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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.71 【 三度目の正直 】

午後1時半

湯が溜まるまでの間、誠は洗面台の掃除をしていた。
真里の元に戻る気になれず、
こうして時間を潰すことにしていたのだ。

洗面台の鏡を拭いていると、ふと自分の顔が気になった。
頬に指を添え、じっくりと見つめる。


(なんで私……こんなに女っぽく見えるんだろう?)


他人では気付かないような印象の変化、
誠はそれに気が付いた。

ここ数ヶ月は女装をすることもなくなり、
顔立ちも元の雰囲気が出てきたように思えていた。

しかし今は、どう見ても女性にしか見えない。
まるで生まれながら女性として過ごしてきたかのような
自然な女性らしさだったのだ。


思い当たる節がない。
最近は一日中男性として過ごしている。
男性的に見えるならまだしも、
女性的に見えるようになったのはなぜなのだろうか?

美容液を変えた覚えはないし、
新しい健康法を取り入れた訳でもない。

もしかしたら心理的なものなのかもしれない。

そう考えた時、漠然とではあるが、
自分の中で何かが欠けてる気がした。

そう、大切な何かが…………。

しかしいくら考えても、
彼がその答えに行き着くことはなかった。


誠の中で失われしもの……


それは恭子の催眠によって封印されてきた
『男性として女性を好きになる心』であった。

誠は催眠により、女性を性的対象として見る男性の心を、完全に死滅させられていたのだ。

今あるのは、後天的に植え付けられた女性としての心のみ。

そしてそれは二度と元に戻ることはない。

その事実が誠の容姿を、中性的なものから女性的なものへと変えてしまっていたのである。


ジャバジャバジャバジャバ


(あっ、いけない! 出し過ぎちゃった!)


浴槽から溢れ出るお湯の音に気付きハッと我に返る。

誠は急いでお湯を止めると、
浴槽に蓋を被せ、リビングへと向かった。



※※※



「真里さーん、お風呂溜まったよ。どうする? 先に入る?」


リビングのソファーに座って、テレビを見る真里に言った。
真里はテーブルの上のクッキーをポリポリと噛りながら返事をする。


「いつも見てる番組があるので、先に入ってもらって良いですか?」

「そっか、じゃあそうするね」


誠は脱衣場へと引き返した。

いつもと同じように服を脱ぎ始める。
裸になった彼は鏡に映った自分の身体を観察した。

色白で、小柄で、柔らかく女らしい凹凸のある身体。
小さいが、この胸の膨らみも張りがあって女性的だった。

先ほど顔を観察していた時もそうであったが、
誠は、そんな自分の姿を見て、内心喜んでいた。

白くて小さなちんちんは付いているものの、
それ以外は完全な女性の姿。

今はそれがとても嬉しく感じられた。


(昨日までこんなこと思わなかったのに……)


しばらく男性として過ごしてきたことへの反動だろうか?

その気持ちは、以前女性になろうとメイクを練習していた頃に比べ遥かに大きかった。

それに気付き、誠は愕然とする。


(私は、やっぱり女だったんだ……
なんで男に戻ろうとしていたんだろう?

告白なんてしなきゃ良かったな……

これじゃ、真里さんのことを傷つけちゃう……
あんなに真剣に向き合ってくれたのに……
ごめんなさい……真里さん)


自分にはもう、真里という彼女がいる。
告白した以上、彼氏として彼女のことを守り続けなくてはならない。

自分はもう女として生きることはできないのだ。

その気持ちが、誠の心に暗い影を落とそうとしていた。



※※※



(ふっふっふ……誠くんと一緒にお風呂入れる~♪)


真里は脱衣場のドアに耳を当て、
シャワーの音を確認すると、不敵な笑みを浮かべていた。

彼女は嘘をついていた。

本当は見たい番組などなく、
単純に誠とお風呂に入りたかっただけなのだ。
正直に伝えると「そういうのはまだ……」と断られそうだったので、入浴中に突撃することを考えていた。


(前は、恭子さんと直美さんが一緒だったけど、
今度こそは正真正銘、二人きり♡)


少々強引な方法であるが、
奥手な誠と早期に身体の付き合いをするにはこれしかない。
その想いが彼女をこうした行動に駆り立てていた。

ゆっくりとドアを開けて脱衣場へと侵入する。
予想通り、誠は鍵を掛けていなかった。

誠は髪を洗っていて、こちらには気づいていない様子だ。
真里はなるべく音を立てずに服を脱ぐと、浴室の戸を開けた。


ガラガラガラーーーー

「失礼しまーす。見たかった番組、野球の延長で見れなくなっちゃいました。なので、私も一緒に入ることにします!」

「えっ!? あ、そ、そっか。じゃあ狭いし私は一旦出るね」

「えっ!? だ、ダメです!」


出ると言われて慌てて引き留める真里。

ここで出ていかれたら立つ瀬がない。
彼女はサッカーのゴールキーパーのような鉄壁の守りで出入口を死守した。


「別に良いじゃないですか、前の旅行でも一緒に入ったことですし、また一緒に入りましょ♪」

「あの時、私は女だったし、今は……」


今は男。そう言おうとしたが、ふいに言葉が遮られた。
既に性自認を女性と認めている誠にとって、それは嘘になるからだ。


「今だけ誠くんは女の子なんですぅ~!
だって、ほらっ、こんなに可愛いおっぱい付いているじゃないですか!♡」


真里は誠の小ぶりなおっぱいに手を添えると、軽く愛撫した。


「あぅんっ!♡」


突然の愛撫に誠は声を上げてしまう。
普段は出さないような高く艶やかな声だった。


「ひぇっ!? す、すすす、すみません……
冗談のつもりだったんですけど……
でもほら。この通り、可愛い声出ますし……
女の子同士の洗いっこってことで……ダ、ダメですか?」


誠の喘ぎ声に怖(お)じ気(け)づいたものの、
真里は改めてお願いした。


(ど……どうしよう……)


誠は迷っていた。

真里への罪悪感から、これくらいのことは受け入れても良いという気持ちもあった。

しかし真里はおそらく自分を彼氏として扱ってくるだろう。ただの洗い合いではなく、それ以上の事態に発展する可能性もある。

先ほどのキスで感じた違和感。
同性とするキスの感触。

正直もう一度真里とキスをしたいとは思えなかった。

万が一、キス以上のことを真里が求めてきたら、自分は冷静でいられるだろうか?

真里を傷付けるような態度を取ってしまうのではないだろうか?

不測の事態を恐れた誠はやんわりと断ることにした。


「ええっと……まだこういうのは早いんじゃないかな?
たしかに付き合うことになったけど、
お互いのことをもっとよく知ってから……」


誠の返事に真里は暗い顔をする。
普段なかなか見ない彼女のそんな顔に、誠は驚いた。

いつも明るい真里が、どうしてこのくらいのことで、
こういう反応になるのだろう?

その答えはすぐに彼女の口から聞くことができた。


「誠くん、何か隠していることありませんか?」

「えっ…………?」


突然の真里の問いにさらに驚く誠。
その言葉に彼は内心を見透かされたような気がした。


「誠くんはお互いのことをもっとよく知ってからと仰りますが、私達、もう十分、分かり合ってますよね?
私はそう思ってます。だからさっきのキスの時だって……」


やはり真里は分かっていたのだ。
誠の心境に変化があったことを。

おちゃらけた雰囲気から一転、
真里は真剣な表情で誠を見つめていた。


「教えて下さい。どうして急に切り上げたのですか?
誠くんは、あんなデリカシーのない終わり方をする人ではありません。
だって女の子だったんですから……女の子の気持ちは普通の男の子よりずっと分かるはずです」

「それは……」


どう答えたら良いか誠は迷った。

言い方を間違えれば、
確実に真里を傷つけてしまう内容だったからだ。


「誠くん、今考えていることも分かりますよ。
私のことを傷つけずに、どう伝えたら良いか考えているんですよね?」

「!!」

「やっぱり…………誠くん優しいから、そうだと思いました。
安心して下さい。私、そんなに弱い人間じゃないですから。
どんなことを言われても平気です。
それに誠くんだったら、『絶対に自分勝手な理由じゃない』
そう信じられます」


澄んだ眼で誠を見つめる真里。
その瞳には誠への全幅の信頼が込められていた。

それを受けて誠は思う。

自分はなんて愚かだったのだろうか。
奥手の人間が言うような紋切り型の台詞で切り抜けようだなんて。

初めからきちんと話し合うべきだったのだ。
説明の困難な内容ではあるが、真里ならきっと分かってくれる。

誠はそう確信すると、
自分に起きた心の変化について静かに語り始めた。



※※※



「つまり、今、誠くんの心は、
女の子になっているってことなんですね」

「うん……おかしな話だけど、そうなの……」


浴槽に向かい合わせで浸かる真里と誠。
長話になりそうだったので、浴槽に入りながら話をすることにしていた。

誠はこれまでのことを真里に説明した。

告白する前は、心はたしかに男だったこと。

告白した辺りから、心が女性に変わり、
帰宅後のキスでは、同性としているような感覚に陥り、受け入れられなかったこと。

女性らしく変わった自分の姿に幸福感を感じたことなどを説明した。


真里はそれを聞き、改めて誠の顔を観察した。


「…………言われてみれば、お祭りの時に比べて女の子らしくなった感じがしますね。……というか女の子です。
すっぴんで化粧もしていないのに、女の子にしか見えないです」


変わったのは些細な点である。
しかしその些細な変化が誠の全体的な印象を大きく変えてしまっていた。


「キスについても、分かりました。
だからあんな感じだったんですね。納得です」

「きつかったら言ってくれて良いよ……。
こんな男だか女だか分からない彼氏、嫌だよね……」


誠のその言葉に、真里は大きく顔を横に振る。


「そんなことありません。
私は誠くんから、二度振られても諦めなかったんですよ?
今更そのくらいどおってことありません!」

「じゃあ、真里さんは私が女でも付き合えるの?」

「はい」

「どうして?」


真里は天井を見上げると、少し迷うような顔をした。
そして言いにくそうなことを言うように口を開いた。


「…………私、二回目振られた時、友達になって欲しいって言いましたよね? 」

「うん」

「あれ本当は誠くんを男の子に戻すためだったんです。
誠くんに女の子の良さを思い出してもらって、好きになってもらおうって。でも……」

「でも……?」

「女の子のマコちゃんと仲良くしていくうちに、だんだん良いなって思えるようになってきちゃって……」


真里はそう言うと、顔を伏せてしまった。
余程恥ずかしいのだろうか、目線を横に反らしている。


「あ、すみません。なんか急に恥ずかしくなってきちゃいました……なんででしょう?」

「?」

「それで思ったんです。男の子の誠くんも、女の子のマコちゃんも、どっちも好きだって」


真里は起き上がり、誠に顔を近づけると言った。


「私は誠くんが男でも女でも構いません。
誠くんが女の子だと言うのなら、私はレズビアンになります。マコちゃん、愛してます……いつまでも一緒にいて下さい」


誠の目頭が熱くなる。
性自認に問題を抱えている誠にとって、真里のその言葉は強く響いた。


「……真里さん」


誠は起き上がると、彼女の胸に抱きついた。
まるで聖母に縋(すが)り付くように、彼は身体を小さく震わせ泣いていた。


「うっうううっ……真里さん。
うううぅ……ありがとう……ぐすっ」

「もぉ、マコちゃんは泣き虫ですね。こんなに顔をくしゃくしゃにしちゃって、本当に女の子になっちゃったんですね♡」

「うん……」


真里は誠の頭を優しく撫でると、
もう片方の手で背中を擦(さす)ってあげた。


「マコちゃん……
私の三度目の告白、受け取ってもらえますか?
愛してます。付き合ってください……」

「うん、もちろん……私も愛してるよ。真里さん」


優しい彼女の身体に包まれて誠は思った。

真里に告白して本当に良かったと。

今も同性同士で抱き合っている感覚はあったものの、
真里が女同士でも構わないと言ってくれるのだったら、
自分も女として真里のことを愛そう。

女同士への違和感も、性自認が不安定なことも、
真里と一緒ならきっと乗り越えていける。

誠はこの時改めて、真里を愛し続けることを誓った。


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