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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

part.2 【 初めての催眠 】


次の日、
恭子と直美は同じ神妙な面持ちをして恭子の家のパソコン画面を注視していた。

きっかけは、直美が見た昨日のテレビ番組の話題だった。


「それでね、本当にその人、虫を食べちゃったの!」


直美は興奮気味に番組の内容を話していた。
その番組は、大の虫嫌いな女性タレントが海外に行き、
「虫がおいしそうに見えてくる」という旨の催眠術をかけられたのち、
本当に虫をおいしそうに食べてしまうという内容だった。

直美の興奮が恭子にも伝わったのか、
二人は早々に午後のデートで着ていく服のコーディネートを済ませ、話題を催眠術に変えていた。

好奇心旺盛な年頃の二人にとって、催眠術はとても興味を惹かれるものだったのだ。

恭子がどこからかノートパソコンを取り出して、
インターネットで催眠術について検索し、今に至る。


「ねぇこれ……」

「うん」

「やってみる?」

「……やろっか!」


二人は完全に催眠術の不思議さにハマっていった。
まさか、これがきっかけで何かが変わるなど、どちらも予想もせずに……


「最初はグー! じゃんけんぽい!」


なぜかハイテンションな直美につられ、
恭子も腕を大きく動かしてじゃんけんをする。


「え〜! あたしがかけられる方なのー?」


負けた直美が恭子に催眠術をかけられることになった。恭子は内心ワクワクしながら、催眠術のページをスクロールしている。


「ねえーかけるならはやくかけてよー」


焦れた直美が恭子を、駄々をこねる子供のように急かす。


「もー、ちょっとくらい待ってよ、今探してるから……あ、あった」


恭子が催眠術のセリフを見つけると、
とたんに直美は餌を見せられた子犬のように目を輝かせ、
恭子の前に正座して行儀よく座った。

恭子もその前にパソコンを持って向き直ると、
おもむろに初めての催眠術をかけ始めた。


「えーっと、まず、横になってください」

「えっ横になるの?」


直美はいきなり予想していなかったことを言われ戸惑いを隠せなかったが、
キョロキョロと辺りを見回すと


「うーん、ベッド、かりるね」


と言って、恭子がいつも使っているベッドに横になった。
恭子はうなずくと、次の指示をした。


「じゃあ、目を閉じて、全身の力を抜いてください」


直美は少しニヤニヤとしながらふぅーっと息を吐き、
ベッドの上で少しだけ体勢を整え力を抜いた。


「そう、そのままリラックスして、ゆっくり、ゆっくり呼吸してください」


恭子の読み方がうまかったのか、それとも直美の素直な性格が効いたのか、
直美はだんだんと表情からも力を抜いていく。


「あなたは今、心地よい場所にいて、階段を降りています」


恭子はいつかテレビで見た催眠術師の声音を思い出しながら、
ゆっくりとそれらしく喋ってみた。


「一段…二段…だんだんあなたは心の中に降りていきます」


直美のゆっくりとした呼吸が変わらないのを見た恭子は、催眠術を続ける。


「ではゆっくりと体を起こしてみてください」


恭子がそう言うと、直美は目を閉じたままゆっくり上半身を起こした。

あまりにも言葉の通りに動く直美がおかしくて、
ふざけて催眠術にかかった振りをしてるんだなと考えた恭子は、
ニヤニヤとしながら立ち上がり、冷蔵庫から冷えたトマトジュースを持ってきた。

何を隠そう、直美はトマトが苦手なのだ。
それを知っていた恭子は、直美がいつまで催眠術にかかったふりをするかな、
とトマトジュースをベッドでぼーっと座っている直美の口元に持って行った。


「これはとってもおいしいトマトジュースです。あなたはトマトが大好きで、
このジュースもおいしくて最後まで飲んでしまいます」


恭子が笑いをこらえながら言い終えると、
直美は手をゆっくり動かして缶を握り飲み始めた。

恭子は直美がギブアップ宣言をするのを今か今かと待っていたが、
なかなか缶から口を離さない。

それどころか、
直美はごくごくと喉を鳴らしながらトマトジュースを半分ほど飲んでしまった。

直美が苦手なトマトジュースを嫌がりもせずに飲んだことに驚いた恭子は、
慌ててパソコンの画面を見た。
催眠術のやり方は「体を起こさせてから暗示をかける」という記述で終わっている。


「もしかして…直美、本当にかかったの?」


直美は返事をせず、缶を握ったままだ。


(す、すごい、これ、本当にかかっちゃったんだ)


恭子は現実に起こっていることに驚き、そしてハッと思い出す。

…催眠の解き方を知らない。

今の今まで遊び半分で絶対に成功しないと思いながらやっていたので、
解き方を調べておかなかったのだ。

焦った恭子は急いでパソコンに向き直り、「催眠術 解き方」で検索をかけた。
五分以上パソコンをいじった末にわかったことは、
催眠術をかけるときに用いた方法を、逆の順序で行うというものだった。

急いでベッドの近くまで行くと、


「ゆっくりと、横になってください」と
焦りからか少し震えた声で直美に指示をする。

「あなたは今、心の中にいますね?」


友達が目の前で異常な状態になっている。
恭子は不安を必死に隠しながら暗示を続けた。


「では目の前の階段を上って外の世界に帰りましょう。一段、二段…」


恭子が十段まで数え終わると、直美がゆっくりと目を開けた。
それを見た恭子は大きく安堵のため息をついた。


「まさか…こんなにかかりやすいとは」

「へ? え?」


直美は状況がわからないのか、
体を勢い良く起こすと恭子とパソコンと交互に見て目をパチパチさせている。


「え? 覚えてないの?」


恭子も状況が理解できず、直美を見て疑問を口にした。


「え? あたし、なんかしたの? どうなった?」

「本当に? その缶見てみなよ」

「え? 缶?」


恭子が直美の手元を指差し、つられて直美が自分の手元を見る。


「トマトジュース…?」

「それ、自分で飲んだんだよ」


直美は一瞬よくわからないといった表情を見せてから、一気に目をまるくした。


「え? ……えええ!?」


直美は一拍遅れて状況を理解したのか、ベッドの上で大げさに反応した。


「だってトマト大っ嫌いなんだよ!?」


直美は恭子が最初からわかりきっている事実を口にすると、
顔の高さまで缶を持ち上げた。


「あれ…? いい匂いする…」

「え?」

「もしかしたら、飲めるかも、これ」


そう言うと直美は目をぎゅっと瞑って一気に缶の残りを飲み干してしまった。


「…飲めた」


二人とも訳が分からずにしばらく頭の上で、
はてなマークを飛ばしていたが、恭子が思いついたように口を開いた。


「もしかして…トマトがおいしいって暗示かけたまま解いちゃったから?」


二人は驚いて顔を見合わせた後、直美がいきなりベッドで飛び跳ね始めた。


「え!? 催眠術すごくない? トマト克服しちゃったよ!」

「ちょっ埃が立つからやめてよ」


恭子は口では直美を叱りながらも、催眠術の凄さに驚きを隠せなかった。
二人が催眠術の虜になるのは当然のことだった。


「ねえ、またやろうよこれ!」

「そうね、やろうか」


そう話すと時計を見た直美は急いで恭子に選んでもらった服に着替え始めた。
お昼から誠とデートなのだ。
今日は恭子に教えてもらったパンケーキ屋さんに誠を連れていく予定だった。

目の前で着替え始める直美を、
恭子はなぜか少し気になってちらちらと視線を向けてしまう。

それに気づいた直美は


「もーキョウちゃんのエッチ!」


と笑うと大げさに胸の辺りを手で隠した。

恭子はそんな直美がおかしくて、笑いながらパソコンをスリープモードにした。
直美が帰ったら、また調べてみよう。恭子は軽い気持ちでパソコンを閉じた。


「じゃ、行くかな! 服ありがとうね、汚さないように気をつける!」

「電車で足開いて座っちゃダメだからね。直美はいつもショーパンなんだから」


少し短めの恭子のスカートを借りた直美は、軽く頷いて玄関を出た。


「じゃ、行ってきます!」


直美のスカートがふわふわと風に揺られるのを見て、
恭子は気持ちが揺れるのを感じたが、
その気持ちが直美に向けられた特別な思いだということには、
まだ気づいていなかった。
[ 2017/08/16 18:10 ] 一章【黒百合】 | TB(-) | CM(0)
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