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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.124 【 楠木 小夜 】

直美は新しい住まいを探すため、不動産屋を回っていた。

できれば、大学に近い場所。

しかし、そういったところはどこも家賃が高く、
なかなか良い物件を見つけられないでいた。


「んー大学から少し離れても、
もっと安いところ探した方が良いのかなぁ?」


サークルのメンバーに相談するのも、ひとつの手だったが、
恭子との関係を詮索されるのも嫌だった。


(こんな時、キョウちゃんだったら……)


いつもの癖で恭子に頼りそうになってしまう。
直美は首を振ると、その考えを振り払った。


(ダメダメ、これからは、あたし一人でやっていくんだから、
そういう考えは捨てなきゃ)


何から何まで恭子に頼りっきりであったことを自覚する。
ご飯を作るのも恭子、掃除するのも恭子、もちろん難しい契約についても全て恭子がやってくれていた。

直美はその生活を改めようとしていた。

直美が次の不動産屋に向かっていると、
ハイカラな看板の屋台が目に入った。


(なんだろう、これ?)


好奇心をくすぐられた直美は、
立ち止まって看板を見てみることした。

【くすのきの占星術☆ミ】

キラキラと明るい雰囲気の看板に、興味をそそられる。
屋台の入り口はカーテンで閉められており、
用のある人は鳴らしてくださいと、呼び鈴が置かれてあった。


(面白そう……ちょっとやってみようかな?)


占いの経験のない直美は、試しに受けてみることにした。


チンチーーン♪


軽快にチャイムを鳴らす。
するとカーテンの向こうからガサゴソと音がした。


「お入りください」


若い女性の声がする。
イントネーションが独特な、静かだけれど凄みのある声だった。直美の期待が膨らむ。

直美がカーテンを開けると、
そこには小さなテーブルと椅子が置かれており、
テーブルの先には黒装束を着た女性が座っていた。

目を疑うような美貌と高貴な品格を漂わせる女性。
青白い肌、薄暗いベーレの奥に見える小さな唇、
妖艶なる眼、そして少し緑が掛かった濡れているような艶のある黒髪。

その容姿はまさしく美魔女という形容がふさわしかった。

しかも黒装束の胸部が盛り上がっており、
かなりの巨乳であることがわかる。

直美はつい、その胸に釘付けになってしまった。


(うわ、すごいデカイおっぱい……柔らかそう……)


そこで自分の思考にハッとする。


(違う違うっ! こんなこと考えちゃダメっ!
私はノーマルな女の子なんだから……)


女性に性的欲求を持つのは、恭子の催眠術によるもの。
直美は唇を噛みしめた。

そんな直美を見て、占い師が言う。


「私の胸がどうかしましたか?」

「いえ……なんでも……」

「もしかして胸の悩み?」

「違いますっ! そうじゃなくて、あたしは占いを……」

「ふふふ、冗談ですよ。占星術をご所望ですね。
そちらにお座りください」


占い師の前にある小さなテーブルには、
定番の水晶玉が紫色の座布団と共に置かれてあった。

直美が椅子に腰かけると、
女性は一枚のメモ用紙とペンを差し出した。


「占星術は、占う相手の名前、生年月日と時間帯、生まれた場所の座標が必要になります。こちらに分かる範囲で良いので書いていただけますか?」

「生まれた時間も必要なの?」

「はい、あなたが生まれた時間の星の位置を知る必要があります」

「うーん……」


直美は腕を組んで考えた。生まれた病院は覚えていたが、時間となると少し思い出す必要があった。


(たしかお母さんが、早朝に陣痛が始まったって言ってたから、朝6時くらいかな?)


「思い出せそうですか?」

「うーん、なんとか。時間帯は大体でも良いですか?」

「正確なほど占いの精度も高くなるのですが、
難しければ大体でも良いですよ」

「わかりました」


直美は言われたことをメモに書き占い師に渡した。
占い師はスマホで直美の生まれた病院名を検索して、
正確な住所を知ると、地図で座標を確認した。


「ありがとうございます。では前金で3,000円お支払ください」


財布から5,000円を取り出し、2,000円のお釣りを貰う。


「それでは始めます……」


占い師がテーブルに手をかざすと、小さな声で何かを唱え始めた。直美がその様子をじっと見ていると、ほんの少し水晶玉が光ったように見えた。


(……6時48分。生まれた場所も間違いないようね)


占い師は、手慣れた様子でホロスコープを作り始めた。
ホロスコープとは、出生時の天体の配置図のことである。

通常はこれを用意するのに時間を有するものだが、彼女はまるで星座の位置を全て記憶してるかのように星の記号と星同士の相関関係を描いてしまった。

もちろん直美にはこの凄さがわからない。


「それでは聞きたいことをどうぞ」


直美はひとまず誠のことを聞いてみることにした。


「別れた彼のことなんですが、またよりを戻すことはできますか……? もう新しい彼女がいるんですけど……」


占い師はホロスコープで直美の今の年齢から、
誠との関係が元に戻るかを確認した。


「うーん……新しい出会いを見つけた方が良さそうですね。
ただ彼とはこれからも仲良くしていけると出ています。
無理してよりを戻すより、今の彼の幸せを願った方が良いと思われます」

(やっぱりそうだよね……)


第三者から言われて思い直す。
誠は真里と上手くいっている。
最近では同棲もしていると聞いた。

そんな二人に事実を伝えたところで、
不幸な結果になるのは目に見えていた。


(でもつらいよ……これから二人の関係を見守っていかなきゃいけないなんて……)


直美はその現実に耐えれる気がしなかった。
いっそのこと大学を辞めて、地元に帰るのも一つの手だと思った。


「しかし妙ですね……なぜそのようなこと気にする必要があるのですか?」


占い師はホロスコープを見て、不思議そうな顔をしている。
直美は浮かない顔をしつつも尋ねた。


「なんでですか?」

「この図では、あなたには相性の良い恋人がいることになっています。本当に誰とも付き合っていないのですか?」

「えっ……」


すぐに恭子の顔を思い浮かべる。
しかし、彼女は自分を騙し誠と別れる原因を作った張本人だ。直美は拳を握りしめ、軽く息を吐いて答えた。


「数日前に別れました。今は誰とも付き合っていません」

「そうですか……」


占い師は、迷ったような顔をしながらも続けて言った。


「本来、聞かれてもいないことを話す立場ではないのですが、あまりに深刻な内容なので伝えておきますね」

「……?」

「あなたはこの別れた恋人と運命を共にしております。お相手が幸せなら、あなたも幸せでいられますが、逆ならあなたも不幸になります。一蓮托生といっても良い仲です」

「いちれんたくしょうってなんですか?」

「……結果の良し悪しに関わらず運命を共にするという意味です」

「なるほど」

「別れた原因があるなら、一度納得するまで話しあってみてはいかがですか?」


直美は悩んでいる。いくら一蓮托生の仲と言われても、
自分をこんな目に遭わせた相手と、そう簡単に話す気にはなれなかった。


「できない……あの人はあたしと彼に酷いことをしたの。
そんな人と簡単に話し合いなんてできないよ!」

「もちろん無理にとは言いません。ですが、今のままでは、お相手の運命に貴女の運命も引き摺られることになります。
そうならないように、魂同士の縁を切っておくことをお勧めしますが、いかがなさいますか?」

「魂同士の縁を切ることなんてできるんですか……?」

「はい一応。ただ貴女と元恋人は、家族と同じくらい縁が深いようです。切るにはお相手の名前、生年月日、生まれた場所、時刻の情報が必要となります」

「名前と誕生日なら分かるけど……」

「あとはこちらでお調べしますので大丈夫です。
追加で3,000円かかりますが、よろしいですか?」

「はい、それは大丈夫です……」


話が進むにつれ、直美の表情が曇りだす。
たしかに恭子に怒りを感じはするものの、
はたして本当にそこまですべきなのだろうかと迷い始めていた。


「あの……」

「はい」

「魂同士の縁を切ると、どうなるんですか?」

「今世だけではなく、来世も、また次の世も、会うことはなくなります」

「生まれ変わっても出会わないってこと?」

「そうです。通常、家族ほどの縁になりますと、
立場は変われど、父母、兄弟姉妹、または配偶者など、近い関係に生まれ変わることになっております。
しかし、縁が切れれば別々の世界を生きることになり、
二度と会うことはなくなります」

「そんな……」


それを聞き直美は、
かつて恭子が自分にかけた言葉を思い出した。


《二度と姿を見せないなんて言わないで……
これからもずっと傍にいて……私を独りにしないで……》


高校時代、恭子の元を去ろうとした時にかけられた言葉だ。

直美はパッと顔を上げると、哀憫(あいびん)の情を覚えた。
そして部屋で一人で待つ恭子のことを思い浮かべた。


(キョウちゃん……)


たしかに恭子は、自分と誠に催眠を掛け好きなように操った。しかし、彼女がその後にとった行動はどうだったろうか?

どちらに対しても過剰なほど
優しく接してはいなかっただろうか?

食事をするにも、遊ぶにも、何をする時でも、
彼女は献身的に接してくれていた。

その事を思い出し、直美はいつの間にか涙を流していた。
机に肘を付け、目を覆い、泣き始める。


「キョウちゃん……うぅ……うぅぅ……」


占い師は、そんな直美を悲しげな目で見つめ、
しばらく声を掛けずに泣き止むのを待った。


「縁は……切らなくても……いいです……」

「そうですね。そう思えるなら、そうした方が良いと思います。ではお相手のお名前と生年月日を教えて貰えますか?」

「えっ……もう縁は切らなくていいので……」

「これはサービスです。通常はお金を取るのですが、
お二人が円満に仲直りできるよう、占ってあげましょう」

「うぅ……ありがとう……ございます」


顔を赤く染め、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、
直美は礼を言った。


「名前は甘髪恭子と言います。生年月日は○○年○月○日……でも生まれた場所と時間はわからないです……」

「女性だったのですね……生まれた場所と時間はこちらでお調べしますので大丈夫です。少し時間がかかりますが……」


占い師はそう言うと、奥にある小さな棚から、
フラスコのような小さな筒を取り出した。

その蓋を開け、軽く匂いを嗅ぐと、
すぐにそれを閉め元の棚へと戻した。


「では、彼女のことを思い浮かべてください……」

「はい」


再び水晶玉に手をかざす占い師。
先程より強い光が水晶に宿る。

直美は恭子のことを思い浮かべた。
出会いから別れに至るまで、様々なことが頭の中を駆け巡る。同時にそのイメージを誰かに覗かれている感じがした。


(国名ペルギー……プリュッセル国際大学病院……18時21分……)


水晶玉の光が消える。
少し疲れたように息を吐き、占い師は言う。


「もう大丈夫です。彼女はペルギーで産まれたようですね」

「そんなこともわかるんだ……」


ホロスコープを作成し、恭子を占う。
始めは淡々と作業をこなしていた占い師であったが、
時が経つにつれ、徐々に険しい顔を見せ始めた。

直美は彼女の様子がおかしいことに気付き声をかける。


「あの……どうかしましたか?」

「直美さん。今から私が言うことをよく聞いてください……」

「はい……」


空気が張り詰めているのが直美にも分かった。


「あなたの恋人の恭子さんは、
まもなく、その命を終えようとしています……」

「えぇぇっ!?」

「もうすでに亡くなっているか、これから死ぬかは定かでありませんが、彼女の命日は今日となっています」

「そんなの、ウソっ!!
キョウちゃんが死ぬなんて……絶対にあり得ない!!」

「占いの結果では他殺と出ています。
彼女に恨みを持つ人物を知りませんか?」

「恨みを持つ人物……キョウちゃんは誰にでも優しくしてるし、そんな人……あっ!!!」


直美は目を見開き、
恭子を付け狙っていたストーカーのことを思い出した。


(今はマンションに一人だけだし、もしかしたら……!!)


直美は咄嗟に駆け出していた。
もちろん向かう先は、恭子と住む自分達の家だ。


「待ちなさいっ!! 今からじゃ間に合うかどうか!」


占い師が屋台から出て、直美を呼び止める。

しかし、彼女の声は届かない。
すでに直美の頭は恭子のことでいっぱいだった。


(しまった……先に何か対処してから話せば良かった。
このままじゃ、彼女も死んでしまう……)


直美はすでに視界にはいなかった。
どちらにせよ、占い師が走ったところで、運動神経抜群の直美に追い付けるはずがない。

どうするか迷ったが、諦めることにした。


(仕方ない。これも彼女達の運命……
赤の他人の私がそこまで身を乗り出す問題でもないわ)


占い師は気を取り直し席へと戻った。
暗い表情のまま、恭子のホロスコープに目を通す。


「…………なに、この違和感は?
まだ〖魔素〗は残っているし、調べてみようかしら」


気になった占い師は、もう一度水晶に手をかざすことにした。青白く光る水晶玉。占い師の目には、恭子の過去が見えていた。

小さい頃から今に至るまで、
高速で映像を流し、違和感の元を探る。

そうして占い師は、高校時代の恭子に目を付けた。

恭子は、誠を催眠で眠らせ、これから暗示をかけるところだった。そして彼女の手には【黒い本】が握られていた。


「見つけたっ!!」


つい大声を出してしまった。
占い師の心臓の鼓動が高くなり始める。


(さっきの子の恋人が、あいつと関わっていたなんて……)


占い師は、小さな棚からもう一度ふしぎな筒を取り出すと、今度は蓋を開けて中の液体を少し飲んだ。


(こういうことなら、あの子を死なせる訳にはいかないわね。
長年追い続けた魔物〖Sky of Nightmare〗
今度こそ、捕らえてみせるわ……)


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