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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.41 【 一ノ瀬 真里 】


「桐越先輩、好きです……つ、付き合ってください」


緊張で震える唇をどうにか動かし、懸命に少女は告白をした。

少し驚いたかのように見開いた少年の瞳が、自分を映している。
その事実に、少女は耳まで赤く染める。

逃げ出したい。
けれど、逃げることはできない。

自分の方から、勇気を出して――想いを告げたのだから。



なろう挿絵-黒百合




校庭の桜がひらひらと舞い降り、心地よい春のそよ風が、緑のフェンスの傍に佇む男女の間に優しく吹き込んでいた。

緊張で潤む少女の瞳に映るのは、色白で中性的な顔立ちをした少年だった。
彼は、催眠術によって女性化させられる前の桐越誠である。

少女にとっては、一つ上の先輩に当る。

最初は驚いた様子を見せていた少年の顔は、すぐに真剣な表情にかわり、少女の言葉を深く受け止め、どのように答えるか考えているようだ。


返事を待つ少女は、一ノ瀬真里(いちのせまり)。

長く艶のある黒髪を一つに結び、どこか大人びた気品を感じさせるおっとりとした顔立ちは、和風美人という表現が正しい。
ほんのりと頬を紅く染め、俯き返事待つ姿は愛らしさをも感じさせる。


気軽に、他人へと恋心を打ち明けられるようなタイプの少女には見えない。


誠はどう返事をしたものかと悩んだ末に唇を動かし……――




――これは恭子達が卒業を迎える約一年前のお話である。



※※※



放課後のとある部室、ドアの横には【漫画研究部】の札が掛けられている。
中は八畳くらいの広さで、壁に立て掛けてある棚には、多数の漫画本が並べられていた。

どことなく美術部に似ているけれども、それとはまた違った雰囲気を持つ部室である。
テーブルに設置されている椅子の数は少なく、その少なさは部活動の人数をそのまま表していた。


「んで?結果はどうだったの?」


眼鏡をかけた生徒が、机に腰を下ろしたまま真里に問う。
ややふっくらとした丸みを帯びた肢体を持つ、どことなく母性を感じさせる少女である。

彼女の名は、天川弥生(あまかわやよい)。

一応、質問の形を留めてはいるけれども、既に結果は分かっているようで……慰めるような表情で真里を見つめている。


「そんなの……私のこの様子を見ればわかるでしょ……?」


気怠そうな、それでいて少し不満げに真里は答える。
恨めし気な瞳で弥生を見返し、重いため息を一つ。
真里の告白は桜の花びらと同じように――散ってしまったのだ。


「そっか、振られちゃったか……
でもしょうがない。校内一人気のある桐越先輩だもの。
お断りされた子は他にもたくさんいるし、気にするだけ損だよ真里。元気出してね」

慰めの言葉をかける弥生を、真里は半眼で見返す。
精神がささくれているせいか、今は何を言われても反発心がムクムクと湧き上がってくる。


「……いいもん。私にはテトがいるし、もうテトと結婚するし……!」


唇を尖らせ、真里は宣言した。その宣言を聞いて、己の額を押さえる。


「…………テトがいるって……一応言っておくけど、二次元とは結婚できないからね」


またかといった眼差しには呆れ半分、困った子供を見守る母のような温かさが半分。
やや呆れの方が強いのは、真里の突拍子のない発言が今さらだからでもある。

せめて三次元から見つけなさいという弥生の忠告は、真里の耳には届いていない。

真里は椅子に座り、机の中から一冊の本を取り出すと、パラパラっとページを捲り、
キャラクターが大きく描かれたページを開いた。

そして夢見る少女の眼差しで、わずかに目を潤ませて、本に向かって話しかける。


「テト……私、振られちゃった……こんなに辛いのも、三次元に浮気しようとした罰だよね?ごめんね~……」


目元に溢れる涙を手の甲でグシグシとぬぐいながら、最愛の君(きみ)であるテトに話しかける様を、弥生は生暖かい眼差し……若干引きながら見つめていたけれども、真里はまるで気に留めなかった。

瞳をハートの形にしながら、指でなぞるキャラクターの名前は、テト。


それは巷で人気のある週刊少年漫画ニャンプの〇〇教室と呼ばれる連載漫画のキャラクターだった。

中性的な顔立ちで、男性キャラなのに髪を伸ばして結んでいるような、カワイイ系の少年である。
真里の中で、テトと誠のイメージが重なる。


「真里、桐越先輩のこと入学した時から気になってたもんね……
現実逃避したくなるのはよくわかるわ。まあ、今はテトにいっぱい慰めてもらいなさい」


弥生はそう言うと、真里の背中を優しくポンと叩いてあげた。
実年齢を疑われそうなほどの強い母性と、抱擁力を持つのが、弥生という少女なのだ。



「なんで私じゃダメなの~?オタクだから?
喪女だから?一般クラスだから?なんでなの~?やよい~~」


慰められたことで、真里はうわーんと、机に伏せて泣き言を漏らす。

そして、見た目の上品さを裏切り、非常に子どもっぽい話し方で真里は駄々をこねる子供のように、弥生に迫る。その瞳には、涙が滲みでていた。

黙ってさえいれば、大和撫子風の和風美人なのにもったいない……などと、弥生に思われていることを、真里は知らない。


「う~んとね。真里って、顔は良いと思うのよ。顔は」

「顔を強調するのはなんで?」

「なんでだと思う?」


ハァ…と少し呆れたような表情で、弥生は真里の姿を凝視している。


「まずその格好をどうにかしなきゃダメだと思うわ」


そう、正面からはっきりと弥生は言った。
優しい割に容赦のない物言いに、真里は首をかしげる。何を言われているのか、まるでわかっていないといった風に。


「格好?」


真里は確かに美人であったが、己の容姿に無頓着なところがあった。

スカーフは緩みシワが寄っており、制服に小さなゴミが付いていても気にしない。

質の良い髪も、髪型を作るのが面倒だという理由だけで、常に一つにまとめている手抜き具合である。その他、細かいところをあげれば切りがない。

なんにしても、そういった手抜きが真里の魅力を半減させている事実は否めないのだ。


「えーそこまでするのー」

「反対に、そのぐーたら具合でよく告白しようと思ったわね。モテたいなら、身だしなみくらいはきちんとしなさい。でも真里がモテない一番の理由はね……」

「一番の理由は?」


グッと真里は弥生に顔を近づけて、尋ねる。
そのタイミングで、


ガラガラガラガラ



出入口の扉が開き、部員の一人である少女が入って来た。


「真里、おつかれ~~!!
ねぇねぇ、新しい同人誌手に入ったんだけどさ、ちょっと一緒に見ようよ!!
新作のカルテト本!!真里、めっちゃ気に入ると思うよ!!」


満面の笑みを浮かべ、なんともハイテンションな少女。

彼女の名前は、三木谷萌(みきたにもえ)
真里と同じくテトを愛する、さっぱりとした性格の、妹顔の生徒だ。
彼女の手には、見知った店で使われている袋があった。

真里は目ざとく、その袋をロックオンする。


「えっ?萌、アニメット行ってきたんだ!!見る見る♪」


さっきまでの暗い雰囲気はどこへやら?
真里は、萌がカバンから本を取り出し机の上に広げる様子を、目をキラキラと輝かせて眺めていた。


「じゃあ、開くよ~!ジャジャーン!!」


既に開くページは決まっていたのだろう。
萌は本に指を差し込み、一気に広げると、

そこには、先ほどのテトというキャラクターが、
別の男性キャラクターに熱く口付けをされているイラストが掲載されていた。

一瞬、真里は動きを完全に止めた。
それからすぅううううと大きく息を吸い、体内にエネルギーを取り込む。
そう、“萌え”という名のエネルギーを。


「や……やばい……これは……フヘ……フヘヘ………鼻血出そう……。
デュフフ……デュフフフフフ………尊(とおと)みがやばみすぎる……」



真里が気味の悪い笑い方を始める。
ニタニタとしていて、とても厭らしい表情だ。
百年の恋も冷めてしまうような変貌ぶりである。

熱っぽい眼差しが、一身にテトへと注がれている。今、彼女の瞳に映るのはテト一人きりである。
否。
今回ばかりはテトと共に描かれているキャラクターにも、真里の熱い眼差しは注がれていた。


萌が持ち込んだ同人誌。
これはいわゆるBL本と呼ばれる男同士の恋愛を描いた二次創作本であった。

つまり、男同士がアレしてコレして、あんなことやこんなことになって、ニャンニャコする創作物である。


「カルテトって、正義だと思う……」


頬を赤く染め、真里は熱い吐息と共に呟く。

テト共に描かれていたのは、カールと呼ばれるキャラクターである。
真里が熱く見つめる先には、テトと彼がキスをしている絵が掲載されていた。
もちろん、健全な少年誌でしかない本誌で、このような設定や描写はない。

彼女たちが手にしているのは、あくまでもファンが、一流の妄想力を持って設定をし、描き出したものであった。


「カルテトの結婚式に出たい……」

「赤ちゃんが生まれたら出産祝いを送りたい……」


などと、真里と萌ははしゃぐ。
まるで現実味を帯びていないことを、いつか実現するかのように。

同人誌を見つめキャーキャー叫ぶ二人の様子を見ながら、ふっくらとした指先で額を押さえながら、弥生はため息を落す。

黙ってさえいれば、美人なのに。
もう少しオシャレに目を向ければ、さらに磨きがかかるのに。
どうして、そんなにも残念なのか、と。


(真里……あなたがモテない理由は……それよ……)


真里には当然聞こえないが、弥生は心の中で指摘する。


一ノ瀬真里は、いわゆる【腐女子(ふじょし)】と呼ばれる存在だった。

男性同士の恋愛をこよなく好み、またまるで恋愛感情がなくとも、隙間にあるわずかな友愛関係からも恋愛へと関係を発展させることのできる、特殊能力の持ち主である。

男子が二人いれば、そこには必ず恋愛が生まれる。
生まれないなら、作ってみせる。

それが、腐女子という生き物である。


「やばい……いいね……萌、ちゃんとこれ二冊買ってきた?」

「あったり前じゃーん♪帰って好きなだけ使っていいよ♪」

「あざーっす♪やっば……濡れてきた……ウェヒヒヒ……」


ご機嫌な真里は、萌に報酬を払うと、戦利品をカバンへと収納した。


この会話からも分かるように、真里はただの腐女子ではない。

お気に入りのテト受け本(テトが男に愛される系の本)があると、それを見て夜な夜な自慰に耽ったり、リアルでも、中性的な男性が他の男性と仲良くしているのを見ると、妄想を始めてしまうような……重度の腐女子であった。

本人は教室では大人しい美人で通っていると思い込んでいるが、妄想している時の仕草や表情から、その性癖は駄々漏れである。

美人だが残念すぎる……というのが、他の生徒たちの真里に対する印象だった。
ごく一般的な男子生たちが恋愛対象として真里を見るには、多少荷が重い。


「テト受け萌えぇええええええええ!!!」


真里の鳴き声は部室内に響き渡り、部室の外……廊下の向こう側では、なんの罪もない生徒がビクリ!と、身体を震わせていることを……誰も気づかなかった。




※※※



「へぇ~真里、ついに桐越先輩に告白したんだ~。前から色々妄想してたもんね」


話を聞いて、萌はひゅうと音の鳴らない口笛を鳴らす。


「もういいの、妄想は止める。私はこれからテト一筋でいくんだから」


三次元よりも二次元に生きると、真里は遠い目をして微笑む。


「てかさー真里。桐越先輩、彼女いるけど、それでも告白したの?」

「えっ?ウソッ!!?」


驚き、大きな声を出す。
遠い目をしている場合ではないようだ。
彼女がいるなんて、聞いていない。


「って……いないわけないよね~……そっか~……いたんだ~……」


……彼女か。
彼氏ならば、少しくらいは救われるのに、などと真里は舌を打つ。
胸の奥が、チクチクと痛んだ。


「え~……知らなかったんだ。あっきれた。いつも桐越先輩のこと気にしてたから、
知ってて、なお好きでいるんだと思ってた」

「知らんかったよぉおお。そっかぁ……彼女いるんなら、振られて当然だよね……。
……うう、桐越先輩の彼女ってどんな人なんだろう……?」


真里の言葉に、萌は顎に指を当て、目を上にして思い出そうとした。


「えっとね、たしか同じ三年の藤崎先輩だったと思うよ。ほら、テニス部の」

「藤崎先輩………」


真里はまた気怠そうな感じに戻り、ぐったりと机に片頬を押し付けた。
ひんやりとした机が、心地よい。

テニス部の藤崎といえば、藤崎直美のことだろう。
彼女を頭に思い浮かべ、咄嗟に勝てないと真里は判断していた。
明るくて活発でスポーツ万能で……


「真里とは正反対の性格だよね。
明るくて、活発で、スポーツ万能で、まさに太陽って感じ♪」


自分でも思っていたことを、追い打ちをかけるように萌は口にして追い打ちをかけてくる。萌に対する友情が決壊寸前である。

真里は、机に胸を押し付けたまま少しだけ顔を上げて、恨めし気に萌を見る。


「それじゃあ、まるで私が暗くて元気がなくて、ジメジメしてて、影みたいじゃないのよ……まぁ、合ってるけどさ……」


自信をなくして、ジメジメと真里は呟く。
何せ、己が喪女である自覚くらいはあるのだ。


「藤崎先輩は確かに美人だけど、真里も美人なんだからさ~いつもみんなの前で、誰受け誰攻め議論や、デュフフフフ……とか、やべっ鼻血出るわっとか言わなきゃ、モテると思うよ~」

「みんなの前でそんなことしてない~」


まったく意味が分からないと真里が眉間にシワを寄せると、呆れたような視線が返って来た。その中に、若干の憐みも入っている。


「うんや、真里は気づいてないかもしれないけど、してるんよ。
ま、もう浸透しちゃってるから、今更イメージチェンジってのも、無理だろうね……」

「むー…………」


そこで、今まで蚊帳の外にいた弥生が口を開いた。


「真里はね。たしかに藤崎先輩のような太陽にはなれないかもしれないけど、
真里には真里の良さがあるんだから、太陽にはなれなくても月にはなれるかもよ?」

「やよい~~~~!!私の心の友よ~~~~~!!」


優しい弥生の言葉に、感動して抱き付く真里。
そんなこんなで、その日は雑談と真里の慰め会をしながら、漫画研究部の時間は過ぎていった。



※※※



その日の夜……


「ぁ……んっ……ふぅ……ぁぁ……」


どこにでもある平凡な住宅街。
並びの家屋の明かりも消え、辺りも静まり返った頃。

ごく一般的な一軒家の二階の一室からくぐもった真里の声が密やかに響く。

女の子らしい内装ではあるものの、壁一面に二次元のテトのポスターが貼られ、
ガラス戸の付いている白い棚には、同じくテトのフィギュアが並べられていた。


暗い部屋で、小さなライトスタンドの明かりが、新品の薄い本を照らしている。


「はぁ………テトぉ…………」


囁く声には、濡れた熱が込められている。

パジャマの下と、ショーツを脱ぎ、シャツのボタンを外している真里は、指先で、自らの乳首を優しく撫でていた。

“おかず”となっている薄い本には、体格の良い男性キャラから、テトが背中から抱きしめられて、乳首をいじられているシーンが載っている。

テトの桃色の乳首が腫れあがり、キュンと固く尖っているのがたまらない。
絵師が大当たりで、素晴らしく萌えてエロい。


「テト……男の子なのに……乳首いじられて……気持ちいいの……?」


真里はテトと自分を重ね合わせ、快感を共有するかのように、自慰行為に耽っていた。
家族に聞こえないように声を抑えてはいるものの、乱れる吐息を隠すことはできない。


乳首を撫でる手とは別のもう一方の手で、ページを捲る。

次のページには、白くまろやかな尻肉を左右に押し広げられ、普段は決して外気に触れることのない秘孔に、カールの肉棒を咥えているテトの姿があった。
シワ一つない、限界まで広げられた秘孔は苦しげに、だけどそれ以上に、美味しそう根元まで咥えこんでいる。
カールの手は前に回り、限界を訴えてヒクヒクと先端を喘がせながら、先走りの液体を涙のように流すちんちんを、弄りまくっている。

作家の画力と構成の素晴らしさのおかげで、頭の奥がジンジンとしびれるほどに、官能的だった。

エッチで、いやらしい……テト。

真里は乳首を撫でるのを止めて、
濡れ濡れになった、秘貝に指を添え、軽く擦り始めた。
テトにはあるものが、自分にはないので、代理であるクリトリスに触れる。

男の子は、アレを触られたら……本当は、どんなに気持ちがいいんだろう。
女の身では決して知ることのない悦楽に、もどかしくて、腰の奥が疼く。

濡れ始めた秘孔は未だ純潔を守っているゆえに、指の侵入をなかなか許すことはない。
それでも、神経をビリビリと刺激するほどの悦楽を得られる。


「あぁっ……テトぉ…………ちんちん………気持ちいいね…………」


真里はまるで漫画のキャラクターになりきったかのように、テトと同じ動作を繰り返した。快楽に集中するにつれ、ページを捲ることができなくなり、一番興奮するイラストでページを固定する。


なろう挿絵-黒百合



乱れる吐息。
高まる体温で、全身がしっとりと汗ばんでくる。


「んん……!」


快楽を得やすいように、我知らず真里は足を左右に開く。絶頂が近づき、太ももに力が入って行く。ビクビクと背中を震わせながら、真里は法楽(ほうらく)に身を委ねる。

そして自身に限界が見えてきたところで、
目を閉じ毛布の中で包まって、クリトリスを集中的にいじり始めた。


(あっ……気持ちいい………)


真里はそこで想像する対象をテトから誠に置き換えた。
憧れの桐越先輩……
想像の中の誠は真里に優しく微笑んでいた。


(あぁっ!!せんぱっ……先輩っ!!)


誠を想像することによって、真里の快感がより一層大きくなる。


「はぁっはぁっ!はぁはぁはぁはぁっ!」


真里は息を荒くして、自分を高みへと追い詰めた。
そして、限界まで自分を追い込むと……


「桐越先輩っ!!好きっっっっ♡♡」


ビクビクビクッ―――――――――――――



左右に広げた足の指が、きゅうっと丸まる。
肢体をピクピクと痙攣させながら、誠への思いを告げて絶頂した。


※※※



(あっ……今日、振られたんだっけ……)


余韻に浸りながらも、ぼんやりと誠のことを思い出す。

乱れた衣服のまま、ベッドに身体を投げ出す。しっとりと上気したままの肉体は熱を保っている。
ベッドはわずかに汗で濡れていた。

枕に頭を乗せ、仰向けで眠る真里の目に再び涙が浮かんだ。

真里はこれまでずっと誠のことを思い続けてきた。

快楽を貪っていた時は忘れていた切なさが、胸に戻ってくる。

自慰の時は、いつも誠のことを思いながら絶頂していたために、習慣として今日もしてしまったのである。

テトのことは大好きだ。萌えまくれる。
それでもやはり、誠は特別だったのだ。


(はぁ…………振った相手のことを思ってオナニーしちゃうなんて、
私はなんて情けないんだろう……)


同人誌に映るテトのイラスト。
中性的で女性のように美しく、優しい雰囲気。

テトは誠と見た目が瓜二つだった。

真里は高校に入ってすぐに誠に一目惚れをして、それから、〇〇教室のテトを好きになっていたため、真里のテト好きは、誠が元だったのである。

誠以上にテトが好きだなんて、嘘だ。
自分を誤魔化したに過ぎない。

それまでずっと奥手だった真里は、
遠くから誠のことを眺めていることしかできなかった。

誠のことになると、恥ずかしくなり、話をそらしてしまうため、誠が直美と付き合っているという情報も入ってこなかったのだ。

知りたくなかったから、知らなかった。

真里がテトを好きになったのも、
近づくことができない誠という存在への、代わりだったのかもしれない。


(告白なんてしなきゃ良かったな……)


弥生と萌の前では、おどけていた真里であったが、今日の出来事は、思いのほか大きな傷となっていた。

テトを見ると誠のことを思い出してしまう。
かといって、今更テト好きは止められない。

そして、テトが好きなように、
誠のことが好きな気持ちもすぐに止められるものではなかった。


(こういうのを忘れるには時間が必要だよね……)


そう思い、涙を拭き気持ちを切り変えると、真里は本を閉じ、スタンドの明かりを消して眠りについた。
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