね……」


そう言うと恭子は泣き出してしまった。
痛みで泣いているのではない。
これまでの直美の言葉で感極まって泣いてしまったのだ。


「キョウちゃん……」


直美は身体を反転させると、
恭子の太ももと背中に手を回し、ゆっくりと身体を持ち上げた。


「………どこに運ぶといい?」

「……浴室に運んで……消毒しないといけないから…」


そのまま二人は浴室へと足を運んだ。



※※※



ジャーという音が浴室内に鳴り響く。

怪我をしている箇所にシャワーを当てる恭子と、
それを心配そうに見つめる直美。


「……大丈夫? キョウちゃん……」

「ダメ…すごく痛いわ……
早く包帯巻いた方が良さそうね……そこにあるタオル取ってもらえる?」


恭子は直美からタオルを受け取ると、濡れた足を包み、水気を拭き取った。


「このまま私の部屋に運んで……
一人じゃとても2階に上がれそうにないわ」

「うん、わかった」



※※※



直美に抱かれ自室へと向かう恭子。

直美は先ほどに比べて落ち着きを取り戻しているものの、表情は暗いままだ。

直美を引き止めるにはどうしたらいいだろうか?
再び直美に笑顔を取り戻すには?


(大学に入ったらなんて流暢なこと、言ってられない……)


恭子は、直美に伝える言葉を既に決めていた。



※※※



直美は部屋に入り、恭子をベッドに座らせると、
棚に置いてある救急箱から消毒液やガーゼなどを取り出した。


「直美……聞いて欲しいことがあるの」

「……何? キョウちゃん」


負い目があるためか、
恭子の言葉に直美は目を合わせない。
俯き、恭子の足を見つめたままだ。


「初めて会った日のこと、覚えてる?
中学の時、男子更衣室で襲われている私を直美が助けてくれた日のことよ」

「……うん」


直美は首を縦に振る。
消毒液を塗り、ガーゼで傷口を抑えているところだ。


「あの時、私はあなたに憧れたの……
なんて強くて逞しい人なんだろうって……
女の人への褒め言葉としては微妙かもしれないけど、
あの時、本当に心の底からそう思ったの」


包帯を巻きながら聞き耳を立てる直美に恭子は続けた。


「あれから私たちは仲良くなって、よく遊ぶようになって……
それまで、私は本気で友達と思える人は一人もいなかった……
みんな、本音と建て前ばかり……
裏では陰口を言ってて、何度も傷つけられてきたわ……
でもあなただけは裏表なく接してくれた……
私が心から友達と思えたのは、直美、貴女だけなの」


包帯を巻き終え、直美が口を開く、


「でもあたしは、その心から友達って思ってくれる人のことを、
催眠を使って好きなようにしようとしたの……
あたしは……そんな自分が、許せないっ!」


怒気を強めて言い放つ直美。
恭子はベッドから降りると直美に向かい合わせになるように座った。


「痛っ…!」


その瞬間、傷口から痛みが走る。


「キョウちゃん、無理しないで! ベッドに戻って、ほら…」


恭子に寄り添い、抱きかかえようとする直美を制止する。


「……大丈夫。それよりよく聞いて……」


恭子は痛みを我慢しながら、
寄り添う直美の肩に手を置き、じっと見つめた。


「あなたは誰も信じられずに独りだった私の傍にいてくれた……
いつも笑顔で、明るくて……そんなあなたは私の心の支えだった……」


恭子の目に涙が浮かぶ。
目頭を震わせ、鼻を啜る音を出す。


「そんな……そんなあなたが……ひっぐ……
そんなあなたがいなくなるなんて……私は……耐えられない……」

「キョウちゃん……」


そのまま直美を抱きしめる恭子。
耳元に口を添え、訴えかけるように伝えた。


「だからお願い……
二度と姿を見せないなんて言わないで……
これからもずっと傍にいて……私を独りにしないで……」


二度と会わないと言われ、大きなショックを受けていた恭子は、
気持ちを抑えきれずに泣いていた。

二人はそうしてしばらくの間、抱きしめ合っていた。



※※※



ベッドで横になる二人。

しばらくの間、無言の時間が続いている。
お互いに天井を向き、仰向けに寝ている状態だ。


「ねぇ、直美……?」

「なぁに…? キョウちゃん」


先ほどまでの直美と違って、今はだいぶ穏やかな口調に変わっている。


「直美の秘密教えてもらったから、
私も直美に隠していたことを話そうと思うの」

「隠していたこと……?」

「うん……」


恭子が何を隠していたのか、全く思いもよらない直美。
恭子は少し間を置き、敢えて言いにくいことを言うかのように話を始めた。


「私ね、実は……バイなの……」

「……バイ?」


直美は恭子の方を向くと、言葉の意味がわからず聞き直した。
その動きに合わせて、恭子も直美の方を向いた。


「バイセクシャルのこと。
男の人も女の人もどちらも愛せる人のことを言うのよ」

「……えっ?」


本当は男にはこれっぽっちも興味はないのだが、
一度誠を好きと言ってしまっている手前、
矛盾が生じないようにバイと伝えることにした。


「あっ、勘違いしないで、
直美をなだめようと思って言ってるわけじゃないのよ……
催眠をかけた時、私は誠くんを好きって答えてたのよね?」

「……うん。そう言ってたよ…」

「きっとそれは直美の質問の仕方が悪かったんだと思うわ。
普通、誰かに好きな人はいるって質問されたら、
答えやすい方を答えるものよ。
女性で女性を好きって言いにくいでしょ?
もし同性で恋愛対象として好きな人はいる?って限定された質問をされてたら……」


直美の両手を握り目を見つめる。


「『直美』って答えてたと思うわ……」


それを聞き、顔を赤くさせる直美。
目が潤み、嬉しさで微かに肩が震えているようだ。


「キョウちゃん……あたし、催眠の時、
キョウちゃんに女の人のことを好きになるようにかけちゃって……、
すぐに取り消しって言ったんだけど、
もしかしたらまだ効いてるのかも……?」


嬉しさと不安が入り混じった声で答える。若干涙声だ。


「私が直美のことを好きなのは、中学の時から、
そして男の人よりも女の人が好きなのも昔からよ。
レズビアン寄りのバイってところね。
そんな私に女の人を好きになる催眠をかけたところで効果あるかしら?」


直美の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
異性愛者だと思っていた恭子が、実はこんなにも自分に近いところにいた。
信じられない展開に、直美は嬉しくてたまらなかった。


「ううん……ないっ……」


恭子は握っている手を、直美の背中に回す。
その感触になぜか懐かしさを覚える。
触れられている箇所から、甘い痺れも感じる気がした。


「直美は私のこと愛してて、私も直美のことを愛してて……
二人の間を阻むものは何かあるかしら?」


恭子が徐々に直美に顔を近づけていく。


「ないわよね? 直美……」


恭子の顔が近づくにつれ、直美は徐々に顔を上気させていく。


「……うん。……ない」


今まで何度も崩壊しかけた直美との関係。
挫けそうになりながらも、ひたすら直美を手に入れるため努力してきた。
恭子はこれまで直美に抱いてきた気持ちを、精一杯言葉に込めて伝えた。


「付き合って、直美。
恋人として……ずっと傍にいて……」


断る理由は何もなかった。

ほんの数秒の間を置き、
直美ははっきりとした声で……「うん」と答えた。

目を閉じる二人、ゆっくりとその距離は縮んでいき。


そして……





――――――――――――ちゅっ。




二人の唇が優しく触れ合った。
[ 2018/02/01 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.32 【 初夜 】


「ちゅ………」



催眠を使ったキスでも、冗談のキスでもない。
正常な意識を保った状態での初めてのキス。

今まで幾度となく口づけを交わし、
慣れた者同士でのファーストキスは、ぴったりと息が合っていた。


(私……本物の直美とキスしてる……
これは催眠を深化させるためなんかのキスじゃない。
これは愛し合うためだけのキス……好きよ……直美)


(さっきと全然違う……キョウちゃんの心が伝わってくる。
それがなんだか、すごく嬉しい……
やっぱり、あたしが本当に好きだったのは誠じゃなくて、
キョウちゃんだったんだ……)


それぞれの思いを抱きながら、唇をそっと離す。


「キス……しちゃったね」

「……そうね。……どう? 私と恋人同士になった気分は?」


直美は笑顔になり、恭子に抱き付いた。


「夢みたい♪
ずっとキョウちゃんのこと、ノーマルだと思ってたから、
まさかこんなことになるなんて思わなくて……
今はこうして触れ合ってるだけでも、すごい幸せ…」

「普段からスキンシップが激しかったのも、冗談じゃなかったんじゃない?
本当は前からこうしたかったんでしょ?」

「えへへ♡ バレた? 半分本気だったよ」


首を傾げて悪戯っぽく笑う直美。
そんな姿を見て、恭子は直美のことがさらに愛おしいと思った。


「ところで……まだ答えてもらっていないだけど……
目が覚めて、どうして私と直美は裸だったのかしら?」


見透かしたような笑みを浮かべて質問する。

それに対し直美は目を上向け、気まずそうな表情していた。


「えっと……キョウちゃんが女の子同士に目覚めるようにって……
キスしたり……おっぱいを……
その……舐め……ちゃっ……たり……」


モジモジしながら答える。

次第に声も小さくなっていき、聞き取れなくなる。
大体何を言っているかは予想が着くのだが。

そんな直美は、
恥ずかし過ぎて穴があったら入りたいといった様子だ。


「へぇ~。だから裸だったのね。
どこをどう触ったのか、詳しく教えてもらえるかしら?
もしかしてこんな感じ?」


ギュ……

直美の胸に手を添えて優しく力を入れる。


「ぁっ……!」


突然の刺激に、ビクっとして声を上げる直美。
そのまま恭子は耳元に口を添えて囁く。


「ねぇ……直美。さっき目が覚めてから、
なんだか身体中がウズウズして仕方がないの……
これ……直美がしたんでしょ? 最後まで責任とらなきゃダメじゃない?」


恭子の淫乱な囁きに直美の呼吸は荒くなる。
股間はだんだん熱く湿り気を帯びていき、膣口からは甘い滴を生み出し始めていた。


「ハァ……ハァ……キョウちゃん……」


物欲しそうな眼で恭子を見つめる直美。

その表情に、欲情を刺激された恭子は、
催眠をかける時のような艶やかな顔に変わり、
直美の胸を指先で優しく愛撫しながら誘惑を続けた。


「直美……私を貴女の色に染めて……
頭のてっぺんから足のつま先まで、全てを貴女一色にして欲しい……」

「ごくん……はぁはぁ……
で、ででででも、きょ、キョウちゃん。
足……足ケガしてるじゃん……!?」


あまりの興奮に、つい声が上擦ってしまう。
まるで童貞の男の子が、初めて女性を相手にする時のような反応だ。


「だから直美の方からして。
催眠中にしてたことの続きを……
貴女の舌と指で、この火照りを解消して……?」


実際、恭子は中途半端に愛撫されたことで、発情してしまっていた。

恋人になった直美と早く愛し合いたい。

長年直美を追い続けてきた恭子にとって、
足の痛みなんかよりも、そちらの方がずっと大事だった。


「う、うん。わわわ、わかった。じゃっじゃあ、いくよ」


その誘いに促され、
直美は恭子の身体に触れるが、ずいぶんと動きがぎこちない。

催眠中は、恭子を自分のものにしようと必死だったが、
今は緊張感の方が勝ってしまい、思うように動けない様子だ。

胸に触れ、恭子の乳首を口に含もうとする直美を、恭子は一旦制止した。


「待って。 その前に下も脱がせて……」

「ししし、下も!?」

「そうよ……ここも直美の催眠のおかげで、
ずっとキュンキュンしちゃってるの…… ねぇ、早く……?」


指先で頬をスゥーっと撫で、なまめかしい表情で誘う。
直美は心臓をバクバクさせ、居ても立ってもいられない様子だ。


「う、うんっ! ぬがすよ、キョウちゃん」


恭子のスカートに手をかけ、
怪我をした太ももに生地が触れないように慎重に下ろしていく。

すると、
脱衣場でよく目にしていた上品な柄の薄ピンク色のショーツが姿を現した。

これからこのショーツを入浴のためではなく、
恭子と一線を越えるために脱がすのだ。

直美の心臓の高鳴りと興奮はひとしおで、
熱くなった潤みの壺から、
溢れ出た淫液がショーツの内側に新しいシミを作り出していった。


(やばい……あそこがすごいヌルヌルする……)


自らの下着を気にしながらも、恭子のショーツに手をかける。
それに合わせて、少し腰を浮かせる恭子。

ショーツを少し下にずらすと、
内側に留まっていた女の香りが外側に漏れだし、直美の鼻腔を刺激した。


(あぁ……良い匂い……)


直美の目はトロンとし、
ほんのり濡れる恭子の茂みに鼻をつけた。


「すぅーー……はぁ……
キョウちゃんのこの匂い……すごい好き……」

「ふふふ……もう直美はエッチなんだから……
全部脱がせたら、好きなだけ吸っていいのよ?」

「うん……♡」


直美は股間から一旦鼻を離すと、いそいそとショーツを脱がせていく。
そしてそれをベッドの下に落とすと、
両手を恭子の腰に回し、鼻をそっと陰部に押し当てた。


「んっ……」


直美の鼻が膣口に挿入される刺激で、思わず声をあげる恭子。


「すぅー……はぁ……ずっとこうしたかった……
脱衣場で脱がす時も、キョウちゃんのおまんこの匂い、
こうして思いっきり吸いたかったの……」

「へー? いつもそんなこと考えてたの?」


笑みを浮かべて、恭子が言う。


「あっ!!」


恭子の女の香りに夢中になって、思わず口走ってしまったようだ。
バッと起き上がった直美は、顔中真っ赤だ。


「直美はいつもそんなエッチなこと考えていたのね。
そういえばいつも女の子を目で追ってたわよね?
もしかして、その子達にもいやらしい妄想してたんじゃない?
ふふふ……
直美がこんなにスケベで女好きのレズビアンだったなんて知らなかったわ」

「ち……ちがうよぉ……
たしかに目で追ってたけど……素敵だなって思うだけで、
エッチなこと考えてたのはキョウちゃんにだけだよっ!」

「私に対して妄想してたのは否定しないのね……
いいわよ……? もう付き合ってるんだし、私の身体は直美だけのものよ。
好きなだけエッチなことしていいからね。レズビアンの直美ちゃん?」

「ああんっ! もぉーーー! キョウちゃぁぁぁぁん♡」


恭子の度重なる誘惑に、ついに直美の理性のタガが外れる。
緊張も何のその、恭子の身体をギュっと抱きしめ、唇に勢いよくキスをする。


「もう、キョウちゃんはあたしだけのもの♡ 大好きっ! 愛してる♡」


恭子もそんな直美のキスに応じる。


「ちゅっ、私も愛してるわ、直美。ずっと一緒にいましょうね」

「ハァハァ……うんっ! ずっと一緒♡
ずっとキョウちゃんと一緒にいるぅ♡」


二人は愛を囁き合い、唇同士を重ね、舌を絡め合った。
今まで幾度となく身体を重ねてきただけあり、その動きは実にスムーズだ。
催眠中のそんな経緯を知らない直美は、あまりの相性の良さに感動していた。


(キョウちゃんがしようとしていること、
あたしがしようとしていること、お互いに全部わかり合ってるって感じ♡
きっとキョウちゃんがあたしの運命の人だったんだ……
もうホント大好き♡ ずっと離さないからね、キョウちゃん♡)



※※※



数十分にも及ぶ女同士の絡み合いが続く。

乱れた吐息が重なり合い、ほんのりとした汗をかきながら、
これまで己の内に秘められてきた愛情と欲望を、相手の身体にぶつけていく。


「んっ……ぁぁ……んんんっ!!」

「ちゅ……ちゅ……ちゅぅっ。
はぁ……キョウちゃんのおっぱい……柔らかい……♡」

「あっ、あぁんっ! 乳首……はぁっ…! 
気持ちいぃ……んんっ……!」


今まで恐れていた覚醒の心配がなくなり、
恭子は開放的な気持ちで、
ただただ直美から与えられる快感に身を捧げていた。


「次はこっちだよ? あむぅっ……れろれろれろ……ぢゅる…」


直美が濡れ光る縦割れの桃の実にむしゃぶりついた。


「な……なおみぃ……
あぁっ……あっ……ふぁ! ……んんんっ!!」

「ぢゅぅ……ゴクン……
はぁはぁ……おいしい♡ キョウちゃんのエッチな液♡」


直美の舌の動きに弄ばれ、身体をさらに火照らせる恭子。
そんな恭子の反応に直美は上機嫌だ。

大好きな恭子を気持ちよくさせることによって、
自らに燻る官能の炎がさらに勢いを増していくのを感じていた。


「うふっ♡ キョウちゃんのクリちゃん、かわいい♡ れろれろれろれろ……」


刺激により皮が捲られ勃起したクリトリスを、
直美は優しく優しく舌の裏筋を使って丁寧に舐め上げていく。


「あぁーー! いぃっっ!! 
な……なおみ……それ……だめ……気持ちよすぎ……
それ以上されたら……わたし……いっちゃう……」


消え入りそうな声で直美に伝える。
小刻みに痙攣する身体は、彼女の絶頂が近いことを物語っていた。


「ハァハァ……イッて、キョウちゃん♡
あたしでもっと感じて♡」

「やだ……わたしだけじゃ……ヤダぁ……
一緒に……イキたいの……直美のも舐めさせて?」


初めては一緒に。

求めに応じ、直美は身体を反転させ、
恥じらいの部分を下ろしていく。

ピト……

恭子の鼻に、下着の生地が触れたところで気づく。


「あっ、ごめん。脱がなきゃねっ」


責めることに夢中で、ショーツを脱ぎ忘れていた直美は、
わたわたとそれを脱ごうとした。


「大丈夫。私が脱がしてあげる」


恭子が手を上げて、
ゴムの部分を指で掴むと、ショーツ全体がびっしりと濡れているのが分かった。


「直美、濡れすぎよ……
ウエストのところまで、直美の厭らしい液でぐちゃぐちゃよ?」

「えっ!? そんなに?」

「でも嬉しいわ……私でこんなに濡らしてくれて……」


恍惚の表情で直美のショーツを見つめる恭子。


(まさかここまで変わるとはね……
今の直美は、男とのセックスなんか一切考えられない、
女を責めることや、女に責められることでしか、
快感を得ることができない生粋のレズビアンになってしまったのね。

ありがとう、直美。私の世界に来てくれて……
女同士いつまでもいつまでも愛し合いましょ♡)


「もぉーそんなにまじまじと見ないでよ~」


恥ずかしくなり抗議する直美。


「そうね。ショーツを見るのはもう止めるわ。
その代わり、中がどうなってるかしっかり見せて頂戴」


ウエストにかけていた指を一気に引き下ろす。
露になる貝肉の割れ目……
薄ピンク色の突起はぴくぴくと震え、
愛しい人からの刺激を待ち望んでいるかのようだ。


「腰を下ろして、直美」


直美は、熱の籠るぷっくらとした丘陵を、
再び愛しい人の顔へと下ろしていく。


「……ちゅ♡」


自らの股間に、
舌の感触と息吹きを感じ、思わず声をあげてしまう。


「あぁっ!」

「んっ……直美の……すごい良い匂い……んんっ……レロ……」

「キョ、キョウちゃん……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!! 
だっだめぇっ……そ、それ……すぐいっちゃうよぉ……」

「そうね……直美もわたしのを舐めて……舐め合いっこしましょ♡」

「うん……ぁんっ…! あむっ……」


一心不乱に互いの秘部を愛撫し合う。
直美は初めての経験にも関わらず正確に恭子の気持ちの良いポイントを責めた。

催眠により、恭子の女の部分を何度も愛撫し続けた直美の身体は、
考えずとも、的確に感じるその部分に意識を誘導させた。


(なんであたし……
キョウちゃんの気持ちが良い部分がわかるんだろう?
キョウちゃんも、一番気持ちいい場所を知ってるみたいに責めてくれる……
もしかして……前世も一緒だったとか?♡)


何の疑いもなくポジティブな方向に考える直美。
元々あれこれ考えるのが苦手なのと、他人を疑わない性質では、
直美が自らかけられた催眠に気づくのは無理な話だった。

ノンケだった頃の自分のことも、誠への愛もすっかり忘れ、
女同士のセックスに溺れる女の姿がそこにはあった。


「あぁっ! 直美……わたし……イキそ……! 
あっあっあぁ!! イク……!」

「キョウちゃんっ……! あっあっあぁ!! キョウちゃぁぁぁんっ!!!」


―――――――――――――
――――――――
――― 



「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」



全く同時に恭子と直美は絶頂に達した。


………


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


二人の女性の荒い息が部屋に木霊する。

直美はゆっくりと身体を起こすと、
寝転がる恭子を抱き寄せキスをした。


ちゅ……


無言で二人は唇を合わせ、見つめ合い微笑んだ。




※※※




「ねぇ……キョウちゃん、あたし、夢見たんだ……」

「夢…? どんな夢かしら……?」

「あたしとキョウちゃんが、こうして寝てると、
急にマコトが現れて、キョウちゃんのこと連れ去っちゃうの」

「ぷっ……なんて夢を見てるのかしら」


あまりに可笑しくてつい笑ってしまう。
直美は普段の態度だけじゃなく、見る夢まで唐突なのだなと恭子は思った。


「もぉ……笑いごとじゃないの!
最近はそんな夢ばっかり見てて、ずっと憂鬱だったんだからね」

「ふふふ……あら、そう? でも、直美?
今のこの状況が夢じゃないってどうしてわかるのかしら……?」


不敵な笑みを浮かべて直美に疑問を投げかける恭子。
どうやら直美をからかおうとしているようだ。


「えっ!?」

(まさか……これも夢?
またマコトがジャジャーン♪って出てきちゃうの?)


直美はだんだん不安になってきた。
考えてみれば、あまりにも都合が良すぎる展開だ。
ノーマルな恭子が、実はバイで、しかも自分のことを前から好きだったなんて……


「ねぇ、キョウちゃん。あたしの頬っぺた、つねってみて」

「えっ?」


からかった直美が神妙な顔をしてお願いしてくる姿が、あまりにも可笑しい。
ひたすら笑いを堪えてつねってみた。


「いったあぁーーーーーーい!!!」


大袈裟に痛がる直美。
そんなに強くつねったつもりはないのだが、
直美のオーバーな反応に恭子も少し驚く。


「ごめん……そんな痛かった?」

「ううん……こっちこそごめん。嬉しくてつい声大きくなっちゃった。
でも……夢じゃないんだね!」

「そうよ、夢じゃないわ。夢みたいだけど、夢じゃないの」


二年前の恭子からすれば、今の状況は本当に夢のようだった。

直美をものにするために、何時間も何時間も催眠術を勉強した。
その努力が報われ、ついに直美を得ることができたのだ。


「キョウちゃんも夢みたいって思うの?」

「えぇ…、私も直美とずっと付き合いたいって思っていたから、
夢みたいな気持ちよ」

「えぇ♡ そ~お? じゃあつねってあげよっか?」

「……別にいいけど……
あなたがつねると、冗談じゃ済まなそうだからホント軽くね?」


直美はこんな小動物みたいな可愛い顔をしているが、
力は並みの女性よりはある。
少し怖かったが、からかって直美のことをつねってしまったのだから、
仕方がないと恭子は思っていた。


「じゃあ……つねって……あげるね?♡」


少しいたずらっ娘な顔をして、
恭子の目の前で人差し指と親指を近づけ、つねるような動作を見せると、
そのまま直美は、その手を素早く恭子の股間の方へと持っていった。


ギュっ……♡


「んんっ! ふぁぁぁっんっ!♡」


恭子の嬌声が鳴る。


「軽―く、優しくつねってあげるね?
ほーら、どお? これでもまだ夢みたい?♡」


直美は、恭子の勃起しているクリトリスを優しくつねっていた。


「あぁ……ん……直美……それ……違……ぅ」


引き続き、優しく振動させるように摘まむ。


「ねぇ? まだ目が覚めないの? キョウちゃん♡」

「ふぁ……やぁ……んんっ……」


腰をくねらせ逃れようとするが、なかなか上手くいかない。
恭子は逃げるのを諦め、自分も同じく直美の股間に手を伸ばした。


「あっ! んんんっ!!」

「直美だって……ぁっ……はやく……目を……覚ましたら?
お寝坊さん……んんっ!」


互いに互いの股間を刺激し合う。
始まりは刺激から逃れようと、腰を引けていた二人だったが、
しばらくすると、相手が刺激しやすいように腰を前に出し合った。
熱を帯びた目で、相手の目を見つめる。


「はぁ……はぁ……んんっ……
ほら……そろそろ……目が覚めて……きたんじゃない?」

「キョウちゃんだってぇ……早く……目を覚ましたらぁ?♡」

「まだ……そんなこと……言ってる……のね。
お目覚めのキスしてあげる……ちゅ……♡」

「あぁん……キョウちゃん……もっと……もっとそれしてぇ……♡」


そうしていつの間にか、二人は続きを再開してしまっていた。

夜はまだ始まったばかり。

二人の愛の交わいは明くる日の朝まで続いた……




※※※




この出来事より、二人の関係は親友から恋人へと変わった。

このことを周囲に知られるのを心配した恭子は、
直美に固く口留めをする。

それに対し、「はーい♡」と元気に返事をする直美だったが、
相手が直美なだけに、恭子は不安だった。

だが、心配し過ぎても仕方がない。
学校生活も、あとは卒業式を残すのみ。

その一日だけ直美から目を離さないようにしておけば大丈夫。
恭子はその一日だけは我慢して過ごそうと心に決めた。



そして二人は卒業式を迎えるのであった……
[ 2018/02/04 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.33 【 進路 】

一週間後……



恭子達の学校では粛々と卒業式が行われていた。

卒業証書の授与、校長の式辞、校歌斉唱など、
一連の流れを経て式を終えた生徒たちは、それぞれの教室へと戻っていった。


教室に戻り、担任の先生が来るまでの間、恭子は手洗いに出かけた。
そこで、ちょうど手洗いを済ませた誠と鉢合わせる。


「あ、恭子さん」

「あら、誠くん」


お互いに軽く笑みを浮かべて声を掛け合う。
二人の関係はこれまでになく良好なものへと変わっていた。


「恭子さん、ちょっと話したいことがあるんだけど、良いかな?」

「話したい事?」


誠の誘いに応じる恭子。
トイレを出入りする生徒達の邪魔にならないように、
入口から少し離れると、二人は会話を始めた。

誠の女性化が進行し、また女装の話でもされるのかと期待していた恭子だったが、
実際はもっと真面目な話だった。


「実は、進路のことなんだけどね。
色々と考えて、恭子さんと同じ〇✖大学に決めることにしたんだ」

「えっ!? ホント!?」


驚きの顔を見せる恭子。

誠から大学の話をされるのは、
〇〇大学を不合格になったと聞いてから初めてのことだ。

実際誠は〇〇大学に落ちてはいたものの、その他の大学には合格していた。

〇✖大学は、よく〇〇大学の滑り止めとされる大学でもあったため、
〇〇を落ちて、〇✖に決める生徒は多く、誠の選択肢もさして珍しいものではなかった。

しかしそれでも恭子が驚く理由があったのだ。


「誠くん〇△大学も合格していたじゃない? どうしてそっちにしなかったの?」


〇△大学は、大学のレベル帯で言うと、
〇〇と〇✖の中間に位置する大学であった。

恭子は当然誠は〇△大学に進むものと思っていたのだ。


「僕もそう思ってたんだけど……
実際に行って雰囲気を感じてみたり、進みたい分野のことを考えたら、
〇✖の方が、僕に合っている気がしたんだ」


自分に合っていると思うのなら、それが一番良い。
恭子も大学を偏差値で決めるタイプではなかったため、素直に同意することにした。


「それなら別に良いと思うわ。やりたいことに合っているのが一番よ」

「ありがとう、恭子さん。
学部は違うけど、校舎は近いし、
また恭子さんや直美と一緒にいられると思うと嬉しいよ」

「うふふ、そうね。また四年間よろしくね。誠くん」

「うん、こちらこそ」

「じゃあ先生戻ってくるし、またねー」


恭子はそう言い、にっこりとほほ笑むとそのまま女子トイレに入っていった。


(まさか、誠くんが〇✖大学に決めるとは思わなかったわ……
きっとこのことを聞いたら、直美も喜ぶわね。
これからまた四年間、三人で仲良く……三人で……)


途端に真顔になる恭子。


(ちょ、ちょっと待って……)


地面を見つめる恭子の額から、うっすらと汗が滲み出る。


(まずい…………それは……まずいわ……
もし誠くんが同じ大学に通うことになったら、
直美と付き合うことができなくなる……)


元々、恭子は誠の学力なら〇〇大学は余裕で合格できるものと思っていた。

万が一落ちたとしても、それより一段下の〇△大学に入るものと思っていたため、
自分たちと同じところに通うなど想定もしていなかったのだ。


(私と直美が付き合い始めたら、誠くんは不審に思うはず……
直美との付き合いは私より長いし、元々同性愛に興味がないのも知っている……
もし自分の変化と直美の変化が近いことに気がついたら……)


恭子は鏡で軽く身だしなみをチェックすると教室に戻った。
担任の別れの挨拶は上の空で、この問題をどうするかを考え始めた。



※※※



先生が最後の挨拶を終え、
生徒達は、それぞれが三年間通った学び舎を後にする。


「キョーーちゃん♡
ねぇねぇ、一緒に行きたいところあるんだけど~?」


席を立ち、すぐさま直美が駆け寄ってくる。
高校三年間を終えたという感慨もなく、既に意識は次へと向いているようだ。

甘える猫のような態度で、恭子に身体を摩りつけデートへと誘う。

今まで直美のレズっぽい行動を冗談と思っていた生徒でさえ、
いくらなんでもやり過ぎと思うほどの露骨な態度である。


「えぇ、いいわよ」


特に大きな反応することもなく応じる恭子。

恭子は、誠のことに頭が回っており、細かいことを考える余裕がなかった。
いつも以上に目立つ直美の態度にも、
それを引いた目で見ている他の生徒たちの視線にも気づかず、
直美に誘導されるように学校を後にした。


(だめ……どう考えたって、催眠をかける以外に解決策が見つからない……
もう誠くんに催眠術なんてかけたくなかったけど、
大学で三人仲良くしていくためには、かけるしかないわ……
直美のことだから、四年間バレないように付き合っていくなんて絶対無理だし、
だからといって、別れることなんてできない……)


歩くにつれて、徐々にテンションが上がってくる直美。
恭子に向かって色々と話しかけているようだが、あまり耳には入っていない。

そうこうしているうちに、直美は最近できたばかりの喫茶店に恭子を連れてきた。
女の子受けしそうな、少しカラフルな感じのお店だ。


「あった! ここ、ここ。このお店に入ろ~♡」

「えぇ」


直美が恭子の腕を組んで店内に入る。
普段から直美のスキンシップが激しかったこともあり、
恭子は腕を組まれていることにも気づかなかった
あいかわらず考え事に夢中になり、直美の言われるままに動いている感じだ。


(まずは誠くんをもう一度、私の家に呼ばないといけないわね……
大学に入る前に決着をつけないといけないし、あまり時間はなさそう……)


「いらっしゃいませー! えっ?」

「女の子二名入りまーす♪」


店員の挨拶に元気よく答える直美。
女性二人が腕を組んで仲良さげに入店したため、
店員は少し驚いた顔をしていたが、気にしないふりをして席へと案内した。


「キョウちゃん、あたしこれ食べたいなぁ~? 頼んでもい~い?」

「好きなの頼むと良いわ、私は適当になんでも良いから好きなの選んで」

「えっ!? マジで!? じゃあ、店員さん~! これください~♪」


とても幸せそうな顔でオーダーを頼む直美。

最初は驚いていた店員も、直美のその満面の笑みを見て、
「あぁ、なるほど」と納得してカウンター裏に戻っていった。


(でも一体、どんな催眠をかけたら……?
いくら女性化を進行させたところで、
私と直美の仲を変に思わないようになんてできない。
他の催眠をかけるにしても、時間がかかり過ぎるし、
気絶させるのも、そう都合よくできることじゃない……)


「ねぇ~聞いてる~? キョウちゃん、もしかして何か考え事してない??」


ハッと我に返る恭子。
ふと、直美を見ると少し怒っているような顔をしている。


「え? あぁ……ごめんね。
ちょっと卒業式で疲れちゃって……それで、ボーっとしてたのよ」

「へぇ~本当に卒業式で疲れたの?
もしかして……あたしのことを考えて、昨日の夜、しちゃってたんじゃない?」

「直美と一緒にしないでよ」

「え~~! してくれなかったの~? ちょっとがっかり……」

「しないこともないけど……
ってここ、公共の場なんだからそういうこと言わないの」

「はーい♡ あぁ……早く注文したもの来ないかな~?」

「ん? 何かくるの?」

「あっ! きたきた~!」


直美の目線を追い、後ろを振り向く恭子。

ちょうどカウンター裏から、
店員が盆の上に大きなパフェを乗せてやって来たところだった。


(なにあのパフェ……大きすぎでしょ……
まさか直美一人であれを食べるつもり……?)


あまりにも嬉しそうな顔で待ちわびている直美に釣られたのか、
店員も終始笑顔で、テーブルの真ん中にパフェを配置する。



「お待たせしました。
【恋のキューピッド ストロベリーキスパフェ】でございます」

「わーい♡」

「えっ!? ……どういうこと? 恋の……キューピッド??」


恭子はそこで気づいた。

このお店、よく見ると、どの席のカップルも仲良さげに同じようなパフェを突いている。
一人で来ている客や、家族で過ごす人達の姿は見当たらない。
まさにカップルだらけだ。

そんな雰囲気の中、女同士でこのパフェを頼むのが珍しいのか、
チラチラとこちらに目を向ける人の姿もある……

そして今横にいる店員は、
まさに自分と直美が、いわゆるそういう関係だという確信を持った目つきで見ている。


「お客様……こちらのスプーンを使ってお召し上がりください」


渡されたのは、持つ柄の部分がとても長いスプーンだった。


「ちょっと……このスプーン……長すぎるんじゃないかしら……?」

「キョウちゃん、このスプーンはね! こう使うんだよ♪」


店員が答える前に、
直美は持っているスプーンでパフェを掬うと、恭子の口元に持っていった。


「はい、あ~ん♡ キョウちゃん、食べて♡」

(うぅぅ………もしかしてこのパフェって……)

「では、ごゆっくりお寛ぎください~」


自然な笑顔で店員が戻っていく。
直美は期待した表情で、口元に添えられたパフェを恭子が口にするのを待っている。

直美をずっとそのままの体勢にしておくこともできず、仕方なく口にする恭子。


「おいしい?」

「えぇ……おいしいわ……
ねぇ、直美……これって何なの?」

「え? カップルパフェだよ?
さっきキョウちゃん、好きなの頼んで良いって言ってたじゃん……
それとも、もしかしてずっと適当に答えてたの? せっかく楽しみにしてたのに……」


悲しそうな表情を見せる直美。
それは受け入れてくれた思いを反故にされたような反応だった。


「そ、そんなことないわっ……ちゃんと聞いてたわよ!
何味なのかな~って思って……」

「あっ! なんだそんなことか~。
なんかイチゴとかブルーベリーとかチョコとかいろいろ混じってるみたいだよ。
今キョウちゃんが食べた部分は、ドラゴンフルーツとタピオカのところかな?

そうそう! このパフェねっ! 
愛し合ってる二人で食べ合うと、一生仲良く添い遂げられるんだって! 
この前テレビの特集でやっててさ! 
これは是非キョウちゃんと行かなきゃ! ってずっと思ってたんだよねっ♪」


(やっぱりそういう意味合いのパフェだったのね……)


直美のその気持ちは嬉しいが、
こんな学校近くの喫茶店で、直美と恋人同士のような雰囲気で、
こういったパフェを食べ合うのは避けたかった。

どこで誰が見ているかもわからないし、もし二人を見知った人が見たら、
さすがに冗談だとは思ってもらえないだろう……

しかし、先日、何度も直美を泣かせてしまっていたこともあり、
直美の悲し気な表情は、恭子にとって少しトラウマものだった。

もうこうなってしまっては仕方がないので、恭子は現状を受け入れることにした。


「キョウちゃん~♡ あたしも食べた~い♡ 食べさせてぇ?」


恭子は渋々、直美の口元にパフェを運ぶ。


「おーいし~い♡ やっぱりキョウちゃんに食べさせてもらうと、
美味しさ10000倍って感じ♪」


ただでさえ女同士で目立つというのに、直美のこのハイテンション……
周りの好奇な視線の的となり、恭子は針のむしろ状態だった。


(は……恥ずかしい……)


ただの女同士が、パフェを食べに来ただけなら、
ここまで人々の注目を浴びることはなかっただろう。

問題はこの二人の容姿にあるのだ。

端整な顔立ちときめ細かい美肌。
見つめるものを魅了する目。
大きすぎず小さすぎずスッと筋が通った鼻。
瑞々しいぷっくらとしたピンクの唇。
まるでドラマや小説の中から飛び出てきたヒロインのように、
恭子は完璧な美を備えていた。

対する直美は、少しおバカなところはあるが、小動物的な可愛さがある。
クリクリっとした愛らしい目。
愛らしい少女のような小さな唇。
小猫のように可愛らしい低い鼻頭など、
方向性は違うが、直美も恭子と並び称されても良いほどの美人だったのだ。

こんな美女二人が仲睦まじくパフェを食べさせ合っていては、
注目しない方がおかしい。

そんな周りの視線など何のその、
直美は恭子とカップルパフェを食べる喜びで一杯だった。

セックスする時のような悪戯じみた怪しい眼差しで恭子にパフェを運ぶ。

周りの視線と、直美のそんな態度に、恭子は顔を真っ赤にさせていた。


(やばい……恥ずかしすぎて死にそう……)

「ねぇ、あの二人付き合ってるのかな?
髪の長い方の子、顔真っ赤にしちゃって、恥ずかしがっててかわいいよね」

「いわゆる"レズビアン"ってやつだね。制服着てるけど、この近くの学生さんかな?」


いつもは気にならない、周りの声が今はやけに耳に響く。

誠対策をどうするかなどといった考えは、もう恭子の頭に浮かんでこなかった。

この目の前の大きなパフェが全て食べ終わるまで、
恭子は消え入るような気持ちで過ごすのであった。



※※※



この喫茶店での出来事は、
恭子の誠への催眠の意思をより一層強固なものへと変えていた。

直美は1週間ほど前に、
恋人になったことは公言しないように口留めをされていた。

たしかに直美は、約束通り誰にもそのことを話すことはなかったのだが、
あまりに馬鹿正直な直美の性格は、言葉に出さなくとも、態度で考えていることが丸わかりだった。


これでは誰にもバレずに付き合うなど到底不可能だ。


遅かれ早かれ、誠は二人の関係に気づいてしまうだろう……

そうなる前に、なんとかして認めさせなくてはならない。
例え催眠術を使っててでも……

だが恭子の今の技術では、誠をすぐに変化させることなどできなかった。


(もっと即効性のある催眠術を身に付けなくては……)


恭子は各地の図書館などに入り浸り、
催眠術の古い文献などを読み漁っていった。
[ 2018/02/07 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.34 【 発覚 】


ガヤガヤガヤガヤ……




ここは〇✖大学の校門前。


恭子達の高校と違い、
学術都市の中心地にあるこの大学は、常に人混みで賑わっていた。

そこで時計をじっと見つめる恭子。
少し心配そうな表情をしているその目に、慌てた様子で走り寄る直美の姿が映った。


「もー遅かったじゃない? 直美、一体どこに行ってたの?」

「キョウちゃん、ごめ~ん。
さっき白づくめのローブを着たおじさん達に引き止められちゃって……
それで遅れちゃった」

「へっ? 何それ……?」

「それがね!! 今度新しく出来た〇〇教って宗教団体らしくて、
入会すると、なんと! 
お金持ちになって、バラ色の人生を送れるようになるんだってさ!!」

「はぁ?」

「それでね! こんな良い話はない!! って思って、
友達も一緒に入会してもいいですか!?って聞いたら、
どうぞ~♪どうぞ~♪って!! すごくフレンドリーで良い人達だったよ!!」

「ちょっと……待ちなさい……
それって典型的なインチキ宗教じゃないのよ! しかもお金持ちって……
マルチなんだか、宗教なんだかハッキリしなさいって感じね……」


自分が詐欺に遭いかけたとも知らずに、大はしゃぎの直美。
そんな直美を無理やり引っ張って、校内へと連れていく。

高校時代もそうであったが、
大学に入っても振り回されっぱなしの恭子なのであった。



※※※



校内の一室、
ここで恭子達はサークル活動を行っていた。


「だからわかった?
もう二度とそんな胡散臭い人たちに関わらないで! 
どんな危険な目に遭わされるかわからないのよ?」

「はーい……
せっかくお金持ちになれると思ったのにぃ……」


恭子に説得され、ようやく詐欺だと理解した直美。
あまりにぬか喜び過ぎて、ずいぶんとがっかりしているようだ。


「もう、そんな顔しないの。ほら、顔上げて」

「へ?」


ちゅ……♡
恭子が直美の唇にキスをする。


「あ……も…もう……キョウちゃんったら♡」


先ほどまでの憂鬱な気分も一気に吹き飛び、
顔を赤らめ笑顔を見せる直美。


「ふふ……直美はそういう顔の方がお似合いよ」

「もう、お返しだよ! ちゅ……♡」



ガラガラガラ……



直美が身を乗り出し、唇にキスをした瞬間、誠がドアを開ける。


「おはよー。……え?」


唇と唇を合わせ、キスをする二人の姿が誠の視界に飛び込む。


「ちゅ……あっ! 誠、おはよー」

「あ……マコトくん……おはよう……」


気まずい雰囲気の恭子に対し、
直美はいつも通りの調子で誠に挨拶を返す。


「二人とも……何してたの……?」

「え? 何って、キスだよ?」


あっけらかんと答える直美に、愕然とする誠。


「直美……マコトくん、まだ何も知らないのよ……」

「知らないって何を?」

「私達が付き合ってるってこと……」

「へ? 言ってなかったっけ?」


驚き、目を丸くする直美。


「うん……何も聞いてないよ……」

「あ……えっと……その……」

「ごめん、マコトくん、また後で説明するから……ほら行くよ、直美」


そう言うと、恭子は直美の腕を掴んで外に出ていってしまった。


(恭子さんと直美が付き合ってるだなんて……一体……どうして?)



※※※



誠は相変わらず、信じられないものを見たといった表情だ。


それもそのはず……


誠にとって恭子と直美は、
そういった女同士の恋愛とは無縁の存在だったからだ。

二人とは高校の時からずっと仲良くしてきた。

恭子の家には何度も遊びに行ったし、
直美とは、付き合っていた時期もあるくらいだ。

少なくとも、自分と別れるまで直美はノーマルだったし、
もし別れた原因が、そういう変化にあるのなら、正直に話してくれているはずだ。

それに、直美がそこまで劇的に変わったのだったら、
恭子が教えてくれないはずがない……


(劇的に変わった……)


誠がハッと思いつく。


考えてみれば、直美だけじゃない……
自分にも変わった部分がある……

それまで、男に全く興味のなかった自分が、
なぜかお尻に男性器を入れて欲しくて堪らなくなってしまったのだ。

冷静に考えてみたら、あまりにもおかしい話だ……
まさか直美にも同じ変化が起きていたということだろうか……?

思い返すと、高校二年の終わり頃から、
直美は綺麗な女性を目で追うことが多くなっていた。

当時、それは服装や化粧の仕方を参考にしているものだと思っていたので、
あまり気にはしていなかった。


(でも、それがもし直美の変化の始まりだったのだとしたら?)


何か原因があるはずだ……
自分と直美に共通すること……二人が同じくしていたこと……




(まさか………催眠?)




誠の頭にかかっていた靄が晴れ、思考が一気に回転し始める。


(そんな……信じられない……あの恭子さんがそんなこと……)


だが、そうだとすると全ての辻褄が合う。

直美は別れ話をしてきた時、
「なぜ別れたいのかわからない」と言っていた。

それがそのまま正解だとしたら、
最初から、二人に別れる原因など何もなかったということになる。

催眠術で仕向けられたと考えると実に自然だ。

二人が付き合っているということは、
恭子にも同性愛の気があるということになる。

元からそうなのだとしたら、催眠術を使って、
直美に自分のことを好きになるように暗示をかけてもおかしくはない……

そして恭子にとって、
直美の彼氏である自分は邪魔な存在……

こちら側にも何か催眠術をかけてきているはずだ。


(………)


最近の気持ちの変化はまさにそれなのかもしれない。
自分は元々、同性に対して性的な欲求を持つ人間ではなかったはずだ。

直美に女性を好きにさせて、
自分には男性を好きにさせる。

恭子はそうやって二人の分断を謀ったのではないだろうか?

直美と別れた後、
自分は寄りを戻すためにあの手この手を考えていた。
でもいつの間にか、直美と寄りを戻さなくても良いと思うようになってしまっていた。

女装への興味、男性への興味。

日が経つにつれて、だんだんその欲求が強くなってきてしまって、
直美のことを、恋人としてよりも、
友達として見る感覚の方が強くなってしまったのだ。

だが催眠術に原因があるのだとしたら、
それは偽りの感情……

このまま恭子の催眠を受け続けたら、
自分と直美はいずれ本当に同性愛者になってしまうかもしれない。




(このままじゃ危ない……
誰か協力してくれる人を見つけて、直美を助け出さなくては……)




【STOP】

『 あなたは今頭に思い浮かべたことを全て忘れて眠りにつきます。 』

[ 2018/02/10 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.35 【 退行催眠 】

【 CAUTION! 】

今回はBL要素が入っています。苦手な方はご注意ください。





(やっぱりそう考えてしまうのね……マコトくん……)



ここは恭子の部屋。

誠は恭子から借りた女性用の服に身を包み、
化粧を施され、ウィッグを被った状態で眠っている。


卒業式を終えてから1週間後。


誠は恭子に誘われ遊びに来ていたのだ。
そしていつものように、女装して催眠を受けていた。


今回の大学での出来事。
これは実際に起きたことではなく、恭子が誠に見せた幻覚だった。

恭子は、大学進学後に、自分と直美が付き合ってることを知り、
誠がどんな反応をするのか確かめていたのだ。


そして誠は、危惧していた通り、
二人の関係を怪しみ、催眠術に原因があることを突き止めた。

誠が誰かに協力を仰ぎ、
直美を助け出そうとするのなら、
このまま野放しにしておくことはできない……

誠には、二人の関係を素直に受け入れてもらわなければならないのだ。

そのためには“これまで以上に強力な催眠術”をかける必要があった。


(本当はこんな催眠術かけたくはなかったんだけど……)


恭子は机の引き出しから、ある一冊のノートと黒い本を取り出した。
ノートには、これからかける催眠術の流れが事細かく記されていた。

時計を見る恭子。


(明日の朝までにはかけ終わると良いんだけど……)


恭子は、予め誠に親へと電話させていた。


“今日は友達の家に泊まる、帰るのは明日になる。”


表向きは、友達同士の単純なお泊り会。

これから行う大規模な催眠のために、
誠にはどうしても今夜泊ってもらわなければならなかった。

誠は、女性の家に泊まるなんて……と初めは思い留まっていたのだが
恭子から、時間を気にせず女の子のコーディネートをさせて欲しいと、
強く希望され、承諾していたのだ。



※※※



恭子はノートの最初のページを開くと、誠に暗示をかけ始めた。


「あなたはこれから徐々に過去に戻っていきます。
私が数を数える度に、どんどん若返っていきます……」


恭子がかけようとしている催眠は、『退行催眠』と呼ばれるものだった。

『退行催眠』とは、
本人の意識を過去の記憶やイメージに戻らせる催眠術のことである。

それは、
前世の記憶やイメージに戻る『過去世退行』と、
今世の記憶やイメージに戻る『年齢退行』というものに分けられていた。


恭子がこれから行おうとしているのは、そのうちの『年齢退行』だ。


恭子は、自分と直美が付き合っても疑問が生じないように、
誠の幼い頃からの記憶を改変しようとしていたのだ。


(国立図書館の奥の棚に眠っていた古文書……
それに記されている方法を使えば、
時間をかけずに誠くんの記憶や考え方を変えることができるはず…)


恭子はノートの隣に置いてある黒い本に目を向けていた。



※※※



恭子は卒業式の次の日から、
毎日、各地の図書館へと出向き、催眠に関する文献を漁っていた。

そして、ある古い国立図書館にて、望んでいた書物を見つけていたのだ。


その書物は古ぼけた棚に、
まるでその存在を係員に忘れられたかのように、埃が被った状態で置かれていた。

恭子は初めそれが催眠に関する書物だと気づかなかった。

本を探し歩く恭子の肩がうまい具合にぶつかり、
棚から落ちたその本を、運よく見つけることができたのだ。


表紙に白く書かれた『hypnotisme』の文字…… (※※※催眠術の意)


恭子にはまるでその本が自分から姿を現したかのような奇妙な錯覚に陥った。

タイトル以外、イラストも何も描かれておらず、黒でびっしりと埋め尽くされた表紙は、ある種異様な雰囲気を放っていた。

恭子はそれを元の棚に戻そうと考えたのだが、
誠に催眠をかける期日が迫っていたこともあり、藁をも掴むような気持ちで、読み始めることにした。



なろう挿絵-黒百合



古文書は全てオランタ語で書かれてあった。

恭子はオランタ語はあまり得意な分野ではなかったが、
国際派の両親を持つ恭子にとって、内容を読み解くのは簡単だった。

それにこの古文書自体が、
恭子のオランタ語のスキルに合わせたかのように、簡略な文語で書かれていたのも、辞書を引くことなく読み進めることができた理由であった。

そうして恭子は、まるでスポンジが水を吸収するかのように、
新たな催眠方法を取得していったのだ。



※※※



「18……17……16……15……
あなたは中学校にまで戻りました……まだまだ若返っていくわよ……?」

「14……13……12……11………
はい、小学校にまで戻りました……ランドセルの感触が懐かしいわね……?」

「10……9……8……7……
周りのみんなもどんどん若返っていくわ……先生たちも若いわね……?」


そうして恭子は3まで数えると、誠の意識を一旦開放することにした。

それよりさらに年齢を下げることも考えたが、
言語を理解できるかどうか考えると、やはり三歳が限界のように感じられた。


「……3、はい、だんだん周りが明るくなっていくわ…… ここはどこかな?
マコトくんがよく知っているところ、そう……ここは幼稚園よ」


恭子は話し言葉を柔らかいものへと変えた。
まるで小さな子供に優しく語りかけるような話し方だ。


「周りにお友達がいっぱいいるね? お姉ちゃんに紹介してもらえるかな?」


少しして、誠が口を開く。


「うん、いいよ……ぼくの友達は、ひろしくんとたけるくんと----」


誠が小学校時代の友達の名前を列挙していく。
言葉遣いもずいぶん幼いものへと変わっている。

恭子は当時の様子を把握するため、誠の話をメモしていった。


「そっか~、マコトくんはボール遊びが好きなんだね?」

「うん! サッカーとかドッジボールとかすごく楽しいんだよ!」

「へぇ~なるほどね。女の子とは遊ばないの?」

「う~ん、たまにかな~?
えりかちゃんやしずるちゃんに誘われておままごとすることもあるよ」

「そうなんだぁ、おままごと楽しい?」

「う~ん、よくわかんない。
ぼくはサッカーやドッジボールの方が楽しいかな~」


「はい、【STOP】」


楽しそうに話をしていた誠が、ガクっと頭を下げる。


古文書を読んだ恭子が、
新たに身に付けた催眠方法【 キーワード催眠 】だ。


予め、最も暗示を受けやすくなる“キーワード”を決めておき、
それを聞かせると、すぐにその状態に戻れるようにしておいたのだ。

もちろん、これは、直美や誠のように何年も催眠をかけられ、
被暗示性が高くなっている者にしか効かない特別な催眠方法であったが……


「マコトくん……お姉ちゃんの言うことをよく聞いてね……
お姉ちゃんの言うことは全て正しいの……
マコトくんの思い違いを直してくれるのよ?
マコトくんは、なんでもお姉ちゃんの言う通りにしたくなっちゃう……
お姉ちゃんの言うことを聞くと、と~っても気持ちよくて幸せな気分になれるのよ……」

「うん……」

「そう……気持ちよくなってきたね……?
なんだか、ほわぁ~んって暖かい何かに包まれているみたい……
それがすごく気持ちいい……」

「うん……気持ちいぃ……」


誠の顔が緩む、リラックスした表情で恭子の声に耳を傾けている。


「いいわぁ……よく聞いてね。
あのね……マコトくんは、おままごとが大好きなの……
おままごとは、ケガする心配もないし、いろんな役ができて楽しいよね……?」

「うん……おままごと好き……」

「だけど、サッカーやドッジボールは危ないよね?
ドッジボールは、すごい勢いでボールをぶつけられちゃうし、
サッカーも、蹴ったボールがぶつかっちゃうかもしれない……
そうなったらすごく痛いよね?」

「……」


誠は何も答えない。

ボール遊びが好きな気持ちと、
怪我を心配する気持ちが頭の中でぶつかり合っているような様子だ。


「ほら、思い浮かべてみて?
ボールがすごい勢いでぶつかっちゃう。
ぶつかったらすごく痛い……
血が出ちゃうかもしれない……
骨も折れちゃうかもしれない……
当たり所が悪いと死んじゃうかもしれないよ……?」

「……死んじゃうの?」

「そうよ。死んじゃうの……
それでもボールで遊びたい? ボールが怖くないの……?」

「……やだ。ボールこわい…」

「それにマコトくんが投げたり蹴ったりしたボールで、
お友達を殺しちゃうかもしれないわよ……?
そうなったらすごく悲しいわよね……?」

「うん……ぼく、みんなを殺すのなんて絶対にヤダ!」


ボールに対する悪いイメージを与えられて、マコトは悲しい顔をしている。


「でも、おままごとなら平気よ?
怪我もしないし、誰も傷つけない……お服も汚れないし、良いことづくめね?」

「うん。そうだね……」

「じゃあ、えりかちゃんやしずるちゃんと遊びましょうね。
女の子の遊びは安全で楽しいけど、男の子の遊びは危なくて怖いこと。
マコトくんは男の子と遊ぶよりも女の子と遊ぶ方が楽しいの」

「うん、ぼく……女の子と遊ぶ……」


その調子で、恭子は誠の園児時代の記憶を変えていった。

ロボットよりも人形が好き、青よりも赤が好き、
そうして本来、誠が好むものを否定し、
女の子が好むものを好きになるように変えていった。


「ねぇ、マコトくんは付き合っている子とかいるの?」

「えっ……それは……」


恥ずかしそうにモジモジする誠。
どうやら意中の相手がいるようだ。


「お姉ちゃんに教えてくれるかな?」

「付き合ってはいないけど……
ぼく……えりかちゃんのことが好きなんだ……」


先ほど、おままごとに出てきた女の子の名前だ。


「へぇ~そうなの。もうキスとかしたの? 好きってちゃんと伝えた?」

「え? そ、そんなことしないよ」



どうやら誠は奥手なタイプだったらしい。

だとしたら、この後の暗示がずいぶんと楽なものになる。

恭子は直美以前の恋愛履歴を全て消すつもりでいた。
誠には女性に興味を持っていてもらっては困るのだ。

実際に付き合った経験があるのであれば、その記憶を消すのは難しいが、
片思いの気持ちだけなら、消すことは容易に可能だ。



「好きって言ってないんだ……
じゃあマコトくんは、えりかちゃんのことをお友達として好きってことなのよ」

「そうかな……
えりかちゃんは、特別だと思うけど……」

「本当にそう? マコトくんはえりかちゃんに、
わぁ、この人良いなぁ~って憧れちゃうこととかある?」

「憧れ……?
ううん、ただ一緒にして楽しいなって……」


三歳の男の子が同い年の女の子に憧れを抱くのは稀なケースだ。

この年の男の子は、
戦隊物のヒーローや、消防士や警察官などに憧れを抱くのが一般的なはずだ。


「それはお友達としての好きってことなの、
本当に好きだったら、胸がキュンキュンしちゃって、
抱きしめられたい……キスされたいって思っちゃうものなのよ?
マコトくんはえりかちゃんに抱きしめられたり、キスされたいって思っちゃう?」


本来なら、男性から女性のことを想う時は、
積極的な言い方をするのが自然だが、敢えて受け身な言い回しを行った。

こうした恭子の回りくどい言い方に
男性である誠は違和感を覚え、素直に肯定することができなかった。


「思わない……」

「そうよね。じゃあただのお友達ね」

「う……うん……」


引っかかるものはあるものの、
三歳の誠には、それが何なのかわからなかった。


「それよりマコトくんは、サッカーやドッジボールをして遊んでいる男の子のことを、カッコイイと思わない?」

「え?……カッコイイの…?」


ボール遊びについて、悪い印象を与えられていた誠は、意味がわからなかった。


「だって、マコトくんは、ボール遊びすごく怖いでしょ?」

「うん……こわい……」

「そんな怖い遊びを、
あんなに楽しそうにしている男の子ってすごいと思わない?」

「え?……うん」

「男の子はケガするのも、させられるのも分かってて遊んでいるの。
そんな危ないことを怖がりもしない男の子って、強くてカッコイイわよね?」


頭の中で、誠はボールを怖がる自分と、
全く怖がらない男子の姿を思い浮かべていた。

そして、オドオドしている自分に比べて、
堂々とボールに立ち向かっていく男子をカッコイイと思ってしまっていた。

それは男の子が、ヒーローに憧れる感覚に似たものだった。


「うん……かっこいい……」

「それが憧れるってことなの。
マコトくんは女の子よりも、そんなカッコイイ男の子の方が好きなのよ」

「うん……ぼく、男の子の方が好き……」


誠に目標としている台詞を言わせることができた恭子は、
ニヤリとして、その一点を攻めることにした。


「そう……マコトくんは男の子が本当に好き……
好きで好きで抱きしめ合いたいって思っちゃうの……」

「え……?」


誠が少し嫌そうな反応を見せる。


「ただ抱きしめるだけよ……? 大したことじゃないよね?
マコトくんはだんだん男の子と抱き合いたくなっちゃうの」

「……うん」

「抱き合いたくなってきたでしょ……?」

「……うん。抱き合いたい……」

「目を閉じてイメージして……
マコトくんは、男の子と抱きしめ合うとすごく安心するの……」

「うん……安心する……」


そうしてしばらくの間、
誠に男同士で抱きしめ合うイメージを継続させた後、
いよいよ本題に入り始めた。


「このまま……キス……されたいでしょ?」

「それは……」


先ほどよりも強い拒否の反応を見せる誠。
男としての本能なのだろうか?
気持ち悪いことを言われたかのような表情をしている。

三歳はちょうど男女の違いが分かり始める時期なだけに、
恭子はここで男と女、どちらを好きになるかをはっきりとさせておきたかった。


「男の子のことが好きなんでしょ……?
友達としての好きじゃなくて……本当に好き……
好きならキスされたいわよね……?」

「んっ……それは……」

「マコトくんは、男の子にキスをされたいの……
ボールに立ち向かうカッコイイ男の子を思い浮かべて……
ボールを怖がるマコトくんとは全然違う……逞しくてカッコイイわよね……?」

「ぅぅ……カッコイイ……」

「キス……されたいわよね……?」

「ひぅ……そ……それは……」



頭に流される暗示に必死に抵抗する誠。

しかし今まで幾度となく催眠を受けてきたため、
誠の被暗示性は非常に高くなっており、徐々に押され始めてしまった。


「マコトくんはだんだんキスをされたくなっちゃうの……
カッコイイ……憧れる……大好き……」

「はぅ……あぅ……好き………でも……」

「どんどん好きになっちゃう……」

「好き……」

「ほーら、もう男の子のことで頭がいっぱい♡
マコトくんは、男の子が好き……大好きなの……」

「うん……好き……大好き……」

「キス……されたいでしょ……?」

「う……うん……され……たい……」

「カッコイイ男の子が近づいてくるわよ……」

「うぅ……あぁ………や……め……て……」


男性からのキスを拒否する気持ちと受け入れる気持ちが拮抗し、
誠の心と頭の中でせめぎ合いを起こしていた。

恭子は人差し指と中指を合わせると、
そのせめぎ合いに終止符を打つべく、目を閉じる誠の唇にそっとタッチした。


「ちゅ……キスされちゃった♡」

「んんんっ……! あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


嫌悪感満載の声を上げる誠。
目に涙を浮かべ、今にも泣きだしそうな顔をしている。

妄想の中とは言え、ファーストキスの相手が男であることにショックを受けているのだろう。
そんな誠に追い打ちをかけるべく、恭子は暗示を続ける。


「はーい、だんだん男の子にキスをされて嫌な気持ちが、すぅっと抜けてきちゃうよ……」

「ぁぁぁぁぁ……」


新たに入ってくる気持ちに抵抗していた誠だったが、
急に今度は抜かれる形に変わり、上手く対処できないようだ。

徐々に誠の悲痛な表情が和らいだものへと変わっていく。


「ほーら、男の子にキスされて嫌な気持ちがどんどん抜けてきちゃう……
その代わり、もっとキスされたいって気持ちが大きくなってきちゃうのよ」

「んんん……はぁぁ……!」


再び、男性とのキスへの欲求を高める恭子。

このようにして、何度も誠の嫌悪感を高めては抜いてを繰り返し、
催眠深化を行っていった。




五分後……




「はーい、もう一度チューして♡
男の子とキスするのはすごく気持ち良いでしょう?
抱きしめ合いながらキスすると、すごく安心してきちゃう♡」

「ちゅ……♡ うん……ひもちいい……
男の子とキスするのしゅき……だいしゅき……♡」


目を閉じて、恭子の指とキスを続ける誠。

今ではすっかり男とのキスを嫌悪する気持ちがなくなり、
自分から受け入れてしまっている状態だ。

繰り返される催眠深化に、だいぶダメージを受けてしまったのか、
少し呂律が回っていない感じである。



※※※



こうして恭子は、誠の三歳時の記憶を、
普通に女の子に恋をして、男の子と健全に遊んでいた記憶から、
女の子には目もくれず、男の子とのキスを妄想するのが好きだった記憶へと変えてしまった。

妥協を許さない完璧主義の恭子は、
幼い頃から今に至るまで、完全な形で誠を変えようとしていた。



「さぁ、マコトくん……お姉ちゃんの話をよく聞いてね……」



恭子は再び誠の時計の針を回し始めた……
[ 2018/02/11 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.36 【 思い出 】


「マコトくんは今までの記憶を受け継ぎ成長していきます。
4……5……6……」



恭子の言葉に、ボーッと耳を傾ける誠。

直前まで同性とのキスを強いられていたためか、
まだ蕩けたような顔をしている。


これから、この植え付けたばかりの記憶を使って、
今後の誠の記憶を改変していく。


恭子は一旦呼吸を整えると、頭の中を整理することにした。



※※※



近いうちに、
誠は自分と直美の変化が近いことに気づき、
そこから恭子が犯人だという真相に辿り着くことになる。

しかし、誠が小さい頃から、
同性に興味があるのが当たり前だったなら、
自身の変化に気づくことは、もはやできないだろう。



これからさらに同性への興味を、
幼稚園時代から今に至るまで、一貫して持ち続けてきたと、
記憶を変えていくのだが、
催眠の掛け方について、少し気を付けなければならないことがあった。



誠には家族や親せきがいる。友達や知人も大勢いる。

不用意に誠の記憶をいじってしまえば、
周りから、改変された内容を指摘されることになる。

そのため、恭子は暗示によって変える内容を、
誠が“心の中で思ったこと”のみに限定する必要があった。

実際に起きた出来事ではなく、心の中でのことなら、
他人がどう主張しようとも、思ったことが本人にとって真実となる。

だから恭子は、男同士のキスの記憶を、
“妄想したこと”に限定させることにしたのだ。





※※※




恭子は、誠を次の暗示に集中させるためにも、
興奮が収まるのを待っていた。


ウットリとした色を帯び床に寝転がる女装姿の誠。


恭子以外、まだ誰にも見せたことがないその妖艶な姿は、
男女問わず多くの人々を魅了する力を備えていた。


(改めて見ると、すごい美人よね……
なんだか以前よりも魅力が増したような気がするわ)


誠の顔に手を添え、じっと見つめる恭子。


(……やっぱり気のせいなんかじゃない。
たしかに前より綺麗になってる……
最初は気づかなかったけど、どうして……?)



恭子は美しいものが好きだった。



ファッションデザイナーの道に進んでいるのも、
美しい服を美しい人が美しい動きで着こなす姿を見たかったからだ。

それだけ美に関しては人一倍優れた感覚を持っていた。


(今日女装させたばかりの時は、
ここまで気になるほどではなかったはず……
もしかして……園児時代の記憶が関係している?)


同じ女装をするにしても、
その人の内面によって見え方が異なることがある。

心が男の人がする女装と、心が女の人がする女装では、
内面から発せられるエネルギーが違うのだ。

自分を本当に女と思い込んでいる人は、
本人が意識しなくても、自然と女の身のこなし方になる。

幼児時代に同性とキスする経験を与えたことにより、
誠の中に女性の心が芽生え、
表に出てきたのではないか、と恭子は考えた。


(だとしたら……これから女の子の心を育てていけば、
マコトくんはもっと綺麗になるってことじゃない?)



恭子はドキドキしていた。



今のままでも、自分の心を打つほど美しい誠が、
女性の心を成長させられたなら、
一体どれほどの美を放つようになるのだろう……


美しいものを好む恭子は、
誠のそんな姿をどうしても見たくなってしまった。



※※※



それから数分が経ち、
顔の蕩け具合も収まり、誠はだいぶ落ち着きを取り戻していた。


退行催眠を再開する恭子。


(マコトくんのこの顔なら、
人生で一度や二度くらいそういう経験があると思うんだけど……)


恭子は、誠を女性の心に傾きやすくするため、
過去に女装させられた経験がないかを確認することにした。


「マコトくん……あなたは小学校一年生……
今までと同じで、あなたは女の子よりも男の子のことが好きなの」

「うん……」

「そんなマコトくんに教えて欲しいんだけど、
マコトくんって女の子の服を着させられたことってないかしら?」

「あるよ……」

「ふふふ……そう……あるのね?
その時のことを、詳しく教えてもらえるかしら?」



※※※



恭子の予想通り、
誠は小さい頃に女装させられた経験があったようだ。


誠を女装させた相手は、
誠より二歳年上の従姉妹に当たる“マユミちゃん”という女の子だ。


その子とは、誠が母と一緒に親戚の家に泊まりに行った際に、
駆けっこをしたり、木登りをしたりして、遊ぶことが多かったそうだ。


夏休みのある日のこと。


大雨で、外に出ることもできず、
マユミちゃんの部屋で誠が遊んでいると、
洋服ダンスから自分の服を取り出したマユミちゃんに、
着て見せて欲しいとお願いされたそうなのだ。


(まぁ……こんなに中性的な顔をしていたら、
誰でも一度は女装させてみたいって思うわよね……)


恭子は、マユミちゃんの気持ちに共感した。


「マコトくんは、お願いされてどう思ったの?」

「すごくイヤだった。
男の子なのに女の子の服着るなんて恥ずかしいし……
ぼく、そんな服着るのヤダって断ったんだよ」

「それでマユミちゃんは?」

「ちょっとで良いからお願いって……
着てくれたらドラもんボールのフィギュア買ってあげるって言われてつい……」

「物に釣られちゃったわけね」

「うん……」

「そう、わかったわ……それじゃあ、【STOP】」


キーワードを聞き、ドタンと倒れる誠。




※※※




(なるほどね……こうなるわけね)



恭子は、記憶の在り方について考えていた。



3歳から6歳にかけて、
誠の好みを女の子が好むものへと変えてきたが、
先ほどの誠の反応では、女性の服を渋々着るといった感じであった。

おそらく、当時の誠の記憶がそのまま反映されていたのだろう。
当然ノンケの誠が喜んで女装するわけがない。


だが、ここで分かったことがある。


それは、新しく植え付けた記憶は、
それに連なる本当の記憶を自動で変換したりはしないということだ。


そうであれば時間を進める度に、
植え付けた記憶とその時々の記憶を結び付けていかなければならない。

少々面倒ではあるが、
記憶の整合性を確かなものにするためには仕方がないことだった。



恭子は考えをまとめると、再び誠を呼び起こした。



「マコトくん……起きて……」

「うん……」


誠がゆっくりと起き上がる。


「もう一度聞きたいんだけど、
マコトくんは女の子の服を着るのが嫌なのよね?」

「うん……そうだよ……」

「それはおかしいわね?
だって、マコトくんは可愛いものが好きでしょ?
どうして女の子の可愛くてフリフリした服を着たくないの?」


「それは……あれ? なんでだろう……?」


本当の記憶と改変された記憶が混在し、
何がなんだかわからないといった表情をしている。


「きっと記憶違いを起こしているのね。

マコトくんが本当に恥ずかしかったのは、
女の子の服を着ることじゃなくて、
素直に喜ぶことが恥ずかしかったんでしょ?

いくら好きでも、素直に着るなんて言っちゃったら、
元から好きだってことがバレちゃうもんね?

だから、着たくないって言ったんじゃない?」

「……そうかも?」

「マコトくんは、ホントは女の子の服が着たくて仕方なかったの。
家には男の子の服しかなくて、着たくても着れなかったのよね?
だからマユミちゃんに着てって言われた時は、
嬉しくて嬉しくて堪らなかった。そうよね? マコトくん」

「うん、そうなの……
ホントは着たかったんだけど……
恥ずかしくて素直に言えなかったの……」

「そうそう……
だからマコトくんは、マユミちゃんがお風呂に入っている間に、
こっそり部屋に忍び込んでお洋服を着ちゃったのよね~?」

「えっ? ……そうだったっけ?」

「そうよ。ほら……マユミちゃんのお部屋を想像してみて……」

「うん……」


恭子は自分の部屋の様子を、
マユミちゃんの部屋として想像させた。


「マコトくん……ここは、マユミちゃんのお部屋よ?
今、マユミちゃんのお洋服を着てる……
目を開けて、鏡で確認してみなさい……」


誠は、ゆっくりと目を開け立ち上がると、
フラフラと壁際に立て掛けてある姿見鏡の前に立った。


「マコトくん……すごく可愛いわ。
本物の女の子よりもずっと可愛い」


誠は、既に恭子の服を借りて女装していた。
ウィッグをつけられ、化粧まで施されている。

その姿は、男と疑う人がいないほどの出来栄えである。


「わぁ~♡ ぼく、かわいい……」


それを見て、誠は感動する。
自らの女装の完成度の高さに見惚れてしまったのだろう。


「髪飾りなんか付けたら、もっと可愛いんじゃない?
洋服ダンスの上に、アクセサリー入れがあるから、
好きなのを付けてみたらどう?」

「うん! つけてみる!」


誠は目をキラキラさせて、アクセサリー入れの蓋を開けた。
中には子供が付けるには、あまりにも上品過ぎる物が入っていた。

しかし、子供らしい、大人らしいという感覚のない誠には
そんなこと気にもならず、ただ箱の中で光るアクセサリーに目を奪われていた。


「マコトくんには、このバレッタが似合うんじゃないかしら?」


そう言うと恭子は、
かなり大き目サイズの紫紺のリボンが付いたバレッタを指さした。

どうせ付けるのなら印象に残るものを、
ということで誠に付けさせることにしたのだ。

ぎこちない動作でバレッタを付けようとする誠を手伝い、
正しい位置に正しい方法でバレッタを付ける恭子。


パチッ……


「はい、ちゃんと付けられたわね。ほら……鏡を見て御覧なさい……」

「わぁ……♡」


鏡に映った誠の姿。

女性にしては少しだけ鼻が高いものの、
日本人離れした顔立ちのボーイッシュな女性に見える。
誠のその容姿に、恭子の選んだ紫紺色のリボンはとてもマッチしていた。


(マコトくん……髪飾り、ホントよく似合うわね……
夏になったら、浴衣を着せて一緒にお祭りに出掛けてみたいくらい……)


誠は鏡に映った自分の姿をマジマジと見つめている。

鏡に背を向け、後ろ身を確認してみたり、
近づいて笑顔を作ったりして、本当に楽しそうだ。

その姿はおしゃれに目覚めたばかりの女の子といった感じである。


(あとはこの状態で、女の子の心を育ててあげなくちゃね)


恭子はベッドの横に綺麗に畳んである誠の服に注目していた。

誠の服を手に取り、匂いを嗅いでみる。

洗剤の良い匂いを微かに感じるが、
男独特の体臭の臭いは一切感じない。


(これなら着ることができそうね……)


恭子は、鏡の前で楽しそうに女の子ポーズを取っている誠を確認すると、
自らの服を脱ぎ、誠の服を身に付けていった。




※※※




誠の服に着替えた恭子は、
背後から近寄り、耳元で静かにキーワードを言った。


【STOP】


力を失い恭子の身体にしな垂れかかる誠。

鏡には、美しい服に身を包んだ可憐な少女が、
男装の麗人に抱きかかえられている姿が映っていた。


恭子は、長い髪を結い一つにまとめると、
眉を少し太めに描き、顔の外側にシャドウが出るようにメイクをしていた。

元々ボーイッシュな顔つきでない恭子だったが、
持ち前の感性と器用さを生かし、
ギリギリ男装の麗人クラスになれるレベルにまで仕上げていた。


(私にはせいぜいこれが限界。
あとは暗示で男と思わせるしかないわね)


恭子は抱きかかえた誠に静かに語りかけた。


「マコトくん。ここは君の夢の中。

君は女の子で、目が覚めると、
お城の庭園で男の人に抱きかかえられている。

君は彼に恋をし、愛されたいと思うようになるんだ。

さぁ……目を開けてごらん……」


恭子はなるべく声を低くし、男らしい話し方をした。


ゆっくりと目を開ける誠。

恭子と目が合い、しばらくじっと見つめ合う二人。



「目が覚めたようだね」

「え……あ……あの……」

「フラフラしていて急に倒れそうになったから、支えてたんだよ。
見たところ、身体の調子が良くないようだし、
向こうにある椅子にでも座って休んだらどうだい?」


そう言いベッドへと誘導する恭子。


「君、名前は何て言うんだい?」

「え……えと……誠……です……」

「そうかい、マコトちゃんって言うんだね。
僕は恭介って言うんだ。よろしくね」


そうして二人は、そこから世間話に花を咲かせた。

ところどころ記憶が混濁している誠であったが、
何か躓く度に恭子がフォローを入れ、記憶を改竄していった。

誠は自分のことを女の子だと思い込み、
目の前にいる架空の人物に惹かれていった。


「それじゃあそろそろ帰ろうか、
あんまり遅くなるとお母さんが心配するよ?
そうだ、最後にお別れの挨拶をしようか。
マコトちゃん、目を閉じて……」

恭子に言われるまま目を閉じる誠。

恭子は再び人差し指と中指を合わせて、誠の唇にそっと触れた。


「ちゅ……お別れのキスだよ。マコトちゃん」

「~~~~~~~~!! ♡♡♡」


パッと目を開ける誠。
その瞳はうるうると波立っている。

顔を真っ赤にして、
まるで少女マンガのヒロインような反応の仕方だ。

あまりに少女っぽい反応に、
恭子は若干引き気味であったが、
気を取り直して一旦誠を眠らせることにした。


【STOP】


誠をそのままベッドに横たわらせる。


「マコトちゃんは夢を見ました。
カッコイイ男の人と、楽しくお話する夢……
マコトちゃんはその人のことを想うと、とても胸がドキドキします」

「うん……♡」


恭子は誠の両手を掴むとお腹の上に乗せた。


「お腹がなんだか暖かいね……
暖かくてふわっとしてなんだか幸せな気持ちです……
これが女の子の恋の気持ちなのよ……?」

「ほんとだぁ……あったかい……♡」

「男の人と結ばれると、この気持ちがずっと続きます。
いつか白馬に乗った王子様が、
マコトちゃんのことを迎えに来てくれるといいわね」

「うん……♡」

「でも、ただ待っているだけじゃダメよ?
いつか現れる王子様のためにも女らしくなれるよう頑張らなくっちゃね!」

「うん、がんばる♡」


恭子はそうして六歳の誠への催眠を終えた。




※※※




誠の服を脱ぎ、元の服に着替え、メイクを元に戻す恭子。


(ふぅ……だいぶ話し方も女の子らしくなってきたわね…)


あとはそのまま自分を女性と認識させていき、
現実の男を愛するように変えていくのだ。


そのためには肉体的刺激をそろそろ与える必要がある。


恭子は誠を立ち上がらせると、
手を引き部屋の外へと連れ出した。
[ 2018/02/14 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.37 【 寸止め 】

【 CAUTION! 】

今回はBL要素が入っています。苦手な方はご注意ください。




「こっちの部屋よ、いらっしゃい……」




目を瞑り、手を繋がれ廊下を歩く誠。


恭子は木目のついた焦げ茶色のドアを開けると、
そのまま誠を部屋の中心へと案内した。

誠の鼻に、嗅ぎ覚えのある部屋の匂いが入り込んでくる。



そう……ここは恭子の父親の部屋。
以前、誠に女性化催眠を行った際に使った部屋だ。



部屋には以前と同じようにマットが置いてあり、
その上にはスーパーワイドサイズのペット用シーツが敷かれていた。

恭子はその上に誠を座らせると、
机の上に用意した道具を確認した。


ローターやゴム手袋、マスク、ローション、エロ本、リアルな形をしたディルド等々……


これまでと違い、数多くの道具が並べられている。

その道具の量が、これから行う催眠調教の激しさを物語っていた……


「マコトちゃん……あなたはまた少しずつ元の年齢に戻っていくわ……
あなたは今、九歳……今度はどんなことを思い出すのかしらね……?」


九歳と言えば、ちょうど男の子が性に目覚め始める時期だ。


恭子は、卵から生まれたばかりの雛が、
初めて見た物を親と思い込むように、

性に目覚めたばかりの誠に、男同士の良さを体験させ、
性的指向を同性のみに持つように変えていこうとしていた。


「マコトちゃん……あなたは今学校の帰り道……
土手沿いに歩いて家に帰る途中よ……
あら……? 脇の草むらに何か落ちているわね? あれは何かしら……?
あれは……そう……本ね。 何の本かしら……?
マコトちゃんは、その本が何の本なのか気になって拾いに行くの……」


誠が頭の中で草むらに落ちている本をイメージする。
少しして恭子が誠の手に、ある本を握らせる。


「これは……写真集ね。それも少し変わった写真集……

あなたは、直感的に気づくの……これがエロ本だって……

マコトちゃんくらいのお年頃の男の子だったら、
誰もが気になるものよね……?

マコトちゃんは恥ずかしかったけど、
本の中身が気になって見てみたくなるの……

でもここは外……どこで誰が見ているかわからないわ……

あなたは、本をカバンに入れると、
部屋でじっくり読むことにしたのよ」




※※※




「お母さん、今日は帰りが遅くなるみたい……
家にはちょうどマコトちゃん一人……

部屋のカギを閉めたあなたは、
ドキドキしながら拾ってきた本を開くの……

さぁ……目を開けて本を見て……」


恭子の暗示に誘導され、ゆっくりと目をあける誠。
本のページは既に開かれている……


そこには、中性的な可愛い感じの男の子が、
逞しい男性にキスをされている写真が載っていた。



「………!!」


誠は驚き、思わず本を投げ捨ててしまった。


誠は同性愛を拒否する反応を示した。
裸の男同士の写真は、当時の誠には刺激の強すぎるものだったのだ。

『植え付けた記憶は、既存の記憶を自動変換しない。』

今はまだ誠の年齢を九歳に進ませたばかり……

恭子は、さっそく三歳と六歳の時の記憶を、
現在の記憶に結び付けることにした。


「どうしたの? マコトちゃん。急に本を落としちゃったりして……?」

「だ……だって、男の人同士がキスを……」

「それがどうしたの……?
マコトちゃんはずっとこういうことに憧れていたでしょ……?」

「え…!? そんなことないよ……
だって、これ……気持ち悪いだけじゃん……」


露骨に嫌な表情を見せる誠。
目を細め、本当に気持ち悪いものを見てしまったといった様子だ。

この頃の一般的な男子にとって、これは当たり前の反応だろう。


「そうかしら……? 昔のことを思い出してみて……
マコトちゃんは昔から男の子に憧れを持っていて、
抱きしめられたい……キスされたいって思っていたでしょ……?」

「……あ…あれ? そ……そうだっけ……?」


三歳時の記憶と、現在の記憶をリンクさせる。

成長し自我が強くなったためか、誠はまだ抵抗している様子だ。


「そうよ。マコトちゃんは、毎日のように男の子を見つめては、
キスしたいって思っていたじゃない」

「えっ……? あれ……?
たしかに……そう……だけど……
でも……僕……女の子の方が……」

「今まで女の子のことを好きになったことなんてあったかしら?
ないわよね……?」

「女の子……んんっ……
好きに……なって……ない……あぁ、どうして……?」


誠が困惑した顔をしている。
今まで当たり前に思っていたことが変わっていて、驚いているようだ。


「どうしたの? マコトちゃん。
今更そんな当たり前のことを疑問に思ったりなんかして。
幼稚園でマコトちゃんは、
男の子同士でキスしたいって、いつも思っていたでしょ?」

「あぅ……うん……思って……た……」


自分の過去にがっかりしたような態度だが、
男同士への抵抗感が少し削れたのか、恭子の言葉に誠は素直に同意した。


「それに、マコトちゃんは可愛らしい女の子の服を着て、
女として男の人に抱かれたいって思っていたでしょ?

その本なんか、女の子みたいな男の子が、
男の人に抱かれていて、まさにマコトちゃんにぴったりの本じゃない?」

「えっ……?
ちがう……ぼく、男だよ……
女になりたい……なんて……思ったことなんか……」


そこで誠の言葉が止まる。
思い当たる節があるのか、青ざめたような顔で、
自分の過去を振り返っているようだ。


「思い出したようね?
マコトちゃんは、女の子の服を着るのが好きで、
いつも女の子らしくなりたいって思ってた。そうよね…?」

「うぅ……うん……」


六歳時の記憶が現在の記憶にリンクされる。
誠はまだ納得いかないようだ。


「ほーら、思い出してみなさい?
お腹がなんだか暖かい……男の人に恋をする気持ち……
心地よくて安心する……とても幸せな気持ちだったでしょ……?」

「あぁぁぁ……」


九歳の誠の心に、女性の心が芽生える。

イメージしている自分の姿が、美しい女性の姿へと変わり、
男性に抱きしめられる自分を想像をし始めてしまう。


「もっと、思い出してマコトちゃん……
女として、お洋服を楽しむ気持ち……
女として、男の人と恋愛する気持ち……
それに比べたら、男としての人生なんて全然つまらないでしょ……?」

「あぁ……はぁ……はぁ……うん……女の子の……方が……いい…♡」


過去の記憶と現在の記憶のリンクが進んだためか、
誠は徐々に女らしい話し方へと変わっていった。


「もう一度、本を覗いてみると良いわ……
すると女として男に愛される気持ちがどういうものか、
もっとよく分かるようになるわよ?」

「うん……♡」


三歳と六歳の記憶に操られるかのように、
誠は先ほど投げ捨てたBL物の写真集を拾いにいった。




※※※




それから数分後……


部屋からは、本のページを捲る音と、誠の吐息が微かに聞こえる。

誠は恭子にかけられた暗示により、
逞しい男性に抱かれる可愛い男の子を自分に見立てて本を見ていた。


「あぁ……はぁはぁ……」


スカートの下に履いているトランクスが盛り上がっている。

もちろん誠の性器が勃起して盛り上がっているのだが、
小さいためその膨らみは僅かだ。


「抱かれている男の子……とても気持ち良さそうね……
マコトちゃんも、こんな風にされてみたいでしょ……?」

「あぁ……んんっ……うん♡」


写真はまだ単純に、裸の男同士が抱き合っているだけのものだったが、
植え付けられた思い出により、
それだけで誠は興奮と幸福を感じてしまっていた。



(さてと……そろそろ始めようかしら……)



恭子は机の上に置いてあるゴム手袋とマスクを取ると、しっかりと装着し始めた。


「マコトちゃん……
股間がいつもと違って何か変ね……? 少し確かめてみたら?」

「……えっ?」


誠は一旦本を見るのを止めると、
スカートを捲り、トランクスのゴムの部分を引っ張り中を確認した。


「えっ!? 何これ……? なんでこんなことになってるの……?」


誠は勃起した自分の性器を目にするのが初めてのようで驚いていた。


「どうかしたの?」

「なんか……ぼくの……おちんちんが……変な形になってる……」

「あら……?不思議ね……
でも、写真をよく見直してみて、マコトちゃんと形や大きさは違うけど、
写真の二人もマコトちゃんと同じようになっていない?」

「……あっ! ホントだぁ……」

「これはね……エッチな気持ちになると大きくなるものなのよ。
マコトちゃんは、今男の人に抱かれたり、キスされるのを想像して、
エッチな気持ちになっているの……」

「エッチな気持ち……そ……そうなんだ」


ここでしっかりと、
男性に対して性的指向を持っているということを認識させる。

それをしっかりと認識させた上で興奮を高めていくのだ。



「写真の二人と同じように、マコトちゃんも脱いでみよっか、
そうすればこの二人の気持ちがもっとよく分かるようになるわよ?」

「うん……そうしてみる!」


誠は恭子に言われた通り、服と下着を脱ぐと、
全裸の状態で先ほどの写真集を見始めた。


恭子は、ゴム手袋にローションを塗り、
じっと写真に集中する誠のアナルに指を近づけ、
優しく穴の周りを刺激し始めた。


「ぁ……はぁ……」


穴への刺激で快感を得る誠。
恭子は優しく優しく、じらすように穴の周りを愛撫していった。


「さっきと違う感覚ね?
なんだかお尻の穴がキュンキュン♡するような感じじゃない?」

「あぁ……♡うん……♡」

「それはね。男の人と裸でエッチなことをすると自然に感じるものなの。
マコトちゃんの身体が男の人とこういうことをしたくて反応してるのね♡」

「はぁう……そ…そうなんだ♡」


ゴム手袋越しとはいえ、
誠のお尻の穴を恭子が直接愛撫する。

これは本来なら、あり得ない行動である。

直美と付き合うためとはいえ、
男性の尻の穴を触るなど、
昔の恭子ならトラウマものの出来事だ。

しかし、今の恭子は、
既に誠を全く男性として認めておらず、
それほど嫌悪感を抱いてはいなかった。

むしろ、こうして愛撫したり、突っ込んだりすることによって、
徐々に女性へと生まれ変わっていく誠を、
見てみたいとさえ思っていたのである。


「マコトちゃん。次のページを開いてみたら?
男同士のエッチってどうすれば良いのか見てみましょうよ」


恭子に促されページを捲る誠。
次のページには、男の子がお尻に指を入れられている写真が載っていた。


「あっ!」


誠がその写真に声を上げる。
男同士の実技を見て、より興奮しているようだ。
顔が徐々に赤くなり、吐息も荒くなっている。

そしてそれに合わせて、
恭子のしなやかな指が、誠の奥へと侵入していく。

誠は恭子の声に反応はしているものの、
基本的に部屋には自分一人だと思っているため、
その刺激が本を見て感じるものだと思い込んでしまっていた。


「どう? さっきと比べて何か変わったことはないかしら?」

「んんっ……はぁ……♡
あっ♡……さっきよりも……気持ち……いい……♡」

「それは良かったわ。
写真の男の子、お尻に指いれられてすごく気持ち良さそうね……
きっと今のマコトちゃんと同じ気持ちよ」

「う……うん♡あぁっ……はぁあっ!!」


恭子は、誠がページを捲り、
次の写真が目に入るたびに、出し入れ方を変えていった。


「マコトちゃん……
女の子っぽく声を出したら、もっと気持ちよくなれるんじゃない……?
試しに声を高くして、女の子の声を出してみましょうよ?」

「う……うん……」


恭子がここで誠の前立腺へと標的を絞る。


(この少し膨らんだところが前立腺かしら……?)


お尻の内側の柔らかい部分に、ピクピクと波打っている場所がある。
そこを優しくほぐすように刺激する。


コリコリ______________。


「あぁんっ♡やっ……ああぁん♡
あっ……んんんっ♡やぁぁあん♡」


女のような甲高い声で、
実に可愛らしく喘ぎ声を出し始める誠。

恭子が、その部分を刺激するたびに、
誠は腰をくねらせ快感に震える。

誠の勃起したペニスの先端からは、透明な粘液が垂れ始め、
トランクスのシミが徐々に広がり始めていた。


「はぁんっ♡あっ♡あっ♡あぁっ♡んんっ、んんんっ♡」

「マコトちゃんの小さなおちんちんとは全然違う。
逞しくておっきい男の人のおちんちんを、
お尻に入れられるとこんなに気持ち良いのよ?」

「あぁん♡気持ちいぃん♡」

「マコトちゃんの小っちゃいちんちんじゃ、
男の人のお尻に突っ込んでも、気持ちいいところには届かないわよね?」

「あぅぅ♡あっはぅぅっ♡む……むりぃ…♡届かない……んんっ♡」

「せっかくおちんちんあるのに、自分だけ気持ちよくなっちゃって、
悪いと思わない?」

「う……うん……あぁっ♡おもっ……ちゃう……♡
ぼ……ぼく……だけ……あぁぁ♡ご…ごめん……なさい……」

「うふふ……謝らないでマコトちゃん。
大丈夫、男の人も女の人も、
誰もマコトちゃんの赤ちゃんおちんちんには期待していないから安心して。

マコトちゃんは
女の子におちんちん付いてないのは知ってるよね?」

「あぅ……はぅぅぅぅぅ♡……うん……」

「マコトちゃんも女の子と一緒。
だからおちんちんのことなんか気にしなくても良いの♡
他の女の子と同じように、男の人の逞しいちんちんを、
口やお尻の穴で気持ちよくさせてあげればいいのよ?
あとは今みたいに可愛らしく声を上げて、いっぱい甘えればいいの♡
それだけで男の人は十分満足なんだからね」

「あっ♡あぁんっ♡うんっ♡いっぱい♡甘えるぅ♡」


恭子はここで誠に限界が近づいていることを察知した。


「んんっ♡んんんっ♡んんんんんんんんんっ……」


マコトの声が静まり返り、射精間近の反応を見せる。



「はい、【STOP】」



恭子のストップがかかる。


誠は射精することなく、シートの上で動かなくなってしまった。


勃起したペニスはピクピクと脈打ってるが、
高まり過ぎた興奮の余波をどこに発するわけでもなく、
誠の中で燻り続けていた。


恭子は誠を寝かせると、勃起が収まるのをひたすら待った。




※※※




誠の性器が元の柔らかさを取り戻すと、
恭子は再び暗示をかけた。


「マコトちゃん……すごく気持ちよかったでしょ……?
マコトちゃんはこれから男の人の裸を見ると、
すごく興奮しちゃうようになるの……
男の人のおちんちんを見たら、それだけで勃起しちゃう男の子なのよ?」

「……うんっ♡」

「じゃあ、そのままの状態でマコトちゃんはまた一つ大きくなるの……
さぁ……今マコトちゃんは十歳よ……

今日もマコトちゃんは男の人の裸を見てオナニーしてるの……
起き上がって、お気に入りの本を開いて……」


誠は再び起き上がると、
恭子に手渡された写真集を読み始めた。

同じタイミングで恭子は、
再度ローションを塗った指をアナルに挿入する。


「えっ!?……んんっ!?ふぁっ……あぁっ♡あぁぁぁっ! ♡」


目を開けた途端、女のような高い喘ぎ声を上げる。

十歳に年齢が進んだばかりで記憶がつながっておらず、
迷う心もあったのだろうが、

射精ギリギリで寸止められた身体と、アナルに与えられた刺激が、
それまでの記憶と十歳時の記憶を無理やりリンクさせ、
頭の中を男好きで淫乱な記憶に一気に塗り替えた。


「ほ~ら、気持ちいいね……?
もう昔の気持ち良さ思い出しているよね?

余計なことは考えないで……
マコトちゃんは写真の男の人と、
おちんちんのことだけを考えてれば良いのよ?
おちんちん、お尻に入れられてすごく気持ちいいね…?」

「うんっ♡あぁっ♡おちん……ちん♡きもち……いいぃ♡♡♡」


そして恭子は、再び射精しそうになる誠にストップをかけ、
十一歳、十二歳も同じように一切射精させずに、ひたすら寸止めを続けた。

その間、一切男性器には刺激を与えず、
お尻への刺激と男同士の淫らな画像のみで快感を与え続けた。

そうすることにより、
恭子は誠のこの時期の性的指向を、
完全に男性のみに向けることに成功したのだ。




※※※




お尻についたローションと性器の汚れを拭き取り、
誠をじっと見つめる恭子。



これまでの催眠で、
誠の性的指向は完全に女性から男性へと移り変わったはずだ。

次は写真ではなく、現実の男性に対して、
性的依存心を持たせなければならない。

現実の男性に対して、ただ憧れるのではなく、
性的な触れ合いも含めて、好きになってくれれば、
無事ニューハーフのマコトちゃんの完成だ。



気になるのは、ここまで女性化させた誠が、
今後どういった理由で、
直美と付き合っていたことにするかだが、

直美は変わっている女性なので、
理由はいくらでも付けられると恭子は考えていた。


誠と直美が知り合ったのは一三歳の時、
恭子はその一つ前の誠を仕上げるべく、催眠をかけ始めた。




※※※




「マコトちゃん起きて……
えっちな本読んですごく気持ちよかったね?」

「……うん♡」


甘え声で返事をし、起き上がる誠。
あれから汚れは拭き取ったが、未だに全裸のままだ。

これから仕上げの催眠をかけられるとも知らずに、
蕩けた顔をしている。


「マコトちゃんって、もうすぐ修学旅行に行くのよね?
どこに行くのかお姉さんに教えてくれる?」

「うん……ぼく、修学旅行でK都に行くの……」


K都は昔ながらの古い建物が立ち並び、
毎年世界中から大勢の観光客が訪れる有名な観光都市だった。


「そう……K都に行くのね……【STOP】」


恭子は誠を眠らせると、
用意していた椅子に座らせ再度暗示をかけた。


「マコトちゃん……
あなたは今、修学旅行でK都に来ているの。
みんなと一緒に観光して、楽しくお勉強できたね。

だんだんお外も暗くなってきて、
マコトちゃんは宿でみんなと一緒にお風呂に入ることになったの……

それじゃあ服を全部抜いで、お風呂で身体を洗いましょうね。
さぁ目を開けて……」


目を開けた誠は、恭子にタオルを手渡されると、
ゆっくりとした動作で身体を擦り始めた。


「ねぇ、マコトちゃん……
周りのみんな、マコトちゃんと同じように裸でいるよ?
裸の男の子がいっぱいいて興奮しない?」

「……!」


それまで全く意識していなかったのか、
恭子に言われて初めて気づいたようだ。

誠は顔を赤くし、身体を縮めている。

次第に小さなペニスも硬くなっていった。


「あらぁ……?おちんちんおっきくなっちゃったわね♡
こんな状況じゃ仕方ないわよね。

でも、周りのみんなに気づかれたら大変よ?
マコトちゃんがエッチなことを考えているってことが
みんなにバレちゃうわ」

「やぁん!」


誠は急いでタオルで自らの股間を隠す。


「危なかったわね……
でも身体を洗わないで椅子に座ったまんまじゃ不自然よね?
あら……?
マコトちゃんのことを心配したお友達が声をかけてきちゃったわ。

タオルで前も隠さずに、堂々とした感じね。
マコトちゃんの小っちゃいおちんちんと全然違う
逞しいおちんちんが生えてるわ。

見てるとだんだん興奮してきちゃうわよね?
マコトちゃんは、そのおちんちんから目が離せなくなっちゃうの」

「んぁ……はぁ……♡」


ちょうど男性の腰の高さだろうか?
誠はじっと虚空を見つめうっとりとしている。


そんな誠の様子を眺めながら、
恭子は再びゴム手袋を嵌めた手にローションを塗り始めた。


現在、誠が座っている椅子であるが、

これは恭子が、この時のために用意したもので、
少し変わったデザインをしていた。

ちょうど股の部分に穴が開いており、
中に腕や棒などを出し入れできるようになっているのだ。

恭子はこの椅子を使って、
誠の男性への依存心を高めようとしていた。


「マコトちゃん……お友達のおちんちん逞しいわよね?
もしそれをお尻に突っ込まれたら、
どれだけ気持ちいいか、想像してご覧なさい……」


そう言い、恭子は空いている穴から手を差し込み、
誠のお尻の穴を愛撫し始めた。


「あぁっ……♡んっ♡」

「あら?ダメじゃない…そんな声出しちゃ……
お友達に気づかれちゃうわよ? 声を我慢しなさい」


そう言われ、息を飲む誠。
タオルは股間に乗せたままで、
両手で口を抑え必死に声が出るのを我慢している。

そんな誠を横目に、恭子は誠のアナルに指を挿入し始めた。


「んっ! ……フッ…んっ……んんっ! ンフッ!!」


お尻に与えられる快感に耐える誠。

前立腺の位置を把握している恭子は、
的確にその位置に刺激を与えていった。


「目の前のおちんちんを入れられたら、
きっと今よりもっと気持ちよくなれるわよ?

さぁ……もっと想像して。
お友達に後ろからガンガンお尻を突かれる自分の姿を想像して?」

「ンンッ!! ンッフッーー!! ンンッフッ! ンンンンフッーーー♡」


恭子の指の動きが激しさを増す。
ガツガツと突いてくるそれに合わせて、誠は小刻みに腰を振り始める。


「お尻だけじゃないわ……目の前にあるおちんちん……
もし、それをお口に突っ込まれたら……
どんな味かしらね……? 味わってみたいと思わない……?」

「ンフッ♡フーーーーー♡ンンッ♡ンッ♡ンッ♡」


両手で抑えられぐぐもってはいるが、
誠の声がだんだん甘ったるいものへと変わっていく。

恭子はここで誠の股間に掛けてあるタオルを外し、性器の様子を確かめた。



(そろそろ止めた方が良さそうね……)



誠のペニスは、度重なるお尻への愛撫と挿入で、
とてもイキやすくなっていた。

誠をイカせるつもりのない恭子は、そこで行為を終えることにした。



「はい、マコトちゃん。【STOP】」



気を失った誠が強く地面に落ちないように支えると、
身体の方からゆっくりと地面に下ろしていく。

下半身に刺激を与えないようにするためだったのだが、
お尻を突き出すような形で、寝かせられた誠。

またしても絶頂ギリギリで寸止めされたアナルは、
男の一物をねだるように、
ヒクつく小さな動きを続けていた……
[ 2018/02/16 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.38 【 メス化絶頂 】


それから10分後……


誠はシートの上で仰向けに寝かされていた。
何かの拍子で射精しないよう慎重に誠の様子を見守る恭子。

ようやく勃起も静まり、興奮も収まったところで再度声をかけた。


「マコトちゃん、お友達との妄想楽しかった?
いつか本当におちんちん入れて貰えるといいわね♡」

「ぁ……うん♡」


度重なる暗示により、すっかり誠は男性の性器をお尻に迎え入れることに、
肯定的なイメージを持ってしまっていた。
恭子の言葉に対して、誠の性器もピクンと反応してしまう。


「お風呂から上がったマコトちゃんは、お部屋に戻って眠ることになったの
周りには、同じようにお友達が眠っているわ。

隣に男の子が寝ていると、興奮してきちゃうよね?
そして触って欲しくなっちゃう……

周りの男の子達が急に起き上がって、
身体中を隅から隅まで撫でてくれたら、どれだけ気持ちいいかしら?」

「んっ……♡はぁ……♡」


誠のペニスが急速に硬さを取り戻していく。
小さいながらも硬くなった性器は天井に向けて軽くグラインドした。


「想像して、夜更かしなんかしちゃダメよ?
明日も朝早いんだから……今夜はゆっくり休みましょうね……?」

「あっ……♡うん……♡」

「良い夢見るのよ? マコトちゃんは3・2・1で眠りにつきます。
3……2……1……【STOP】」


そうして一旦誠を寝かせ、勃起が収まるのを待っている間に、
恭子はゴム手袋を外し新しいのに交換した。

用意していた女性用の新しいショーツとブラを誠に身に付けさせ、
エロ本を読む際に脱ぎ捨てた服を再度着るように命じる。

そうして乱れたウィッグを櫛で梳かし、
化粧直しを施し、シーツを新しいものに交換すると、
再びその上で横になるように命じた。


「よく聞いて……ここはマコトちゃんの夢の中よ……
夢の中は落ち着くわね……?」


誠は恭子の声を聞き、安心して寝息を立てている。


「夢の中はとっても楽しい場所なの……
ほら、この鏡で自分の姿を見てみなさい……」


恭子は誠を起き上がらせると、鏡を渡し自分の姿を確認させた。


「えっ……? 女の子の服……?」

「そうよ……いつもあなたがなりたがっている姿……
マコトちゃんはそういう可愛い服を着るとすごく嬉しいのよね?」

「うん♡女の子の服、可愛くて、だーい好き♡」

「服だけじゃないわよ? 下着も確認してみなさい」

「下着……?」

誠が胸を触ると、何やら柔らかいカップのような感触がある。
ブラウスの襟を引っ張り中を覗いてみると、可愛らしいピンクのブラが見えた。

続いてスカートを上げてみる。
そこには同じ色のショーツが優しく誠の下半身を包んでいた。

「これって……女の子の……」

「そうよ、女の子の下着♡
おちんちん小さいから、変に盛り上がらなくて良いわね」

「は……恥ずかしいよ……」

「さっきここは夢の中って言ったでしょ?
恥ずかしがらなくてもいいの……マコトちゃんにブリーフやトランクスは似合わないわ……
それよりも女の子らしく可愛いショーツの方がお似合いよ♡」

「そ……そうかな……♡」

「自分でもわかっているでしょ?
マコトちゃんは、似合わないトランクスよりも、似合うショーツの方が好き。
今はまだ子供だから親に止められて無理だけど、大人になったらショーツを履きましょうね♡」

「うん!」


そうしてしばらくの間、
誠は、六歳の時と同じように、鏡で自分の姿を見ては嬉しそうな反応を繰り返していた。


「うふふ……とてもよく似合っているわ……
下着も女物に変えて、なんだか統一感が出てきた感じ……
今のマコトちゃんを見たら、誰も男の子だなんて思わないわね」

「えへへ♡」


男の子だと思われないと言われ、満更でもない様子の誠。
両手を頬に添え、乙女のように微笑んでいる。

既に男らしくありたいという気持ちは微塵も残っていないようだ。


「あら? マコトちゃんのお友達がみんな夢の中に入ってきちゃったわよ?」

「えっ!?」

「マコトちゃんのことを本物の女の子だと思っているみたい。
みんな優しくしてくれる……嬉しいわよね?」

「う……うん♡」

「でも……みんなが優しくしてくれるのは、マコトちゃんを女の子だと思ってるからなの。
もし男の子だってバレちゃったら、みんなに変態って言われていじめられちゃうわ」

「そ……そんなっ……」

「そんなことになったら嫌よね?
でも仕方がないの……マコトちゃんには言っていなかったけど、
実は男の子って女の子のことが好きなのが普通なのよ」

「えっ!? そうなの……?」

「ごめんね……
だからどんなにマコトちゃんが男の子のことが好きでも、受け入れてもらえないのよ……」


誠はショックを受け、今にも泣きだしそうな顔をしている。


「でも安心して、マコトちゃん。
男の子が女の子のことが好きだったら、女の子になれば良いのよ。
女の子になれば、男の子に愛してもらえるし、キスもしてもらえるのよ?

マコトちゃんは、とっても可愛いから、女の子になるなんて簡単よ♡
どう……? 女の子になってみない?
それともずっと男のままで、誰にも振り向いてもらえないのが良いかしら?」

「やだ……ぼく……女の子に……なりたい」

「じゃあ、“ぼく”って言うのは、もう止めましょ?
これからは、自分のことは“わたし”って呼ぶのよ?」

「わたし……」

「そうよ。女の子になるには、
見た目だけじゃなくて、話し方も変えていかなきゃいけないの。
これからは女の子の話し方も意識するようにしてね♡」

「うん! わ……わたし……がんばる!」


可愛らしい声で誠が返事をする。
話し方だけでなく、音程を変え、声も女らしくなろうとしているようだ。


「あっ! マコトちゃん。大変よ。
さっき、「ぼく」って言っちゃったから、
みんなマコトちゃんが女の子じゃないって気づいちゃったみたい」


まずいことになってしまったかのように、誠に伝える恭子。


「ど……どうしよう……」


先ほど、いじめられると言われていたため、誠は実に不安そうだ。

そんな誠に、表情を一転させ恭子は微笑みかける。


「みんな優しいわね……
いじめるどころか、マコトちゃんが早く女の子になれるように、
手伝ってくれるらしいわよ?」

「えっ?」

「みんな、おちんちんを勃起させてマコトちゃんのお尻の中に入れてくれるみたい。

本当は本物の女の子に入れたいんだけど、マコトちゃんのために我慢してくれるそうよ?

こんなに大勢のおちんちんを入れられちゃったら、
あっという間に身も心も女の子になっちゃうわね。お友達に感謝しなきゃ♡」

「あ……みんな……ありがと……」


恭子は机の上に置いてあるディルドを手に取った。
血管の一つ一つが忠実に再現された実にリアルな形の極太ディルドである。


これはお風呂場で使った椅子同様に、少し変わったタイプのディルドだった。

ディルドの中には管が入っており、
それを通って外にあるポンプから液体を発射できる仕組みになっていた。

そのポンプの中には、
恭子が前日に水溶き片栗粉と練乳を混ぜて作った疑似精液が入っていた。

疑似精液の硬さは、誠の精液に比べると若干緩く作ってある。

あまり濃度を高くすると、粘りが強過ぎてポンプの中を通らず、緩くし過ぎても、今度は舐めたりお尻の中に発射した際のリアル感が薄れてしまう。

水と片栗粉の分量調整に恭子は苦労した。


(練乳以外にも、隠し味としてレモン汁も少量入っているわ……
これならきっとマコトちゃんも美味しいと言ってくれるはず……
私が舐めて美味しいんだからきっと大丈夫よ)


濃度だけではなく、味にもこだわる。
完璧主義者の恭子ならではの気遣いであった。

恭子はディルドを誠の目の前に勃たせると、語りかけた。


「ほら、ご覧なさい……目の前にとっても逞しいおちんちんがあるわ……
舐めてみたいでしょ? ここは夢の中だから好きにして良いのよ……?」


うっとりとディルドを見つめる誠。

これから初めて味わう男の味に、期待で胸を膨らませているようだ。

誠は唇の間から、控えめに舌を出すと、
ディルドの竿の部分を恐る恐る舐め始めた。


「これが……おちんちん……ペロ……ペロ……」

「大好きなおちんちんを舐めれて幸せね?」

「ペロペロペロ……はぁ♡レロ……あぁ……♡」


誠が熱心にディルドを舐める。

竿の部分なので、まだゴムの味しかしないはずだが、
それでも実に美味しそうに舐めている。

スカートを捲って中を覗いでみると、
案の定、勃起したペニスの先端から液が滲み出て、ショーツにシミを作っていた。


「マコトちゃん、その子だけ相手にしていたらダメよ。
せっかく他の子も協力したいって言ってくれてるんだから。
仰向けになって、お尻おまんこにも、おちんちんを入れてもらいましょうね?」


仰向けに寝かされた誠はそのままディルドを両手で持たされ、口による奉仕を行わされた。

まるでおしゃぶりのように、ディルドを口に含む誠。
ディルドの先端からは恭子特製の疑似精液が少しずつ滲み出ており、誠の舌を唸らせた。


「あぁ……♡おちんちん……すごい美味しい……♡」


味蕾に感じる疑似精液の味により、誠は恍惚の表情を浮かべている。


その間、恭子は誠のスカートを捲り、ショーツを引き下ろしていた。

勃起したペニスが嬉しそうに隆起する。

恭子はそれを無視し、アナルバイブと固定用バンドを用意すると、
誠のお尻の穴にひんやりとしたローションを塗り始めた。


「マコトちゃん。もう一人のお友達のおちんちんが、おまんこに入っていくわよ。
力を抜いて受け入れてね♡」


恭子はアナルバイブを穴に宛がうと、ゆっくりと挿入した。


「んっ……♡あぁぁぁぁぁ……入って……くる♡やぁんっ!」


初めて、指以外の物を肛門に受け入れる誠。
十分ほぐされていた穴は、抵抗もなく男の模造品の侵入を許していった。


「んっ……くっ……はぁ……♡」


そうして恭子はバイブを根元まで入れると、バンドで固定してしまった。


「お友達のおちんちんが全部、おまんこに入っちゃったわね。

マコトちゃんはお尻におちんちんを入れられているだけで、
すごく幸せな気持ちになっちゃうのよ……

なんだかお腹が暖かくて満たされるような……
恋に似た女の子の気持ちよさを感じられるの……」

「あぁぁぁ♡す……すごぃ気持ちいぃの……♡」


自らのお尻の中に、男性器の存在を感じ、興奮で軽く震える誠。


(これで一旦お尻の方は終わり。次はこっちの方ね)


恭子は誠の乳首に注目する。

ディルドをチュパチュパと舐める誠の様子を横目に、
ブラウスのボタンを外すと、生地の内側から背中に手を回しブラのホックを外した。
ブラをずらし、誠の乳首に指を這わす。


「ふぁぁああっ! ……な……なに……?」

「待ちきれない男の子がマコトちゃんの乳首をいじり始めたようね
女の子は、男の子と違って乳首やおっぱいを責められると気持ちよくなっちゃうの。
マコトちゃんも女の子なんだから、乳首を責められるとすごく気持ちいいのよね?」


誠は以前にも恭子に乳首を責められており、
十分気持ちよくなるだけの感度を備えていた。

相変わらずの恭子の指使いにより、誠は嬌声を上げさせられる。


「あぁっ♡だ……だめぇ……♡乳首……あぁっ!!」


そうしてしばらく愛撫を行い、乳首の感度を呼び覚ました後、
テープを使って、ローターを両乳首に固定した。


(よし、これで準備完了だわ)


「マコトちゃん……お口も、おまんこも、おっぱいも、全部お友達に責めてもらえて幸せね?」

「うん……きもち……よすぎて……幸せ……♡」

「それは良かったわ♡ でもお友達少し不満があるみたいよ?」

「えっ……? 不満……? なんだろ……?」

「お友達はマコトちゃんと違ってホモじゃないの。
本当は女の子とエッチしたいんだけど、マコトちゃんのために我慢してくれているのよ?」

「うん……」

「だったら、おちんちん勃起させたりなんかしたらダメでしょ?
本物の女の子はおちんちん勃起させたりなんかしないわよ」

「えっ……でも……」

「でもじゃない。今だってほら! 
おちんちんピクピク勃起させているじゃない。

お友達もおちんちん勃起させた男みたいなマコトちゃんとはエッチしたくないって言ってるわ」

「ご……ごめんなさい……」

「悪いと思うんだったらさっさと鎮めて。お友達にはその間休んでもらうからね」



一旦、疑似精液入りのディルドを誠からとりあげる恭子。
誠は名残惜しそうな眼でそれを見つめていた。



それから数分後……



何の刺激も与えられない誠の身体は徐々に落ち着きを取り戻し、
隆起していたペニスも、本来の柔らかさを取り戻していた。


「おちんちん、鎮まったようね。偉いわ♡
それじゃあまた女の子になるために、いっぱい愛してもらいましょうね♡」

「うん♡」


ディルドを再び誠の口に突っ込む恭子。
それを美味しそうにしゃぶる誠、実に幸せそうな顔をしている。

そこで恭子は、リモコンを手に持ち、おもむろにスイッチを入れた。



ヴィィィイイイイイイイイイイイイイイイン!!! 



「んんっ!? あぁ! ああああ!!」


誠のアナルに入れられているバイブと、
両乳首に固定されたローターが同時に振動を始める。

誠のペニスも急な刺激で興奮し、
小さいながらもピコンと天井に向けて再び存在感を誇示させた。

それを見てスイッチを切る恭子。
誠の口に入れたディルドも、すぐに引き抜いてしまった。


「あ……」

「またおちんちん勃起させちゃったわね?
マコトちゃんは女の子になりたいんじゃなかったの?」

「なりたい……」

「じゃあ勃起させちゃダメじゃない」

「ごめんなさい……」


悪いことをして叱られた子供のようにションボリしている誠。


「悪いことをしたって自覚があるなら良いのよ?
お友達も、『最初からは無理そうだから、勃起しなくなるまで何度でも協力してあげるよ』
って言ってくれてるわ。優しいお友達を持ってマコトちゃんは幸せね」

「ありがとう……みんな……」




※※※




そうしてそれから何時間も、恭子の調教は続いた。


恭子の狙いは、誠を女として絶頂させることだった。
そのため、今まで男性器への刺激は一切行なわなかったのである。

勃起も射精も伴わない絶頂を体験させ、女としての自覚を持たせる。

それが恭子の目的だった。


誠は初めのうちはすぐに勃起をしてしまっていたが、
何度も何度も勃起させては萎えさせてを繰り返され、次第に勃起力が低下していった。

バイブのスイッチを入れてもペニスが反応するスピードが遅くなり、
勃っても持続力が減り、次第にすぐに萎えるようになってしまった。

恭子のこの調教が誠の性器にダメージを与えているのは明らかだった。




※※※




(ようやく勃たなくなってきたわね……)


「マコトちゃん。よく頑張ったわね。そろそろ終わりにするわ……
最後、身体を起こして、こちらにお尻を向けてくれるかしら?」

「ぁんっ……はい……♡」


誠は、フラフラになりながらも、四つん這いの体勢となり、
白くてプリンとしたお尻を突き出した。

恭子はバンド外すと、中に入れてあるバイブをゆっくりとアナルから引き抜いた。


「今フェラしてあげてる子が、おまんこに入れたいって言っているの。
今度は、彼のちんちんをおまんこに入れてあげて」


そう言い恭子は、お尻から抜いたアナルバイブの代わりに、疑似精液入りの極太ディルドを誠にお尻にあてがった。


「ぁっ……いいよ……♡
おちんちん入ってないと寂しいから……はやく……♡」


誠は四つん這いのまま両指をお尻に当て、両端に引っ張り広げて見せた。
その姿は、まさに男性との性交にハマった女そのもの。

恭子はそんな誠の成長を喜んでいた。


「マコトちゃん、おちんちん勃たなくなったわね。
ようやく、お友達もマコトちゃんのこと、女の子って認めてくれたみたいよ♡」

「うん……わたしがこうなれたのもみんなのおかげだよ♡」

「それじゃあ、女の子らしく可愛くおねだりしなさい?」

「うん! わたしの……お尻おまんこに……あなたの……逞しいおちんちん……いれてください♡」


それを聞き、恭子は疑似精液入りの極太ディルドを誠の穴に挿入した。

最初に入れていたディルドの1.5倍の大きさ……

にも関わらず、誠のアナルは、それを美味しく頬張るように飲み込んでしまった。


「あぁぁん♡大きい……♡」

「こんなに美味しそうに飲み込んじゃって、本当にマコトちゃんはおちんちん好きねー」

「うん……♡おちんちん好きなのぉ♡おっきいおちんちん大好きぃ♡」


誠は、よりちんちんを感じられるよう腰をくねらせている。

恭子は誠のペニスが勃起していないのを確認すると、
ゆっくりとディルドの出し入れを始めた。


「あぁっ♡あんっ♡あっっ♡んっ♡」


女のような高い声で喘ぐ誠。

自分が男である意識を捨て、
ひたすら女として快感を求めているようだ。

恭子は前立腺を押し潰すようにディルドをアナルに捻じ込んだ。


「あぁっ! すごいっ♡こんなぁん♡ダメぇっ♡
おちんちん……きもちよすぎて……なんか……なんか……きちゃうのぉ♡♡♡」


再度誠のペニスを確認する。

本人が、これほど喜びの声を上げているにも関わらず、
股間にくっついたそれは股の間で弱弱しく萎縮していた。

誠は既にそれの感覚を完全に無視し、
お尻に与えられる快感のみに集中してしまっていたのだ。



思えば、小さいとはいえ、なんとも不遇なポークピッツである。

本来結ばれるはずだった最愛の彼女を奪われ、

決して興奮してはならない同性との交わりに喜びを感じるように変えられ、

射精することも勃起することも禁止された、哀れなそれは、

ついには持ち主にも存在を否定され、完全な敗北を迎えた。


今では第一の性感帯の座を奪ったお尻おまんこから、
同性との交わりで生成されたオカマ汁を送られ、
ポタポタと垂らすだけの存在に成り下がってしまっていた。


そんなみじめな棒に追い打ちをかけるように、恭子は辛辣な言葉を投げかけた。


「マコトちゃん、すっごく気持ち良さそう……
こんなにおまんこで気持ちよくなれるんだったら、
もう股の間にいる小さなそれ、要らないんじゃない?」

「うんっ♡♡んんっ! いらなぃっ……♡
こんな……はぁ♡ただくっ付いてるだけで……あぁんっ♡
誰にも……入れ……られないような……もの……はぁんっ♡いらないのぉぉ♡♡♡」

「そうよねぇ♡じゃあ、もうそんなもの捨てちゃいましょ?
マコトちゃんはこれから男を捨てて女として生きるの。いい?」

「うんっ♡なるぅ♡♡女の子に……ぁあああん!! 女の子になるのぉ♡♡」


そのタイミングで恭子は一気にディルドを奥まで突き入れた。
同時にポンプを押し出し、疑似精液を誠の中に噴射する。

前立腺に男の濃厚な精子を感じた誠は、身体を大きく痙攣させ……


「んふぅっ!! ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡♡」


ビクビクビクビクッビクッ―――――――――――――


背中を大きく反らせて絶頂に達した。


誠の小さなそれの先端からは、
まるで涙を流すかのように透明な液がポタポタと垂れるばかりであった。
[ 2018/02/19 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.39 【 ずっと傍に 】


ついに女性としての絶頂を体験してしまった誠。



前立腺はピクピクと痙攣し、生成した性液を次々と尿道へと送り出してはいるが、
萎んだ棒の先端からは、女のようにトロトロとそれを溢れ出させるばかりで、男性のような射精の勢いはない。

あまりの快感で半開きの惚けた口からは涎を垂らし、時折、沖に上げられた魚のように背中をビクつかせていた。

脱力しながらも頬を染め、ハァハァとお腹で息を吸う姿は、誰から見ても行為後の女性の姿そのものだった。




「とっても気持ち良かったわね……これが女の気持ち良さよ……
マコトちゃんは、もうこの気持ち良さを忘れることができないの……

男の人とのエッチが気持ち良すぎて、
女の人とエッチしたいなんて全然思わなくなっちゃった……

おちんちんのない女の子じゃ、挿れるものがないし、お尻がキュンキュンすることなんてないわよね?

この感覚を味わうためには、男の人と付き合ってエッチするしかないのよ……」


そう言い、誠のお尻に入っているディルドを軽く出し入れする。


「ぁぁんっ……おちんちん大好き……♡ もっと……もっと奥に挿れてぇ……♡」


恭子の手の動きに合わせるように腰を振り、
肛門でディルドをしゃぶりながら答える。


「おちんちん大好きなマコトちゃんは、ずっとおちんちんをお尻に挿れて欲しかったの
でも周りのみんなは、ノーマルな子ばかり……
マコトちゃんは、いじめられるのが怖くて、
男が好きって誰にも明かすことができなかったのよね……

可哀そうだけど、マコトちゃんは中学高校と男の人へのエッチな気持ちを、心の奥に燻らせたまま生活していたのよ

でも大丈夫。

大学に入ったら、きっと可愛い男の娘が好きな男性と巡り合えるわ……
その日が来るまで、このことは秘密……いいわね?」

「うん……」


ここまで調教できれば十分だ。
今後、誠が女性に興味を持つことは、もうないだろう。

幼児の頃からずっと男性が好きだったのだ……
誠が自分の変化に気づくのは、もはや難しい状態にあった。

唯一、高校の時に直美と付き合った思い出があるのが気がかりではあるのだが、
それについては、ホモをカモフラージュするためだったとすることにしよう。

恭子はそこまで考えると、再び【STOP】をかけることにした。



※※※



催眠状態の誠を浴室へと連れていき、温かいお湯で身体を洗ってあげる。
使用していた衣類を洗濯機の中に入れスイッチを押す。

そうして一連の後始末を終えた恭子は、
誠に着替えさせた服を、初めから着ていたと認識させて催眠を解いた。


「16……17……18……あなたは元の年齢に戻ります。気分はとてもスッキリしていて、まるで生まれ変わったかのような気持ちです。
さぁ目を開けて……元の世界に戻るわよ? 3……2……1……」


パチン――


ゆっくりと目を開ける誠。
パチパチと瞬きをして、不思議な表情をしている。
さっそく何かの変化に気づいたのだろうか?


「おはよう、マコトちゃん。気分はどう?」

「……おはよう、恭子さん。
うん、いつも通りすっきりしてるよ。でも……」

「どうかしたの……?」

「何かが違う……なんだかいつもの自分じゃないような気がする……」


実際誠は、催眠前と違って、
女性特有の雰囲気を全身に纏うようになっていた。

分かりやすい違いを挙げると、
内股で座り、姿勢は若干丸みを帯びたものに変わり、声はワントーンほど高くなり、抑揚のある話し方へと変わっている。

しかし、当の本人はそれが昔から当たり前と思い込まされているため、違和感の正体がわからずにいた。


「何かしらね? 別に変わった感じはしないけど……珍しくアロマを焚いているからかしら?」

「アロマ? あ、本当だ」


部屋の隅に設置されたアロマ加湿器に注目する誠。


「今日、マコトちゃんに催眠を勧めたのは、これを試してみたかったからなの」


透明な容器から見える紫色の液体。
これは、アヘリカから取り寄せた植物とアサガオの種子を乾燥させ、
硬水でエキスを抽出し、塩素を加えたものだった。

加湿器から噴き出た蒸気は、部屋中に分散し、
それを嗅ぐ者にある種の神経作用を及ぼし、通常の何倍もの被暗示効果と抗覚醒効果をもたらしていた。

『黒い本』に載っていた方法を実践したものだが、
これのおかげで、催眠中の誠がいくら恭子の暗示に不快感を抱こうとも、覚醒することがなかったのだ。


「ふふふ……本格的でしょ?
今日はなんだか、こだわってみたくなったの。
催眠ってよりもサロンって感じだけどね」


にっこりとほほ笑む恭子。


「良い匂い……
恭子さんの部屋のインテリアもそうだけど、こうしてアロマを焚いていると、
本当にサロンに来ているみたいね……なんだか素敵……」

「そう? じゃあ次からはオイルマッサージも始めてみようかしら?」


恭子の冗談に、思わず笑ってしまう誠。

この香りが気に入ったようで、しきりにクンクンと匂いを嗅いでいた。


「もしかしたら、これのおかげかもね。
リラックスするだけじゃなくて、ストレスも緩和されたって感じ。
なんだかわからないけど、長年こびりついていた余計なものが全部とれちゃった気がする
ありがと♡恭子さん」


そう言い胸を撫でおろす誠。
アロマを焚いているからだと納得してくれたようだ。


(ええ……余計なものを全部取ってあげたわ……
あなたに男らしさなんて必要ない……

直美と私の関係を認めてもらうのが本来の目的だったけど、
これで今までよりもっと仲良くなれるようになったかもね。

男女の友情なんてあり得ないと言う人もいるけど、
女に興味のないホモのマコトちゃんだったら、それは女同士の友情と同じこと

これからもっと女らしくなれるように、
色んなこと教えてあげるからね。マコトちゃん……)


催眠の成功を確認した恭子は、
パソコンの横に置いてあるチラシに目を向ける。


「マコトちゃん、そろそろお腹空いたでしょ?
何か出前でも頼んで一緒に食べましょ?」

「うん、そうだね♪」


話題を夜食へと切り変える。

恭子もさすがに何時間も催眠をかけ続けていたこともあり、お腹が空いてしまっていた。
二人は肩を並べて和気藹々とメニューを選び始めた。



※※※



注文した出前を食べながら、和やかに談笑する誠と恭子。

誠は女としての感覚が、強くなってきているのか、料理の取り方、口への運び方も、しおらしく女性らしいものへと変わってきていた。

若干まだギコちない部分もあるのだが、このまま時間が経てば、
それが当たり前となり、自然なものになるような感じがした。


(退行催眠……こんなにすごいとは思わなかった
マコトちゃんが男だってことを忘れてしまいそうになるくらいだわ……

こんなに短時間に、人ひとりの性格を変えてしまえるなんて、
あの本は一体何なのかしら……?

普通、こんなに強力な催眠方法が書かれてある本が、誰にも注目されず、埃を被った状態で置かれているはずがないわ。

内容も私のニーズに合い過ぎている感じがするし、
あまりにも都合の良い展開で、まるで誰かに仕組まれているみたい……)


カバンの横に置いてある黒い本をじっと見つめる。
漆黒の表紙、その色は全てを飲み込む闇のようにも見えた。


(とにかく不気味過ぎる……
あの本には感謝するけど、ずっと頼り続けるのは危険ね……)


恭子は妙な不安を感じ、明日の朝一番に図書館へ返却することを決めた。



※※※



「ねぇ、恭子さん
恭子さんって、今まで好きになった人っている?」

「えっ? す……好きになった人?」


誠からの急な質問に驚く恭子。


「だって恭子さん、
こんなに綺麗なのに彼氏の噂、一度も聞いたことないんだもん」


恭子はこの類まれなる美貌にも関わらず、
中高と一度も男性と交際したことがなかった。

理由はもちろん、中学の時の強姦未遂事件にあるのだが、このことは一部の先生と直美と犯人しか知らなかった。


(……ここで話してみるのも良いかも……?)


ここで、自分の過去を打ち明け、
男性に対する苦手意識と、直美への好意を示しておけば、これから二人が付き合う流れとしては、より自然に見えるはずだ。

今の誠は、十分すぎるほど同性愛を受け入れているし、
直美と寄りを戻そうという気持ちもなくなっている。

ここで打ち明ければ、共感してくれる可能性は高い。


恭子は自分の過去を打ち明けることに決めた。


「実は……直美しか知らないことなんだけどね……」



※※※



「……」


恭子から事件の話を聞き、黙り込む誠。

気軽な恋愛話をしようと話題を振ったのだが、
まさかこんな重い話になるとは考えてもいなかったようだ。


「だから、私は男の人が苦手で、
告白されても受け入れることができなかったの……」

「そうだったんだ……
でも……どうしてわたしにそれを打ち明けてくれたの?」

「マコトちゃんが親友だからよ……
だからこの話をしたの……私のことをもっと知って欲しくて」

「そんなにわたしのことを信頼してくれているんだ……
ありがと……恭子さん……」


親友であり、尊敬している女性に大事なことを打ち明けられて、
誠は感無量といった様子であった。

恭子は続けて、直美への思いを打ち明けることにした。


「それでね、マコトちゃん……
ちょっと言いにくいことなんだけどね」


コクリと頷く誠。


「私、好きな人はいたのよね
元気で明るくてかっこよくて……中学の時からずっと好きだった人」

「いたんだ~! それって誰なの?」


ワクワクとした表情に変わる誠。
ようやく話題が恋愛話へと変わり嬉しそうだ。


「実はね……相手は……直美なの……」

「っ⁉」


恭子の言葉に驚き固まってしまう。

今まで自分が付き合っていた女性を、
恭子は中学の時からずっと好きだったと言うのだ。これは驚かずにはいられない。


「あっ、誤解しないで

直美は元々、そういうのに興味ないだろうし、
私は遠くから直美のことを眺めていられればそれで良かったの

もちろんマコトちゃんから直美のことで相談された時だって真剣に考えていたし、
二人が結婚して幸せになれば良いなってずっと思ってたわ

今からだって、マコトちゃんが直美と寄りを戻したいって言うのなら、
私は親友として全力で協力するつもりよ」


誠は複雑な顔を見せる。
しばらく、直美のことを相談していないことに気づいたのだろう。


「ありがとう、恭子さん……でもわたしね
少し前から、もう直美とは友達のままで良いかなって思うようになっちゃって、
もう一度付き合うことは考えてないんだ」


はっきりと自分の気持ちを伝える誠。


「単純に恭子さんの気持ちを知りたいんだけど、
恭子さんは直美に、その気持ちを伝えたいって思うの?」


誠の言葉からは、何か優しさのようなものを感じる。

誠のこの態度なら大丈夫だと思い、
恭子は正直に気持ちを伝えることにした。


「直美が受け入れてくれるかどうかわからないけど……いつか言えたら良いなとは思うわ……」

「そっか……」


誠は顎を手の甲に置き、何かを考え始めた。

質問したからには何か意図があるのだろう。
しばらくして誠が再び口を開く。


「高校1年の時の話なんだけどね

直美、すごく調子が悪くて部活に身が入らない時期があったの……
その時、相談されていたことがあってね
女の人が気になって部活に集中できないって言ってたの」


恭子が直美に催眠を掛け始めたばかりの頃の話だ。

その時から、直美には女性に興味を持つように暗示をかけてはいたのだが、
同性愛への嫌悪感を下げる暗示はかけてはいなかったため、
直美は自らの性的興味の変化に、抵抗する反応を見せていたのだ。


「わたしもどうして直美がそうなったのかわからなくて、二人で原因を探っていたんだけど
その時、同性愛の話が持ち上がって、直美にどう思うって聞いたの……」

「なんて答えてたの……?」


誠が言いにくそうな顔をしている。


「えっと……」

「あんまり良い反応じゃなかったのね……」

「うん……
でもね、この話をしたのは、恭子さんがわたしの相談に乗ってくれたように、
今度はわたしが恭子さんの力になりたいって思ったからなの‼

時間はかかると思うけど、
直美がそういうのを受け入れられるよう、
わたしの方からも色々とアクションかけてみるから」

「ありがと、マコトちゃん……すごく心強いわ
やっぱり私たちは親友ね」


誠の気持ちは有り難かったが、
直美は既に自分の物になっているので協力は必要なかった。

歓迎してくれるのがわかっただけでも十分だ。

だが、まだ直美との関係を伝えるわけにはいかない。
誠のイメージでは、直美はまだノンケで同性愛に否定的な人物となっているのだ。

このまま告白して成功しましたという都合の良い展開では、また催眠術で心を入れ替えたと疑われるのがオチだ。

もう一度、退行催眠をかけて、誠の記憶をいじり
直美が以前から同性愛に興味のある人物だったと変えてしまえば、その心配はなくなる。


ここまでくれば、後は消化試合のようなものだ。
恭子は誠が寝静まるのを待つことにした。



※※※



深夜……

虫の声も、風の音も、何も聞こえない静寂の夜。

恭子はふと窓の外を見る。

雲一つない空に、美しい満月が煌めいている。

床には布団が敷かれ、そこには美しい女性の姿をした誠が寝ており、
遮光カーテンに遮られ薄くなった月の光に照らされている。


(綺麗ね……まるで神話に出てくる女神みたい……

今日わかったけど、
やっぱり私は、マコトちゃんに惹かれているみたいね……

この美しさ、優しい心、一緒にいて安心できる抱擁感

直美と別れた後でも、私がここまでマコトちゃんに執着したのは、直美が男の人に取られるのが嫌なように、
マコトちゃんが女の人に取られるのが嫌だったのかも……

マコトちゃんが、他の女の人と付き合うようになれば、
きっと相手の女性は、私の存在を良くは思わないわ

浮気相手だって疑う可能性だってある

そうなれば、今までと同じようにマコトちゃんと仲良くすることはできない

でもマコトちゃんがホモだったら、
浮気相手だなんて疑われる心配はないし、女友達としてずっと傍にいられる)


「……」


「ずっと傍に……
そっか……私は……二人のことが欲しかったんだ……」


思わず口ずさんでしまう恭子。

口を抑え、誠の様子を窺う。

そうしてぐっすり眠るその姿を確認すると、
ベッドから降り、耳元で囁き始めるのであった……
[ 2018/02/23 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)

Part.40 【 終わりなき贖罪 】


ペロペロペロ……ぬちゃ……くちゅぅぅぅ……ちゅっちゅっ……レロレロレロォ……


生々しい水の音が聞こえ、ぼんやりと目を覚ます。

恭子は、背筋と腰にゾクゾクとした痺れと、
左右に広げられた両足の間に、優しい圧迫感と暖かい吐息を感じていた。

いつの間にか男の朝立ちのように、尖り切ってしまったクリトリス。
ぐっしょりと濡れぼそり、ピクピクと震えているのがわかる。

カーテンの隙間から朝日が差し込み、
そこを猫のようにペロペロと舐める影を照らし出す。


「ん……はぁ……またなの……直美」


その声を聞き、耳をピクンとさせ、顔を上げる直美。
トロンとした艶めかしい表情。愛する人の女芯を味わった唇は厭らしく濡れていた。



いつからこうされていたのだろうか?

既に恭子の身体は、この悪戯な子猫の舌先から生み出される甘い快感に支配されようとしていた。


口元をペロンと舐め、直美が返事をする。


「キョウちゃんおはよー♪やっと起きたんだねっ!」

「おはよう……じゃない……わよ…………はぁ……はぁ……」


抗議をしながらも、すっかりと火照ってしまった身体。
抵抗する意思はあれども、既に身体が更なる刺激を求めてしまっている。

直美はその反応に満足すると、身体を左右に揺らしながら、恭子の控えめに膨らむ胸へと向けて前進を始めた。

既に恭子のシャツのボタンは全て外され、
透き通るように白い素肌が外気に晒されていた。

直美の乳首の先端が、ツツツーっと露わになった恭子の皮膚をなぞる。
その僅かな刺激さえも、恭子の官能を高めるには十分であった。

直美は、覆いかぶさるような姿勢で、目的の場所へと到着すると、
ほんのりとピンク色に染まる桃の果実を、唾液をしっかり絡めて味わい始めた。


ちゅる……ちゅうぅ……レロレロレロレロ……あむあむ……ちゅぅぅぅぅ


「んん……んふっ、はあぅっ……あ……はぁぁんっ!!」


唇と舌の裏筋で、中心にある突起にたっぷりと甘美な刺激が与えられる。

同時に優しく触れる手。
ほんのりと感じる人肌の温かさと、ふわふわと揉まれる嬉しさで、
抵抗していた恭子の気持ちも、次第にほころび始めてしまう。


「ふふふ……キョウちゃん、お顔とろっとろだよ♡」

「あぁんっ、だめぇ……こんな朝から……んんんっ!!」


直美は、素直になる魔法をかけるように、ツンデレな音を発する唇に、触手のようにうごめく舌先を挿入した。


「んちゅっ……ぢゅっぢゅっ、あむっあむっ……れろ~ちゅぅぅぅぅぅぅ、ちゅっ♡ちゅっ♡ちゅっ♡」


じっくりこってりと口内を嘗め回され、思わず自らも舌を差し出してしまう恭子。
直美は、それを唇で甘噛みをし、優しく吸い寄せる。


じゅるぅぅぅぅぅぅ――――――

「んんぅっ……んんんんっ……」


音を立てて溜まった唾液を吸い取られると、
それだけで直美に支配されているような背徳感を感じてしまう。


起きてすぐに受ける刺激に、徐々に恭子の意識が回復してくる。


「キョウちゃん、どお? 目が覚めてきた?」 

「うん……はぁはぁ……覚めたから……もう十分……ぁん……覚めた……からぁ……」

「じゃあ、もっと気持ちよくしてあげるね♡」


そう言い直美は、お互いの下半身の硬く尖り切った突起を重ね合わせ、恭子の背中と腰に手を回し抱き上げる。

そして軽快なリズムで腰を振ると、くちゃくちゃと濡れぼそった性感の塊同士を叩き合わせた。


パンッ――パンッ――パンッ――パンッ――パンパンッ――パンパンッ――

「あっ! あぁぁぁぁぁ♡はぁっ! あぁぁっ♡ふぁぁっ♡はぁぁっ♡あっ♡あっ♡あぁん♡」


髪を振り乱し、恋人から与えられる刺激に歓喜の声を上げる恭子。

そんな声を、自らの口内で味わってみたくなった直美は、
恭子の後頭部に手を回すと、しっかりと唇同士を結合させた。


「あむっ……ンフッ♡フンッ♡ンンッ♡ンンッーー♡フンッーー♡♡ンンンンッ♡」


口の中で恭子の喘ぎ声が振動する。
その刺激が愛おしくて、恭子の髪を撫であげる。

恋人から与えられる優しい愛撫に、
恭子の抵抗の気持ちは消え失せ、ひたすら与えられる愛を全身で受け取っていた。

そうしてじっくりと唇を合わせながらも、腰の動きは続けていく。

ある種男のように力強い腰の動きで、正確に秘貝同士を捏ねくり合わせる。
逞しくピンと張った直美のクリトリスは、女らしく控えめな恭子のそれをしっかりと捉え愛撫していた。

髪を撫であげ、舌を絡ませ、時折尖った乳首同士でキスしながらも、同時にクリトリス同士も捏ねくり合わせる。まさに運動センス抜群の直美ならではの動きであった。


「ンンンンッ♡♡ウン♡♡ウンッ♡ンンンッ♡♡」


恭子の喘ぎ声の変化を捉え、唇を離す直美。


「かわいい声♡ イキそう? キョウちゃん、イキそうなのぉ?♡」

「あっ……はぁんっ♡そう……もお、ダメなのぉ♡イっちゃうの♡♡貴女が……上手すぎて……ハァっ♡もうダメなのぉ♡♡」


次から次へと与えられる快感で、すっかり出来上がってしまった恭子。
目を潤ませ、直美に向かってもっともっとと愛撫を求める。

普段は凛としてスマートな彼女が、甘えた声を出すのが嬉しくて、直美はつい意地悪を言いたくなってしまった。


「へ~~~~そんなにダメなんだぁ……ふふふ……♡
あたしがここで止めちゃったら、キョウちゃんどうなっちゃうのかな~?♡」


腰の動きをゆるやかにして、ニヤニヤと恭子を見つめる直美。


「あぁんっ……だめぇ……ここで止められちゃったら、わたし……おかしくなっちゃう……
もっと……もっと貴女の全身で、私のことをイカせてぇ……お願い♡」


普段は出さないような甘えた声で懇願する恭子。


「すっかり素直になっちゃったね♡キョウちゃんは激しいのが好きなのかなぁ?♡」

「うんっ……直美の激しいの……もっとちょうだい♡」

「わかった! 愛するキョウちゃんの為だもの。
もっと速度上げてあげるね~~~♡♡♡えいえいえいえい♡♡♡」


自らを求めてくれるのが嬉しくて、愛する恭子がもっと喜ぶ姿が見たくて、直美は全力で腰を打ち付けた。


パンパンパンパン!! ――グリュグリュグリュグリュ――パンパンパンッ! パパンッ! パパンッ! パパパンッ!! 


「あぁあああああああ♡♡いくぅぅぅぅぅぅ♡♡♡いっくぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ビクビクビクビクッ!!!! ビクンッビクンッ!!!!!!!!!!!! ―――――――



あまりにも巧みな直美の腰使いにより、激しい声を上げて恭子は限界を迎えた。
何もかも満たされた幸せな表情。すっかり翻弄されてしまった身体は赤く染まり、
また一段、直美からの刺激を素直に受け取れる身体へと変化させられてしまった。



※※※




ジャーーーーーーーー



シャワーから噴出される水の音が浴室内に響き渡る。

少し不機嫌そうな恭子と、今日もしてやったりといった直美。

二人は並んで一つのシャワーを使いあっていた。


「いくらエッチが好きでも、毎朝こんなことされていたら身体が持たないわよ……」

「だって~~キョウちゃんの隣で寝てたら我慢できるわけないじゃん」

「じゃあこれからは別々に寝る?」

「それはもっとヤダー!」

「直美がこのまま、毎日エッチするって言うなら、私も少し考えなければいけないわね……」

「え~……わかった……じゃあ週七回から六回に減らす……」

「そこは五回にしなさい……」

「そこまでは譲れないよ! キョウちゃんとのエッチ、週二回も我慢するなんてあたしには耐えられないっ」

「朝だけでしょ。夜は毎日してるじゃない……」

「え~……もしかして、キョウちゃん……あたしとのエッチ飽きちゃったの……?」


直美が悲しそうな表情で尋ねる。
恭子はその表情に弱く、直美もそれがわかっていて、敢えてそういう顔をしていた。

とはいえ、元はと言えば、
直美がここまで女同士のエッチにハマってしまったのは、恭子の催眠術が原因なのだ。


直美が恭子の家に泊まりに来るたびに、女同士のエッチへの依存心を高めていき、
女性に性的な欲求を持つように変えていった。

それが行き過ぎたために、
現在の直美は、男以上に女性への性的欲求が高くなってしまっていた。
その結果、毎日エッチをするようになってしまったのだ。


元々身体的な能力は、直美の方が圧倒的に優れていたため、
今では、完全に直美が攻めで、恭子が受けの状態である。

恭子は、催眠術をかけた側にも関わらず、連日直美から受ける激しいセックスにより、少し触られただけで、ドキドキして股間を濡らすようになってしまっていた。


恭子の身体を知り尽くした直美は、恭子の身も心も掌握してしまっていたのである。


「ううん……そういうわけじゃないんだけど……」

「じゃあ……あたしとのエッチ……どう思うの?」

「……直美とのエッチは激しくて……優しくて……温かくて……いつも気を失いそうになるくらい気持ちいいわ…」


直美はシャワーを壁に掛けると、恭子の背中に腕を回した。
顔を近づけ、じっと恭子の眼を見つめる。


「へぇ~、気を失いそうなくらい気持ちいいんだ~♡そんなに良いんだったら、六回でも良いよね?」

「ろ……六回は……少しおおい……んんっ」


恭子の唇を直美の唇が塞ぐ。


んんっ……ちゅっ……ちゅぱ……ちゅぅぅぅ……んんんっ……ちゅぱ


「気持ち良いんでしょ……? 六回で良いよね? キョウちゃん♡」

「はぁ……んんっ……六回で……いぃわ……♡」


つい甘えた声で返事をしてしまう。キスだけでメロメロにされてしまう恭子であった。




(うぅ……まさか、私が直美にここまでされてしまうなんて思わなかったわ……)


とは言え、こうして毎日直美から求められるのは、
今まで孤独だった恭子からすると、十分幸せな日々なのであった。



※※※



ジューーーーーー……



朝御飯のチャーハンを作る恭子。
材料は前の日に作った八宝菜の余りの野菜を使っていた。


「直美―、お塩取ってくれるかしら? 味の素もお願いね。
あと、お皿もテーブルの上に並べて、時間あまりないからスープは適当にインスタントのを選んでね」

「もう、キョウちゃんばっかり料理作って、あたしにも作らせてよー」

「あのね……ここに引っ越してきてから、もうお鍋五個もダメにしちゃったでしょ……
直美は、しばらくお料理禁止よ。ただでさえ近所にボヤ騒ぎで迷惑かけているんだから、少し自重しなきゃダメよ」

「しばらくってどのくらい~?」

「ん~とね、半年くらいかな?」

「え~! ちょっと長くない~?」

「そうねぇ~じゃあ一週間でいいわ」

「ん~~~~~~そのくらいだったらいっか」


渋々、納得する直美。


最初に敢えて長い期間を示して、後から本命の期間を言う。
エッチでは苦戦をしていたが、普段の直美の扱い方にはそれなりに慣れていた、

直美は料理下手ではあるが、
恭子は基本的に、直美の手料理を食べたいとは思っていたので、
そこまで長い間禁止にすることは考えていなかった。

美味しかろうとまずかろうと、直美の手料理であれば大歓迎なのだ。

ただし、食べられるものであればだが……




※※※




それから二人は大学へ向かい、
午前の講義を終え、所属するサークルへと向かっていた。

そこへ、二人を見つけた髪の長い可愛らしい服を纏った女性が、走り寄りながら声をかけてきた。


「あっ! キヨちゃん、ナオちゃん、おはよ~!」

「あ、マコちゃん、おはよ~!」


マコちゃんと呼ばれた女性。
バッチりメイクをしたこの女性はなんと“誠”だった。


大学に入った誠は、それから数か月して女装で過ごすようになっていた。

恭子の協力もあり、直美には無事女装と性的指向の変化を受け入れてもらっていた。

最初は驚いていた直美だったが、彼女自身も男性より女性の方が好きになっていたこともあり、
むしろ女性の誠の方が一緒にいて落ち着くと言うようになり、
今では、三人仲良く和気藹々と過ごすようになっていた。



「ねぇ、マコちゃん。大学に入って結構経つけど、そろそろ良い人見つかったんじゃない?」


「う~ん……途中までは良いんだけど……やっぱり男ってバレると引かれちゃうんだよね……」


恭子の問いに、少し俯き加減に答える誠。
あまり上手くはいっていない様子だ。


「そっか~じゃあ私の方でも、良い人いたら紹介するわね。もちろん、男もOKって人を探すわ♡」

「ありがと~キヨちゃん♡ ところで、そういう二人は相変わらずラブラブなの?」


誠がお返しに質問をする。


「えへへ~~言わなくてもわかるでしょ~♡」


恭子の代わりに直美が返事をする。


「キョウちゃんったら、あたしにメロメロでね! 今日も朝からおっぱいとクリちゃんを、んぐぐぐぐっ……」


両手で恭子が直美の口を塞ぐ。


「だから、そういうことは公共の場で言わないのっ!」


顔を赤らめ、注意する。


「羨ましい……わたしも早く二人みたいに付き合える人が見つかるといいな~♡」


にこやかな表情で言う誠。もうすっかり二人の関係を認めている様子だ。

三人はワイワイと雑談をしながら部室へと向かっていた。




※※※※※※※※※




と、まぁ……これが私の今の生活の様子。


あれから私たちは同じ大学に入り、
新しく設立した服飾系のサークルで、自分たちで服をデザインしたりしている。

出来た服は、私やマコちゃんががモデルとなり、企業の展示スペースなどを借りて公開している。

最近は徐々に注目を浴びるようになり、
企業関係者から、名刺を渡されるようにもなってきた。

実際に展示場に来たお客さんに、服が売れることも多くなり、商売の方は上々だ。



あの後も、マコちゃんに退行催眠を続けた私は、直美との出会いから卒業に至るまでの記憶を改変した。

マコちゃんには、直美は元から同性愛に興味があったと思わせている。

そして、二人が付き合ったのは、単なる気まぐれで、
いつ友達に戻っても良いような、軽い関係だったということにした。


そのため、直美が私と付き合うようになっても自然の流れだと感じてくれたようだ。

そうして無事、二人の関係を認めさせたところでマコちゃんを開放した。



それから数日間は、女性の心を植え付けられ戸惑うこともあったようだけど、
日が経つにつれて、新しい自分に溶け込んでいき、今では自他ともに認める女性へと変身した。

まだ男性器は取っていないけど、誰か良い人が見つかって、
本格的に付き合うことになったら取ることを決めるかもしれない。

その時は良いお医者さんを紹介してあげようと思う。



自分と直美はというと、
他のサークルメンバーにも、二人の関係を受け入れてもらって、毛嫌いする人は誰もいない。

相変わらず直美には振り回されることが多いが、いつも一緒で夢のような日々を過ごしている。

これまでの人生で、今が一番幸せな時だと思う。
そしてこれからも、その時々が人生で最高の時であればと思う。


しかし、ふと思うことがある。


今の直美もマコちゃんも、いわば作られた人格で、
私は本当の意味では、大事な友達を二人とも失ってしまったのではないかと……


その事実を忘れている時だけ、私は幸せでいられる……


これまでも、そしてこれからも、その事実は私のことを苦しめ続けるだろう……


催眠によって作られた幸せ。


もしかすると、催眠によって一番作り替えられてしまったのは、
私なのかもしれない……

[ 2018/02/26 00:00 ] 一章【黒百合】 | TB(0) | CM(0)