2ntブログ

霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

愛と身体

文章:佐川レンツ 企画:ゆすあ



「さぁ、お前たちに選択肢をあげる」

そう言い放つ女は傲慢の匂いに満ちていた。
貧富の差が激しいこの国で、富豪と一般人は決して交わることがない。

富豪は金を稼ぎ、それで自分たちの人生を楽しんでいた。
一般人はそんな富豪のもとで働き、ひたすらおこぼれをもらうだけ。
富豪の気まぐれが自分たちに降りかからないように、息を潜めながら生活する。
そんな人生をこの国の大半が送っていたのだ。

「なぜ、オレたちが選ばれたんですか?」
「お前の妻が、私の好みの女だったからよ」

「それ以外、理由はないわ」と言い放つ富豪は物を見つめるように夫とその隣にいる妻を見つめた。
夫も妻も、まだ若い。
すらりとした身長と均整な体を持つ夫は、今から働き盛りを迎えるだろう顔つきをしていた。
妻もその一歩後ろに立ってはいたが、柔らかな肢体と腰近くまである長い髪が美しかった。

「私は綺麗な女が大好き。特に、お前の妻のような女が」

整った表情を動かすこともしない。
夫を見つめる富豪の表情は、まるで彫像のようだった。

「そんなっ、オレはどうなってもいいので、レイカは助けてください」
「それは選択肢にないわ」

富豪が提示したのは2つだけ。
それ以外の選択肢はない。
何より一般人である夫が富豪に意見を言うことができるわけもない。
そんなことを許している時点で、この女富豪は優しい方だと言えた。

「お前たちが選べるのは、私に遊ばれるか、わたしの目の前でこの男たちに遊ばれるか。それだけよ」

富豪が自分の後ろに控える男たちを顎で示した。
綺麗な身なりで、夫婦が見たこともないようなデザインの服を着ている富豪に対して、男たちは一般人である夫婦から見ても身なりに頓着していない。
おそらく、奴隷身分に近い存在なのだと見ただけでわかった。

「っ」
「……なんてことだ」

男たちは直立しているだけ。
その瞳だけが妻であるレイカの体を這い回っていた。
思わず身を引くレイカをかばうように夫が一歩前に出た。
美しい夫婦愛を見ながら、富豪は一つ鼻を鳴らした。

「まぁ、私は優しいから“私からは”お前の妻の大切なところは触らないわ。体を撫で回すだけよ」

富豪の言葉に、夫は訝しげに富豪を見つめる。
あまりにも都合の良すぎる言葉だった。
一般人に富豪が優しさを見せるときは裏がある。

「ペットにするのと同じね」

念を押すように、富豪は言葉を続ける。
自分を選ぶか、見るからに不潔な男たちに妻を犯させるか。
どちらかと選べと言外に伝えていた。

「本当ですか?」
「ええ、この男たちは、理性なんてほとんどないから、どうなるかわからないけど」

ニヤリと笑う富豪。
それは選択肢を提示しているように見えて、ほぼ一択の選択肢だった。

「……レイカ」

夫は後ろに立つ妻を振り返る。
レイカとは小さい頃から一緒に育ってきた。
仕事につき、ようやく結婚できたところだった。

「わたしは大丈夫。必ずあなたのもとに帰ってくるわ」

レイカは気丈に答えた。
自分が夫を愛している自信があった。
その上、体を撫で回されるくらいならば耐えることができる。
不潔な男たちに犯されるよりは、よほどマシなことに思えた。

「すまない。こんな苦労をさせることになるなんて」
「気にしないで。たまたま運が悪かったのよ」

ぎゅっとお互いを強く抱きしめ合う。
慣れた感覚が愛しかった。
体を離してからも、しばらく視線をつなげあっていた。
そのやり取りを富豪は、怖いほどの沈黙を保ってい見つめている。

「富豪さま、それでは妻のレイカはお預けします」
「賢い選択だわ。きちんと可愛がってあげる」

強く引き結ばれた唇から、断腸の思いで言葉が放たれる。
その一言を聞いた瞬間に今日一番の艶やかな笑みを富豪は浮かべた。

「レイカを傷つけるようなことだけは、しないでいただけると……」
「もちろん。好みの女を傷つけることなんてしないから、安心しなさい」

ぱちんと指が鳴らされ、契約書が用意される。
そこには「毎日、夫のもとに帰すこと」「富豪の意思では妻を犯さないこと」などの条件が描かれていた。
その契約書に署名をした瞬間に、この夫婦の運命は決まったのだ。



「さてレイカ。まずはお前の体をよく見せて」
「……はい」

夫が退出した部屋にレイカと富豪は二人きりになった。
後ろに控えていた男たちもいなくなり、遠くから聞こえる水の音だけが響いていた。
富豪の言葉にレイカは一度唇を噛んでから、一歩前に進み出た。

「気の強い女は好きよ。特にお前みたいな顔の女だと」

勝ち気な瞳はまっすぐ富豪を睨んでいる。
もちろん、反抗すればどうなるかもわかっているから表立ってはしない。
自分だけでなく夫も人質にとられているようなものだ。

富豪はレイカの態度を見て、赤い唇を緩やかな弧に曲げた。
気に入ったと表情で伝わる。
前触れもなく伸びてきた手に、レイカは少しだけ体を引く。

「綺麗な乳房。張りもあって、いい形ね」
「ありがとう、ございます」

服の上から撫で回されるように触られる。
夫以外の人間に触れられているかと思うと気持ち悪さが先立った。
そんなレイカのことなど気にせず、富豪はそっと壊れ物に触るような優しさを発揮する

「白い肌に、きゅっと引き締まったおへそ。見れば見るほど良い体だわ」
「ふ、富豪さまっ」

白い貫頭衣は一般的な服装だった。
その裾を持ち上げるように捲られ、無防備なお腹が露出する。
突然外気にさらされて、レイカは身をすくませた。
緊張をほぐすように富豪の手がレイカの白いお腹を這い回りくすぐる。

「私はカンナ。カンナ様と呼びなさい」
「……カンナ様、あまり、触られると」

予想外に優しすぎる手付きにレイカは困惑していた。
富豪のイメージは悪い。
富豪以外を人間だと思っていない振る舞いが多いためだ
それなのにこの富豪はレイカに名前を教え、呼べという。
触れる手は男のもととは違い柔らかい。
心地よさが湧いてきそうなのが怖かった。

「ふふっ、好きに触っていい約束じゃない」
「っ、うっ、そうでした」

びくりとレイカは体に力を入れる。
契約違反は打たれるだろうか。
頭をよぎった想像と、正反対の優しい声が降ってくる。

「今日は、これくらいにしてあげる。ご褒美ね」

するりとお腹を撫で回していた手が抜けていく。
唐突になくなった熱に少しだけ寂しさを感じる。
そしてそれを慌てて打ち消した。

「ありがとうございます」
「いいのよ、好きなだけ食べなさい」

カンナが指を鳴らすと、レイカが見たこともないような食事が運ばれる。
好きに食べていいという言葉に、戸惑いながら頷いた。
早く家に帰って夫の顔が見たいとレイカは思った。

「レイカ、肌が赤くなってきたわよ」

毎日、飽きもせずカンナはレイカの体を触った。
数週間もすると慣れてくるもので、毎日怯えながら通っていた日々はもう遠い。
それもカンナが、レイカに対しては本当に優しく、ひたすら気持ち良いことをしかしないからだった。

「カンナ様がずっと触ってらっしゃるからです!」

レイカは他人に触られているのに不快感をなくすため、契約だからと自分に言い聞かせる。
その時間もカンナとの触れ合いに慣れるに釣れ、徐々に少なくなってきていた。
今ではいたずらっ子のように手を滑らせてくるカンナを諌めることさえある。
それでいて怒る気になれない愛らしさがカンナにはあった。

「だって私は触っているだけよ?レイカが気持ちよくなってるのが原因じゃないかしら」

ニヤニヤと笑いながら、レイカの下腹を触る。
自分の秘部に近い場所をくすぐられる感覚に腹の奥が熱くなる。
ぐっと刺激するように押し込まれれば、声が漏れそうになった。
レイカは誤魔化すように頭を振り、カンナの手に手をそっと添える。

「そ、そんなことっ」

そうするとカンナはレイカの手を優しく包み込み笑うのだ。
不思議と邪気を感じない笑顔にレイカは気を許し始めていた。

「冗談よ。もう少し触らせてちょうだいね」
「……はい」

あの契約の通り、カンナは体を撫で回すだけだ。
長時間ねっとりとレイカの肌を撫でる。
もうカンナに触られていないところはないのではないかと思うほどだ。
それでいて器用なカンナは、レイカがくすぐったい場所や気持ち良い場所を逃さない。
的確にレイカが心地よい触り方をしてくる。
時たま、もっとこの時間が続けばいいのに、と思ってしまう自分がいることにレイカは蓋をした。



カンナと会うのは、昼ごはんを食べ終えてから夜ご飯の間まで。
レイカは毎日お昼に夫のご飯を作って一緒に食べてからカンナのもとへと行っていた。
昼ごはんを食べ終える頃には重い雰囲気が漂っていたが、レイカも夫もこの頃はそういう雰囲気を出さないようにしていた。
それはレイカが契約通り、きっちりとレイカを返しているからだ。
お昼の準備を終えたレイカは目の前に並ぶ食事を見ながら少しだけぼんやりとしていた。

「どうした、レイカ。何かひどいことでもされたか?」

その様子をご飯を食べながら見守っていた夫が心配そうに声を掛ける。
結婚してからも優しい夫。特に自分がカンナに目をつけられてから、その優しさは深くなっていた。
レイカがカンナから頻繁に褒美をもらうおかげで生活もだいぶ上向いてきている。
夫にとってはアルバイトに近いものになっているのではないかとレイカは不安だった。

「いえ、カンナ様は契約通りわたしの体を触るだけよ。痛いことも嫌なこともされていないわ」

――それどころか、この頃は自分の方からもっと触って欲しいと言ってしまいそうになる。
そんなことを夫に言うことができるわけもない。
レイカがカンナに触られる上でつけられた条件の一つに「夫はカンナに見えるように跡をつけてはならない」というのがある。
カンナはレイカを独占した気分を味わうために、夫の痕跡を徹底的に消そうとしていたのだ。
もちろん、それを破れば二人とも刑罰は免れない。結果、夫がレイカに触るのは本当にあっさりとしたものになっていた。
カンナはねっとりとしつこいくらいに触ってくれる。けれども最後までは触ってくれない。
夫は最後まで触ってくれるものの、契約のこともありじっくりとはしてくれない。
簡単に言ってしまえば、レイカは欲求不満に近かった。

「何かあったら、教えてくれよ」
「わかっているわ」

そっと手と手を触れ合わせる。
伝わる皮膚の硬さに、カンナとの違いをありありと感じてしまった。
女性の富豪らしい柔らかさを持つカンナの指。
それが自分の体を這い回り、時にくすぐったりする心地よさ。
眼の前の夫からは絶対にされない愛撫の仕方にレイカはうっとりとしてしまうのだ。

「レイカ、あの男のことでも考えているの?」
「そんなことは、ありません」
「でも悲しそうな顔をしていたわよ」

今日もカンナの寝床で素肌を合わせる。
触るだけなのに、なぜか二人共裸だった。
ふと疑問に思い聞いてみたら「レイカを全身で感じたいから」と言われてしまい、レイカは赤面したものだ。

カンナは最初の様子からは考えられないくらい優しい富豪だった。
レイカを愛で、まるで大切なものに触るように触れる。
それだけでまるごと愛されているような安心感を覚えるようになってしまっていた。
――夫にも感じたことがない。
桁違いの包容力と安心感。
このままカンナのもとにいてしまいたいと思ってしまい、夫に申し訳ないと気持ちが沈む。
この頃のレイカは、そんなことを繰り返していた。

「まぁ、今からすべてを忘れさせてあげるから、いいのだけれど」
「カンナ様」
「そんな甘えた声を出してるとどうなってもしらないわよ?」

すぐにカンナの目に肉欲が燃え盛る。
こんなにも自分が求められていることが嬉しくないわけがない。
何よりレイカはカンナの瞳が怖かった。
普段は爛々と輝いているのに、レイカが変えるときだけ寂しそうな色に変わる。
それだけで、側にいてあげたくなってしまう自分をレイカはいつも振り切って夫のもとに帰る。
そのうち帰りたくなくなるのではないかと不安だった。



「ねぇ、そんなに太ももをこすり合わせてどうしたの?」
「いえ、いいえ、なんでもないのっ」

そんな生活が続いて、もう半年近くが経っただろうか。
毎日繰り替えされる愛撫にレイカの感覚はすっかりおかしくなっていた。
この頃は夫といてもカンナと会う時間のことを考えてしまう。
というのも――夫の触り方が少しも気持ちよくないのだ。
カンナの方法に慣らされてしまったレイカは、もう夫に触られても何も感じない。
逆にカンナに触られていると、自分でも驚くほど濡れてしまうのに気づいていた。

「本当かしら、ちょっと見せて」
「カンナ様っ、ダメっ」

無意識に動いていたらしい太ももをカンナが割り開く。
元々契約を交わしている身。レイカは言葉で拒否しつつも、体に力を入れることができなかった。
レイカに見えないようにほくそ笑むカンナは、ずっとこうなるまでレイカの体を丹念に愛してきたのだ。

「あら、ここも真っ赤になってるのね」
「ひゃっ、あっ、カンナ様の手が気持ちいからぁ」

熱のこもった場所が外気に触れる。
それだけで女の匂いがレイカの鼻を刺激した。
カンナの手は触れず、ただ見つめているだけ。
それなのに、腰がピクピクと反応してしまう。

「私は契約だから、自分からここには触れないわ。レイカが選んで」
「っあ、ひどい、人」

ふーっと息を吹きかけながらカンナは悪魔の言葉を囁いた。
契約上、カンナは自分の意志でレイカの大切な場所に触れることはできない。
レイカが自分で「触って欲しい」と言う必要があった。

「わたしは――」

カンナはレイカの夫と半年と少しぶりに再会した。
位置も以前と変わらない。
レイカがカンナの側にいる以外は。
レイカは夫のことを見ることもできず、ただ顔を伏せていた。
夫はまだ自体が把握できず右往左往している。

「レイカはお前と別れたいそうよ」
「そんな、レイカ、本当かっ?」

レイカに見せていた笑顔は一欠片も見せず、カンナは夫に言い放った。
レイカさえ手に入れば、この夫に用はない。
あとは優しく捨ててやるだけだ。

「ごめんなさい……でも、わたしはカンナ様を好きになってしまったの」

カンナの側に寄り添いながら、レイカが言葉を紡いだ。
隣に立つ顔を見上げれば微笑みを落とされる。
それだけで沸き立つ自分をレイカは隠せなかった。

「レイカ」
「しつこい男ね、こういうことよ」

足元にすがろうとする男からレイカを引き寄せつつ、顔を寄せる。
レイカは何の抵抗もなくカンナの唇を受け入れた。
むしろ夫から見える横顔はうっとりとしているようにさえ見える。

「はぁっ、カンナ様っ」
「レイカはいい子ね」

二人の間を結ぶ銀糸まで見える距離。
その近さで、想い合う二人の姿を見せられて、夫は黙り込むしかできなかった。
自分の手から大切なものが滑り落ちていたのを理解してしまったのだ。

「お前には十分な謝礼と食材を渡すわ。後は好きに市井で生きなさい」

その言葉とともに夫は外へと連れ出される。
部屋に残ったのは、レイカとカンナの二人のみ。
そこはもう二人きりの世界だった。

[ 2018/06/05 19:29 ] 短編 | TB(0) | CM(0)
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック:
この記事のトラックバック URL