そうして数分が経ち、
誠の気持ちが落ち着いたところで真里は言った。
「マコちゃん、落ち着きましたか?」
「うん……もう大丈夫」
「良かった……じゃあ改めてキスしませんか?
さっきのキスのやり直しです!」
「うん、良いよ、でも……」
「きつかったら途中で止めて大丈夫です。
付き合ってるのにキスもできないのは私も寂しいので……
少しずつ慣らしていきましょ?」
真里の提案に誠は頷く。
女同士のキスへの忌避感は依然としてあったが、
改めて恋人として付き合っていくと決めた以上、
こういった触れ合いには慣れていかなければならない。
真里がレズになるというのなら、自分もレズになってみせる。そういった決意を胸に、誠は真里とのキスに挑んだ。
「じゃあ、いきますよ」
「うん」
再び二人の唇が触れる。
(うぅ……!)
誠の身体がビクッと震えた。
身体が女性を拒否している。
両腕に鳥肌が立つのを感じた。
誠の女性としての心が真里を拒否しているのだ。
誠は男性でありながら、
ノンケの女性と同じ反応をしていた。
「んっ…………ちょっとごめん」
一旦誠は離れることにした。
「ハァーーハァーー……ハァーーハァーー……」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
吐き気をも催し兼ねない状態であった。
真里はそんな誠の様子を見て悲しげな顔を見せていた。
「そんなに苦しかったんですね……
すみません……やっぱり、無理しないで下さい……
私はできなくても大丈夫ですから……」
慣らしていくと言ったばかりだが、
真里としても誠が自分とのキスでこのような反応をしてしまうのはショックだった。
キスなどできなくても、プラトニックな関係でも良いのではないだろうかと、彼女は考え始めていた。
「ダメ、今して、真里さん。
なんだか今しかできないような気がするの。
明日になったら、私、もっとできなくなっちゃう」
「でも私も辛いです。なんだか拒否されてるみたいで……」
「私は真里さんとキスしたい。
たしかに身体は拒否してるけど、それが本当の気持ちなの」
「マコちゃん……」
真里は目を閉じて精神を集中させると再び開いた。
誠の両肩に手を添えて、はっきりとした口調で伝える。
「わかりました。そこまで言うのでしたら私も鬼にになります。マコちゃんがどんなに嫌がっても、マコちゃんの身体が私を受け入れてくれるまで続けますよ」
「ありがとう、真里さん。来て……いっぱいキスして」
誠の返事を合図に、真里が責め始める。
手始めに、誠を優しく抱き寄せキスをした。
誠の身体が硬直し、耐えるような反応を示す。
しかし真里は構わず、
精一杯の愛情を込めてキスを続けた。
「マコちゃん、愛してます。私を受け入れて下さい」
誠は悪寒に苦しみながらも、
真里から送られる愛情をしっかりと受け止めていった。
「私も愛してる。このまま続けて」
「はい!」
真里はキスを繰り返した。
時には彼の頭を撫で、時にはギュっと抱き締めて。
そうして10分ほどキスを続けると誠の身体に変化が訪れた。
「うんっ……んっーーっぷぁ、ハァハァ……」
「どうかしましたか? マコちゃん」
「うん……あのね、私の身体、だんだんマヒしてきたみたい」
誠の身体は度重なる同性との接吻で嫌悪感の限界を迎えていた。それにより、安全機能が働き、麻痺を引き起こしたのだ。
「わかりました。では場所移動しましょう。
だんだんお湯も冷めて来ましたし、ベットで続きをしませんか?」
真里の次なる提案。
それはすなわちセックスをするということ。
誠の身体に無理やり女同士の関係を認めさせるのなら、キスだけでは不十分だ。身体の触れ合いを通して認めさせるしかない。
誠が真里の提案に同意すると、二人は浴室を出た。
身体をタオルで拭き、髪を乾かす。
その合間も、真里は誠にキスをした。
部屋の電気を消し、ベッドに並んだ時には、
誠の顔はすっかり上気してしまっていた。
※※※
ちゅ……ちゅぷ……ちゅぷ…………。
暗がりに重なる二つの影。
真里が誠を押し倒しキスをしている。
既に何度目か分からないほどの接吻を行っていた。
「マコちゃん、口を開いてください」
「んっ……はい……」
女性からの責めにすっかり怯えた誠の身体。
誠は震えながらも、口を開いた。
んちゅ……レロ……レロ……レロ……
「んんんんんんっっっ!!」
真里が舌を差し入れ、誠の舌と絡み合わせる。
その動作に誠は堪らず悲鳴をあげてしまった。
誠の身体は引き続き真里を拒否する。
しかし誠の真里を愛する心は、しっかりとその舌を受けとめ、彼女がそれ以上不安にならないよう、両腕で彼女の身体を抱き締めた。
ちゅぷ……んんっ……ちゅ……んっ…………レロレロ……
誠の動きに応えるように、
真里は誠の胸に手を添え優しく愛撫する。
「んっ……♡ あぁっん!♡ ふぁっあぁっ!♡」
誠が喘ぎ声を上げる。
「ふふ……マコちゃん、相変わらずおっぱい弱いですね」
「んっ♡ あぁ……あ……♡ うん……おっぱい弱いの……」
「良かった……弱点があって。このままおっぱいを責め続けますよ。私の手で気持ちよくなってください」
「うん……お願い……♡ 真里さんの手で……あぁん♡ 気持ち良くして……」
幸運にも誠の胸は女性の真里に刺激されても素直に快感を得られるようになっていた。
真里もこれを好機と考え、胸とキスの両方で誠の身体を陥落させることを決めた。
(はぁ……♡ 真里さんの手……気持ちいい……♡
私は真里さんが好き、だから気持ちいいの、だから受け入れて)
誠は身体にレズ愛撫を受け入れるよう説得した。
たしかに真里の愛撫は気持ちが良いものの、
誠の胸は、男性の熱い手ではなく、女性のひんやりと繊細な手つきで快感を与えられることに困惑していた。
だが良い調子ではあった。
このまま胸に彼女の手の感触を記憶させ、好きになってもらおう。一気に全身は無理でも、部分的にでもレズに目覚めてくれれば十分である。
「マコちゃん、女の子のおっぱいは女の子が一番詳しいんですよ。だから早く目覚めてくださいね♡」
レロォ……
「ふぅっ!?♡」
ヌルっと生暖かくも優しく繊細な舌の動きが誠の乳首を襲う。身体を弓なりに反らせ跳ねる誠の身体。
どう弄れば気持ちが良いか、よく分かっている同性の舌の動きは、誠の乳首の先端から全身へと快感を送り出していた。
「あぁぁぁっっ! 真里さぁん、それ……気持ちいぃ♡」
「うふふふ♡ マコちゃんのおっぱい、すっかり勃起しちゃいましたね♡ ここは女の子でも十分いけるんですね♡」
「うんっ! 真里さんの口の中、温かくてヌルヌルして気持ちいいの♡ はっううぅっんっ!♡」
真里は勃起した誠の乳首を指先で刺激しながらも、キスを再開した。
ちゅ……ちゅうぅぅ……ちゅっちゅっちゅっ♡
「ふぁん♡ 真里さぁ……ん……♡ んんんっ……ちゅ♡
あぁっああぁん♡」
誠の目が徐々にトロンと蕩け始める。
籠絡されたおっぱいから伝わる快感により、誠の唇は真里の唇を思うように拒否できなくなっていた。
さらに唇を通して想いを伝える。
真里は精一杯の愛を、誠の唇を通して誠へと伝えていた。
そして誠も真里の愛を受け取りたいと、全身へ想いを伝えていた。
(私が愛しているのはこの人なの!
どうしてこんなにも愛してくれる人をそんなに拒否するの?
相手が女だなんてことはもう忘れて! 私に真里さんを感じさせて!)
内と外、両方の気持ちを受け取り、
誠の緊張していた唇の力が徐々に抜けていく。
(あっ……マコちゃんの唇がだんだん柔らかくなってきた……まさか……?)
誠と目が合う。誠はふんわりと微笑むと小さく頷いた。
(やった!)
真里は喜ぶと、再び誠の口内へ舌を差し入れた。
「あむっ……んっ♡ ちゅ……ちゅぷ……ちゅ……♡
レロレロ……レロ……あん♡ ちゅぷ……」
先ほどまでのぎこちない舌の動きは感じられない。
誠の身体はたしかに真里とのレズキスを受け入れたのだ。
「真里さんとのキス、気持ちいいよ……♡」
「私も、マコちゃんとのキス、気持ちいいです♡」
二人の黒髪の美女。
誠のペニクリにさえ注目しなければ、
それは女同士の性行為に他ならなかった。
彼女達はそれから三十分もの間、
お互いの唇の感触を愉しんだのだった。
※※※
午前三時半、
二人は布団の中で裸のまま抱き合っていた。
「良かったーマコちゃんと上手くエッチできて」
真里が微笑み言う。
エッチといっても、キスをして胸を揉み合った程度なのだが、童貞と処女の両者にとっては十分満足だったようだ。
「ありがとう真里さん。
私、真里さんとエッチできて幸せだよ」
「もぉーそんな潤んだ瞳で言わないでください。
マコちゃんの方が私より女子力高いみたいじゃないですか」
このシチュエーションは、むしろ真里が誠にしてみたかったシチュエーションである。
今回はお姫様役をまんまと誠に奪われた形となってしまっていた。
「ところで、あんなにキス嫌がっていたのに、どうして途中から平気になったのですか?」
「あぁ……あれはね」
真里の方からでは誠の細かな心情の変化は分からなかった。
何度もキスを続けるうちに、急に大丈夫になったという感じであった。
「たぶん真里さんのことを女の人としてでなく、
真里さんそのものを好きになろうとしたからなんだと思う」
「えっ……それって、あーなるほど」
口癖のように頭の中で繰り返してきた言葉だっただけあり、
彼女は彼の意図することをすぐに理解できた。
真里が男とか女とか関係なく、誠そのものを好きになったのと同じように、誠も真里そのものを好きになるよう方針転換をしていたのだ。
「でも不思議ですね。誠くんは男バージョンと女バージョンの二種類があるので分かるのですが、なんで女バージョンしかない私にそれが適応されたのでしょう?」
「うーん、なんでだろうね?」
誠自身、特に狙ってした訳ではなかった。
たまたま運良く『すり抜けることができていた』のだ。
小早川は、誠に男を好きになり、
女を好きにならないように暗示を掛けていた。
しかし真里の言葉がヒントとなり、
誠は性別を意識せずに真里を受け入れるようになった。
そのため、暗示の条件をうまく外れることができていたのだ。
こうして破局の危機を上手く回避できた二人であったが、
執念深い小早川の離間工作は、
今後も彼女達を苦しめることになるのであった。