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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

Part.121 【 直美の年越し 】

「あーと、ちょーっと、寝ーるーとー♪
おーしょーおーがーつーー♪」

カンカンカン♪

大晦日、実家に帰省した直美は、
弟のユウとお正月の歌を歌い、
箸でそばつゆの器をカンカン叩いていた。

向かい側では、父が茶を飲みながら紅白を見ている。
のんびりとした性格なのだろう。
子供達がうるさくしていても、気にしている様子はない。

こたつの上には、年越し蕎麦が六つ置かれてあり、
隣の台所では、母が薬味を用意しているところであった。


「直美ーお蕎麦できたから、おじいちゃん達、呼んできて」

「はーい、いこか? ユウくん」

「うんっ!」


母に言われ、客室へと向かう。

直美の祖父母は、
年越しを子供達と過ごすため、直美の家に来ていた。


「いっくよー! ユウくん、そりゃー!」

「そりゃーーー!!」


ドタドタドタドタ!!

小走りする音が、けたたましく廊下に鳴り響く。
移動するだけなのに、なんとも騒がしい二人だ。

ドタドタドタドタ!!ガチャッ!


「お爺ちゃん、お婆ちゃん、お蕎麦できたってー!」

「そうかそうか、じゃあいこうかのぉ婆さん」


すっと祖父母が立ち上がる。
体幹がしっかりしているのか、年を感じさせない動きである。


「おぉ、そうじゃ、直美とユウに渡すものがあったんじゃ」


祖父は思い出したように紙袋を取り出すと、二人に差し出した。


「ほれ、少し早いけどワシとお婆ちゃんからお年玉じゃよ」

「やったー!」

「ありがとーお爺ちゃん、お婆ちゃん♪」


可愛らしいウサギが描かれたお年玉袋。
受け取った二人は、どちらも満面の笑みであった。
そうして喜ぶ直美に、祖父から一言。


「直美よ、年が明けたら、お爺ちゃん家に来んか?
また護身術を教えてやるぞい」

「うーん、どうしよう?」


直美はその時、恭子を狙うストーカーのことを思い出した。
あれから恭子は、タクシーを使うようになったため、ストーカーの話は聞かなかったが、直美はそれでも心配だった。


(キョウちゃんも誘ってみようかな?
いざって時、身を守れた方が良いよね?
忙しいから、来れるかわからないけど……)

「キョウちゃんも誘っていい?
最近ストーカーに悩まされてるんだ」

「なんと……それは大変じゃの。
よろしい、その子も連れてきなさい」

「ありがとーおじいちゃん♪」


直美の祖父、藤崎玄流斎(ふじさきげんりゅうさい)は、
隣県の山里で道場を開いていた。

歴史の深い、由緒ある道場で、かの剣豪、宮元武蔵も訪れたことがあると言われているそうな……。
直美の合気道も、そんな祖父譲りなのであった。


※※※


次の日の朝、
直美とユウは近所のお寺で初詣をしていた。
屋台を巡りながら本堂に進む二人であったが、
祖父母は宗派が違うという理由で来ていなかった。


(キョウちゃんがいたら、もっと楽しかったろうなぁ……)


去年は恭子とユウの3人でお参りしたが、
恭子は小早川から受注された服の納品のため、
地元には帰っていなかった。

直美も恭子が忙しいのを理解していたので、
強く誘わなかったが、寂しいものは寂しかった。

直美は帰る途中、少し遠回りであったが、
恭子の家の前を通って帰ることにした。


「おねーちゃん、どこに行くのー?」

「キョウちゃん家だよ」

「えっ? キョウちゃん帰ってきてるの?
なんでお参り一緒に行かなかったのぉ?」

「帰ってきてないよ。懐かしいから行きたいだけ」

「そっかー」


楽しい思い出が詰まった恭子の家。
中には入れないが、観光がてらに立ち寄ることにした。

そうして家の前に着くと、門を抜けた先に人影を見つけた。

栗色の髪を靡かせるスレンダーな女性。
手元には大きなトランクを持っている。
彼女は玄関の周りをキョロキョロと見回していた。


(まさか泥棒!?)


泥棒であれば、黙って見過ごすわけにはいかない。

直美は、ユウに待つように言うと、
ソロソロと彼女に近付いていった。

女性は庭にある植木鉢の一つに目を付け、その裏側を探っていた。


「あーあったあった」


植木鉢の裏から鍵を見つけ、ドアを開けようとする。
直美はそこで声をかけた。


「何してるんですか?」


声をかけられ女性が振り向く。
彼女は初め、直美を見て驚いたが、そこまで警戒する人物でないとすぐに感じ、冷静に返してきた。


「あなたは?」

「あたしはこの家の住民の友達です。あなたこそ誰ですか?」

「もしかして、直美ちゃん?」

「へっ? なんで知ってるの?」


突如名前を言い当てられ、直美は驚いた。
女性は直美の反応に安心すると、続けて言った。


「やっぱり直美ちゃんだったのね。
恭子から話は聞いてるわ。ルームシェアしてるのよね?」

「キョウちゃんのことも知ってるの?」

「えぇ、知ってるわ。だって恭子は私の娘だもの」

「お母さんっ!?」


初めて会う恭子の母に、直美はびっくり仰天。

彼女は世界でも有名な服飾ブランド【レイン】の創始者
〖甘髪 杏里(アンリ)〗であった。
元の名前は、アンリー・ヘップバーンという。

ペルギーで生まれ、十代後半で、
恭子の父〖龍之介(りゅうのすけ)〗と結ばれ、今に至る。

そのうち恭子と結婚することにでもなれば、直美の義理の母となる人物だ。さすがの直美も畏まった。


「初めまして……」

「そんな畏まらないで。あ、そうだ。お土産にココナッツミルクプリンがあるんだけど、食べていかない? 恭子のこと、色々お聞きしたいわ」

「プリン!? 食べまーす♪
あ……弟もいるんですが、良いですか?」

「もちろん良いわよ。門のところにいる子ね」

「はいっ! ユウくーん、プリン食べれるよー! こっちおいでー!」

「わーい♪ プリン♪ プリン♪」


犬みたいに大喜びで走り寄ってくる直美の弟。
杏里は玄関の扉を開けると、笑顔で二人を招き入れた。


※※※


「キョウちゃんのお部屋、良い匂いだねー」

「そうでしょー。前はもっと良い匂いだったよ」


杏里が、紅茶を淹れている間、
直美とユウは、恭子の部屋にいた。

初めはリビングに通されたのだが、
直美が久しぶりに恭子の部屋を見たいと言ったため、
そちらに案内されていた。

杏里にとって、直美は初対面の人物ではあったが、
恭子からの評判が良かったのだろう。
何も疑うことなく部屋に通したのだった。


「あー懐かしいなー、
昔はここでよく催眠かけられて遊んだっけ」


シーツだけが掛けられたベッド。
初めて恭子と経験した時の記憶が甦る。

背伸びをしてベッドに背を預けると、
部屋の雰囲気、匂いから、
恭子に包まれているような気持ちになった。

コンコン

ノックされ、弟のユウがドアを開ける。


「おまたせ、プリンと紅茶よ」


杏里がお盆にプリンと紅茶を乗せて現れた。


「ありがとうございます!」


テーブルにプリンと紅茶を置き、
直美の向かいの座布団に座る。

杏里は、直美に恭子との生活について聞くつもりであった。大学でのこと、大企業の社長と取引していること、
そして恭子と直美の関係についても。

直美とユウが、ニコニコとプリンを食べ始めたのを確認し、杏里は口を開く。


「ところで恭子の……」


トゥルルルル……トゥルルルル……。

そこで杏里の携帯が鳴る。
彼女は一言添えて部屋を出ると、廊下で話し始めた。

残された直美とユウは、
ココナッツプリンの美味しさに終始笑顔であった。

それから五分ほど経過したが、杏里は戻って来なかった。
何やら緊急の案件らしく、すぐには戻ってこれないようだ。


「お姉ちゃん、トイレいきたいんだけど」

「わかった。じゃあトイレお借りしよっか」


ユウを連れて廊下に出た直美は、
杏里に断りを入れて、トイレへと向かった。

ユウを置いて部屋に戻ると、
直美はふと気になるノートを見つけた。


「なんだろこれ?
催眠って書いてある。キョウちゃんの字だ」


恭子の机の棚に分厚いノートが置かれている。
周りの英語や数学などのノートと比べると、
明らかに手の付け方が違う。それほど使い古したノートであった。


「催眠の記録……あっ! もしかして!」


タイトルから察するに、
これはおそらく恭子の催眠の記録を綴ったものだ。

直美の好奇心が沸々と湧き起こる。

直美は悪いと思いつつも、
恭子の書き記した催眠の記録を読むことにした。

―――――――――――――――――――――――――――

〇月×日

初めて直美に催眠をかけた日。
私は直美の嫌いなトマトジュースを飲ませようと暗示をかけた。
最初は直美が催眠にかかった振りをしているものと思い、
いつ根を上げるか笑いを堪えて待っていたのだが、
私の予想を超えて、本当に催眠にかかってしまった直美はトマトジュースを全て飲み干してしまった。

暗示の内容:トマトジュースを好きになる。

―――――――――――――――――――――――――――

(やっぱり催眠のノートだ。キョウちゃん記録つけてたんだ。でもこの時はホントにびっくりしたなぁ、あんなに嫌いだったトマトが食べれるようになるんだもん)


直美はアルバムを見るように、読み進めていく。

恭子は実に丁寧に、催眠に関する記録を記述していた。

格式ばった形であることから、
ある程度催眠に慣れてから記録することを決めたようだ。

序盤はそこまで不穏な気持ちにさせるものは書かれていなかったのだが、読み進めていくうちに、気になる記述を見つけた。

―――――――――――――――――――――――――――

×月〇日

今日は危なかった。
直美にキスをしたくなると暗示をかけたのだが、
途中で催眠が解けてしまった。

直美は自分がどんな暗示をかけられたか、
はっきりと覚えているようだった。

冗談と捉えてくれたから良かったものの。
そうでなかったなら、嫌われていたかもしれない。

しかし成果は十分にあった。

催眠は、本人が望まない暗示を掛けると解けてしまう性質がある。また途中で目が覚めると、前後の記憶が残ってしまうようだ。

今後はこのことに気を付けていかなければならない。


暗示の内容:キスをしたくなる。
     :ピーマンを好きになる。

―――――――――――――――――――――――――――

(冗談と捉えてくれたから良かった……?
冗談じゃなかったってこと?
これだけじゃわかんないな……。
なんでこんなに慎重にかけてたんだろ?
別に解けたって問題ないのにね)


当時の恭子の本音を知らない直美は、
恭子の催眠への姿勢に疑問を抱き始めていた。


―――――――――――――――――――――――――――

×月▽日


私は自分の気持ちに正直になることにした。

直美に桐越誠への嫌悪感を持たせ,別れさせることにした。

そうすれば、彼女はずっと一緒にいてくれるようになるだろう。直美を独占したい。私だけのものにしたい。

例え、どれほど罪を被ろうと私は決して止まらない。


暗示の内容:桐越誠に嫌悪感を持たせる。
     :催眠に掛けられることが楽しくなる。
     :桐越誠よりも私と遊ぶことの方が楽しくなる。

―――――――――――――――――――――――――――


(なに……これ……)


信じられない内容に、直美は固まってしまった。

恭子が直美と誠の離別を謀っていた。

それまで自分の意志で別れを告げたと思い込んでいた直美は、強い衝撃を受けていた。


(ゴク……この先は何が書かれているんだろう……)

ガチャ

(!!)


「直美ちゃん、ごめんなさい。ゆっくりお話ししたかったんだけど、急な仕事が入っちゃって、今すぐ戻らなくちゃいけなくなったのよ」

「えっ!? あっ、はい」

「食器は洗っておくから、弟くんトイレから出たら、玄関に来て貰えるかしら? 急かしちゃってごめんなさいね」

そう言うと杏里は、お盆に使い終わった食器を乗せて、
台所へと行ってしまった。

直美も一旦はそのまま部屋を出ようと思ったが、
どうしてもノートが気になった。


(ここには、すごく重大なことが書かれているような気がする……)


直美はノートを取ると、着ているシャツの中に忍ばせた。
そして御手洗いでユウを回収して、玄関へと向かった。


「今度は◯✕の家にお邪魔するから、積もる話はその時にしましょうね」

「はい、プリンありがとうございました」

「ありがとー!」


杏里はそこからタクシーを使ってどこかへ行ってしまった。
直美は恭子の家の外観をもう一度見渡すと、ユウと手を繋ぎ自宅へと戻った。
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