卒業式が近付き、
残り僅かな高校生活も坦々と過ぎようとしていた。
深夜自分の部屋にて、直美は昔から使っている学習机に座りながら、
珍しく考え事をしていた。
「………はぁ…」
思い浮かべるのは、あの日の学校での出来事。
親友の恭子と、元彼の誠が仲睦まじく抱き合っていたことだ。
二人は、大学合格を喜び抱きしめ合っている様子ではなく、
いつになく真剣な表情で、何かを誓い合っているかのような様子だった。
そんな雰囲気ではとても近づけず、
直美はそっと様子を伺うことしかできなかった。
(キョウちゃんと誠、二人とも一体何を話していたんだろ……
大学のことだったら、あんな泣きそうな顔しないよね?
あんな風に抱きしめ合うなんて……あれじゃあ、まるで……)
不安な気持ちが直美を包み込み、頭から雲のような吹き出しが出始めた。
直美がお得意の妄想を始めたのだ。
「誠くん、私……あなたに伝えたくてずっと言えなかったことがあるの……」
「言えなかったこと……? 恭子さん、それは一体なんだい?」
「実はね。私……ずっと……ずっとあなたのことが好きだったの!!」
「えっ!!? まさかそんな……!?
学校一美人で頭が良くて優しく魅力的な恭子さんが、
まさか僕のことを好きだったなんてすごくびっくりだよっ!」
「今までは誠くんが、直美と付き合ってたから我慢してたの……
でもそれも今日で終わり。私の愛を受け止めてっ! 誠くん!!」
「もちろんだよっ! 恭子さん! 僕、嬉しくて泣いちゃう!」
「ほんとっ!? 私も嬉しくて泣いちゃう!」
まるでコメディドラマのような一幕であるが、
本人は至って真面目に妄想している。
あいかわらずの直美の頭の中である……
(どうしよう……キョウちゃんと誠が付き合うことになってたら……
本来なら親友として応援すべきなんだろうけど……
できない……そんなことできないよ……
キョウちゃんが、誠にとられちゃう。そんなのヤダよ!)
恭子の催眠によって、恋愛対象がすっかり女性へと変わってしまった直美は、
誠が恭子にとられるのではなく、恭子が誠にとられると自然に考えるようになっていた。
(待って待って。まだ決まったわけじゃないし……
キョウちゃん一度だって、誠のこと気になる素振りなんて見せたことなかったし、きっとあたしの勘違いだよ!)
浮かび上がる不安を慌てて打ち消し、電気を消しベッドに横になる直美。
(こんなこと考えるのやめて、
キョウちゃんのこと考えながらオナニーしよっと♪)
嫌なことを忘れるには気分転換をするのが一番。
そう思い、直美は習慣になっているオナニーを始めた。
※※※
目をつむり、恭子のことを思い浮かべる。
週末、恭子の家に行った際は、必ず一緒にお風呂に入っていたため、
恭子の裸をイメージするのは簡単だった。
直美は右手をクリトリスに、左手を乳首に添えて優しく撫で始めた。
(あぁ……今日もあたしのおまんこ触って……キョウちゃん♡)
そうして直美は意識を妄想の世界に溶け込ませていった……
※※※
「直美。今日はどこを洗って欲しいの?
可愛いおっぱいかしら? それとも濡れ濡れになってるオマンコが良い?」
「んっ……あっはぁ……どっちも~♡ どっちも洗ってぇキョウちゃん♡」
「へぇ~。どっちもして欲しいの……
直美ったらホント甘えん坊さんね♡ ほら、私のお股の間に座って。
じっくりキレイキレイしてあげるからね。ほーら……キレイキレイ♪」
泡でいっぱいになった恭子の指が直美の割れ目に触れ、慣れた手つきで愛撫していく。
それを受け、直美は犬が御主人様に甘えてお腹を差しだすような体勢で足をだらしなく開き、恭子の指先から生まれる快感に身を委ねた。
「ぁぁんっ! すっごい気持ちイィッ♪
ぁぁん♡ もっとぉ~もっとキレイキレイして♡」
「うふふ♡ 直美ったら綺麗好きなんだからぁ、
全身キレイキレイしてあげるわ♡」
「んんっ……あっはぁ……気持ち良い! キョウちゃん、だーいすき♡」
「私も直美のこと大好きよ♡ ちゅっ……」
自分の指を恭子のだと思いクリトリスを捏ね続ける。
そして唇をキスの形に変え、掛け布団を恭子の顔だと思い込みキスをする。
これが現在の直美のお気に入りの妄想だった。
「キョウちゃん、愛してる~♡ もっとチューしてぇ♡」
「ちゅっ♡ ちゅっ♡ 私も直美のこと愛しているわ♡」
(ガラガラガラガラ)
妄想にも関わらず、浴室の戸が開く音がする。
「ハッ!? 誰っ?」
「あっ、誠くん!」
なぜか浴室に乱入してくる誠。
顔以外の部分には、黒いモザイクが掛かっており見えなくなっている。
「直美、恭子さん。僕も一緒にお風呂入って良いかな?」
「だっ……ダメだよっ! 今はあたしがキョウちゃんと……」
「もちろんいいわよ!」
「えっ!?」
誠に抱きつく恭子。
誠はなぜか自信満々の顔をしている。
「ちょ……ちょっとキョウちゃん!?」
「ごめんね。直美。
私やっぱり男の人のことが好きなの。誠くん、一緒に愛し合いましょう」
「もちろんだよ。恭子さん、さあ愛し合おう!」
「あっ……ダメぇぇぇぇぇ!! キョウちゃんこと、とらないでぇ~~~!!」
辺りが急に真っ暗になり、
恭子と誠の二人と、直美を別々のスポットライトが照らす。
そのまま地面がスライドし、恭子と誠は遥か遠くの彼方に消えてしまった。
追うこともできず、両膝を地面につけ、両手を二人に向け叫ぶ直美。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
キョウちゃーーん!! マコト~~!!」
二人の愛は永遠に……
あとには恋に破れた女の姿が残っていた。
※※※
(って! なんて妄想してるのっ!! )
自分の妄想に自分で突っ込みを入れる。
そのまま起き上がり、頭を抱えて項垂れる。
(もぉ~~! 変なこと考えちゃダメなの! 妄想するのは止めて寝よっと!)
直美は、そう思い再び枕に頭をつけ目を閉じた。
※※※
眠っている直美の隣に恭子が現れる。
「あっ! キョウちゃん!」
「うふふ、一人で寝るの寂しくて、つい来ちゃった♡」
「わーい♪ キョウちゃん、来てくれたんだ♪ 嬉しいっ! 一緒に寝よっ♪」
「あら? せっかく同じベットにいるのに寝るだけでいいの?
直美はもっと他のことをしたいんじゃないかしら?」
「……うん。寝るだけじゃなくて~おっぱい触り合ったり、
いっぱいキスしたり、いろ~んなことしたい♡」
「そうよね~。エッチなレズビアンの直美ちゃんは、女の子同士エッチしなきゃ眠れないのよね?」
「もぉー誰のせいでこうなったの?
キョウちゃんが魅力的過ぎるのがいけないんだよ?
あたしだって最初はこんなんじゃなかったのに、キョウちゃんのせいでレズビアンになっちゃったんだからね!」
「はいはい、責任取って直美をお嫁さんにしてあげるわ。ほら、誓いのキスよ。ちゅっ♡」
突然のキスと、お嫁さんにしてあげると言われ、赤面し大喜びの直美。
「やぁぁぁぁんっっ♡♡ もうだめぇぇぇ♡♡
キョウちゃんしか見えない~♡♡
もっとチューしてぇ♡ いっぱい誓いのキスしてお嫁さんにしてぇ♡♡♡」
「もちろんよ♪ 一緒に誠くんのお嫁さんになりましょうね♪」
「へっ!?マ……誠?」
「やぁ、恭子さん、直美」
スタイリッシュなタキシードを着た誠が突如現れる。
「なっ……なんでっ!?」
「待ってたわ、誠くん♡」
誠の姿に驚き、一瞬目を
離した隙にウェディングドレス姿に変る恭子。
「直美も誠くんのお嫁さんになるのよね?」
「えっ!? そ……そーじゃなくて、あたしはキョウちゃんの……」
「あら? そうなの? 普通、結婚って男女でするもんじゃない?」
「そ……そうなんだけど……」
「直美はお嫁さんになりたくないみたいね。もう行きましょ、誠くん♡」
そのまま二人は手をつなぎ、バージンロードを歩いてゆく。
舞台はいつの間にか教会へと変り、中央の祭壇の前で、
二人は誓いのキスを……
(あぁぁぁぁぁぁっっっ!!! キョウちゃ~~~~ん!!! )
先日の出来事は、直美が思っているよりもショックが大きかったようだ。
そのまま何時間も直美は悶え苦しみ、いつしか疲れ果て寝てしまった。
※※※
朝になり、目の下にクマを作りつつも登校する直美。
もう既に授業らしい授業もないため、週1登校となっている。
直美は今日、部室に置いてある荷物を取りにいこうかと考えていた。
ふと、後ろを歩く女子生徒達の会話が聞こえてくる。
別に聞き耳を立てていたわけではないのだが、
寝不足のため、耳が冴えてしまい、よく聞こえるようになっていた。
「ねぇねぇ、聞いた?
3年で有名な桐越先輩と甘髪恭子が付き合うことになったんだって!」
(えっ!?)
信じられない語り始めに驚く直美。
「聞いた聞いた! ずいぶん前に桐越先輩、彼女と別れたって聞いていたけど、まさか甘髪に寝取られていたとは……」
「なんか聞いた話によると、二人とも桐越先輩が前カノと付き合ってる時から頻繁に家を出入りしてたらしいよ。
始めは甘髪が教室に来てアプローチしたんだって! ほんと魔性の女よね」
(誠とキョウちゃんが前から頻繁に会っていた……? ウソっ……)
直美は思わず両手を口に添え、目を丸くさせる。
「え~、でもなんかショック。
桐越先輩って優しいし、そんな不純なことしないと思ったのにな…」
「きっと甘髪がえっろい誘惑して誑かしたんじゃない?
あれこれ理由つけて家に誘いだして、そのまま色仕掛けしたのよ。
あんな性格だけど、見た目だけは良いからね。
きっと桐越先輩もまんまと乗せられたんでしょうね」
「へぇ~、ずいぶん詳しいんだね……お姉さんにも聞かせてくれるかな?」
若干、こめかみをピクピクさせつつも、
無理やり笑顔を作り、後輩と思われる女子生徒に話しかける。
「……ちょっとアンタ誰? なに人の話に勝手に……」
「ひっ!? ふ……藤崎……先輩……」
「あたしの元彼と親友がなんだってぇ?」
誠と恭子とは別の意味で直美は有名だった。
類い稀なる身体能力、どんな相手にも怯まず、言いたいことをバンバンぶつける精神力、それに加え破天荒な性格で行動の予測が全くつかない。
そのため下級生の間では、怒らせると怖い先輩として恐れられていた。
「ご……ごめんなさ~い!!」
揃って謝罪する女子生徒達。
直美は本気で睨みつけると結構怖い、
そんな直美の威圧は、まともな女子が受けて耐えられるようなものではなかった。
寝不足と、親友と元彼を馬鹿にされた怒りで珍しくキレていた直美だったが、
ある程度怒りをぶつけたところで、恭子と誠が同じ通学路であることを思い出し冷静になった。
直美は落ち着くと、女子生徒達から噂話の詳細を聞きだした。
※※※
(まさかキョウちゃんと誠が、
あたしの知らないところで会っていただなんて……
でも……ただの噂話かもしれないし、決めつけたらあの子達と同じだよね)
「直美、おはよう」
背後から恭子の声が聞こえる。
その声を聞くだけで心が安らぐ気がした。
「おはよ~♪ キョウちゃん!」
たちまち笑顔に戻る直美。
不確かなことを、あれこれ考えるのが苦手だった直美は、
先程の噂話について直接本人に聞くことにした。
「あ、あのね、キョウちゃん」
「?」
(……でも、もし噂が本当で、
キョウちゃんに誠と付き合うことになったって言われたらどうしよう……)
そうだとしたら、
おそらくまともな顔で、恭子と向き合うことはできなくなるだろう。
思っていることが表情に出やすいのは自分でもよくわかっていた。
二人の新たな関係を応援するにしても、
表情から歓迎していないことが丸わかりになってしまう。
「やっぱりなんでもない」
「あら、そう」
(うぅ~……やっぱり聞けない……どうしたらいいんだろう……)
こんな時恭子だったら、
直美が思いつきもしなかったアドバイスをくれるものなのだが、
今回直美は自分で解決策を考えなければならなかった。
「おはよ~直美、恭子さん」
「おはよう、誠くん」
二人が歩いていると、誠が挨拶してきた。
心なしか、恭子の誠にかける言葉遣いは、いつもよりも優しく感じられた。
(あれ? キョウちゃん、なんか今日はいつもと違うような気がする……
なんでそんなに口調が穏やかなの…?)
これは直美の思い違いなどではなく、実際恭子は誠に優しかった。
関係が親友に格上げされたからというのもあったが、誠に負い目のある恭子は、
これからは誠をフォローしていこうと心を入れ替えていたのだ。
「あら……直美、どうしたの?
もしかしてまた訳のわからない違和感が現れたのかしら?」
「ん? あっ! 違うよっ!
ちょっと考え事してて……誠、ごめんね。おはよう~!」
「おはよう、直美。僕も返事ないから恭子さんと同じこと考えちゃったよ」
そう言いつつも笑っている誠と恭子。
直美には、それが昨日の妄想の中のイメージと重なって見えていた。
※※※
午後になり、帰り支度をする直美と恭子。
「そうだキョウちゃん、今日キョウちゃん家、行ってもいい?」
「週末以外にも直美がうちに来たいだなんて久しぶりね」
「うん、もうすぐキョウちゃんと一緒に住むことになるんだし、同棲の練習しとこうかと思って♪」
「何それ、いつも練習してるでしょ……
そのうち、引っ越しするまでの間うちに住みたいなんて言いだしそうね」
「えっ? いいの? 住む住む~♪」
「良いって言ってないわよ……
直美だって引っ越しするんだから、今から荷物まとめてなきゃダメよ」
笑いながらも、
直美が単純に自分と遊びたいだけなのだと思い、特に気にも留めない恭子。
そのまま二人は恭子の家に帰宅することにした。
(やった、できるかどうかわからないけど、
この方法ならキョウちゃんから誠とのことを聞けるかも……)
直美はある秘策を胸に、恭子の家に向かうのであった……