誠と真里が気を失って数分後。
商談が行われていた部屋には、
誠、真里、小早川の他に、忍と黒服達の姿があった。
忍は、誠と真里が持ってきた男性用衣装を身に着け、ぼんやりと立ち尽くしている。どうやら既に
催眠状態に入っているようだ。
誠は女装したままソファーの上で眠っていた。
その姿はまるで眠れる森の美少女。
忍と並べると、まさにお似合いのカップルといったところである。
そして真里は下半身の衣類を全て脱がされ、椅子に縛られる形で座らせられていた。
彼女のお尻の下にはタオルが敷いてある。
おそらく前回同様、自慰をさせるつもりなのだろう……。
「準備ができたようネ。それじゃあ始めようかしら」
誠と忍に
催眠深化を行ってきた小早川は、
二人の被暗示性が上がったことにより、
いよいよ誠と真里を別れさせる手段に出ようとしていた。
(誠ちゃんの
催眠も安定期に入ったことだし、
ここでこの女と別れさせることができれば、ニューハーフデビューもすぐネ)
誠への
催眠を始めてから、既に三か月が経過している。
その間、小早川は一週間ごとに誠を呼び出しては、繰り返し暗示を与え続けてきた。
通常ならここまでしっかり掛ける必要はない。
拉致後すぐに恋人と別れさせ、
あとはニューハーフ風俗を利用させて、のめり込ませるだけだ。
だが誠は立場上、完璧な形で仕上げる必要があった。
普通のニューハーフなら、性交中に
催眠が解けても、店の中なので容易にフォローが可能であったが、誠にはそれができなかった。
誠は店の看板となるニューハーフである。
夜伽(よとぎ)の相手は、大物政治家や裏稼業の成功者となる可能性が高く、また出張することも多くなるため、万が一にも
催眠が解けてしまってはならなかったのだ。
催眠は本人が嫌がることをさせると、覚醒に向かってしまう性質がある。ノーマルな男性を、催眠で一時的に
ホモにすることは可能であるが、途中で覚醒してしまうことが多く、
それは心の中で表に現れた自分を否定しているからこそ起こる現象であった。
それを防ぐためには、身も心も完全な
ホモに染め上げる必要がある。それには彼女と縁を切らせることが必須条件であった。
恋人のいない男性と比べ、恋人のいる男性は覚醒の頻度が高く、催眠の効果も大幅に下がってしまう。
誠を完璧なニューハーフにするためには、真里の存在を何としてでも消さなくてはならなかったのだ。
もし誠と真里を別れさせることができたなら、
あとは一度掛けた催眠を解いていくだけだ。
少しずつ少しずつ催眠を解きながら、男同士の快楽を心に刻み付けていく。そうすると最終的には、全ての催眠を解いた状態で、誠をニューハーフとすることが可能となるのだ。
そしてここまで施せば、誠が元に戻る心配はない。
催眠に掛かっていない状態で、ニューハーフなのだから当然と言える。
そしてこれが小早川の求める最終目標であった。
※※※
「あなたには付き合っている恋人がいます。
でもあなたはその子のことが思い出せなくなるの。
名前、性格、姿……過去の思い出に至るまで、全て霧に包まれ分からなくなってしまうワ」
小早川は、忍に暗示を掛けていた。
忍は険しい顔をしているが、覚醒にはまだ至っていない様子だ。
(フゥーーここまでするのに、ずいぶんと苦労させられたワ。もう何度失敗したか分からないほどネ。でもやっとここまで来れたワ……)
小早川はこれまで何度も恋人の記憶を消す催眠を試みてきた。
忍にとって愛する彼女の存在は、最大の覚醒要因。
それを何か月も掛けて、ようやくこの状態まで持ってこれたのだ。
その難易度は元から催眠に掛かりやすい誠と比べると雲泥の差であった。
小早川は誠を加えて、二人同時に暗示を唱え始めた。
「霧がだんだん晴れてきてきたワ。目を開けると恋人の姿がはっきりと見えるようになるワ……ゆっくりと目を開けてご覧なさい」
声に従い目を開く二人。
互いに見つめ合い、存在を確認し合っている。
だが忍はまだ目が泳いでしまっている状態だ。
「どうしたの、忍ちゃん? 変な顔しちゃって。恋人の顔を忘れたの? あなた達は心の底から愛し合っている。これまでだって何度も裸で抱き締め合ってきたでしょ? 思い出して……」
暗示により、二人は過去の性行の記憶を思い出した。
そしてその快感を思い出し、ペニスを大きくしてしまう。
「んっ……んん……」「はぁ……はぁ……」
「思い出したようネ。いい? その子があなたの恋人ヨ……。
恋人以外の人とそんな激しいセックス、普通はしないわよネ?
また忘れてしまわぬように、よーく心に刻みつけておくのヨ」
二人は力なくコクりと頷いた。
(よし、今回は上手くいったワ!)
これまで成功率が低かったのか、
小早川はついガッツポーズをとってしまっていた。
※※※
一時的に恋人の記憶を消し、空いた穴にお互いを埋め込む。
恋人同士と思わせる誤認催眠は無事成功を遂げた。
その様子を見ていた黒服が疑問に思い、質問をする。
「小早川様、不躾ながら質問させてください。なぜそれほどの力をお持ちなのに、わざわざを別れさせる必要があるのでしょうか? 記憶を消せるのでしたら、もう良いではありませんか」
人の記憶を消せるのであれば、あとは催眠でなんでも上書きできるはず、黒服の疑問は当然のものであった。
ソファーで休んでいた小早川は、黒服の質問に軽く答えた。
「ん? そうネー今掛けた催眠もようやく成功したんだけど、
実際、記憶を消すだけじゃ、弱いのヨネー」
葉巻を吸い、一息入れる。
フゥーっと煙を吐くと説明を続けた。
「だっていくらでも思い出せるじゃない? 催眠で思い出せないようにしても、時間が経てば必ず思い出してしまうワ。
でも〖別れたという事実は決して消せない〗
例え催眠が解けても、一度は別れを認めているわけでしょ?
つまり、その程度の関係だったってことヨ。
それなら暗示の効果の方が強いワ。
例え寄りを戻しても、別れるさせることは簡単だし、そんなに簡単に別れる関係なら、本人達もいずれこだわらなくなるワ」
「なるほど……そこまで考えられてのことだったのですね。
大変勉強になりました」
小早川の説明に納得する黒服達。
そうして一通りの説明を終えたところで彼は調教を再開した。
「ここはアナタ達のプライベートルーム。
他には誰もいないワ。さぁ目を覚ましなさい」
パチンッ!
指が鳴り、二人の目に生気が戻る。
「あ、誠ちゃん……」
「あれ……? 私達何してたんだっけ?」
互いに目を見合わせ、辺りを見回す。
すぐ隣に黒服がいても気付かない様子だ。
「あなた達はこれからエッチをしようとしていたところなの。
だんだん興奮してきちゃったでしょ?」
小早川の言葉を聞き、二人は思い出したようにハッとする。
少しずつ興奮が高まってきているようだ。
「誠ちゃん、キスしよっか?」
「うん♡ 良いよ、来て、忍くん♡」
誠はこれまでの調教で、すっかり忍の彼女としての立場が板についてしまっていた。彼氏に誘われ実に嬉しそうだ。
二人は熱を帯びた目付きでキスを開始する。
唇で、舌で、相手の感じるところを愛撫し合いながらのキスだ。
すでに実際の恋人よりも多く口付けを交わした仲となっていた。
「ちゅ……忍くん、大好き♡」
「俺も……誠ちゃんのこと大好きだよ……」
愛を囁き合う二人。
本来であれば、彼女に向けるべき言葉を互いに向けていた。
「キスをすればするほど、相手のことがもっと好きになる……
欲望の赴くままに乱れ合いなさい……」
小早川はそう暗示を掛けると、
椅子に座って眠っている真里の方を向いた。
(さーて……いよいよ復讐の第一段開始ネ。
この女には絶望という絶望を味合わせてやるワ)
※※※
「んっんっん!♡ あ、ぁんっ♡」
(…………んん……? 誠くん……?)
誠の喘ぎ声が聞こえ、意識を取り戻す真里。
目を開けた彼女の前に広がっていたのは、女装姿の誠がソファーの上で見知らぬ男性にバックから攻められている光景であった。
後ろ姿だったので、相手が誰かは分からなかったが、
恭子のデザインしたメンズ服を着ていることから、男性ということだけは分かった。
「えっ!?」
一瞬何がなんだか分からず、目をパタパタさせる。
だが徐々に状況が把握できるようになり、彼女は怒りの声を上げた。
「ちょっと、あなた! 誠くんに、何してるんですか! やめてくださいっ!」
まだ完全に状況は掴めなかったが、誠が男性に襲われているのは事実。
今はとにかくこの行為を止めさせることだ。
だが真里がいくら叫んでも、二人は反応しなかった。
仕方なく立ち上がり実力行使に出ようとしたのだが……
(あれ……? 身体が動かない……?)
よく見たら、身体が椅子に紐でくくりつけられている。
真里はそのことに気付き驚いた。
「お目覚めはどうかしら? 一ノ瀬さん」
声のする方に顔を向けると、
そこにはROSE興業の社長 小早川憲子がいた。
「これは、どういうことですか……?」
あまりにも理解し難い状況。
誠が犯されているのは気がかりだったが、この大口のお客様が関わっているのであれば冷静に判断しなければならない。
真里はひとまず、小早川に状況説明を求めた。
「あらあら、アタシとしたことが、記憶を戻すのを忘れていたワ。これじゃあ意味が分からないわよネ」
そう言い、小早川は真里の催眠を一部解除した。
身体の状態はそのままに、以前拉致した記憶を思い出させたのだ。
「あ……あ……あなたは小早川!」
全てを思い出し目を見開く真里。
それと同時に以前の恐怖が甦り、全身が震え始めてしまった。
彼女がもっとも恐ろしかったのは、ここ三ヶ月あまり、拉致された記憶を一度も思い出せなかったことだ。
これほどの重大事件なのに、警察に助けを求めることすらできなかったのだ。
「なんで……どうして……?」
「困惑するのも無理はないワ……実はアタシね、催眠術が使えるの」
「催眠術!?」
「えぇ、アナタを前に解放した時に、アタシに関する記憶を封印させてもらったワ」
「そ、そんなこと……」
「実際、アナタは誰にも助けを求めず、これまで通り過ごしてきたのよネ? その間、彼氏に何か変化はなかったかしら?」
真里はそれを聞いてこれまでのことを思い出した。
男性に戻りかけていた誠が、急に女性らしくなってしまったこと。BL同人にハマり、
ホモで興奮するようになったこと。
後者は真里にとって美味しい要素だったので、別に構わないのだが、一番の問題はファーストキスをした時に感じたトキメキを奪われてしまったことだ。
誠の家に泊まり、初めて肌を合わせた日。
誠は真里とのキスで吐き気を催すようになっていた。
何度もキスを重ね、慣れさせることはできたものの。
本来であれば、もっと素敵な夜になるはずだった。
それを奪ったのが、このオカマだ。
真里は人外(じんがい)の力に震えながらも、小早川を睨み付けていた。
「くっくっく……心当たりがあるようネ……。
彼の心は、もうこっちに靡(なび)きかけているワ……。
あなたに別れを切り出すのも、時間の問題ネ♪」
小早川は、ここで少しズレた挑発をしてしまう。
彼の予想では、誠と真里は既にセックスレス状態にあり、
その関係は既に冷え切っているものと考えられていた。
しかし実際二人は、毎日セックスをしており、山のようにある真里のBL本を使って、疑似
ホモセックスをして愉しんでいた。
それにより、二人の絆はさらに強く結ばれるようになっていたのだ。
真里が元から腐女子で、誠が元から
ホモであることに気づいていない小早川は、二人を分断させることが全くできていなかったのである。
「くっ……今度は何をするつもりなんですか?」
「今日はアナタに素敵なものを見せてあげようと思って呼んだの。彼らを見てごらんなさい!」
言われるがまま、誠の方を向く。
あいかわらず彼はお尻を突かれているところだった。
「どこが素敵なんですか……ただ誠くんのことを苛めているだけじゃないですか、もうこんなことするの止めてください!」
「苛めているわけじゃないわヨ。
今あの二人は愛し合いながらエッチしてるの」
「ふざけないでっ! 誠くんが愛しているのは私だけです!
あんな男を誠くんが好きになる訳ない!」
「もちろん今は催眠を掛けて愛し合ってもらっているだけヨ。
あくまで〖今は〗だけどネ。
二人の熱愛っぷりをもっと見やすい場所で見てごらんなさい。
アナタと忍ちゃん、どちらが誠ちゃんにふさわしいか、よく考えてみることネ」
小早川は黒服達に、真里をソファーの前へ運ぶよう指示した。
すぐに真里は運ばれ、誠と忍がよく見える位置に固定される。
(ふぁあ!?)
四つん這いになり淫らに鳴き叫ぶ誠と、
それをバックから優しく突き立てる忍の姿。
それは腐女子である真里が、日頃から夢見てきた幻の光景、
三次元のカールとテトがイチャラブセックスをする光景であった!
(あああああああああああああああああああああ!!!
すてきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!♡♡♡♡)
あまりに素敵なビジョンに感動する真里。
竿役の忍は○○教室のカールによく似ていた。
女装したテトとカッコいいカールがラブラブしているのだ。
真里が感動しないはずがない。
(なにこの……幻想郷……と、尊い…………尊すぎるよ……)
「はぁん♡ そこ良いの!!♡
忍くんのおちんちんが良い所に当たって気持ちいい!♡」
「はぁはぁ、誠ちゃんの中、すごく良いよ…………
俺のちんちん…………溶けちゃいそうだよ…………」
愛の言葉を交わし合い、セックスに勤しむ二人の姿は、
腐女子の真里にはあまりにも刺激的な光景であった。
(うほぉぉぉぉぉ、エロイ!!♡
テトぉぉぉ!! カールぅぅぅぅ!!!
はぁはぁ♡ たまらんんんん♡ ヤバ過ぎるぅぅぅ!!)
キュンキュン♡ キュンキュン♡ キュンキュン♡
真里の胸がキュンキュンしまくる。
既にキュン死寸前である。
冷静さを失った真里の目からは、大量の汗が吹き出し始めていた。
(フフフフフ、あまりのショックで泣き始めたようネ。
あんな美男子二人が愛し合ってる姿を見せられたら、
ホモ好きに変えられた真里は負けを認めるしかないワ♡
さぁ苦しめ! アタシの顔に泥を塗った罪を購(あがな)いなさい!)
小早川は、ニヤニヤと真里の様子を見つめている。
ようやく一矢報いることができて大変ご満悦な様子だ。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ……胸が苦しくなってきた…………
本当にキュン死しちゃう…………うれしくて死んじゃいそう…………
もうダメ…………安らかな死を迎えちゃう…………)
真里はあまりの興奮に苦しそうにしている。
「さぁ、どうかしらん?
愛しの彼があんな感じになってて、どんな気分~~?」
心底バカにした口調で真里に問う小早川。
「はぁ……はぁ……はぁ……胸が苦しくて…………
(ときめきが強過ぎて♡)
心臓を引き摺り出された気分です……
(心臓が飛び出すくらい衝撃的で素晴らしいです♡)」
「あら、そうなのー♡ 大丈夫かしらん?
オホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ!!」
あまりに真里が素直に苦しさを表現するもので、
小早川は圧倒的勝利感に浸っていた。
実際、真里は別の意味で言っていたのだが…………
(ここまで精神的にダメージ受けているんだったら、もう勝ったも同然ね♡ あとは二人の交際を認めさせて、誠ちゃんと別れさせるだけだワ♡)
そう考えながら真里の股間に目を向ける。椅子に敷かれたタオルは、既に彼女の愛液でビシャビシャに濡れていた。