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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.48 【 諦めきれない思い 】

 午後になり、
サークルの活動風景を見つめる真里。


 恭子と誠はモデル兼店員という役で、
展示品と同じ服を着ながら、道行く客の相手をしていた。

 容姿端麗な二人が抜群の笑顔で接客するため、足を止める者も多く、中には記念撮影する者までいた。

 もちろん二人だけでは対応できないため、その他のメンバーも商品の説明や支払いの手続きで大忙しであった。


 そんな中、直美はその持ち前の明るさと愛嬌の良さを活かして、サークル活動を見に来た新入生の相手をしていたのだが……


「プッーークスクスクス!!
 真里ちゃん、マコちゃんが目の前にいるのに気づかなかったんだー! ヒーッヒッヒッヒッ………笑い過ぎて……腹いたひ……」


 直美は真里の話を聞き、腹を抱えて笑っていた。
 あんまり大声で笑うと恭子に怒られるので、口を抑えて堪え気味だ。


「笑いごとじゃないですよ……桐越先輩は……一体いつからあんな女装を……?」


 真里は、大笑いの直美とは対照的に、まだ引き攣(つ)った顔をしていた。
 受けた衝撃があまりにも大き過ぎたためか、若干身体が震えている様子だ。


「うーんとね、去年の夏頃かなぁ?
 マコちゃんが女装するようになったのって。

 あたしも最初誰だか分からなくてさ~

 キョウちゃんが女装したマコちゃんと一緒に歩いているもんだから、浮気相手だと思って、その女一体誰?って聞いちゃったんだよね。
 そしたらマコちゃんの声で、誠だよって!」

「急にそうなったんですか……?」

「あたしが付き合ってた頃は気づかなかったんだけど、元からそういう気はあったみたい。
 でも元々女っぽいところはあったし、本人が良いなら別にいいかなーっと」

(元々女っぽいところがあるのは認めるけど……本当に前から女装の気があったのかな……
 でもあの容姿ならそういうことに興味を持つのも仕方ないのかも……)


 直美があまりにも笑うため、真里は少し冷静になってきていた。そのまま視線を誠に移し、様子を見つめる。

 その姿は、道行くその辺の女性よりもずっと美しく、女装だと説明されても、男であることを忘れてしまいそうになる程だった。

 あの千年の美女と謳われた恭子と並んでも全く見劣りせず、誠独特の不思議なオーラを纏っていた。

 そういったモデルが良いためか、服が良いためか、恭子達の商品は、多くの人々の注目を集め、次々と注文が入っているようだった。


 結局その後、真里は誠と話をする機会をもう一度得ることはできなかった。

 その日の新入生の見学会は午後二時を持って閉め切られ、それから先は展示会の活動をメインに行うということで、新入生はそのまま帰宅することになったのだ。



 ※※※



 その夜、真里は真剣に悩んでいた。

 悩むのはもちろん誠の女装のことだ。

 腐女子とはいえ、異性愛者の真里にとって、誠の女装はやはり抵抗のあるものだった。


(まさか桐越先輩がそういう趣味があるなんて全然知らなかった。
 で……でも、心まで女になったわけじゃないし、きっと一時的なものだよね……
 それに女性用の服を好んで着るんだったら、そのうちテトのコスプレとか気軽にしてくれるかもしれないし、逆に良かったよね……)


 真里は今の状況を、なるべく肯定的に捉えようとしていた。
 そして、明日こそは誠に告白しようと眠りに着いたのだった。



 ※※※



 次の日、真里はサークルLilyの部室の前にいた。

 中からはミシンの音が聞こえてくる。
 おそらく昨日注文があった品の縫製(ほうせい)を行っているのだろう。


 コンコンッ!


 ミシンの音にかき消されないよう、少し強めにドアをノックする。


「はーい、中へどうぞー」


 女性の声がしてドアを開ける真里。


「こんにちはー」


 入口には、大人しめのいかにも受付嬢といった女性の姿があった。


「新入生の方ですね、サークルの見学ですか?」

「えっ……あっ、そうです」


 真里は単純に誠に会いに来ただけだったのだが、思わずそう答えてしまった。


「わかりました。ではこちらをどうぞ」


 そう言って女性は案内状のようなものを手渡す。
 それは無機質な文字が並んでいるだけのものであった。


(こんなに立派なサークルなんだから、もう少しデザイン考えたら良かったのに……)


 恭子のサークルのレベルが高かったこともあり、
この無機質なサークルの案内状に、真里は少しだけガッカリした。

 真里は高校時代、漫画研究部ではあったが、
イラストを描いたり、デザインを考えたりするのも好きだった。

 コミケでは、自慢のNikanの一眼レフカメラで好みのレイヤーを撮影したり、
帰宅後にはフォトショップで加工を行ったりして、自身のブログにアップするほどであった。

 そのためデザインについては、人一倍のこだわりがあったのだ。


 女性に案内され部室を見学する。

 中は真里の漫画研究部時代のような狭い造りではなく、まるで事務所のように本格的な造りをしていた。

 部屋のさらに奥にはミシンを使う部屋があり、
そこにはサークルのメンバーらしき女性が数人並んで裁縫を行っていた。

 また撮影用の照明器具やカメラ、反射板、ディフューザー(光を和らげる道具)なども一通り揃っており、宣伝用の写真をここで撮影していることがわかった。

 出来て一年ばかりのサークルで、これほどの部屋を大学側に提供してもらえるのは、非常に珍しいケースであった。

 ここまでの待遇を即座に受けれたのは、
恭子の母親が世界的にも有名なイタリアのファッションデザイナーであったことと、父親が政財界に影響力のある人物だったことが響いていた。

 また、大学側に申し入れをした際のメンバーが、恭子と誠だったことも幸いした。

 大学側は、この美貌と知性を備えた二人が率先してサークル活動を行っていくことが、大学の宣伝になると踏んだのだろう。

 Lilyは大学側から公認サークルの認定を受け、その活動成果を期待されていた。



 一通り中を見物し元の部屋に戻ると、
ちょうど誠が中に入ってきたところだった。

 誠は昨日の展示会同様、女性用の服に身を包み薄化粧をしていた。


(桐越先輩……今日も女装してるんだ……)


真里はその姿に少し動揺したが、気にしているのがバレないように挨拶をした。


「桐越先輩、こんにちは」

「あっ、一ノ瀬さん、来てきたんだね」


 そう挨拶を交わすと、真里を案内していた女性は気を遣って、応接室のテーブル席へと二人を案内してくれた。


「コーヒー入れてきますね」

「うん、ありがとね」

「あっ、お構い無く……」


 そのまま女性は流し台へと向かっていった。

 対面に座り、にっこりと微笑む誠。

 その姿は高校時代の面影はあるものの、
女性として実に自然な雰囲気を保っていた。


「一ノ瀬さん、昨日はせっかく来てくれたのにあまり時間とれなくてごめんね」

「いえいえ、私も急に行った身ですから、迷惑じゃなかったかな……と」

「そんなことないよ。新入生をあの展示会に呼ぶことは前から決まっていたことだし、去年の10月に開催した時よりも見に来てくれる人が多くて、みんな喜んでいたよ」

「そうなんですね、それなら良かったです」


 サークルLilyは毎年4月と10月に、○×メッセにて展示会を開くことが決まっていた。

 目的は一種の社会活動を体験することと、サークルと大学の知名度アップ、そして利潤の追求であった。
 そうした現実的な計画設定も大学側の心証を良くした一因だったのである。


「それでなんだけどね。
 一ノ瀬さんに、この辺一帯を案内しようと思ってたんだけど、良かったら今日これからどうかな?」

「えっ!? ホントですかっ!? 是非、ぜひお願いします!」


 思わぬ誠の誘いに真里は大喜び。
 単に誠は、新しい生活に慣れて貰おうと、親切心で誘っただけだったのだが……


(ちょっ……ちょっと待って……これってもしかして……
 デデデ、デートのお誘いってやつじゃない? 桐越先輩、すごい積極的っ♥
 しかも今日これからだなんて……いやーまいったなー♪ まいったなー♪)


 などと、真里は妄想しており、一面お花畑なのであった。



 ※※※



 〇✖市〇✖町

 学術都市の中心地ともあって、
真里の住んでいた街とは、道行く人の数も建物の高さも全く違う。

 真里は迷ってしまうのが怖くて、あまり探索などはしてこなかったのだが、
今日は憧れの誠が案内してくれるとのことで、まるで旅行に行く気分のように晴れやかな気分だった。

 有名な護国神社でお祈りしたり、展望台○×スカイツリーで都市を一望したり、
誠おすすめのインド料理屋に行ったりなどして、真里は大いに楽しんだ。

 そうして時は過ぎていき、街がオレンジ色に染まり始めた頃……


「一ノ瀬さん、私のお気に入りのスポットがあるんだけど、行ってみない?
 夕日がすごく綺麗なんだよ」

「はい! もちろん行きますっ♪」


誠からの提案で、街の中心から少し離れた丘山へと移動することになった。



 ※※※



「わーすごい綺麗……」


 ○×スカイツリーから見るのとは違った風景。

 そこは、観光スポットとして指定されたところではないため、
人通りは少なく、静かな中で景色を眺めていることができる場所だった。


「たまにこうしてここで景色を眺めているんだー」

「ここ、静かだしのんびり過ごせて良いですねー」

「うんうん」


 そこで真里は気づいた。
 今こそが絶好の告白のタイミングなのでは?と。


 しかしその前に確認しておくことがあった。

 誠の恋人の存在だ。

 以前は直美が付き合っていたため、断られてしまったが、今回は予め聞いておくことにした。


「あの……桐越先輩、お聞きしたいことがあるのですが……」

「聞きたいこと?」

「はい……桐越先輩って今、付き合っている人っているんですか?」


 それを聞いて誠は、何か感付いたようだった。

 二年前にも誠は、一度真里に告白されている。
 誠は少し困った顔をしながらも正直に答えた。


「付き合っている人は誰もいないよ」


☆;:*:;☆;:*:;☆ パァッーン ☆;:*:;☆;:*:;☆


 真里の心の中で祝いのクラッカーが鳴らされる。


(やった! 第一関門突破♪)


 心の底から安堵する真里。

 だがその時真里は、心配事が1つの排除されたことに気を捕らわれ過ぎてしまい、誠の表情の変化に気づくことができなかった。


「桐越先輩……聞いてください」

「うん……」


 誠は敢えてそこで口を出さなかった。

 真里がそれを口にする前に阻んでしまうのは、失礼に当たると思ったからだ。


「実は、2年前に先輩に振られてからもずっと思い続けていました……
 私、先輩にもう一度会いたくて、この大学に来たんです。
 好きです……私と付き合ってください!」


 一年間、我慢し続けてきた思いを、ついに誠に伝えることができた。

 あとは、誠の返事を待つだけ……

 真里は大学の合格発表の時以上に緊張して、その結果を待っていた。


「一ノ瀬さん……私のために大学受験頑張ってくれてたんだね……」

「はい……」


 誠はすぐには返事をしなかった。

 真里の大学受験の動機を聞き、本当に申し訳なさそうな顔をしている。


(先輩……どうしてそんな顔をするの……? まさか……)


「ごめん」


(………!!)


「私、一ノ瀬さんの思いを受け取ることができないよ……」

「………どうして?」

「よく聞いて…………私、女の人より男の人のことの方が好きなの……」

「えぇっ!?」


 受け取った言葉の意味がすぐに理解できず、茫然としていた真里であったが、
徐々に意味が理解できてくると、心の中に絶望的な気持ちがじわじわと広がっていくのがわかった。

 真里は、それがだんだん怖くなり、声を震わせながらも言葉を続けた。


「先輩……女装が趣味なだけじゃなかったんですか……?
 だ……だって、高校の時、直美さんと付き合ってたじゃないですか……!」

「あの頃はまだ、本当の自分に気づいてなかったの……
 今の私は女装をしているんじゃなくて、心も女なの……」

「そ……そんな……」


 真里はそう言うと地面にへたり込んでしまった。

 振られる可能性があることは覚悟していたが、まさかこんな理由で振られるとは思ってもみなかった。


(こんな……そもそも女に興味がないんだったら、もう諦めるしかないよね……
 これはもしかして……BLで妄想してきた罰なのかな……
 先輩のことをオカズにいっぱいBLオナニーしてきた罰なのかもしれない……)


 入学した以上は、今の大学に通い続けるしかない。

 サークルも、直美と同じところに入りたいと思っているが、その場合、誠と毎日顔を合わせなければならなくなる。

 長くて三年、二度自分を振った相手と、ずっと傍にいるのは辛い気がした。

 別のサークルを探すことも頭によぎったが、ここで真里の中に新しい考えが浮かんだ。


(ちょっと……待って……………
 長くて三年……毎日、顔を合わせるということは、逆に言えば三年間、何かしらの影響を与え続けられるってことだよね。

 先輩はまだ男性に興味を持ち始めたばかりだし、
もしかしたら、もう一度、女性に興味を持たせることもできるかもしれない……

 いや…………できるかもしれないじゃない……
 できるか、できないか、じゃなくて…………

 やるんだ…………やるしかないんだ!

 私はもう今までの真里なんかじゃない。

 弥生や萌に支えられないと、立ち上がれないような弱い自分は、もう捨てたんだっ!

 私は……絶対に……諦めない!)


 自分の心に整理を付けると、真里はすくっと立ち上がり誠の方を振り向いた。

 誠は顔を俯かせ、真剣に悪いことをしてしまったという表情をしていた。

 真里の立場になって、考えたのだろう……
 心が女になったとはいえ、その優しい性質は全く変わってはいなかった。


「わかりました。では友達になってください。
 友達でしたら、良いですよね?」


 先ほどまでの絶望的な気持ちを打ち消し、真里はしっかりと誠を見据えて言った。

 誠は、真里のその切り替わりの早さに驚いたものの、断る理由は何もなかったため、そのまま承諾した。


「うん、友達だったら良いよ。一ノ瀬さん」

「ありがとうございます。
 それと、友達でしたら、一ノ瀬さんじゃなくって真里って呼んでください」

「そっか……わかった。
 じゃあ、私のことも桐越先輩じゃなくて、マコトって呼んでね。よろしく真里さん」

「はい、よろしくお願いします! マコトさん」



※※※



 1年前の真里だったら、この時点で諦めていたであろう。

 しかし、机に塞ぎ込みウダウダと悩み続けていた頃の真里は、もうここにはいなかった。

 誠を追うために続けた禁欲と勤勉の1年間は、真里をここまで成長させていたのである。


 話を終え、それまでと変わらぬ雰囲気で、家路へと向かう二人。

 こうして、誠の心を女から男に戻すための真里の試練は始まったのであった。
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