季節は秋になっていた。
直美はその日、久しぶりに一人で恭子の家に遊びに来ていた。
「最近どうー? 調子は」
恭子は何気ない会話で直美の様子を伺う。
「うーん最近なんか眠くて……寝不足かなあ」
「ストレス? なんかあったの?」
「いや、うちってさ、庭が広いじゃない。夜になるとね、うるさいんだよねー」
「なにが?」
「なにがって…スズムシよ」
恭子は直美がなにか真剣に悩んでるのかと思って聞いていたので、プッと吹き出してしまった。
「あーなるほどね、スズムシかーあはは」
「なんで笑うのよ〜」
「じゃあさ、それも催眠で解決しちゃう?」
「え、それは助かる!」
そんな流れでいつものように恭子は直美に催眠をかけることになった。
「ゆっくりと体を起こして、目を開けてください」
催眠にかかった状態の直美に、恭子は言った。
今日はいつもと違い、恭子もベッドの上に乗っていた。
二人は向き合う形で座り、恭子はおもむろに直美の手を取り、握った。
「あったかい?」
直美は頷く。
恭子はその手をゆっくり自分の頬にあてがう。
「女の子はどこを触ってもマシュマロみたいなのよ」
その手をすすっと下ろしていき、部屋着に着替えた腕を触らせる。
「ほら、二の腕なんてとっても柔らかくて気持ちいいでしょ?」
恭子は直美に半袖から覗く自分の二の腕をつかませながら言う。
また手を滑らせて、ショートパンツから見える恭子自身の太ももを撫でさせた。
「どう? つるつるしてるでしょ? ムダ毛も生えないし、日にも焼けない、白くてハリのある太ももよ」
直美はされるがままになりながらも、自分の手のひらの感触を確かめているようだった。
そのまま手を上に持っていき、今度はお腹を触らせる。
「私はあんまり肉はついてないけど…こんなところもふわふわなのよ」
直美は無意識なのか、自分から手を動かし恭子のお腹を撫でていた。
恭子はその感触にドキドキしながら、直美の手首を掴み、今度は自分の胸の上に持ってきた。
部屋着の上からでもわかる、直美の手のひらの感触。
「どう? …やわらかい?」
恭子は心臓の音が直美にも伝わるんじゃないかとドキドキしていたが、それ以上に、直美が自分を触ってくれていることの方が嬉しかった。
直美は恭子の問いかけに頷くと、そっと恭子の胸を撫でた。
直美はいつの間にか顔が上気しており、恭子の胸を触りながら熱い吐息を吐いていた。
(直美、興奮してるんだ…)
恭子はそんな直美を見て、鼓動の高鳴りを抑えられなかった。
恭子は直美の手首から手を離すと、直美をふわっと抱きしめた。
「…あったかい?」
直美はこくりと頷く。
「いい匂いでしょ?」
直美はまた頷く。
こうすると、直美の心臓の音が聞こえてくる。直美も、恭子と同じようにドキドキとしていた。
「女の子同士で抱きしめ合うとね、とっても気持ちがいいの。ほら、直美も」
そう言うと恭子は直美の腕を取り、自分のことも抱きしめさせた。
恭子は今にもはち切れそうな自分の鼓動を感じながら、直美の唇を見た。
ピンクで小さくて、程よく潤っていて。
このまま押し倒してしまいたい。ベッドに二人で倒れて、唇を重ねたい。
……だめだ。ここで覚醒させてしまったら、今までの計画が台無しだ。
直美は私を嫌悪し、避けるようになるかもしれない。
(落ち着いて、ここは我慢するのよ)
恭子は一度深呼吸をして自分の心を鎮めると、ゆっくりと直美から離れた。
その時、直美は一瞬寂しそうな顔をしていように見えた。
直美の心の変化が表情に現れたのだろうか?
それとも単に恭子の願望が見せた幻か、どちらかはわからない。
「直美、あなたは今夜から、寝るときのスズムシの音が気にならなくなります」
恭子はベッドから降りると、名残惜しい気持ちで直美のおでこを撫でながら言った。
そして、いつものように直美の催眠を解いた。
※※※
恭子は直美と誠の二人に催眠術を繰り返し行った。
二人とも催眠にかけてもらいたくなるように暗示を受けているので、恭子は比較的楽に作業を行えた。
直美に催眠をかけているうちに、何回もキスをしたい衝動に駆られたが、その都度恭子は必死に耐えていた。
季節は十二月。格段に冷え込む朝、学校に着いた恭子はマフラーを取りながら廊下を歩いていた。
「キョーウちゃんっ!」
「わあ!」
後ろから駆け寄ってきた直美に背中から抱きしめられ、恭子は驚いて大声を出してしまった。
「もーびっくりするじゃない」
「えへへー」
直美はいたずらっ子のように笑う。そんな直美の笑顔も愛おしいと思ってしまうんだから、しょうがない。
「おはよう、甘髪さん」
後ろから誠が声をかける。二人で登校してきたらしい。
「あ、おはよう桐越くん」
恭子は嫉妬の気持ちを押し殺し、何事もないように誠に挨拶をした。
「ねーねー昨日誠と一緒に帰ったんだけどさあ」
直美がそう言いながら恭子の指に自分の指を絡ませてきた。所謂恋人つなぎというやつだ。
恭子は内心ドキドキしながらも直美の話に相槌を打つ。
最近直美は恭子へのスキンシップが多くなった。
ふと後ろを見ると、誠が複雑そうな顔をしている。
催眠をかけてから三人はよく集まって話をするようになった。帰りも三人で帰ることがほとんどだ。
誠は恭子のことが気になるのか、前よりも多く話しかけてくるようになった。
催眠は、確実に効いている。
「年明けたらさ、三人で初詣行こうよ! いいよね、誠」
直美が誠を振り向いて聞いた。
「あ、うん、甘髪さんがよかったらだけど」
恭子の方を見ていた誠が、慌てて答える。
「もちろん、いいわよ」
笑って答える恭子。三人で行動したほうが、何かと都合がいい。
恭子の催眠は、年が明けてからも続いた。