季節は夏。
来る夏休みを期待してか、直美はうきうきとしながら恭子の家に向かっていた。
その姿はまるで恋人とのデートに出かけるかのように軽やかだ。
あれからというもの、誠とのデートの約束は一度も交わされず、
直美は登校時には誠になるべく出くわさないよう、時間をずらすようになっていた。
また自然と誠の話をすることも少なくなり、
本人もなるべく考えないようにしているようであった。
恭子は、気絶時の催眠が思った以上の成果を上げたことに満足していた。
しかしまだ、課題は残っていた。誠以外の男子生徒のことだ。
……ある教室での出来事である。
※※※
「ちょっと椅子を借りただろ。わざわざ除菌スプレー使うなんて気分悪いぜ」
昼休み、直美が恭子と外でお弁当を食べて教室に戻ると、男子生徒が直美の机の周りで談笑していた。
もちろん男子に悪気はないのだが、
自分の机が男子に使われていることに我慢ならなかった直美は、
購買部で除菌スプレーを買ってきて、自分の椅子と机に噴きかけたのだ。
「どこ触ったかわからない手で人の机をあちこち触られたら、こっちだけ気分悪いわよ!」
「なんだと! 人を雑菌みたいに扱いやがって!」
以前の直美だったら、
男子に机を使われたことなど、気にも留めなかっただろう。
だが、催眠によって男性に強い嫌悪感を与えられている今の直美にとって、それは耐え難いことだった。
直美は男性への嫌悪感を態度や表情に出すことが多くなり、
初めは大目に見ていた男子達も、度重なる直美の態度に業を煮やし、
表だって直美のことを悪く言う者も出てきたのだ。
そのことについて、恭子はとても気にしていた。
(私の催眠術のせいだわ……このままじゃ直美が孤立してしまう……)
※※※
恭子はいつものようにベッドに寄りかかり、直美を待ちながら考えていた。
直美を男嫌いにさせたのは間違いではないが、それでも限度というものがあった。
直美はこれから大学に進学し、就職し、自分の力で生活していかなければならない。
今のまま男性に対する感情を変えなければ、
きっとどこかでトラブルを起こすことになるだろう。
それは直美にとって不幸な結果をもたらすことになってしまう。
本人にとって、生き辛い世の中になってしまうのは明白だった。
誠に嫌悪感を抱かせることにはもう成功した。
男性全体に嫌悪感を持つように催眠をかけたのも、元々は誠を嫌いにさせることができなかったからだ。
もうこれ以上、男性に嫌悪感を抱かせなくても、意識させなくするだけで十分なのではないか?
恭子はそこまで考えると、これから来る直美のために紅茶を入れに行った。
※※※
「あなたはこれまでと違って、男性を見ても平気な状態になります」
恭子は直美の額を撫でながら言った。
撫でられながらも直美はどこか訝しげな表情をしている。
それもそのはず。
恭子の言っていることは、今までと全く反対のことであり、
男性に嫌悪感を植え付けられている直美とっては、素直に受け取りにくい暗示だったのだ。
「よく聞いて、直美。
嫌悪感を持つってことは、相手のことを意識しているってことなの。
本当にどうでも良い存在なんてなんとも思わないでしょ?
男の人のことなんて一切意識したらダメ。
あなたは女の人のことだけ意識したらいいの」
それを聞いて直美は、だいぶ納得したようだった。
「これからは男性に対して何も感じなくなる、つまり一切興味がなくなるわ。
わざと触ってきたり、言い寄ってきたりしたら態度に表しても良いけど、
そういったこと以外では、無難に接してあげましょうね」
恭子はそう暗示をかけると直美の体を起こさせ、恒例となっている勉強を始めた。
※※※
○×大学の過去の問題集を、恭子はなるべく分かり易く要点をまとめて解説した。
それはまるで塾の講師が生徒に教えるかのように本格的だった。
実際、恭子は既に○×大学に合格できるほどの学力を持ち合わせていた。
頑張れば、誠と同じ○○大学に通うことだってできるほどである。
それでも敢えてランクを下げたのは、良い大学に通うよりも、直美と同じ大学に通いたかったからだ。
それに元々ファッションデザイナーを目指している恭子にとって、大学などどこでも良かった。
美大に入ることが、恭子にとって最良の道ではあったのだが、
経歴や技術を上げる時間を作るよりも、直美と過ごせる時間を増やすことを優先したのだ。
恭子にとって、直美は何よりも大事だったのである。
※※※
勉強が終わると、恭子はパソコンを開き、ベッドの前にあるテーブルに置いた。
そこで流すのはもちろん、直美の催眠時にいつも見ている女同士のいやらしい動画だった。
画面の中では全裸の女性が抱き合い、キスをしている。
恭子はベッドに上がり、直美の隣に座ると直美の頭を優しく撫でた。
すでに動画に夢中になっていた直美は、頭を触られ少しビクッとなると恭子の方を振り返った。
恭子は直美の身体に腕を回し、軽く抱き寄せる。
直美の心臓はこれから起こることを期待してか、徐々に鼓動が速くなっていった。
恭子は直美の頭をもう一度撫でると、ゆっくりとキスをする。
最初はついばむようなキスにとどめていたが、
直美の力が抜けてくると、舌先で唇をノックしてみた。
何回かそうしながら厭らしく舌を動かしていると、直美は耐えきれなくなったのか、唇を少し開き熱いため息を吐いた。
恭子はその開いた唇に舌を差し込むと、直美の舌と絡ませる。
直美は続けるうちにとろんとした目になり恭子の動きを受け入れていった。
動画の方では、片方の女性がもう一方の女性の胸を音を立てて舐めている。
恭子が口を離すと、直美はどこか名残惜しそうな目で見つめていた。
「ほら、見て」
恭子が動画の方に顔を向け言うと、
直美もゆっくりとした動きでその目線を追った。
『あぁ…ふ、ぅん…っ』
動画では胸を舐められている女性が喘いでいた。
「ほら…とっても気持ち良さそう、あんなことしたら、どうなっちゃうだろうね?」
恭子はそう言うと、
服の上から直美の乳首のある辺りを指の腹で軽くさすった。
「ぁ……、はぁ……」
直美は動画の方を見ながら、恭子の指の動きを受け入れ熱い吐息をこぼした。
「してみたくなったでしょ? ねぇ、動画のマネ……してみない?」
動画の女性たちは、全裸で抱きしめ合い、お互いの身体を愛撫しキスをしていた。
直美は切なそうな表情を浮かべ恭子を見ると、
まるで望んでいることを言ってもらえたかのように、嬉しそうに頷いた。
「いきなり触ったら刺激が強いから、
最初は軽くね。おいで、直美。私に抱きついて」
恭子がそう言うと、
直美は両手を恭子の背中に回し、そのまま抱きつきキスをした。
恭子はしばらく直美に身を任せてみることにした。
直美は最初、ついばむような唇の動きを繰り返していたが、
我慢ができなくなったのか、自分から恭子の唇に割り舌を入れてきた。
そして動画の女性がするように、
恭子の背中・腰・お尻の辺りを優しく愛撫し始める。
恭子は直美の責めを受けて、徐々に下半身が熱くなるのを感じていた。
そしてその愛撫に応じるように、直美の頭と背中を優しく撫でていった。
動画では女同士が脚を絡ませ合い性器を擦り合わせている。
ピチャピチャという唇の音に加え、部屋には動画からの喘ぎ声が響く。
「んっ……ちゅっ……ほら直美、動画の女の子、あんなことをしてるよ?」
直美は横目で女同士の痴態をマジマジと見つめている。
今まで幾度となく女同士の動画を見てきていたが、
女同士の股間を擦りつけ合うシーンは、最後に絶頂で終わることが多く、
直美の頭に同じようなイメージを連想させていた。
「女の子同士、下のお口でキスしてるわよ……?
直美もしてみたくない……? 私とアソコ同士でキス……」
恭子がそう言うと、直美の目は潤み、より上気した目つきで恭子を見つめ始めた。
直美は股間が疼いてしまったのか、しきりに太もも同士を擦り合わせている。
微かだが、直美の股間からクチュっと滑り気のある音が聞こえる。
まるで直美のアソコが恭子のアソコにキスをしたくて、反応してしまっているかのようだ。
「ほら、直美……足を開いてみて……」
「……ぁ……はぁ……はぁ……」
直美は恭子にキスをしながら、ゆっくりと足を開き始める。
恭子と貝合わせすることを期待しているのか、興奮で身体が僅かに震えている。
恭子は直美の太ももの内側を、指先で優しくタッチをし、
直線的ではなく、小さな円を描くようにゆっくりと焦らしながら愛撫していった。
「んぅ……んん……ぁっ……はぁ……」
恭子から与えられる刺激で、キスが途絶えがちになる直美。
直美のショーツからは、
蜜壺から溢れ出た愛液が滴り、恭子の部屋の床を汚し始めていた。
「あらあらこんなに濡らしちゃって……そんなに私の指がいいの?
まだアソコでキスはできないけど、いつか一緒にしましょうね。
今日はこの指で我慢してね……」
そう言うと、直美の濡れているショーツに触れ、
ちょうどクリトリスがある辺りを、
指先でトントントンと一定のリズムで優しくタップし始めた。
恭子も直美と自分のを擦りつけたい気持ちはあったが、今の時点ではまだ早いという感覚があった。
強い刺激で覚醒させないよう、まずは女同士の肌の触れ合いに慣れさせ、
徐々にできることを増やしていくことにしたのだ。
「ふぁ……ぁん……ぁぁんっ……」
「ほら、私のが自分のに当たってると思って……」
「んっ……やぁんっ、あっ! はぁっ!」
それほど強い刺激ではないはずなのだが、
直前で貝合わせの動画を見せられた直美は、
擦り合う二人の女優を、自分と恭子に置き換えイメージしてしまい、刺激以上の快感を受けてしまっていた。
「気持ちいいね…?」
恭子が尋ねると、直美はとろけそうな表情をしながら小さな声で
「気持ち、いい…」
と返した。
恭子はそれを聞くと耐えきれなくなり、直美の唇を食べるようにキスをした。
そして指先のリズムを少しずつ早くしていき……
「んっ! んんっ、んんっ! んっ! んっんっ!」
恭子の指の動きに合わせて、直美の腰が動く。
その姿は、まるで恭子が直美という楽器を奏でているかのようだった。
優しく支え陰核をタップすると、
重ね合った唇の間から熱い吐息とぐぐもった声が漏れ出る。
その演奏はしばらく続き、そしてついに……
「んんんっ、んっっ、んんーーーっ、んぅんふぅううんっ!!!!」
直美は恭子の舌と指の刺激のみでイってしまった。
あまりの快感と幸福感により、直美は放心し、口からは涎が垂れ始めていた。
恭子はそれをペロリと舐め、
それ以上口から漏れないよう、直美の口の中の唾を軽く吸って飲み込むと、
「私の指でイってくれたんだね……嬉しい……大好きよ。直美」と言い、直美の目を見つめた。
「あたしも……キョウ……ちゃん……だい……すき……」
とても小さな声だったが、直美の口からそうはっきりと返事が聞こえた。
恭子はあまりに嬉しくて、直美を抱きしめるとキスを再開した……
※※※
以前、催眠中に気絶した直美が言葉を発してからというもの、
直美は、徐々に自分の意思で話すことができるようになってきていた。
言葉を発する条件はよくわからなかったが、
恭子は催眠中であっても、いつか直美と話ができるようになるような気がしていた。