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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.128 【 時を遡りし者 】

冷たい風がカーテンの隙間から、
びゅうびゅうと吹き込んでいる。

直美は寝室に入ると、自分を見つめる一人の男を見た。
マンションの管理人、牛久沼達郎だ。


(この人、いつも来る人だ……!)


牛久沼は機器に不具合が起きた際、
いつも直しに来てくれる作業員だった。

まさかこの人物が、恭子を狙っていた犯人だったなんて……
意外な男の登場に直美は呆気にとられていた。

しかし、倒れている恭子を見て、気を取り直す。

いくら世話になっていたからといって、
それとこれとは別問題だ。

彼女はまなじりを決して、牛久沼を睨みつけた。


(キョウちゃんをこんな目に遭わせて許せないっ!)


一方の牛久沼は直美の乱入に苛ついていた。

性器を嚙み千切られ、
逃げてもすぐに捕まってしまう状況。

パトカーのサイレンの音も聞こえてきており、
まさに絶体絶命。

せめて恭子を犯すことができていれば、
悔いのない人生を送れるはずだったのに……。

牛久沼は、未だに童貞のままである。

性器を失ってしまった以上、
二度と女に挿れることもできないだろう。


(女は全員クソだ……許せねぇ……許せねぇ……)


犯すことができなくなってしまった以上、
牛久沼ができるのは復讐だけだ。

恭子はまだ息をしている。
ここで直美を殺せば、彼女はどんな反応をするだろうか?

自殺の動機が直美との離縁であれば、相当なショックを受けるに違いない。牛久沼は恭子への復讐として、直美を殺すことを決めた。


(見てやがれ……
俺をこんな目に遭わせたことを後悔させてやる……)


まずは直美の鼻っ柱をへし折り、気勢を削いでやる。

牛久沼は、恭子を一瞥すると、
直美の顔面目がけて、拳を突き出した。


「くっ……!」


牛久沼の拳は空を切った。

直美が、突き出された拳に、
右手の甲を当て受け流したのだ。

武道家のような正確な身のこなし。
とても素人とは思えない動きであった。

驚いた牛久沼は、直美を見た。

決して怯えている目ではない。
刺すような鋭い眼光を放っている。

嫌な予感がして、慌てて二発目、三発目と繰り出したが、
同じように受け流されてしまった。


(なんだこいつは……!?)


戦い慣れている感触が直美から伝わってくる。

ただのメスガキだと見ていた牛久沼は、
思いがけない強敵の登場に焦りを感じていた。

それもそのはず。
直美はこれまでも数々の暴漢を打ちのめしてきている。

自堕落的な生活を送ってきた牛久沼とでは、
天と地ほどの力量の差があった。

なおも執拗に危害を加えようとする牛久沼であったが、
何一つ、有効な成果を得られなかった。

直美はそうして牛久沼の身体の動きを分析し終えると、
次の拳が突き出されるタイミングに合わせて、
彼の足めがけて蹴りをいれた。

重心を計算に入れた直美の蹴りに、
牛久沼は身体のバランスを大きく崩してしまう。


「ギャアッ!!」


ベランダ側の床に倒れた牛久沼は、悲痛な叫びを上げた。

見ると、彼の手足には、ガラスの破片が突き刺さっている。
直美が先ほど割った窓ガラスの破片だ。


「ちくしょう……ちくしょおお!!!」


頭に血が昇った牛久沼は、落ちてるガラス片を拾うと、それを直美めがけて投げつけた。

しかし、それが直美に刺さることはない。
彼女はその常人離れした動体視力で、飛んでくる凶器を完全に見切っていた。外れたガラス片は、壁に当たり粉々になってしまった。


「でぇぇいっ!!」


お返しとばかりに、牛久沼の顎に蹴りをいれる。
スナップを効かせた強力な蹴りだ。
彼女の靴のつま先が顎に当たり、牛久沼の身体は軽く跳ねあがった。


「ぐああっ!!」


落下した衝撃で、無数のガラス片がさらに突き刺さる。
下半身を晒していたため、
お尻や太ももにも突き刺さってしまっていた。

おまけに蹴られた衝撃で、歯が二三本折れてしまう。
牛久沼は折れた歯に気付き、怒りに震えた。


「くっそぉぉ!!殺してやる!!」


血だらけになりながらも、牛久沼は再び立ち上がる。
彼の手には長さ10cmから15cmほどのガラスの破片が三枚、握られていた。

牛久沼はそこから二枚を直美に投げつける。

もちろん当たるはずもない。

しかし、直美はそこで気が付いた。
彼の狙いが自分ではなく、恭子であったことに。

直美がガラス片を避けたことで、
牛久沼と恭子の直線上がガラ空きとなっていた。


(こうなればヤケだ……恭子だけでも殺してやる。
覚悟しろよ、あの世で思い切り犯しまくってやるからな……)


牛久沼は、痛みを堪えて恭子の元へ駆け出した。
彼の手には最後のガラス片を握られている。

彼はベッドに飛び乗ると、
それを恭子の首めがけて突き刺そうとした。


「させないっ!!」


直美は思い切り足を振ると、靴をすっぽ抜いた。
脱げた靴が宙を走り、牛久沼の持つガラス片にぶつかった。

手元でガラスが割れ、破片が牛久沼の目に入る。


「がっ!?」


思わず目元に手を添える。直美はその隙に距離を詰めると、牛久沼の顔に回し蹴りを放った。


「うごっ……!!」


ベッドから振り落とされる牛久沼。
ひっくり返った机の上に飛ばされ、彼はのたうち回った。

直美は追撃を決め、ベッドから降りると、
牛久沼のお腹目掛けて正拳突きをお見舞いした。


「ぐぇえっ!?」


ボスッという鈍い音と共に、吐くような声を出す。
直美の拳がみぞおちにめり込んでいる。

メキメキと沈む拳に、牛久沼は目ん玉をひん剥かれた状態となった。さらに臓器に衝撃が走り、内容物が逆流して嘔吐した。


「うぉえぇぇぇ……」


泡立った胃酸が、牛久沼の口から溢れだす。

あまりにも強烈な一撃をくらってしまい、
牛久沼は呼吸をすることすらままならなくなり、
お腹を抱えたまま動かなくなってしまった。

だがそれでも直美の気は治まらない。
彼女は次に、牛久沼の股間に狙いを定めた。

欠損したこの部分を蹴られたら、ひとたまりもないだろう。


「許せない……あんただけは絶対に許さないんだからっ!!」


直美が蹴ろうとしたその時。


「直美……」


背中から、恭子の声がした。

振り返くと、瞑(つむ)った瞼(まぶた)の隙間に、
たしかにこちらを見据える目があった。


(キョウちゃん、生きてるの!?)


直美は慌てて恭子に寄り添い、声をかけた。


「キョウちゃんっ!?」

「なお……み……ダメ……」

「えっ!?」

「これ以上……やったら……あいつ……死んじゃう……」

「でも、あいつがキョウちゃんを!」

「人殺しに……ならないで……お……願い……」


恭子は死にかけながらも、
直美が牛久沼にトドメを刺すのを阻止しようとしていた。

恭子の願いは、直美が幸せになること。

トドメを刺せば、殺人犯となってしまう。
こんなクズのために、直美の人生を棒に振らせたくなかった。


「キョウちゃん……わかった……もうしないよ……」


直美は恭子の気持ちを汲んで涙した。


「直美……聞いて……はぁ……はぁ」

「もう喋らないで……死んじゃうよ……」


恭子は苦しそうに息をしている。直美は、いつその意識が途絶えてしまわないか心配でたまらなかった。


ドンドン! ドンドンドンドン!

「甘髪さん!! 中にいらっしゃいますかっ!? 甘髪さんっ!!」


玄関から扉を叩く音がした。
近所の人が通報して、駆け付けた警察官だ。


「はぁ……はぁ……」


恭子は呼吸を整えると、再び話し始めた。


「ずっと貴女に……謝りたかった……
催眠のこと……本当に……ごめんなさい……」


涙を流し謝罪する。
恭子は長年、言いたくても言えなかった言葉を、
ようやく口にすることができた。

直美も感極まって涙する。


「良いよ……もうわかったから……喋らないで……」


ずずずっと鼻水を吸い込む。
直美はぎゅっと恭子を抱きしめた。

直美の抱擁に、恭子の表情が緩(ゆる)む。


「ありがと……直美…………はっ……! あぶないっ!!」


何かに気付き、恭子は慌てて直美を突き飛ばした。

〖グサッ!!〗「あぁぁぁっ!!」

直後、恭子が叫び声をあげる。直美が振り返ると、ボロボロになった牛久沼が、落ちていたハサミを恭子の胸に突き刺していた。

警察が来たことで追い詰められた牛久沼は、
呼吸が整ってきたのを良いことに、再び襲いかかって来ていたのだ。

本来は直美の背中に突き刺すつもりだったが、
恭子が直美を突き飛ばしてしまったため、狙いが逸れてしまったといえる。

だが、結果オーライだ。
これで恭子は死ぬ。牛久沼は高笑いした。


「ヒャーーーハッハッハッハ!!!
やった! ついにやったぞっ!」


その声を聞き、抑えられていた直美の怒りに火が灯る。


「このぉおおおおおおおお!!!!」


直美は右手でチョキを作ると、牛久沼の両目に突き刺した。


「がぁっ!!」


ハサミから手を放し、両目を抑える牛久沼。
直美はそのまま彼の上着を掴み、部屋の隅に放り投げた。

ガタンッ!!ゴトンゴトンッ!

付近にある生活用品が倒れ、牛久沼の身体に降りかかる。
彼は投げられた衝撃で体力を使い果たし、動かなくなってしまった。


「入れっ! 奥の部屋だ!!」


そのタイミングで、警官が突入してくる。
寝室のドアが開かれ、複数の警察官が入ってきた。


「なんだこれは……」


中の惨状を目の当たりにして、
警察はすぐに病院に救急車を要請した。

そして直美に声をかける。


「キミがやったのか……?」


この中でまともに動けるのは直美だけだ。
他の二人は、瀕死の状態と言っても良い。

そんな警察の問いに、代わりに恭子が弁明する。


「違い……ます……」


彼女は胸を抑えながらも、必死に訴えかけていた。


「キョウちゃん、ダメ……しゃべらないで……」


ここで無理をさせたら、恭子が死んでしまう。
直美は慌てて恭子を抱き締めた。


「聞いて……ください……」


恭子は、そんな直美を無視して警官に話し続けた。

これだけはなんとしても伝えなくては。
直美のこれからの人生に関わることだ。

警察は迷ったが、恭子の証言に耳を貸すことにした。


「私が……全部やりました……はぁはぁ……この子は……後から……うぅ、く……来た、だけです……」

「やったって、何をですか?」

「あの男を……殺したのは……私です……」

「まだ死んでませんが……わかりました」


警官は恭子の意向を理解したようだった。

現場を見る限り、この股間を怪我している男が加害者で、全裸の女性が被害者だろう。

彼女の顔が血塗れになっていることから、この加害者の男性の股間に噛み付いたことは、なんとなく想像できた。

レイプされて抵抗したといったところだろう。

そして彼女を支えている女性。

衣服がそれほど汚れていないことから、この被害者が言うように、後から来たと見るのが自然だ。

とはいえ、詳しい内容は鑑識の結果が出てからとなる。

警官はひとまず、
加害者と見られる男性の容態を見ることにした。


「…………」

「……キョウちゃん? キョウちゃん!?」


恭子の身体がほんの少し重くなったことで、
直美が異変に気付く。

しかし、直美の呼びかけに恭子が答えることはなかった。
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