「真里、もっと腰を振って♡」
「うん……♡ あぁ……っ!♡」
敏感になった肉芽同士が擦れ合い、
真里は甘い声をあげている。
彼女は新しい恋人の萌と、
ベッドで貝合わせをしていた。
そこから少し離れた椅子の上では、猿轡を噛まされ、
逞しい男性の股間に、お尻を乗せる誠の姿が。
彼は後ろ手に手首を縛られ、
太ももに巻かれたベルトに、長いパイプをつながれていた。
足を閉じようにも、パイプが邪魔をして閉じることができない。開脚用の足枷と言ったところである。
そして、開脚させられた状態で、
その可愛らしいペニクリを、女達の前に晒されていた。
「マコトちゃん、男の人に跨がって気持ち良さそうだねー」
「うん……誠くん、すごく気持ち良さそう♡」
誠はそのいたいけな蕾に、成熟した男根を差し込まれていた。
ペニクリはすっかり勃起し、
男性と性交する喜びを示してしまっている。
だが彼の目には、奪われてしまった恋人を取り戻そうとする意志の光がまだ残っていた。
「ホモに犯されるマコトちゃんを見て、どう思う?」
「なんかすごい……生のホモって迫力あるよね」
誠が犯されてるというのに、真里は淡々と意見を述べるだけである。助け出そうといった気持ちはないようだ。
それもそのはず。
現在、誠が犯されているのは、二人が原因であるからだ。
真里をめぐって萌と口論した誠であったが、
結局、真里の同意は得られず、
再び椅子に縛り付けられてしまっていた。
このままでは、誠は出ていかない。
そこで萌が思い付いたのが、
ホモ向けのデリバリーヘルスを呼ぶことであった。
誠に男とセックスさせ、ホモを認めさせる。
そうして真里のことを諦めさせようとしたのである。
初めは難色を示していた真里であったが、
小早川の催眠により、
萌の意見に同意させられてしまっていた。
そして男に犯され、気持ち良さそうにする誠を見て、
彼女の中の罪悪感は、徐々に薄まろうとしていた。
パンパンパンパン! パンパンパン!
男の腰と誠の尻がぶつかり音がなる。
女性二人は、誠の表情から限界が近いことを察し、その様子を見つめていた。
「フーーッ! ンンンーーッ! ンフーー!!!♡」
猿轡の隙間から、悲鳴にも似た嬌声が洩れる。
このままではイッてしまう。
真里の前でホモイキしたくない。
しかし、そうして彼が我慢する姿は、
今の真里からすれば生唾ものであった。
(あぁ……すごいエロい……♡
なんかすごく貴重な瞬間を見てる気がする……♡)
華奢で中性的な男の子が、逞しい男性に無理やり同性愛に目覚めさせられようとしている。
これで誠が完全にそっちに目覚めたら、どれだけ官能的だろう。
真里はそんな誠の姿を想像して、
心臓をドキドキさせていた。
「フーーッ!!♡ ンフゥーーー!!!♡♡
ンヒィィィィィーーーーーーー!!!!♡♡♡」
ビクビクッ! ビクビクビクビクッ!
トク……ツツツー♡
「あ、出たっ」
「出したねー♡」
ついに誠は堪えきれず、射精してしまった。
透明でサラサラの愛液が、
勃起したペニクリの先から垂れる。
愛する元カノの前でホモイキしてしまい、
彼は強い羞恥心を覚えていた。
鼻で息を吐きながらも、
真っ赤になった顔を真里から背けようとしている。
「マコトちゃん、イッちゃったね。
真里とエッチしてた頃と比べて見てどうだった?」
「全然違う。あんなに激しくイッたの初めて見たかも。
イッた後でも萎えてないし、
やっぱり男の人とすると違うんだね」
誠は脱力して、男に背を預けている。
まるで愛する男性に身を委ねているかのような光景だ。
真里はそんな誠の姿が、
彼にとって本来あるべき姿のように思えた。
「真里もわかったでしょ? 彼が根っからのホモだって」
「うん」
「ホモはホモと付き合うのが一番なの。
真里だって、私とした方が良いでしょ?」
そう言い、萌は陰部をすりすりと動かした。
すっかり潤った花弁が、真里の花弁にキスをするように張り付き、真里は興奮して息を荒くした。
「んんっ!♡ はぁはぁ♡ ……萌の方がいい♡」
「ふふふ♡ 真里も根っからのレズだもんね♡
だったら、早くマコトちゃんを楽にさせてあげようよ?
彼はまだ一線を越えられずにいるだけなの。
真里みたいに、一度一線を越えちゃえば、
もう復縁したいだなんて思わなくなるから」
「うん……♡ そうだね……はぁはぁ♡」
「忍とは合わなかったみたいだけど、
マコトちゃんだったら、すぐに良い彼氏が見つかるって。
そうすれば、彼は今より、ずっと幸せになれる。
なんてったって、根っからのホモなんだから。
真里もマコトちゃんに幸せになってもらいたいでしょ?」
すりすり♡ すりすり♡
「あぁ……んっ!♡♡
な、なってほしぃ……♡ 誠くんもしあわしぇに……♡♡」
「なら真里も鬼にならなきゃダメだよ?
マコトちゃんの幸せのために厳しく接するの。
そうでないと彼、ストーカーになっちゃうかも?
そんなの嫌でしょ?」
ストーカーになった誠を思い浮かべる。
女に勃起もできない癖に、
ただひたすら無意味に自分を求め続ける誠を、
真里は可哀想に思った。
彼がそんな人間になるくらいなら、
自分は鬼になっても良い。
誠にホモを認めさせて、
愛する男性と幸せな人生を送ってもらうのだ。
「誠くんをホモにするの。がんばる」
半ば洗脳にも似た方法で、萌は真里に協力を決心させた。
※※※
二人はベッドから降りると、
誠が犯されている椅子の前に立った。
誠はようやくこの行為を終えられると、
安堵の表情を浮かべていた。しかし、外されたのは猿轡のみ。
開脚用の足枷や、手首を縛る紐はそのままであった。
「はぁ……はぁ……♡
真里さん……もうやめて……♡」
「何言ってるんですか。これからが本番ですよ?
私が誠くんにホモを認めさせてあげます。
誠くんは、女の子と付き合うより、男の人と付き合った方が幸せになれるんです」
「ち……がう……私は真里さんのことが……アァンッ!♡」
誠が何か言いかけたタイミングで、男が前立腺を突く。
「そんな可愛い声出して、私が好きだなんて言わないでください。本当に好きな男の人に突かれたら、もっと幸せな気持ちになれるんですよ? 私みたいに……」
真里はそう言い、隣にいる萌とキスをした。
「んちゅ……ちゅう♡ あむ……ん……♡」
徐々にディープなキスに移行していく。
幸せそうにレズキスをする真里を見て、誠は涙ぐんでいた。
「ちゅ……♡ はぁ……はぁ……♡
私……萌とキスして、すごく幸せです……♡
誠くんと付き合っていた頃よりもずっと……♡
でもそれは……私がレズだから。
誠くんも、男の人との相性の方が良いはずです。
意地を張るのはやめて、本当の自分と向き合ってください」
誠はそれを聞いても、首を横に振った。
「やだ……わたしは……真里さんがいい……」
「はぁ…………誠くんだって、私とエッチするより、
その人に突かれた方が気持ち良いですよね?
こんなにおちんちん大きくさせて……」
「うぅぅ……」
「もう…………じゃあ、次が最後ですよ?
私が今から誠くんのおちんちんをしごくので、それでイッてみてください。もしイケたら、私も復縁を考えます。
でもイケなければ……別れを認めてくださいよ?」
そう言い、萌に確認を取る。
萌は少し考えた顔をしたが、これで誠が承諾すれば、言質を取れたことになるので、渋々承知することにした。
「私もそれに乗るよ。もしマコトちゃんが真里の手コキでイケたら、真里と復縁するの認めてあげる。
あ、でも別れるつもりはないからね。
あくまで私の次の恋人ってことで、認めてあげるって意味」
要するに萌優先の三角関係ということだ。
デートをするのも、セックスをするのも萌が優先。
誠が唯一、真里の彼氏に戻れるのは、
萌の気の迷いが生じた時のみ。
だいぶ立場は下になってしまうが、今はそれでも仕方がない。誠は迷ったが、真里の提案に乗ることにした。
「うん……わかった……」
※※※
今の誠のペニクリは、肉竿を挿れられて勃起している状態だ。一から勃起させるのに比べたら、大分ハードルが低いと言える。
性器への刺激をどれほど感じれるか不安だったが、
これから射精するのに、
アナルに差し込まれた男性器の存在は心強いものであった。
誠がそのように考えているとーー
「ねぇ、萌。誠くんのお尻から、ちんちん抜いた方が良くない? これじゃあ、どっちで射精したかわかんないよね?」
萌の方を向いて真里が言う。
その言葉に誠は、心臓をドキリとさせた。
ちんちんのおかげで勃起できてるのに、
これを抜かれたらイケる自信がなかった。
しかし、真里の言い分はもっともだ。
真里は今、誠が自分で興奮できるか、
試そうとしているのだから。
男根を挿れられたまますると思っていた誠は、
軽率な気持ちで提案に乗ったことを後悔した。
そうして半ば諦めかけた時であった。
「私はこのままで良いと思うな。
チンポ抜いたら絶対無理でしょ?
ハンデと思って、許してあげたら?」
「そうだよね。じゃあ、ちんちんありでいこっか」
意外にも萌は、ちんちんの挿入を許してくれた。
たとえ入っていても、イケないと見ているようだ。
それに対し、真里も似たような反応を見せている。
情けをかけてもらっているが、実質バカにされている状況だ。
誠は元カノに、
男として全く期待されていないことを恥ずかしく思った。
「それじゃあ、いきますよ?」
「うん……いいよ……」
誠のペニクリが真里の手に包まれる。
この島に来る前の真里は、
誠の分身を優しく扱ってくれていた。
舐めたり、頬擦りをしたり、実に嬉しそうにしてくれていたのだが、今の真里は真顔で事務的にしごくだけである。
まるで射精介助サービスのような対応。
そこに愛情など、ひと欠片も存在しなかった。
真里の心は、完全に離れてしまったのだ。
それがハッキリと分かり、
誠は絶望の淵から、突き落とされたような気持ちになった。
「気持ちいいですか?」
笑いもせず、真里は言う。少し機嫌が悪そうな表情だ。
冷たい真里の呼びかけに、誠は萎縮した。
(真里さんがこんな風に接してくるだなんて……)
誠のペニクリが徐々に勃起力を失っていく。
彼女が望んでもいない手コキをされて、気持ちよくなれるはずがない。
誠のちんちんは、
真里の手の中で、くたっとしおれてしまった。
「わたしが触ったからですか?
こんなにフニャフニャになっちゃって……」
真里が軽くため息をついている。
やはり自分ではダメなんだと再認識している様子だ。
このままじゃいけない。
彼女の反応を見て、誠は危機感を持った。
(くっ……卑怯だけど、もうこの方法を使うしかない)
誠は前立腺に触れている男性器に意識を向けると、
お尻の穴をキュッ♡と締めた。
アナルの中で一物が動き、前立腺を刺激する。
それにより、萎えていたペニクリに血液が集まり出した。
これなら勃起できる。
真里を騙すことになるが、
手コキで感じてるふりをして、男性器でイクことにしよう。
誠がそのように考えた、その時であった。
「やっぱり誠くんが気持ちいいのは、こっちなんですね」
真里の手がペニクリから離れる。
彼女は、誠の腰に手を添えると、男に視線を送った。
〖腰を振って、誠のアナルを突いて欲しい〗
男はアイコンタクトで真里の意図を読み取ると、
コクリと頷き、腰を振り始めた。
誠の全身が上下に揺れ、肉竿が菊門に突き刺さる。
「うぅっ! あぁっ!♡ アァーーー!♡」
ちょうどアナルに意識を向けていたこともあり、
誠はホモセックスの快感を、真正面から受け止めてしまった。
それにより萎えていたペニクリは、
一気に硬さを取り戻してしまう。
「うわ、はやっ!」
「誠くん……すごい……」
いくら男性と相性が良いと言っても、
ここまで極端な反応を見せるものだろうか?
女性の手コキで萎えて、
男性のひと突きで、一瞬で元気になるペニクリ。
こんな性器を持つ人をホモと呼ばずになんと呼ぶのか?
疑いようのない同性愛者としての素質に、
真里も萌も、ただ呆れるばかりであった。
そして次の瞬間。
真里の彼氏としての立場は終わりを迎えた。
(あっ! だめっ! でちゃうっ! でちゃうっ!
今はダメッ! やめてっ!! いやっ!!!)
ぴゅるっ!♡
抵抗むなしく、先端から透明な愛液が放たれた……。
「あ……あああ……」
やってしまった……。
ノンケを証明するはずが、
逆にホモを証明する結果となってしまった。
約束をした以上、真里とは別れなくてはならない。
「誠くん……約束ですよ。これで別れてくれますね?」
「あぁぁ……あぁぁぁ……」
誠は憔悴して涙を流している。
とても真里の問いに答えられる状態にない。
しかし、真里はそんな誠に冷たく言い放った。
「泣いて誤魔化さないでください。
私は萌を愛しています。
これ以上、付きまとわないでくださいね」
今までで、一番厳しい絶縁宣言だ。
恋人関係の解消ではなく、
人間関係そのものを断つといった言い方である。
真里は後ろを向くと、ベッドに戻っていった。
その様子を見ていた萌が、男に言う。
「はい、これ。
その子を連れて、他の場所で続きをしてくれる?」
萌は財布から万札を取り出すと、男に手渡した。
「他って、どこだ?」
「できれば、他の部屋でして欲しいな」
「それは無理だな。ホテル側の許可が必要だ。
風呂を使わせてもらえれば、そっちに移動するが?」
「あーそうだね。じゃあ、それでお願い。
時間いっぱいまで出てこないで、
それと、その子が今のことを忘れられるくらい、
気持ちよくしてあげてね」
「わかった。全力を尽くそう」
男は、誠の足枷と手首の縄を外すと、
彼を抱えて浴室へと入っていった。
※※※
萌がベッドに戻ると、真里は無言で俯いていた。
「マコトちゃん、いなくなったよ」
「そっか……」
しばらくして、真里の身体が小刻みに震い始める。
真里は両手で顔を覆って、泣き始めてしまった。
「誠くん……ごめんなさい……」
「よく頑張ったよ……真里」
心を鬼にして、誠を突き放すのは、
彼女にとって、心底、辛いものであった。
しかし、これくらい言わないと彼は諦めてくれない。
自分がそばにいることで、誠が幸せになれないのなら、
いっそのこと、縁を切ってしまおう。
真里は誠が男の元へ走れるよう、
あえて悪女を演じていたのだ。
「やり過ぎだったんじゃないかな……」
「ううん……あれくらいしないと、
諦めてくれなかったと思うよ」
誠は異常なほど、しつこかった。
彼が真里によって、後催眠を掛けられていることを知らない二人からすれば、呆れるほどしつこい相手であった。
不幸にも真里の掛けた催眠は、小早川から身を守るだけでなく、誠自身を傷付ける結果となってしまっていた。
「……ある程度、落ち着いたら、謝りにいこっか?
真里も完全に縁を切るほど、
マコトちゃんのこと、嫌ってるわけじゃないんでしょ?」
「うん……」
本当は女友達として、これからも仲良くしていきたかった。
別れたとは言え、
真里は誠の人格そのものは、好きなままであったのだ。
そのように誠の話をしていると、浴室の方で怒り声がなった。
「何してやがるんだ、てめーー!!!」
デリバリーヘルスの男の声だ。
何事かと浴室に向かうと、
そこには、首から血を流している誠の姿があった。
※※※
浴室の床で、倒れる誠。
傍らには小さなカミソリが落ちており、
刃先に血液が付着していた。
デリバリーヘルスの男は、
そんな誠を苦々しく見つめている。
「誠くん!! 誠くんっ!!」
真里は誠に駆け寄り、慌てて彼の名を叫んだ。
肩を叩き、全身を揺さぶってみる。
一方、萌は一緒にいた男に事情を尋ねた。
「何があったの!?」
「俺が少し目を離した隙に、
そこにあったカミソリで首を切りやがったんだ」
「!?」
自殺だ。
誠は真里に絶縁されたショックで、自殺を計ってしまったのだ。衝撃の結果に、萌は肩から崩れ落ちる。
「うそ……こんなことになるなんて……」
「誠くん! お願い! 目を覚ましてっ!!」
真里はなおも必死に呼びかけている。
しかし、誠はピクリとも反応しない。
(真里……目がおかしくなってる)
誠を失ったショックからか、
真里は徐々に冷静さを失い始めていた。
このままでは真里がおかしくなってしまう。
そう思った萌は、真里をフォローしようと立ち上がった。
すると隣にいた男から、呼び止められる。
「ちょっと待ってくれ」
「?」
プシュュュュューーー!!
呼びかけに応じて、振り返る萌であったが、
男の持っていたスプレーによって、眠らされてしまう。
男、鮫島はニヤリと笑うと、外にいる黒服達に合図を送った。
数十秒後、小早川が現場に駆けつける。
「キャアアアアアアアアアアアア!!
マコトちゃんっ! なんてことッ!
はやく医者を呼びなさいっ! はやくっ!」
小早川が叫ぶと、
黒服達が一斉に浴室に入り、誠を持ち上げてしまった。
突然の乱入者に真里は驚く。
連れ去られる誠を見て、彼女は慌てて立ち上がった。
「あなた達、誰ですか!?
誠くんをどうするつもりですか!?」
「こんのっ! くっそアマっ!!」
小早川が、思い切り真里を殴り付けた。
拳が頬に命中し、
血塗れとなった浴室内に、真里は倒れ込んだ。
「な……なにをするんですか……!?」
突然やってきて、いきなり殴られて、意味がわからない。
真里は泣きながら、小早川を見た。
それを受けて小早川は顔を歪ませ、般若のような顔で言った。
「クソ女に、制裁を喰らわせてやったのヨ……」
「制裁って何……?」
「今、思い出させてやるワ」
パチンッ!
小早川が指を鳴らすと、真里はすぐさま全てを思い出した。
「あ……あぁぁぁ……ああぁぁぁぁぁっ!!」
「これで分かったでしょ? 何が起きたか」
「そんな……そんなぁ……」
「ショックを与えすぎてしまったんだワ……。
アタシは、ただニューハーフになってくれれば、良いだけだったのに……これじゃあ、完全に失敗ヨ……」
小早川は、うなだれ号泣している。
真里は理解した。今までのことは全て、
小早川が自分達を嵌めるために仕掛けた罠だったことを。
そして小早川の反応を見る限り、予想外のことが起きて、
誤って誠を死なせてしまったのだ。
最悪の結末に、真里は堪らず天井を見上げた。
「なんでアンタ、ちゃんと見張ってないのヨ!
あんな凶器が置いてあったら、警戒するでしょ、普通!」
「すまねぇ……まさか誠があそこまで追い詰められていたとは、思わなかったんだ。その女の責め方がうますぎたようだな……」
鮫島がそう言うと、小早川は真里の首根っこを掴んだ。
「アンタが殺したのヨ! アンタがマコトちゃんの心をズタボロにして、自殺に追い込んだんだワ!」
自分が催眠を掛けていたことなど棚に上げて、
ひたすら真里を罵倒する小早川。
真里は責められるたびに平常心を失っていった。
「わ……わたしのせい……誠くんが死んじゃったのは、
すべてわたしの……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うるさいわネっ! 泣けば許されると思ってるの!?
あんなに泣いているマコトちゃんに、
よく〖付きまとわないで〗なんて言えたわネ!
この鬼! 悪魔ッ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
わたしはなんてことを……なんてことをっ!!」
「どんなに泣きわめいたところでマコトちゃんは、
戻ってこないワ! この人殺し……!!
少しでも悪いと思うなら、死んで償いなさいヨッ!!」
「し……死んで……償う……?」
「そうヨッ! 死んで、マコトちゃんに謝るの!
それくらいしなきゃ、償えないでしょ!」
「し……死にたい……しなせて……しなせ……て……」
「死ぬなら、帰ってから死になさい。
せめてもの情けヨ。
マコトちゃんとの思い出が残った場所で死なせてあげるワ。アタシにこの場で殺されないことを感謝しなさい……」
パチンッ♪
真里は全ての生きる希望を失い催眠状態に入った。
※※※
それから数分後。
黒服達は、部屋の掃除を行っていた。
誠の身体は綺麗に洗われ、新しい服を着せられている。
本人はいたって健康だ。
彼の身体に付いていた血糊、切り傷などは、
全て鮫島が仕込んでいたものだった。
別れを告げた後、女はかならず誠の退去を求めてくる。
それを予想して鮫島は、各所に誠の自殺を偽装するアイテムを用意していた。
浴室に誠を運んだ彼は、
洗面台に用意していた催眠スプレーで誠を眠らせ、
精巧に出来た切り傷シールを誠の首に貼り付けた。
そして血糊に見せた液体を、
浴室内にばら撒いていたというわけだ。
あとは注意深い萌を眠らせ、
冷静さを失った真里を追い詰めれば完了となる。
《うまくいったね。これで誠はキミのものだよ》
メアは満足そうに、小早川の功績を褒め称えていた。
(思ったより殺しも大したことないわネ)
《邪魔なやつはさっさと殺しちゃえば良いんだよ。
真里だって、めんどくさいことせずに、すぐに殺しちゃえば良かったのに》
(こっちにも事情というものがあるの。
この島で殺したら、色々と面倒なことになるワ。
自殺させれば、こっちに疑いの目が来ることはなくなるの)
《ふーん》
(ところでマコトちゃんは、これで本当に堕とせるんでしょうネ?)
《大丈夫、帰ったらすぐに堕としてあげるよ》
真里との別れを認めた誠であったが、
それで彼の心が真里から離れたとは言えなかった。
別れても真里のことを想い続ける可能性だってある。
異常ともいえる真里への執着心に、小早川は警戒していた。
(とりあえず黒き書に任せましょ。
細かいことは、休んでからにするワ)
催眠が終わり、
真里はそのまま空港へと移送されることとなった。
自宅に戻れば、彼女は自ら命を断とうとするだろう。
誠のいないあの世へと旅立つために……。