10月の展示会も近づき、準備の追い上げを行うLilyメンバー達。
裁縫部屋では、新作の衣装を縫い上げるため、夜通しの作業が進められていた。
ホームページの保守作業を終え、展示会の広告デザインを手掛ける真里。
誠もプログラミングを一通り終えていたため、真里の作業を手伝っていた。
カチカチカチカチ……カチカチカチカチ……
黙々と作業を進める二人。
キーボードのクリック音と、隣の部屋のミシンの音だけが聞こえる。
真里のデザインは細部まで綿密に描かれていた。
もっとシンプルにしても良かったのだが、遅くまで残るために、敢えて時間のかかるデザインにしていたのだ。
誠には、付き合わせて悪いとは思っていたが、
こうすることにより……
「真里さん、もう遅いし、そろそろ終わりにして夜ご飯食べにいこっか?」
「はい! そうですね。だいぶ進みましたし、続きはまた明日しましょう」
このように誠が、ご飯に誘ってくれるのだ。
真里はこうして、誠と食べる夕食が楽しみでならなかった。
※※※
今日は最近出店された博田のとんこつラーメンを食べれるお店に行くことにした。
店はトラックのような外装で、車体には豚のイラストが大きく描かれている。
店内は賑わっており、仕事帰りのサラリーマンが、カウンター席に大勢座っており、真っ白なスープをすすっていた。
そして、ほのかに香る豚骨出汁の匂い。
お腹を空かせている二人は、それだけで口の中に唾が溜まっていくのを感じていた。
二人はカウンター席ではなく、ちょうど空いていた奥のテーブル席に座った。
メニューは豚骨ラーメンしか置いておらず、麺の太さや種類、トッピングを選べるようになっているだけであった。
さっそく好みの麺を選ぶ二人。
真里も誠も麺の好みが同じようで、細いちぢれ麺を選択していた。
「ふぅー今日もお疲れ様、真里さん」
「マコトさんもお疲れ様です。私、とんこつラーメン、スーパーで売ってるのしか食べたことなかったので、すごく楽しみです」
「ここのとんこつラーメンは、塩分控えめで豚骨出汁の濃厚な味がよく分かるってことで有名らしいよ」
「わーそうなんだ♪」
そうして雑談を続ける二人の元に、真っ白で飲みやすそうなあっさりとんこつラーメンが届けられた。
「「いただきまーす!!」」
塩分控えめのとんこつラーメン。
細く縮れた麺も、程よくスープを絡めとり、食べやすく仕上がっていた。
夜遅くまで活動を続け、疲れていた二人にはちょうどいい食事である。
このように真里と誠は、色んなお店に出掛けては、一緒に食事をしていたため、前にも増して関係は進展していた。
その後、豚骨ラーメンを食べ終えた二人は、いつものように駅前で別れの挨拶をして、各自の家へと帰っていった。
※※※
〇✖大学から少し離れた住宅街。
築30年以上経ってはいるが、中はつい最近改装したばかりのアパートに誠は住んでいた。
古びて黒く錆び付いている鉄の階段を登り、一番手前のドアを開けて中に入ると、お香の匂いが漂ってくる。
以前、恭子からもらったネバール製のお香だ。
靴箱の上に置いてあるだけなのだが、その匂いを嗅ぐと心が安らぐ気がした。
誠はそのまま照明のスイッチを入れ、明かりを付けると、鍵をかけ、靴を脱ぎ、奥へと入った。
8畳ほどの部屋には、白いベッドと白いテーブル・白い棚が置かれている。
床には同じく白いカーペット、窓には白いカーテンが取り付けられており、全体的にホワイトコーディネートの大人の女性の部屋といった雰囲気だ。
しかし、そのスマートな部屋のベッドには、少し雰囲気の合わない大きな猫のぬいぐるみが乗っている。
高校時代、直美とデートに行った際に、ゲームセンターで奇跡的に取れた品物だ。
昔はなぜか、男の自分の部屋にこんな可愛らしい猫のぬいぐるみなんて……などと考えていた時期もあったような気がする。
しかし、今ではとても気に入っており、就寝時は必ずこのぬいぐるみを抱いて寝るようになっていた。
(ご飯も食べたことだし、お風呂にでも入ろうかな)
誠は荷物を座布団の上に置くと、お風呂場に行き、お湯を溜め始めた。
その間、その日着ていた服の手入れや、明日の準備を整え、再度お風呂場に行き、お湯が溜まったことを確認すると、蛇口を閉め、脱衣場で服を脱ぎ始めた。
上着とズボンを脱ぎ、洗濯籠に入れる。
そしてシャツを脱ぎ、同じく籠に入れると、誠は白いショーツとブラのみの姿となった。
洗面台の鏡で自分のスタイルをチェックする。
最近少しお腹が出てきたことを心配しているようだったが、はた目からは全く太ったようには見えない。
慣れた手つきでブラのホックを外し、残っている下半身の白い布を取ると、籠の中へと入れた。
「……………」
白く華奢な身体が脱衣場の照明に照らされる。
洗面台の鏡に映った誠の胸には、僅かに膨らむAカップの乳房があった。
生物学的には男であるはずの誠に乳房がある理由。
それは恭子から与えられたビューティーケア用品にあった。
※※※
話は今から一年ほど前に遡る。
誠は大学入学後、自らの性的指向について恭子に相談していた。
内容は、今まで直美と付き合っていたものの、
本当は子供の頃から女性よりも男性に対して興味があり、大学に入ったのを機に女性になりたいというものであった。
恭子は誠の告白に、特に驚く様子もなく、
ようやく打ち明けてくれたといった感じで受け止めていた。
どうやら、恭子の家で誠が女装をしていた頃から、なんとなく勘づいており、いつそのことを告白してくれるのか、逆に待っていたそうなのだ。
そして以前同様、恭子は親身になって、誠の相談に乗ってくれるようになり……
より女性らしくなるにはどうしたら良いのか、女の姿で日常を過ごせるようにするには、どうしたら良いのかなど、一緒になって考えてくれた。
それからというもの、恭子は誠の家に頻繁に出入りするようになり、その度に使わなくなった服などを置いていってくれるようになった。
だが、使わなくなったと言っても、それらはほぼ新品の状態で、普通に買ったら、どれも何万円もしそうな高級服ばかりであった。
誠はさすがにそこまでしてもらうのは悪いと思い、初めは断っていたのだが、恭子が古着屋で安く売るのだったら、誠に買い取って欲しいと言い出し、誠も実際欲しかったことから、買い取ることにしたのだ。
とはいえ、それでも1つ100円か200円程度で、ほぼタダで貰ったようなものなのだが。
次に恭子が持ってきてくれるようになったのが、ビューティーケア用品だった。
ボディーソープ、シャンプー、コンディショナー、洗顔石鹸、クレンジング剤から入浴剤まで様々なアイテムを用意してくれたのだが、それら全てには女性ホルモンを活性化させる成分が配合されていた。
実際それらを定価で購入すると1つ数千円はするような高価な品物ばかりだったのだが、恭子は値段を偽り、十分の一の値段で誠に買い取らせようとした。
毎日の生活用品、それも恭子からオススメされている品とあって、誠は迷わず購入。
それからというもの、毎日欠かさず使用していた。
それらは、元々高い品物だったこともあり、美容の効果は覿面(てきめん)であった。
誠の身体は徐々に白くハリのある肌へと変わり、
肉質も女性らしく柔らかいものへ、
髪質は太く艶のある髪へ、元々女性的だった誠の顔は、より柔和で優しいものへと変わり、
男性の服を着ていても、女性に間違われることが多くなるほどであった。
そして極めつけが乳首に使用する女性ホルモン入りの軟膏剤(なんこうざい)だ。
誠は恭子から言われた通り、夜寝る前と、朝起きてから毎日乳首にそれを塗りつけていた。
初めは軽くピリピリとした痛みが乳首に走る程度だったのだが、徐々に乳腺が発達してきたのか、乳首と乳輪が大きくなり、感度も上がり、勃ちやすくなってしまった。
そして一年以上経過した今となっては、Aカップほどの大きさになってしまったというわけだ。
誠は鏡の前で自らの身体を見つめると、小ぶりな乳房を軽く触った。
女性としては小さな胸であるが、男性としては大きな胸。
誠は徐々に女性化していく自身の身体を見るのが好きだった。
次に自らの股間についてる可愛らしい娘を見つめる。
毎日女性ホルモンを活性化させる石鹸で洗っていたこともあり、誠のペニクリは高校時代と比べて、さらに小さくなっていた。
現在は小学校低学年の子と同じくらいの大きさだろうか?
見た目は白く、手触りはサラサラ、毛が一本も生えておらず、実に女の子らしい。
誠はかれこれ1年以上勃起していないが、
これでは例え勃起することができたとしても、女性の膣内に挿入することはできないだろう。
誠の身体は、ペニクリと同じように鼻から下の部分に太い毛が一切生えていなかった。
通常の男性ならば、毛を剃っても、すぐに新しいのが生えてきて、汚くなったりするものだが、誠には、そういった生えかけの毛すら全くなかった。
これは恭子から貰ったカノンと呼ばれる家庭用脱毛器のおかげであった。
カノンとは毛の生えている場所に光を照射することにより、毛根を根元から死滅させる機械である。
恭子が最新型のを買うというので、
古い方の機械を、半ば押し付けられる形で譲ってもらったのだが、それにより、髭、腕、足、Vラインや脇の部分まで全ての毛を脱毛することができたのだ。
このように誠の体は恭子の協力により、
爪の先から頭のてっぺんまで、全て女性的なものへと変わっていた。
身体を女性的なものにするには錠剤や注射器を使う方法もあり、そちらの方が即効性はあるのだが、
恭子が敢えて錠剤や注射器を使用しなかったのは、高校時代に誠が〇〇大学を落ちたことに理由があった。
誠が〇〇大学を落ちた理由は、決して誠の勉強不足などではなく、恭子が誠の精神を催眠術によって、必要以上に弱らせてしまったことに原因があった。
錠剤や注射器はたしかに即効性は高いが、副作用が大きく、精神への悪影響も考えられる。
一度失敗していた恭子は、誠の大学生活を考慮してこのような方法を取ったのだ。
そのおかげで誠は女性化と勉学の両立を成すことができていたのである。
誠は今の自分の身体に満足すると、身体を洗い、恭子から購入した入浴剤を浴槽に入れ、ゆったりと浸かって一日の疲れを癒した。
※※※
誠はお風呂から上がり、髪を乾かして、軽いストレッチを行った。
そして一杯のホットミルクを飲み、歯を磨く。
そうして就寝前の一連の習慣を終えると、電気を消してベッドへと上がり目を閉じた。
それからしばらくして、ベッドの上から誠の吐息が聞こえてきた。
「んっ………はぁ…………」
誠が乳首に指先を添えて撫で始めたのだ。
普段なら、ここで逞しい男性を想像して自慰を始めるのであるが……
(マコトさん、お昼ご飯一緒にどうですか?)
なぜか、思い浮かべるのは真里の姿。
最近は真里のことを考えることが多くなった。
真里のことを思うと、なぜか懐かしい感覚を覚えるのだ。
真里とは高校時代も何度か話をしていた仲ではあったが、その頃はまだそこまで親密な関係ではなかったはずだ。
誠はどうして真里に対して、懐かしい感覚を覚えるのかわからなかった。
(ナオちゃんと付き合っていた頃も、こんな気持ちになったことはなかったのに……)
恭子の催眠によって、直美との記憶は改変されていたが、誠が現在感じている気持ちは、直美と付き合っていた頃に感じていたものと同じものだった。
恭子は大学に入ってからというもの、
進んで誠に催眠術をかけるようなことはしなかった。
それは恭子が、直美を手に入れるという目的を達成したのもあり、これ以上、直美と誠の性質を歪めて嘘の関係にするのが嫌だったからである。
現在の誠は、恭子の催眠術よりも、一日でもっとも長く接している真里の影響を徐々に受け始めていた。
誠はその後、自慰をする気をなくし、
いつものように軟膏を乳首に塗ってナイトブラを装着すると、猫のぬいぐるみを抱き、そのまま眠ってしまった。
誠は真里と過ごす時間が長くなるにつれて、
徐々にだが、女性と付き合っていた頃の感覚を取り戻しつつあった。