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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.43 【 誤解 】

繁華街の歩行者専用道路。


夕方になり、飲み客が増えてきたのか、
同時にガラの悪い人の姿もチラホラと見られるようになってきた。

子供が歩くには、あまり治安の良くない場所。
そんな場所で、高校生の少女二人と大人の男性二人組が何やら揉め事を起こしていた。


「もう一回言うけど、その子を囲んで何してるの?」


持っているカバンを地面に落とし、じっと男二人を睨みつける直美。


「いやぁ~~何って、俺たちはただこの子と仲良くしようとしてただけだよ?
君もこの子に負けず劣らずカワイイじゃん! 4人で飲み行こうぜ?」


ヘラヘラしながら男が言う。
直美は、男の指さすバーを無表情に見つめた。
路地の並びには生ゴミの入ったごみ箱が4つ並び、ハエが集っているのが見える。
それだけでそのお店があまり人の来ないお店だということがわかった。

険しい表情の直美。学校ではあまり見せないその顔に、真里は少し驚いていた。


「あんな店、ぜーんぜん興味ないし、良いからその子離してどっか行って」

「そー言わずによー
へへへ……ツンデレな子を、素直にさせる時が一番楽しいんだよな~」


男がノソノソと近づき、直美の肩に手を置こうとする。
その瞬間、直美は男の服を掴み、引き倒してしまった。


「ぶぅっほぉっ……何しやがる……いてぇじゃねぇか」

「汚い手で触んないで……いい加減にしないとホント怒るよ」

「てめぇ、汚ねぇ手だと!? いい加減にするのはてめぇの方だ」


突然態度を変え、掴みかかろうとする男。

直美は男の腕に手をまわし肩に手を当てると、
そのまま相手の勢いを利用して、地面にねじ伏せてしまった。


「いででででででで!!!! は……離せ! 離しやがれっ!!」

「痛い? だったら、彼女の荷物を返して」


直美の行動に、道行く人の注目が集まっている。
仲間の男は、居心地が悪くなって、真里にコミケの戦利品を返した。

それを見て、直美も男のことを解放する。


「おい、注目され過ぎだ。行くぞ」

「くっそ……わかったよ」


そう言い、男達は足早にその場を立ち去っていった。



※※※



「ありがとうございます!」


真里は感動していた。
まさかこんな風に自分を助けてくれる人がいるなんて……

直美の行動を真里は素直にカッコイイと思った。


「ここナンパが多いからね。一人で歩いていると危ないよ」

「そうですよね……私もうっかりしてました……
あの……すみませんが……藤崎先輩ですよね……?」

「えっ!? あたしのこと知ってるの?」

「えぇ……私、同じ学校の一年下の一ノ瀬真里と言います」

「同じ学校だったんだ~! すごーい偶然~♪」


さっきまでの険しい表情とは違い、
直美はいつもの元気で明るい感じへと戻っていた。


「あの……藤崎先輩。何かお礼させてくれませんか?
そこの十字路を右に曲がったところに、
テレビで宣伝された美味しいワッフルが食べられるお店があるんです。
そのお店でご馳走させてくれませんか?」

「ワッフル!? いいの~? ラッキー♪」


真里の誘いは、甘い物好きな直美には願ってもない話だった。



※※※



喫茶店の椅子に向かい合わせに座り、ワッフルを注文する二人。

店員がいなくなると、
直美は真里の隣の椅子に乗っている大きな手提げ袋に注目していた。


「すごい大きな袋だね。中に何が入ってるの?」


そう言い、サンタのプレゼント袋に興味を持つように、真里の荷物を見つめていた。

直美のその反応に、気まずそうにする真里。


(まさか中にBL本が入っているなんて言えない……)


かといって、お礼をしている身で、直美の希望に応えないなんて、
許されることなのだろうか?と真里は考えていた。


「ねぇ、教えて~真里ちゃん~中に何が入ってるの~?」


真里は袋の中に入れた本の配置を思い出していた。

真里はいざという時のために、NL本を袋の入口に置く習慣があった。
《※NL本=Normal Loveの略。普通の男女の恋愛物の同人誌》

万が一、中身がこぼれるような事態になっても、
NL本が一番上にあれば、誰かに見られてもダメージは少ないと考えたのだ。


「ええっと、ただの漫画ですよ。恋愛物なのでちょっと見せにくいのですが…」

「漫画なんだ~! あたしも漫画大好きだよ♪ 真里ちゃんはどんな漫画読むの?
ちょっと見せてもらってもいい?」


漫画と聞いて喜ぶ直美。
直美が好きな漫画は、普通に単行本などを出している一般的な漫画本であった。

まさか真里がそんないかがわしいR18指定のBL本を、
大量に袋に隠し持ってるなどとは夢にも思わないだろう。

覚悟を決めた真里は袋を開き一番上のNL本を取り出した。


「はい、ちょっと恥ずかしいですが……」


そう言って同人誌を直美に手渡す。


「あ~!これ知ってる。めずん一国だよね。
あれ? でも絵が少し違うような気がする」

「これは、めずん一国のファンが書いた漫画なんです。
原作では結ばれなかったキャラ同士が、結ばれるパターンを描いた本なんですよ」

「ええー! そうなんだ~! すごーい、なんかそれ聞いただけでも面白そう!!」


直美はニコニコしながら、真里から受け取った同人誌を読み進めていった。


(……良かった。あれはそんなに性描写の激しいものじゃないから、
きっと普通の漫画本だと思ってもらえるはず……)


特にこういう時のために、買ったというわけではないのだが、
真里は自分の袋詰めの習慣に感謝していた。


「おまたせしましたー」


そこで店員がワッフルを持ってやってきた。


「おおっ、すごーい! おいしそー♡」


高級そうなお皿の上に乗せられた本格派のワッフル。
ここは本場ペルギーの焼き立てのワッフルを出すお店で有名だった。

外はカリカリ、中は蕩けるほどジューシーな生地が詰まっており、
少しビターテイストのチョコレートと、甘さ控えめの手作りクリーム、
自家栽培で作ったミントが添えられた、まさにこだわりのワッフルだ。

二人はそのワッフルの美しさに目を奪われていた。


「あ、真里ちゃん。これ汚すとまずいから一旦返すね」


そう言って直美は、先ほどの同人誌を手渡した。

真里はそれを袋の中にしまい、そのまま隣の椅子の置こうとしたのだが、置いた位置が悪かったのか、椅子から落ちそうになってしまった。


(………あぶない!!)


瞬間的な速さで真里が手提げ袋の紐の部分を掴む。
真里の判断が早かったおかげで、袋は落ちずに済んだ。

また落ちそうになっても面倒なので、
真里は袋を椅子には乗せずに、床に置いておくことにした。


「おーいしーい♡」


あまりのワッフルの美味しさに、大喜びの二人。
そのワッフルの良いところを互いに褒め讃え合う。


真里はこの時気づいていなかった。


先ほど、袋が落ちそうになった際に、
中の同人誌の位置が変わってしまったことに……



※※※



「ハァーー美味しかった! こんなに美味しいワッフル食べたの初めて♡
ありがとう、真里ちゃん」

「いえいえ、私もここのワッフルがこんなに美味しいだなんて思いませんでした。
直美さんに助けていただいたおかげで食べる機会が出来て良かったです」


食後の紅茶をすすり、和やかに話し込む二人。


「そういえば、さっきの漫画また読みたいな。取ってもらってもいい?」

「あ、良いですよ」


そう言って、真里はろくに中身も確認せずに、同人誌を直美に渡してしまった。

ワッフルの印象が強すぎて、先ほど袋が落ちかけた記憶など、とうに消されてしまっていた。


「ありがと~……んっ?」


直美はそれがさっきの漫画とは別のものだと、すぐに気が付いた。

しかし、その表紙があまりにも直美にとって気になるものだったため、そのまま読み始めてしまった。


(こ……これは……!!)


真里はマジマジと漫画を読み進める直美の姿を見ていた。

直美が手にしている漫画の表紙を見る。

めずん一国のキャラクターが見えるはずだ。
真里はじっと、めずんのキャラを探していたのだが、なかなか見つからない。


(あれ……? おかしいな……めずん一国にこんなカラー使われていたかな?)


めずんは、ほのぼの系の漫画なので、そんなに彩度の高い色は使われていないはず……しかしそこには赤や黒、ピンクなどが使われており、キャラクターも、どちらかと言えば萌え絵的な感じだ。

そこで真里は気づいた。


(ちがう……これ……めずん一国の同人誌じゃない……!)


直美はその同人誌を食い入るように見ていた。
自分の今まで知らなかった世界を目の当たりにして少し興奮気味だ。


「ふ……藤崎せんぱっ……その本は…………」


※※※



真里の袋詰めには、自然に出来たルールがある。
それは、BL:GL:NLの比率がそれぞれ約7:2:1であることだ。

袋の深層に進むほど、より過激な描写のBL本が埋まっている。
最底辺には、その日一番のBL本をしまっておくのが通例だ。

そして先ほど説明したように、
袋の入口には、誰に見せても大丈夫なようにNL本が置いてある。

そしてBL本とNL本の間に挟まっているのが【GL本】だ。


真里が好みとするカップリングのパターンは大きく分けて三つあった。

①単純に男×男が好きなパターン
②お気に入りのキャラ同士がカップリングするパターン。
③同じキャラ同士でしてるパターン の3種類だ。

GLについては、このうちの②が当てはまる。

真里にはレズっ気は全くないが、
お気に入りの女性キャラ同士がしているパターンも、
お菓子を啄(ついば)む程度には、好きだったのである。
もちろん主食は①であるのだが……


「真里ちゃん……これ何て言う漫画なの……?」


直美が静かに真里に質問する。


「それは……その漫画は……まどマジの百合本です………」

「この漫画すごいね……女の子同士でこんなことやあんなことしてる……」

「そう……そうなんです……」

「真里ちゃん、こういうの好きなの………」

「あ……あ……あ……あ……少しだけ……」


見られてしまった以上、真里は諦めるしかなかった。
ここで変な言い訳をしても、余計見苦しいだけだ。

藤崎先輩には、今後そういう趣味の人と思われてしまうだろう。
しかしそれは腐女子の宿命。真里は己の運命を受け入れることにした。


「あ~~~面白かった!
こういう漫画があるなんて全然知らなかった」

「へっ?」


軽蔑されるかと思っていた真里は、予想外の直美の反応に驚いた。


「藤崎先輩……それを読んで何とも思わないんですか……?」

「うん、思ったよ。あたしこういう漫画好きかも?」

「ええっ!?」


昔の直美だったら、真里の予想していた通り「気持ち悪い」という印象を持ってしまっていただろう。

だが、この時期の直美は既に恭子の催眠術によって、
女同士の恋愛やスキンシップに肯定的なイメージを持つように変えられてしまっていた。

直美、高校三年の一学期。
ちょうど恭子と勉強会を開き、レズ動画を見て下着を濡らし始めた頃だ。


(BLとかGLって嫌悪感抱く人多いんだけど、
藤崎先輩、こういう同性同士のカップリング物、平気なんだ……)


「そうだったんですね……
私、こういうのあんまり人から受けいれてもらったことなくて……
藤崎先輩がそういうの平気だって聞けて嬉しいです」

「うん、平気だよ。真里ちゃんもこういうの好きだったんだね。
あ、あと、あたしのこと藤崎先輩じゃなくて、直美って呼んでいいよ。
あんまり先輩って柄じゃないしさ」

「わかりました! では、直美さんって呼ばせてもらいますね!」



※※※



先ほどのお店を出て、駅前に到着する二人。
既に辺りは暗くなり、自宅へと帰るサラリーマンが行き交っていた。


「直美さん、駅まで送っていただいてありがとうございます」

「ううん、あたしもここの駅で電車乗るつもりだったから、たまたまなんだけどね。
でも、今度からはあそこ通る時は気を付けてね」

「はい、わかりました。またオススメの本があったら紹介しますね」

「うん、楽しみにしてるね!」


そうして二人は別れた。


[ドアが閉まります。 まもなく発車します。]
シューーー………ガタンガタン……ガタンガタン……


行先の違う電車に乗りながら、二人は別々のことを考えていた。


(直美さん、すごく良い人だったな……。

桐越先輩の彼女……。

似た者同士は惹かれ合うっていうけど、ホントにそう。
面白いし、一緒にいて楽しいし、私なんかじゃとても敵わないや……)


真里は直美と一緒に過ごせて楽しかったが、
同時に自分との格の差を見せつけられたような気がして、少し落ち込んでいた。



※※※



もう一方の直美は……


(年頃の女の子が同性に惹かれるのは、よくあることらしいけど本当なんだな~
あんな顔してるけど、真里ちゃん、女の子好きだったんだ~)


直美の中で大きな誤解が生じていた。


真里は単に読み物としてのGLやBLを好きだと言ったのに対して、
直美は、真里を同性の女の子が好きな子だと勘違いしてしまったのである。

これは真里が普段から同人誌に触れ過ぎてしまい、
GLとBLを一括りにしてしまっていることが原因だった。


これ以降、真里は直美から同性愛者だと思われ続けることになる。


この誤解が後に大変な結果をもたらすことになるのだが、
この時の真里は直美に誤解されていることにも気づかないのであった。
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