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霧の寝台

ガチ×ノンケ専門の官能小説 主なジャンル:GL BL NTR 催眠 調教 監禁 男の娘 女装

見つけたのは。

文章:安村宙



彼女を見た時、私は強く思った。
私のものにしたい、と。そう、強く。
ただそれだけの感情が私の体を支配した。
彼女と私の出会いは、職場だった。私が入社して二年後、彼女は入社してきた。その瞬間から、私は彼女のその瞳に惹きつけられて仕方がなかった。


「初めまして、灰谷、千佳さん。今日からこの部署で働くことになった、岡田満里奈です。宜しくお願いします」


 遊んだことが無いのだろうな、とうかがわせる真っ新な黒い髪。誰のことも疑ったことが無いのだろうな。と思わせる真っ黒な瞳。誰にもけがされたことが無いのだろう、とわかる真っ白な肌。


「よろしくね、灰谷さん」


 私は心臓の高鳴りを隠すのに必死だった。
 この子をめちゃくちゃにしたい、と、そう強く思っているのを、隠すのに。



     

 私は、女しか愛せない。
 男は、汚らわしい。
 私が十八の時、そのとき付き合っていた人と体を結んで分かった。あんな汚らしい肉棒が、自分の中に這入ってきて来ることに、私は快感にイってしまうどころか、吐き気を感じるばかりだった。私は、その時初めて、自分が男を拒絶しなければならないのだということを知った。
 それから、私は何人かの女性と体を結んだ。
 それはとても、高尚で、神秘的なことだった。女性の舌が私の乳房を嘗め回す感覚。たおやかな指が私の中に這入って来る感覚。初めて私は快感というものを知った。
 でも、その快感はいつも何かが足りなかった。何が、といわれても分からなかったのだけれど、何かいつも蓋がないペットボトルみたいな物足りなさを感じていた。
 その理由が、彼女に会って、私はわかった気がした。何が、足りなかったのかを、私はそして、知ることになる。



     

「今日は付き合っていただいてありがとうございました」


 私は、岡田さんと二人で、お酒を飲んでいた。
 彼女が働き始めてからもう一年が経とうとしていた。私が彼女に心を奪われてからというもの、私は不自然にならないように彼女に近づいていった。じわじわと外堀を埋めていくようなこの生活は、苦痛ではあった。けれど、私には一つ、思い描く理想があったから、それに私は耐えられた。


「灰谷さん、聞いてくださいよ」

「どうしたの?」


 彼女は私に悩みの相談をしてくれるくらいに心を開いてくれていた。


「最近、彼氏に振られちゃって……」


 私はその話に相槌を打ちながら、彼女には心配そうな顔を向けて、しかし内心では理想が近づいてきたことに、興奮を覚えていた。


「仕事もうまくいかないし、悪いことって続かないものですね……」


 彼女は一気にお酒をあおった。彼女は、悩み事があるとお酒を飲んで忘れようとする癖がある。私はそれを知っていた。


「そう悪いこと続きじゃないかもよ?」

「え?」

「いや、悪いことが続いてる時は、私良いことがある予兆だって思うようにしてるんだ。人生山あり谷あり、ってよく言うでしょ」

「それ、すごく素敵な言葉ですね」

 そして、彼女は酔うと人との距離感が近くなる癖があることも知っていた。彼女は、鼻と鼻が触れ合うくらいの距離にまで顔を近づけてきた。
 私の心臓は張り裂けそうだった。ヴァギナから、甘い蜜があふれ出しそうになっているのを、私は感じていた。


「今日、私の家こない? 明日、休みだし」

「え、いいんですか? やったー。家に帰ると彼氏のこと思い出しちゃうから、あんまり今日は帰りたくなかったんです」

「それならよかった」


 私は、理想が成功へ一歩ずつ、唐突に歩みを始めたことを感じていた。

     

 私は、どうして彼女に心を惹かれるのだろう、とずっと考えていた。
 それまで出会った女性の誰にも感じたことが無いような喜びを、興奮を感じたのか、ずっと考えていた。
 そして私は気づいたのだ。
 私は、彼女が恋をしている人間だと無意識のうちに感じたから、興奮したのだ、と。
 奪いたい、と思ったからなのだと。
 彼女は、私のように女しか愛せない人ではない。
 普通に男を愛し、男に抱かれる人だった。だから私は思ったのだ。
 この人を、私の手で、女しか愛せない、女としか交われないような体にしてしまいたい、と。そう、強く思った。

     

「先輩の家、すごく綺麗ですね」


 酔っているせいで、いつもよりもワントーン高い声で彼女はそう言った。途端に部屋に満アルコールの臭いが、私には心地よかった。アルコールの臭いと言えど、彼女によって作られた臭いに、私の体は誘惑された。


「ちょっと水のんで落ち着きなよ」

「そうします」


 私は彼女をリビングまで導いて、ソファに座らせた。どっさりと体を落とした彼女は、ソファに手を滑らせた。真っ白な手が、今はほんのりと朱色に染まっていた。
 私はキッチンに向かった。興奮で、理想がもう目の前にあるという興奮で、手が震えだしそうなのを止めるので必死だった。
 私は、戸棚からコップと、ある瓶を取り出した。その瓶には、ある薬が入っていた。私はコップに、蛇口から冷たい水を入れた。コップを持つ手が冷えていくので、私は体が想像以上に熱くなっているのを感じた。
 もうすぐ、もうすぐだ、と思った。焦るな、焦るな、と思った。
 キッチンにコップを一度おいて、震える手で瓶のふたをゆっくりと開けた。落としそうになるのにひやりとしながら、何とかそれを開けた。
 そして、中の薬をぽとり、と落とした。水の中にそれはふわりと溶けていって、私の体の緊張も、少しほぐれた。


「もうすぐだ、もうすぐだ」


 私は小さく声に出した。キッチンから、彼女の姿が見えた。彼女はソファに体を預けて、今にも眠りそうな様子だった。


「岡田さん、ほら、水」

「あ、ありがとうございます~」


 間延びする声。鼻に抜けるようなその声を聴くだけで、私のリビドーは暴れだしそうだった。もうショーツの中はぐっしょり濡れていて、少し動くだけで気持ち悪かった。


「ああ、冷たい」


 彼女はそういって笑った。私は彼女の隣に座った。
 もうすぐ、彼女の体は熱くなる。
 私は、自分の分の水をゆっくりと飲みながら、効果が出てくるのを待った。
 さっき彼女の水に入れた薬は、媚薬だ。
 薬に頼るのは、アンフェアなような気もしたが、最初の一歩を踏み出させるには、理性のたがを外す必要があったのだ。一度外してしまえば、そこからは楽だ。


「あれ、なんか体また熱くなってきた」

「私もよ?」


 彼女の眼は、少しだけとろんとしてきた。
 私は、ゆっくりと彼女の手に指を絡めた。


「は、灰谷さん?」


 彼女は少し戸惑いの声を上げた。でも、それで止まる私ではない。もう、ここからは止められないのだ。


「あッ……」


 私は彼女の唇に、自分の唇をあてがった。
 吐息が漏れ、アルコールの臭いが私の鼻を刺激した。


「ま、待って!」


 彼女は私の肩を押しのけた。ソファの上で彼女は後ずった。


「は、灰谷さん……? どう、したんですか……?」

「今まで隠していたけれど、私ね、あなたのことが好き。あなたを、私のものにしたい」

「……」


 私の目をじっと見つめる彼女。私は、もう一度唇を近づけた。


「だ、だめ……」


 彼女は、やっぱり戸惑いを隠せないままだった。


「ねえ、あなたと、交わりたいの」


 私は彼女の耳元にささやいた。
 沈黙。部屋の中で、空気が流れる音だけが私の耳にきこえた。


「怖いです、灰谷さん……」


 彼女の肩は小さく震えていた。


「やってみないと、分からないこともあるんじゃないかしら?」

「いや、です」


 彼女はまだ、アブノーマルな私の恋愛の形を受け入れようとはしてくれなかった。
 でも、媚薬はもう効いているはずだったから、私は試しに乳房を優しくなでてみた。


「や、やめてっ!」


 彼女は私から必死に遠ざかろうとした。媚薬の力があったとしても、やはり彼女にとっての常識外の世界は、恐怖に満ち溢れていたのだろう。
 私は強引に、彼女の服を脱がせようとした。


「い、いやああああ!」

「気持ちイイこと、しようよ?」

「や、やめてっ!」


 私は彼女のブラをはぎ取り、彼女の乳首を吸った。


「ん、んんッ!」


 彼女は身をよじりながら逃れようとするも、熱くなっていく体に徐々に抗えなくなっていることが、私にはわかった。


「やめて、い……んぐっ、んぐっ!」


 私は彼女の唇を、自分の唇で強引にふさいだ。彼女の叫び声を、私は唇を吸いながら、吸い取っていった。
 それをしながら、彼女のもがくからだを右手で抑えつつ、左手で下半身を守っていたスカートとショーツをはぎ取った。


「んんっ、んんっ!」


 彼女は何かを叫ぼうとしていたけれど、やはりその声は私の口の中に響くだけで、形にはならなかった。
 私の指は、ゆっくりとヴァギナの中へ入っていった。そこはもう濡れていた。


「でも、濡れてるよ?」

「そ、それは……」


 私の言葉を否定する声は、やはり徐々に弱くなってきていた。


「気持ちよく、してあげるから」


 私は指を挿れた。ぐちゅぐちゅと音を立てながら私は指を動かした。ときどきGスポットを刺激しながら、何度も何度も、動かした。


「や、あ、ん、いや、あ、ん、だめ」


 私は彼女に乗りかかって、左手はそのままヴァギナを、右手は乳首を、唇で彼女の唇を、同時にいじくりまわした。
 彼女はまだ逃れようともがきまわっていたが、その力もやはり、徐々に弱くなってきていた。
 感じるたびに、びくりと、腰が浮きあがった。


「ん、んんっ!」


 私はソファの下に隠してあったバイブレーターで、クリトリスを刺激した。


「ああああああ!」


 彼女はとうとう絶頂の声を上げて、愛液を飛び散らせた。
 彼女は息を切らし、それでもまだ腰をびくびくと疼かせていた。
 私は、とうとう彼女を快感の中に堕としたのだ。


「どう?」

「も、もうやめて……」


 彼女は、それでもまだ理性の縄に縛られたままだった。


「まだ、足りないかしら」


 私はもう一度バイブレーターを握って、彼女のヴァギナの中に挿れた。

     



 翌朝、私たちは同じベッドの中で、裸のまま絡み合って目覚めた。
 あれから、私はソファの上から強引にベッドの上まで彼女を連れていき、何度も、何度も攻めた。彼女はそのたびに、何度も、何度も絶頂した。


「おはよう、岡田さん」

「は、灰谷さん、おはようございます」


 彼女の心は、徐々に傾き始めていることを確信した。私の理想は、ここから始まるのだ。
 彼女は何度も快感に堕とされたために、相当疲れたのか、夜明けが近づいてきたころに、私の前で全裸のまま、無防備に眠ってしまった。
 私は、彼女の寝顔を見つめながら、夜を明かした。


「今日はお休み、よね」

「は、はい」

「じゃあ、もう一度、しない?」

「え、でも……」


 やはりまだ戸惑いは混ざっている彼女の態度。私は、彼女を女しか愛せない体にしてしまいたいのだ。彼氏のことなんか、男のことなんか忘れさせて、私だけしか愛せない体にしてしまう。それが、私の理想だ。


「気持ちイイこと、しない?」

「……」


 彼女は、肯定しようとはしなかったけれど、もう顔は赤く染まっていた。そうだ、それでいい。
 また私は、彼女の乳房を愛撫した。部屋の中には、彼女のうめき声がこだました。

     



 それから、来る日も、来る日も、彼女と私は体を交わした。
 私と彼女が同じ空間にいる時間だけ、私たちは交わった。愛液を散らした。


「あ、あぁんッ!」


 私は、今まで自分のヴァギナに挿れて遊んでいたバイブレーターを彼女の中に挿れた。そして、何度も動かした。ぐちゅぐちゅという音だけが、部屋の中に響き渡った。Gスポットを時々つきながら、何度も、何度も。


「う、うぅん」


 ベッドのシーツを握りしめ、絶頂してしまうのを我慢する彼女。でも、私はそれでも、その手を止めず、何度も何度も彼女のヴァギナを刺激した。
 彼女はやがて絶頂し、愛液をとろとろと流れ出させた。ベッドの上には、もう何日分もの愛液がしみ込んでいるような気がした。


「気持ち、イイ……!」


 彼女はもう、私を求めずにはいられない体になっていた。
 
     



 その関係が始まって、もう一年が経つ。
 それから、私と彼女は二人で暮らし始めた。というよりも、私が強引に彼女を私の部屋につなぎとめた。そして、彼女は仕事を辞めて、ずっと私の家にいる。
 彼女が仕事に不満を感じていたのは知っていたから、彼女を仕事から引き離すのは簡単だった。
 彼女が私の家に始めて来てから、二か月と経たないうちに、彼女は仕事を辞め、私の家に越してきた。
 一度交わってからというもの、彼女は私の言いなりになった。彼女の混じりけのなさは、その純粋なまでの盲信を後押ししていたのかもしれない。
 男との交わりの中では感じることのできなかった絶頂を、私が教えたからだろうと思う。


「おかえり、千佳」


 私が家に帰ると、もう彼女はとろりととろけた目をしている。
 私は、彼女の体を変えた。
 毎日、毎日、私と彼女は交わった。一日も欠かすことなく、毎日。指でもてあそび、舌でもてあそび、玩具でもてあそんだ。彼女が快感に上り詰めなかった日は、一日として、なかった。
「今日は、おもちゃで遊んでほしいなぁ」
 彼女は、帰ってきた私の体にすり寄ってきて、そう言った。


「どのおもちゃで?」

「うーん」


 彼女は、もう出会った頃の清純な目をしてはいない。ずっと甘えたげな、物欲しげな目をしている。私は、その目を見るたびに、ショーツを濡らす。


「じゃあ、全部であそんでほしい、な」


 自分の体で遊んでほしい。彼女は、毎晩、私が帰ってくるたびにそういう。そして、毎朝、朝起きるたびにそういう。
 それまで知らなかった快感から、もう彼女はもう逃れられないところまで来てしまったのだ。
 男を愛していた彼女は、男に抱かれていた彼女は、もう男を愛しはしないし、男に抱かれはしない。
 彼女は私だけを愛し、私だけに抱かれる。彼女は、私だけのものになった。
 私は、笑いながら、彼女を抱いた。
[ 2017/08/29 00:05 ] 短編 | TB(-) | CM(0)
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